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「あ、起きたかマサル」
目を覚ますと真っ先に飛び込んできたのは心配そうに俺を見てくるホップの顔だった。頭痛え……ここどこだ? てか、何があった?
「うら~♪」
頭を抱えつつ上半身を起こすと、モルペコがベッドによじ登ってきたのでお腹を撫でてぷにぷにしてやると嬉しそうな笑顔になった。見慣れない部屋の中、薬品の匂い。医務室か? ……マリィとユウリもいるな。マリィは心配半分呆れ半分の表情で、なんで呆れてんの? ユウリにいたってはジト目で俺を見てくるし。
「ここどこ?」
「スタジアムの医務室だ。バトルが終わって担架で運ばれたんだぞ。覚えてないのか?」
「なんも覚えてない。……ってバトル!! そうだよ!! 確か俺、ポプラさんのわけのわからん力で体が重くなって……」
それから……それから……。
「俺とポプラさんのバトルはどうなったんだ? 意識を失って俺の負け?」
「いや、そういうわけじゃないぞ。むしろ、結果だけ言えばマサルの勝ち……なんだけど」
「なんだけど?」
「観た方が早かね」
歯切れの悪い返事をするホップを見かねたように、マリィがスマホロトムを差し出してくる。画面に映っているのは……俺とポプラさん。中継を録画してたのか。
「ただ、色んな覚悟しんしゃい。心を強く持ってね」
「観るのが怖くなってきた……ユウリがあんなんになってる原因も映ってんの?」
「映っとるといえば映っとると」
「ふしゃおーーーん!!」
ユウリは警戒心マックスのチョロネコのようにホップのバイウールーに抱き着きながら俺を睨んでいる。あいつがなんであんなことになってるのかわかんねえけど、この録画を見ないことには始まらないな。
ということで、録画を再生します。
「ダイゴマックスってなんだよ!?」
「あたしらが聞きたか!」
録画を観終えた後の第一声がそれだった。
俺とポプラさんのバトルの内容を簡単にまとめると……ポプラさんの不思議な力を浴びた俺は謎の電波を受信し、
「こんなとち狂った状態でよく勝てたな俺!!」
「それもあたしらが聞きたか!!」
「あ、勝ったといえば、二人のバトルはどうだったんだ?」
「俺とマリィもなんとか勝ったぞ。ほら、フェアリーバッジ」
「……次のジムからはマサルを一番最後にチャレンジさせるけんね」
「解せぬ」
「解せんしゃい!」
マリィに頭をぴしゃんと叩かれてしまった。いやでもなあ、元を辿ればポプラさんがわけのわからん力を俺に直接ぶち込んだからこうなったわけだし、まさか俺も記憶を失ってこんなわけのわからん状態になるなんて……予想できるかこんなん!
「そうそう。マサルのバトルの後、SNSのトレンドが『ダイゴマックス』になってたぞ」
「まじかよ、今度ダイゴさんに会ったら事情を説明して謝……る必要はねえな。あの人喜びそうだし」
今頃ダイゴさんは何をしてんのかね。またどこかの洞窟で石探しでもしてんだろうな。
「ただ、結局ユウリがあんなになった理由はよくわかんなかったな」
「それは……ユウリに直接聞いた方が早いぞ」
「だな。おーい、ユウリ~?」
「ふしゃーっ!!」
せめて人の言葉を喋れ。
「ほら、こっちおいでユウリ」
「あぉ~ん……」
手招きするとユウリはとてとてとベッドまで歩いてくる。拗ねたわたぱちと同じ反応だな。でも、さっきの録画の中にこいつが拗ねる要素なんてあったか?
