【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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 100話到達記念のマサルVSレッドです。



100話達成記念 マサルVSレッド
No.0100 頂への挑戦


「リーフ、お前はこの二人の勝負、どう見る?」

「私のレッドがマサルなんかに負けるわけないでしょーっ!? 本当は私がマサルをこの手でけちょんけちょんにしてやりかたったけど……うん? でも私はレッドと愛し合っているからレッドがマサルを倒す=私がマサルを倒すみたいなものだよね?」

「……マサルはガラルでのランキングこそ第三位だが、今年のガラルスタートーナメントでマスタード、ダンデ、ユウリをぶっ倒して頂点に立った。ある意味、ガラルで一番()()トレーナーかもな」

「グリーンはレッドがマサルに負けるって言うの?」

「そうじゃねえよ。ただ、楽に勝てる相手じゃねえって話だ。まあ、それはこのトーナメントの参加者全員に言えることなんだがな。どいつもこいつも化け物染みた気配を漂わせてやがる」

「ふーん? ま、私のレッドが最強なんだけどね! そんなレッドを決勝で私が倒してプロポーズしてもらうのだ!」

「そもそもお前ら付き合ってすらねえだろ」

 

 

 

 

 

「ユウリ、君はこの二人の勝負、どう見る?」

「うーん……この私を差し置いてレッドさんがヒロイン面しているのはいかがなものか! まあ? マサルが一番愛しているのはこの私なんですけどぉ?」

「……そうか」

 

 

 

 

 

「……ムゲンダイマックス。ムゲンダイナは力を制御できるようになったんだね」

「はい。世界を旅して、ムゲンダイナはこの力を完全に制御する術を会得しました。……ムゲンダイマックスはこの大会を勝ち抜くための切り札だったんですけどね。まさか初手で使わされるとは」

「……ミュウツーのメガシンカは()()()()()だった。でも君と対峙した瞬間に、戦い方は決まった」

 

 ガラルとカントーの伝説を従える英雄達はフィールドの中心で笑い合う。

 

 カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス、アローラ、ガラル、パルデア。

 

 九つの地方からそれぞれ代表が三人ずつ選出され、合計二十七名で行われるワールドチャンピオントーナメント。

 

 その戦いの火蓋がついに───

 

 

 

「……さあ」

 

 

 

 ポケモントレーナーのレッドが

 

 

 

「世界で一番」

 

 

 

 ポケモントレーナーのマサルが

 

 

 

「熱いバトルを始めよう」

「熱いバトルを始めよう」

 

 

 

 勝負をしかけてきた!

 

 

 

 

 

 

 No.0100 頂への挑戦

 

 

 

 

 

 

「ダイマックスほう!」

「バリアー、サイコフィールド」

 

 ムゲンダイマックスしたムゲンダイナの姿はまさに異形だった。全長百メートルはあろうかという巨体に、掌を開いたかのような顔部分。五つに枝分かれした先端にはそれぞれ頭部がついており、中心には光り輝くコア。

 

 そのコアから放たれた莫大なエネルギー波が容赦なくミュウツーへと襲い掛かった。

 

 しかしミュウツーは動じない。エネルギー波に向けて手をかざし、透明なシールドを構築してその一撃を完全に防ぐ。と同時に、反対の手を地面にかざした瞬間、フィールド全体が異様な雰囲気に包まれた。

 

「サイコブレイク」

「ムゲンダイビーム!」

 

 ムゲンダイナのコアに先程以上のエネルギーが収束し、五つに枝分かれした先端の頭部にもコアと同色のエネルギーが集まっている。対するミュウツーは自身の周囲に合計()()の球体を生み出した。

 

 そして、再びの衝突。六つのエネルギー波と六つの球体は互いの攻撃を相殺し、周囲に衝撃波を撒き散らす。

 

(ムゲンダイマックス状態のムゲンダイビームが完全に相殺された)

(……サイコフィールドで強化した上にメガシンカしたミュウツーのサイコブレイクが完全に相殺された)

 

 強力な技を撃ち合ったにもかかわらず、両者のポケモンは全くの無傷。だがレッドは、一秒にも満たない数瞬の中で、技を発動した直後のムゲンダイナの()()を明確に感じ取っていた。

 

「テレポート」

 

 言葉と同時、ミュウツーの姿がムゲンダイナの眼前、コアの()()()に現れる。

 

