【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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魂がここがいいと叫ぶ-meanig of birth-

 俺は、弱い。

 

 インテレオンも、シャンデラも、ジバコイルも、ニンフィアも、みんなみんな強いのに。

 

 俺以外のみんなは強いのに。

 

 俺だけが。

 

 俺だけが、弱い。

 

 そんな弱い俺に、マサルはいつもこう言ってくれる。

 

「焦らなくていい」と。「必ず、最高に強くて格好よくなれる」と。

 

 マサルは優しい。

 

 いつだって、こんなにも弱い俺を気にかけてくれて。俺の気持ちを汲んでくれて。

 

 何より、俺を……暗い暗い闇の底から、地獄の底から救い上げてくれた。

 

「一緒に行こう」と言ってくれた。俺に居場所を与えてくれた。

 

 そんな優しいマサルの役に立ちたいのに、力になりたいのに。

 

 どうして俺はこんなに弱いんだ。なんで、いつまで経っても強くなれないんだ。

 

 わかってる。

 

 俺が一人で焦っているってことくらい、わかってる。

 

 たとえ俺が弱くても、マサルは絶対に俺を見捨てたりしないって、俺を置いて行ったりしないってわかってる。

 

 マサルは()()()()とは違うって、俺を捨てたあいつらとは違うってわかってる。

 

 マサルだけじゃない。初めてできた友達がみんなみんな優しいってわかってる。

 

 だけど時々、どうしようもなく怖くなるんだ。

 

 俺だけ、()()()()()()から。

 

 俺だけ、みんなと違って弱いから。

 

 また、独りぼっちになっちゃうんじゃないか、って。

 

 また、暗い暗い闇の底で震えながら生きることしかできなくなるんじゃないかって。

 

 そんなの……そんなの嫌だ!!

 

 もう二度と、あんなところに戻りたくない。

 

 もう二度と、あんな思いはしたくない。

 

 だって俺はもう、知ってしまったから。

 

 マサル達の優しさを、温かさを知ってしまったから。

 

 俺の居場所はここなんだ! ずっとここにいたいんだ!

 

 俺は、俺の居場所を、俺達の居場所を、マサル達を守りたい。

 

 だから俺はもっと、もっともっともっと!

 

 強くならなくちゃいけないんだ!

 

 マサルは、そんな俺の気持ちを察してくれているから、俺のわがままを許してくれる。俺の身体を気遣いながら、たくさん戦わせてくれる。

 

 だけど、それじゃあ足りない。

 

 それだけじゃあ、まだまだ足りないんだ。

 

 そう思い俺は、みんなが寝静まった深夜にボールからこっそりと抜け出した。

 

 うん、マサルはちゃんと寝てる。ユウリちゃんの抱き枕にされてる。

 

 ユウリちゃん。そのまま朝までマサルのことを捕まえておいてね。

 

 俺のことは大丈夫だから。心配かけないように、マサルが起きる前にちゃんと帰ってくるから。

 

 俺はそのまま部屋を出て、外へと向かった。

 

 ここは確か、ナックルシティだ。深夜だから、街灯の明かりがぽつぽつ灯っているだけで、出歩いている人は誰もいない。

 

 えっと、俺の記憶が正しかったら……あっちの道路に野生のポケモンがいたはずだ。

 

 そして、街の出口へやってくると景色が一変する。砂と岩だらけのこの景色には見覚えがあった。

 

 うん、間違いない。ここで色んなポケモンと戦って特訓したのを覚えている。

 

 よし! ここでたくさん戦って、たくさん鍛えてもっともっと強くなるんだ!

 

 マサル達を、みんなを守れるくらい強くなるんだ!

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくの間、どれくらい時間が経ったのかわからないけれど、俺は戦い続けた。

 

 サソリみたいなヤツも、ヘビみたいなヤツも、トカゲみたいなヤツも、おばけみたいなヤツも、全部倒した。

 

 でも、まだ足りない。こんなもんじゃ全然足りない。

 

 もっと、もっとたくさん戦わなきゃ! だって、みんなは俺なんかよりもずーっと強いんだから!

 

 疲れたなんて言ってられない。

 

 さあ、次の相手は誰だ?