「んっ!」
「はいはい」
ユウリがわざとらしくほっぺたを膨らませて腕を広げていたので、俺は苦笑しながら同じように腕を広げてやると、ユウリが抱き着いてきた。
「で、なーにを拗ねてんだよお前は?」
「ん~……」
俺の胸の顔を押し付けてぐりぐりしているユウリの頭を撫でてやるも、お姫様はご不満なようで。
「マサル……」
「なんだよ?」
しばらくあやしていると、ユウリが顔を上げて上目遣いで俺を見てくる。やっと人の言葉を喋ったな。さてさて、何が原因でこんなに不機嫌だったのやら。
「ミカンちゃんって誰?」
「あん?」
ユウリの口から予想外の人物の名前が出てきた。ミカンちゃん……ああ、そういやさっきの録画でも俺がミカンちゃんの名前を口走ってたな。
「マサルの友達やなかと?」
「ハロンタウンもブラッシータウンも小さな町だからな。ミカンっていう知り合いはいなかったと思うぞ」
そらそうよ。ハロンタウンやブラッシータウンどころか、ガラルの人間ですらないからな。
「ミカンちゃんはジョウトのジムリーダーだよ。鋼タイプの」
「……いつの間に知り合ったの?」
「知り合ってねえよ。俺が一方的に知ってるだけだ」
「……なんで?」
「俺はいつか世界を旅するのが夢だからな。色んな地方のジムリーダーくらいは調べてるよ」
「むー……」
ユウリのふくらんだほっぺたをムニムニしてやると、イヤイヤ期のお子様のように頭をぶんぶん振り始めた。ってか、なんで俺が浮気を疑われてる彼氏みたいな弁明をしてんだよ。俺は別に悪くねーだろ。
「ユウリ、お前もしかして……自分が知らない女の子と俺が知り合いだと思って嫉妬してたのか? お? お?」
「ぎゃおーすっ!!」
「そーなんか? やっぱりそーなんか?」
「ソージャナインス!! ソージャナインス!!」
ユウリが顔を赤くしてベッドの上で暴れ始めた。相変わらずわかりやすいヤツだなお前は。見てて安心感すら覚えるわ。
「結局、ユウリの女の子らしい嫉妬心やったってことね。うん、可愛らしか」
「二人は昔からこうだからな。見慣れたし、見飽きた光景だぞ」
ユウリの動きや表情がコロコロ変わって面白いから俺はいくら見てても飽きないけどな。
そんなことを思いながら暴れるユウリを宥めていた時だった。
「ピンクピンクピンク!! こっちから強烈なピンクの波動を感じるよ!!」
「ぎゃあああああああああああっ!?」
医務室に妖怪婆が飛び込んでくると同時にユウリが耳元でクソデカい悲鳴を上げた。うるせえ!
「おや、お目覚めかい坊や。さっきの試合は悪かったねえ。まさかあんたがあんなことになるなんて予想してなかったよ」
「俺だってあんなになるなんて思ってもいませんでしたよ。っつーか、何一つ覚えてなかったですし」
「だろうねぇ。ほら、お詫びの品といっちゃあ些細な物だけど……飴ちゃんお食べ」
「……変なもん入ってないでしょうね?」
「この飴ちゃんにはフェアリータイプの不思議な力が込められて───」
「誰が食うかあ!!」
「冗談だよ」
あんたが言うと冗談に聞こえないんだよ。
ポプラさんはニコニコ笑いながら菓子袋から飴ちゃんを取り出してみんなに配っている。俺は怪しく思いながらも、さすがに意識を取り戻したばかりの俺に変なものを食わせたりしないだろうと結論付け、飴ちゃんを口の中に放り込むと優しい苺ミルクの味がした。
「ま、今日は一晩ホテルに泊まって明日出発しなさいな。アーマーガアタクシーを一台手配しておくからね」
「ども。お気遣いありがとうございます」
「それじゃあ……あたしが言えたことじゃないけどゆっくりお休み。ジムチャレンジも後半になって、ここから先はジムリーダー達が使うポケモンがさらに一段階強くなる。しっかり備えておきな若人達」
そう言ってポプラさんが病室を出ようとした時だった。入れ違いになるような形でスーパーロング眉毛爺のレジェンドトレーナー、マスタードさんがひょっこりと顔を出す。
「げーっ!? ポプラちんいたのー?」
「ここはあたしが管轄のジムだよ。どこにいようがあたしの勝手じゃないか、マスタード」
「あんまりポプラちんとは会いたくなかったんだよね~」
「旧友に何て言い草だい。見舞いなら手早く済ませなよ。その子達は疲れてるんだから」
「疲れさせたのはポプラちんでしょ~?」
マスタードさんのその言葉にポプラさんが傘でどつこうとすると、マスタードさんはハリウッドスターもびっくりなバク宙で華麗に回避していた。いや、バク宙ってレベルじゃねえよ。空中で何回転してんだよ。サイヤ人かよ。
そんなマスタードさんの様子を見て、ポプラさんはフンと鼻を鳴らして医務室から出て行った。
「やほやほー! 久しぶりだねマサルちん、ユウリちん、ホップちん。そしてチミは初めましてだね~。ワシちゃんはマスタード。今日の試合の実況をやってたんだ~。よろぴくねー!」
「あ、えっと。ま、マリィです。よ、よろぴく……?」
「うふふー。優しい子だね~」
マリィはいきなり現れたハイテンションじいさんに戸惑いつつも、差し出された手を取って握手する。マリィが「よろぴく」って言うの可愛すぎん?
