【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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No.0014 あつまれ!! まどろみの森Ⅱ

『ましゃる~♪ ぎゅーってしてなでなでしてほし~にゃん!』

「消せーっ!! 消せーっ!!」

「消さねえよ。俺はこの動画をお前の結婚式で晒してやると誓ったんだからな」

「そ、そんな事されたらお嫁に行けなくなっちゃうでしょーっ!?」

「大丈夫大丈夫(ホップが嫁に貰ってくれる)」

 

 ホップの家でバーベキューを楽しんだ翌日、俺達は再びホップの家に集まっていた。集まるなり俺が昨日のユウリの醜態を本人に見せつけると、俺の期待を裏切らない反応を見せてくれる。ふっ、おもしれー女。

 

 言っておくけど、酔っぱらってウザ絡みしてきた挙句眠りこけたお前を家のベッドまで運んでやったのは俺なんだからな。

 

「……私、二度とお酒飲まない」

「そうしろ。お前、隙だらけだからどこぞの悪い男にお持ち帰りされるぞ」

「そーなったらマサルが助けてくれるでしょ?」

「目の届く範囲にいればな」

「うへへ~♪」

 

 とか言いつつ、もしも本当にユウリがゲスな男に酒を飲まされてお持ち帰りされて傷物にされたら……まあ、その男を全裸にしてカンムリ雪原の雪山に放置してくるだけだ。ああ、安心しろ。あそこにはボーマンダとかメタグロスとか心強いポケモンがたくさんいるって話だ。

 

「それはそれとしてマサルの私に対する扱いが雑なのは気に入らないので……マサルっ! 私とポケモン勝負だよっ!」

 

 ユウリの醜態のせいで話がそれてしまったけど、俺達がもう一度ホップの家に来た理由は三人でポケモンバトルをするためだ。しかもダンデくんという現チャンピオンの前で。まあ、バトルっつっても手持ちが一匹しかいないからそんな激しいバトルにはならないだろうな。

 

 つまり、ゲーム的に言うとライバルとの最初の戦闘だ。お互い初期技だけでゴリ押すチュートリアルイベント。急所に当たったら負ける運ゲー。でも、初代からパソコンのボックス内に「キズぐすり」が入っていて一応救済措置的な物も用意されてたんだよな。

 

 初代を初プレイした俺はパソコン内のキズぐすりになんて気付かなかったけど。だって当時小学一年生だぞ? 気付くわけねーだろ。

 

「最初に戦うのはマサルとユウリだな? 二人とも、相棒と長い夜を一緒に過ごしたんだ。お互いに対する理解は深まったな?」

「もちろんだよダンデくん。昨日はメッソンにウチのモーモーミルクを飲ませて一緒に色んな()()()()動画を観たからな」

「きゅわん♪」

 

 メッソンを撫でると嬉しそうに俺の掌に擦り寄ってくる。ほんとに可愛いなこいつ。

 

「も、もちろんだよダンデくん。き、昨日は酔っぱらって寝ちゃったけど朝はヒバニーに起こしてもらったんだよ!」

「ふぁーっ!」

 

 ヒバニーは腕を組んでうんうん頷いていた。なんやその後方保護者面。

 

 こっちじゃあどっちがトレーナーかわかんねえな。そうツッコみたかったけど、俺も頻繁にわたぱちに起こされているから黙っておくことにしよう。保身は大事だからな。

 

「二人もポケモン達もノってるな! 一つアドバイスしておくぜ。パートナーのことを……相棒のことを心の底から信じるんだ! では、バトル開始!」

 

 ホップの家の庭にある小さなバトルコートでポケモンバトルを始める。お互いのポケモンは進化前だし、ダンデくんもいるから家をぶっ壊したりっていう事態にはならないだろうな。

 

 ……さーて、家の心配はここまでだ。あとはバトルに集中するか。

 

 つっても互いの手持ちは一体だし、駆け引きも何もねえよな。

 

 つまり、俺達が互いにできることは───先手必勝。

 

