「あー! でんせつTシャツマンだーっ!」
「おかえりー! バトル観てたよ~!」
ヤローさんとのバトルを終え、着替えてからスタジアムのロビーに戻ってくるとハルトくんとヒマリちゃんが駆け寄ってきた。二人の笑顔を見て癒されつつユウリが戻ってくるのを待っていると、なにやらめちゃくちゃガタイのいいボールガイがこっちをじーっと見ていることに気が付いた。
こっわ。なんやあいつ。ハルトくんとヒマリちゃんを近づけないようにしないと。
「ヒトモシちゃんよくがんばってたね~」
「よしよししてあげる~」
「もし~♪」
俺のそんな心配をよそに、ちびっ子二人は今回のバトルで大活躍だったヒトモシちゃん(♂)を撫でていた。ヒトモシ……出会った頃はあんなに引っ込み思案でおどおどしていたのに立派になって……
なんかすっげー昔の出来事っぽいけど、よく考えたらヒトモシを捕まえてからまだ一週間くらいしか経ってないんだよな。
……ジムチャレンジに参加するって決まってから毎日がちょっと濃過ぎる。
「まーさーるー! どーん!」
俺もちびっ子二人と一緒にヒトモシを労っていると、何やらご機嫌な様子のユウリが後ろから思い切り抱き着いてきた。ジムミッションが終わった後はぎゃおんぎゃおんしてたのにヤローさんとのバトルは俺以上に圧勝してたからな。
「うへへ~♪ マサルー? いいこと教えてあげようか~?」
「うんにゃ、別に教えんでいい」
「お・し・え・て!! あ・げ・よ・う・か!!」
あ、これ何言っても勝手にべらべら喋り出すヤツだ。
「ふふーん! 聞いて驚け! なんと! 可愛い可愛いユウリちゃんにファンができたのだ! はい拍手~♪」
「ユウリちゃんすごーい!」
「かっこいいー!」
「でしょでしょ~♪」
ちびっ子二人がぱちぱちと拍手をしてユウリを称えると、ユウリは腕を組んでそれはもう見事なドヤ顔を浮かべていた。
どうやらユウリのファンは可愛らしい女の子らしく、相棒のサッチムシを抱えながら俺達の方に笑顔で手を振っていた。ユウリのあの塩試合を観てファンになるとか……なかなか特殊な趣味をしている女の子なのかもしれない。
だってユウリとヤローさんのバトルって、ラビフットのニトロチャージとダイバーンでヤローさんが一切攻撃することなく終わるというエンタメの欠片もない試合だったからな。無双系とか好きなのかな?
「あ、よかったよかった。まだ二人とも出発してなかったんだな」
「あれ? ヤローさん、どうしたんですか?」
「なーに、二人にこれを渡しておこうと思ってねぇ」
ユウリのファンができた経緯もとい自慢話を適当に右から左へ聞き流していると、ロビーにヤローさんがやってくる。バトルは終わったのにジムリーダーがわざわざ俺達に何の用だろ?
「二人に渡したい物は……『マジカルリーフ』のわざマシンとターフジムのバトルユニフォームなんだな」
そう言ってヤローさんは俺とユウリにわざマシンとヤローさんが着ていたものと同じユニフォームのレプリカを渡してくれた。わざマシンはともかく……ユニフォームのレプリカ!? も、もしかしてジムリーダーにバトルで勝てば全員分もらえる? か、カブしゃんのも……?
「わーっ! ありがとうございます! これを着て他のジムでバトル……はできないんですよね?」
「残念ながらできないんだな。チャレンジャーはチャレンジャー用のユニフォームを着用するのが決まりじゃから。二人はこれからバウタウンに向かってルリナさんに挑戦するんじゃろう? ルリナさんは水タイプ使いじゃから電気や草ポケモンをしっかり育てておくといいんだな」
「はい! がんばります!」
ヤローさんとユウリがそんな会話をしていたけど、俺の耳には全然入ってこなかった。カブさんに勝てばカブさんのユニフォームのレプリカが手に入るということで頭がいっぱいだったから。
「マサルさん」
「へ? ……あ、はいっ!」
うおおうっ!? すいませんすいません! ちょっと別のことばっかり考えて全然話を聞いてませんでした!!
