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【前回のあらすじ】
可愛い幼馴染の背中を押してあげたらメタボのおっさんに声をかけられた。
ソニアちゃんとの通話を終え、スタジアムの屋内通路から観客席に戻ろうとしたところで俺に声をかけてきたのは、マクロコスモスグループのトップにしてガラルポケモンリーグの委員長、ローズさんだった。
「突然失礼。面白そうな会話が聞こえてきたもので、つい……ね」
「……俺のこと、知ってるんですか?」
「ええ、もちろん。ダンデくんのお友達でしょう? この前ハロンタウンに行ったときに顔を見ましたよ」
まじかよ。直接話したわけでもないのに……遠目からちょっと見てただけの子供のことを覚えてたのか?
「あそこは良い町です。空気も水も食べ物も美味しく、住んでいる人達は皆穏やかで優しい。老後はああいう場所でのんびりと余生を過ごしたいものですね」
……なんだろう? 腹にイチモツを抱えてそうなオーラがギンギンなのに、その言葉は社交辞令ではなくローズ委員長の本音に聞こえてしまった。
「君、ポケモンは好きかい?」
「え……? あ、はい。大好きです」
不意に尋ねられ、少し焦り気味に答えてしまう。
「年齢にそぐわない戦術観、思考能力、非情ともいえる戦法を
この人、俺の通話を……「死に出し作戦」を聞いてたのか?
だけど、俺の疑問なんてよそにローズ委員長は柔和な笑顔を浮かべて、告げる。
「君───良いトレーナーになれるよ」
その瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねる。
なるほど、これがローズ委員長か。この圧倒的なカリスマ、たった一言で人を惹きつける能力、人心掌握術。
これが、マクロコスモスグループのトップ……ガラル経済の支配者。
この人の下に、誰もが集う理由がわかった気がする。それくらい、俺はこのローズという人間に呑まれかけていた。なんというか……腹に力を入れて踏ん張らないと吸い込まれてしまいそうな気がする。
「探しましたよ委員長。こんなところで何をやっていらっしゃるのですか?」
俺がローズ委員長と向かい合っていると、静かな女性の声が聞こえてきた。
「やあ、オリーヴくん。なーに、将来有望そうな少年とお話ししていただけだよ」
「またそうやって突拍子もないことを……この前だって孤児院で少年に声をかけていたでしょう?」
「ああ、
オリーヴと呼ばれたマロンベージュの長髪に切れ長い目をした高身長の女性がやってくる。この人……仕事ができるバリキャリウーマンオーラがすごいな!? もしや、ローズ委員長のあいじ……右腕だったりする?
「では、秘書も呼びに来たことだし、私はそろそろ戻ることにするよ。マサルくん、せっかくの機会です。最後に何か私に言いたいことはあるかな?」
突然言われても困りますって!? ガラルの超大物に言いたいこと? 言いたいことって何だよ……ウチの牧場でもアピールしておくか? でもこの前ハロンタウンに来てくれたばっかりだしなぁ……
あ、そうだ。
「もう少し瘦せた方が格好良いと思います」
その瞬間、クールな見た目のオリーヴさんがクスリと笑い、ローズ委員長は自分のお腹を悲しそうな目で見下ろしていた。
「その少年の言う通りです。委員長は少々……いえ、かなり皮下脂肪の数値が高いかと」
「接待で美味しいものをたくさん食べたりお酒を飲んだりするとどうしてもねえ……でも、格好悪いのはよくないね。よし、オリーヴくん。明日……いや、来週からダイエットを始めるよ」
「今日からです」
何やら夫婦漫才みたいなことをしていらっしゃる。もしかしてこの二人、かなり相性が良かったりする?
「じゃあ、マサルくん。またいつか───スタジアムで君を待っているよ」
「……はいっ!」
「委員長、ここもスタジアムです」
「ポケモントレーナーとして待ってるって意味だよぉ!?」
こんな感じで、何とも締まらない最後になってしまった。ローズ委員長ってカリスマとか黒幕オーラはやばかったけど、あんな風に気の良いおっちゃんっぽい一面もあるんだな。なんか嫌いになれない……というか憎めないおっさんだ。
嵐のような出来事に疲労感を感じつつも、二人の背中が見えなくなるまで見送ってから俺も観客席へと戻るのだった。
「マサル、遅いぞ。もう決勝が始まるところだ!」
「悪い悪い、難産だったんだ」
「なんざん?」
「……ユウリは気にしなくていいぞ。マサル、ユウリに変なこと教えるな」
そうは言っても……まさかソニアちゃんに戦術のアドバイスをしたりローズ委員長と会ったりしてたなんて言うわけにもいかないしな。二人には余計なことは気にせず決勝戦を楽しんでほしいし。
そう思って席に座ると、ユウリがぎゅーっと俺に抱き着いてきた。なんぞ? 俺がいなくて寂しかったんか?
