結論から言おう。
ユウリとサイトウちゃんのバトルは───ユウリの圧勝だった。
「カポエラー!」
「……メタング」
一体目、カポエラーVSメタング。
カポエラーはスピードこそ平均以下だが、耐久に優れた物理アタッカー。それに対してメタングも耐久に優れた鈍足の物理アタッカー。奇しくも、同じ戦闘スタイルのポケモン同士による対決。
「トリプルキック!!」
スピードはカポエラーの方が上だ。一気に距離を詰めてきたカポエラーの強力な蹴りがメタングに襲い掛かる。
「しねんのずつき」
が、動じない。攻撃を受けきったメタングは、即座に強烈な頭突きをカポエラーにお見舞いする。
メタングは鋼とエスパーの複合タイプ。本来であれば鋼タイプの天敵である格闘技だが、それをエスパーで相殺できるポケモンだ。しかも物理耐久がとてつもなく高いので、たとえ有利なタイプでも物理技で体力を削り切るのは至難の技。
そして、カポエラーも物理防御、特殊防御の両方に秀でたポケモン。エスパー技とはいえ、一撃で落とされるほど脆くはない。しねんのずつきにより体勢を崩されながらも、再び攻撃態勢に入る。
「もう一度!! トリプルキック!!」
カポエラーが助走をつけ、もう一度メタングに強力な蹴りを繰り出した。
その瞬間───
「てっぺき」
カポエラーの表情が、苦悶に歪む。
てっぺきによりさらに固くなったメタングは微動だにしない。それどころか、攻撃を繰り出したカポエラーの方が足を痛めてしまう始末。
「くっ……一度下がって体勢を───」
このまま考えなしに攻撃を続けてもメタングを倒せないと判断したサイトウちゃんは、カポエラーにメタングから距離を取らせる。
だが、それこそがユウリの狙いだった。
「サイコカッター」
非接触かつ遠隔の物理エスパー技。
メタングに遠距離技はないと判断し、距離を取ったカポエラーに無数の刃が襲い掛かる。
しねんのずつきで体力を削られていたことに加え、さらにカポエラーにとって不利なエスパータイプの物理技。メタングの攻撃力も相まって、カポエラーが倒れた。
「戻って、メタング」
そしてユウリはあっさりとメタングを下げた。てっぺきを積んで防御力が上がっていたにもかかわらず、モンスターボールの中へ戻す。
理由は単純。サイトウちゃんが次に出すポケモンが───
「ゴロンダ!!」
「行っておいで、ルカリオ」
メタングにとって不利な相手と
ゴロンダは物理攻撃力だけならば、カポエラーはおろかルカリオすらも上回るポケモン。そして、ゴロンダとルカリオの二体にはある共通点があった。
それは、両者共に格闘タイプでありながら、格闘タイプが弱点であるということ。
「ゴロンダ!! ともえな───」
「はどうだん」
しかし、両者の間には埋めようのない絶対的な差があった。
それは、スピード。
ゴロンダは圧倒的な
対してルカリオも耐久力こそ高くはないものの、それを補って余りある物理、特殊の高速両刀アタッカー。同じ格闘タイプとはいえ、その戦闘スタイルには大きな差があった。
そう、何もゴロンダと同じ間合いで、ゴロンダの得意な間合いで勝負する必要などない。
「一、撃……」
サイトウちゃんが、悔しそうに歯噛みする。対してユウリは状況を冷静に分析しているのか、表情から感情が消えているようにすら思えた。あいつも、あんな顔ができるんだな。
実際に対峙していなくてもわかる。あの風格、ユウリのヤツ……本当に───
「ネギガナイト!!」
サイトウちゃんの三体目はガラルカモネギの進化形、ネギガナイト。ユウリはルカリオを交代させず、そのまま戦わせるみたいだ。
「ネギガナイト、みきり!!」
ルカリオは両刀の高速アタッカー。ネギガナイトはゴロンダ以上の物理攻撃力を持っているとはいえ、スピードはルカリオに及ばない。だからこそ、ルカリオの攻撃を不発にさせ、カウンターないしリベンジでルカリオを沈める算段だったのだろう。