「おお! 小さい頃に一度会っただけなのに覚えててくれてたのか! 感激だぞ!」
「もちろんだよん。あの時から三人とも良いトレーナーになると思ってたからね~。でも三人とも……いいや、ここにいる四人ともワシちゃんが思っていたよりもずーっとずーっと良いトレーナーになったね。チミ達みたいな若くて優秀なトレーナーがたくさんいてワシちゃんも安心!」
「うへへ~。マサル、私達優秀なんだって~」
そりゃあ、ジムチャレンジに参加できてる時点で……カブさんに勝ってる時点でトレーナーとしては上澄みもいいところだからな。ユウリの影に隠れてるけど、ホップやマリィもとんでもなく優秀なトレーナーだよ。
「せっかくの機会だからマスタードさんに何か質問したらどうだ? 勉強になるだろうよ」
「はいっ! マスタードさん質問です!」
「元気があってよろしい。なんでも答えちゃうよ~」
「どうやったらそんなに眉毛が長くなるんですか?」
「ポケモン関係ねえのかよ!?」
「だって一番気になるし……」
そりゃ俺も気になるけどさ……相手は十八年もの間、チャンピオンの座に君臨し続けたレジェンドでダンデくんの師匠なんだぞ? 他にもっと聞くことあるだろ!
「ん~、特に意識はしてなかったけどねー。生まれてこの方、眉毛を一度も剃ったことがないのは確かだよん」
マスタードさんも笑顔で答えてくれるし。優しいじいちゃんだな。
「マスタードさんの所で兄貴はどんな修行をしてたんだ? 兄貴に聞いても『迷子になって色々大変だった』としか言ってなかったぞ」
「修行の内容に関しては、とにかく自分の足で色んな場所に行かせたねー。門下生とバトルもさせたけど、それだけじゃなくて島の色々な場所で課題を与えてポケモンに対する理解を深めてもらったんだよん」
「その結果、ダンデくんが迷子になったんすね」
「あれはもはや才能だよ。ただ、ダンデちんはワシちゃんが見てきた中でも一番優秀なトレーナーだったから、最後の試練に挑戦するところまで修行が進んだんだけど……」
「だけど?」
「迷子になって試練の場所まで辿り着けなかったんだよん」
あー……ダンデくんらしいな。今でもリザードンの案内がなかったら普通に街中で迷子になるし、小さい頃はハロンタウンとブラッシータウンっていう小さな町の中でほぼ毎日迷子になってたからな。
そういや、さっき門下生って言ってたけど……マスタードさんって完全に隠居してるんじゃなくて道場か何か開いてんのか?
