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No.0012 はさまれ!! ナンジャモさん
「イヌヌヌワン!!」
ガラル人の朝は早い。
早朝四時、俺は生まれた時から一緒に生活している愛犬である「わたぱち」の鳴き声と共に起床する。胸に結構な重さと圧迫感を感じながら目を開けると、俺の上に乗って舌を出しながら「へっへっへっ」と呼吸をしている愛犬がいた。
「おはよう、わたぱち」
「イヌヌワ!」
俺はベッドから起き上がり、部屋のカーテンを開けて大きく伸びをする。まだ日は昇っていないものの、空はどんどん白みを帯び始めており、世界に一日の始まりを告げようとしていた。
今日も今日とて俺の一日は牧場での農作業から始まる。いつものように顔を洗い、外に出て牧場の空気を、ハロンタウンの自然豊かな空気を目いっぱい吸い込み軽くストレッチをして体をほぐす。
「よし、行くぞわたぱち」
「イヌヌワン!」
寝起きの運動も兼ねて、小走りで広大な牧場内を移動する。わたぱちも楽しそうな表情で俺と並走していて、しばらく走っていると日課の見回りをしているキテルグマを見つけた。
俺は進路を変え、キテルグマがいる方向へと全力疾走する。
よし、背後は取れてる。このままスピードに乗って……
瞬間、俺の気配に気づいたキテルグマがぎゅるんと勢いよく振り返る。
キテルグマの ふりむきざまメガトンパンチ!
俺はとっさに腕を交差させて防御態勢を取った。
拳が、迫る。
きやがれ───!!
両足で踏ん張った瞬間、全身に強烈な衝撃が走った。
だが、それだけ。
それだけだ。
俺は、キテルグマのメガトンパンチを
昔の俺なら無様に吹っ飛ばされて牧草の上を転がっていただろう。
だけどそれはもう、遠い昔の話。
あれから、七年。
ダンデくんがチャンピオンになってから、七年。
俺は───十四歳になっていた。
そして
俺はこの一年を
激動のこの一年を
生涯忘れることはないだろう。
すごいよ!! マサルくん
second season 【激動期】ジムチャレンジ編
No.0012 はさまれ!! ナンジャモさん
「久しぶりサイトウちゃん、元気してた?」
『はい、おかげさまで! 相棒のカイリキーも他のポケモン達も元気いっぱいですよ!』
早朝の仕事を終えてから朝ご飯をたっぷり食べた後、俺がバカでかいトラクターを運転しながら牧草を集めていると、スマホロトムがサイトウちゃんからの着信を伝えてきたのでテレビ電話で通話する。スマホロトムは宙に浮いてくれるから運転中でも気軽に電話できるのがいいよな。
『あれ? もしかして今、お仕事中でした?』
「だいじょぶだいじょぶ。トラクター乗り回してるだけだから。それよりサイトウちゃん、メジャー残留おめでとう!」
『ありがとうございます! 年下のオニオンくんは強敵でした……なんせ、相性の悪いゴーストタイプだったので』
「でもきっちり勝ち越したじゃん。正直、俺は負けると思ってた」
『あー、マサル酷い! 酷いですっ! そんな意地悪言うのならジムチャレンジの推薦取り消しちゃいますよ?』
「取り消されたら約束果たせなくなっちゃうねぇ~」
『むぅ~っ!』
サイトウちゃんが画面の向こうでふくれっ面を浮かべている。バトル中はすっげーキリッとした礼儀正しい武闘家だけど、今の彼女は年相応の女の子だ。
「本当にありがとうサイトウちゃん。ジムチャレンジ、推薦してくれて」
『いえ、小さい頃からの約束でしたから。成長したマサルと本気のバトルをするのは』
「あれから七年……言っておくけど、俺めっちゃ強くなったからな?」
『ふふっ、期待してますよ!』
嘘は言ってない。キテルグマのメガトンパンチを受け止められるくらいには強くなったから。
……ポケモントレーナーとしては?
