壁画への階段を上りきると、そこにいたのはダイオウドウをけしかけて遺跡を破壊しようとするビート少年だった。いつの間にダイオウドウを手持ちに……いやそんなことはどうでもいい。周囲には状況を理解できていない一般人もいる。
こんなところで遺跡が崩落して怪我人が出てみろ。ビート少年、自分がどうなるかわかってんのか!?
「あれ……確かジムチャレンジャーだよね?」
そりゃあ気付く人間は気付くよな! ジムチャレンジはガラル全土に放映されている上、ビート少年は参加者の中でも指折りの実力者。おいおいやばいな。野次馬もどんどん増えてきてる。
「ビートくん……? なんで……?」
ユウリが呆然とした表情でぽつりと呟いた。ソニアちゃんも同じように目を白黒させて口をぽかんと開けている。気持ちはわかる。だけど今は、悠長に考えている時間はない!
「ユウリ! ダイオウドウを止めろ! ソニアちゃんは周りの人達を安全なところまで避難させて!」
「う、うんっ!」
「わかったわ!」
「シャンデラ! ユウリを援護だ! ユウリ、あのダイオウドウは相当やばいから気をつけろ! 一対一にこだわらなくていい!」
「任せて! エースバーン、ルカリオ! 行くよ!」
二人が動き出すと同時、俺もビート少年に向かって駆け出した。とにもかくにも、あのダイオウドウを止めなくちゃ話にならない。あんなやべーのどこから連れてきたんだ!?
「ビート少年!!」
「やれやれ、あなた達ですか。余程人の邪魔をするのが好きなようですね……」
ビート少年は俺の方へ向き直り、心底うんざりした表情で溜息を吐きながらそう言った。こんな時でも全然ブレねえなこの野郎!
「今からでもねがいぼしを集めて委員長に気に入られたいと言ったところでしょうか? はあ……まったく、呆れてものも言えませんよ。僕の邪魔をするというのなら今度こそ───」
ビート少年はモンスターボールを取り出し、その場にポケモンを呼び出す───前に俺がビート少年の手をはたいてモンスターボールを弾き飛ばした。
こんな時に悠長にバトルなんざしてられるか!!
「なに……をっ!?」
ビート少年の腕を掴み、そのまま足払いをしてその場に組み伏せる。痛みからか、ビート少年からくぐもった声が聞こえてくるが、そんなことを気にしていられる状況じゃない。
「ぐっ……痛いですねえ! 何をするんですか!?」
「こっちのセリフじゃ!! なんで遺跡をぶっ壊そうとしてんだよ!?」
「わからないんですか? やれやれ、頭が回るのはバトルの時だけだということですね。御覧の通り、委員長のためにねがいぼしを掘り出そうとしていたところですよ。この辺りの洞窟内はあらかた探し回りましたからね」
いちいち悪態をつかんと会話できんのか? っつーか、これまでは常識的な範囲内で探してたのに何でいきなり重要文化財をぶっ壊そうとしてんだよ。エスパーポケモンと一緒にいすぎて催眠でもかかってんのか?
「ローズ委員長がそう言ったのかよ? 『遺跡を破壊しなさい』って」
「まさか。僕の独断ですよ。この程度のこと、いちいち委員長に確認するまでもありません。あの人の願いはねがいぼしをたくさん集めることですし、僕はただの指示待ち人間ではありませんからね」
「せめて!! 報連相しろ!!」
指示待ち人間じゃなくて自分で考えて行動できるっていうところだけは評価できる。できるけど! やってることが極端なんだよ!
「いい加減離してもらえますか? あなたごときにかかずらっている場合ではないのですよ」
「そう言われて素直に離すと思うか?」
「なるほど、痛い目に遭わないとわからないようですね」
今、物理的に痛い目に遭ってんのはビート少年の方だけどな。
「テブリム! あなたの能力で僕を拘束しているこの男をどかせなさい!」
ボールを投げずにビート少年がテブリムを呼び出した。おいおい、まさかトレーナーにダイレクトアタックする気かよ。それともサイキック的な何かで俺を持ち上げるつもり?