「(マサルのメッソンも私のヒバニーもダンデさんから貰ったばかりで技なんて()()()()()()()()状態に等しい。そんな状況で優位を奪うには───スピード。タイプ相性は不利だけど、ヒバニーの運動能力はメッソンを上回ってるはず! 動き回って翻弄してメッソンが疲れたところにたいあたり! ふっふっふ! どう? この私の隙のない作戦! あ~これは圧勝しちゃってマサルが落ち込んじゃうかもな~。いやむしろ「すごいな、ユウリ……」ってたくさん褒めて頭撫でてくれるかも~♪ うへへ……よーし!)───ヒバニー!! まずは動き回って!」

 

 ユウリの指示を聞いてヒバニーがメッソンの周りを縦横無尽に動き回る。ほーん? いきなり「たいあたり」をぶちかましてこないあたり、多少は頭を使ってんのか。

 

「落ち着けメッソン。こういうの、お前の()()()()だろ?」

「きゅわん!」

 

 メッソンは慌てず落ち着いてヒバニーの動きを観察している。一見、不規則と思えるヒバニーの動きにも一定の規則性があり、だからこそ、次の移動先を()()()()は予測できる……が、今回に限っては()()()予測できるタイミングがあった。

 

 そう、それは。

 

「ヒバニー、今! たいあた───」

 

 ()()攻撃に転ずる瞬間。

 

「メッソン───()()()()()()

 

 ヒバニーのたいあたりが届くよりも早く、振動を帯びた円盤状の水流がヒバニーに襲いかかる。

 

「は……え……?」

 

 真正面からまともに「みずのはどう」を受けたヒバニーは後方に吹き飛び、そのまま倒れ伏してしまった。

 

「そこまで! マサルとメッソンの勝利!」

「っしゃあ! よくやったメッソン! ほーら、ご褒美の飴ちゃんだぞ~?」

「きゅわんきゅわん♪」

 

 ダンデくんの言葉に俺は思わずガッツポーズし、奮闘してくれたメッソンを褒めて蜂蜜キャンディーをあげる。いやー、よくやったよくやった。昨日、バーベキューから帰って()()()()甲斐があったな。

 

「ま、ままま待ってよ! なんで貰ったばかりのメッソンが『みずのはどう』なんて技を使えるの!?」

「はっはっは。ユウリちゃんユウリちゃん……これなーんだ?」

「『なーんだ?』ってスマホロトムでしょ? それが一体……ってああっ!?」

 

 お? ユウリも気付いたか? さっき俺、言ったよな? 「色んなバトル動画を観た」って。

 

「ど、動画で技を覚えさせたの!? そんなのあり!?」

「どんな技術もまずは模倣から始まるんだよ。まあ、ハイドロポンプやハイドロカノンとかは無理だけどな。それに、いきなりできるようになったわけじゃない。ユウリが酔い潰れてる間に特訓してたんだよ。なあ? メッソン」

「きゅわわーん♪」

 

「みずのはどう」は今のメッソンに出せる最大火力だ。最初は「みずでっぽう」が使えれば上出来だと思ってたんだけど、俺の想定以上にこの子は優秀らしい。

 

 メッソンを抱きかかえて優しく撫でてやると嬉しそうに「きゅわきゅわ♪」と可愛らしく鳴いていた。

 

「あと、ユウリが攻撃してくるタイミングがわかりやすかったこと、メッソンが想定以上に()()()ポケモンだったこと、それらの要因が重なった結果だ」

「た、確かに……技の威力もそうだけど発動の早さが完全に私の想定を超えてた……ごめんねヒバニー。私がもっとちゃんと指示を出せていれば違った結果になったかもしれないのに」

「ふぁーっ! ふぁーっ!」

 

 倒れていたヒバニーはダンデくんが回復してくれていた。ユウリは落ち込んでるみたいだけど、俺なんて所詮……()()()()()でなんとかしただけだからな。これから先、たくさんの経験を積めばユウリは俺をあっという間に追い越していくだろうよ。

 

「ユウリ、気にするなとは言わないが、気に病み過ぎるな。君とヒバニーのコンビネーションも最高だった。ただ少し、()()()()()マサルとメッソンが上回っているというだけのこと。これから一つずつ学んでいけばいい」

「はいっ!」

 

