さて困った。
非常に困った。
まさかこんなところで、というかこんなに早くイッシュの英雄と遭遇するとは思わなかった。なんでトウコさんもガラルに来てるんだよ。しかも俺がNと会ってからまだ数日しか経ってないのに。どんな運命の悪戯だ。
「おぉ~、イケメンさん。マサル、この人知ってる?」
ユウリはトウコさんのスマホをのぞき込んで俺に尋ねてくる。さてさて、どう答えたもんか。
「知ってる」と答える。追及されて色々と説明が面倒なことになる。
「知らない」と答える。どうせそのうち俺とNとトウコさんがばったり遭遇するイベントがあって嘘がバレてとんでもなく面倒なことになる。
うん、ここは正直に答えよう。どっちにしても面倒なことには変わりないけど。
「……数日前に会いました」
「ほんと!? どこ!? どこで会ったの!? 何か話した!? 白いドラゴンポケモンと一緒にいた!?」
答えた瞬間、俺が想像していた十倍くらいのリアクションでトウコさんが食いついてきた。キスできそうなくらい思い切り俺に顔を近づけて問い詰めてくる。近い近い近い近い!! ゲームだとカタギじゃない目をしてたけど、普通に美人さんなんだからそういうのはやめて!!
「近いです。ちゃんと話しますんで、とりあえず少し離れてください」
「あっ……ごめんね。つい興奮しちゃって。今まで色んな街を訪れたんだけど……『見た』って言ってくれた人に初めて会ったから」
まあ、Nの素性を考えればそうだよな。世界を旅しているとはいえ、イッシュで色々やらかしたんだから他の人と深く関わることは避けてたんだろうし。なぜか俺には絡んできたけど。
「落ち着ける場所に行きましょう。俺達、今から近くのカフェに行くところだったんで……そこでいいですか?」
「うん。大丈夫だよ」
トウコさんはそう答えるなり、俺達二人を交互に見て何やらハッとした表情になったかと思うと、途端に申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんなさい! 二人の時間を邪魔しちゃって……」
ああ、なるほど。俺達の仲をそういう感じで誤解しちゃったんですね。まあ確かに、年頃の男女が手を繋いで歩いてたらそういう風にも思っちゃうわな。
「だとさユウリ。一言どうぞ」
「……知り合っていたのか、ホップ以外のイケメンと!?」
「こんな感じなんで気にする必要ないです。あと、俺達は普通の幼馴染なので」
「幼馴染……なるほどね!」
俺の言葉にトウコさんは頷く。この人にも二人の幼馴染がいるからすぐに納得できたんだろう。そういや、幼馴染の二人はこっちに来てないのか? まあ、来てたとしてもベルちゃんを知らない街で単独行動させたりしないか。
さてさて、とにかくバトルカフェでトウコさんに尋問されましょうかね。
「改めて自己紹介するね。あたし、イッシュ地方出身のトウコ。ガラルに来てまだ一週間くらいで……さっき見せた写真の男の人を探しに来たんだ」
バトルカフェに入り、各々好きな物を注文したところで改めて自己紹介タイムに入る。
万が一にも人違いの可能性があるかもと思ってたけど、どうやら本当にイッシュの英雄様らしい。で、トウコさんはガラルに来て一週間か……それで唯一Nと遭遇した俺とエンカウントするのはさすがの主人公力としか言いようがないな。
「ユウリです! こっちの変なTシャツを着てるのはマサル! ジムチャレンジっていうイベントの参加者です!」
「ジムチャレンジ……噂には聞いていたけど、面白そうなイベントよね。できることならあたしも参加したかった~!」
「イッシュのチャンピオンが参加したら蹂躙にしかならんでしょ。それに、参加するには推薦状が必要です」
「だったらあたしはあたしを推薦する! チャンピオンって肩書があれば……って、あたしのこと知ってるの?」
「知ってますよ。二年前の事件のことを色々調べましたからね」
嘘じゃない。実際にあの事件については本当に色々調べたからな。情報規制されてた部分も多かったけど、元の世界でもあったようなネット掲示板を見て回ってたらそれなりに情報が集まったんだ。
「え!? トウコさんってイッシュのチャンピオンだったんですか!?」
「そうだよ~。といっても、チャンピオンの業務……というかリーグの業務は
「すごーい! 実は私達、ホウエンのチャンピオンさんとも知り合いなんです! ちょうどガラルに来てるんですよ!」
「へえ……会ってみたいわね」
トウコさんの眼力が鋭くなった。はわわ……あ、あの目だ……ゲームで見てたあの目だ……。どうしよう、ちょっとドキドキしちゃう。
って、そんな恋する乙女みたいな反応はどうでもいい。それよりもトウコさんは今、ものすごく気になることを言っていた。
お兄ちゃん?
