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【前回のあらすじ】
・リーグカード!
・「151」「227」
・フロント前に変なのおった。
なんだこいつら……? 顔にめちゃくちゃ派手なペイントして服装もパンクロックみたいな……っつーかおっさん、腹出てるよ腹! そんなメタボ腹でよくへそ出しパンクファッションをやろうと思ったな。
「なんてファッションセンスだ……」
「でんせつTシャツを着ているお前に言われたくないのです!」
俺の呟きがメタボ腹のおっさんにツッコまれていると、隣でユウリがうんうんと頷いていた。お前どっちの味方なんだよ。あとさ、今思ったけどこの人達が着ている服のマーク……あれってスパイクタウンジムのエンブレムじゃねえの?
ってことは、ネズさんの熱狂的なファン達か。ファンなのに色んな所に迷惑かけてたらその被害を一番被るのはネズさん本人なのになぁ。
「どこの世界にも厄介ファンはいるってことか」
「マサルには言われたくないと思うぞ」
今度はホップにツッコまれた。なんだよ、まるで俺がカブさんの厄介ファンみたいな言い方だな。言っておくけど、俺は他の人に迷惑をかけたりなんかしてねーぞ。ただちょっと……ナンジャモと共演してカブさんに「おはこんハロチャオ~♪」って言ってほしいだけなんだ。
「そのでんせつTシャツの着こなし……お前も相当なロック魂を持つものだとわかりました! しかーし! 邪魔をするならポケモン勝負です! あるトレーナーを勝たせるためにエールを届けーる……我らエール団の力、たっぷり教えーる!」
「……これ笑うところ? エール団だから語尾にエールが入る言葉を選んでるのかな?」
「しーっ! ユウリ、そこは気付いてても黙っててやるのが優しさだぞ」
「全部聞こえてますよ!」
ユウリとホップは天然畜生だな。俺みたいに意図的にツッコミを入れようとしない分余計に性質が悪い。まあいいや、なんかエール団とやらの矛先がユウリとホップに向いてそうだからあとは二人に任せよう。ダブルバトルになるかもしんないけど、ユウリもホップもこんな連中には負けないだろ。
「どうでもいいけど、バトルするなら外でやれ外で」
「なーにを他人事みたいに言ってやがりますか!?」
「……仮にここでバトルしてあの辺のクソ高そうな調度品とかバカでかい銅像を壊しても弁償できるんですか?」
「お、お前達! すぐに外に行くですよー!」
俺の至極真っ当な指摘により、エール団の四人はそそくさと外に出ていく。なんだよ、変なところで常識ある連中だな。てっきりこのままここで大暴れするかと思ったわ。
「じゃあユウリ、ホップ。お前らに任せた。俺はその間に二人の分もチェックインしておくから。お前達二人の実力を見せつけてやれ!」
「わかったぞ! ユウリ、俺とお前の最強のコンビネーションを見せる時が来たぞ!」
「マサル、絶対面倒になっただけだよね!? 私達に押し付けてるだけだよね!?」
「俺は誰よりも───お前達のことを信じている」
「なんか良い感じのこと言って誤魔化そうとしてる時の顔!!」
「……今度バトルカフェでなんか奢ってやるから」
「ホップ行くよ! スボミーインの平和は私達が守るんだ!」
「さすがだぞ! スイーツに釣られてユウリもやる気満々だな!」
そんな感じで二人もホテルの外へと出て行った。近くにバトルコートもあったし大丈夫だろ。もしも状況が悪化したらリーグスタッフが止めに来るだろうし、ホテルのスタッフが証人だから二人の立場が悪くなるということもないしな。
さてさて、そんなことよりチェックインだ。なんやかんやワイルドエリアを踏破して疲れてるからな。寝坊して明日の開会式に遅刻とか洒落にならないし今日はさっさと寝るとしよう。……ユウリが寝かせてくれるのなら。