(……さっきの技の直後、ほんの一瞬ムゲンダイナは硬直していた。あれは連発できるような技じゃない。()()にも時間がかかる。だったら、最速の一撃を露出しているコアに直撃させれば───)

 

「──と、思いますよね」

 

 瞬間、目にも止まらぬ速さで()()()()()()()尾がミュウツーに叩きつけられた。

 

「ポイズンテール!」

「サイコキネシス!」

 

 と同時、ミュウツーの一撃がムゲンダイナのコアに命中するも、防御や回避行動を取れなかったミュウツーはそのまま吹き飛ばされ、スタジアムの壁に激突した。

 

(……あれだけの巨体。体全体を動かす速度は遅くとも、()()()()()()()()は落ちるどころか上がっている。パワーを一点に集中させることで、あの速度を実現させたんだ)

(懐に潜られることなんざ想定内。そもそもダイマックスは機動力を犠牲にする大技だ。だが、ムゲンダイナは違う。どのポケモンよりもダイマックスエネルギーを操る力に長けたムゲンダイナ()()は違う。他のポケモンにはない唯一無二のダイマックスを持つムゲンダイナは───)

(……全ポケモン中で唯一、ダイマックス中であっても()()()()使()()()()())

(ダイマックスは見た目の派手さと火力ばかりに目が向けられがちだが)

(……最も脅威となるのは───()()())

 

 レッドはそれを理解しながらも、ムゲンダイナの圧倒的耐久力を目の当たりにしながらも。

 

 その口元を綻ばせた。

 

「ワイドフォース」

 

 ムゲンダイナの巨体が透き通った紫色の障壁に囲まれる。そして、地を伝うサイコフィールドのエネルギーを()()障壁内に収束させ、逃げ場を失った莫大なエネルギーが障壁内で炸裂した。

 

 エネルギーと光の奔流に飲み込まれたムゲンダイナの巨体が大きく揺らぐ。レッドと、そしてミュウツーは今の一撃に明確な手ごたえを感じながらも追撃の手を緩めない。

 

「テレポート、サイコブレイク」

 

 再び一瞬でムゲンダイナの眼前に移動したミュウツーがゼロ距離でコアに向けて強力な一撃を放った。凄まじい一撃を受けたムゲンダイナは上体を大きくのけぞらせ、その巨体がマサルの傍に倒れこむ。

 

『ミュ、ミュウツーの猛攻にムゲンダイナは防戦一方! これは勝負あったか!?』

『あんなのありですか!? パッと瞬間移動してどぎゃーんって攻撃して間髪入れずにシュッて追撃してばーんって!!』

『え、えー……キョウヘイさん。メイさんの翻訳をお願いします』

『……テレポートの使い方が非常に上手いですね。下手に連発すると地面や壁に埋まることもある危険な技ですが、ずば抜けた空間認識能力があの機動力を可能にしています。それに追撃も素晴らしかった。ムゲンダイナの耐久力が高いと判断するや否や、広範囲の技だけじゃなくピンポイントで火力を集中させる技へと即座に切り替えています』

『そう! あたしもそれが言いたかった!』

 

 第一試合の一体目から凄まじい攻防を繰り広げるポケモンとトレーナー達にスタジアム内の熱狂がさらに加速する。だが、その熱を全身で受け止めながらも、マサルは、そしてレッドの頭は酷く冷静だった。

 

「ああ、全くもって───()()()だ」

 

 マサルがそう言って口角をわずかに釣り上げた瞬間、レッドは無意識の内に己の首筋に手を当てていた。

 

「ここまでムゲンダイナを消耗させるなんて……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()、使える」

 

 倒れていたムゲンダイナの巨体がゆっくりと起き上がる。

 

「正真正銘、()()()だ。ムゲンダイナ───全ての力を解放しろ」

 

 マサルの言葉に応えるようにムゲンダイナは雄叫びを上げ、上空へと高く高く舞い上がった。

 

 そして。

 

「う、嘘……」

 

 ユウリが。

 

「……まさか」

 

 ダンデが。

 

「あれは……」

 

 トウコが。

 

「そうか。君は……君達はそこまでの力を……」

 

 ツワブキ・ダイゴが。

 

 三年前の()()()()()()()()()()を解決した英雄達にとって、忘れたくとも決して忘れることのできない光景。

 

