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マサルVSレッド決着です!
シュートシティスタジアムは今日一番の熱狂に包まれていた。一回戦の第一試合でありながら、試合開始と共に瞬きすら惜しむほど展開が目まぐるしく変化し、観客達の理解を超えたバトルが繰り広げられている。その上、下馬評では圧倒的に優勢だったレッド、今大会優勝の最有力候補である男が
だが、それは大きな誤りである。
現時点、この瞬間。
マサルを含むトーナメントの全参加者は。
レッドが追い詰められているなどとは、
「さあ、どうするマサル。ここまでは……俺様もリーフもここまでは
「ぐぬぬぬ……おのれマサル。私のレッドをここまで苦しめるとは……。いや待て、よく考えるのじゃリーフ。激闘を乗り越えたレッドを温かく迎え入れて献身的なヒロインムーブをぶちかませば『リーフ、好き。結婚して』って展開になるんじゃ……ぐへへへへっ。マサルよ! 私とレッドの幸せの踏み台となれ!!」
「言っとくけどお前よりマサルの方がつえーからな」
「ぬわぁんだとぉう!?」
No.0103 世界で一番強いヤツ
マサルは、己の前に立ちはだかる男に対して畏怖に似た感情を抱いていた。緊張や重圧といった、それほど単純で生易しいものではない。それは彼が、レッドが歩んできた道のりを、生き様を、ポケモントレーナーとしての在り方そのものを真正面からぶつけられているような感覚。
(……重い)
だが今は、その重さが心地良い。
マサルは不敵に笑い、世界最強の男を見据える。レッド自身にはそんな肩書にも称号にも微塵も興味はないだろうが、この男が最強であることは紛れもない事実であり、現実である。
そしてマサルは。
今更そんな現実に臆するような男ではない。
「……初めてだ。こんな感覚」
レッドは目を閉じ、静かに呟いた。
「……今までたくさん、本当にたくさん、数え切れないくらいバトルをしてきた。でも、こんなにも、
未だ幼さの残る青年があどけない表情で、かつて少年だった頃、旅に出たばかりの頃、ポケモンと出会ったばかりの頃のように笑う。
「……ここまで来たら、戦術も戦略も読み合いも必要ない。あとはただ、僕の相棒を信じるだけ」
レッドは、最後のモンスターボールを取り出し。
「おいで。リザードン」
瞬間、マサルは全身から汗が噴き出したような感覚に襲われた。
レッドが誇る、カントーが誇る紅蓮の炎龍。
ただその場に現れただけで。
ただ目を合わせただけで。
五感そのものを焼き尽くすような圧倒的な存在感。
人間の根源にある恐怖という感情を否が応でも呼び起こすような神秘性。
対峙してしまえば、並のトレーナーであれば、この存在を前にして意識を保つことすら難しいだろう。
そう思わせるだけの力があった。
(ダンデくんのリザードンとは違う特異性……)
マサルは、己の手がわずかに震えていることに気付いた。
(これは、恐怖? ビビってん、のか、俺が……?)
だが、己の中にあるそれだけではない感情を理解し、力強く拳を握る。
(恐怖していないわけじゃない。恐れを抱いていないわけじゃない。……これは、畏敬の念。そうだ俺は……どうしようもなく、敬意を抱いてしまっている。ここまで鍛え上げたポケモントレーナーに、ここまで鍛え上げられたポケモンに。一つの
今の自分ではどうあがいても辿り着けない領域。
だがその領域に、
マサルは決して、己を過小評価も過大評価もしない。
いつかは、その領域へ辿り着けるかもしれない。
それは決して今ではない。
今ではない、が。
「いつかそこへ辿り着くために。いつかあなたと同じ世界で生きるために───今ここで!! 俺はあなたを超えていく!!」
その言葉に。
マサルの宣言に。
レッドは胸の高鳴りを抑えられずにはいられなかった。
「僕達の全身全霊を懸けて、君に勝つ」
それはまさに、世界最強からの挑戦状。
マサルにとってこれ以上ない、最高のギフト。
それに応えるべく、彼らは───
「10まんボルト!!」
「フレアドライブ!!」
技の発動
かつてマサルは、そしてジバコイルはユウリのエースバーンと対峙した際、初手に「でんじは」を選択した。理由は単純明快、「でんじは」以外の電気技ではエースバーンのスピードに対応できないから。