だが。
「めいそう」
ユウリの読みは、サイトウちゃんの上を行く。
サイトウちゃんが様子見してくるということを読み切ったユウリが選んだのは、積み技。耐久力の低いポケモンに積み技を命じるタイミングは相当にシビアだ。下手をすれば、何もできずに落とされる可能性だってある。
事実、結果論にはなるが、ここでサイトウちゃんがネギガナイトに格闘技を命じていれば、落ちていたのはルカリオの方だっただろう。
「くっ……!! スターアサルト!!」
ネギガナイトだけが扱える専用技。絶大な威力と引き換えに、技を出した後は反動で少しの間身動きが取れなくなってしまうという諸刃の剣。はかいこうせんやギガインパクトの同種。
命中すれば、ルカリオはひとたまりもないだろう。
そう、
「ルカリオ───
重ねて言うが、ユウリの読みは、サイトウちゃんの上を行く。
だがそれは決して、サイトウちゃんが弱いというわけではない。
ユウリが───強すぎるんだ。
ネギガナイトのスターアサルトを完全に見切ったルカリオは冷静に回避。
そして、スターアサルトは
「サイコキネシス」
めいそうで特攻を上昇させていたルカリオの強力な特殊技が、ネギガナイトに襲い掛かった。
これで、サイトウちゃんの残る手持ちは───一体。
(この、威圧感……プレッシャー……。まるで、チャンピオンダンデと対峙しているかのような───ああ、そうか。そういうことだったんだ。開会式でキバナさんが言っていた「ぶっちぎりでヤバい」のは……この子のことだったんだ)
止められない。今のユウリは、才能を開花させたユウリは……
「素晴らしい……本当に素晴らしいです、ユウリさん。ですが私も、ジムリーダーの端くれ!! この程度で!! 折れるわけにはいかない!! カイリキー、キョダイマックス!!」
「……エースバーン、ダイマックス」
最後は互いのエースポケモン同士によるダイマックスバトル。
勝敗の結果は───言うまでもないだろう。
「ありがとうございました。ユウリさん……あなたは、私が出会った中で一番強いチャレンジャーでした。余計なお世話かもしれませんが……その強さに傲ることなく、これからも皆と共に高め合ってください」
「はい……ありがとうございます」
「この先も、たくさんの出会いとたくさんの戦いがあるでしょう。それら全てが、あなた達の心の糧になりますように」
「あの……サイトウさん」
「はい。なんでしょう?」
「さ、サイトウさんは……ま、マサルのこと……どう思って、ますか?」
「マサル、ですか? そうですね……私にポケモントレーナーとしての在り方を示してくれた恩人であり、互いに高め合うライバルであり、良き友人……そんな、特別な人です」
「と、特別ですか……」
「(ああ、なるほど。そういうことですか)……安心してくださいユウリさん───マサルを取ったりしませんから」
「にゃっ!? にゃにゃにゃにを言ってるんですかっ!? べ、別にしょんなの気にしてにゃっ!! 気にしてないですっ!! ありがとうございましたっ!! さようならっ!!」
ユウリとサイトウちゃんはバトルを終えた後、バトルコートの中心で何やら話していたみたいだけど、小声で何言ってるかわかんなかったな。サイトウちゃんに耳打ちされてユウリが顔を真っ赤にして出て行って……何を言われたんだあいつ。
「まあいいや。待たせたなランプラー……
「ぷら~♪」
サイトウちゃんに勝つための切り札も奥の手も、全ての策を用意してきた。戦い方も決めた。あとは俺が、どれだけポケモン達の力を引き出せてやるかにかかっている。
そんな風に気合いを入れ直していたところに、バトルを終えたユウリが控え室に飛び込んできた。
「お疲れユウリ、また圧勝───」
労う前に、ユウリが顔を真っ赤にして俺に抱き着いて胸に顔を埋めてくる。ほんとにサイトウちゃんに何を言われたんだ?