 スタジアムの上空をどす黒い暗雲が覆いつくし、まるで()のように太陽が遮られた。

 

 ゾワリ、と。

 

 カントー最強の男の、世界最強に最も近い男の首筋に()()()()()

 

「ミュウツー!!」

 

 だが、ミュウツーが動き出すよりも早く、暗雲の中からムゲンダイナが現れ。

 

「ムゲンダイナ」

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

「───()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が、消えた。

 

 何が起こったのか、百戦錬磨のレッドですら即座に理解することができなかった。辺り一面が漆黒の闇に包まれ、全ての光が塗り潰され、ガラスの砕けるような音と共に再び世界が色を取り戻した瞬間。

 

 レッドの目の前に飛び込んできたのは、メガシンカが解除され、苦しそうな表情で膝をつくミュウツー。

 

 そして、ムゲンダイマックスが解除されながらもエネルギーを収束させているムゲンダイナ。

 

 原因は理解できないものの、レッドは即座に()()()()()()()

 

「ダイマックスほう!!」

 

 甚大なダメージを受けて消耗した今のミュウツーでの「テレポート」による回避は危険であり、不完全な「バリアー」ではムゲンダイナの一撃を防ぎきれないと判断したレッドに残された選択肢はただ一つ。

 

「ワイドフォース!!」

 

 それは、迎撃。

 

 ムゲンダイナの一撃が届くよりも早く、ムゲンダイナの全身をサイコエネルギーが包み込んだ。

 

 しかし、そこまで。

 

 ミュウツーに、そしてムゲンダイナにできたのは。

 

 ()()()()だった。

 

 

 

『あ、相打ち!! 相打ちです!! 凄まじい技の応酬の果てに……!! カントーとガラルの伝説が地に倒れ伏した!!』

『何あれ!? さっき真っ暗になったのって何!? キョウヘイくんわかる!?』

『お、俺にもわかんないよ。オーキド博士は何かわかりました?』

『うーん……おそらく、おそらくじゃが。ムゲンダイナが引き起こしたあの現象、それに最も近いものは───』

 

 

 

 

 

 

「……ステラタイプ」

「初見で気付きますか。さすがですね」 

 

 レッドとマサルは共に倒れたポケモン達をボールに戻しながら視線を交錯させる。

 

「世界を旅してたくさんのことを、本当にたくさんのことを学びました。トレーナーとポケモンの絆の強さが大きな力を生み出すことをカロスで学び……あり余る膨大な力の扱い方を───()()()()()()教えてくれた」

「……テラパゴス、話には聞いたことがある。でも、テラスタイプ『ステラ』はテラスタルしないと使えない十九種類目のタイプ。なのに、ムゲンダイナはテラスタル()()()()()()()

「そうです。これはあくまで、ムゲンダイナが内包する膨大なダイマックスエネルギーを変換して()()()()ステラタイプを再現した物。テラスタルとは全くの別物です」

「……ダイマックスエネルギーを、変換? どうしてわざわざそんなことを……いや、そうか。ムゲンダイナは力を制御する術を会得しただけであって、()()()()()()()()()()()()が減ったわけじゃない」

「その全てをダイマックスエネルギーのまま出力してしまえば、周囲だけでなくムゲンダイナ自身も傷つけることになってしまいます。だからこそ、()()()()()()()ステラタイプへの変換は都合が良かった」

「……ムゲンダイマックスした上で、尚且つある程度消耗した状態でないと使えない大技。全タイプの力を宿すと言われる『ステラ』は……()()()()()()()()()()()()()()()をもたらす可能性を秘めている」

「正真正銘、これ以上ない俺の()()()です。ユウリやダンデくんだって知らない……実戦で使ったのは()()()()()()()()()ですよ」

「……そっか。マサルの初めて。初めてかぁ……えへへ」

 

 

 

「ごあっ!? なんじゃあの色気のある表情は!? 私にもあんな表情見せてくれたことないでしょ!! うぎぎぎぎぎ!! たとえマサルがレッドの初めてだったとしてもレッドの初めては私がもらうんだからね!!」

「何言ってんだお前? っつーかヤバすぎだろムゲンダイナ。あのレッドのミュウツーを相打ちとはいえタイマンでぶっ倒すなんてよぉ……」

 

 

 

