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【前回のあらすじ】
鋼タイプはいいぞお兄さん「鋼タイプはいいぞ」
ビートくん「くっ、殺せ! 僕は絶対に鋼タイプになんて屈しないんだから!」 ※彼は最終的にクチートをパーティに入れます。
「エール団! トレーニングにお付き合いいただきありがとう! だが……働く トロッゴンの邪魔は許されないことです!」
「邪魔なんてとんでもない……トロッゴンへのエールです……」
「でもポケモン勝負でぼろぼろにやられちゃったからエール団は消えーるのです……」
昼食の片付けを終え、ダイゴさんと共にエンジンシティに向けて鉱山の中を進んで行き、出口付近までやって来るとエール団の二人組とカブさんが向かい合っていた。か、カブしゃん……こ、こんなところでお会いできるなんて……
「あ! で、でんTマンとカレーキチ!」
「『妖怪石拾い男』もいるです! なんという欲張りセット……我々の手に負えーるわけない!」
「てっしゅーっ!」
そして、俺達に気付いたエール団の二人組はすたこらサッサと走り去っていってしまった。あいつらどこにでもいるな。トロッゴンの邪魔してたとか……もうマリィの応援関係ねーじゃん。っつーか、ダイゴさんが「妖怪石拾い男」って……否定できないから困る。これからダイゴさんの特性は「いしひろい」に決定だな。ポケモンバトルが終わると一定の確率でランダムで石を拾ってきてくれる地味に便利な特性。
「マサルくん、ユウリくん。君達を待っていたよ」
俺がダイゴさんの特性とかくだらないことを考えていると、カブさんが俺達の方に振り返って笑顔でそう言ってくれた。ま、待ってくだしゃい。ちょっと唐突に推しが目の前に現れたせいで心の準備ができてないんですっ……!
「そしてダイゴくん……久しぶりだね。君が僕のスタジアムで解説をしているのは知っていたが、こうして直接会うのはそれこそ二十二年ぶりかな」
「そうですね。まさか、僕のことを覚えてくださっているとは思っていませんでしたが」
「忘れるわけないさ。当時十歳だった君にチャンピオンロードであそこまで追い詰められたんだからね。よく覚えているよ」
二十二年ぶりに会って当時十歳だったダイゴさん……あれ? ダイゴさんって今三十二歳? 三十二にもなって結婚もせず珍しい石を探して世界を旅して挙句の果てに穴に落っこちてたのかよあんた!?
「君ほどの男がホウエンチャンピオンの座を譲ってからもう七年か……どんな強者も新時代の若き力には敵わない、ということだね」
「おかげで僕は趣味に生きることができていますがね。チャンピオンなんてガラじゃありませんよ」
ダイゴさんはチャンピオン時代もフラフラと色んな所に出没してたからなぁ……元々、一か所でジッとしているのが苦手なんだろう。かつてチャンピオンだったのも、この人にとっては旅をしていた
「解説が終わってもしばらくガラルに滞在するのかい?」
「ええ。ジムチャレンジが終わるまでは滞在しようと思っています。珍しい鉱石がたくさんありますし、面白いトレーナーの行く末を見届けたいですから」
ダイゴさんはそう言って俺達二人の方を見る。でも一番の目的は石なんでしょ?