「今度、マサルさんのご実家の牧場にあいさつに行かせてもらうんだな。同じファーマーとして、この目でしっかり見ておきたいんじゃ」
「あ、だったらじいちゃんの名刺を渡しておきます。見学はいつでも受け付けてますので……あと、よかったらウチの名物のモーモーミルクもどうぞ」
「おお、ありがとう! ターフタウンでも新しく酪農を始めたいと思ってたところなんじゃ。色々勉強させてもらいますわ」
それから軽く別れの挨拶をした後、ヤローさんは農作業があるらしく外の農場へと向かっていった。ジムリーダーやりながら農場の管理もやるってめちゃくちゃ大変だよな。しかも最初のジムだからチャレンジャーもひっきりなしに来るだろうし……なんというバイタリティ。俺も見習わねば……
さてさて、ターフタウンでやるべきことは全部終わったし、ちびっ子二人と別れるのは大変名残惜しいけど、俺達もそろそろバウタウンに向かわないとな。
「君、でんせつTシャツマンボルね~?」
そんなことを考えていたら先ほどのめちゃくちゃガタイの良いボールガイが俺達に近づいて声をかけてきた。近くで見ると威圧感半端ねーな。それに、顔とガタイの良さのバランスがおかしくて普通に不気味なんだけど。
「えっと、俺になんか用すか?」
「でんせつTシャツマン……会いたかったボルよ~……我が生涯のライバル!!」
「人違いじゃないすか? あ、俺達次の町へ行かなくちゃいけないんでこの辺でさよなら~」
「雑ボル~!! ボールガイに対する扱いが雑ボル~!!」
ヒマリちゃん達を連れて外に出ようとしたら思いっきり肩を掴まれた。いててててっ!? 力強いなあんた!!
「マサル、私の知らない間にまた変な人と知り合ったの?」
「いや知らん知らん。このムキムキマッチョマンが勝手に言ってるだけだ。……もしやおまわりさん案件なのでは? ヒマリちゃん、ハルトくん! おまわりさんを呼んでくるんだ!」
「「わかったー!」」
「待つボル待つボル~!! 僕は不審者なんかじゃないボルよ~!! ちびっ子二人~!! ボールガイがお近づきの印に珍しいモンスターボールを上げるから戻ってくるボル~!!」
「「わーい!!」」
ちっ。上手いこと二人を逃がそうと思ったのに物で釣りやがってこのマスコット……と思ったけどよく考えたら俺もポケモンや誰かと仲良くなるときは大体モーモーミルクやら色んなもんをあげてたな。
「ま、全く……油断も隙もないボルね~。さ、さすがはボールガイのライバルボル~……」
「マサル、この人に何したの? 怒らないからユウリおねーさんに言ってみなさい」
「なんもしとらんわ。むしろ現在進行形で俺がなんかされとるわ」
つーか、このジムチャレンジ中はずっとお前と一緒に行動してただろ。こんなゴリゴリマッチョマンと知り合いになるタイミングなんてなかったわ。
「そう、あれは開会式の日……僕がこの恰好でエンジンシティのスタジアムで活動していた時のこと……」
「マサル、聞いてもないのになんか勝手に喋り始めたよ」
「その話長い? 俺、ゲームで『悪役の悲しい過去……!!』とか言われても容赦なくぶっ飛ばすタイプだから」
「二人には人の心とかないボルか!?」
「だって知らん人の自分語りとかまるで興味ないし……」
「あれは!! 僕がこの恰好で!! エンジンシティのスタジアムで活動していた時のこと!!」
「無視して話し始めたね」
「ゲームでよくある選択肢が無限ループするヤツだな」
しゃーないから話を聞いてやろう。もしかしたら本当に気付かない内に俺がこの人に迷惑をかけていたのかもしれないし。そうだったらちゃんと謝ろう。
「僕は昔からジムチャレンジが大好きで……ジムチャレンジャーを応援するのが趣味なんだボル」
おっと? なんかいきなり不穏なことを言い出したな。趣味?
「そして僕もジムチャレンジに参加したかったボルけど……僕にはポケモンバトルの才能が全くなくて……ポケモン達と一緒に自分を鍛えていたらいつの間にか自分の身体ばかり立派になっちゃったんだボル」
あ、そのムキムキマッチョにも一応理由があったのね。つーか、ジムチャレンジに参加しようとしてたって……今のところ俺全然関係ないじゃん。
「僕は!! ポケモンリーグに就職したかったボル!!」
「いやいきなり何の話だよ!?」
「この人、話の組み立て下手だよね」
ユウリの辛辣なツッコミが炸裂する。こうやってユウリがナチュラルに毒を吐くのはホップの影響だな。
「リーグスタッフになるにはトレーナーとしての実績が必要……でも僕にはバトルの才能がないからリーグスタッフになれないボル……そこで僕は閃いたボル!! ボールガイのコスプレをして各地のジムでチャレンジャーを応援し、僕の活躍がたくさんの人の目に留まればポケモンリーグに就職できるんじゃないボルか? って!」
「バカかあんた」
思わずそうツッコんでいた。というか、冷静に今話した内容を分析してみると……このムキムキマッチョマンは、公式マスコットであるボールガイのコスプレをしているだけのジムチャレンジファンで、ガラルポケモンリーグの広報とは何も関係ない人物ってことだよな?