「ふ、ふーん? なんかレッドさんがひろいんぢからを上げてきているようだけれども!! マサルの一番は私なんだからね!!」

「……ダイマックスエネルギーを変換してステラタイプを疑似的に再現? 確かにローズ元委員長はダイマックスエネルギーを他のエネルギーに転用しようとしていたから理論上不可能ではない、のか? かつては『めざめるパワー』という()()()()()()()()()技も存在していたらしいし……なるほど奥が深いな」

 

 

 

『みなさん、一体目の攻防についてどう思われましたか?』

『お、俺の知ってるポケモンバトルじゃない……』

『ふ、ふーん? マサルさんもまあまあやりますね』

『レッドがあんなに喋るようになって……目頭が熱くなるわい』

 

 そう、これはまだ両者の一体目なのだ。マサルには、そしてレッドには鍛え上げられたポケモン達があと五体も残っている。どちらかが、その全てを倒さない限り決着がつくことはない。

 

(二体目は決まった。どうせレッドさんも……()()()()()を持ってるんだろ?)

 

 故に、マサルは迷わない。選出におけるアドバンテージを相手に譲ることなど、彼にとっては当たり前のことだから。

 

(……二体目は決まった。マサルは次に、()()あのポケモンを出してくる)

 

 故に、レッドは迷わない。選出におけるアドバンテージを得ることなど、彼にとっては当たり前のことだから。

 

(レッドさんのバトルは……何度も何度も何度も何度も何度も見返した。たとえ、俺自身の実力はあなたに遠く及ばなくとも───)

(マサルのバトルは……何度も何度も何度も何度も何度も見返した。たとえ、僕自身の実力が君を上回っていようとも───)

 

 マサルとレッド、二人が同時にボールを構えた。

 

「俺のポケモンはあなたの想像を超えていく」

「僕のポケモンは君の想像を超えていく」

 

 二人が二体目に選んだポケモンは───

 

 

 

 

 

「インテレオン!!」

「ピカチュウ!!」

 

 

 

 

 

 マサルが選んだのは、自軍のエースにして相棒のインテレオン。対するレッドが選んだのは、愛くるしい風貌ながらも「(いかづち)の悪魔」と恐れられているカントーの雷獣ピカチュウ。もっとも、恐れられているのはレッドのピカチュウだけではあるのだが。

 

 そして、二体のポケモンが場に出た瞬間、即座に二人は指示を飛ばす。

 

「かげぶんしん」

「ねらいうち・五月雨(さみだれ)

 

 六体ものピカチュウの分身が現れるも、インテレオンの精密射撃が正確に()()()()()撃ち抜いた。

 

(……「かげぶんしん」が読まれてた? 僕が初手で「かげぶんしん」を使うことはあまりないのに……よっぽど僕のことを研究してくれたんだね。だったら次は───)

(初手で「かげぶんしん」を見られたのはでかい。本体には回避されちまったが……俺とインテレオンのコンビネーションなら、()()を十分迎撃できる。となるとレッドさんが次に打ってくる手は───)

 

「10まんボルト」

 

 人生の中で一度くらいは、自然の落雷を見たことがあるだろう。肉眼では雷は一気に地上へと到達しているように見えるが、実際は雲の下から出た雷放電は進んでは止まり、進んでは止まりというステップを繰り返している。

 

 このような雷放電を、ステップ上に進んでいくことからステップトリーダーと呼び、その速度は()()200~400kmと言われている。

 

 そして、このステップトリーダーが地表へ近づくと地表からステップトリーダーへの放電が始まり、それらが結びついて放電経路ができ、この放電経路を通って地表から雲へと電撃が流れていく。

 

 これをリターンストロークと言い、一般的に我々が認識している雷がこれにあたる。

 

 このリターンストロークは光速の約半分、秒速15万kmと言われており、ポケモンの一部を除く電気技も同等の速度であると推測されている。

 

 故に、一部を除く電気技は一度発動してしまえば回避不可能なのである。

 

 が、稀に。稀に。稀に。

 

 リターンストロークの前段階であるステップトリーダーの()()()を認識し、電気技を回避するという離れ業をやってのける稀有な存在がいる。

 

「インテレオン」

 

 マサルは。

 

 そして、インテレオンは。

 

 ()()をやってのける稀有な存在である。

 

