評価、感想、誤字報告、ここすき等ありがとうございます!
執筆の励みになっております!
X始めました。よろしければフォローお願いします!
カブさん戦に到達できませんでした。誠にごめんなさい。
【前回のあらすじ】
・ユウリちゃんがヤリ過ぎちゃった♡
ユウリのバトルは圧倒的だった。
まず一体目、リオルVSキュウコン。
キュウコンの「おにび」を軽快なフットワークでかわしたリオルがそのまま接近し、キュウコンの頭に「かわらわり」をぶちかます。だが、さすがカブさんのポケモン。一撃で落ちることなくゼロ距離で自分ごとリオルを巻き込むように「ほのおのうず」を繰り出した。
しかし、ほのおのうずを繰り出す直前にユウリの命令が届き、リオルは間一髪その場から飛びのいて回避する。と同時にいつの間にリオルに覚えさせていたのかわからない「あまごい」で雨を降らせて「ほのおのうず」を鎮火。
対してカブさんは動じることなく、火が消えるなり即座に戦法を変えて「でんこうせっか」でリオルに迫る。
が、それを読み切っていたユウリがリオルに「カウンター」を命じ、キュウコンを沈めた。
二体目、パルスワンVSウィンディ。
雨が降り続け、炎技の威力が半減しているにもかかわらずカブさんはウィンディに「おにび」を命じる。が、ユウリの指示でパルスワンは冷静にこれを回避。
本来、パルスワンは攻撃、耐久、体力がウィンディに劣るポケモンだ。だが、そんなパルスワンが唯一ウィンディを上回っているもの。
それは───スピード。
パルスワンはフィールドの広さを存分に活かしてウィンディの周りを縦横無尽に走り回り、ねらいを定めさせない。しかし、相手が高機動アタッカーであることも想定してたカブさんはウィンディに「こうそくいどう」を命じる。
これで、一時的とはいえウィンディのスピードはパルスワンと互角となり、ウィンディの「かえんぐるま」がパルスワンを捉えようとした瞬間───
「パルスワン───こうそくいどう」
無情にもパルスワンがウィンディを突き放す。
さらに、ユウリは畳みかけた。
「じゅうでん」
バチバチと嫌な音を立てながらパルスワンは高圧電流を纏い、フィールド内を駆け回る。神々しくさえ見えるその姿はまさに、雷獣と呼ぶにふさわしい。
この時点で、次にパルスワンが何の技を繰り出すのかを予測できたのは、おそらく……俺一人だけだっただろう。
「パルスワン」
雨という天候がポケモンバトルにもたらす影響は様々だ。炎タイプ技の威力減衰、水タイプ技の威力向上。
そして───
「かみなり」
「らいげき」「でんじほう」「ボルテッカー」に次ぐ電気タイプの最上級技だ。こんな序盤で使えるような……使っていい技じゃない。だけど、だけどユウリはそれをやる。ユウリのポケモンはそれをやる。
俺でさえ、俺でさえ「かみなり」「だいもんじ」「ハイドロポンプ」といった技は
理由は単純。十分にポケモンが鍛えられていない状態では「かみなり」のような高威力の技はポケモン自身に大きな負担がかかる上、その威力の高さ故に技を使いこなせないからだ。
それならば、多少威力を落としてでも「10まんボルト」や「スパーク」を使った方がいい。
だが、ユウリはおそらくぶっつけ本番でこれをやった。技自体はレコードで覚えさせていたんだろうけど、それをここでやる度胸とその命令に100%応えたパルスワン。
すげーよ、本当に。
尊敬の念しか、ない。
「カブよ! 頭を燃やせ! 動かせ! 勝てる道筋を探すんだ!」
無理だよ、カブさん。
才能を開花させたユウリには、勝てない。
「マルヤクデ! 燃え盛れ! キョダイマックスで姿も変えろ!」
「シャワーズ、ダイマックス!」