だがしかし。
あの日から数年、世界を旅し、いくつもの修羅場を潜り抜け、数多の経験を経た彼らは当然。
当然ながら、あの日の自分達を。
そして、レッドの想像を超えていく。
これまで何度も述べてきたように、電気技は一部の例外を除けは発動してしまえば必中である。だが稀に、発動の起こりを察知しそれを回避するという離れ業をやってのける者が存在するのも確かである。
マサルとレッドは、当然それに該当する存在ではあるのだが。
この局面においてレッドは、そしてリザードンはジバコイルの「10まんボルト」を回避しなかった。
否、正確には。
回避する
『ジ、ジバコイル戦闘不能!! リザードンが「10まんボルト」を回避……いえ、
『いや、えぇ……? 「10まんボルト」が直撃してノーダメージ? いったい何が……』
『ふっふっふー。どうやらキョウヘイくんはわかっていない様子! あれはですね~。リザードンが纏っていた炎がジバコイルの「10まんボルト」をスバーンとかき消したのです!』
『……どういう原理なんだ』
『原理って……キョウヘイくんは相変わらず常識にとらわれ過ぎていますね~』
『メイは常識がなさすぎるね』
「あのリザードン、技の発動はジバコイルより遅かったのに……」
「俺のリザードンが劣っているとは思わない、が……それでもスピードは、スピード
「マサルの最後の一体は
(リザードンは決して耐久そのものが高いポケモンじゃない。だが、纏っているあの炎……生半可な攻撃は相殺どころか完全に掻き消しちまうってことかよ。「10まんボルト」で全くダメージを与えられねえなんてどんな熱量してやがる。これが……レッドさんの相棒か)
獄炎を纏う紅蓮の龍に慄きながらもマサルは無意識に口角を吊り上げていた。目の前に立ちはだかる彼らはまさに、人生最大の挑戦における最高の相手。
「どんな堅牢な守りをしていようが、それを上回る
マサルは最後に残されたモンスターボールを感慨深げに見つめ、力強く握った。
「こい───シャンデラ」
青年の心に灯った、決して消えることのない灼熱の闘志。
それを体現するかのように、
マサルが最後に全てを託したのは奇しくも。
奇しくも、世界最強の男と同じ炎使い。
「きたっ! シャンデラきたっ! がんばれシャンデラ! あたしがついてる! 力こそパワー! パワーこそ正義! 勝ったら褒めてあげる! いっぱいいっぱい褒めてあげる!」
「おぉ、ムクちゃんがいきなりテンション爆上げになったっす……ってどうしたんすかセイカ?」
「ふぅ……ふぅ……私のパーティーと、同じ、ポケモン達が、活躍して……尊過ぎて、心が死ぬ!! きっと私はこの戦いを見るために生まれてきたんだ!!」
「セイカはいつもの病気か」
戦いが、終わる。
永久のように長く、刹那のように短く、夢のように儚い時間が。
終わる。
マサルは、そしてレッドは理解しながらこの一瞬一瞬を深く、深く噛み締める。
マサルは錯覚した。
今、己の立っている場所が、
その空間に存在するのは、己とレッド。そして、二体のポケモン達。
それだけ。
それだけだった。
だが
彼は確かにそこにいた。彼らは確かにそこにいた。
二人だけの、見渡す限り真っ白で、
「俺はきっと」
「僕はきっと」
どこでもない、この世界に。
「あなたに出会うために旅をしていたんだ」
「君に出会うために旅をしていたんだ」
世界が色を取り戻す。スタジアムの喧騒が、熱狂が二人を包み込む。
勝ちたい。
負けたくない。
終わりたくない。
終わらせたくない。
互いが互いの持てる力を出し尽くし、数多の試練を、苦難を、逆境を乗り越え、勝利を手にする極地まで辿り着いた。
だが、それと同時に二人はこう思う。
まだ、倒れてくれるなと。
心の底から己の勝利を信じながらも、それと同等の矛盾した願い。
相反する思いを胸に抱きながら、二人の青年は子供のように笑っていた。
まるで初めて、初めてポケモンと出会ったあの日のように。
しかし、いつまでもその思いに浸ってはいられない。
なぜなら。
なぜならこれはポケモンバトル。
目と目が合ったらポケモンバトル。
そして何より。
彼らは───ポケモントレーナーだから。