『か、回避したーーーーっ!! ピカチュウの「10まんボルト」を完璧なタイミングで回避!!』

『いや、あの……電撃を回避するって何なんですか? 「ボルテッカー」や「ワイルドボルト」ならともかく……えぇー……? 変態挙動過ぎる……』

『ま、まあ? メイちゃんもあれくらいできるし!』

『ステップトリーダーを完全に認識しておる動きじゃな。いや認識しておってもポケモンと完全にタイミングを合わせんと回避など……そもそもポケモンにも回避できるだけの機動力がなければ……』

 

 水タイプポケモンにとって、電気タイプは天敵中の天敵である。その上インテレオンは、耐久力が低く、機動力の高いポケモン。だからこそ、マサルはインテレオンの短所を補おうとせず、長所を圧倒的に伸ばし、いかなる攻撃も()()()()()()()回避可能な超高機動スナイパーへと育て上げた。

 

 当たれば落ちる。

 

 だが、当てられなければどんな攻撃も意味をなさない。

 

 それが、マサルとインテレオンが導き出した答え。

 

(……まぐれじゃない。マサルとインテレオンはピカチュウの電撃を見切っていた。それも「まもる」や「みきり」っていう技を使うんじゃなくて、純粋な反応と身体能力で回避した。……ああ、嬉しいなぁ。大正解だよマサル。だって───)

(「まもる」や「みきり」、「みがわり」なんかを使おうとすれば……使()()()に「10まんボルト」で潰されちまう。それだけ圧倒的な発動速度だった。そもそも、レッドさんのピカチュウを相手に防御技を使うのは自殺行為と変わんねえ)

 

 だからこそ、()()を全力で回避する必要があった。レッドとピカチュウにこれ以上、()()での電気技を使わせないために。

 

 これ以上「10まんボルト」を続けても効果は薄いだろう。インテレオンに攻撃を当てるには、インテレオンを上回るスピードで接近して()()()を使う必要があるのだ。

 

(───と、レッドさんは考えるはずだ)

(───って、マサルも考えてるよね)

 

 故に、勝敗を分けるのは……。

 

「こうそくいどう!!」

「こうそくいどう!!」

 

 ポケモン自身の機動力。

 

 二人が選択した技は、奇しくも同じ。

 

 瞬間、「テレポート」と見間違うほどの速さで二体のポケモンがフィールドを縦横無尽に駆け回る。

 

 そのスピードを目で追いきれない観客がほとんどの中で、フィールドに立つ二人の青年は悔しそうに、だが嬉しそうに口元を綻ばせた。

 

(……追いつけ、ない!?)

(引き離せ、ない!?)

 

 インテレオンをピカチュウが追う形になってはいるが、両者の距離は常に一定を保ったままであり、その差が縮まることも広がることもなかった。

 

 つまり、互角。

 

 この局面において、両者の機動力は完全に互角だった。

 

(……カントー最速のマルマインにだって追いつける僕のピカチュウが追いつけないなんて)

(()()()と毎日鬼ごっこしてる俺のインテレオンが引き離せねえのか)

 

 だが、そんな状況にもかかわらず二人の青年は互いに笑みを深め。

 

「想定内だ」

「想定内だ」

 

 距離が縮まらない追いかけっこをこれ以上続けても勝利を手繰り寄せることはできない。だからこそ、どこかで強引にでも攻勢に出る必要があった。

 

(……マサルなら)

(レッドさんなら)

 

 そして奇しくも。奇しくもではあるが。

 

(……超高速移動中の精密射撃で迎撃してくる!!)

(電撃を纏った接触技で強引に距離を詰めてくる!!)

 

 攻勢に出たタイミングは全くの同時。

 

 だが。

 

 同時なれど。

 

 ()()()()は。

 

「───ねらいうち」

 

 インテレオンが先だった。

 

「ボルテ───」

 

 高圧水流が、電撃を纏ったピカチュウの胴体を撃ち抜く。

 

 インテレオンの技が先に命中したのには、いくつかの理由がある。そのもっとも大きな要因が、ピカチュウがインテレオンに技を命中させるために「電撃を纏う」「距離を詰める」「接触する」という三つの段階を踏まなければならなかったことだ。

 

 だがそもそも、ピカチュウの機動力をもってすればインテレオンの一撃を回避できたのではないか。

 

 答えは、否。

 

 なぜならば、インテレオンはピカチュウが()()()()()()()()()()()()()()、つまり電撃を纏い技を発動させる寸前に狙いを定め、攻撃を命中させたからだ。

 

 インテレオンの「ねらいうち」は何も相手の急所を的確に撃ち抜く()()の技ではない。相手が最も、最も撃たれたくないタイミングを狙い撃つ。それこそが、「ねらいうち」の真骨頂。

 

 超高速戦闘が展開される中で、極限の集中状態を維持しているマサルの目には後方へ吹き飛ぶピカチュウがコマ送りのように見えている。が、撃ち抜かれたピカチュウが空中で体勢を立て直し、レッドと視線が交錯した瞬間。

 

(何かが、来る!?)