元ガラルチャンピオンがやってる道場……興味があるな。
「もしもワシちゃんの修行に興味があるんだったら『ヨロイ島』に来てねー。チミ達ならいつでも歓迎するよー。あ、もちろん遊びに来るだけでもいいからねー」
まるで俺の考えを見透かしたかのようにマスタードさんは笑顔でそう言った。まあ、今はジムチャレンジの真っ最中だし、ヨロイ島に行くにしてもジムチャレンジが終わって色々落ち着いてからだな。
「マサルちんが元気なのもわかったし、チミ達にもあいさつできたし、ワシちゃんはこの辺でおいとまするよー」
「ヨロイ島に戻るんですか?」
「そだねー。門下生達を残してきちゃったし、道場をあんまり長い間空けるわけにもいかないからねー」
そんな忙しい身なのにわざわざ実況しに来てくれたのか。ありがたいけど、せっかくならじいちゃんにも会って行けばいいのにな。
「ふふー。マサルちんは考えてることがわかりやすいねー。あいつにはまた今度時間を取って会いに来るよー。それに、今回こっちに来た一番の目的は果たせたしねー」
「一番の目的?」
聞き返すも、マスタードさんは人当たりの良いニコニコとした笑顔を浮かべるだけだった。でも俺は見逃さなかったからな。ほんの一瞬、ユウリの方に視線を向けたのを。
「それじゃあみんな、この先もジムチャレンジがんばってねー。あとあとー、さっきも言ったけどいつかヨロイ島にも遊びに来てねー。チミ達にならもしかしたら───ワシちゃんの本気を見せられるかもしれないから」
その言葉を聞いた瞬間。
ゾワッ、と。背筋が凍るような冷たさが襲いかかってきた。それは本当に……本当に一瞬の出来事だったけど……そうか。
あれが、レジェンドトレーナーマスタード。
ただの優しくて陽気なじいちゃんじゃない。闘志がバッチバチじゃねえか。
「す、すごか……ちょっとだけ、気圧されたかも」
「ああ、すごい迫力だったぞ……」
マリィとホップも感じ取っていたらしく、引き攣った表情を浮かべていた。そして、ずっと俺にくっついているユウリも眉間に皺を寄せて何やら難しい顔をしている。そーかそーか、さすがのお前も今のマスタードさんの迫力には思うところが……。
「マサル、やっぱりマスタードさんの眉毛は自然の理を越えてると思う!」
訂正。ユウリはユウリだったわ。お前やっぱり大物になるよ。
そう思ってユウリの頭を撫でてやると、嬉しそうな笑顔になって俺を抱き締める力を強めるのだった。
それと、これは未来の話なんだけど。
ジムチャレンジやその他諸々のごたごたが終わって落ち着いた後、色々あって俺がヨロイ島で修行することになって。
そこで、「クララ」パイセンというおもしれー女と「セイボリー」さんというお労しくもおもしれー男に出会って、それはそれは濃ゆ~い時間を過ごすことになるんだよなぁ。
「あんた達、今からナックルシティに戻るんだったらタクシーに一緒に乗せてもらってもいいかい?」
アラベスクタウンのホテルで一泊した後、チェックアウトを済ませてホテルを出ると一台のアーマーガアタクシーとその隣にポプラさんが立っていた。
「ジムチャレンジはいいんですか?」
「今日はチャレンジャーが来ない日なんだよ。そもそも、残っているチャレンジャー自体が少ないからね」
カブさんのジムで八割以上が脱落したからなぁ。
で、特に断る理由もなかったのでポプラさんも交えて五人でアーマーガアタクシーに乗ることにする。なんやかんやこのばーさんとも関わることが多いよな。
「ポプラさん、後継者は見つかったんですかー?」
「だめだねえ。今のところ、あたしのピンクセンサーにビビッとくるチャレンジャーはいなかったよ」
ユウリがポプラさんから貰ったお菓子を食べながら尋ねるも、ポプラさんは残念そうに首を横に振る。ピンクセンサーがどんなもんか知らんけど、後継者が見つからなかったのは残念ですね。
「お嬢ちゃんは割といい線いってたんだけどね。ネズの妹じゃなかったら勧誘していたよ」
「あ、あたしですか?」
「ポプラさんポプラさん! 私はどうでした?」
「あんたはクイズに一問しか正解できなかったじゃないかい。問答無用で不合格だよ」
「そんなー……」
「六問中一問とか……酷えなユウリ」
「なにをー!? マサルなんてクイズを出してすらもらえなかったじゃん!!」
ポプラさん的にはマリィのピンクポインツが高かったんだな。確かに、マリィみたいなクールでとっつきにくそうな女の子が可愛さ全開のフェアリーポケモンを使うのは……胸が熱くなるな!