「やっぱただの不審者じゃねえか!!」
「不審者じゃないボル!! ジムチャレンジに対する熱意は参加者にも負けないボルよ~!!」
「熱意があれば何をしてもいいってわけじゃないだろ!?」
「すごい。マサルが珍しく正論を言っている」
珍しくとはなんだ珍しくとは? 失礼なヤツだなおい。
「熱意だけじゃないボル! 僕はジムチャレンジャーが強いポケモンを捕まえてジムリーダー達に勝てるように……チャレンジャー達にボールを無料で配ってるボルよ!」
「ちゃんと受け取ってもらえてんの?」
「……チャンピオンの弟とネズの妹しか受け取ってくれなかったボル」
「やっぱめっちゃ怪しまれてんじゃねえか!!」
「すごい。マサルが珍しくツッコみまくってる」
二回目だなこの会話の流れ!! チャレンジャーが強いポケモンを捕まえられるようにボールを無料で配る……いや、やってることは正しいんだよ。正しいんだけどさぁ……そういうのって個人でやっても怪しまれるだけだろ。チャレンジャーを応援するNPO法人とかボランティア団体だってあるんだから、そっちで活動すりゃいいものを。
ということを言うと……
「でもそれだとポケモンリーグに就職できないボル~」
知らんがな。というか、今のところ俺全く関係ねーじゃん! やっぱライバルとかこの不審者が勝手に言ってるだけで俺何も悪くねーだろ?
「そんな悲しい過去を抱えつつ、僕は満を持してこのジムチャレンジでチャレンジャーを応援しながら、僕の存在でガラルの話題を独占してポケモンリーグにスカウトされるという計画を立て……実行していたボル!! なのに……なのに……」
不審者が身体をプルプル震わせながら拳を握っている。ちびっ子二人は話に飽きたらしく、俺の手持ちのポケモン達と遊んでいた。ユウリもそこに混ざりたそうだったけど、お前はだけは逃がさんと考えてユウリの腕をガッチリ捕まえておく。
「でんせつTシャツを着た君がジムチャレンジにエントリーしている画像がSNSに出回ってキバナがそれを拡散したせいでボールガイの話題が君に掻っ攫われたボルよ!!」
「やっぱ俺何も悪くねえじゃねえか!!」
「そしてさっきのジムミッション……!! あきらかにエンタメを意識してたボルね!! あのジムミッションが放送されてからSNSで『でんせつTシャツマン』と『ファームバイク』がトレンドに上がってるボルよ!! どこまでボールガイの就職活動を邪魔すればいいボルか!?」
「とうとう就職活動って言いやがったなこいつ!?」
「しかも可愛い幼馴染と一緒に旅をしてるとか!! 許せないボル~!! 許されざるボルよ~!!」
「マサル、良い人だねこの人♪」
「可愛いって言われて掌返してんじゃねえよ!!」
だめだ、ツッコミが追い付かない。助けてマリィ、ソニアちゃん。今こそ二人の力が必要なんだ。今この場に二人が登場したら俺は二人に惚れる自信がある。
「どうせでんせつTシャツを着て目立って女にモテてやろうっていう薄汚い下心を抱えてジムチャレンジに参加してるボルね~? かーっ!! いやらしい男ボル!!」
「ブーメラン刺さってんぞ」
就職活動のために怪しいコスプレをしてジムチャレンジャーにボール配ってるお前にだけは言われたくねえわ。
「だったら!! なんでそんな変なTシャツを着てジムチャレンジ参加してるボルか~? 目立ちたい以外の理由があるボルよね~? それはそれは高尚な理由があるボルよね~?」
「ジムチャレンジに参加する当日、ばあちゃんが『伝説のトレーナーになりなさい』って俺のために買ってくれたんだよ」
「すごく高尚な理由ボル!? いやだ~!! いやだ~!! 感動エピソードとして語られるヤツボル~!! そんなのいらないボルよ~!! 羨ましいボル~!!」
不審者がおもちゃを買ってもらえない五歳児の様に床の上に寝転がってじたばたし始めた。周りの人達も不審な目で見てくるし。おいおい、このままだとマジで通報されて就職活動どころじゃなくなるけどそれでええんか?