「おーい、ユウリ~?」
「う~……」
「それじゃわかんねえよ」
「わかんなくていい! マサルはわかんなくていいのっ! だからもうちょっとだけこうさせてっ!」
「だから」の意味が全然わかんねえけど、お前がそれで落ち着くんだったら好きにしろよ。俺はため息を吐きつつ、ユウリの頭を撫でてやる。
「マサル~……」
「なんだよ?」
しばらくそうしてあやしていると、少し落ち着いたらしいユウリが俺にくっついたまま上目づかいで見上げてきた。
「……負けないでね」
ったく、誰に向かって言ってんだよ。
「エンジンシティでお前が言ってくれたろ? たとえ相手が俺よりどれだけ優れたトレーナーだろうと……『勝てない理由にはならない』って」
あの言葉で、俺がどれだけ救われたか。
なあ、気付いてるか? 俺はな、お前が思っている以上に……お前に感謝してるんだ。
「勝つのは俺だ───ランプラー、覚悟はいいな?」
「ぷらっ!」
さあ、約束を果たしに行こう。
『エンジンスタジアムに続き、ここラテラルスタジアムでも盤石の強さでサイトウを圧倒してみせたユウリ選手の活躍に会場がどよめきを隠せない中、次のチャレンジャーは、いよいよ皆様のお待ちかね……ある意味、このジムチャレンジで大注目、話題沸騰中のこの男! ジムミッション中の「思いついてもやらないだろ」を躊躇いなく実行し、壊滅的なファッションセンスとは対照的なバトルセンス、クレバーな立ち回り、エンジンシティでのカブとの名勝負は皆様の記憶にも新しいでしょう! まさに、ハロンタウンが生んだ生粋のエンターテイナーでありトリックスター! マサル選手の登場です!』
バトルコートに足を踏み入れた瞬間、文字通りスタジアムが揺れた。
なんつー盛り上がりだよ。実況の人もやけに熱が入ってるし……注目度が上がってるとは思ってたけど、ここまでとはな。
別に、悪い気はしない。
注目されるのも、期待されるのもとっくの昔に慣れっこだ。
今さら、こんなことで動揺したり、プレッシャーを感じたりなんてしねえよ。
『スタジアムは超満員!! それもそうでしょう!! 何を隠そうこのマサル選手は、ジムリーダーサイトウの推薦!! 幼い頃に二人で交わした約束を……七年の時を経て、チャレンジャーという立場で果たしに来た!! この因縁の対決を!! 見逃す手があるのか!!』
煽るねえ。ただ、そういうことを意識してないって言ったら嘘になる……それどころかめちゃくちゃ意識してるわ。もう二度と、こんな風に……自分が大歓声を浴びることになるなんて、思ってもいなかったんだからな。
ああ、本当に───懐かしい。
「お久しぶりです。こうして直接顔を合わせて話すのは……それこそ、七年振りでしょうか」
「そうだな。ちょくちょく電話はしてたけど……実際会って顔を見ると、色々こみ上げてくるものがあるよ」
「ええ。私もです」
バトルコートの中心で、サイトウちゃんと向かい合う。随分と穏やかな笑顔だな……まあ、かくいう俺も顔のニヤケを抑えられないんだけど。
「正直、今年のカブさんの強さを見て……マサルはカブさんに勝てないんじゃないかと思ったりもしました」
「おいおい、ひでーな」
「マサルだって、私がオニオンくんに負けると思ってたって言っていたでしょう? これでお相子ですっ!」
若干拗ねたように言うサイトウちゃんの表情が面白くて思わず笑ってしまった。あんなに真面目なのに、こういう意趣返しもできるようになったんだな。
「ははっ」
「ふふっ」
どうやら、サイトウちゃんも俺と同じ気持ちらしい。俺達は向かい合ったまま、互いに笑い合う。
「髪型、変えたのですね」
「ジムミッションと、こういうバトルの時だけな。この方が、気持ちを切り替えられて気合いが入ると思って」
「よくお似合いですよ。素敵です」
「ありがと。ダンペイさんは褒めてくれなかったからなぁ……」
(スタジアムでのバトル中だけ髪型を変える!? くぅ~……格好良い!! 格好良過ぎます!! バトルスタイルって感じで心を揺さぶられますっ!! わ、私も真似してみようかな? こう……お団子にするような感じで……うーん、ありっ! ふっふっふ~、今日のお仕事が終わったら美容院に行ってみよう)
サイトウちゃんはなぜか目を少年のようにキラキラさせて俺の髪型を褒めてくれた。いや、気持ちは嬉しいけどどうした? なんでそんなに身悶え……というかうずうずしてんの?
早くバトルしたいって感じ?