警戒する俺だったが、テブリムは俺とビート少年を交互に見た後、そっぽを向くように俺達に背中を向けた。
「テブリム! 僕の言うことが聞けないのですか!?」
「そりゃ聞かないだろうよ。テブリムはこの状況を理解して、自分のご主人様が間違ってるって判断したんだ」
「何をバカなことをっ……!」
確かテブリムって強い感情を持つ相手を問答無用で黙らせるんだったよな。可愛い見た目なのに、乱暴な手段をとるって話だったけど……よかったなビート少年。お前がテブリムのトレーナーじゃなかったら、多分ぶっとばされてたぞ。
「くっ……そもそも! どうしてあなた達は僕の邪魔をするのです!? あなた達には何の関係もないでしょう!?」
「いや、知り合いが犯罪行為に走ってるのを目撃したら全力で止めるだろ」
「いやいや、マサル。そこはさぁ……『友達だからだ』って言ってあげなよ」
俺がビート少年にマジレスしていると、ユウリが呆れたような表情で俺達の方へ歩いてきた。ダイオウドウは……もう倒したのか。三対一だったとはいえ、はえーなおい。
「あのダイオウドウ、すっごく強くて大変だったからね!」
ユウリは腕を組んでぷんぷんしながらそう言うも、結構余裕そうだった。シャンデラもありがとな、サイトウちゃんとのバトルといい、大活躍だ。
「なっ!? 委員長からお借りしたダイオウドウが!?」
「嘘っ!? あれローズさんのポケモンだったの!? ど、どうしようマサル……怒られちゃうかな?」
「どう考えても怒られるのはビート少年だけだから安心しろ」
怒られるだけで済めばいいけどな。目撃者もそこそこいたし……ラテラルタウンが被害届を出したら普通に刑事事件扱いされるぞ。
「本当に……いつもいつもあなた達は僕の邪魔ばかりして……」
「いつも絡んでくるのはビートくんの方からでしょ?」
「さっきも言ったけど、犯罪行為なんだから邪魔して当たり前だろ」
「
「あのさあ、ビート少年がローズ委員長に強い恩を感じていて、委員長の力になりたいって気持ちは理解できるけど……手段を間違ったら逆に恩人の顔に泥を塗ることになるだろ?」
俺の言葉に、ビート少年はものすごい怒りの形相を浮かべて睨みつけてくる。……そこまで激昂するのか。
「ふん……知った風な口を利かないでください! 僕の気持ちなんて、あなたにはわからないでしょうね! 生まれた時から恵まれた環境で育ってきたあなたには!!」
ビート少年の心からの叫びを聞いて、思う。どうやら、俺はビート少年を見誤っていたらしい。彼はローズ委員長に対して、俺が思っていたよりも遥かに、遥かに大きな恩を感じていて、強い感情を抱いているということに。
孤児院出身だって話だったけど、おそらく、幼少期は俺が想像もできないくらい辛い生活を送っていたんだろう。そんな生活から救い上げてくれたのが、ポケモントレーナーとしての才能を見出してくれたのが、ジムチャレンジに推薦してくれたのが……ローズ委員長。
そりゃあ、クソでか感情を抱いても何ら不思議ではない。
それと同時に、俺が前にビート少年に対して抱いていた懸念が、
彼の行動原理は、首尾一貫してローズ委員長のため。ローズ委員長に恩返しをするため。
自分のためではなく、誰かのために行動していたんだ。
ああ、そうか……そういうことか。
今のビート少年は、あの時のホップと───迷走しかけていたホップと似ているんだ。
ただ、彼にとっての不幸は、それを指摘してくれる人間が周囲にいなかったこと。
いいや、もしかしたらいたのかもしれないけど、ビート少年がその忠告に耳を貸さなかった可能性もある。
こんな捻くれた性格だもんなぁ。まあ、こういう性格になった要因も、幼少期の孤児院時代にありそうだけど。
はぁ……ったく。本当に、世の中ってのはままならないよな。
「確かに、俺とビート少年は生まれ育った環境も、境遇も全く違う」
「ふん、それがわかったのなら───」