 

 マサルの全身を、悪寒が支配した。

 

「かげぶんしん、こうそくいどう」

 

 着地と同時にピカチュウが分身し、本体を含む全てが観客達の視界から消え失せた。ピカチュウ達は先程よりも速いスピードを維持しつつ広範囲に展開。さらに、本体と分身の位置がコンマ数秒ごとに入れ替わっていく。だが()()、当然マサルの目はその全ての動きを捉えていた。

 

「……さっきは見せられなかった()()()()()()()()()を」

 

 ピカチュウ達が、その全身に電撃を纏う。

 

 

 

 

 

 

「ボルテッカー・七星」

 

 

 

 

 

 

 電撃を纏ったピカチュウ達の最高速度は()()()()()()()()、インテレオンのそれすらをも超えていた。故に、観客の目に映っていたのは、(いかづち)の残像のみ。

 

 普通の人間ならば、普通の生物ならば、本体を肉眼で捉えることなど、ましてや反応などできるはずがない。

 

 しかし、しかし。

 

「さすがだピカチュウ」

 

 マサルは。

 

「お前は間違いなく」

 

 足を止め、完全に迎撃態勢を取っていたインテレオンは。

 

 

 

 

 

 

「俺が出会った中で───()()()()速いポケモンだ」

 

 

 

 

 

 

 カントー最速の一撃に、完璧な対応をして見せた。

 

「ハイドロカノン」

 

 不規則に動き回る七体もの雷の権化。電撃の申し子ピカチュウ。

 

 マサルは、そしてインテレオンは、()()()()()()()()()()()()()

 

 正確に。正確に。正確に。

 

 ピカチュウの本体を見抜き。

 

 四元素の一角を極限まで操るこの絶技をもってして、この激闘の幕を下ろす。

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 激流に飲み込まれたピカチュウは、その全身に多大なるダメージを蓄積されながらも。

 

 その技の威力を。速度を。

 

 何一つとして()()()()()()()()()()()()

 

 激流ごと、インテレオンを貫いた。

 

 そして。

 

 カントー最速の電撃をその身に受けたインテレオンが。

 

 ガラル最優の水撃をその身に受けたピカチュウが。

 

 フィールドに、沈む。

 

 

 

 

 

 

「……マサル」

 

 レッドは、思わず青年の名を呼んでいた。全身を、かつてないほどの熱が支配しているのがわかる。心臓が激しく脈打っているのがわかる。呼吸が早くなっているのがわかる。

 

 周囲の熱狂も、喧噪も、何一つ耳に入ってこない。

 

 誰にも譲らない。

 

 誰にも譲りたくない。

 

 ここは、二人だけの、世界。

 

 

 

 

 

 

「な、ななななななななななな!?」

「ようやくリーフもマサルのヤバさを理解したか。あのボルテッカーを真っ向勝負でぶち破るなんて()()()できなかったからな。俺でさえ、全方位攻撃で分身ごと迎撃するしかなかったっつーのに……マサルのヤツ、なんであそこまでピカチュウの速さに対応できたんだ……どう思うリーフ?」

「なんでレッドがマサル相手に雌顔晒しとんじゃーーーっ!! 私相手にもそんな顔見せたことないじゃん!! やっぱりマサルは……マサルは私の天敵!! おねーさんがわからせてあげなくちゃ……ふしゃーっ! ふしゃーっ!」

「マサルが女だったらお前完全に負けヒロインだったな」

 

 

 

 

「なんかマサルとレッドさんが二人だけの世界に入ってる!! ふ、ふーんだ! いいもんねーいいもんねー! 後でいっぱいマサルに甘やかしてもらうからいいもんねー! 悔しくなんかないし! 全然悔しくないし! 私を悔しがらせたらたいしたもんですよ!」