「さて。マサルくん、ユウリくん。君達はもう知っているかもしれないが、百人以上いたチャレンジャーのうち、炎バッジを手に入れられたのは二十人程度だ。君達とヤローくん、ルリナくんのバトルを見せてもらったが……君達は本当に素晴らしいトレーナーだ。そんな君達と戦えることを、僕は誇りに思う」
「ありがとうございます! でも、勝つのは私
「良い意気込みだ。だが負けないよ。僕は生涯現役だからね。この体が動かなくなるまで、強すぎる老害ジジイと罵られようとも僕は新時代の若者達の前に立ちはだかろう!」
実際立ちはだかるんだろうなぁ……でも、カブさんが引退した後もまだポプラさんが現役を続けていそうな気がするのはなんでだろうな。
「マサルくん。君はどうだい? 七年前に僕が言ったことを、覚えているかい?」
忘れるはずがない。
七年前のシュートシティで、カブさんは俺にこう言ってくれた。
「いつか、ポケモントレーナーとして研鑽を積んだ君と戦える日を───楽しみにしているよ」と。
研鑽を積んだ……なんて胸を張っては言えないけれど。やれることはやってきた。
そう。今が、その時。
「俺がやることは、いつでもどこでも、
「尽くした結果が、どうなろうとも?」
「結果は
「君はそういう考え方をするトレーナーなのか……なるほど、なるほど。君という
気合や根性、熱意は必要だとは思うけれど、それだけじゃどうにもならないからな。精神論だけで誰も彼もが結果を出せるのなら、もっとたくさんのトレーナーがカブさんのジムを突破していただろう。
だが、現実はそうじゃない。
そして、そんな
「願わくば、君の奥底に眠っているものを僕が起こしてあげたいね」
カブさんはそう言って柔和に笑い、タオルを首にかけて俺達の前から走り去っていった。俺の奥底に眠っている物、ねえ……。別に意図して眠らせているわけじゃなくて、ただ単に起こし方を忘れてしまっているだけなんだよな。開会式でほんの一瞬目覚めかけたけどすぐに引っ込んだし。
まあ、別にいいか。起きようが眠ったままだろうが、結局俺のやることは変わらないんだから。
「マサル……大丈夫?」
ユウリが俺の手を握り、心配そうに見上げてくる。なんだよ、もしかしてお前……俺の内面に気付いてるのか? 変に気を遣わせちゃったか。悪かったなユウリ、心配させて。でもお前がそうやって成長していることを俺は喜ばしく───
「憧れのカブさんが目の前にいたのに興奮しないであんな冷静に話せるなんて頭の病気じゃない? ポケモンセンター行く?」
「……お前を見てると安心するよ」
「うへへ~♪ そう?」
俺の喜びと感心を返せと思ったけど、ユウリが相変わらずユウリだったので安心してしまった。俺はこいつのこういうところに結構救われているらしい。まあ、それはそれとして「ポケモンセンターに行く?」ってどういうことだ? あぁ?
抗議の意味も込めて髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやるとユウリは嬉しそうな悲鳴をあげるのだった。
「マサル! 見て見て! このライダースジャケット、マリィに似合いそうじゃない?」
「あー、確かに格好良いなこれ……って十一万以上するじゃねえか!! でんTの約四倍……だと……!?」
「さすがに手が出ないな~。あ、でもこっちのスタジャンはお手頃価格だよ。ねえマサル、何色が良いと思う?」
「この赤みがかった茶色だな。デニムともよく合う」
「えへへ~♪ 私もそれが良いと思ってたんだ~。はっ! たしかデニムホットパンツも売ってたからそれも一緒に買おう! 街中くらいでは足出してもいいよね~」
「それもいいけど、こっちのボアコートも買っとけ。キルクスタウンはめちゃくちゃ寒い所にあるからな。そのニットパーカーだけじゃ寒いだろ?」
「おー、もこもこであったかそう♪ マサルはどの色が好き?」
「白。インナー……というかワンピースを黒にすれば大人っぽくなってなおヨシ! いやでもこっちのフリルミニスカンツと合わせて可愛らしさで攻めるのも……」
エンジンシティに到着し、俺達は真っ先にブティックに立ち寄ることにした。ダイゴさんはスタジアムでリーグスタッフさん達と打ち合わせがあるらしく、別れることになったけど……俺達のチャレンジの解説もやるだろうしどうせまたそのうちひょっこり遭遇するんだろうなぁ。
「はぁ~……何でも似合い過ぎるからユウリちゃん困っちゃうな~」
「まあ……(ツラは)可愛いからなお前は」
「可愛い……可愛い……フヒッ(あおおおん!! マサルがぁ!! 私の可愛さにぃ!! 見惚れちゃってぇ!! もう他の女なんて目に入らない状態になってるんですけどぉ!! うぇひひひひっ!! マサルと私の服の好みは結構一致してるしぃ? なんならマサル好みの服ばっかり選んでぇ!! ユウリちゃんの可愛さと色気で悩殺しちゃうのもぉ!! ありですよねぇ!!?? これも全部私がぁ!! 可愛すぎるからぁ!! こんなことになってるんですけどぉ!!)」
そのフヒフヒ言う笑い方は全然可愛くねえな。昔はそんな笑い方してなかったろ? ジムチャレンジが終わったら一回病院に連れて行くか?