「ブラストバーン」
先手はリザードン。マサルが誇る鋼の要塞ジバコイルを沈めた炎、それをも上回る獄炎がシャンデラを飲み込んだ。
「……シャンデラは炎タイプの技が効かない特殊なポケモン。でも、それは正確には間違い。炎技が効かないんじゃなくて、炎技を
轟轟と燃え盛る獄炎を前に、レッドは淡々とした口調で語る。
「そして、吸収限界を超えた炎は、己の身を侵す毒となる」
言葉通り、シャンデラは獄炎の中でもがき、苦しんでいた。
「僕のリザードンが操る炎は───最強だ」
あえて、シャンデラに対してレッドが炎技を選択した理由。
それは、矜持。
レッドが、そしてリザードンが決して譲ることのできない絶対の矜持。
そして、炎に己の身を焼かれるシャンデラ。だがそれはシャンデラにとって決して初めてではない、
そう。数少ない、だ。
つまりシャンデラは過去に、己の吸収限界を超える獄炎をその身に受けたことが、ある。
「ありがとう、レッドさん」
そして、その過去の経験が。
「俺の想像を超えてくれて」
レッドと同じく、リザードンを相棒とするガラルの英雄。
「この一撃で───あなたに勝つ」
起死回生の一手となる。
「オーバーヒート・
シャンデラを飲み込む紅蓮の獄炎が、青い炎に塗り替わる。
本来、オーバーヒートという技は炎ポケモンが
だが、シャンデラのオーバーヒートは少し違う。
内包する炎エネルギーだけでなく、敵から吸収した炎エネルギー、さらには敵から
つまり、シャンデラにとって。
己の身を焼き焦がす程の炎は。
自身の力を増幅させる
「俺のシャンデラが操る炎
青い火柱が天を貫いた。
同時に生じた熱風と衝撃波に、レッドは思わず両腕で顔を庇い、踏ん張る足に力を込める。
巨大な火柱、その中心で絶叫するリザードンを見て、己の相棒の姿を見て。
レッドの頬に初めて、汗が伝った。
『こ、これは決まったか!? シャンデラが放った青い炎……あの、イッシュの神話をも彷彿とさせる青い炎に飲み込まれ……リザードンが!! まさか……!! 伝説の男がここで───』
おそらく、このバトルを観戦していた
勝敗は決した、と。
伝説の男が敗れる、と。
凄まじいジャイアントキリングが起こった、と。
感嘆の息を漏らす者も決して少なくはなかった。
だが、極一部の人間達は。
これで勝負が決まったなどとは、微塵も思わない。
「ドラゴンクロー」
それは、
紅蓮の炎龍が今一度、赤き炎を纏い。
青き火柱を、黄泉の国への誘い人を切り裂き。
その輝爪を以って。
死闘に終止符を、打つ。
そして、互いに死力を尽くした炎使い
同時に、倒れ伏す。
数秒の静寂。
それまでの熱狂が、歓声が嘘のように感じられるほどの、異様な静寂。
この光景が一体何を意味するのか。
それは。
勝敗が───
『ダ、ダブルノックアウトォォォォォォォ!! 完全に……!! 完全にリザードンが戦闘不能になったかと思われましたが!! 青き炎の牢獄を……その六爪を以ってシャンデラごと切り裂いたぁぁぁぁぁぁぁ!!』
瞬間、異様な静寂が破られた。観客達の歓声とも悲鳴とも絶叫とも言えるそれが、地震のように、火山が噴火したかのように大地が揺らす。
それは、完全なる
フィールドに立っているのは、二人のポケモントレーナー
両者は互いの持てる力を出し尽くし、互いが誇る六体のポケモンを打倒し。
神々しいほどの姿で、君臨する。
『おわあああああああああああっっ!! 引き分け!! 引き分けですよキョウヘイくん!! こんなことありますか!? あたしもそれなりに修羅場をくぐってきましたし数え切れないくらいバトルをしてきましたけど、引き分けになったことなんて……あ、そういえばキョウヘイくんとは何回か引き分けましたね』
『引き分けなんて実力が拮抗しているトレーナー同士でもそうそうあるものじゃない。レベルが上がればなおさらだ……。それが、この……世界最高峰の、舞台で……こんな……。ははっ、なんかもう笑うしかないな』
『盛り上がっているところ悪いんじゃが、引き分けになった際の規定はあるのかの?』