「マサルに話題を奪われたって言ってたけど……それまでは評判良かったの?」
「ホップとマリィしかボールを受け取ってくれなかった時点で評判が良いわけないだろ」
「そんなことないボル! 君が現れるまではSNSでそこそこ話題になってたボルよ!」
「ふーん? って!! どれもこれも怪しまれてる投稿ばっかじゃねえか!!」
不審者がSNSで『ボールガイ』というワードで検索をかけた結果、流れている投稿の内容はお世辞にも評判の良いものではなかった。確かに認知度は必要だけどさぁ……炎上商法とまではいかなくても普通に怪しまれてるだけじゃん。よく今まで通報されなかったな。
「そこで……恥を忍んでライバルである君に頼みがあるボル!!」
「全然恥が忍んでないけどな」
むしろ今までの会話は恥ずかしいエピソードしかなかったろ。そもそもライバルですらねえし。
「僕とコラボして就職活動の手助けをしてくださいボル!!」
「なんでジムチャレンジで大変なのに不審者の就職活動を手伝わなきゃいけねーんだよ!?」
「頼むボルよ~! いい加減就職しないと実家から追い出されるボル~! このままだとガラル鉱山に放り込まれて鉱夫にされるボルよ~!」
「その肉体を活かすのにピッタリじゃねえか!!」
「あとポケモンリーグに就職して親戚を見返してやりたいボル~!! リーグスタッフになって合コンでモテまくりたいボル~!!」
「理由がどんどん低俗になっていってんな!! 純粋なジムチャレンジファンじゃなかったのかよ!?」
俺がいくら正論を言ってもこいつは「じだんだ」するばかりだったので、これ以上リーグスタッフさんやこのジムのトレーナーさん達に迷惑をかけないためにも、仕方ないのでこの不審者と一緒にリザードンポーズをしている写真をSNSにアップすることにした。
「僕もリザードンポーズしたーい!」
「ヒマリも~!」
「いいボルよ~。子供が写ってる方がバズる確率が上がるボルからね~」
「ふっふーん♪ そこに可愛い女の子が加われば完璧なのでは~?」
「そうボルそうボル! ユウリ選手も一緒に撮るボルよ~!」
結局、五人で撮った写真をSNSにアップすることになり、上機嫌になった不審者は俺とユウリにフレンドボールを渡してバウタウンへと向かっていった。友達認定されたのか? あとさ、まさかとは思うけど……これから行く先々のジムであいつと遭遇するんじゃねえだろうな?
そんな嫌なことを考えながらベンチに座って大きく息を吐く。疲れた。めっちゃ疲れたわ。ある意味ジムミッションやヤローさんとのバトルより疲れたわ。なんなんだよあの不審者……キャラが濃過ぎだろ。もうお腹いっぱいだわ。
「マサル~? どうやらお疲れみたいだね~? よーし、ここはユウリおねーさんがハグして癒してあげるぞ~♪」
ユウリが怪しく笑いながら俺の前で腕を広げていたので俺はそのままユウリを腕の中に抱き寄せた。嗅ぎ慣れた甘い匂いとユウリの身体の柔らかい感触が心地良い。
「おっおっおっおっ……!?」
何をオットセイみたいな声を出してんだお前は。
耳元で変な声を出しやがったので解放してやるとユウリは顔を赤くして目を白黒させていた。お前からハグしてやるって言ったのに何を照れてんだよ。こいつほんとに不意打ちに弱いよな。
「ふ、ふひゅっ……フヒヒ……」
また気持ち悪く笑い始めやがった。ファンの女の子の前でその笑い方はするなよ? 記念すべき第一号ファンがあっさり離れていくからな。
「ぶいぶい~♪」
「おー? どうしたイーブイ? お前も俺を癒そうとしてくれてんのか?」
「ぶーいっ♪」
「よしよし、ほんとに良い子だなお前は。ほれ、こっち来い」
イーブイが俺の足に体をすりすりして癒そうとしてくれていたので、イーブイを抱っこしてやることにする。はー……やばいわこれ。ふわっふわでもっこもこで手触りよくてこのまま寝れるわー。
そんなことを考えながらイーブイの抱き心地の良さにうとうとしつつ思わず目を瞑ってしまったから俺は気付かなかったんだ。
イーブイがユウリに対して勝ち誇ったような顔を向けていたことに。
ボールガイと会話するだけで一話使ってしまった。
本当はさっさとバウタウンに行きたかったのに全部ボールガイが悪いボルね~。
ボールガイ周りの設定は全部独自解釈です。でもゲームで「チャンピオンと仲良くなれば公認マスコットに……」的なことを言っていたのであながち間違いじゃないのではないかと思っています。
次回はバウタウンに行きます。道中はサクッと省略してジムミッションくらいまで進められたらいいな。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
ユウリちゃんはイキって調子に乗って「私、恋愛強者ですけど?」って雰囲気を出してるけどいざ攻められたらよわよわユウリちゃんになって顔を真っ赤にしちゃう可愛い女の子だと思う人はここをぽちぽちしてくださいボル~!