 

 なんてことを考えていたら、超スピードで俺に近づいてくる影に気付き、間一髪でそいつの攻撃を回避する。

 

 緑色の翼、鋭い目つき。

 

 知ってるぞ。俺はこいつと一度戦ったことがある。

 

 名前は確か……ルチャブル。

 

 あの時は、ユウリちゃんのリオルと一緒に戦ってなんとか勝った相手だ。

 

 相当な強敵……だけど、逃げるわけにはいかない。俺はもっと、強くならなくちゃいけないんだ。

 

 お前なんかに、負けるわけにはいかないんだ!

 

 でも、その考えがいかに甘かったのか、俺がいかに弱いのかを。

 

 すぐに思い知らされることになる。

 

 

 

 

 

 

 ルチャブルは、強かった。

 

 あいつの一番厄介なところは、そのスピード。俺の攻撃は全部避けられて、あいつの攻撃は、全部俺に当たってしまう。

 

 俺は、素早く動くのは苦手だけど身体の丈夫さには少しだけ自信があった。

 

 だけど、そんな自信はいとも簡単に打ち砕かれてしまう。

 

 縦横無尽に動き回るルチャブルの攻撃は確実に俺の体力を奪い、俺の硬い皮膚を貫こうとする。

 

 ああ、ちくしょう。強い……強いなこいつ。

 

 こいつに攻撃が当たらない。こいつの動きについていけない。

 

 前に戦った時は、勝ったはずなのに。

 

 そこで俺は、気付いた。

 

 前に俺がこいつに勝てたのは、ユウリちゃんのリオルがいたから。

 

 俺一人じゃ、なかったから。

 

 本当に、どうしようもないな俺は。

 

 俺は、こんなにも、弱い。一人じゃ、何もできやしない。

 

 こんなんじゃ、マサル達を守ることなんてできやしない。

 

 何度目かわからないルチャブルの攻撃にさらされながら、俺は自分の弱さに絶望していた。

 

 目が、かすむ。

 

 意識が、飛びそうだ。

 

 ルチャブルが距離を取ったのがわかる。

 

 俺に、とどめを刺そうとしているんだ。

 

 だけど、俺はもう、これ以上……動くことはできない。

 

 身体が、言うことをきかない。

 

 ここまで、かな。

 

 ごめんね、マサル。

 

 マサルに内緒で勝手に飛び出して、一人で戦ってたのに。

 

 俺は結局、強くなんてなれなかった。一人じゃ何もできなかった。

 

 マサルに、恩を返すことができなかった。

 

 それから。

 

 ありがとう、マサル。

 

 短い間だったけど、すごくすごく楽しかった。

 

 俺に居場所をくれて、たくさん美味しいものを食べさせてくれて、たくさん友達ができて。

 

 マサルと一緒にいた時間は、マサル達と一緒にいた時間は……生まれてきて一番楽しい時間だった。

 

 マサル。

 

 俺はもう、マサル達と一緒にはいられないけれど。

 

 これからも、ずっとずっと───優しいマサルでいてね。

 

 

 

 

 さようなら。

 

 

 

 

 そして、目を瞑り、静かにその時を待っていた。

 

 瞬間───

 

 

 

 

 

「インテレオン!! ねらいうち!!」

 

 

 

 

 

 声が、聞こえた。

 

「てめえこの野郎!! よくも俺の大事な大事なサナギラスを……覚悟、できてんだろうなぁ!?」

 

 俺が一番、聞きたかった人の声が。

 

「新技の実験台になりやがれ!! ハイドロカノン!!」

 

 インテレオンが放った高圧水流があっという間にルチャブルを飲み込んだ。

 

 ああ、やっぱり強いなぁインテレオンは。

 

 俺があんなに苦戦していたルチャブルをこんなにあっさり倒すなんて。

 

 俺も、あんな風になりたいと思った。

 

 マサルが、俺を頼ってくれるように。

 

 インテレオンみたいに、みんなみたいに強くなりたいと()()()()()

 

「サナギラス!! 大丈夫か!? ……怪我してるな。ちょっと見せてみろ」

 

 マサルが慌てた様子で、今にも泣き出しそうな表情で薬を塗ってくれる。

 

 ごめんね、ごめんねマサル。俺、もっともっとマサルの役に立ちたかった。強くなりたかった。

 

 でも、なれなかったよ。

 

「ごめんなサナギラス。俺……お前の気持ち、わかってた()()()()()()()()。お前がここまで、思いつめてるなんて……知らなかった」

 