『……失礼、あまりの展開に興奮を抑えられませんでした。……おほん、もちろん引き分けになった際の規定もあります。とはいえ、まさか初戦から引き分けになるなんて思っていませんでしたがね。本大会において、「引き分けとなる試合が発生した場合、引き分けとなった両者を含め、以降に行われる試合の組み合わせを再抽選」します』
『ふ~む、なるほどなるほど……キョウヘイくん! わかりやすく!』
『トーナメントの組み合わせから全部やり直すってこと』
『た、大変じゃないんですか!?』
『それだけレアケースだったんだよ』
『今回は一回戦の第一試合じゃったから全てのトーナメントの組み合わせを再抽選するが、例えば二回戦の第三試合で引き分けとなった場合は、第三試合以降の組み合わせを再抽選するということじゃな?』
『ええ、その認識で間違いありません』
『はっ! キョウヘイくん、あたしすごいことに気付きましたよ!』
『うん、すごいね』
『組み合わせを再抽選ってことは……また初戦がマサルさんとレッドさんになる可能性もあるってことですよね!?』
『まあ、可能性としては相当低いけど』
『ふっふっふー。そんな低確率を覆してこそのポケモントレーナー!! これはフラグ!! 天才メイちゃんはマサルさんとレッドさんの組み合わせになると見た!!』
『再抽選結果が出たようですね。えー、マサル選手の再初戦相手は……シンオウ代表シロナ選手!! レッド選手の再初戦相手はパルデア代表ネモ選手!!』
『天才(笑) フラグ(笑)』
『……さっきのあたしの発言はカットしてください!!』
『生放送だよ』
「っしゃあ!! しゃあおらっ!! 遂に……遂にこの時がきたわよマサル……!! あなたに受けた屈辱を百億倍にして返してあげるわ!!」
「おー、シロナさんがかつてないほどに燃えてる」
「私、シロナさんが『しゃあ』なんて言うところ初めて見たよ」
「あんなだせーTシャツ着せられたらしゃーない。っつっても、シロナさんもシロナさんでマサルにとんでもねー仕打ちしてたけどな」
「……シロナさんのせいでマサルくんが
「あれ酷かったよな。遺跡でなんか空間が歪んでるとこ見つけて、シロナさんが『マサル、ちょっとあれ触ってみなさいよ』って言って……」
「マサルくん、次の瞬間には消えちゃったもんね。いや、怪しいものにほいほい触るマサルくんもマサルくんだけど」
「ユウリはユウリで『お腹空いたら帰ってくるよ』って言って全然心配してなかったよな。……ガラル人はあんなんばっかか?」
「純粋に心配してたの私だけだった気がする」
「ふふふっ……マサル、手の内は全て見せてもらった。あなたの知らないメガシンカで、メガガブリアスZで蹂躙してやるわ」
「カントー代表のレッドさん、マサルお兄様が世界で一番尊敬するトレーナーが相手……興奮してきた!!」
「バカな!? マサルにぃにの相手があたしじゃない……だと……!? ふっ、運命とやらはどうもあたしとにぃにを引き離したいらしい。しかーし! そんな運命を覆してこそアオイちゃんよ! 新テラスタル『タイプ・アオイ』をご照覧あれい!!」
「僕は二回戦からの登場になったけど……アオイの相手はユウリさん、アホの子対決か。これは放送事故の予感。パルデア代表の命運は僕にかかってる」
マサルは全身が凄まじくも心地良い倦怠感と疲労感に包まれていることを自覚した。今の一戦は間違いなく過去最高の、生涯最高の一戦といっても過言ではないかもしれない。これ以上ないくらいに
「全試合決勝レベル、か。ははっ……さいっこーの大会だな」
下馬評ではレッドが圧倒的に優勢であり、客観的に見ればマサルは大健闘したと言っていいだろう。
だがマサルはこの結果に、引き分けという結果に微塵も満足するつもりはない。
「敢闘賞なんざいらねえ。欲しいのは優勝だ」
それは自惚れでも過信でもない、明確な自信。自分がそこに届きうるという、揺るぎない自信。それを胸に宿し、抑えきれない闘志を纏ったままマサルはゆっくりとレッドに歩み寄る。
「……楽しかった」
フィールドの中心でレッドは少しばかり頬を紅潮させながらそう言った。
「……それ以上の言葉が見つからない。君と出会って、君と戦って、やっぱり僕は間違ってなかったんだと確信した。君が、君こそが僕の運命の人だったんだって」
「俺だって……