「それにしても、あんたは全問正解とは恐れ入ったよ。控えめに言って意地悪なクイズだったから……全問正解者なんて何十年振りだろうねぇ」
「そ、そのレベルだったのか!? ちょっと考えればみんなわかると思うぞ……」
「全問正解のホップも後継者にはしないんすね」
「坊やは少し真っ直ぐすぎる。それが坊やの長所であり魅力なのは間違いないけど、あたしとしてはもう少しふてぶてしさや図々しさを持ってて捻くれた子が好みだねぇ」
「なんでそんな面倒臭そうな子を?」
「その方が矯正のし甲斐があるだろう?」
マリィが尋ねるとポプラさんは意地悪そうに笑っていた。やっぱこのばーさんって森の奥の古びた家でデカい鍋をかき混ぜながら怪しい薬を作ってるのがお似合いだな。魔術師っつーか、完全に魔女だろ。
「あんた、今失礼なこと考えてたね? 全能力六段階ダウン!」
「あの悲劇をまた繰り返すつもりですか!?」
「冗談だよ」
昨日もやったなこのやりとり!
こんな感じで五人で談笑しながら空の旅を楽しむのだった。ちなみにクイズの正解数はホップが全問正解、マリィが四問正解、七年前のソニアちゃんが三問正解、ダンデくんがユウリと同じく一問正解だったらしい。
絶対ダンデくんってタイプ相性の問題しか正解できなかったろ!?
ナックルシティへ到着し、ポプラさんがスタジアムに用事があるとのことだったので一緒に向かっていると、スタジアムへ続く城の入り口に見覚えのあるもじゃもじゃ頭の少年がいた。
「あ、ビートくんだ! おーい、ビートくーん!」
ユウリが嬉しそうに手をぶんぶん振りながらビート少年に声をかける。すげえなお前。俺でさえ声をかけるかどうか迷ってたのに。ま、こういう場面で裏表なく声をかけられるのがこいつの良いところだよな。
「……あなた達ですか。チャンレジバンドを剥奪されてジムチャレンジャーですらなくなった僕を見に来るなんて、ずいぶん余裕がありますね」
「開口一番その嫌味……なんかもう安心したわ」
「思ったより元気そうでよかったぞ」
「ビートはこうでなくちゃいかんね」
「喧嘩売ってるんですかあなた達!?」
「でもビートくんって私とマサルに勝ったことないよね?」
「マリィにもタイプ相性で完封されそうだな」
「俺はお前に負けて鍛え直したからな! この前みたいにはいかないぞ!」
「ええい、騒がしい! 僕はあなた達みたいな人達を相手にしている暇はないのです! 確かに僕はジムチャレンジャーとしての権利を剥奪されましたが、この程度では諦めませんよ! 委員長のためにチャンピオンになる……もう一度参加できるように頼んでみるつもりですから!」
さすがだなビート少年。心が折れるどころか逆に燃えているとは。こういうメンタルの強さは見習わないとな。かといって、まーた感情的に行動して事態を悪化させるようなことにならなきゃいいけど。
ただ、現実的に考えると……今年のジムチャレンジに復帰するのは不可能だろうな。来年以降はどうかわからんけど。まあ、ローズ委員長は子供の未来をものすごく大事に考えている人だから、一生チャレンジャーとしての権利を剥奪したりっていうことはしないと思う。
「ローズ委員長にお願いするのはいいとしても……ビートくん、遺跡壊しちゃったからなぁ」
「委員長が一番怒ってたのって、遺跡を壊した行為そのものよりも……ビート少年の『ガラルを愛していないような行為』に対してだもんな」
「うーん、そうなるとこれからのビートの行動で地道に償っていく方がいいと思うぞ」
「奉仕活動とかいいかもしれんね。ほら、ローズ委員長って入院している子供達をスタジアムに招待したり、チャリティーイベントにもすごく力を入れとるし」
「そもそもビートくん、ラテラルタウンの人達に謝った?」
「真っ先に町長とサイトウさんに謝罪しましたよ! ローズ委員長とオリーヴさんと一緒にね!」
あ、そこはしっかりやってたのね。まあ、子供とはいえ悪いことをしたらきちんと謝るのは人として最低限の礼儀だからな。で、やっちまった罪は消えないから、後はこれからの行動で見直してもらうしかない。マリィがチャリティーイベントについて触れてたけど……そういうイベントでビート少年が子供達に愛想を振りまいてる姿が想像できないな。絶対ちびっ子達に振り回されるだろ。
「ポプラさんも何か良い考えありませ───」
「ピンク!! ピンク!! ピンク!! ……おめでとう」
「ひえっ!? なんなんですかこのばーさんは!?」
俺がポプラさんに知恵を借りようと声をかけるも、ポプラさんは忍者のような素早い動きでビート少年の身体をまさぐり、ビート少年の背後を取って耳元で祝いの言葉を口にする。こっわ。完全にホラーだろこのばーさん。
「あんた、オリーヴなんかにいいように使われて必死にねがいぼしを集めたのに見捨てられたんだろう? あたしに付いてくるのなら、なんとかしてやらんこともないよ」
「ど、どういうことですか!?」
「文字通りの意味さね。正攻法で攻めてもあんたはジムチャレンジに復帰はできない。だけど、あたしの力とあんたのがんばり次第では状況を打破できるかもしれないよ」
いやいやいや、一体何する気だこのばーさん。確かに、七十年もジムリーダーをやってるからローズ委員長にはないコネとか色々あるのかもしれないけど、なんでいきなりビート少年にそんな肩入れを……あ!