 うーん、さすがチャンピオン。含蓄溢れる良いお言葉。というか、冷静に考えたら無敗の現役チャンピオンにポケモンバトルのアドバイスを貰っているっていう、とんでもなく贅沢な状況なんだよな。

 

「よーしマサル! 次は俺と勝負だぞ! 手の内が割れた今、勝つのは俺だ!」

「ほう? 余程水垢になりたいと見える」

「か、格好良い煽り文句だぞ! 俺も真似していいか!?」

「草タイプにあったワードを選ばないとな」

 

 咄嗟に水垢とか言ったけど格好良いかこれ? まあ、ホップのキラキラした表情をわざわざ曇らせる意味もないしここは乗っておいてやろう。

 

「じゃあ、バトル開始だ! いけっ、ウールー!」

「……は?」

 

 思わず声が出てしまった。え……ウールー?

 

「俺には仲間が二体いるんだぞ!!」

「俺が『みずのはどう』を覚えさせたよりずるくねえか!?」

「マサル……良いことを教えてやる。戦いは───数だぞ?」

 

 結局メッソンは耐久の高いウールーによって体力を削られ、その後に出されたサルノリにはタイプ相性と消耗のこともあり……ホップに敗北するのだった。

 

 そして俺とホップのバトルの間にユウリはこっそり俺の真似をして動画でヒバニーに「ひのこ」を覚えさせ、ホップに勝利することになる。

 

 幼馴染三人で一勝一敗ずつ……仲良しだな!

 

「三人とも! ナイスファイト、グッドファイトだ! 思わず俺もリザードンを出して参戦するところだった!」

 

 虐殺になるだろ。トラウマ植え付けんのやめーや。

 

「兄貴、俺……もっともっと強くなりたいぞ! ポケモンジムに挑ませてくれ!」

「ジムチャレンジへの参加だな。ああ、もちろんわかってる。だが、三人はもっとポケモンに対する理解を深める必要があるな。これから俺はマグノリア博士の研究所に行って三人にポケモン図鑑を貰えるよう話してくる」

「俺もついて行くよ」

 

 ダンデくん……迷うかもしんないし。

 

「じゃあ、俺はユウリと一緒にユウリのおばさんにポケモン図鑑を貰うことを伝えてくるぞ」

「頼むホップ。ユウリが寄り道しないようにちゃんとついて行ってやってくれ」

「寄り道なんてしないもーん!」

 

 嘘つけ。この前だって「ホシガリスだ~!」って言って、ホシガリスを追いかけて山の中に入っていこうとしたろ? ホップ、まじでユウリから目を離すなよ?

 

 そんなこんなで俺達三人の初バトルも終わり、一時的に別行動になるのだった。

 

 

 

 

 

「マサル、君はサイトウにジムチャレンジを推薦されているんだったな?」

「うん。ダイマックスバンドも一昨日届いた。まだホップ達には話してないけど、俺だけジムチャレンジに参加になったら面倒だからダンデくんから二人に推薦を出しておいてよ」

「……確かに、あの二人には良い経験になるな」

 

 ただ、よく考えたらガラルの歴代でも最強と言われてる無敵のチャンピオンに推薦されるんだよな。しかもホップはそのチャンピオンの弟だし。周囲から向けられる目やプレッシャーが半端ねえなこれは。ユウリはあれで能天気だからそんなプレッシャーなんぞ感じないけど、ホップは全速前進突っ走り小僧のくせして気負い過ぎることがあるからな。ジムチャレンジ中も気を配っておいた方が良さそうだ。

 

「んで、ダンデくんは今年のチャンピオンカップで負けたらどーすんの? 引退にはまだ早いと思うけど」

「まるで夕飯の献立を尋ねるみたいに聞いてくるんだな」

「こんなことをダンデくんに聞けるの俺くらいだろ? ソニアちゃんはなんだかんだで気遣いできる子だし」

「ははっ。確かにそうだな。こんなことを俺に真正面から聞いてくるのはマサルくらいだ。だが……負けたら、負けたら、か。考えたこともなかったな。なんせ、この七年で───俺より強いトレーナーが現れなかったんだから」