「お兄さんがいらっしゃるんですか?」
「うん。イッシュで
俺が尋ねると、トウコさんは満面の笑みでスマホを俺達に見せてくる。画面に映っていたのは赤と青のキャップを被り、左右に跳ねた茶色のミディアムヘアーが特徴的なイケメン。ちょっと待てこれはイケメン過ぎるだろ。こんなイケメンと二人きりで観覧車イベント……? 俺が女の子なら絶対好きになるわ。
ユウリはユウリでトウヤさんと俺の顔を見比べて「あちゃー」みたいな表情してるし。何やねんそのリアクションは。俺とトウヤさんを比べんな。
「ユウリ、その反応は俺に失礼だと思わんのか?」
「あれ~? どうしたのマサルく~ん? もしかして可愛いユウリちゃんがトウコさんのお兄ちゃんに見惚れちゃったことに嫉妬してるの~? 嫉妬ちゃんなの~? ふふっ、お可愛いこと♪」
ユウリが笑いながらメスガキみたいなことを言ってきたので、わからせの意味も込めてユウリにヘッドロックをかけてやることにする。別に嫉妬はしてないけどお前の言い方が腹立つんだよ。
「お待たせしました~。マホイップパフェとケーキセットとクリームソーダでございます」
「あ、パフェとケーキセットは俺のところに、クリームソーダはそちらの彼女にお願いします」
「パフェは私のーっ!」
俺の腕の中でじたばた暴れるユウリを見ながらトウコさんはクスクスと笑っていた。さて、注文した物も揃ったし、ぼちぼちNのことについて話してあげるとしますか。といっても話せることはあんまりないけど。
そう考えてユウリを解放してやると、尻尾を踏まれた猫みたいに「きしゃーっ!」と警戒態勢になっていたので、俺のケーキの苺をユウリのパフェの上に乗せてやると途端にご機嫌になった。可愛いヤツやなほんまに。
「仲が良いのね、二人とも」
「なんやかんや十年近くの付き合いですしね」
トウコさんは地元の幼馴染を思い出したのか、懐かしむような視線を俺達に向けている。イッシュの事件が起きたのは確か二年くらい前だったから……それからすぐにNを追ってきたんだとすれば二年はイッシュに帰ってないんだよな。そりゃあ懐かしくもなるか。
「じゃあ、俺と彼が会った時のことを話しますね」
俺はあの夜の出来事をトウコさんに話した。なぜNが俺に話しかけてくれたのか。なぜNが旅をしているのか。Nは一体何を追い求めているのか。
そして、伝説のポケモンレシラムのこと。
俺はあの夜にNと話したことを全て包み隠さず話した。いや、包み隠さずっていうのは嘘だな。最後のパパ活うんぬん以外はすべて話した。だってパパ活のことなんて話しても意味わからんだろ。
「そっか。じゃあ、今Nがどこにいるかはわからないんだね」
「お役に立てなくてすみません」
「君が謝ることじゃないよ。むしろ、しばらくあいつがガラルにいるってわかっただけでも大収穫! あたしもせっかくだからジムチャレンジを最後まで観ていこうかな~」
「いいと思いますよ。これ、彼にも言ったんですけど……ガラルはトウコさんが追い求める理想に近いんじゃないかって」
「……ガラルは良い所だよね。まだ一週間くらいしか滞在していないけど、人とポケモンの結びつきがとても強いと感じてる。トレーナーとしてだけじゃなくて、ね。きっと、ここに住んでいる人達は他の地方の人達よりもポケモンを身近な存在だと受け入れられているんだ」
彼女がそう感じるのは間違いなく、ジムチャレンジの影響が大きい。そこらの草むらや川や山に行けばいくらでも野生のポケモンと出会えるが、誰も彼もがポケモンを戦わせることができるトレーナーというわけではない。
だけど、ガラルに住む人達はメディアを通して、あるいはスタジアムで、ポケモン達のバトルを目にする機会が他の地方よりも圧倒的に多い。ポケモンバトルを興行化させることは経済の活性化につながるだけじゃなく、ポケモン達への興味や関心、深い理解へとつながっている。
トウコさんが「人とポケモンの結びつきがとても強いと感じてる」と言っていたのは、これらの要因があってこそ、だ。