そう考えてフロントへ向かっている時のことだった。
「うらら~♪」
「ちょ……モルペコっ!」
何やらものすごく懐かしい鳴き声と共に、一人の少女の戸惑ったような声が聞こえた。と同時に、足にふんわりと柔らかい感触。視線を下げると、モルペコがものすごく愛くるしい笑顔で俺の足にしがみついていた。
そして、顔を上げてそのモルペコのトレーナーらしき人物へ視線を向ける。
そこにいたのは、一人の可愛らしい少女。ピンクのワンピースに黒のジャケット、薄緑色の瞳、何より特徴的な前髪の剃り込み。少女は俺と目が合うと、驚いたような表情で口をぽかんと開けて俺を見ていた。
……なんだよ。
思わず、俺は笑顔になってしまった。
「久しぶり、マリィ。元気だった?」
「え……? 嘘……もしかして、マサ……ル……?」
「その剃り込み部分……触っていい?」
「七年ぶりの再会で言うことやなか! はっ!? この反応……間違いなくマサルやね」
「判断基準が酷い。……マリィ、おっきくなったな」
「親戚のおっさん!」
「マリィ……その、最近学校はどうだ?」
「食卓で思春期の娘にがんばって話しかけるお父さん!」
「……別に。ふつー」
「娘役もマサルがやるの!?」
ほーら、このツッコミのキレ……やっぱりマリィだ。剃り込みも相変わらず健在のようで何より。結局、あの時は連絡先の交換もできなかったからあれから一度も会えなかったんだよな。それがまさかこんなところで会えるなんて……あ、やべえ。めっちゃ嬉しくてニヤケを隠し切れない。
「モルペコも久しぶりだな。モーモーミルク飲むか?」
「うら~♪」
リュックからモーモーミルクを取り出してモルペコに渡してやると嬉しそうに飲み始めた。お前は全然変わらないな。
「立ち話もなんだし……あっち座ろうか?」
「あ、うん……」
俺達は少し移動してロビーのソファに並んで腰を下ろした。剃り込みロック少女とでんせつTシャツマン……これまた濃い組み合わせだな。そう考えながらマリィの様子を横目で伺うと、何やらちょっと緊張している様子だ。七年前と同じだな。じゃあまずは、この緊張をほぐすところから始めよう。
「おいおいマリィ、このでんせつTシャツマン相手に何を緊張してんだよ」
「自分からネタにしていくと!? ツッコもうかツッコまないか迷ってたのに!」
「あー……じゃあここはガラル紳士っぽく……『マリィの可愛さに僕の方が緊張しちゃってるよ』」
「『ガラル紳士っぽく』っていう前振りはいらんと!」
「……マリィの可愛さに───」
「言い直さんでよか!」
そこでふいに、俺達は笑い合った。なんだよ、ちゃんと普通に笑えるじゃん。七年前はモルペコに「笑顔を盛るペコ」ってやられてたのにな。
「普通さ、こういう久しぶりの再会って緊張するものなんだよ」
「そーなん?」
「そーなの。でも、マサル相手だと緊張するのもバカらしいね」
「照れるぜ」
「……皮肉で言ったつもりなんやけど」
それからはお互いのことについて話し合った。七年前、マリィをホテルに送り届けた後、彼女はお兄さんにめちゃくちゃ心配されたらしい。んで、翌日はお兄さんが片時も離れずチャンピオンカップを観戦したとのことだ。
「マリィのお兄さんって……スパイクタウンの?」
「うん。ジムリーダーのネズはあたしの兄貴。今回のジムチャレンジに推薦してくれたのも兄貴なんよ」
「なるほどなー」
「マサルは誰に推薦されたと?」
「……俺は、推薦されるほどの実力を身につけられなかったんだ。だから、友達の応援に……な」
「あっ……そうやったんね。無神経なこと聞いて……その、ごめん」
「───っていうのは嘘でラテラルジムのサイトウちゃんに推薦されてる」