「あ、やっぱりブティックにいたぞ」
「なんでホテルやカフェじゃなくてブティックに直行しとるん?」
ユウリが気持ち悪い状態になったので、放置して他の服を見回っているとホップとマリィがやってきた。そういや、エンジンシティに着いたってことだけ連絡しててどこにいるかまでは伝えてなかったな。すまん二人とも。久しぶりのブティックでテンションが上がっちゃったんだ。ターフタウンとバウタウンにブティックがなかったからな!
「あ、マリィとホップだ! 久しぶり~!」
ユウリは気持ち悪い笑いをやめていつもの犬っころのような笑顔でマリィに抱き着いた。久しぶりっつっても別れてから一週間も経ってないだけどな。まあ、この数日間が濃過ぎてそういう感覚になるのも仕方ないか。主にダイゴさんのせいだな。あの人はちょっとカロリーが高過ぎる。
「ねえねえマリィ! あっちにね! すっごく可愛いボアショートブーツがあったからお揃いにしよう! 絶対マリィに似合うよ!」
「か、可愛いとか……そんなんわからんけん……」
戸惑うマリィの手を引いてユウリはブーツを見に行った。マリィはユウリと違って自分が可愛いことを自覚していない無自覚男たらしだからな。ある意味、ユウリより性質が悪いかもしれない。
「マサルは何も買わないのか?」
「下手にアウターを羽織ったりするとでんTの純度が下がるんだよ」
「はっはっは。ゼロからは下がりようがないんだぞ?」
俺に対しては全然紳士的じゃねえなこの野郎!
そういや、今思ったけどホップも無自覚天然ガラル紳士だから……同類の無自覚かわかわマリィと一緒に旅をしてたらどうなるんだ? 無自覚と無自覚が合わさって、本人達に全くその気はなくても周りから見たら「お前らもうさっさとくっつけよ」的な空気になってんのかな?