こ、これからよこれから!! 一応、どのタイプのポケモンをパーティに入れるか考えてるんだからな。
『じゃあマサル、スタジアムで会えるのを楽しみにしています! カブさんに勝てなくて私のところまで辿り着けないなんてオチはいらないですからね!』
「そういうのフラグって言うんだよ」
そして俺はサイトウちゃんと通話を終える。いやー、サイトウちゃんは冗談交じりで言ってたけど、カブさんはまじで鬼門だからな。ジムチャレンジャーの半分以上はカブさんに勝てずリタイアするらしいし。
……なんとかするしかねえよ。可愛い女の子との約束を破るなんて男じゃねえもんな。
「おーい、マサルー!」
気合を入れ直して牧草集めに勤しんでいると、お向かいさんのホップが柵の外から大きな声で俺を呼んできたので、俺はトラクターに乗ったままホップへと近づく。ああ、そうか。そういえば……
「おはようホップ。悪いな、ちょっとこの辺の牧草だけ刈ったらユウリん
「急がなくて大丈夫だぞ。
そう、今日はホップの兄である無敗のガラルチャンピオンダンデくんが約半年ぶりにハロンタウンに帰ってくるんだ。それも、ただ帰ってくるんじゃなくて、俺とユウリとホップへの
「あと、さっきユウリの家に行ったらまだユウリは寝てたみたいだぞ」
「ほう? この俺が早朝からせっせと労働に勤しんでいるというのにあのお転婆娘は惰眠を貪っているというのか? 実にけしからんな。ちょっと行って叩き起こしてくる」
「ほどほどにするんだぞ」
ユウリとの付き合いもかれこれ九年になる。俺とユウリの普段の取っ組み合いやらじゃれ合いを一番間近で見続けてきたホップはもう慣れっこだと言わんばかりで、俺を止めようとすらしない。じゃあ、後でホップとはユウリの家で合流するとして……さっさと草刈りを終わらせるか。
さーて、どんな風にユウリを起こしてやろうかな。
「おはよーございまーす。ユウリ起きてますかー?」
「あら、おはようマサルくん。ごめんね、ユウリったらまだお部屋で寝てるのよ~」
草刈りを終えてシャワーを浴び、着替えを済ませてユウリの家にやってくると美人なユウリママが迎えてくれた。ユウリも将来こんな感じの美人になるのか……そ、想像できねえ。
あと、ユウリパパは相変わらず単身赴任……というか、詳しく話を聞くとシルフカンパニー本社に勤めるスーパー敏腕営業マンで色んな地方を飛び回っているらしいな。くっそエリートじゃん。でも、本社がロケット団に占拠されていた時は別の地方にいたらしい。レッドさんに会えなかったのか……もったいない。
「起こしてもいいですか?」
「いいわよ。さっきもホップくんが来てくれたのに起きなかったから……だらしない子ね本当に」
「あとこれ、ウチの新商品のヨーグルトです。よかったら後で感想聞かせてください」
「ありがとう~♪ ガーベラ牧場さんの乳製品はすっごく美味しいからいつも助かってるわ~」
俺がヨーグルトを渡した時のユウリママの笑顔を見て、思う。うん、やっぱ親子だわ。美味しいものを目の前にした時の笑い方がユウリとそっくり。
「ゴンベにもモーモーミルクあげるからな~」
「ごんぬ~♪」
いつの間にか足元にいたユウリのペットであるゴンベにモーモーミルクを飲ませてやると、にぱーっと可愛らしい笑顔になった。やっぱゴンベ可愛いな。一日一回自分の体重と同じ量のご飯を食べるらしいから、ウチで扱ってる期限が危ない食材をあげたりすることが多くてゴンベは俺にもよく懐いてるんだよな。
いや、もしかしたらゴンベは俺のことをただの餌やりおじさんとしか思っていないのかもしれない。そうだったら悲し過ぎる。
「あ、そうだマサルくん、朝ご飯は食べちゃった……わよね?」
「モリモリ食べてきました」
「そう。ユウリの朝ご飯用にホットケーキを焼こうと思ってたんだけど……」
「いただきます!」
「ふふっ、じゃあ用意しておくわね」
「ありがとうございます!」
やったぜ! ユウリママの作るホットケーキとかアップルパイはめちゃくちゃ美味しいからな。正直、お金取れるレベル。ウチの牧場にあるカフェで働いてほしいくらい。
そして俺はユウリママのホットケーキに胸を躍らせながら遠慮なくユウリの部屋に突撃するのだった。
部屋に入ると嗅ぎ慣れた匂い、ユウリが普段使っている香水の甘い匂いが鼻腔を擽った。ユウリはワイルドでお転婆だけど、部屋は意外にも整理整頓されている。ママの教育がいいんだな。……朝は全然起きてこないけど。
ベッドに近づくと、俺が部屋に入ってきたことには微塵も気付いていない穏やかな笑顔で「ミロカロス抱き枕」に抱き着いて眠っている。この抱き枕は昔ユウリが「ミロカロス……最も美しいポケモン……私にピッタリだねっ!」とか自惚れたことをほざいていたから俺が誕生日にプレゼントしてあげたんだよな。
半分皮肉を込めたプレゼントだったのに大喜びされて拍子抜けした記憶があるわ。
そんな昔の思い出を懐かしみながら、俺は部屋のカーテンを開ける。朝の心地良い日差しが差し込んできた。
「う、う~ん……ママぁ……もうちょっとだけ寝かせてぇ……」
ユウリの甘ったるい声が部屋の中に響いた。この期に及んでまだ俺の存在に気付いてない……だけじゃなく起きようとせんのか。そーかそーか、よっぽど俺に力づくで起こしてほしいんだな! よろしい、ユウリお嬢様のお願いを叶えて差し上げましょう!