「だからこうやって、ビート少年のことを理解しようとしてるんだよ」
現実的な話をすれば、他者の気持ちを本当に意味で理解することはおそらく不可能だ。だけど、共感し、推し量ることくらいはできる。そのために必要なのは「相手を知ろうと努力する」こと。
おそらくビート少年は、育ってきた環境が原因でこの能力が欠如、あるいは他者と比較して著しく低い。環境や境遇を言い訳にするのはよくない、よくないが……俺にしてみれば、ビート少年はまだ子供。
そう。この世界だと忘れがちになっちゃうけど、
だからこそ、取り返しがつかなくなる前に───
「……なんであなたは、あなた達はそこまで僕にかまうのです!?」
「さっきユウリが言ってただろ───
そして何より、俺はもう、彼のことを友達と思ってしまっている。たとえビート少年が、口と性格の悪い捻くれ野郎だとしても、だ。
「あなたのっ!! そういうところが気に入らないんですよっ!!」
「そーかい」
言いながら、ビート少年の抵抗する力が弱まったことに気付いた。背を向けていたテブリムも、いつの間にかこちらに向き直って心なしか嬉しそうな表情をしている。
さーて、これでめでたしめでたし……ってわけにはいかねえよなぁ。
「ビート選手! ローズ委員長のダイオウドウをお借りしたいって何事かと思えば……まさか、遺跡を壊すだなんて!」
血相を変えたオリーヴさん、リーグスタッフ達。そして、何を考えているのかよくわからない表情を浮かべているローズ委員長がやってきた。
リーグスタッフはともかく、まさかローズ委員長まで来るとは……。もしかして俺達の試合を観てたのか?
理由はわからないけど、この状況でローズ委員長がここにいるのは
俺が一旦拘束を解くと、ビート少年は立ち上がって服に着いた土ほこりを手で払う。
「1000年先の未来に比べ、遺跡が何だというんですか? そのように『あまいかおり』よりも甘ったるい考えで委員長をサポートできますか? そもそも、オリーヴさんがナックルシティで僕に教えてくれたのでしょう? 『ラテラルタウンの遺跡にはねがいぼしが眠っている可能性があるから調べてほしい』と」
「確かにそうですが、『壊せ』とは一言も言っていません!」
ああ、なるほどな。オリーヴさんからの指示だったのか。それをビート少年が曲解して遺跡をぶっ壊すというとんでもねー手段に出た、と。いやいやいや、ビート少年が過激すぎる。「調べてくれ」って言ったらダイオウドウで遺跡をぶっ壊すとか、こんなん予想できねーわ。
「ビートくん……」
それまで黙っていたローズ委員長が口を開く。その表情からは失望……というよりも、心の底から残念に思っているという印象を受けた。あの人も、こんな表情をするんだな。
「声を絞り出すけれど、本当に……本当に残念ですよ。幼い頃、孤独だった君の才能を見出し、トレーナースクールにも通わせた。
そして委員長は目を閉じて首を横に振る。
「ですが、遺跡を壊すような……ガラルを愛していないような行為を行う選手はジムチャレンジにふさわしくない。君の───ジムチャレンジャーとしての権利を剥奪します」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいローズさん! ビートくんは───」
「待った! ユウリ!」
ビート少年よりも先に抗議の声をあげようとするユウリを手で制す。気持ちはわかるけど、今は下手に庇い立てしようとするな。今、一番優先しないといけないことはこの事態を収拾させることなんだから。
「嘘……ですよね? 僕が失格ということは、選んだあなたのミスですよ? 100ある選択肢の中で、最悪のチョイスです!」
この状況でその台詞が言えるって……お前どんだけ大物だよ!? メンタル強いとか図太いとかそういうレベルじゃねーぞ。
「追って処分は伝えます。ナックルシティに戻りなさい」