「なんでそげん嘘つくと!! 七年前からちっとも変わっとらんね!!」
マリィに頭をひっぱたかれた。だんだんツッコミが鋭くなってくるなこの子。雰囲気とか感情の変化が乏しいから、初対面だと近づきにくい印象を与えるけど、一度身内認定すると途端に距離感が近くなるタイプか。
「はぁ……でも、なんでサイトウさん? 知り合いやったと?」
「俺のじいちゃんが昔格闘タイプのジムリーダーだったんだ。その縁で知り合ったんだよ」
「ふーん……じゃあ、あんたも格闘タイプを使うんだ」
「今の手持ちにはいないなぁ。格闘技って何かと使うことが多いから、追々は使えるポケモンを捕まえたいと思ってるけど」
「そんなに手の内を明かしてよかと?」
「ふっ……マリィにならいいさ」
「そんなキメ顔しても今までの言動であたしの心には何も響かんよ」
「モルペコー、お前の母ちゃん厳しいなー?」
「うらー、うらー!」
「誰が母ちゃんか! モルペコもうんうん頷かんと!」
あー、やっぱいいなぁマリィとのこの会話のテンポ。俺が何も考えてない適当なこと言っても的確にツッコミを入れてくれるもんな。このツッコミ能力、ソニアちゃんにも匹敵する。マリィとソニアちゃん……仲良くなれそうだな。
「そういやマリィ、さっきスパイクジムのエンブレムを付けたエール団っていう───」
「あーっ! 私達がポケモンバトルしてる間にマサルが可愛い女の子を口説いてる! ずるいよマサル! 私も可愛い女の子とお友達になりたいのに!」
「ユウリ、嫉妬するところが違うと思うぞ」
うるせーのが帰ってきたな。
エール団を蹴散らしたらしいユウリとホップがロビーへ戻って来て、ユウリは俺を発見するなり俺に向かってとっしんを繰り出してきた。避けるわけにもいかなかった俺はそのままユウリを受け止める。
「君、マサルに変なこと言われたり変なことされなかった!? されたよね!? でも安心して! 私が来たからにはもう大丈夫だから!」
「なんで俺が変なこと言った前提なんだよ」
「言ってないの?」
「言ったけど」
「言ってるじゃねえかこのやろこのやろー! 私がちょっと目を離した隙にーっ!」
ユウリがぷんすかしながらムニムニと俺の両頬を引っ張ってくる。やめんかバカタレ。俺の醜態をマリィに晒すな。あと、いきなり知らない人が登場してマリィも困ってんだろ。
「私、ユウリ! マサルのおねーさん的ポジションの幼馴染だよ! 君のお名前、教えてくれるかな?」
こいつ今聞き捨てならないこと言ったな? なんでお前が俺のおねーさんなんだよ。
「あ、えっと……ま、マリィ」
「マリィっていうんだ。可愛い名前だね! 私のことは気軽にユウリって呼んでね!」
「う、うん……ユウリ」
ユウリが人懐っこい笑顔をマリィに向けている。すごいなお前、ぐいぐい行き過ぎてマリィがちょっと引いてんぞ。
「マリィは何歳? 私と同い年くらいに見えるんだけど」
「十四歳だよ」
「私と一緒だーっ! 私、同い年の女の子のお友達って初めて! えへへ、嬉しいなぁ~♪」
ユウリはマリィの両手を取ってブンブン上下に振っている。まあ、ユウリがこんだけ喜ぶのもわかるよ。ハロンタウンでは俺やホップとばかり遊んでて……というかそもそも俺達と同い年の女の子は他にいなかったからな。ソニアちゃんは年上でリコちゃんは年下だし。ユウリに良い友達ができそうでよかった。
「マリィはどこの出身なの? 私はね、ハロンタウンなんだ! それでね、ダンデさんにジムチャレンジを推薦されてね。あ、私の後ろにいる男の子はホップって言ってダンデさんの弟なんだよ! もしかしてマリィもジムチャレンジに参加するの? 誰に推薦されたの? このモルペコはマリィのポケモン?」