キョダイマックス。特定のポケモンの限られた個体にのみ許された特殊なダイマックス形態。
だけど、今のユウリにはキョダイマックスだろうが、通常のダイマックスだろうが。
そんなものは、関係ない。
「キョダイヒャッカ!!」
「ダイストリーム!!」
二体のダイマックスポケモン同士による、壮絶な技の打ち合い。結果は───
『ば、バトル終了……ゆ、ユウリ選手の───圧勝……です……』
スタジアムは大歓声……ではなく大きなどよめきに包まれた。当然だろう。俺でさえ、ユウリのバトルを誰よりも一番近くで、一番多く見てきた俺でさえ……ユウリの強さに冷や汗を搔いているのだから。
カブさんはこれまで、ジムチャレンジ序盤の登竜門として君臨し、チャレンジャー達全員を圧倒し続けてきた。
そんなカブさんを、ユウリは一蹴。
やってくれたなユウリのヤツ……ははっ、七年前のダンデくんやキバナさん以来じゃねえか。
カブさんのジムを一発で突破したチャレンジャーは。
「ジムチャレンジ初めの関門と呼ばれるこのカブを……これほど圧倒するとは! 僕の長年の経験を君の才能が上回ったな! 僕もまだまだ学ばないとね! 君達は間違いなく最高のチームになる! 今日は戦えてよかったよ!」
「はい! 私もカブさんと戦えてよかったです! バトルの中で何かが……自分の中で何かが開いたような感覚になって……」
「その感覚を決して忘れることなく、これからも鍛錬に励んでほしい。今日、君が掴んだものは一生の財産になるよ」
モニター越しにユウリとカブさんが言葉と握手を交わしている。その光景を見て俺は……焦燥感や劣等感といった感情を───
『えー……か、解説のダイゴさん……改めて、今のバトルを振り返っていかがでしょう?』
実況の人が困ったようにダイゴさんに話を振っている。そらあんなバトルになるなんて予想してなかっただろうから困るわな。さてさて、ダイゴさんは何を言い出すのやら。
『
『……はい?』
『彼女のように、彼女
『あの……ダイゴさん?』
昔を懐かしむように、感慨深そうにダイゴさんは言う。
『おっと失礼。バトルの振り返りでしたね。おほん……終始、ユウリ選手が圧倒する展開となりました。カブさんの各ポケモンの動きへの対処が非常に素晴らしく、読みも抜群に冴えていましたね。安易に水タイプで攻めるのではなく、リオルやパルスワンといった炎タイプに対して得意でも不得意でもないポケモンの扱い方は特筆すべきでしょう』
『実際に水タイプを使用したのは最後の一体。マルヤクデに対するシャワーズだけでしたね』
『あれ実は、昨日進化させたばかりのポケモンなんですよ』
『え!? そうだったんですか!?』
『進化させたばかりのポケモンがどんな技を使えてどんな動きができるのかを把握するには時間がかかります。しかも進化前とタイプが変わればなおさらです。ですが、ユウリ選手は一日で……いえ、実質ぶっつけ本番でシャワーズをバトルに出し、勝利を掴んだ』
『改めて振り返ると、とんでもないですね……』
『僕が彼女を一番高く評価したい点はそこですね。彼女はどんな状況下であっても、あらゆるポケモンの潜在能力を100%引き出すことができる。僕はこういった言葉をあまり使いたくはないのですが……あえてこう言いましょう。彼女は───「天才」です』
ダイゴさんをして、元ホウエンチャンピオンをしてそう言わしめるユウリの才能。やっぱり、俺の見立ては正しかったな。まあ、俺はユウリが天才だったなんてことはとうの昔に知っているから今さら驚きもしないけど。
『おっと、ここで情報が入りました。えー……あ、あー……なる、ほど』
『どうしました?』