そして俺はもう一度ベッドに近づき、ユウリの耳元にそっと唇を寄せて───
「突撃!!!! 隣のユウリちゃん!!!!」
「わひゃぁっ!!??」
ユウリが勢いよく飛び起きた。危うく「ずつき」されるところだったけど持ち前の反射神経で回避する。飛び起きたユウリは寝癖まみれのぼさぼさ頭をきょろきょろと振って、ようやく俺と目が合った。
「ましゃ……マサル……?」
「おはよう寝坊助さん。寝間着、乱れてんぞ」
「へ……わ、わぁっ……!?」
ユウリの寝間着はふわふわ生地のショートパンツに同じ柄のシャツ。シャツがめくれて可愛らしいおへそがちらりと見えていた。ユウリは慌てて寝間着を直しておへそを隠し、真っ赤な顔でちょっと涙目になりながら俺を睨んでくる。
「うー……マサルのえっち! ばかっ! 女の子の部屋に勝手に入るなんてっ!」
「ママさんにちゃんと許可は取ったからな。何回もノックしたし、部屋の外から声もかけた。それでも起きてこなかったから突撃したんだよ」
「せ、せーろんは時として人を傷つけます!」
「大体、お前だって俺が昼寝してたら部屋に突撃してくるだろうが。お互い様だろ」
「全然違うもんっ! 私は可愛い女の子だからマサルの部屋に勝手に入っても許されるもんっ!」
「それじゃあ可愛いユウリちゃん。早く顔を洗って着替えてきなさい。今日はダンデくんが帰ってくる日だ。……まさか忘れてないだろうな?」
「あっ……わ、忘れてないよ~。ぴゅーぴゅー」
ユウリがわざとらしく下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうとしたのでほっぺたを引っ張ってやるのだった。
こいつは本当に……ガキの頃からなんにも変わらねえな。
『あなたの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモです! ジムリーダーだよ! おはこんハロチャオ!』
「おはこんハロチャオ~」
「ごんごんごんぬ~♪」
ユウリの部屋から出た俺はリビングでゴンベと一緒にスマホロトムで「ドンナモンジャTV」を見ていた。ナンジャモはパルデア地方のジムリーダー兼人気動画配信者で使うポケモンは電気タイプ……カミツレさんとコラボしてくれねーかな。ちなみにパルデア地方には「テラスタル」とかいうポケモンの新形態があるらしい。
パルデア地方……か。未知の地方だけど面白そうなところだ。いつか行ってみたいな。
「マーサールっ! なーに観てるのー?」
パルデア地方のことを考えていたらユウリが後ろから抱き着いて俺のスマホロトムをのぞき込んでくる。どうやらユウリはシャワーを浴びていたらしく、シャンプーの良い匂いがした。
「あ、ナンジャモだ。えー……マサルってこういうあざとい僕っ子が好きなの? 趣味わる~」
「お前……世界中のナンジャモファンを敵に回したぞ」
「ふーんだ。結局マサルもこーんなダボダボの服で胸元が緩くて萌え袖なあざとい女の子がいいんでしょ~?」
「あざとさならユウリも負けてねえよ」
「うっそだー! 私こんなにあざとくないもんっ!」
「じゃあユウリ。『おはこんハロチャオ!』ってやってみ?」
「え……? お、おはこんハロチャオ~!」
ユウリは戸惑いながらも両手でグーを作り、握った拳をナンジャモのコイルに見立てて頭に沿え、首をかしげながらそう言った。誰がそこまでやれと言った。はいはいあざといあざとい。あざと可愛いユウリちゃん。
「そらみたことか」
「ぜ、全然あざとくないでしょっ! ……あーあ、マサルはカブさん一筋だったはずなのにナンジャモに浮気しちゃうなんて……なんて気が多い男なのかしら」
「あのなあ。確かにナンジャモは可愛いけど、俺のめあてはナンジャモじゃなくてゲストのアオキさんなんだよ」
「アオキさん?」
不満そうにわざとらしく唇を尖らせていたユウリは再び後ろから俺に抱き着いてスマホロトムをのぞき込んだ。今日のドンナモンジャTVのゲストはナンジャモと同じくパルデア地方のジムリーダー、アオキさんだ。
「この人、ジムリーダーなの? ぜ、全然強そうに見えない……まるでブラック企業の社畜サラリーマンだよ」
「まあ、言わんとすることはわかる」
だけどなぁ、このアオキさんのくたびれた感じ……味があって好きなんだよなぁ。
『ナンジャモさん。顔が割れるとお店に入りにくくなって最悪出禁になるので仮面被ってもいいですか?』