「ポケモンと人間が支え合い、助け合い、信頼し合う。理想的な共存関係を築くには、何よりも相互理解が必要です」
「ポケモンと人間だけじゃなく、人間同士の相互理解も……だね」
「主義主張が違う彼とわかり合ったトウコさんが言うと説得力がありますね」
「でしょー? ほんとに大変だったんだからね! 変なおっさんが演説してるわ、行く先々で絡まれるわ、伝説のポケモンを復活させるわ、ポケモンリーグはぶっ壊すわ……挙句の果てに、ようやくわかり合えたと思った相手が勝手に納得してどっか行くわ」
「どちらが強いかを決める戦いじゃない……お互いの信念を懸けた、言わばイデオロギーの戦いですよね」
「そうなのよ! 幼馴染やお兄ちゃんと一緒に、みんなで楽しく旅をしようって思ってたのにどうしてこうなったのかしら?」
元も子もないことを言ってしまえば……そういう運命だった、そういう星の元に生まれてしまったってことだろう。でもそれは他人事であるからそう言えるだけであって、巻き込まれた本人にしてみればたまったもんじゃない。
だからこそ、俺は彼女に聞いてみたかった。
「後悔していますか?」
「……え?」
「プラズマ団との、彼との戦いで……真実を追い求める彼に対して、自分の理想を貫き通したことを」
尋ねながら、俺は彼女がどう答えるかわかっていた。
「まさか、そんなわけないじゃない」
彼女は、迷わなかった。
「後悔するくらいなら、初めから関わろうとなんてしなかったわよ。確かに色々あったし、ものすごーく大変だったけど……あの経験があったから、今のあたしがある。もちろん、Nの言うことにもプラズマ団の主張にも理解できる部分はあったわ。それでもあたしは、自分の理想を貫き通すと決めた。だから絶対に迷ったりしない」
笑顔でそう言ったトウコさんを見て、わかった。きっと、Nがイッシュを彼女に託したのは、彼女のこういう部分に惹かれたからなんだろう。
「む~……」
パフェを貪っていたユウリがほっぺたに生クリームを付けたまま腕を組んで唸っている。悪い悪い、ユウリにはちょっと難しい話だったな。
「ポケモンの解放なんて考えたこともなかったな~。小さい頃からずっと身近にポケモンがいたし、今もみんなと仲良く旅をしてるもん。だからみんなと別れるのは……やだな。これからもずーっと一緒にいたい」
「……みんなユウリみたいないい子ばかりだったらよかったのにね」
トウコさんが優しく微笑んでユウリの頭を撫でると、途端にユウリは気持ちよさそうに目を細めた。結局のところ、ポケモンだろうが優れた技術だろうが、悪用しようと思えばいくらでも悪用できる……要は扱う側の問題だ。
「みんなこいつみたいになったら世界の主食がカレーになりますよ」
「それの何が悪いんだーっ! カレーはいい……人類が生み出した文化の極みだよ」
人類補完計画でも始めるつもりかよ? それに、どっちかっつーとそのセリフはNの方が似合う。
「あ、そうだマサル」
「なんだよ?」
「イデオロギーって何? コオロギの仲間?」
「お、よくわかったな。イッシュで見つかった新種のコオロギポケモンだよ」
「こらっ、嘘ばっか教えないの!」
トウコさんに怒られてしまったので、ユウリのほっぺたについている生クリームを拭ってやりながらイデオロギーについて説明するもユウリからは生返事しか返ってこない。あんまり理解してない時の反応だなこれ。
まあ、お前はそれでいいよ。これまで通り、ポケモン達と仲良く楽しく一緒に過ごせばいい。それが一番なんだから。
「はっ!? あ、あれって店長さんのマホイップかなっ!? ま、マサル……近くで見てきてもいい?」
「……迷惑にならないようにな」
「うんっ!」
ユウリは目を輝かせてマホイップの方へぱたぱたと駆け寄っていく。店長さんと話して抱っこさせてもらっているみたいだな。ほんとに人と仲良くなるのもポケモンと仲良くなるのも上手いヤツだ。……っつーかあいつ、さっきまでマホイップパフェ食ってたよな?