委員長はビート少年の言葉に淡々と返答すると、ガタイの良いリーグスタッフ達がビート少年に近づいた。ビート少年は強く拳を握っていて、抵抗するかもしれないと身構えたけど、どうやらローズ委員長の表情を見てどうにもならないと理解したらしく、おとなしくリーグスタッフ達と一緒にその場から去っていった。
「マサル! なんで何も言ってあげなかったの!? ビートくん、失格になっちゃったんだよ!?」
「……下手に騒ぎを長引かせて目撃者が増えると、ビート少年の
おそらくこの後、ローズ委員長はこの騒動の後始末に動くだろう。そして、委員長のビート少年に対する期待や思いは本物だった。ガラルの将来を案じている委員長だったら……まだやり直せるビート少年の
「俺の予想だと『ポケモンの暴走』って形で事態を収めるはずだ。ローズ委員長がこの場に来ているんだったら、サイトウちゃんやラテラルタウンのトップとも話をすぐに進められる。ビート少年の
「でもぉ……」
あくまでも俺の予想だけど、大きく外れてはいないはずだ。ただ、俺の説明にもユウリは納得できていないらしい。まあ、理屈の上では理解できても感情面はどうにもならないよな。
「お前の気持ちはわかる。よーくわかるよ。俺だってすっげー残念なんだ。友達が、こんな形でジムチャレンジを失格になるなんて……うん。本当に、残念だよ」
俺がそう言うと、ユウリは瞳を潤ませながら俺にぎゅっと抱き着いてきた。そんなユウリを抱き締めて頭を撫でてやりながら、俺は大きく息を吐く。
「もっとビートくんと仲良くなってたら……ビートくんのことを理解できていたら、こんなことにはならなかったのかな?」
「……ユウリは本当に優しいな」
ユウリが言った通り、どうにかできたかもしれないけど……もう、俺達の手に負える事態じゃなくなったからな。
ったく、ビート少年め。ユウリを泣かせやがって。今度会ったらあのもじゃもじゃ頭を丸坊主にしてやるからな。大丈夫、ウールーの毛刈りでバリカンの扱いは慣れてる。
「マサルくん、ユウリくん。君達にも迷惑をかけてしまいましたね」
ユウリを宥めていると、ローズ委員長がいつものように含みがありそうな胡散臭い柔和な笑顔で俺達に話しかけてきた。
「あ、あのっ……その、ローズさん……ビートくんのこと……」
「概ね、先程マサルくんが言った通りですよ。私としても、あまり事を大きくしたくはありませんし、ビートくんはまだ若い。彼の将来を潰すようなことはしたくありませんからね。それはそれとして、しっかりと罰は受けてもらいますが」
俺らの会話が聞こえてたんかい。そう言えばこの人、七年前も俺がソニアちゃんに電話で「死に出し戦法」を話してたのもちゃっかり聞いてたよな。耳ざといというかなんというか。
「それから、ごめんなさいっ! あのダイオウドウ……ローズさんのポケモンだって知らなくて、でも……すっごく強くて手加減なんかできる余裕がなかったから思いっきりぼこぼこにしちゃいましたぁ……」
ユウリは俺にくっついたまま、恐る恐るローズ委員長に頭を下げる。
「気にする必要はありませんよ。むしろ、止めてくださってありがとうございます。あのダイオウドウは私の大事な……大事なポケモンでね。昔、
そんな大事なポケモンをビート少年に貸していた辺り、本当に期待してたんだな。ってか、ローズ委員長って弟さんがいたのか。初めて知ったわ。
「……そんな思い出のポケモンをぼこぼこに。これはユウリにも罰が必要だな」
「ちょっ!? そもそもマサルが私に『ダイオウドウを止めろ』って言ったじゃん! だから罰は半分こ!」
俺がからかうように言うと、ユウリはちょっとだけ元気になった。
「ふふっ、では……そんな仲良しなお二人に罰を与えましょうか」
ローズ委員長が笑顔でそう言うと、ユウリは俺の後ろにさっと隠れてしまった。大丈夫だよ、この会話の流れでガチな罰を受けることになる訳ないだろ?