 謝らないでマサル。泣かないでマサル。マサルはなんにも悪くないよ。

 

 俺が、俺が全部悪いんだよ。勝手にマサルのそばからいなくなって……勝手に怪我して……心配かけて。

 

 だめだ。泣くつもりなんてなかったのに。泣いちゃいけないのに。

 

 マサルが抱きしめてくれて、マサルの温もりに、優しさに触れて。

 

 涙が、止まらない。

 

 ごめんねマサル。本当にごめんね。

 

「サナギラス」

 

 マサルが俺の名前を呼んで、流れる涙を拭ってくれる。

 

「強く、なりたいんだよな」

 

 マサルが俺の目を真っ直ぐに見て語りかけてきた。

 

 強く、なりたい。守られるだけじゃない。マサルを、みんなを守れるくらい、強くなりたい。

 

「俺は言ったよな。お前は『いつか必ず最高に格好良いポケモンになれる』って。あの言葉は決して、嘘なんかじゃない」

 

 わかってる。わかってるんだ。なんで俺が、いくら戦っても、どれだけがんばっても、他のみんなみたいに進化できないのか。

 

 その理由が俺には、ちゃんとわかってる。

 

 それをマサルも、わかってくれている。

 

「覚悟はできてるか、サナギラス」

 

 うん、できてる。できてるよ。

 

 ついに、その時が来たんだって。

 

「未来を掴み取るために、現実と向き合い、過去のトラウマを乗り越える覚悟が」

 

 俺は、迷わなかった。

 

 

 

 

 

 

「朝カレー、ヨシ! 冬服、ヨシ! マリィ成分補給、ヨシ!」

「ユウリ、くすぐったいから……や、やめんしゃい……」

 

 サナギラスを連れ戻してホテルで睡眠を取り、キルクスタウン出発へ向けての準備を終え、ナックルスタジアム前で最後の確認をしているとユウリがマリィに抱き着いてマリィを吸っている。二人の服装は完全に冬仕様、キルクスタウン仕様になっていた。

 

 これから極寒の地へ向かうんだからマリィとユウリにはスカート禁止令を出し、コートやパンツを着用させている。ファッションは我慢だっつっても限界があるしな。

 

「キルクスタウンへは七番道路を北に向かって八番道路を抜けた先だぞ。一日で行けるかどうか微妙な距離だから、気温が下がる八番道路よりも手前でキャンプを張った方が安全だな」

 

 ホップがマップを確認しながらそう言った。雪中キャンプとか自殺行為もいいところだからな。体力を温存しておいて八番道路は一気に抜ける方がいいだろう。

 

 ただ、俺には三人とは別にやりたいことが、絶対にやらなければならないことがあった。

 

「ごめん、先に謝っとく。俺は少し別行動をしたいから、三人は先に行っててくれ。後から追いつくよ」

 

 俺はそう言って三人に頭を下げた。

 

「別行動って……今やらなきゃいけないことなのか?」

「そうだな、絶対にやらなきゃいけないことだ」

「それは、マサルの個人的なことなん?」

「俺個人……っていうよりも、俺のパーティに関することだな」

 

 ただ、完全に俺の都合であることには間違いない。ジムチャレンジも後半に差し掛かっていて、期限がある以上俺の遠回りに三人を付き合わせるわけにはいかなかった。

 

「ふーん、そうなんだ……」

 

 ユウリが不思議そうに俺の顔をじーっと覗き込んできたかと思うと、ニッコリと笑って歩き始める。

 

「じゃあ、行こうか()()()()

 

 七番道路へではなく、()()()()()()()()()()()向かって。

 

「待てユウリ、俺は先に行ってくれって……」

「だーめっ。私はずーっとマサルと一緒に旅をしてきたんだから今更別行動なんてなしだよ。それに、マサルのパーティの子達は私の大事なお友達なんだから! お友達が困ってたら助けるのは当たり前でしょ?」

「ユウリの言う通りだな。水臭いぞマサル。たまにはお前のフォローをさせてくれ」

「そうやね。なんだかんだ、あんたには助けられてるし……マリィも力を貸してあげる」

 

 ったく、本当にこいつらは……人が良いというかお人好しというか。いや、純粋に優しいんだろうな。俺には過ぎた友達だよ。

 