「俺さ、今日のこの試合……すげー楽しみにしてたんだよ」
ダンデくんに初めてポケモンを貰った時の高揚感とも、初めてスタジアムに立った時の胸の高鳴りとも、ヤローさんやルリナさんと対峙した時の緊張感とも───カブさんとのバトルで思い出した、燃え上がるような闘志とも違う。
「こう言ったらさ、サイトウちゃんにも……他のチャレンジャーさん達にも失礼かもしれない。だけど俺は、今の俺は……このバトルを、サイトウちゃんとのバトルを、ジムチャレンジとかそういうことは全部忘れて、一人のトレーナーとして───純粋に、楽しみたいと思ってる」
ああ、そうだ。
遥か昔の俺も、そうだった。
ただただ、ボールを投げることが、ボールを捕ることが、ボールを打つことが楽しくて。
純粋に、脇目も振らず、一心不乱に白球だけを追いかけていたあの頃。
そうか。
また一つ、俺は思い出すことができたんだな。心の奥底に、しまいこんでいたものを。
「奇遇ですね」
俺の言葉に、サイトウちゃんは穏やかに微笑む。
「私も───同じ気持ちです」
そして俺達は、互いに背中を向け合った。
「立派なジムリーダーになったなんて、胸を張っては言えませんが」
「立派なポケモントレーナーになったなんて、胸を張っては言えないけれど」
一歩、また一歩と。二人の距離が遠くなる。
「互いの七年の研鑽を───」
「確かめ合おうか」
ジムリーダーのサイトウが 勝負をしかけてきた!
「行ってきなさいゴロンダ! マサル、あなたのバトルはしっかりと拝見しました。格闘技を無効化するゴーストタイプのランプラーを主体に戦うつもりですね! ですが! この私が! オニオンくんとしのぎを削り合った私が! ゴーストタイプへの対策を怠っているとお思い───」
「ニンフィア」
「ふぃあーおっ♪」
「───ってあええええええっ!? に、にににニンフィア!? ななな、にゃんでニンフィア!? 今までのバトルで一度もニンフィアなんて出してなかったじゃないですかぁ!?」
「このニンフィアが……対サイトウちゃんの
「き、切り札……!? (か、格好良い……!! マサルが私とのバトルのためだけに進化条件が不明のニンフィアを……。くぅ~っ!! なんという燃える展開なのでしょう!! マサルは本当に……人の心を熱くする天才ですね!!)」
お互いの一体目はゴロンダとニンフィア。てっきりカポエラーを出してくると思ったのにな。悪と格闘の複合タイプ……フェアリーのおやつだな。……にしても、あんなに格好良くバトルに入ったのにいきなりサイトウちゃんのキャラが崩壊してるんだけど。
大丈夫? これガラル中に放送されてるよ?
まあいいや。ウチの完璧で究極なアイドルの華麗なデビュー戦といこう。相手は草を咥えているめっちゃ目つきの悪い昭和の番長ポケモンゴロンダ。悪球打ちとか得意そうだな。「グワァラゴワガキーン」って言ってみろ。
「ぐ、ぐぬぬっ……ですが!! ゴロンダがフェアリーに弱いことは百も承知!! ゴロンダ、バレットパンチ!!」
サイトウちゃんはそのままゴロンダをニンフィアに突っ込ませる。バレットパンチ……フェアリー対策の鋼技か。ユウリとのバトルで使ってはいなかったが、弱点に対策を講じるのはバトルにおける基本中の基本。
「ニンフィア───あまえる」
「ふぃあ~♡」
俺が指示を出すと、ニンフィアは自分に向かってくるゴロンダに対して、見た者を虜にさせる笑顔を向けて甘い声を出す。ふぐっ……俺にもこうかばつぐんだ畜生。
「か、かわいい……」
どうやらサイトウちゃんにもこうかばつぐんだったらしい。
直接向けられていない俺達でさえこの有様だ。真正面からニンフィアに甘えられたゴロンダは……。
『と、止まったー!! ニンフィアのあまりの可愛さにゴロンダの動きが止まってしまったー!!』
拳を振り上げた体勢のまま、ゴロンダはピタリと動きを止めている。よし、このままたたみかける。
「何をやっているのです、ゴロンダ!?」
「ニンフィア、つぶらなひとみ!」
「ふぃ~あっ♡」
ニンフィアは硬直しているゴロンダに近づき、そのままゴロンダの足に擦り寄りつつ、上目遣いでゴロンダを見上げた。すると、ゴロンダは観念したかのように振り上げていた拳をゆっくりと下ろす。
かかったな!