「マサルがあそこまでレッドくんのピカチュウに対応できた理由……そうか。()()()()()の存在があったからか。普段からレジエレキのスピードを見慣れているからあれだけのパフォーマンスを発揮できた……しかし、レッドくんでさえインテレオンに一撃を入れるのにあれだけ苦労したということは、やはり範囲攻撃で対応するのが現実的だな」

 

 

 

 

 

「どーするんすかシロナさん。あのインテレオン化け物っすよ」

「わ、私もピカチュウの動きは目で追えたけど……反応してピンポイントで本体を見抜いて完璧に迎撃するなんて……マサルくんって本当に人間なのかな?」

「スピード勝負に付き合わなければいいだけの話よ。マサルのインテレオンは回避と精密攻撃に全振りしてるから一発当てさえすれば落ちるわ。逃げ場のない範囲攻撃か……トラップを設置して機動力を発揮できない場を作り出すとかすなあらしで視界を奪ってやるとか色々やりようがあるわよ」

「あ、やっぱシロナさんでもスピードじゃ勝てないんすね」

「……はぁー!? 何言ってるのよコウキ! 別に勝てますけどー? 私がその気になればインテレオンのスピードにだって対応できますけどー!? ルカリオの『しんそく』でぶち抜けますけどー?」

「……くわんぬ」

「シロナさーん、ルカリオの耳が垂れてますよ~」

 

 

 

 

 

「おいヒビキ」

「何?」

「お前、あれと同じことできるか?」

「いやぁ、無理かな~。目では追えるし反応もできるけど、ポケモン達が()()()()()()()()()()()から」

「……じゃあ、あのピカチュウにどうやって勝ったんだよ?」

「ヤバそうなことをしてきそうな感じがビビッとしたから技を使わせる前に倒した」

「お前も大概意味わかんねえな」

「そういえば、ヒビキはどこでレッドさんとバトルしたの?」

「なんか山登ったらいた」

「えぇ……?」

 

 

 

 

 

「……君と出会ったあの日から、公になっている君のバトルは全部全部全部全部、何度も何度も何度も何度も見返してきたつもりだった。でも、だめだ。映像なんかじゃ君の強さは、君達の強さはわからない。君と向き合って、君の全てを五感で感じて初めて分かる。でも足りない。まだまだ足りない。もっともっともっともっともっと君を───君の全てを知りたい」

 

 レッドは心の奥底から湧き上がる感情に何一つ逆らうことなく、己の思いをマサルにぶつける。対するマサルは、自身が最も憧れ、自身が最も尊敬し、出会う前から、この世界に生まれる前からその存在を知っている彼の思いを受け止め、答える。

 

「俺も知りたい───あなたの全てを」

 

 言葉だけではない。

 

 言葉を使わない、言葉以外の全てをも使って互いのことを理解したい。

 

 故に二人はボールを握る。

 

 自身が培ってきた無数の経験を、身を焦がすように脈動する魂を、己の持つ全てをぶつけ合い、立ちはだかる最高の好敵手を理解し、越えていくために。

 

(マサルならマサルならマサルならマサルならマサルならマサルならマサルなら───)

(レッドさんならレッドさんならレッドさんならレッドさんならレッドさんならレッドさんならレッドさんなら───)

 

 二人は確信する。

 

 今、己の前に立ちはだかるこの男の存在が。

 

 自分を知らない世界へ、知らない領域へ、知らない(ことわり)へと導いてくれるということを。

 

 未だ満たされることのない己の器を満たしてくれるということを。

 

 だからこそ。

 

「……マサル」

「レッドさん」

 

 二人は、願わずにはいられなかった。

 

「どうか」

「どうか」

 

 それはあまりにも、あまりにも身勝手で、傲慢で、純粋で、矛盾している、そんな願い。

 

 

 

 

 

 

「もっともっと───僕の想像を超えてくれ」

「もっともっと───俺の想像を超えてくれ」




 100話記念のマサルVSレッドです。いつぞやのワールドチャンピオントーナメントの続きです。

 実質レッドさんヒロイン回です。

 バトルの展開に色々とツッコミどころはありますが、ノリと勢いで流してくださると助かります。

 多分、あと二話くらい続きます。ユウリーフがひたすら脳破壊され続けるでしよう。

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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