この思いが伝わらなくてもいいと、伝わるはずがないとマサルは思っていた。だがそれでも、たとえ誰に理解されなくとも、マサルは思いを言葉に乗せずにはいられなかった。
「わかるよ」
だがレッドは。
マサル以外の誰にも理解できないはずの言葉を、その思いを。
「僕の魂がそう言ってる」
理解できなくとも、理解する。
「ありがとう、僕と出会ってくれて。ありがとう、僕と戦ってくれて。ありがとう───この世界に生まれてきてくれて」
レッドはそう告げて、マサルに手を差し出した。
理屈ではない。常識ではない。理解の範疇を超えた、誰にも理解されることのないその関係を。彼ら二人だけの関係を「特別」と呼ぶ。
マサルは、心の奥底から、魂の根源から湧き上がってくる感情を抑えられず、抑えるつもりもなく、差し出された手を握り返す。
たとえこの思いを、言語化できないこの感情を言葉にしなくとも、レッドはそれを理解する。
「……あのね、マサル」
「はい」
「……一つ、お願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「……うん」
レッドは、自分よりも頭一つ分は背の高い青年を見上げながら、その目を真っすぐに見つめながら言う。
「……僕のことは『レッド』って呼んで。敬語も使わないでほしい」
恥ずかしそうに、照れくさそうな表情を浮かべながら、バトル中の面影など微塵もない、幼くすら見える笑顔でレッドはそう言った。
意外な言葉にマサルは数秒呆気に取られた顔になるも、すぐに柔和な笑みを浮かべ、レッドと同じように少しばかり恥ずかしそうな表情で答える。
「わかったよ、レッド」
マサルの言葉に、レッドは満足そうに頷いた。
「……マサル」
「何?」
「……呼んでみただけ」
「ははっ、何だそれ」
「えへへ。……マサル」
「何?」
「……負けるな。誰にも。僕と戦うまで」
「負けねえよ。誰にも。レッド
二人は互いに子供のような笑みを浮かべ。
「次は負けない」
「次は負けない」
どちからからともなく、二人は熱い抱擁を交わした。
「ぎゃおおおおおおーーーん!! 何だこれは!? 何だこれは!? 一体何を見せられているんだ私は!? レッドからハグ!? そんなの私だってされたことないのに!! 最近は私からハグしようとしたら『……年頃の女の子がそんなことしちゃダメ』ってやんわり拒否されるのに!! まあ私はそんなレッドを無視してハグするんだけれども!! 何なんだあの男は!! 何なんだあの男は!! 許さない……絶対に許さんぞマサル!! 私のレッドをたぶらかしおってからに!! ぐぬうぅ……脳から出ちゃいけない汁が出てる気がするぅ……!!」
「マサルが男でよかったなリーフ。あいつが女だったらお前は幼馴染っつーポジションに胡坐をかいてレッドをマサルに掻っ攫われる負けヒロイン一直線だったぜ?」
「ありえない!! そんなことはありえない!! たとえマサルが女の子だったとしても私の勝ちは揺るがないのだ!! 幼馴染が負けヒロインなのは漫画やアニメの世界だけ!! ヒスイの時代からそう決まってるの!!」
「お前はヒスイの何を知ってんだよ。時空の歪みに巻き込まれたマサルじゃあるまいし。っつーか、んなことよりマサルのヤツやば過ぎだろ。レッドと引き分けやがったぜ。手札の切り方そのものはレッドが優勢だったが、切り札や奥の手の使い方はマサルの方が上だった。まあ、そもそもレッドには切り札とか奥の手っつー概念があんまねえんだがな」
「今理解した!! この大会は私の可愛さと強さをアピールするだけじゃなくて私の『ひろいんぢから』を世界に知らしめるための大会なんだ!! マサルには絶対負けないんだからね!!」
「男と争ってる時点で負けてるようなもんだろ」
「ぬぅぅ……あのレッドとかいう男、すさまじい『ひろいんぢから』の高まりを感じる。100000……200000……バカな!? まだ上がっていくだと!? これはこの前マサルお兄ちゃんの実家で会ったホップに匹敵する……!! ユウリなんかよりよっぽどヒロインしてる」
「なんでマサルの周りにはヒロイン力の高い男が多いんすか。っつーかあの野郎……女の子に対してはそういう台詞を全然言わないくせに男は全力で口説きに行くっすよね」