「……わかった。三人とも、俺に……俺達に力を貸してくれ」

 

 俺はもう一度、三人に頭を下げる。本当に、幸せ者だな俺は。

 

 そして俺達四人はワイルドエリアへ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「さっきの私、ものすごく理解ある頼れる良い女ムーブだったよね?」

「本当に良い女はそういうことを口に出さねえんだよ」

 

 やっぱりユウリはどこまでいってもユウリだった。

 

 

 

 

 

 

 ナックルシティを南に進み、俺達がやってきたのはワイルドエリアにある砂漠地帯。砂漠と一口に言っても、誰もがイメージするような広大な砂地が広がるような「砂砂漠」だけでなく、砂粒よりも大きな砕屑物(さいせつぶつ)で覆われた「(れき)砂漠」や岩石や岩で覆われている「岩石砂漠」と色々な種類がある。

 

 俺達は事前に用意しておいたマントで全身を覆い、砂ぼこりが口に入らないようにフェイスベールを、目を保護するためにダイゴさんからもらったゴーゴーゴーグルを身に付けていた。ゲームだとそのまま平気で突っ込んでいくけどそんなことをするのはただの自殺行為だ。

 

 砂漠の敵は日差しと砂。五番道路よりも遥かに厳しい直射日光が容赦なく体力を奪うので、なるべく肌を隠すような服装で歩かなければならない。あと怖いのは脱水症状。この世界は収納の技術が優れているから飲料を容易に大量に運べるからありがたい。

 

「このゴーグルすごいね~。今度ダイゴさんに会ったらお礼言っておかないとね」

「……まじでダイゴさんには足向けて寝れねえわ」

「お? マサル! あっちにオアシス地帯があるぞ。休憩しよう」

「さ、三人とも……よくそんなにお喋りしながら平気で歩けるね……ど、どんな体力しとーと?」

 

 マリィが呼吸を荒げながら言う。俺達は小さい頃から自然に囲まれて野山を駆け回ってたからな。俺とホップだけじゃなく、ユウリもそんじょそこらの男よりも体力がある。

 

 とはいえ、こまめな休憩は必要なのでオアシス地帯や大きな岩の陰で水分をしっかりと補給しつつ、俺達は歩き続けた。時折、野生のポケモン達が俺達を遠巻きに見てくるも、襲い掛かってくる気配はない。こちらとしても、余計な体力を消耗したくないのでその方が助かる。

 

 当然といえば当然だが、この砂漠地帯に生息しているポケモンは地面タイプや岩タイプがほとんどだった。

 

 そして俺達は砂砂漠を越え、礫砂漠を越え、岩石砂漠を進んで行くと、大きな洞窟を発見する。それと同時に、俺のモンスターボールの一つがブルブルと震え、サナギラスが出てきた。

 

「ぎゅわ~……」

「サナギラス。あの洞窟で間違いないんだな?」

 

 垂れ目で不安そうな表情を浮かべながら、サナギラスが俺を見上げてくる。そんなサナギラスを撫でながら、俺は三人へと向き直った。

 

「あそこがサナギラスの生まれ故郷だ。みんなも知っての通り、サナギラスは他の個体と色が違うという理由で群れを追い出された。つまり、あの洞窟にはかつてこいつがいた群れが住んでいる。……もちろん、こいつだけじゃない。他のヨーギラスやサナギラス、バンギラスだっているだろう。正直、どれだけの数が生息しているのか全く想像できないからここから先は相当な危険を伴う。それでも、ついて来てくれるんだな?」

「あったりまえじゃん! ここまで来て帰るとかなしだもん! 私とマサルは『いっしょうたくれん』だからね!」

「……ユウリ、それを言うなら『一蓮托生』だぞ」

「危険なんやったら余計にマサルを一人で行かせるわけにはいかんよ。大丈夫、あたしらがしっかりフォローしてあげるから」

 

 本当に、良い友達を持ったな俺は。わざわざ確認することでもなかったかもしれない。だけど、それでも俺は、俺の我儘に付き合ってくれた三人にどうしてもお礼を言っておきたかった。

 

「ありがとう三人とも。みんながいてくれて本当に心強いよ」

 

 そして俺はサナギラスへと視線を移す。

 

「大丈夫だ、サナギラス。俺が、俺達がついている───行くぞ」

「ぎゅわっ!」

 