「なるほどね。やっとわかった」
「何がですか?」
コーヒーを飲んでいたらトウコさんが頬杖をついてニヤニヤしながらそう言った。何ですその顔?
「あたしが君達に話しかけた理由。最初はポケモンバトルが強そうだからだと思ってたけど……違った」
そういや最初に「バトルが強そうなお二人さん」って言ってたな。ユウリはともかく、俺の服装を見てよくそんな判断ができましたね。
「マサル、君は───お兄ちゃんに似てるんだ」
「……はい?」
即座に言葉の意味を理解できず、首をかしげて聞き返してしまう。
「ユウリへの接し方を見ててね、懐かしく感じちゃって……昔からお兄ちゃんはあたしにあんな感じだったな~って思い出したんだ」
「……まあ、確かにユウリは手のかかる妹みたいなもんですからね」
昔からそうだ。危なっかしくて、放っておけない。ちゃんと手を握っておかないと、どこへだって駆け出して行ってしまう。ただ、あいつはたとえ俺がいなくても、いざとなれば一人でもなんやかんやできるヤツではあるからな。
「マサルの雰囲気がどことなくお兄ちゃんに似てたから、思わず声をかけちゃったんだね」
「トウコさんってブラコンですね」
「悪い~? あんな格好良いお兄ちゃんがいたらブラコンにもなるでしょ~?」
トウコさんがそう言って俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる。逆に、トウコさんみたいな妹がいたらシスコンにもなるだろうな。この人もユウリと同じで目を離したらどこに行くかわかんないような人だし。現にチャンピオン業務をほっぽり出してガラルに来ちゃってるし。
「そんなイケメンなトウヤさんだったら……女の子はさぞ放っておかないでしょうねぇ」
何気なくそう言うと、今度はトウコさんが俺の頭を両手でガシっと掴んできた。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
「わかる!? お兄ちゃんってすごく優しくて気配りできて格好良くて昔っからすごくモテてたのよそれが一緒に旅をするともっと顕著になってライモンシティでOLやらミニスカートの女の子やら幼稚園児やらと二人っきりで観覧車に乗ったりしてそれだけじゃないのよなんかジムリーダーのカミツレさんとかフウロさんとか挙句の果てに四天王のカトレアさんまでお兄ちゃんをいやらしい目で見るようになってお兄ちゃんが欲しければあたしに勝ってからにしなさいよ!!」
めっちゃ拗らせてる。というかトウヤさんだけギャルゲーの主人公みたいになってない? それに、トウコさんに勝てる相手とか……それこそ他地方の主人公レベルじゃないとどうにもならないだろうなぁ。ハルカさんとか……あかんユウキくんの脳が破壊されてしまう。トウヤさんは他の地方に行ったらだめだな。イッシュに幽閉しておかないと。
「いや別にねお兄ちゃんが人気者なのはすごく嬉しいのよだってあんなに格好良いんだからでもそれとこれとは話が別でお兄ちゃんの一番はあたしだってわかってるしあたしのこれが子供じみた嫉妬だってわかってるけどお兄ちゃんが女の人に囲まれてるのはモヤモヤしちゃうの~っ!」
可愛い人だなこの人。ゲームであんな眼力してたからもっとバトル狂っぽいイメージがあったけど、どこからどう見ても普通の……いや普通じゃないな。年頃のお兄ちゃん大好きっ子だ。絶対小さい頃から「お兄ちゃんと結婚する!」って言ってたタイプだな。
「だからといって、トウヤさんの邪魔をしたいわけじゃないですよね?」
「当たり前でしょ。お兄ちゃんの幸せはあたしの幸せでもあるんだから! はぁ~、昼ドラみたいなドロドロした展開にならずになんとかお兄ちゃんの周りから女の人を遠ざけることってできないかな?」
「できますよ」
「できるのっ!?」
トウコさんが目をキラッキラと輝かせながら身を乗り出してくる。だから顔が近いですって。