「マサル……何かあったの?」
ユウリが抱き着いたままそう言って俺の顔をのぞき込んでくる。こいつ……普段は能天気なくせにこういうところは鋭い。まあ、ユウリに限らず、子供は大人が思っている以上に鋭い生き物だからな。
「心配すんな、なんもねえよ」
俺はできるだけ優しく笑ってユウリの頭を撫でてやる。いつもならこれで機嫌がよくなるんだけど、今のユウリは何やら疑わしげな目で俺を見ていた。かと思いきや、ふにゃりと笑って俺の頭を撫で始める。
「よしよし、マサルはがんばった。いい子いい子」
ひとしきり俺の頭を撫でて満足したのか、ユウリは特等席と言わんばかりに俺の膝の上に座った。
ははっ、なんだよそれ?
でも今は……今だけは、ユウリの温かさと甘い匂いを心地よく感じてしまっている。
そう。
これから起こるであろう
「ほら、マサル。二人を応援するよ~!」
「……そうだな」
そして、セミファイナルトーナメントの決勝戦が───ソニアちゃんの最後の戦いが始まった。
「ダンデくん、私は君に───勝ちに来た」
「俺も同じだ。ソニア、俺は君に───勝ちに来た」
スタジアムの中心で、二人の熱い視線が交錯する。ソニアちゃんの溢れる闘志がモニター越しであっても強く伝わってきた。そして、ダンデくんはそんなソニアちゃんの表情を見て、
この二人はこれまで、俺の……俺達の知らない冒険をたくさんたくさんしてきたんだ。だからこそ……お互いの考えていることが理解できているからこそ───
決して多くは語らない。
二人は互いに距離を取り、ダンデくんは気合いを入れる様に両手で自分の両頬を叩く。あれは、ダンデくんが超絶本気になった時に見せる癖……そうか、ダンデくん。そこまでソニアちゃんを警戒してるんだな。ある意味、
そして、二人がモンスターボール構え───投げ合った。
「ギルガルド!!」
「マルヤクデ!!」
両者の一体目がスタジアムの中心に登場する。
ギル、ガルド……俺が、俺が予想した通り!!
読み切った……!! 読み切ったぞ!! ダンデくんの一体目を完全に読み切ったんだ!!
俺は思わず拳を強く握る。
「マルヤクデ!! フレアドライブ!!」
ソニアちゃんに迷いはない。決して素早さが高いとは言えないマルヤクデが業火を纏い、猛スピードでギルガルドへ突進する。
この判断の早さとマルヤクデの反応速度……
そうか、ソニアちゃんは決めていたのか。
ダンデくんの一体目がどのポケモンであろうとも、開幕と同時にフレアドライブをぶちかます、と。
きっと、事前にマルヤクデともしっかり話し合っていたんだろうな。マルヤクデの反応速度を見ればわかる。あれは、トレーナーの指示に全幅の信頼を寄せていないとできない芸当だ。
ソニアちゃんはこの旅で……ポケモン達とそれだけの信頼関係を築いていたんだな。
『ぎ、ギルガルドが倒れたーーーっ!! 何ということでしょう!! ダンデ選手はこれまでのバトルで……
スタジアムが異様な熱気と怒号にも似た歓声に包まれる。俺は思わず、膝の上に座っているユウリを強く抱き締めていた。
ここまでは……ここまでは最高の出来だ。
心臓の鼓動が、速い。まるで、自分がスタジアムの中心でダンデくんと向かい合っているかのような緊張感が全身を支配している。
いけ……いけ、ソニアちゃん……!!