「お二人は───ビートくんの分もジムチャレンジを盛り上げてください」
その言葉を聞いた瞬間、俺はこう思った。
本当に、この人はガラルを愛しているんだな、と。本当に、ビート少年に期待していたんだな、と。
そしてローズ委員長は、俺達の返事を待たずに背を向けてオリーヴさん達と共にその場から去っていく。
返事を聞かずとも、俺達が何と答えるかわかっていたから。
「当然だよね、マサル」
「だな」
ユウリは少し元気が出たらしい。しょうがないから今夜はこいつの好きな物を食べさせてやるか。
「……ビート選手、実況の人が言ってたよ。身寄りがいない自分を引き取ってくれた委員長のために戦うって」
ローズ委員長達と入れ替わるように、ソニアちゃんが戻ってくる。野次馬達の避難誘導は問題なく終わったらしく、怪我人なんかもいないということだ。
身寄りがいない、か。孤児院出身って話だったからそんな気はしていたけど……幼少期に親の愛情を受けられず、周囲を信じることができなかったんだな。で、そんな地獄の底にいたビート少年を救い上げてくれたのがローズ委員長。
依存にも近いローズ委員長への絶対的な信頼の根源はそこだ。そして、今回の事件はビート少年のそういった信頼が悪い方向へ作用してしまったんだろう。
やりきれねえなぁ。客観的に判断するなら、器物損壊どころか重要文化財保護法違反だけど……ビート少年に同情の余地がなくもない。と思ってしまうのは、俺が甘いからだろうか。
「今回の件に関して、あたし達ができることはもうないよ。怪我人がでなかったのが不幸中の幸いだね。もう暗くなってきたし、そろそろホテルに───」
そして、三人でホテルに戻ろうとしていた時のことだった。突如、壁画に大きな亀裂が入ったかと思うと、その亀裂が瞬く間に全体に広がっていき、大きな振動と共に壁画が崩れ始める。
「インテレオン!!」
「エースバーン!!」
「ギャラドス!!」
咄嗟の判断でポケモンを呼び出した俺達。崩れ落ちてくる巨大な岩石をインテレオンが撃ち抜き、エースバーンが蹴り飛ばし、ギャラドスが破壊する。あっぶねえな!? まじで避難誘導しておいてよかったよ。俺達三人以外に一般人がいたら下手したら崩落に巻き込まれてたぞ!
「二人とも、怪我は?」
「だ、大丈夫だよ……」
「あたしも平気。びっくりした~……いきなり崩れてくる……なん……て……?」
振り返って二人に尋ねると、ユウリが土煙で咳き込んでいるくらいで怪我はないみたいだ。ただ、ソニアちゃんは俺の質問に答えながら、目を丸くして口をぽかんと開けて何かを見上げている。どうした?
「ま、マサルっ! 後ろ後ろ!」
ユウリが俺の服の袖を引っ張りながら後ろを指差した。不思議に思って振り返ると、俺の視界に飛び込んできたのは───
巨大な、空洞。
いや、それだけじゃない。空洞の中に、巨大な像が四体。
犬のような四足歩行の動物の像が二体。それぞれ、大きな剣と盾を咥えている。その後ろには、人間の像が二体。
なんだこれ!? あのわけわからん壁画の奥にこんなもんが隠されてたのか!?
「これは……どういうこと? これも、ガラルの伝説を示している……? 英雄よりもはるかにポケモンらしき存在が目立ってて……しかも二匹のポケモンが使っていたかのように剣と盾を持っている!」
ソニアちゃんが指先で髪の毛をくるくると弄るいつもの癖を見せながら思案する。おいおいまじかよ。本当に剣と盾が伝説のポケモンだったのか。……でも、あんなでかい剣や盾を口にくわえるって顎の力すごいですね。戦いにくくない?