「どうするの!? どうすればいいの!?」
「ふっ……そんなの簡単ですよ」
俺はそう言って得意気に胸を張り、告げる。
「このでんせつTシャツを───トウヤさんに着せればいいんです!!」
「なるほど! ……なるほど?」
「順を追って説明しますね」
一瞬で納得しかけたトウコさんだけど、どうやら正気に戻ったらしい。俺は別にふざけて言ってるわけじゃなくて、むしろ至って真面目に言ってるからな。
「お話を聞く限り、おそらくトウヤさんも相当なシスコンであるということが想像できます」
「そうね! お兄ちゃんはあたしのことが大好きだから!」
「そんな大好きな妹からのプレゼントだったら何でも喜んでくれますよね?」
「うん。誕生日にケーキを作ってあげた時、ちょっと失敗しちゃったけどすごく喜んで食べてくれたのよ」
「お~、心温まるエピソード」
「……その後、三日間くらいお兄ちゃんが寝込んじゃったけど」
「話を続けます」
食あたりだな。それでもちゃんと完食するあたりトウヤさんは兄の鑑と言ってもいい。
「大好きな可愛い可愛い妹が数年ぶりにイッシュに帰ってきて旅のお土産として服をプレゼントしてくれたら、優しいトウヤさんは絶対にそれを着てくれますよね」
「うん。間違いないわ」
「それがたとえ───絶望的なセンスのでんせつTシャツであっても」
「あ、マサルもそれが絶望的なセンスだっていう自覚はあったのね。ツッコもうかどうしようか迷ってたのよ」
「これ……ジムチャレンジに参加する時にばあちゃんがプレゼントしてくれたんです」
「それは……うん。着てあげないといけないわ」
事情を話した途端、トウコさんはものすごく慈愛に満ちた表情で俺を見てきた。
「俺が利用するのはまさに、その心理です」
可愛い妹が「お兄ちゃんのためにお洋服買ってきたよ♡ ずーっとこれを着ててね♡」って言ったらシスコンなトウヤさんは間違いなくでんTを常用するだろう。俺のように。そして、ものすごいイケメンがいきなりクソダサTシャツを着るようになった時に、彼に思いを寄せる女性陣はどうするのか。
受け入れるか、拒絶するか。
拒絶するのであれば、トウヤさんに対する愛はそこまでだったということだ。
そう、つまりこれは……トウヤさんへの愛を示す試練でもあるんだ。この程度の障害を乗り越えられないようであれば、トウヤさんの隣に立つ資格などありはしない。
さらに、この方法だと昼ドラにあるような女達の醜くドロドロした足の引っ張り合い、蹴落とし合いも避けることができる。
つまり、トウコさんが望む……誰も傷つかない平和的で理想的な解決方法(トウヤさんにかかる負担は度外視)なんだ! さすがトウコさん。理想を司るゼクロムを従えるだけはある。
というようなことを語ると、トウコさんは目を輝かせていた。
「マサル……いいえ、マサルさん! 君は天才なんだね!」
「ちなみにこのTシャツ……めちゃくちゃ品薄ですが、これを作ってる会社は俺のスポンサーなので喜んで提供してくれると思います」
「君は良い男だね! お兄ちゃんとチェレンの次くらいに」
「照れますね」
残念ながらここで「Nのことは?」なんて聞く度胸は俺にはない。
とりあえず前に名刺をくれた営業の美人なお姉さんにメールしとこ。「イッシュのチャンピオンがでんTを欲しがってます」ってな。すると、爆速で返信があった。どうやらナックルシティのブティックに在庫という名の売れ残りがあるらしい。
「マサルのおかげで悩みが解決できそうだよ。ありがとうね!」
どういたしまして。俺としても同士が増えるのは嬉しいことなんで。
「お礼と言ってはなんだけど……そんな君に、おねーさんからアドバイスだ。というより余計なおせっかいになっちゃうかな?」
「アドバイス?」
さっきまでの可愛らしい笑顔とは打って変わって、トウコさんは真剣な表情でこう言った。
「ユウリを───
ユウリを、独りに。その言葉の意味が、俺にはわかる。わかってしまう。