『えー! 嘘でしょ!? 目立ちたくない人とかいるんだ!? ってかアオキ氏。それならなんでボクの配信に出てくれる気になったの?』
『オモダカさんの命令です。ジムリーダーのイメージアップに務めろ、と。そうでなければ出禁のリスクを負ってまで出演しませんよ。……はあ、もう少しうまく立ち回るべきでしたね』
『ほえ~、なんか
二人の会話内容は終始こんな感じだった。キャラも性格も全く違うちぐはぐっぷりが面白い。やっぱアオキさん、良いキャラしてるわ。まあ、ジムリーダーなんて誰も彼もキャラが濃いからな。そうでなきゃやってられないんだろ。
「確かにアオキさん面白いね。くたびれた雰囲気からのまさかのグルメキャラ……色んな地方の美味しい料理をたくさん知ってて、お話聞いてたらお腹空いてくるよ」
「学園の食堂メニューについて早口で熱く語り過ぎてナンジャモが軽く引いてるのが笑える」
「……マサルもどーせナンジャモの配信に出たいって思ってるんでしょー?」
「いや、俺はナンジャモをアオキさんとカブさんで挟んでどんな番組になるか収録現場を見てみたい」
「予想外の答えが返ってきた!? 厄介ファンとかそんなレベルじゃないよそれ!!」
ナンジャモとカブさんとアオキさん……やべー化学反応が起こって面白い番組になりそうなんだよな。というか、二人に挟まれた時のナンジャモの反応が見てみたい。もしもキバナ
「二人とも。ホットケーキ焼けたわよ~」
「「はーい♪」」
ドンナモンジャTVを観た後、ユウリママ特製のホットケーキを二人で美味しくいただきました。
「おじゃましまーす! ユウリー! さすがにもう起きて……」
「ずるいずるいずーるーいーっ! モーモーミルク使うのはレギュレーション違反だよっ!!」
「使っちゃだめって決めてなかったよなぁ?」
「……マサルもいたんだな。どうしたんだ二人とも? そんなに騒いで」
「あーっ! 聞いてよホップー! マサルがねっ! ずるいんだよっ! 二人で『ゴンベおいでおいで競争』をしてたらマサルがモーモーミルクを取り出してゴンベがマサルの方に行っちゃって……それで私の負けだって言うんだよ!」
「俺はユウリに世の中の不条理さをわからせてやっただけだ」
ホットケーキをご馳走になった後、ユウリと二人で「あざといメスガキポーズ選手権」や「ゴンベおいでおいで競争」をやっていると、ホップがやって来た。俺とユウリの小競り合いというかじゃれ合いにツッコミなんて入れず、ホップは慣れた様子でユウリを宥めながら苦笑していた。いつもすまんなホップ。
「そういや二人とも、兄貴のエキシビションマッチは観たか? 兄貴の応援はリザードンポーズをビシッと決めるんだぞ!」
「ふっ、なめんなよホップ。俺のリザードンポーズは108式まであるぞ」
「さすがだぞマサル! 残りの107種類をぜひ俺に教え───」
「そんなことしてたら日が暮れちゃうでしょ! ダンデくんを迎えに行くんじゃないの?」
「一番寝坊してたくせに何言ってやがる」
俺がそう言うとユウリがぽすぽす俺を叩いてきた。事実だろうが。
「ユウリの言う通りだ。もう兄貴はブラッシータウンに着いてるらしい。迷わず家に帰ってこられるか心配だから迎えに行くぞ」
「結局七年経ってもダンデくんの方向音痴は治んなかったよな」
「リザードンがいるから大丈夫だよ……めいびー」
チャンピオンなんだから専属のアーマーガアタクシーを雇えばいいのに。この前のエキシビションマッチだって道に迷って遅刻してアーマーガアに乗ってスタジアムのど真ん中に降りてきたよな。しかもなぜか小さい金髪の男の子を連れて。
結局、あの男の子は誰だったんだろう。
「それから、今夜はウチでバーベキューだからな。二人とも、しっかりお腹を空かせてくるんだぞ」
「バーベキュー……楽しみっ!」
「野菜もちゃんと食えよユウリ」
「……ほら、私には野菜ジュースがあるから」
そんな会話をしながら、俺達はブラッシータウンへ向かうのだった。
本当は御三家を貰うところまでやる予定だったんですが、ユウリといちゃいちゃしてたらめっちゃ長くなったので分割。
また明日投稿するから許してください。
【今回のまとめ】
マサル「ナンジャモをカブさんとアオキさんで挟みてぇ~」
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!