このまま一気に───
「ソニア───やっぱり君は最高だ」
ぞくり、と。悪寒にも似た鋭い寒気が背筋を走り抜ける。
ダンデくんは笑った。笑っていた。
それと同時に、俺は理解した。
理解
ソニアちゃんが───負ける、と。
「ワンパチ!! ダイマックス!!」
「リザードン!! キョダイマックス!!」
ソニアちゃんの残りの手持ちはワンパチのみ。
対してダンデくんの手持ちは───四体。
そう、ソニアちゃんは最初のギルガルド以外……ダンデくんのポケモンを倒せなかったんだ。でも、ソニアちゃんは諦めなかった。ダンデくんを相手に一歩も引かず、これまでの旅の全てを、自分の持てる力の全てを彼にぶつけた。
ソニアちゃんのポケモン達もその信頼に全力で応えた。
だけど。
それでも。
「キョダイゴクエン」
不死鳥を思わせるような強大な業火がワンパチに襲いかかる。
ワンパチは───逃げなかった。
真正面から、リザードンの攻撃に立ち向かった。
そして───
「ありがとう、ソニア。君と戦えたことを、君と共に旅ができたことを───心から、誇りに思う」
「こっちこそありがとう。でも、ものすごーく大変だったんだからね? ダンデくんの方向音痴は全然治らないし……ワイルドエリアに夢中になり過ぎて開会式に間に合わないかと思ったし……」
「……そんなこともあったな」
「でも、ジムチャレンジで……この旅で私はたくさんたくさん学んだよ。ダンデくんから、ポケモン達から……」
「俺もだよ。君がいたから、今の俺はここにいる」
勝者と敗者が、固い握手を交わす。それと同時、両者の健闘を称える様にスタジアムが歓声と拍手で包まれた。
ああ、
俺はこの空気を───
嫌というほど、知っている。
前世の俺は、それを向けられる側だった。
だけど今の俺は、それを向ける側。
俺は、知っている。
健闘に対する称賛なんて、敗者にとって何の慰めにもならないということを、俺は、知っている。
だけど、それでも……それでもだ。
俺はソニアちゃんに……いや、ソニアちゃんだけじゃない。ダンデくんにも、この戦いを見せてくれた二人とポケモン達に───敬意と称賛を。
「ダンデくん……いや、絶対負けんなよ───ダンデ!」
最後にソニアちゃんは
彼女はきっと、これから先、何があっても挫けることはないだろう。
激闘を終えた二人がそれぞれ、正反対のゲートへ向かって歩き出す。
彼らの姿が完全に見えなくなるまで……いや、見えなくなっても歓声と拍手が鳴り止むことはなかった。
すごいなぁ……
ソニアちゃんとダンデくんのバトルを観て、私はそんな感想しか出てこなかった。ポケモン達があんなにわーってなってぐわーってなってたくさん技を出し合って……なんかこう、すごい!!
ホップも私と同じように、すごくキラキラした笑顔で楽しそうに二人のバトルを観ていたんだけど……マサルだけは違った。
楽しんでいないわけじゃない、と思う。
でも、わかるんだ。
マサルは私達とは違うよくわからない感情を抱きながら二人のバトルを観ていたんだ。
私にはわかる。
だって、マサルは周りの誰にも……ホップにも気付かれないようにこっそり涙を拭いていたから。
でも、私は気付いた。
安心してね、マサル。マサルが泣いてたことはみんなに黙っててあげる。
だって私は、マサルのおねーさんなんだから。えへへっ♪
まったく、世話が焼けるなぁもう♪
えーっと……何の話だったかな?
あ、そうそう! チャンピオンカップの話だね!
えー……なんと!! ダンデくんが!! チャンピオンになりました~!! ぱちぱち~♪
ほんとにすごかったんだよダンデくん!!
次の日のファイナルトーナメントでカブさんと、マサルがふぇありーばばあ? って言ってたポプラさんをどぎゃーんって倒して、チャンピオンにもずばーんって勝っちゃって……
なんかもう……すごかった!!!!
私もマサルもホップもソニアちゃんもみんなみーんな喜んでたんだ~♪
「ダンデ選手、チャンピオンになった今のお気持ちをお聞かせください」
「感謝……しかないですね」
「なるほど、感謝ですか。では、誰に感謝したいですか?」
チャンピオンに勝った後、ダンデくんはスタジアムの真ん中でいんたびゅあーさん? と色々お話してたんだよ。
「ここまで戦い抜いてくれたポケモン達に」
ダンデくんはマイクを向けられてもすっごく堂々としてたんだ。格好良い!!