「マジカルシャイン!!」
「ふぃあーお!!」
ニンフィアはニチアサ魔法少女のような眩い光を纏い、硬直しているゴロンダへ向けて容赦なく放つ。無防備だったゴロンダは真正面からマジカルシャインを受けて吹き飛び、そのまま戦闘不能となった。
ニンフィアはマジカルリーフとマジカルフレイムも使えるし……ポケモン界のプリキュアだな!
「ご、ゴロンダがなにもできず一方的に……!? こ、これがフェアリーポケモンの真の恐ろしさ……」
「はっはっは! 硬派な番長ゴロンダにニンフィアの可愛さは耐えきれなかったみたいだな! 名付けて……『雨の日に捨てられた子犬を拾う不良作戦!』」
「ぐ、ぐぬぬ……」
いや、美人局の方が近いか? でも金を巻き上げてるわけじゃないし……ニンフィアがやったことは可愛さを前面に押し出して媚びまくって隙ができたところに情け容赦なく弱点技をぶち込んだだけだからな。「人の心とかないんか作戦」の方が合ってそう。
ふっ。それにしても、サイトウちゃんは「ぐぬぬ顔」がよく似合う。
「だったら……そんな色香に惑わされないポケモンを出すまでです! 行きなさい、ネギガナイト!」
サイトウちゃんの二体目はネギガナイトか。ユウリの時とは完全に順番が違うな。ただ、サイトウちゃんがこの場面でネギガナイトを出してきたってことは、ゴロンダの時ほどさっきの作戦がはまらないってことだろう。
まあいい。ニンフィアの可愛さは十分アピールできたから……今度は格好良さを皆様にご覧に入れましょう。
「スターアサルト!!」
ネギガナイトの専用技……今回もいきなり使ってきたか!? いくらフェアリーが格闘に有利だからと言っても、ネギガナイトの攻撃力とニンフィアの物理防御を考えたら、真正面から受けた場合……おそらく落ちる。
そう、
「リフレクター!!」
ニンフィアの周囲に、五層の透明な壁が展開される。
「貫きなさい!! ネギガナイト!!」
対してネギガナイトは速度を落とすことなく、リフレクターに真正面から衝突した。
一層目、二層目、三層目とリフレクターがあっさりと破壊されていく。
四層目、技の威力がやや落ちてきた。
五層目……ネギガナイトの眉間に皺が寄る。武器として扱っている、自身の体長の二倍はあろう剣状の長ネギが最後の障壁を───貫いた。
その刃はニンフィアに届き、強烈な一撃を受けたニンフィアは後方に大きく吹き飛ばされる。
が、倒れない。空中で体勢を立て直し、華麗に着地した。そして、反動で動けないネギガナイトを見据え……。
「ムーンフォース」
周囲が夜のように暗くなり、ネギガナイトの頭上に疑似的な満月が現れる。そしてニンフィアは満月からの光を一点に集中させ、放った。
ネギガナイト、戦闘不能。
「くっ……よくやりました、ネギガナイト」
「上出来だニンフィア、戻っておいで」
「ふぃあーお♪」
「ゆっくりおやすみ」
嬉しそうにじゃれついてきたニンフィアを撫でてやった後、ボールに戻す。リフレクターで威力を半減させたとはいえ、そのダメージは大きい。まだまだ頼れる仲間がいるんだから、これ以上無理をさせる理由がないな。
「カポエラー!!」
「いってこい、インテレオン」
三体目、カポエラーVSインテレオン。
俺が最も頼りにしている、一番の相棒。
そして、インテレオンがコートに現れると、スタジアムに大歓声が沸き起こった。
『すごい人気ですね。ジムリーダーカブとのバトルでマサル選手のインテレオンの人気に火が付いたのでしょう』
カブさんの本気の相棒を真正面からぶっ倒したからな。これだけの人気にもなるか。
「ここで……マサルの相棒ですか。カブさんのマルヤクデを打ち破ったその実力、しかと確かめさせていただきます! カポエラー、かたきうち!」
「インテレオン、こうそくいどう」
インテレオンはその特殊攻撃力にばかり目を向けがちだが、本当に注目すべきは機動力だ。スナイパーは寄られると弱い? だったら寄らせなきゃいいだけの話。
「は、速いっ!?」
かたきうち……ソニアちゃんからわざマシンをもらったけど……確か、技の威力と仲間のポケモンが倒れることが関係していた気がする。すでにニンフィアが二体倒している以上、かたきうちなんてくらったらインテレオンの耐久力ではひとたまりもないだろう。
よって、高速移動により全力で回避。素のスピードでさえカポエラーを圧倒している以上、追いつける道理なんてない。
(ですが……あれだけ高速で移動していては攻撃の狙いもままならないはず。ならば、インテレオンが足を止めたところをたたみかける!)