「うーんこの頂点を極めし者にのみ許される台詞」

 

 一度でいいから言ってみたいわそんな台詞。まあ、今のダンデくんはめちゃくそざっくり言うと「敗北を知りたい……」って状態だからな。

 

「俺は別に極めてなんていないさ。まだまだ他のトレーナー達から、ポケモン達から学ぶことはたくさんある───ああ、なるほど。そういうことか……」

「何を一人で納得してんの?」

「いや、マサルの質問に対する答えが見つかっただけさ。仮に俺が負けたとしても……その時はただの(いち)チャレンジャーとして再び頂点を目指す。それだけのことだ」

「……おっかねーなおい」

 

 つまり、こういうことか。敗北したらダンデくんというクソつよつよトレーナーが野に放たれるという……ある意味、無敵のチャンピオンとして君臨してる時よりこえーよ。うっかりバトルを挑んだら元チャンピオンでしたとか交通事故ってレベルじゃねーぞ。災害だよ災害。

 

「マサルは将来のこととか考えているのか? そういえば、アラベスクタウンジムのポプラさんがそろそろ後継を探したいと言っていたが、ジムリーダーになるのはどうだ?」

「やだよ、ジムリーダーってめちゃくちゃ縛られるじゃん。俺は自由に生きたいんだ」

 

 俺は将来、この世界の色々な場所を旅したいんだ。最初はやっぱりマサラタウンだな。レッドさんの歩んだ軌跡を俺も目で見て肌で感じて、そのままリニアでジョウトまで行って、その後でホウエンやイッシュも巡りたい。パルデアのアカデミーやテラスタルも気になるし、アローラ地方とかいうクソダサポーズが流行ってるらしいリゾート地も気になってるんだよな。

 

「ああ、それはすごく良い夢だな。他の地方の見知らぬポケモンや自然と触れ合い、人と出会い、己を鍛える……そういう生き方も正解だ! だが、このガラルが……ハロンタウンがマサルの帰る場所であることを忘れないでほしい」

「そんなの当たり前じゃん。最終的に俺はウチの牧場をガラルナンバーワンにするつもりなんだから」

 

 なんだかんだで、第二の人生も十四年目だからな。この町にちゃんと愛着はわいてるよ。

 

「せっかくの機会だ。もう少し深い話もしておこうか」

「深い話?」

「そうだ。マサル……ズバリ聞くが───このジムチャレンジ、()()()()狙っている?」

 

 ()()()()、か。その意味がわからないほど俺は馬鹿じゃないつもりだ。つまり、ダンデくんは俺にこう聞いているんだ。

 

「ホップのように本気でチャンピオンを狙っているのか?」と。

 

「どこまで、ね……()()()()()()()()()()()つもりだよ。ただ、ダンデくんにだけ本音を話させて俺は何も話さないのはフェアじゃないから言うけど……正直、俺は自分がチャンピオンとしてガラルの頂点に立っている姿を───想像できない」

 

 それは俺の、紛れもない本音。ホップやユウリには、言えない本音。別に俺が弱気になっているとか、そういう話じゃない。ただただ現実的に考えた結果、チャンピオンとしての自分を思い描くことができなかった。それだけのことだ。

 

「……そして君は、()()()()()()()()自分自身に対して失望も、後悔もしていない。謙遜や卑下、というわけでもない。ただ、あるがままの現実として受け入れている。なるほど……君は俺が想像していた以上に、遥かに現実主義者(リアリスト)だったんだな」

「可愛げのないクソガキだろ?」

「確かに、君のそれは長所でもあり、短所でもある。そして、その現実主義(リアリズム)的思考は───君の本当の実力に蓋をしかねないことを、覚えておいてほしい」

「俺の、本当の実力?」

 

 この時の俺はダンデくんが言った言葉の意味を理解することはできず……その意味に、真意に気付くことができたのは、このジムチャレンジにおける───()()()()()に赴く時だった。

 

「今はわからないかもしれない。だがこのジムチャレンジできっと……いや必ず、理解できる時がくる。俺()そうだったからだ」

 

 ダンデくんもかつてのジムチャレンジで考え方や価値観が大きく変わったんだろう。俺の、俺達の見えない、知らないところで。

 