実況のおじさんがますます困ったような表情になっている。おい、次にバトルするのは俺なのにそんな顔するのやめてくれや。なんかすっげー嫌な予感がするんですけど。
『次に予定されていたマサル選手のバトルですが……フィールド整備に時間がかかるため明日に延期されます』
『激しい戦いでしたからねぇ』
『最後のダイマックス技の打ち合いでスタジアムの設備に異常が見られたようです。普段、こういったことは滅多に起こらないのですが……』
実況のおじさんがスタジアムの観衆や視聴者に向けて謝罪している。控え室で待機していた俺のところにもリーグスタッフさんがやってきて状況の説明と謝罪をしてくれた。
さてさて、想定外の事態で一日猶予ができたわけだけど……どーすっかなぁ。
「マサルー!」
控え室で頭を悩ませていると、ご機嫌な様子のユウリが満面の笑みを浮かべて俺に抱き着いてきた。バトルの時とはほんとに別人だなと思いながら俺はユウリを抱きとめる。
「ねえマサル! 観てくれた!? 私、カブさんに勝ったよ! 圧勝だよ圧勝!」
「観てた観てた。ったく、とんでもねーなお前も……お前のポケモン達も。すごすぎて俺のハードルが上がりまくってんじゃねえか」
「えへへ~♪」
「ってかお前、さっきの雨で髪が濡れたままじゃねえか」
「あ、ほんとだ。すっかり忘れてた」
「ちょっと待ってろ」
俺はユウリをベンチに座らせてロッカーからバスタオルを取り出し、ユウリの頭をわっしゃわっしゃと拭いてやることにする。
「ユウリ」
「なぁに?」
鼻歌交じりで嬉しそうに俺に頭を拭かれていたユウリが甘い声で聞き返してくる。
「カブさんとのバトル、いつもと雰囲気が違ったろ? 何があった?」
「何が、っていうと難しいんだけど……うーん」
俺が尋ねるとユウリは首をかしげて考え込む。
「なんかね。全部が
「止まって?」
「うん。いつものバトルだとね、集中力が高まってくると相手の考えていることやポケモンの考えていることがなんとなーくわかってきて、景色がスローになってくるの。でも、さっきのカブさんとのバトルは違った」
この時点でとんでもないことを言っているユウリだが、俺は黙ってユウリの言葉を待った。
「スタジアムの歓声も、何もかも聞こえなくなって……カブさんの動きが、ポケモンの動きが全部止まって見えたんだ。それでね、頭の中がスーッとクリアになって、カブさんが『次に出してくるポケモン』とか『次にこんなことをしてきそうだな』っていうのがわかって……それで『私はこうすればいい!』って閃いたことをやったら全部的中した感じかな~」
サイキッカーかよ。でも、思ったよりもちゃんと言語化できてるな。感心感心。とはいえ、ユウリの話を俺が活かせるかどうかは全くの別問題だけどな。
「あんまり参考にならねえなぁ……」
「でもね、私が迷わずに直感に従えたのはマサルのおかげだよ? この前、バウタウンのレストランで『お前はそのままでいい』って言ってくれたでしょ? あれね、すーっごく嬉しかったんだぁ~」
「つまりカブさんに勝てたのは俺のおかげってことだな。おう、ユウリ。俺様のこともっと敬えよ」
「マサルさまぁ~♡ ユウリね、いっぱいがんばったからね、ご褒美欲しいにゃ~ん♡」
「敬えっつったのに何で媚売ってんだ」
強めにタオルでわしゃわしゃしてやるとユウリは嬉しそうな悲鳴をあげるのだった。
あたしはそのバトルが終わってからも、しばらく席を立つことができんかった。
ユウリが強いトレーナーだってことは知っとった。一回だけやけどバトルしたし、ヤローさんやルリナさんとのバトルもちゃんとチェックしていたから。
やけど、やけど……あれは、私の知っとるユウリやなか。
あの子、あんなにすごかったん?