「俺の才能を見出してくれた師匠に、推薦してくださったローズ委員長に」
ダンデくんのおししょーさん……眉毛がすっごいおじいちゃん! ローズ委員長は……メタボの人!
「俺を応援し、支えてくれた家族や友人達に」
おともだち! 私達のことだよねダンデくん!
「俺と戦ってくれた全てのトレーナーに───共に旅をし、研鑽し、高め合ったソニアに」
ソニアちゃんを見ると、ハンカチで涙を拭いていた。も~、泣き虫さんだなぁソニアちゃんは……
「そして何より───チャンピオンになると約束した弟に」
ダンデくんは観客席にいる私達を真っ直ぐに見た。す、すごい……あんなに遠くにいるのに私達の場所がわかるんだ……
さすがちゃんぴょん……
あ、ロトムカメラだ! あーーーっ!! ホップの顔がスタジアムのおっきなモニターに映ってる!! も、もしかして私も映っちゃう? う、うへへ……有名になっちゃったらどうしよう……それで~、モデルにスカウトなんてされちゃったりして~……きゃーっ♪
「落ち着けユウリ。ホップしか映してねえよ」
私の椅子になっているマサルが後ろからぎゅっと抱き締めてくれた。なーにおとなぶってんだよー? ほんとはマサルだってカメラが近くに来てそわそわしてるんでしょ~。こいつこいつ~。
マサルの太ももをぺしぺし叩くとマサルは私のほっぺたをむにむに引っ張ってきた。こらーっ!
「それではダンデ選手、最後に一言お願いします」
私がマサルとじゃれ合っていたら、いつの間にかダンデくんのインタビューが終わりかけていた。全然お話聞けなかったじゃん! もうっ、マサルのせいだからねっ!
「最後に、ですか……」
ダンデくんは目を閉じて、ちょっとの間考え込んでいた。
そして、ダンデくんが目を開けて───
「俺は君達を───
ダンデ
いや、もしかしたらマサルだけは当時すでに理解していたかもしれない。だってマサルって、普段はハロンの野生児だけど時々びっくりするくらい大人みたいなことを言っていたから。
「格好良い……」
はー……すごい! よくわかんないけどすごい! ポケモントレーナー格好良い!!
「兄貴……兄貴……最高に格好良いぞ!! やっぱり兄貴はナンバーワンだ!!」
「え~? ダンデくんはすっごく格好良いけど一番じゃないよ~」
「そうだな。ナンバーワンはカブさんだ。そうだろ、ユウリ?」
「ぶっぶー、カブさんでもありませーん」
ダンデくんは格好良かった。ものすっっっっっっっごく格好良かった。でもね、私が一番格好良いと思ったトレーナーはね……他にいるんだよ。
「兄貴以上に格好良い……? 誰なんだユウリ。教えてほしいぞ!」
「カブさん以上に格好良い……? レッドさん? ワタルさん? ダイゴさん? まさかキバナくんって言うんじゃないだろうな?」
「えへへ~。ホップはともかく、マサルには絶対教えてあーげないっ♪」
「おぉん? ユウリのくせに生意気だっ!」
「きゃーっ! マサルのえっちー♪」
「えっちじゃない」
マサルが私の髪の毛をぐしゃぐしゃに撫で回す。ふふーん、ぜーーーったいにマサルには教えないもんねーっ! べーっだ!
だってマサルに教えたらちょーしに乗っちゃうんだもん! おねーさん、そんなの許さないから!
当時の私が……ううん、今でも一番格好良いと思っているポケモントレーナー。
それは───私がポケモントレーナーを目指そうと思ったきっかけをくれた人。
それが誰かなんて……恥ずかしくって言えるわけがない。
だって……だって……
その人は、まどろみの森でソニアちゃんを助けるために必死だった人で。
その人は、まどろみの森で。
誰より。
近くで。
一番側で。
私を守ってくれていた───マサルなんだから。
first season
【幼少期】ハロンの三馬鹿編 完
次回
second season
【激動期】ジムチャレンジ編 開始
ようやく第一部完! です。
幼少期は完全にダンデが主人公でしたね。まあ、ゲームでもダンデの前作主人公っぷりは半端なかったですから。
ダンデのジムチャレンジ編を薄明の翼のスタッフさん達がアニメで作ってくれないかな……
次回からようやくゲーム本編の時間軸に入ります。やっとだよ! やっと御三家と会えるよ!
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!