「す、すごい……マサルの言うことだからあんまり信じてなかったのに……当たってたなんて」
「マサル、あたしが博士になったら助手にしてあげてもいいわよ」
「ソニアちゃんの助手とか……絶対面倒なことを全部俺に押し付ける気だろ」
ソニアちゃんはしっかりしてる雰囲気を出してるけど、年下にも「ねーねーお願いお願いねーねー」って感じで平気で甘えてくるからな。ダンデくんにはそんなことしないのに。
「ソニアちゃん、スボミーインだと英雄の像は一人だったよね? でも、ここには二人いるよ」
「うむ、素晴らしい着眼点だねユウリくん。ナックルシティのタペストリーには二人の英雄が描かれていた。そして、あのタペストリーよりも古い時代に作られたこの遺跡……この像が正しい歴史を示している可能性が高い!」
「じゃあ、なんで正しい歴史が今まで伝わってなかったのかな?」
「時代の中で忘れ去られたってこともあるだろうし……あるいは、わざと隠されたかもしんねえな」
「えー? そんなことする必要があるの?」
「この真実が公になったら困るどこかの誰かさんが意図的に間違った歴史を伝えてきたのかもな。歴史ってさ、その時代の権力者の都合の良いように捻じ曲げられることが多いんだよ」
「ほえ~……」
歴史なんて、研究が進めば進むほど変わってくるからな。それまで当たり前だと思っていたことが実は間違いだったなんてザラにある。だから考古学者や歴史学者はそこにロマンを見出してるんだろうけど……俺にはよくわからん世界だ。
「この真実が公になったら困る権力者、か。……心当たりがなくもないわね」
「じゃあ今度はそっちを追ってみる?」
「ううん。それよりも、このポケモン達が今も生きているのか、生きているとしたらどこにいるのかを調べる方が先決ね。まあ、調べてる途中でそんな権力者にぶち当たっちゃうかもしれないけど」
「ソニアちゃん! 私わかったよ! 権力者ってローズさんのことだ! あの人が全ての黒幕だったのだ!」
「えー……? 確かに委員長って腹黒そうだしそういうオーラが出てるけど……むしろあの人は真実を解き明かしてほしい側の人間だと思うんだけどなぁ」
まあ、ユウリの言わんとすることもわかる。ガラルの権力者って言われて誰もが真っ先に思い浮かべるのがローズ委員長だからな。でも、その割にはソニアちゃんの調査に協力的だし……ローズ委員長には委員長で別の目的があるんだろう。その目的も……世界征服みたいなわかりやすいもんじゃなさそうだし、正直、俺達に被害が出ないのなら好きにやってくださいって感じなんだよな。
ゲームの主人公みたいになんでもかんでも厄介ごとに首を突っ込んでたまるか。大して実力もないのに中途半端に首を突っ込んでも痛い目を見るだけ。こういうのはダンデくんとかキバナさんに任せておけばよろしい。
「あたし、もう少しこの遺跡を調査していくわ! 次はアラベスクタウンだったよね? がんばって!」
「まだ崩落する可能性があるからあんま無茶すんなよ~」
「わかってるって~!」
「……まどろみの森に単身で乗り込んだソニアちゃんが言っても信用ないんだよなぁ」
「う、うっさい!」
俺の忠告を聞きながらも、ソニアちゃんが興奮気味に遺跡の中へ入っていく。まあ、あれでソニアちゃんのガチパは強いから何とかなるだろう。いざとなったらドリュウズ先生がどうにかしてくれるに違いない。
「……色々あって疲れたし、ホテルに戻るか」
「そうだね」
「ユウリ、晩飯は何食べたい?」
「カレーがいい! りんごをいっぱい使った甘口のヤツ食べたい! 一緒に作ろうね~♪」
ユウリと一緒にホテルへ戻る道すがら、こう思う。
結果オーライ過ぎるとはいえ、ビート少年の暴走が世紀の大発見につながったのか……。
結果オーライ過ぎるけどな!!
というわけで、ビートはゲーム通りここで失格になります。ゲームにはない会話がモリモリですが、これはあくまで私が状況からキャラの心情を推測しただけに過ぎませんのでご容赦ください。人によって受け取り方や見解が違うでしょうが、その違いを楽しむのも二次創作の醍醐味の一つだと思います。
剣盾はストーリーをシンプルにし過ぎた……というかキャラのバックボーンや行動の動機などの描写が少ないんですよね。特に一日待てないおじさん。BWやSVほど濃密にしろとは言いませんが、もうちょっとキャラの心情を描写できていたらプレイヤーの満足度も上がったのではないでしょうか。
ジム戦の雰囲気やBGM、キャラが100点満点なだけに惜しい。
次回はルミナスメイズの森に向かいます。久々にマリィやホップと合流します。ここからはおそらく、しばらく仲良し四人組で行動することになるでしょう。
あと、あらかじめ言っておきますがマサルVSポプラは酷いことになります。これまでのような熱いバトルにはなりません。フェアリータイプの不思議な力を使いこなしてデバフをかけてくる妖怪婆にどうやって対抗するのか色々予想してみてください。
こればっかりは本当に誰も展開を予想できないと思います。できたら私と同じくらい頭がおかしい人間認定します。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
ビートに好き放題暴言を吐かれてた時のオリーヴさんが「オリーヴ、キレそう」状態だったけどローズがいる手前キレられなかったと思う人はここをぽちぽちしてください! ……よくビートは生きてたな。