「この街のブティックではでんTを売ってないのか……もしや俺のおかげで人気商品になって品切れとか?」
「買う人がいないから仕入れてないだけだと思うぞ」
はっはっは。こやつめ。
「まじかよ。二人ともカブさんに十回も挑んだのか?」
「他のトレーナーはその前に心が折れちゃったみたい。あたしらは負けるたびに二人で作戦会議をしたりワイルドエリアで鍛え直したり……大変やったよ」
「一日に何度も挑んだんだぞ! ポケモンセンターとスタジアムを何往復もしたんだ!」
「ミッション自体は一発でクリアできたんやけどね……」
ブティックで買い物を終え、バトルカフェにやってきた俺達はホップとマリィの二人からカブさんとのバトルについて色々と話を聞くことにした。この二人でさえクリアするのに十回も挑んだのか……例年のジムチャレンジはそんなことなかったんだけどな。
「どうも今年のカブさんは異例の強さらしいぞ。例年よりもさらに厳しくチャレンジャー達を篩にかけてるんだ」
「今年のチャレンジャーの質自体は悪くない……どころか例年よりも豊作って言われてたんよ」
「ほえ~、それなのに二十人くらいしか突破できなかったんだぁ~」
ユウリが能天気にそんなことを言っていた。事の重大さを理解しとんのかこいつは。まあ、理解してようがしてまいがこいつの強さはなんにも変わんねえけど。
「ユウリ、もうちょっと綺麗に食えんのか? ほっぺにクリーム付いてるだろうが」
「取って~」
「……こっち向け」
「えへへ♪」
十四歳にもなってまともにパフェも食べれんのか。こういうところはガキの頃からなんにも成長してねえな。
「そうだ。二人とも、ローズ委員長が推薦したトレーナーには会ったか?」
「ああ、会ったぞ。直接話してはいないけど……強かったし態度も悪かったぞ」
「他のトレーナーに対して高圧的やったよ。でも、ミブリムが懐いてるあたり……本当は穏やかな心を持ってるのかもしれんね」
「……過去に色々あったんだろ。まあ、あの捻くれ具合は逆に面白いけどな」
「ビートくんのツッコミすごかったもんね。あれはソニアちゃん級だよ!」
「二人一緒におる時に遭遇したんやね。ビート選手に同情するよ」
「なんか一気にお労しく思えるようになったぞ」
俺達のことを何だと思ってるんだ。でも初対面からあの捻くれ嫌味キャラだとしたら……この二人と仲良くなるのには時間がかかりそうだよな。一旦打ち解ければビート少年が面白生物だとわかってくれそうだけど。
「で、二人はこれからどーすんの? ナックルシティへ向かうのか?」
「いや、二人とカブさんのバトルを見届けるつもりだぞ。俺達があんなに苦戦したから応援しようってマリィと話してたんだ」
「……マリィの応援が力になるとは思えんけど」
「なるなるなるなるなる!! なるに決まってるよ!! マリィが応援してくれたら私、カブさんだって瞬殺できるからね!!」
ユウリがマリィの手をぎゅっと握りながら目を輝かせそう言った。うん、こいつなら本当にカブさんを瞬殺しそうだからこえーよ。さてと、俺はどうすっかな。カブさんとのバトルの話は聞けたし、今日は一晩かけてカブさんのバトルを見返して作戦を立てるか。重要なのはジメレオンの使い方。タイプ相性を考えればジメレオン主体で戦うことになるけど、その分負担が一番大きくなるから色々考えないとな……
「マサルマサル! マサルもそうだよね! マリィに応援されたらマサルだってカブさんを瞬殺できるもんね!」
「瞬殺はともかく……マリィみたいな可愛い女の子に応援されて喜ばない男はいない!」
「いえーい! マリィさいこー!」
「マリィさいこー!」
「二人ともそげん恥ずかしいこと大声で言わんで!」
あ、そうだそうだ。マリィの応援で思い出したわ。そう言えば俺達、エール団からとんでもなく重要なものを買ってたんだった。
「俺達もマリィを応援するからな! 見ろ、マリィの姿がプリントされたこのタオルを!」
「なんでそげんタオル持っとると!?」
「エール団から買ったんだよ。ほら、私も持ってる~!」
「ホップの分も買ってあるからな」
「さすがだぞ! これでみんなでマリィの応援ができるんだな!」
「あんたらエール団となんも変わらんね!!」
そんな風にカフェでぎゃーぎゃー言い合っている俺達だったが、この時はまだ、誰も気付かなかったんだ。
この一戦、カブさんとのバトルで。