 サナギラスの返事を聞き、俺達は洞窟へと足を踏み入れた。

 

 洞窟の中は外と違って直射日光が届かない部分が多く、マントが必要ないほど涼しかった。砂塵も舞っておらず、俺達四人は動きやすさと視界を確保するために通常の服装へと戻す。

 

「思ったより明るいぞ。もっと真っ暗なところをイメージしてたけど、岩の隙間から太陽光が入ってきているからランプもいらないな」

「ほんとに真っ暗で何も見えんのやったら、ズバットみたいに視覚やなくて超音波で周囲の状況を把握できるようなポケモンやないと住めんのやろうね」

「雰囲気はダイマックス巣穴に似てんな。でも、ガラル粒子が漏れ出てる気配はない……群れのボスは自分達の住処でダイマックスするような無茶な真似をしないだけの知性があるってことか」

「う~ん……」

 

 俺とホップとマリィが冷静に周囲の状況を分析している中で、ユウリが腕を組んでうんうんと何かを考えこんでいた。何か気になったところでもあるのか? こいつはこういうところで変な勘が働くからな。

 

「どうした、ユウリ?」

「えっとね。ダイゴさんが生息してそうな洞窟だな~って」

「そんなことあるわけ……ありそうだなぁ……」

 

 こいつ、全然関係ないこと考えてやがった。でも、ユウリの言っていることもわかる。あの人絶対こういう洞窟大好きだろ。その辺の横穴からひょっこり顔を出してきても俺は驚かねえからな。

 

 そんなことを考えていると、スマホロトムがメールの受信を伝えてくれた。メールの送り主は……ダイゴさんかよ!? このタイミングでメールを送ってくるって……あの人、俺達の行動をどっかで監視してんのか!?

 

 恐る恐るメールを開くと、一枚の画像と簡素なメッセージが送られてきていた。

 

『うんこみたいな石を見つけたよ!』

 

 ものすごくキラキラした少年のような笑顔(泥まみれ)で巻きぐそみたいな石を掌に乗せているダイゴさん。そんなダイゴさんを呆れた表情で見ている相棒のメタグロス。

 

 こっちは今ものすごいシリアスな展開になってるんですよ!!

 

「ダイゴさんってずるいよなぁ。何やっても許されるしおもしれーんだから」

「婚期が遠のく写真だね。やってることが完全に小学生だよ」

「こ、この人がデボンコーポレーションの御曹司なのか? 信じられないぞ……」

「おまけに元ホウエンチャンピオン……こんぐらいキャラが濃くないとチャンピオンは務まらんと?」

 

 残念ながらホップとマリィの言葉を否定できない俺達だった。

 

 そこで、気付いた。俺達の間に流れていた張り詰めた緊張が少しだけ弛緩(しかん)したことに。

 

 なるほど。警戒を怠らず、気を張ることは大切だけど……張り詰め過ぎてもいざという時動けない。だから適度に心にゆとりを持っておきなさいということをダイゴさんは伝えたかったんだな。

 

 ……そういうことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 ダイゴさんのおかげで適度な緊張感を保ちつつ洞窟を進んで行くと、開けたドーム状の空間に出た。空間の壁面には多数の穴が……それこそ、ポケモン達が容易に入れるような巣穴に加え、明らかに()()()()()()()()()であろう通路のような物。

 

 そして、足を踏み入れた瞬間に突き刺さる敵意、無数の視線。

 

 合図はなくとも、俺達四人は警戒態勢を取った。だが、ボールを構えるだけで、ポケモンを出したりはしない。

 

 俺達は別に、ここを荒らしに来たわけじゃない。戦争をしに来たわけじゃないんだから。

 

「ぎゅわ……」

 

 サナギラスが弱弱しい声を発して俺の後ろに隠れると同時に、入り口から最も遠い所にある一番大きな巣穴から数匹のポケモンが出てきた。

 

 重たい足音を響かせ、巨体を揺らし、それらは俺達の前に現れる。

 

「……バンギラス」

 

 巣穴から出てきたのは三体のバンギラス。その中でも、真ん中にいる一体……明らかに他のバンギラスよりも一回り以上大きく、身体の至る所に歴戦の戦士を思わせる傷跡があり、特に、額から左目にかけての大きな傷跡が目立っていた。

 