「マサルっ……! マサルっ……! この子……この子、ちょっと距離感クラッシャー過ぎん!?」
「諦めろマリィ。ユウリに懐かれたらそんなの日常茶飯事だ」
「ねえマリィ。その剃り込み部分……触っていい?」
「初対面で言うことやなか!! 間違いなくマサルの幼馴染やねこの子!!」
そんな感じで四人でぎゃーすか騒ぎつつ、俺とマリィが知り合った経緯をユウリとホップの二人に説明する。
「すごいな! 七年前に助けた女の子とトレーナーとして再会するなんて漫画みたいだぞ!」
「じ、実在してたんだ……助けた女の子って、てっきりマサルの悲しい妄想が生み出した虚像だと思ってたのに……」
「お前俺のことなんだと思ってんの?」
「その一言でマサルが普段ユウリとホップからどんな扱いをされてるかわかったよ」
早くもマリィは俺達三人組の力関係を見抜いてしまったらしい。まあ確かに、基本的にはユウリの我儘に俺達二人が振り回されてるけど……権力は俺の方が上だから。ユウリは飼い犬で俺が飼い主だから。
「それから、エール団のこと……ごめんね。あの人達は私の応援団で浮かれてて……他のジムチャレンジャーに刺々しい態度をとっちゃうの。あたしからもちゃんと注意するけど……不愉快な思いさせてごめんね」
「早速ファンがいるなんてマリィはすごいんだな!」
「あ、ありがと……」
さすがガラル紳士のホップさんやでぇ。咄嗟にそういう台詞を言えるって……こんなん言われた女の子は好きになっちゃうだろ。しかもホップ自身もお世辞や励ましじゃなくて、心の底からそう思ってるもんなぁ。
「マサルもホップのああいうところを見習わないとね」
「俺があんなこと言ったら女性ファンが急増してそこら中で俺を巡るポケモンバトルが勃発してしまう」
「マサルがモテるとかありえないから安心していいよ」
「……は? 本気出せばモテるんだが?」
「大丈夫、マサルは
「どこに安心できる要素があるんだよ」
この女……相当俺のことを侮ってやがるな。俺だってこのジムチャレンジ中は猫被って普段の言動を改めたら女性ファンの十人や二十人くらい……あ、でも俺でんせつTシャツ着てるから無理だわ。
「そういやエール団とのバトルはどうだったんだ?」
「圧勝だぞ! 俺とユウリのコンビネーションは最強だからな!」
「ふーん。俺とホップだと?」
「最強だぞ!」
「俺とユウリは?」
「最強だぞ!」
「最強を安売りし過ぎ!!」
たまらずマリィがツッコんだ。相手は四人だったし、コンビネーションってことはダブルバトルをやったのか。確か、キバナさんとのジムチャレンジでのバトルはダブルバトルだったから俺もその内どっかで練習しないとな。といっても、今は手持ちが二体だからもっと増えてからになるけど。
「エール団に圧勝したんやね。さすが、チャンピオンダンデに推薦されるだけのことはある……か。ねえ、やっぱり三人ともチャンピオンを目指しとーと?」
「もちろんだぞ! チャンピオンになってガラルの伝説になるんだ!」
「私はガラルの伝説のカレーを求めて!」
「俺はでんせつTシャツをガラルに広めるために」
「三人とも伝説が被ってるのにホップ以外ポケモン関係なか!!」
あとジムチャレンジを通して実家の牧場もアピールしていきたいな。そういや、一つ目のジム……ターフタウンは農業や酪農が盛んでヤローさんは草タイプの使い手のスーパー農家だから俺と話が合うかもしんない。
「はぁ……今年のジムチャレンジャーは色んな意味で
「水が足りなかったカレーみたいに? マサル! 今私上手いこと言ったよね! そうだよね!」
「そうだなぁ。ユウリは賢いなぁ」
「うへへ~♪」
「あたしはもうツッコまんからね!」
「もうその時点でツッコんでるぞ」