バトル中のあの立ち居振る舞い……あれはまるでダン───
ううん、そんなこと考えたらだめよマリィ。ジムチャレンジを勝ち抜いて、チャンピオンになるんはあたしなんやけん。
「ははっ、さすがだぞユウリ! 俺達があんなに苦戦したカブさんを圧倒して一発で突破するなんて……俺も負けてられないぞ!」
隣でホップは強く拳を握ってやる気に満ち溢れている。うん、ホップの言う通りやね。こんなところでへこたれとったらだめ。まだまだ旅は続くんだから、その中であたしも成長してユウリに勝てばいいだけのこと。
でもきっと、このバトルを見て心が折れてしまったチャレンジャーもいるんだろうな。マリィやってちょっとだけ思っちゃったんだもん。
自分は本当に、ユウリに勝てるのか? って。
ただ、それを今一番感じているのはきっと───
「マサルも大変やね」
「なんでだ?」
ホップが不思議そうに尋ねてくる。ジムチャレンジが始まってからホップと一緒に旅をしとるけど、この子は鈍いのか鋭いのかよくわからん。
「だって、
「ああ、マサルに関しては心配する必要はないぞ」
「なんで?」
今度はあたしが尋ねた。
「あいつは
「……抽象的過ぎてよくわからんよ」
「ん~、確かにそうだな。だったら、マサルと二人で話してみるといいぞ。そうすれば、俺の言ったことを少しは理解できるはずだ」
そういえば、マサルと二人でしっかり話したことってなかった気がする。それこそ、七年ぶりに再会したあの日にホテルのロビーでちょこっと会話したくらい。だってユウリがマサルにもあたしにもベッタリやったし。
マサルの部屋……行ってみようかな? モルペコもマサルに懐いてるし。うん、そうしよう。
べ、別に部屋に行くっていっても変な意味やないけんね。ちょっと二人っきりでお話しするだけだから。
それだけ、それだけ……。
「ホットミルクでいい?」
「あ、ううん。おかまいなく……」
マサルのバトルが延期になって、合流して四人でご飯を食べた後にホテルへ戻り、あたしはマサルの部屋を訪れていた。マサルはあんなバトルを見せられた後なのに特にこれといった変化はなく、むしろあたしの方が緊張している始末。なんでそんなにマサルは平気なん?
「なにマリィ? 緊張してんの?」
「そ、そんなわけ……! 嘘……し、しとるもん……ちょっとだけ」
あたしは顔に熱が集まるのを自覚しながらそう言うと、マサルは目頭を手で押さえて天を仰ぐような仕草をする。どしたん?
「……その言い方、ずるくね? これはネズさんが過保護になりますわ」
「なんで兄貴?」
「自覚がないのがなぁ……」
今度は苦笑しながらそう言った。なんかその言い方、兄貴によく似とーね。
「うらら~♪」
「お、モルペコ。もうちょっとでできるからな。これ食べて待っててくれ」
「こらモルペコ! あんたはすぐそーやってマサルにねだって……ごめんねマサル」
「気にすんな。ほらモルペコ、マリィにもそのクッキーをちゃんとわけてあげろよ」
「うら~」
マサルからクッキーを貰ったモルペコがあたしの方へトタトタと歩いてきてクッキーを渡してくる。この子、ほんとにマサルに懐いとーね。いっつもお菓子とか美味しいものをくれるからかな?
「ほい、ホットミルク。そっちのソファに座ろうか」
「あ、うん……」
あたしは促されるままにソファに座る。マサルはあたしの隣に座ってマグカップを三つテーブルに置いた。
「んで、急にどったの? 俺と話がしたいって」
「えっと……」
なんて説明すればいいんやろ。ホップに言われたのもそうやし、ユウリとカブさんのバトルのことを話したいっていうのもあるし、何より……マサルのことをもっと知りたいと思───ってこれじゃあたしがマサルに恋しとーみたいやなか! ち、違う違う! なんであたしがこんな変なTシャツ着てる男の子に……
「え? もしかして俺に告白するつもりだった? ごめん、答えはジムチャレンジが終わるまで待ってくれない?」
「そげんわけなかろ!!」
思わず方言全開でツッコんじゃった。マサルはけらけら笑っとーし……は、恥ずかしか!