 こいつが、この群れのボスか。

 

「ま、マサル……!!」

 

 視線の先にいるボスに気を取られていた俺はユウリの声で気付く。いつの間にか、この空間にある全ての巣穴からポケモンが───ヨーギラス、サナギラス、バンギラスが出てきていることに。

 

 そして、彼らの視線は全て、俺達に注がれている。ははっ、数を数えんのもバカらしくなってくるな。

 

「大丈夫だユウリ、安心しろ。こいつらが一斉に襲ってくることはない。もしもその気なら、とっくに襲われてるからな」

「ど、どうして襲ってこないの?」

「そりゃあ、ボスのあいつが知っているからだよ」

 

 そして俺は、一歩前に出る。

 

「人間の───恐ろしさを」

 

 あのボスは、間違いなくこのワイルドエリアを長年生き抜いてきた個体だ。そして、これほど膨大な数のポケモン達をまとめるリーダーでもある。だからこそ、嫌というほど知っているんだ。

 

 人間という生き物のことを。

 

「いきなり押しかけて悪かったな」

 

 俺は一歩、近づく。

 

「ただ、お前が思っている通り、俺はお前達を襲いに来たわけでも、居場所を奪いに来たわけでもない」

 

 さらに一歩、近づく。

 

 すると、ボスの両隣りに控えていた二体のバンギラスが俺の方へ一歩踏み出そうとするも、ボスがそれを手で制し、ボス自らが俺に近づいてきた。

 

 それに応えるように、俺も歩みを進める。

 

「マサルっ!」

「大丈夫だユウリ。マサルが言った通り、あいつがマサルを襲うつもりならとっくに襲われている。ただ、何があっても大丈夫なように警戒だけはしておくんだぞ」

「う、うん……」

「でも、危ないことしとるんには変わりなか。戻ってきたらお説教せんといかんね」

 

 それでいい。後ろは任せたぞ、三人とも。

 

 今の俺は、目の前にいるこいつから目を離せない……離すわけにはいかないからな。

 

 そして、俺とボスの距離が五メートルほどになったところで、お互いに歩みを止めた。本当にでけえなこいつ……体長だけなら三メートルはあるんじゃねえのか?

 

「グガオオオオオオオンッ!!」

 

 そんなことを考えていると、ボスが大きく口を開き、腹の底に重たく響く雄叫びを上げた。

 

 ビリビリと、空気が揺れる。悪いな。お前がどれだけ威嚇したって、退くわけにはいかない。ビビるわけにはいかない。

 

 お前はすげえよ。確かにすげえよバンギラス。普通だったら、一目散に逃げだしたくなるような威圧感だ。

 

 だけどな。

 

 俺が出会った()()()()()()()は───こんなもんじゃなかったぞ。

 

「俺達が何のためにここに来たか教えてやる」

 

 腹に力を込め、一歩、前に出る。

 

「俺は、俺達は───けじめをつけに来たんだ」

 

 俺の言葉に、ボスは目を細めて俺の後ろを……サナギラスを見た。やっぱりこいつ、知能も相当高いな。

 

「知らないとは言わせねえ。こいつは、お前達の群れから追い出されたサナギラスだ」

 

 サナギラスが、俺の後ろで震えているのがわかる。怖いよな。お前にとってみれば、目の前にいるこのボスは最大級のトラウマだ。だけどお前は、それを乗り越えるために、俺達と一緒にここに来たんだろ?

 

「サナギラス」

 

 振り返ることなく、俺は言う。

 

「お前は、過去を乗り越え、現実と向き合い、未来を掴み取るためにここに来た」

 

 俺と、似ている。お前は俺と似ているよ。

 

 そう。

 

 これは。

 

「お前達への復讐のためでも、憎しみを、恨みを晴らすための戦いなんかじゃない」

 

 ボスのバンギラスへ、この場にいる全てのポケモン達を見回し、告げる。

 

「サナギラス、お前が生まれた意味を───存在を証明するための戦いだ!!」

 

 最後に俺は、サナギラスへと振り返りこう言った。

 

「お前は必ず、最高に強くて格好良いポケモンになれる」

 

 今が───その時。

 

 サナギラスと、目が合う。その目にはもう、恐怖は、不安は、迷いは微塵も映っていない。

 

 瞬間、サナギラスの身体が輝いた。

 