 そんなダンデくんの言葉を俺は、しっかりと心の奥底に刻んでおくのだった。

 

「お節介ついでにもう一つだけ言わせてもらえれば、君はもっと自分に期待していい人間だ。俺が保証する」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、なんでダンデくんはそこまで俺に期待してくれてんの?」

 

 俺が尋ねると、不意にダンデくんは子供のような……それこそ、俺達がもっと小さいガキの頃によく見せてくれた、輝くような純粋な瞳を浮かべて俺を見た。

 

「それはマサルが───」

 

 そこで突然、俺のポケットからスマホロトムが飛び出してきて誰かからの着信を告げる。人が真面目に語らっていた時に一体誰が……ホップ? 何だよ一体。

 

「どうしたホップ? ユウリが変な虫でも見つけて山の中に入っていったか?」

『そんなことするわけないでしょばかぁ!!』

 

 電話口からユウリの叫ぶような声が聞こえてきた。ホップめ、スピーカーモードにしてやがったな。

 

『大変だぞマサル! ウールーがまどろみの森へ入っていったんだ!』

「はぁ!? 柵はどうしたんだよ柵は!?」

『ウールーがたいあたりで壊したっぽいぞ』

「まじかよ。もっと頑丈な柵にしておくべきだったか……」

『それでね! ウールーが心配だったから私達も森へ入ったの!』

「何しとんねん!?」

 

 思わずツッコんでしまう。お、お前ら……七年前にソニアちゃんが酷い目に遭ったのを忘れたんか!? まどろみの森の奥にはレベルの高いポケモンと、そんな連中とは一線を画すとんでもねえのが二体いるんだよ!!

 

『だ、大丈夫だよっ! 手前の方のポケモンはヒバニー達でも十分倒せるもん!』

「そういう問題じゃない!! ウールーが心配で追いかけたのはわかったけど……あーっ!! 話してる時間がもったいない!! 今からダンデくんとそっちに行くから絶対に奥には行くな!! すぐに引き返してこい!! いいな!?」

『う、うん……その、ごめんね……』

 

 俺が厳しい口調でそう言うとユウリが電話の向こうでしょげたような悲しい声を出す。ちょっと強く言い過ぎたか……でも二人のやってることってまじで危険なんだよ。俺がキテルグマとどつき合いをするのとは訳が違う。相手は()()()()()()()野生のポケモンなんだから。

 

「怒鳴って悪かったな。二人が心配だったんだよ……」

『悪い、マサル。ユウリを責めるな。森に入ろうって言い出したのは俺なんだぞ』

『わ、私もちゃんとホップを止めなかったから……』

 

 こんなことにならないようにホップをついて行かせたのに……ホップの全速前進癖が悪い方向に働いたか。俺も一緒に行けばよかったな。まあ、すぐに俺に連絡を入れただけよしとしよう。

 

「さっきも言ったように、元来た道を戻ってくるんだ。もしも道がわからなくなったらその場で待機。絶対下手に動くなよ。迷っても俺達が絶対に見つけてやるからな」

『わ、わかった……待ってるね……』

 

 そして俺達は通話を終える。……はぁ、説教なんてガラじゃないんだけどな。ユウリも露骨に落ち込んでたし。しょーがねえから後でお前の好きなカレーを作ってやるよ。

 

「悪い、ダンデくん……まどろみの森へ行こう」

「お守り役は大変だな」

 

 ダンデくんはどこか嬉しそうにニカっと笑い、俺はそんなダンデくんに若干呆れつつも大急ぎでまどろみの森へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 まどろみの森は背の高い木々に日光を遮られており、日中にもかかわらず薄暗く、そして少しの肌寒さを感じた。七年ぶり、か。あの時は確か、日がほとんど落ちた夕暮れと夜の狭間だったんだよな。

 

「リザードン」

「ばぎゅあっ!」

 

 おいおい、初手からリザードンかよ。完全にガチだなダンデくん。いやでも、この森にはこのくらいでちょうどいいのかもしれない。入り口付近はホシガリスやらココガラやらしかいないけど、奥に行けばアーマーガアとかマタドガスがいるからな。もっと奥にはやべえのもいるし。