でも、肩の力が抜けた気がする。うん、マサル相手に緊張するとか馬鹿らしかね。
あ、そういえば……このホテルで七年振りに再会した時もこうやってマサルがお馬鹿なこと言って緊張をほぐしてくれたね。ふふっ、マサルは気配り屋さんやね。
「せっかくマリィが心配しちゃっとに……」
「心配……? ああ、ユウリとカブさんのバトルのことか。あいつほんとやってくれたよなぁ! あんなバトル見せられて俺に対するハードルが爆上がりだわ」
「……それだけ?」
「それだけって?」
「こう……プレッシャーを感じたりとか……」
「感じる
マサルはあっけらかんとした様子でそう言った。強がってる……ようには見えんね。本当に、当たり前のように、自然にそう言っている。
「あいつがどれだけ強かろうが、あいつがどんなバトルをしようが……俺がやることとできることは変わんねえからな。
「えぇー……あんな幼馴染が隣におって、目の前であんなバトルを見せられて……それだけしか思わんと?」
「あ~、ユウリの強さを目の当たりにして自分との差を突き付けられて曇らされて落ち込んでウジウジしてたらマリィに優しく慰めてもらえたかもしれないのか。……ちょっとやり直したいからもう一回部屋から入ってくるところからやってくんない?」
「あたし、ウジウジしとー男の背中を蹴り飛ばすタイプの女だから」
あたしはそう言いながら、マサルが実際に落ち込んでウジウジしてたら本当に蹴飛ばすだろうなと思い、笑ってしまいそうになる。ホップやとそうは思わんのやけどね。
「優しく抱き締めて頭撫でたりしてくれないの?」
「してほしい?」
「してほしい」
マサルが躊躇うことなく答えたので、ほっぺたをムニムニ引っ張ることにした。うん、柔らかくってよく伸びるね。
あたしがマサルのほっぺたを弄んでいると、モルペコがマサルによじ登って頭をよしよしと撫でている。ほんとによく懐いとーねこの子。
「おー、優しいなぁモルペコは」
マサルがわざとらしく「チラッチラッ」と言いながらあたしの方を見てきたから、彼のぴょこんと飛び出た可愛らしい前髪の一部を引っ張ってやることにする。
もうちょっと違う髪型にしたらモテそうやのに……でも、この前髪はチャームポイントかも。それに、どっちみちTシャツのせいでだめやね。ただ、マサルがユウリの服を選ぶときにセンスがいいのはわかってたから、今度あたしがマサルに服をプレゼントしてあげようかな?
……って、なんであたしがそこまでせんといかんと?
「ちょっと真面目な話をすると、ユウリが
「そんなに昔から?」
「七年くらい前からかな」
「そんなに昔から!?」
「ただ、思ったより早かった。あと一つか二つバッジを手に入れるまでかかりそうだなっていうのが俺の想定だったから」
マサルは冷静にそう言った。なんというか……ユウリのあの強さを目の当たりにして悲観したり、劣等感を微塵も抱いたりすることなく、それを
ど、どういう精神構造をしとったらそんなことできると?