「もしかして、後継者候補?」
「真っ直ぐで捻くれている……実にあたし好みのピンクだねえ」
「ビート少年、がんばれ。心の底から───同情するよ」
「そこは応援してくださいよ! ふんっ。まったく……この僕を試すつもりとは。いいでしょう。あなたの口車に乗ってあげますよ!」
「そうこなくっちゃねぇ」
うわぁ。確かに最初にポプラさんと話した時に後継者候補でビート少年が頭に浮かんだけど……まじでこんな展開になるのかよ。ま、まあ……あのままビート少年を一人にしているとまたとんでもないことをやらかしそうだったからお目付け役は必要だよな。
それに、ポプラさんだったらビート少年を上手いことコントロールできるだろうという謎の安心感がある。少年よ、フェアリータイプの不思議な力に屈するがよい。
「じゃあ、あんた達はキルクスタウンに向かいな。七番道路はわかるだろう?」
そして、ポプラさんがビート少年を伴って去ろうとしたところで俺は
「ビート少年!」
「……なんですか?」
嫌そうな表情で振り返るビート少年を尻目に、俺はリュックを降ろして中からあるものを取り出した。
「髪の毛、おいてけ」
「……はあ?」
「ビート少年が遺跡をぶっ壊してジムチャレンジが失格になった後、ユウリが泣いてたんだ。だから俺は誓ったんだよ。ユウリを泣かせたお前のもじゃもじゃの髪の毛を刈って丸坊主にしてやるってな!」
「い、意味がわかりませんよ!! 彼女が泣いていたことと僕の髪の毛にどんな関係が……」
「ユウリを泣かせたのか? そんなの───絶対に許されないぞ?」
「坊主でも許されんくらいやね」
「ひえっ!? 目が本気ですよこの人達!! 丸坊主になんてされてたまりますか!! ポプラさん、なんとか言ってやってください!!」
「女の子を泣かせるのはピンクじゃないねぇ……でも、坊主になるのはもっとピンクじゃない! というわけで逃げるよ坊や。バリカンを持っている坊やの目……あれは本気だ。よほどお嬢ちゃんが大事なんだろうねぇ。あたし好みじゃないけど、良いピンクだよ!!」
「は、はやっ!? 杖代わりにしてる傘いらないじゃないですか!!」
そんなこんなでポプラさんとビート少年はスタジアムの中へ逃げるように駆け込んでいくのだった。
ちっ、坊主にするのはまた今度だな。バリカンのスイッチを切り、リュックの中に片付けているとユウリがメスガキ面を浮かべてニヤニヤしながら俺の顔をのぞき込んできた。
「もぉ~。マサルってばどれだけ私のこと好きなのぉ~?」
「モーモーミルクくらいだな」
「うへへ~♪」
「……あれ、褒めとると?」
「ユウリが喜んでるからいいと思うぞ」
その後、キルクスタウンに向かう前にフランクさんへの手紙をちゃんと渡せたことをポーラちゃんに報告するために、彼女と出会った場所へ行くと(ユウリとマリィはものすごく嫌がっていた)ポーラちゃんの姿はなく、「れいかいのぬの」がその場に落ちていた。
「……ありがとう」
そして、どこからともなくそんな声が聞こえ……なぜかいつの間にかボールから出てきていたシャンデラが何もない虚空を見上げていた。これでちゃんと成仏できたのかな。できるなら、生きている間にもう一度会いたかっただろうに……でも、君の思いはちゃんとフランクさんに届いたから安心して休んでくれ。
そんな感じで俺が冥福を祈っていると……。
「あぎゃーっ!! あぎゃーっ!! き、ききききき聞こえたよね!? 今!! 声が聞こえたよね!?」
「あ゙-っ!! あ゙-っ!! あ゙-っ!! マリィは何も聞こえとらんよ!! 聞こえとらんからね!!」
女子二人が抱き合って大騒ぎしている横でホップが目を閉じて静かに手を合わせていた。この温度差よ。
オニオンくんも連れてくればもっと面白いことになってたかもな。
「わかったわかった。バトルカフェでなんか奢ってやるから」