ユウリの名がガラル全土に轟く───ということに。
「エンジンスタジアムでのジムミッションは! ポケモンの捕獲で多くのポイントを稼ぎます! 五ポイント獲得でクリア! 草むらにいるポケモンを捕獲で二ポイント、倒すと一ポイントになります! ただし、ジムトレーナーが妨害してくるので、高度な立ち回りが要求されます!」
「ダンペイさんこんにちは。また会いましたね。ジムミッションの審判って他にいないんですか?」
「おるわい!! 上の命令でお前の担当にさせられたんじゃ!!」
「ははぁ……それは大変ですねぇ」
「ものすごい他人事!!」
どうやらダンペイさんは「マサルくん係」に任命されてしまったらしい。どんまい。
まあ、そんなことはどうでもいいや。このミッションも他のジムチャレンジャー達と変わらないな。ポケモンは全部で三体いるから、二体捕獲して一体倒せばクリアか。なるほど。
「ダンペイさん、質問いいですか?」
「レギュレーションの穴を突く前に確認するのは大事! バウスタジアムの悲劇から大いに学んでいるようで結構!」
「ジムトレーナーさんが妨害してくるって言ってましたけど、妨害ってチャレンジャーへのダイレクトアタックですか?」
「そんなわけあるかい!! 普通の!! ポケモンバトル!! ジムトレーナーもポケモンを使ってチャレンジャーのポケモンや草むらのポケモンを攻撃するの!!」
どうやら遊戯王のようなダイレクトアタックはないらしい。でも昔の切れたナイフ時代のカブさんだったらやってそうだな。
「次の質問ですが、課題のスタートはチャレンジャーとジムトレーナーさんがポケモンを出してからという認識でいいですか?」
「その通り! 通常のポケモンバトルと同じく、両者の準備が整ってから開始します!」
つまり、準備が整う前にボールだけ投げて草むらのポケモンを捕獲しても無効ということだな。おっけーおっけー。
「他に何か質問は?」
「えーっと……草むらにいるポケモンはロコン、ヒトモシ、ヤクデ……ヤクデ!?」
「ヤクデがどうかしたんか?」
「俺に……俺にヤクデを捕まえろというんですか……!? この俺に……カブさんと同じポケモンを捕まえろと……!? そんなおこがましい真似を俺にやれというんですか!?」
「なんで今までで一番追い詰められてるの!?」
俺は三番道路にいるヤクデ達の成長を遠くから見守るような男ですよ! それに! 他の人がヤクデを使うのは別に何とも思わないけど!! 自分がヤクデを捕まえるのは解釈違いなんだ!!
「わかるよ少年!」
俺がダンペイさんに熱い思いを語っていると、褐色美人のジムトレーナーさんが激しくうなずいて共感してくれた。
「推しと同じポケモンを人が使っているのを見ると『あ^~』って尊い気持ちになるけど自分で使うのは解釈違いなんだよねそんな恐れ多い真似をするとヤクデ達が穢れてしまうような気がしちゃうんだでも安心したまえ少年ボールはこちらから支給するし捕まえたポケモンは後で回収するから実質ノーカンだ!」
「なるほど! それなら大丈夫です!」
「基準がよくわからんわい!」
「お姉さんもしや……カブさんがギラついてた時代から推してた厄介ファンですね?」
「そうなんだよ! 今の熱血カブさんも良いけれどホウエン時代の触れたもの皆傷つけるような抜身の刀みたいだったカブさんもすごく格好良くてね私もそんなカブさんに憧れて炎ポケモンのことをたくさん研究してジムトレーナーの座を勝ち取ったんだ毎日推しの側で仕事できるとか我が人生に一片の悔いなし!!」
「エルちゃんってそんな早口で喋るキャラだったの!?」
ダンペイさんも思わず真顔でツッコんでしまう。この人やべーな。俺が言うのもなんだけど真正だわ。でも、気持ちはわかる。ダーティなカブさんってほんとに格好良かったもんな。子供時代だったとはいえダイゴさんに勝っちゃうくらい強かったみたいだし。
「さて、じゃあルールも把握したところで始めようか少年! カブさん推しの同志だからと言って容赦しないよ!」
「それは俺のセリフですよ、エルさん!」
「審判の合図なしに始めようとするな!!」
そして俺はダンペイさんからスーパーボールを渡される。今思えば、ヤローさんやルリナさんのジムと比べてカブさんのジムは維持費があんまり高くなさそうだな。リーグのお財布事情も考慮できるなんてさすがですカブ様! さすカブ!