ホップが言ってた「そういうヤツ」っていうのがわかったようなわからんような……うん。ホップが抽象的に言うのも仕方ないね。
「あいつはバトル中に相手のトレーナーがどのポケモンを出してくるかわかったり、相手のポケモンがどんな動きをするかを察知できたりっていう……未来予知じみた超感覚を持ってんだよ」
「……サイキッカー?」
「なー? 普段はあんなに能天気でぼけぼけしてんのになー?」
し、信じられんけど……カブさんとのバトルで見せた、常に最適解を選び続けてるような動きは確かに、未来予知でもせんと説明できないようなことだった。熟練のトレーナーみたいな経験則による動きじゃない。
あれは本当に、相手が何をしてくるかわかっているかのような動きだった。
「でも、一番すごいのは……解説の人も言ってたけど『どんな状況下でも全てのポケモンのポテンシャルを100%引き出せること』なんだ。同じトレーナーとして、本当に───心の底から尊敬するよ」
お世辞なんかやない。マサルは本心からそう言っている。そっか……あんたは、マサルはそういう人間なんやね。うん、ユウリがあんたに懐いとー理由がよくわかった。
あんたの精神性は理解できんけど。
「マリィ、ありがとな。俺のこと心配してくれて」
「あ、え……別に……。どういたしまして」
「俺、マリィにいらんことばっかり言ってるからこうやって気にかけてくれてくれてすっげー嬉しかった」
「いらんこと言うてるっていう自覚はあったんやね」
でも、それはマサルの良い所でもあるんよ? 緊張せずに気楽にお話しできるし……ただ、ユウリと二人で畳み掛けてくるのはやめてほしか。一人ずつ来んしゃい。一人ずつ。
「ああ、そうだ。できれば、ホップのことも気にかけてやってほしい」
「ホップ? 別に普通……どころかやる気が漲ってたよ」
「あいつは基本的に超絶プラス思考全肯定猪突猛進野郎なんだけど……一度こけると迷走して自分を見失いそうになるヤツなんだ。あんま態度には見せないけど、兄がダンデくんってことも知らず知らずの内にプレッシャーになってると思うんだよ」
マサルの言っていることには思い当たる節があった。ホップと一緒に旅をしてて、あたしはそんなにお喋りする性格やないから、いつもホップが話してくれていたんだけど、ホップのお兄さん……チャンピオンダンデに関する話題がすごく多かった。
ホップがお兄さんのことを心の底から尊敬しているのはわかる。でも、もしかしたらそれは……自分と兄を比較して劣等感に苛まれないための心の予防線だったりするのかもしれない。
「もちろん俺も気にかけるけど……俺みたいな男よりマリィみたいな可愛い女の子に心配された方がホップも嬉しいだろうしな」
「ユウリは?」
「あいつは……俺はともかくホップにとっての地雷になりかねない」
マサルに可愛いと言われて嬉しさを感じつつ尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
でも、よく考えたらユウリくらい飛び抜けた才能のトレーナーに「ホップはホップだよ! ダンデさんと比較する必要なんてないよ!」なんて言われたら……うん。きつか~……。
「うん、わかった。ホップが自分を見失いそうになってたら、ちゃんと手を引いてあげるよ」
「背中を蹴り飛ばすんじゃねえの?」
「それはマサルだけよ。特別」
「……もっと別の特別が欲しかったなぁ」
眉をへの字にしながら困ったように言うマサルを見て、あたしは笑いそうになってしまった。
「どうだ? 俺の言ったことがわかったか?」
「マサルが良い子っていうのはわかったけど……あの精神構造は理解できんやったね」
「ははは。正しい認識だぞ」
マサルの部屋を出てなんとなくロビーにやってくるとホップがいた。すると、あたしに気付いたホップが声をかけてくれる。
マサルのことは、わかったけどわからないこともあるというよくわからない結論に……自分でも何言ってるかわからんね。ゲシュタルト崩壊しそう。
「あいつはな、どんなことでも『ただの現実』として受け入れることができるんだ。ユウリがどれだけ天才でも、この先どれだけ圧倒的な差を見せつけられても、マサルは絶対に劣等感を抱かない……いや、抱く
「……気持ちの切り替えが上手いとか、そういう次元やなかね」
「でも、そんなマサルだからこそ
ホップが自嘲するように言った。ああ、これがさっきマサルの言っていた「ホップにとって地雷になりかねないこと」か。
ホップがおかしいわけやなか。むしろ真っ当な精神をしているとすら思う。うん、どう考えてもおかしいのはマサルやね。過去に何があったら十四歳であんな精神構造になると? 「メンタルが強い」とか、そういうレベルやなか。
「あ、マリィー! ホップー!」
マサルのことを考えていたら、ポケモン達と散歩に行っていたユウリが帰ってきてあたしに抱き着いてくる。この子、人に抱き着くのがほんとに好きやね。