「ふーんだっ! そのくらいで私の機嫌が直ると思ったら大間違いだよ!」
「じゃあ行かなくていいんだな?」
「……行く」
で、怖い思いをしたお嬢さん達のご機嫌を取るためにバトルカフェに向かっている途中のことだった。公園のベンチに座り、大きなため息をつきながら悩める表情をしている少年を発見する。
普段なら特に気にかける、ましてや声をかけるなんてことはなかったんだけど……。
「あの子からピンクの波動……ラブコメの波動を感じるよ! へい少年! どうしたのかな? 何か悩みごと? よかったらお姉さんに話してごらん!」
「う、うわあ!? だ、誰ですか……って、ユウリ選手とでんT……マサル選手!?」
なぜかユウリがその少年に突撃していったんだ。ピンクの波動とか……お前もポプラさんから変な影響を受けたんじゃねえだろうな? てかよく初対面でいきなりそんなこと聞ける……と思ったけどそういやマリィと初めて会った時もこんな感じだったか。
で、その少年の話を要約するとこうだ。
少年には好きな女の子がいて、だけどその女の子はもうすぐ別の街へ引っ越してしまう。なんとか彼女に思いを伝えたいがなかなか勇気が出ない。そこで「好きな相手にカジッチュをプレゼントすると恋が成就する」っていう言い伝えを思い出し、カジッチュを捕まえに行こうとするもどこに生息しているかがわからないとのことだ。
「も、もしカジッチュをお持ちなら譲っていただけないでしょうか? も、もちろんお礼はしますので……」
「だめだよそんなの!」
少年が申し訳なさそうにお願いするも、ユウリがバッサリと一蹴すると少年はショックを受けたような表情になった。そらそうよ。見知らぬ人にいきなり話しかけられて悩み相談をして一蹴されたら誰でもそうなるわ。
「私達が捕まえたカジッチュをプレゼントしても意味ないよ! こういうのはね! 自分で捕まえなくちゃいけないの!」
「で、でも……僕、どこにカジッチュがいるか知らなくて……」
「確か五番道路におったよね? アーマーガアタクシーを使えばそんなに時間はかからんよ」
「大丈夫だ! タクシーはもう呼んでおいたぞ!」
行動がはえーよお前ら。ま、ここまで話聞いちゃったら協力してあげたくもなるよな。
「えっと……僕、自分のポケモンも持ってなくて……」
「ジバコイル。カジッチュを見つけたら初手でんじはで麻痺させるんだ」
「あと、捕まえるならこの『ラブラブボール』を使ってね! 君の思いがちゃんと伝わるはずだから!」
「いや、ユウリお前……ラブラブボールはちょっと狙い過ぎじゃね?」
「いいの! 女の子はね、こういうのに弱いんだから! 恋愛マスターユウリちゃんが言うんだから間違いなし!」
「恋愛したことないくせに偉そうに言うな」
「はぁーっ!? マサルだって恋愛したことないでしょー!?」
「前世でならあるんだよなぁ」
「はい出ましたー、意味不明なマサルの前世! 説得力なし! 私はね、漫画でいっぱい勉強してるからマサルくんとは恋愛レベルが違うのだよ!」
「漫画の知識の方が説得力ないだろ」
「……マリィ、実際どうなんだ? 俺もマサルと同じで狙い過ぎだと思うぞ」
「う~ん……相手によるかな。あと、その子の性格次第。あたしやったら……その、あたしのことを色々考えてくれてそうしてくれたのなら……嬉しい」
「私もマリィのためにラブラブボールでカジッチュを捕まえるからね!」
で、そんなこんなで恋する少年を引き連れてアーマーガアタクシーに乗って五番道路に向かい(運転手のおじさんも事情を聞いてノリノリで飛ばしてくれた)、ジバコイルのでんじはで弱らせてユウリから受け取ったラブラブボールで少年は見事にカジッチュを捕まえることに成功した。
「え!? か、帰ってすぐに気持ちを伝えるんですか!?」