さて、カブさんを称えるのはここまでにして思考をジムミッションモードに切り替えよう。つっても、やること自体はシンプルだけどな。あとはジムトレーナーさん達との駆け引きだけだ。さてさて、俺の駆け引きがどこまで通用するか試してみようか。
「準備はいいかい? 少年」
「いつでもいいですよ、エルさん」
俺とエルさんは互いにモンスターボールを構える。
さあ、ジムミッション開始だ!
「ヤトウモリ!」
「ジメレオン!」
エルさんのポケモンはヤトウモリ……だが、俺にはそんなの関係ねえ!!
「おらああああああああああっ!!」
「……え?」
俺はエルさんのポケモンには一切目もくれず、ジメレオンを出すと同時に草むらにいるヤクデに向かって、岩〇久志フォームでスーパーボールを投げつけた。
見事ヤクデに命中し、草むらに転がったスーパーボールは何度かブルブルと震えた後、カチリという音とともに静止する。
呆気に取られていたのはエルさんだけではなく、ヤトウモリもダンペイさんも他のジムトレーナーさん達もそうだった。ジメレオンだけは「やると思った」みたいな顔をしてたけど。
「よっしゃー、ヤクデゲット! これで二ポイントですね。あ、回収お願いしまーす!」
「ルール的には……ルール的には違反していないが!!」
俺がダンペイさんにスーパーボールを差し出すと、釈然としない様子ながらも受け取ってくれた。一応、俺がこんな手段を取ったのにはちゃんと理由があるんだよ。他の二人のトレーナーとの駆け引きを有利にするためっていう理由がな。
「なるほど。そのなりふり構わなさ……かつてのカブさんを思い出すよ。名前を聞いておこうか、少年」
「マサル。ハロンタウンのマサルです」
「覚えておくよ。もしも仕事に困ったのならエンジンジムを訪ねてくるといい。私が口利きしてあげるから」
そして俺はエルさんと熱い握手を交わす。カブさん推しの同志として仲良くできそうだな。同担拒否とか言われなくてよかった……
さーて、次はあっちのヒトモシを狙いに行くかな。俺が次の草むらへ向かうと、もう一人の褐色美人さんが「うわぁ、こっち来た」みたいな顔で俺を見てくる。残念でもなく当然の反応。
だがそんなことは意に介さず美人さんへ近づくと、突然俺のモンスターボールが震えだし、ヒトモシが出てきた。あれ? どうしたヒトモシ?
「……もしぃ」
ヒトモシは俺と草むらにいるヒトモシを交互に見ながら何やらご不満な様子。ふーん、なるほどなぁ。そういうことか。
「安心しろヒトモシ。形式的に捕まえるだけだからお前への愛情が揺らぐことなんてないよ」
「もしぃ♪」
俺が優しくヒトモシを撫でてやると、嬉しそうな笑顔になってボールの中へと戻った。まったく、他のヒトモシに嫉妬するなんて……どんだけ可愛いんだこいつは!!