「あれ? マサルは?」
「部屋に引きこもってるぞ。明日のカブさん対策を考えてるんじゃないか?」
「なぬっ!? 私を放って引きこもってるとな!? これはいけない! マサルの部屋に突撃せねば! あ、でもその前にマリィ成分補給~♪」
ユウリがあたしの胸に顔を埋めて思い切り息を吸い込んでいる。こ、こしょばゆか……
「これで百年戦える、ヨシ! 待ってろマサルー! 可愛いユウリちゃんが今行くからなー!」
ユウリはそう言ってバタバタと走り去っていった。あ、嵐みたいな子やね。
「あの二人……付き合ってないの?」
「そういうのを通り越して結婚すると思うぞ」
ホップの言葉に何とも言えない釈然としない気持ちになってしまった。
さーて……明日の作戦を根本から練り直すか。今日、ユウリが圧勝したからカブさんは今日以上に気合いを入れ直してくるだろうからな。ほんとにやってくれたなユウリめ。ハードルも難易度も爆上がりじゃねえか。
カブさんのポケモンに対してタイプ相性で有利を取れるのはジメレオン
まず、レアコイルは無理だ。鋼タイプだしスピードがないから何もできないまま落とされるだろう。次にイーブイ……何ができるかは把握したけど、全体的に能力不足。こちらも何もできないまま落とされかねない。ニンフィアに進化していればまだやりようはあったけどな。
で、ヨーギラスはまだまともにバトルを経験していない上に、心に傷を負っている状態だから最初から出すつもりはない。まずは俺との信頼関係を築くのが先決だ。
最後にヒトモシ。炎技を無効化できる特性持ちだけど……炎技以外で攻められたら落とされる。
ふー……詰んでないか?
読み合いや裏のかき合いでどうにかなる相手じゃない。
いやそもそも、俺は
知識も、経験も、技術も、思考力も、判断力も、何もかもだ。
悔しいが、それが現実だ。だけど、悔やんでいるだけでは絶対に勝てない。その現実を受け入れた上でどうするのか。
本当に、カブさんに勝つ方法は何もないのか。
……いや、あるな。方法が一つだけ。
それは、七年前のセミファイナルトーナメントで俺がソニアちゃんに実行させようとしていた「死に出し戦法」だ。どんな展開になろうとも、どれだけボロボロにされようとも、戦闘不能になるまで相手のポケモンを削らせ続ける。
そして、ジメレオン以外のポケモン全員が戦えなくなったところで満を持してジメレオンを出す。
改めて……酷い作戦だな。勝つためとはいえ、昔の俺はこんな残酷なことをソニアちゃんに提案していたのか。
ゲームをプレイ中の俺なら、迷わずこの戦法を取っていただろう。それこそ「げんきのかけら」やキズぐすりの類を大量に使用して。
「無理だ……できない」
でも、俺はもう知ってしまった。あいつらと一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、一緒に遊んで……一緒に旅をして、知ってしまったんだ。
俺は、かつてのカブさんのように勝つために手段を選ばない男にはなれない、と。
我ながら、甘い。この状況下で唯一の勝ち筋を潰そうとしている。
いや、唯一なんて決めつけるな。もう一度最初から頭の中でシミュレーションを───
「おーい! 引きこもりのマサルくーん! 可愛い可愛いユウリちゃんが遊びにきてやったぞー!」
マリィに続いてユウリもか。今日は来客の多い日だな。
無視して……いやそうすると後が面倒くさい。ひじょーに面倒くさい。ので、俺はベッドから起き上がって部屋のドアを開ける。
「おやつ買ってきたよー♪ 後でみんなと一緒に食べようね!」
にぱーっと天真爛漫に笑うユウリの笑顔を見て安心感を覚えてしまう。そして、そのままユウリを部屋へ招き入れると、俺はさっきのようにベッドにごろんと横になった。
「とーうっ♪」
「ユウリ、重い」
「重くないっ!」
ユウリは寝転がっている俺の腹の上に馬乗りになってぽすぽすと叩いてくる。やめんか。年頃の娘さんがはしたない。
「明日のバトルのこと、考えてたんでしょ?」
「おう」
「勝てそう? ……って聞くだけ野暮だね。マサルだもん」
「そうやってお前はプレッシャーをかけてくるよな~」
「えー? マサルくんったらプレッシャーなんか感じちゃってるの~? 可愛い~♪」
「は? 感じてないが?」
ユウリが「よしよし」と言いながら頭を撫でてくるけど、本当にプレッシャーは感じていない。ただ純粋に、カブさん相手にどう戦うか困っていただけだ。
「改めて考えると、俺がカブさんに勝ってるところって一つもないんだよ」
「若さは?」
「バトル関係ねーじゃん」
「えへへっ。あ、体力! これも勝ってるんじゃない?」
「だからバトル関係ねーだろ」
「きゃーっ♪」
ユウリの脇をくすぐってやるとくねくねとマダツボミみたいに体をくねらせる。男の体の上でそんな風に動くな!