 

 そういや今思い出したけど、結局じいちゃんにあの二体が何なのか教えてもらってねえな。

 

「まどろみの森……思い出すな、七年前を」

「ったく、あんだけ怖い思いをしたから懲りたと思ったのに、まさかまたこんな理由で入ることになるなんてな」

 

 森の中は獣道になっていたが、草の上に二人分の真新しい足跡があったので、それを見失わないように慎重かつ迅速に追いかける。どうも二人は闇雲に歩き回ったわけじゃなく、ちゃんと道らしいところを歩いてたんだな。それはそれとして危険だけど。

 

「……あの時も、マサルはすごく冷静だったな。アーマーガアとの不意の接触にもキテルグマと共に落ち着いて対処していた」

「半分以上はじいちゃんのおかげだよ。それに、冷静だったのはダンデくんもだろ? ホップやヒトカゲにきちんと指示を出せてたし」

「だが俺はソニアを見つけた途端、一人先行してしまった。そして、マタドガスに追い詰められた俺達を助けてくれたのが、マサルとわたぱちだ」

「あん時はまじで焦ったからな。大した怪我がなくてよかったよほんとに……」

 

 森から帰ってソニアちゃんはしこたま怒られたからな。あの一件でソニアちゃんはこのまどろみの森がトラウマになったみたいで全く近づこうとしなくなったし。

 

「いつ何時たりとも、冷静さを失うな。ポケモントレーナーの鉄則だ」

「……あの二人に聞かせてやりたい言葉だねぇ」

「ああ、まったくだ」

 

 ダンデくんとそんな会話をしつつ森を進むこと約十分、森の中が白い霧に包まれ始めていることに気が付いた。あの時ほど奥には来ていないはずなのにこの霧……この七年で森の生態系が変わったのか? 十分考えられる話だな。

 

「ギルガルド、後ろを守れ」

「ふっふぅ!」

 

 ダンデくんがギルガルドを出し、俺の後ろに付かせる。これで後方から奇襲があってもギルガルドが盾になってくれるな。心強さを感じつつも、最大限警戒しながら慎重に歩みを進めていく。

 

 霧の中を歩くこと数分、不意に視界が開けたかと思うと、周囲を覆っていた霧が溶けるように消えていった。

 

 明らかに自然現象じゃねえな。そういや七年前もあの二体の影が消えると同時に霧が晴れてた……やっぱこの霧とあの二体が関係してんのか?

 

 そんな風に思考を巡らせていた俺は、気付く。

 

 霧が晴れた先に倒れている二人の人影と、それらを心配そうな表情で見つめながら佇んでいるウールー。

 

「ユウリ!! ホップ!!」

 

 周囲をリザードンとギルガルドに警戒させつつ、俺とダンデくんは二人へ駆け寄った。

 

「う……う~ん、あれ……兄貴、マサル?」

 

 ホップは頭を擦りながら自力で体を起こしていた。パッと見て怪我をしてるわけじゃなさそうだ。

 

「おいユウリ! 起きろ、ユウリ!」

「ふにゃぁ~……」

「ふにゃぁ~、じゃねえ!! 起きろバカ!!」

「うぅん……えぇ……? ましゃるぅ……?」

 

 抱き起こすとユウリはとろんとした目で俺を見上げてきた。完全に寝起き声と寝起き顔だな。

 

 一言文句を言ってやりたかったけど、ユウリのいつも通り過ぎる能天気な顔を見れて心の底から安心してしまっている自分がいることに気付く。どうやら俺は、自分で思っている以上にユウリのことを大事に思っているらしい。

 

「痛いところは? 怪我はないか?」

「う、うん……だいじょーぶ、だよ。平気……」

 

 なんでちょっと顔を赤くしてんだよ。お前、風呂上りに平気な顔で俺に抱き着いてきたりしてんだろうが。なんでこういう時だけ恥ずかしがってんだ。

 

「まったく二人とも……黙って森に入ったのはアウトだが、お前達の勇気は認めよう。よくやったぞ!」

 