「そうだよ! こういうのはね! 勢いが大事なの! 今ここで行動を起こさなかったら……先延ばしにしちゃったら君は必ず後悔する! 大丈夫、お姉さん達がついてるからね!」
「わ、わかりました……! い、今から彼女を公園に呼び出します!」
「うむ! その意気だ!」
よくもまあ他人の恋愛ごとにここまで口を挟めるもんだな。でも、今回ばかりはユウリの助言がこの少年にとってプラスになったらしい。ユウリがこんな感じで無理矢理にでも少年を動かそうとしなかったら、もしかしたら思いを伝えることなく好きな子と離れ離れになってたかもしれないからな。
「あ、あの子です……」
「おお~、可愛い子だね」
カジッチュを捕まえて大急ぎでナックルシティに戻ると、少年が呼び出した公園に一人の少女がいた。健康的に日焼けしたポニーテールの可愛らしい少女。あれが少年が思いを寄せる女の子らしい。
「さあ、行くのだ少年。もはや私から……師匠から教えることは何もない」
「変に格好つけたり気取った台詞を言おうとせんでいいけんね。自分の正直な気持ちをストレートに伝える。女の子はそういうのに弱いけん」
「わ、わかりました」
女子二人が異常にノリノリだった。特にマリィがそわそわというかワクワクしているのが意外でとても可愛らしい。俺もホップも別に冷めてるわけじゃないけど、この二人のテンションに若干気圧されているところがあった。
「じゃあ、行ってきます。みなさん……本当にありがとうございました!」
そう言って少年は俺達に頭を下げ、ラブラブボールを携えて少女の元へ歩いていく。少年の存在に少女が気付き、少年は顔を赤く染めながら何かを話してラブラブボールを差し出した。
そして───
「これ以上は野暮だな」
「……そうだね。私達にできるのは、最後の勇気になってあげるところまで……最後のひと押しをしてあげるところまでだから」
俺の言葉に、意外にもユウリがすぐに同意した。結果がどうなるかまで見届けるかと思ったのに。まあ、確かにこいつの言う通り、もう俺達にできることは何もないよな。
というわけで。
「マサルワゴンはクールに去るぜ」
「ユウリワゴンはクールに去るぜ」
「ホップワゴンもクールに去るぞ」
俺達三人が立ち上がってそう言うと、マリィはノリに付いて行けず困惑した表情でわたわたとしている。いや、マリィの反応の方が正しいわ。この世界にジョジョなんてないし、俺のノリに即座に反応するユウリとホップがおかしいんだよ。さすが幼馴染。
で、俺達三人がマリィをじーっと見つめていると、マリィは恥ずかしそうに立ち上がってこう言った。
「ま、マリィワゴンもクールに去るけん……」
そう言ったマリィを三人でニヤニヤしながら見ていると、なぜか俺だけマリィにぺしぺし叩かれてしまった。可愛いから許そう。
そして、淡い恋心を抱く少年の勇気を見届けた俺達はゆっくりと彼らに背中を向ける。
ここから先、あの二人が一体どうなったのかなんてのは……考えるだけ野暮だろう。
俺は脳内で「Get Wild」を流しながら、彼らの幸せを祈るのだった。
『ピンクピンクピンク!! 強烈なピンクの波動を感じたよ!!』
「なんで俺の番号を知ってんすか!?」
『フェアリータイプの不思議な力に不可能はないんだよ』
最初から最後までピンクたっぷりでしたね。ポプラさんが出ると大体この人に侵食されるから性質が悪い。ダイゴさんと同じで用法容量を守らないといけませんね。
その内、ダイゴさんの
前回と今回はギャグ全開でしたが、次回は真面目なお話になると思います。
あと、前回の反響がヤバすぎでビビりました。みんなやっぱり鋼タイプが大好きなんですね。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
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