「それがマサルさんの良いところだよね生き様を全力でぶつけ合った結果友情の一言では片づけられない特別な絆を男の人と築いているのがエモいんだぶっちゃけマサルさんが女の子をくっさい台詞で口説くとか解釈違いも甚だしいそんなのマサルさんじゃないでもユウリさんとはいくらいちゃいちゃしてもいいぞ私はそれを遠くからずっと眺めてるから」
「早口セイカキモイっす」
「キモイ。あとあたしはユウリとマサルお兄ちゃんのいちゃいちゃを全力で妨害するし小姑面してユウリにネチネチ絡んでやる」
「それはそれでユウリは喜びそうっすね。『反抗期の妹だね! 大丈夫、おねーちゃんが全部受け止めてあげるから!』とか言いそう」
「あたしは絶対にユウリをお姉ちゃんとは呼ばない。絶対に! 絶対にだ! あ、そうだ。あとで頑張ったシャンデラをいっぱい褒めてあげよう。その流れであたしもマサルお兄ちゃんにも甘やかしてもらうんだ」
「また!! またマサルが!! レッドさんといちゃいちゃしてる!! マサルはいっつもそうだよね!! カントーに行った時もずーっとレッドさんと一緒にいたもんね!! パルデアではグルーシャさんといちゃいちゃしてミアレではキョウヤくんといちゃいちゃしてイッシュではNさんやカキツバタくんといちゃいちゃしてホウエンではユウキくんといちゃいちゃして……何なんだあの男は!! 男ばっかり口説き落として何がしたいんだ!! マサルの一番はわーたーし!! 私なの!! こうなったらバトル中はさりげなく婚約指輪を見せびらかす感じでカメラの位置にも気を配らねば!!」
「あの『オーバーヒート』……リザードンの炎すら攻撃に利用するとはな。ガラルスタートーナメントでは俺のリザードンの『れんごく』を受けて戦闘不能になっていたシャンデラだったが、相手の火力を自身の火力に上乗せする術を習得したか。あれを見せられた以上、もはや誰もシャンデラの前で炎タイプ技を使おうとは思わないだろう。本当の意味で
「そうだ! まだトーナメントは始まったばかり……私の『ひろいんぢから』を世界に知らしめるチャンスはいくらでもある! そう……私達の戦いはこれからだ!!」
「あらためて、マサル」
フィールドの中心で、世界の中心とも言えるこの場所で向かい合う二人の青年。
幼さの残る顔立ちをした黒髪の青年が、自身よりも頭一つ分背が高い青年の目を真っ直ぐに見つめ。
最後に笑顔でこう告げた。
「この世界へ───ポケットモンスターの世界へようこそ」
100話達成記念 マサルVSレッド fin
マサルVSレッドもといレッドさんヒロイン√はこれにて完結です。
ある意味どの女の子よりもヒロインしてましたね。レッドはマサルの前世のこととか諸々を頭で理解した訳じゃなく、マサルの「言葉そのもの」を魂で理解しました。これはホップでも届かなった領域です。
ホップが「人としてのマサル」を世界で一番理解している存在だとすれば、レッドは「ポケモントレーナーとしてのマサル」を世界で一番理解している存在です。ユウリちゃん? ユウリちゃんは「マサルに世界で一番愛されている存在」です。
とりあえず、バトル関係でやりたいことは全部やり切りました。このワールドチャンピオントーナメントの結末は……どうなるんでしょうかね。皆様のご想像にお任せします!
次回はタロちゃん編の続きをやろうと思いましたが、話数調整のため、短編の詰め合わせ的なお話を書こうと思います。
今の所考えているのが……。
【ここ掘れザシザマ! こうしてハロンタウンに温泉が湧いたのだ!】
【筋肉の使徒ミヅキエル! ~アローラ女子は(筋)肉食系~】
【追放されたマサルとテルがコトブキ村の隣にマサテル村を作ろうとする話】
【ぱしお・ざ・ろっく!~女たらしベーシストのトウヤさんとバンドを組む話~】
【スーパーマサルトーナメントS~マサルのイカれた妹達がガラルに集結する話~】
後なんか思いついたら適当に詰め込みます。多分、ほとんど会話文だけで終わるお話になるかと。あまり期待せずにお待ちください。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
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