まずいな、このままだとマリィが過労死してしまう。ソニアちゃんを呼んでくるか俺かホップのどちらかがツッコミに転職しないと収拾がつかなくなる。ユウリ? 俺と二人の時ならともかく、三人以上の集まりでユウリがツッコミに回ることはほとんどないんだよ。
「そうだ、マリィ! せっかく仲良くなれたんだからリーグカード交換しようよ! 私、今日初めて作ったんだ~♪」
「いい考えだぞ! 俺とも交換しよう」
「俺もマリィのリーグカード欲しいな」
どんな感じになってるのか気になる。まあ、インパクトで俺に勝てるとは思わないけど。
「あ……え、えっと……その、は、恥ずかしくて……リーグカード、作ってないんよ」
「えー! マリィ、すっごく可愛いのにもったいない! マリィのリーグカードが存在しないなんて世界の損失だよ!」
「そ、それは言い過ぎだよ」
「言い過ぎじゃないぞ。マリィは可愛いぞ」
「そうだな。マリィは可愛い」
「ふ、二人もそんなからかわんで!」
マリィは顔を赤くして俯いてしまった。あらー、そういう反応が可愛いのよ? ユウリに可愛いって言っても「でしょー?」って調子に乗るだけだからな。マリィくらい初々しい反応は新鮮だ……こんな可愛い妹がいるなら、ネズさんって絶対シスコンだよな。
「じゃあ今から私と一緒にポケモンセンターに行ってリーグカード作ろう! ほら、マリィ!」
「わっわっ! ユウリ! そんな引っ張らんで……!」
「ユウリ、晩飯はどーすんだ?」
「私達が帰ってきたら四人で食べに行こうね~!」
ユウリはそう言ってマリィの手を引いてポケモンセンターへと向かっていった。ユウリは自分を可愛く見せることに関して
「俺はとりあえず部屋に行って風呂入ってるわ。ホップはどうする?」
「俺は近くを散歩してくるぞ。二人が帰ってくる頃には戻ってくる」
「おっけー、んじゃ後でな」
それから約一時間後、モルペコに「笑顔を盛るペコ」されているマリィのくっそあざといリーグカードと、俺のでんせつTシャツジョジョ立ち承太郎verリーグカードを交換することになり……ついでにネズさんのも貰ったんだけど……なんか証明写真みたいだった。
「三人とも、バッチリ決まってるぞ!」
「あらためてユニフォームに着替えると気合入るよね~」
「……あたし、ちょっと緊張してきたかも」
「マサル。マリィの緊張をほぐすために小粋なトークで空気を和ませるぞ」
「じゃあユウリがこの前ヨクバリスとのきのみの奪い合いに負けて大泣きしてた話を……」
「私が恥晒すだけじゃん!!」
翌日、スタジアムにやってきた俺達はユニフォームに着替えてロビーで待機している。ざっと見た感じ、ジムチャレンジの参加者は百人くらいか。んで、例年だとセミファイナルトーナメントに進めるのは一人か二人。ゼロなんて年も珍しくないらしい。やっぱダンデくん達が参加した七年前の四人が異常だったんだな。四人のうち二人はジムリーダーで一人は無敵のチャンピオン……
黄金世代過ぎる。
「それでは時間になりましたので、選手の皆様は順次入場してください。リハーサルと同じく、なるべくスタジアムの中央へお集まりいただきますようお願いいたします」
昨日俺達の受付をしてくれたカントー出身のリーグスタッフさんがマイクでアナウンスしてくれると、選手控え室近くにいた参加者達から順に控え室を通ってスタジアムへと入っていく。さすがに百人の参加者が入れるほど控え室は広くないからな。
「いよいよだぞ! ここから俺達の伝説が始まるんだ!」
「わくわくするね~! かぁ~っ、とうとう私の可愛さがガラルに知られちゃうか~!」
「自惚れんな。マリィの可愛さが知られる方が先だ」
「た、確かにっ! マリィに変な男が寄ってこないように私達で守らなくちゃ!」
「もうマサルが寄ってきてるから手遅れだぞ」