やっぱりあなたも気付いているんですね。あいつの力が、才能が、他を寄せ付けないくらい圧倒的で、頂点に至るものなんだって。
そして、俺がそれを知っているということにも気付いている。だからこそ、あえてたった一言で、俺に告げたんだろう。
「あたしは今までたくさんのトレーナーと戦ってきたけど、あの子は多分……あたしと同じような力を持っている。だから、わかっちゃうんだ。今はただ、ポケモンと一緒にいることが楽しくて、バトルをすることが楽しくて、みんなと競い合うことが楽しいから……あの子は気付いていない。だけどね、いつか必ず───どうしようもない孤独感に襲われる時がやってくるよ。必ずね」
彼女も体験してきたんだ。圧倒的な才を持つが故に。ダンデくんと同じように。
だけど彼女はそれに押し潰されることも、心を失うこともなく、こうして俺達に笑顔を見せてくれている。
それはきっと、彼女には兄がいたから。幼馴染がいたから。
そして、俺はおそらく、トウコさんの言う「どうしようもない孤独感」を理解できることはないだろう。そんなことは、俺自身が一番よくわかっている。
だからどうした?
そんなもん、俺には関係ない。俺
「ユウリを独りに……か」
だって。
「そんなこと───
ぽつり、と。ほとんど無意識の内に俺の口からそんな言葉が零れていた。
たとえあいつがこの先、どれだけの才能を見せつけようとも。どれだけの偉業を成し遂げようとも。
俺にとってユウリは……。
お転婆で、目が離せなくて、放っておけなくて、カレー好きで、頭を撫でられるのが好きで、甘えたがりで、表情がころころ変わる可愛いヤツで。
欲しい時に、本当に欲しい言葉をくれて。
そばにいると、一番安心する……そんな、俺の大事な大事な───
「そっか」
その時俺は、自分がどんな表情をしていたのかははわからなかったけれど。
「君は、ユウリのことが大好きなんだね」
目の前にいるトウコさんは安心したように優しく笑っていた。
「好きじゃなきゃ、一緒にいませんよ」
答えつつ、俺が視線を移すと、マホイップからクリームをもらって嬉しそうに俺達の方へ駆け寄ってきているユウリが視界に入り、俺は頬を緩ませた。
【悲報】歴代屈指のイケメン主人公トウヤさん、でんTを着ることが確定してしまう
いいお尻をしたトウコちゃんとの楽しいお茶会でした。
本当はこの後にトウコ、ユウリ、カジッチュイベントの少年と一緒にカジッチュを捕まえて少年が告白するシーンを見守ろうとするも「これ以上は野暮だな」って感じで、三人でクールに去って「Get Wild」を脳内で流しながら「止めて、引く」オチにしようと思いましたが、温度差で風邪引きそうだったのでやめました。
あと、理想を司るゼクロムが伝説のカレーという理想を追い求めるユウリのカレーキチっぷりにたじろぐという、ユウリが伝説のポケモンを圧倒する主人公ムーブシーンを入れようかとも思いましたが、ナックルシティでゼクロムなんて出せないと思い断念。次にトウコと再会した時にゼクロムと会えたらいいね。
そして、マサルがユウリのことをどう思っているのかについて軽く触れました。ユウリ視点にするとなぜかユウリの「ひろいんぢから」が低下するのでマサル視点で「ひろいんぢから」を発揮させるという私のファインプレー。
なんだかんだ、マサルがユウリのことをとても大事に思っているということがみなさんに少しでも伝われば嬉しいです。
次回はラテラルタウンに向かう道中のお話になります。私が余計なことを思いつかなければ無事に辿り着いてボールガイと再会するでしょう。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
ユウリを曇らせたいとかサイトウやマリィに寝取らせたいとか色々なご意見がありますがなんだかんだメインヒロインが笑顔で終わるハッピーエンドな王道ラブコメが好きな人はここをぽちぽちしてください!