 ダンデくんが呆れつつも二人の勇気だけを褒めた。結果的にウールーが無事で二人に怪我がなかったとはいえ、その行動自体は危険だったからな。この森に入るのは……少なくともジムリーダーに匹敵する実力を身につけてからだ。

 

「そうだ二人とも! 俺達、すごいポケモンを見たんだ! なあ、ユウリ!」

「う、うん……すっごい威厳のあるポケモンだった。それで、ヒバニーの技もサルノリの技も全然効かなくって……」

「効かないというか技がすり抜けた感じだったぞ」

「技がすり抜ける……? まどろみの森の奥にいると言われるポケモンは幻なのか? あるいは他の人間やポケモンに幻を見せることができる能力がある?」

 

 ダンデくんが腕を組んで思考する。おいおい、まじで伝説じみたポケモンがこの森の奥にいるんじゃないだろうな。だったらじいちゃんが話さなかった理由がわかる。そんな話が広まったりしたらガラル中から腕利きのトレーナーや良からぬことを考える輩が集まってくるだろうからな。

 

 そんで、伝説のポケモンの怒りを買って……がらるがきけんであぶない!! いかりをしずめなきゃ!! 的な流れになるに決まってる。

 

 ……よし、じいちゃんを問い詰めるのはやめておこう。今の俺達はトレーナーとしては赤子もいいところだからな。ろくな実力もないのに話だけ聞いて興味が湧いて今回みたいな行動をした結果、伝説のポケモンの怒りなんぞを買ったらふつーに死ねる。

 

「兄貴やマサルには怒られたけど……すごい体験だったな! 俺の伝説の一ページになるぞ!」

 

 そんな怖い思いをしてなおそんなことが言えるホップのメンタルが羨ましい。こいつほんとに特定の方向だとメンタルつよつよになるよな。

 

「よし、二人とウールーの無事を確認できたから森を出るぞ。帰りは俺達がいるから安心しろ」

「頼むぞリザードン、ギルガルド」

「ばぎゅあ~♪」

「ふっふぅ~!」

 

 リザードンとギルガルドはダンデくんだけじゃなくホップにもよく懐いている。ガキの頃はウールーが家出したこともあったのに成長したもんだ。……なんかおっさん臭いな。いや実際前世の年齢と今の年齢を足せば立派なおっさんだからしょうがない。

 

「ユウリ、立てるか?」

「う、うん……」

 

 手を差し出すと、ユウリはおずおずといった様子で俺の手を取って立ち上がる。まーだ暗い顔してやがんな。一丁前に罪悪感に苛まれやがって。まあ確かに、大いに反省してほしい所ではあるけどな。

 

「ま、マサル……その……ごめんね……いっぱい、心配かけちゃって……」

 

 いつもの天真爛漫なユウリちゃんはどこへやら。俺の手を握ったまま俯き気味にユウリは俺に謝った。

 

 そんなユウリの頭を俺はぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回す。

 

「これに懲りたら二度と危ないことすんなよ」

「うん……あと、あとねマサル……その……()()()()……」

 

 そんな捨てられた子犬みたいな目で見なくても、お前の言いたいことくらいわかってるっつーの。

 

「……後でユウリが好きなヴルストを乗せた甘口カレー作ってやるよ。それとな、ユウリ───」

 

 俺を心配させた罰として、ユウリの額にゴツンと自分の額をぶつけてこう言ってやることにする。

 

「このくらいで、()()()()()───嫌いになる訳ないだろ?」

 

 俺の言葉に、曇っていたユウリの表情がぱぁっと晴れてふにゃりとだらしなく笑うのだった。




 初バトル、マサルの内面掘り下げ、あつまれまどろみの森イベント略してあつ森イベントと話が一気に進みました。

 普段からこのくらいテンポよく話を進めたいところです。

 動画でポケモンが技を覚えられるのか……比較的難易度の低い技なら覚えられると私は解釈しているので、この件に関して感想で私をいじめるのはやめてね? それはそれとして感想は欲しいです。すっごく嬉しいので!(我儘)

 次回でワイルドエリア到達までいけたらいいな。多分いけないけど。

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
 
 次回もよろしくお願いいたします!

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