「ホップって普通に俺に毒吐くよな」
「ほんとに緊張感ないよねあんた達!!」
薄暗い通路を歩きながら俺達は終始そんなくだらない会話をしていた。他の選手はマリィと同じく緊張していたり、気分が高揚していたりとごくごく一般的な反応をしている。やっぱ俺達がおかしいんだよな。ハロン人のメンタルはどーなってんだよ。
コツンコツンと、固い通路の床を歩く足音を響かせつつ俺達は進む。通路の出口はスタジアムから漏れている光がスポットライトの様になっていて、参加者一人一人を祝福し、背中を押しているようだった。
「さあ、行くぞ!」
ホップが笑い、俺達四人は同時にスタジアム内へと足を踏み入れた。
瞬間、空気が一変する。
参加者全員へ向けられるスタジアムを包む大歓声が地鳴りの様に響いている。
そして、俺達へ向けられる羨望、期待が入り混じった視線。
たった一歩踏み入れただけで、わかる。
スタジアムの外と中は───文字通り別世界だと。
「……懐かしいな」
思わず、ポツリとそう呟いていた。
俺は知っている。
この空気を。同じ
こんな大歓声……甲子園以来か。
人生で一度しかない十八歳の夏、灼熱のマウンドを思い出す。
正直、柄にもなく気分が高揚しているのがわかる。かつて
「う~ん……新しく考えた相棒のウールーポーズをやるか兄貴のリザードンポーズをやるか迷うぞ」
「へいへ~い! ガラルのみんなー! 可愛いユウリちゃんはここですよー!」
そんな風に人が珍しくセンチメンタルな気分で昔を思い出してたっていうのになんやねんこいつら。スタジアムに入っても微塵も緊張してねーじゃねえか。メンタルハガネールかよ。
それに対してマリィは口をきゅっと一文字に結び、こわばった表情を見せていた。
そうだよな! 普通そうなるよな!
「マリィ」
「な、なんね?」
名前を呼ぶと、マリィは目をキョロキョロと泳がせていたので俺は思わず頬を緩めてしまった。あんまりガチガチすぎるのも可哀想だからな。俺の言葉で緊張をほぐしてあげようなんて自惚れたことは思わないけど、ただ……ほんの少しでも気持ちが楽になってくれたらそれで十分。
「心配すんな。この大歓声も、観客も、全部もれなく俺達の味方だ」
俺がそう言うと、マリィは目を丸くして何度か瞬きをした後、誰の目から見てもわかるくらいフッと肩の力が抜けていた。
「……ありがと、マサル」
「どういたしまして」
マリィの言葉に笑顔で答える。これでもう大丈夫そうだな。
さて、後は───
「レディースアンドジェントルメン!
スタジアムが一際大きな歓声に包まれる。
俺達が入場してきた入り口の反対側から
「ファイティングファーマー! 草タイプ使いのヤロー!」
穏やかで優しい印象を与える顔立ちとは対照的な、鍛え上げられた屈強な肉体。ヤローさんやべえな。あの筋肉……父さんに匹敵するぞ。
「レイジングウェイブ! 水ポケモンの使い手ルリナ!」
顔ちっさ! 足長っ! 歩き方が完全にモデル! 生で見るとクッソ美人だな!
「いつまでも燃える男! 炎のベテランファイターカブ!」
か、カブしゃん……
「ガラル空手の申し子! 格闘エキスパートサイトウ!」
来たぜサイトウちゃん。約束を果たしにな。
「ファンタスティックシアター! フェアリー使いのポプラ!」
出たな我が一族の宿敵フェアリー婆! できれば引退しててほしかった!
「ハードロッククラッシャー! 岩タイプマスターマクワ!」
マクワさんってあんな体型だけど女性人気がすごいんだよな……ってか、弱点が多い岩タイプでメジャーに残るのがすげえよ。
「ドラゴンストーム! トップジムリーダーキバナ!」
顔面600族!! 高身長、イケメン、バトル強い、「がおー!」とかやっててあざとい!! なんやねんそのモテ要素の塊は!!