「ポケモンから愛されているみたいだね」
「良いトレーナーの第一条件ですから」
「君のことを誤解していたかもしれないよ。頭のおか……失礼。個性的なカブさんファンだとね」
あ、それは誤解じゃないです。でもなんか良い感じに解釈してくれてるから放置しておこう。
その方が、
「じゃあ始めようか。私はジムトレーナーのルイ。よろしく」
「よろしくお願いします」
俺も彼女に倣って頭を下げてボールを構える。さて、二体目の捕獲チャレンジだ。
「(この子はカブさんの熱狂的なファンだ。だとすると、このポケモンを出せば何かしら変化を見せる可能性がある!!)ヤクデ!」
「ジメレオン!」
なるほどヤクデか。あれだけヤクデに対して過剰な反応を示した俺の隙を突こうということかな? だけど残念、バトルになれば思考が切り替わるんですよ。
俺はジメレオンを呼び出すと同時に、先ほどと同じようにスーパーボールを構えてヒトモシに向かって投げる
「ヤクデ! かみつ───」
「ジメレオン、みずのはどう」
俺に捕獲される前にヒトモシを倒してしまおうとジムトレーナーさんは考えたらしいけど、俺の狙いはまさに
「しまっ───!?」
気付いたところでもう遅いですよ。ヤクデが戦闘不能になると同時、俺は今度こそスーパーボールをヒトモシへと投げつけ、無事に二体目も捕獲した。これで四ポイントだな。
「手持ちはまだもう一体いたんだけどね……それを出させてもくれなかったか」
「選択を迫られて後手に回る以上、ジムトレーナーさんに不利なミッションだと思いますけどね」
「だけど、結局のところ私は君に読み合いで負けた。エルとの勝負でいきなりスーパーボールを投げていたから、そっちに気を取られちゃったよ」
まあ、あれって結構邪道な攻略法ですからね。多分、他のチャレンジャー達は真面目にジムトレーナーさんのポケモンを倒してから捕獲なりなんなりしていたんだろうし。
なんにせよ、これで残り一ポイントでポケモンは一体。
「やるなチャレンジャー! カブさんを尊敬しているだけはある。だけど、尊敬の念なら俺だって負けないぜ!」
色白なお兄さんが爽やかに笑いながらそう言ってきた。最初に謝っておきます。すみません。きっとあなたの笑顔のように爽やかな攻略にはならないと思います。
『ダイゴさん。ここまでのマサル選手の動きをどうご覧になられますか?』
『そうですね。チャレンジ前の様子からすると彼は一見、感覚的なトレーナーだと思われがちですが……実際のところはいきなりボールを投げたり、一戦目の行動を布石としてジムトレーナーの裏をかいたりと、その場その場で
『なるほど。ではこの第三戦はどうなると予想されますか?』
『すでに二戦でマサル選手がどういうトレーナーか理解できたと思いますので……これまでのように簡単にいかない、とも言い切れません』
『というと?』
『マサル選手はこの状況すら予測し、
おお、ダイゴさんが真面目に解説しとる。石を見ながら興奮したり穴に埋まってたのと本当に同一人物かこれ? あと、俺のことを冷静に分析し過ぎ! ダイゴさんの前でバトルするなんてこれが初めてなのに……あ、もしかしてターフスタジアムやバウスタジアムの様子もばっちり見られてたのか。
まあいいや。ダイゴさんの言う通り、ここまでは俺の想定通りに進んでる。三戦目に対しても、やることは当初の予定から変わらない。
「お兄さん」
「ノブヒロだ」
「ノブヒロさん。俺は、初手スーパーボールを投げるか、もしくはそれをブラフにあなたのポケモンを倒すか……どちらを選ぶと思います?」
「なんで試される側のチャレンジャーがジムトレーナーを試しとるんじゃ」
ダンペイさんにツッコまれた。こらっ。俺の大事な作戦中なんだから黙っててください。
「エルは初手にスーパーボールを投げられると予測できなかった。ルイはスーパーボールを投げるフリに騙された。だけど俺にはそんな小細工は通用しないぜ。俺も、俺のポケモンも、君の行動の
「……一筋縄ではいかないみたいですね」
「こうもあっさりと、それこそ純粋な
なるほど、ジムトレーナーさん達にもプライドがあるんですね。それもそうか。俺の二戦は、ジムトレーナーさん達が