「ん~、確かにカブさんはいーっぱい色んな経験をしてるからマサルよりもすごいトレーナーだと思うよ」
ひとしきり笑った後、ユウリはそう言った。
「だけどね」
さらに、続ける。
「それが───勝てない理由にはならないでしょ?」
ガツン、と。頭の内側をハンマーで殴られたような気がした。
「だって、
その言葉を聞いて俺は、笑った。笑っていた。
ははっ、そうか。そうだよな。俺は、なんでこんな……こんなにも単純なことを忘れていたんだろう。作戦とか、読み合いとか、戦い方ばかり……自分とカブさんの
一番大切な、本当に大切なことを、忘れていた。
そして、その大切なことを、ユウリが思い出させてくれた。
「えへへっ♪ マサルの手、あったかくて気持ちいい……」
ユウリの頬に手を添えると、ユウリは俺の手を取って気持ちよさそうな表情で頬に擦り付ける。そんなユウリを見て俺は、反対の手でユウリの腕を引いて抱き寄せた。
二人で寝転がるように、ベッドの上で抱き合う。ユウリの温かさと柔らかさ、甘い匂いが心地いい。
「ありがとな、ユウリ」
ユウリの頭を撫でながら、俺は言った。
「お前のおかげで、カブさんに───勝てる」
嘘じゃない。強がりじゃない。明確な勝ち筋を、俺は見出した。
「まったくもぉ~」
ユウリが俺の耳元に唇を寄せて甘ったるい声で囁く。
「マサルは私がいないとだめだめなんだからぁ~」
その言葉に答える代わりに……ユウリを強く抱き締め返すのだった。
しばらくそうして二人でベッドの上で抱き合っていると、ユウリの寝息が聞こえてくる。この状況で寝るとかほんとにいい度胸してるというか、無防備というか……
だけど、今の俺には好都合。
「ジメレオン」
「きゅわっ」
ユウリを起こさないようにそっとベッドから降りてジメレオンを呼び出した。
「行くぞ相棒───お前の力が必要だ」
そして翌日、運命の朝がやってくる。
すみません。カブさんとのバトルまで辿り着けませんでした。
ユウリのバトル描写や周囲の反応、マサルの掘り下げ……いや掘り下げられてるのかこれは? ま、まあユウリちゃんが珍しくヒロインっぽいムーブをしたから……これで自惚れイキリ敗北者系ヒロインなんて呼ばれないで済むな! ヨシ!
でもマリィの方がヒロインっぽかったような……気のせいだな!
とにかく次回こそ! 次回こそマサルVSカブです!
ただ、先に予告しておきますが……みなさんが納得できる展開にはならないと思います。ぶっちゃけ、相当批判されることも覚悟しておりますが、それでもよろしければお付き合いください。
では、今回もここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
超絶可愛い完璧ヒロインユウリちゃんにベッドの上で「私がいないとだめだめなんだからぁ~」って甘い声で囁かれたい人はここをぽちぽちしてください!