「一人来ておりませんが……ガラル地方が誇るジムリーダー達です!」
一人いないとはいえ、さすがにジムリーダーが一堂に会すると……壮観だな。安直な表現になるけど、誰も彼もが百戦錬磨の強者オーラを纏ってやがる。
……いいねえ。
で、ここにいないジムリーダーは……
「兄貴……」
マリィが隣で寂しそうにぽつりと呟いた。おいおいネズさんよ。こんな可愛い妹を悲しませるとか許されざるよ。兄の風上にも置けないでござるよ。
俺は落ち込んでいるマリィを励まそうと思案していたところで、気付く。
なにやらものすごーく目立つ集団が観客席の最前列を陣取っていることに。
「マリィ、あっち見て。ほら、あそこにエール団!」
「……え?」
かなり遠目だけどあの特徴的なカラーリングの集団は相当な存在感を放っていた。ちゃんと最前列にいるあたり、本気でマリィを応援してるんだな。
他の参加者の妨害をするのはどうかと思うけど。
「あの集団の中心にいるのって、顔隠してるけどネズさんじゃね?」
「ほ、ほんとに!? ほんとに兄貴があそこにいるの!?」
マリィが嬉しそうな声を上げる。さすがにいないのにいるなんて残酷な嘘はつかんよ。
「顔隠してるけど、あの特徴的な髪型は間違いないだろ。なんか
「ぜ、全然見えん! マサルはよく見えたね!」
「ホップ、ユウリ。あそこにいるのってネズさんだよな」
「ああ、ネズさんだぞ」
「ネズさんだね」
「ハロン人の視力はどーなっとーと!?」
まあ、ハロン人は地球で言うところのマサイ族みたいなもんだからな。そこらの都会っ子と一緒にされちゃあ困る。
と、そんな風にマリィが喜んだり驚いたりしていると……
スタジアムの観衆が、ジムリーダー達が、参加者達が全員───
「すみません。遅くなりました」
最後に現れたのは……リザードンの背に乗っている、ガラル無敗の最強トレーナー。
───チャンピオンダンデ
「あ、兄貴……最高に格好良い登場の仕方だぞ!」
「道に迷ったんでしょ?」
「寝坊したに一票」
「……どっちもだと思うぞ」
「あんたらチャンピオンに対する反応じゃなか!!」
だってなぁ……ダンデくんだぜ? 彼の格好良いところはたくさん見てきたけど、それ以上にポンコツなところを知り過ぎてるからなぁ……
「では最後に、華麗な登場をしてくれたチャンピオンに一言いただきましょう!」
ローズ委員長はダンデくんの遅刻すら演出に変えたらしい。ほんとにやり手だよなあの人。
「あ、あー……皆さん聞こえてますか? チャンピオンのダンデです」
ローズ委員長からマイクを受け取ったダンデくんは堂々とした立ち姿でスタジアムを、ジムリーダー達を、俺達を見据える。
「長い話は苦手なので……一言だけ言わせてもらいます」
そしてダンデくんは、子供の頃によく見せてくれた
「俺は君達を───
俺達の───ジムチャレンジが始まる。
「あ、あの男……!! マリィに馴れ馴れしく話しかけているあの男は誰でやがりますか!?」
「んなっ!? あ、あれは……でんせつTシャツマン!!」
「間違いねえ!! でんせつTシャツマンですよネズさん!!」
「でんせつTシャツマンってなんですか!?」
マリィとの再会&開会式でした。
本当はサイトウの反応もやろうと思ったんですが、長くなったのでここで分割。次回はサイトウを含めたジムリーダー達の反応をやります。
ゲームの開会式ムービーはテンション上がりましたが「あっさりしすぎじゃない?」っていうのが本音でしたね。でもジムリーダー達が歩いてくるシーンは胸が熱くなりました。
次回は話がテンポよく進めばマサルが三体目を捕まえます。テンポよくいかないと思うけど。
マサルの三体目はなんと……あの超人気のポケモン(電気タイプ)です!
でも多分、誰も当てられないと思います。当てた人にはマリィの剃り込み部分をじょりじょり触らせてあげます。
ではでは、今回もここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
マリィに「好いとーよ?」って言われたいだけの人生だった。