だけど───
『決まりましたね』
『何がですか?』
『この勝負───』
どうやら、ダイゴさんも俺と同じ考えらしい。
『マサル選手の勝ちです』
「俺の勝ちです」
俺は笑い、モンスターボールを構えた。
「ジメレオン!」
「ガーディ!」
俺達は同時にポケモンを呼び出す。
そして───
「みずのはどう!」
「かえんぐるま!」
俺は、スーパーボールを投げることも、投げるフリもしなかった。
なぜなら、今の俺は対象のポケモンであるロコンを
だから、ジメレオンにこう命じたんだ。
「ロコンを
「そこまで! マサル選手のジメレオンがロコンを倒したことにより一ポイントが加算されます。これで合計五ポイント! よって、マサル選手───ジムミッションクリア!」
そう。すでに四ポイント獲得していた俺はロコンを倒すだけでクリアできる状態だったんだ。一戦目と二戦目であんなにわかりやすく捕獲を印象付けたのは、一番厳しくなるであろう三戦目で優位を取るため。
『「初手でポケモンを捕まえる」「ジムトレーナーのポケモンを倒した後に捕まえる」という二択にとらわれた時点で……マサル選手の勝ちはほぼ決まっていました。第三の選択肢である「対象のポケモンを倒す」というごくごく当たり前の選択肢の可能性がノブヒロトレーナーの頭の中で下がってしまったのです。ただ、ノブヒロトレーナーもさすがでした。マサル選手の勝ち筋を潰すには、先にロコンを倒すしか方法はなかったので、マサル選手と同じようにロコンを狙いました』
『だけど、それをジメレオンの機動力が上回った』
『一戦目でも、二戦目でもジメレオンの機動力を隠すようにマサル選手が立ち回っていましたからね。もしもバウスタジアムでの彼のバトル映像を見ていれば結果は変わったかもしれませんが……ジムトレーナーはひっきりになしにやってくるジムチャレンジャーの相手をしなくてはいけませんから、そんな時間も確保できなかったのでしょう』
『つまり、マサル選手はジムチャレンジという
『ある意味、彼はジムチャレンジを最も体現しているトレーナーかもしれません。ただバトルが強いだけでは突破できない……「トレーナーとしての総合力を評価する」ということが、ジムチャレンジのコンセプトでもありますから』
すげーなダイゴさん。俺が考えてたことを全部当てやがった。つまり、ダイゴさんクラスを相手にするにはこの程度の読み合いじゃダメだってことですね。一つ勉強になりましたよ。ありがとうございます。
『もう一つ評価したい点は───ジムトレーナー達に「実力のほとんどを発揮させなかった点」です』
『そういえば、マサル選手とジムトレーナーはほとんどバトルになりませんでしたね。その前に決着がついてしまいましたから……』
『ジムトレーナーの妨害を受けながら「捕獲」「倒す」「五ポイント得る」という制限の中で相手に実力を発揮させなかった。こういうことができるトレーナーは、条件が揃えば
『なるほど! では、マサル選手の牙がチャンピオンダンデに届くやもしれないと……?』
『可能性は、
ザワリ、と。身体が震えたのがわかる。本当に……いつ以来だろうな、こんな感覚。うん、いいな……。少しだけ、ほんの少しだけ、思い出してきた気がする。
「マサル選手」
名前を呼ばれたので振り返ると、エルさん、ルイさん、ノブヒロさんの三人が並んで真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「カブさんは強い。だが、君なら勝てる! 君なら、もっともっと
ノブヒロさんがそう言って手を差し出してきた。差し出された手を俺は強く握り返す。エルさんとも、ルイさんとも同じように固い握手を交わした。
熱いな。本当に、熱い。さすが、カブさんのジムトレーナーをやっているだけはある。うん、どうやら本当に……本当に少しだけ、俺もこの熱に当てられてしまったらしい。
『マサル選手の活躍にますます期待がかかります! では、いよいよ───
そして───ガラルが、世界が理解した。
『ば、バトル終了……ゆ、ユウリ選手の───圧勝……です……』
チャンピオンに最も近い人物が、誰なのかということを。