───なんて、考えてるんじゃないだろうな?
「インテレオン、ねらいうち」
インテレオンが高速で動き回る中、腕を伸ばし指先を真っ直ぐにカポエラーに向ける。
そして、超高圧に圧縮された一筋の水流が、カポエラーを撃ち抜いた。
「なっ!?」
「サイトウちゃん。ウチのスナイパーを、甘く見るなよ」
とはいえ、これは相手が鈍足のポケモンだから命中させられたんだけどな。インテレオンと同種の高速アタッカーだったら無理無理。さすがに高速移動しながらだと当てられない。
だけど、これも駆け引き。こう言っておけば、サイトウちゃんはインテレオンの狙撃を必要以上に警戒するはずだ。
「うずしお!!」
さあ、たたみかけるのはこっちの方だ。
インテレオンが
さあ、どうするサイトウちゃん。
「マサル」
サイトウちゃんと目が合った。
ここまで一方的な展開にも関わらず、彼女の闘志は微塵も衰えてない。
「あなたこそ───私のポケモンを甘く見ないでいただきたい!」
言葉と同時、カポエラーがうずしおを
いいねえ、そうこなくっちゃなあ!
「カポエラー!」
「インテレオン!」
両者の間には、まだ距離がある。
この間合いは───インテレオンの間合い!
「
「ねらいうち!!」
ははっ! なんだよ! サイトウちゃんも覚えさせてたのか!
遠距離技を!
カポエラーの頭上に光の球体が出現し、インテレオンに向けて放たれる。きあいだまっつーか完全に「元気玉」だろそれ!!
「インテレオン!! きあいだまごと撃ち抜いてやれ!!」
インテレオンの狙撃が、きあいだまごとカポエラーを貫いた。
だが、きあいだまを完全に消滅させることはできず、インテレオンはきあいだまを受けて大きく吹き飛ばされる。
『りょ、両者に互いの強力な技が炸裂!! 果たして立ち上がれるのか!?』
決してサイトウちゃんを、サイトウちゃんのポケモン達を甘く見ていたわけじゃない。
カポエラーはインテレオンのねらいうちを耐え、文字通りその身を削りながらうずしおを突破し、俺が想定していた間合いの外から攻撃を繰り出してきた。
だがそれでも。
それでも───勝つのはインテレオンだ。
『い、インテレオンが立った! 肩で息をしていますが、その目は真っ直ぐに前を見据えている! 対してカポエラーは……立ち上がれない!!』
紙一重だったよ、サイトウちゃん。もしもカポエラーが
「さすがだ相棒。お疲れ様」
「……うぉん」
なーに悔しそうな顔してんだよ。もっと上手く戦えたってか? 反省会は後でだな。俺も課題が見つかったし。近距離戦が得意なポケモンだからといって、遠距離攻撃の手段を持ってないわけじゃない。改めて、しっかり頭に入れておこう。
ふー……何はともあれ、サイトウちゃんのポケモンはあと一体。
俺はまだ一体も落とされてはいないけど、ニンフィアとインテレオンは実質戦闘不能近くまで追い詰められている。
うん。
とはいえ、ネギガナイトの火力とカポエラーの耐久力には驚かされたけどな。もうちょっと余裕をもって対処できるかと思ったけど……さすがだサイトウちゃん。侮っているつもりなんて微塵もなかったのに。それでも、俺の自慢のポケモン達がここまで消耗させられるとは。
もしも初めから俺の手持ちがサイトウちゃんに知られていたとしたら、切り札のニンフィアの存在を知られていたとしたら。
バトルはもっと、違う展開になっていただろう。
「追い詰められた……? いいえ、ここからです!! 私とカイリキーならここからでも巻き返せる!! 流れを変えてやりましょう!! カイリキー、キョダイマックス!!」
彼女の声にこたえるように、キョダイマックス化したカイリキーが雄叫びと共に現れる。すっげー威圧感だなおい。チャレンジ用のポケモンとはいえ、腹の底にまで響くような雄叫びだ。
「マサル! 私にはわかっていますよ! 次にあなたがどのポケモンを出すのかを! ニンフィアとインテレオンは退けた……レアコイルはタイプ相性の関係で出せないでしょう。となると残るは……ランプラーのみ! さあ、出してきなさいマサル! ゴーストタイプの倒し方、私が教えて差し上げましょう!」
ああ、正しいよ。サイトウちゃんの考えは正しいよ。
この状況で出せるのは、ニンフィアでもインテレオンでもレアコイルでも……隠し玉のサナギラスでもない。
正真正銘、対サイトウちゃん用の
「
ランプラーよりも、一回りも二回りも大きく成長した巨大なシャンデリア型のポケモン。ヒトモシの頃から変わらない、穏やかな黄色い瞳が俺を見つめている。
さあ、行こうかシャンデラ。これで、幕引きだ。
「なっ!? シャン……シャンデラ!? そんな……ジムミッション中はランプラーだったはず!! ま、まさか……!?」
「そのまさかだよ。ジムミッションが終わってから、やみのいしで進化させていたんだ」
しかるべき時っていうのは、この時だったんだよ。ヒトモシの頃からずっと育ててきた身としては……いや、ヒトモシに限らず最終進化っていうのはものすごく感慨深いから華々しく登場させたかったんだ。
ははっ、なんつーか……俺も大概親馬鹿だよな。
「サイトウちゃん、一ついいことを教えてあげよう」
「いいこと……?」
「切り札は先に見せるな、見せるならさらに奥の手を持て」
某有名漫画の名言。完全に丸パクリだけどこっちの世界に幽遊白書なんてないし、俺が生み出したってことしておこう。サイトウちゃん、こういうの好きそうだし。
「は、はうぅっ……!! (ぐあああああああっ!! か、格好良い!! 格好良過ぎます!! ま、マサルはどれだけ私の心を弄べば気が済むのですか!? くうぅ~!! いつか私もそんな台詞を言いたい~!!)」
案の定、サイトウちゃんは胸を抑えて身悶えていた。クールでストイックな印象が強いけど……バトルの最初でも思った通り、サイトウちゃんってこういう少年漫画的な展開が大好きだよな。
「つまり……シャンデラこそがマサルの奥の手だったということですね!! だけど!! 私のカイリキーはあなたの奥の手ごと、全てを粉砕してみせる!!」
さあ、見せてやれシャンデラ。
伝説系や幻系を除けば。
クワガノンと並び、一般ポケモン中ナンバーワンの特攻種族値を誇る。
その───火力を。
「ダイアーク!!」
「ダイバーン!!」
結論から言おう。
シャンデラとカイリキーのダイマックスバトルは───シャンデラの圧勝だった。
VSサイトウちゃんでした。
己の進退を懸けたカブさんとのバトルとは違い、サイトウとのバトルは「楽しむこと」をテーマにしていました。カブさんとのバトルで闘志の燃やし方を少しずつ思い出し、サイトウとのバトルで勝負を楽しむことを少しずつ思い出し……マサルの精神面にも変化が表れつつあるということをちょっとでもわかってもらえたら嬉しいです。
そのせいでサイトウが中二っぽい感じのちょっと残念なキャラになってしまったのは……あんまりよく思わない方もいらっしゃるかと思いますが、そこはもう合う合わないというか好みの問題だと思います。
でも、サイトウってゲームだとものすごく真面目でストイックだけどポケモン達と一緒にワイルドエリアでサイドンと殴り合ったりしていたので、こういう王道の少年漫画的な展開や台詞は大好きなんじゃないかと解釈しました。異論は認めます。でも誹謗中傷はやめてね?
次回はバトルの事後処理……と、重要文化財保護法違反にマサルとユウリが立ち向かいます!
ビート少年の明日はどっちだ!?
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
特に何も思いつかなかったので今回のお話がちょっとでも面白いと思っていただけたらここをぽちぽちしてください!