 思わず、目を覆いたくなるような真っ白な輝き。

 

 俺が、ユウリが、ホップが、マリィが、この場にいる全てのポケモン達が見つめる中、鎧のような()()()をした巨体が光の中から姿を現した。

 

「───バンギラス」

 

 名前を呼ぶと、ヨーギラスの頃から何一つ変わらない穏やかな瞳で俺を見つめ返し、ゆっくりと、俺に向かって……俺を守るように、ボスの前へと歩み出る。

 

 後方に控えていた側近らしき二体のバンギラスが俺達に近づこうとした、その瞬間。

 

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 バンギラスの咆哮が、洞窟中に響き渡り、二体の側近を一歩、()()()()()。その咆哮に、どんな思いが、どんな感情が込められているのか。俺には、推し量ることはできても、理解することはできない。

 

 ただ、これだけはわかる。

 

 膝を抱え、洞窟の隅で震えることしかできなかったあいつはもういない。

 

 バンギラスが過去を乗り越え、現実と向き合った瞬間。

 

 だけど、まだだ。まだ、やるべきことが、やらなければならないことが残っている。

 

 こいつが、バンギラスが本当の意味で未来を掴み取るに、絶対に避けられない戦いが、目の前にあった。

 

「一騎打ちだ」

 

 そしてそれを、バンギラスも、対峙するボスも本能で理解する。

 

「俺は、俺達は一切、この戦いに手を出さない」

 

 そして絶対に、誰にも手を出させやしない。

 

「だが、もしも」

 

 言葉と同時に、()()()()()()()()()()()が振動する。

 

「お前達がこの戦いの邪魔をするっつーんなら」

 

 インテレオンが、シャンデラが、ジバコイルが、ニンフィアが、俺の後ろに現れた。

 

「───俺達が相手になってやる」

 

 俺は決して一人じゃない。

 

 バンギラス、お前は決して一人じゃない。

 

 だから、俺達のことは気にするな。お前はただ、目の前の相手に集中しろ。

 

「勝ってこい!! バンギラス!!」

 

 再び、咆哮。そしてそれは、バンギラスのものだけではなく、ボスもそれに応えるように咆哮を轟かせた。

 

 バンギラスは、未来を掴み取るために。自分が生まれた意味を、存在を証明するために。

 

 ボスは、群れのリーダーとしてのプライドのために。

 

 絶対に、譲れないものを抱えた両者が、真正面からぶつかり合う。

 

 だがそれは、ポケモンバトルと呼ぶにはあまりにも原始的な戦いだった。

 

 戦術も技も何もない、拳を、身体をぶつけ合う、ただただ純粋な、力と力の真っ向勝負。

 

 殴られれば殴り返し、尾を叩きつけられれば、尾を掴んで投げ飛ばし、互いの巨体をぶつけ合う。

 

 俺達も、周囲のポケモン達も、その戦いに割って入ることなく、固唾を飲んで見守っていた。

 

 いや、正しくは───見守ることしかできない、だ。

 

 バンギラスは、俺が今まで見たことがない鬼気迫る形相を浮かべ、雄叫びを、咆哮を上げて立ち向かう。そしてそれは、相手のボスも同じだった。両者の身体がぶつかり合う度、空気の振動が見えない衝撃波のように襲い掛かってくる。

 

 入れない。

 

 この戦いに割って入ることは、何人(なんぴと)たりとも許されない。

 

 それを誰もがわかっていた。わかっているからこそ、動けない。ボスの側近である二体のバンギラスも、百戦錬磨のあの二体ですら、この戦いの迫力に気圧されている。

 

 そして、互いの全てを懸けたこの戦いの結末は───そう遠くない未来に訪れた。

 

 何度目かわからない攻防。両者共に、呼吸を荒げながら立ちはだかる相手を力強く睨みつける。一見、互角の勝負を繰り広げているように見える、が。

 

「バンギラスの方が……消耗が激しい」

 

 ユウリがぽつりと呟いた。ああ、そうだ。お前の言う通り、ボスよりもバンギラスの方が圧倒的に消耗している。

 

 無理もない、このボスはバンギラスよりも一回り以上身体が大きい上、戦いの経験もバンギラスより圧倒的に多いんだから。

 

 だけど俺は知っている。()()()が決して、負ける理由にはならないことを。

 

 俺も、あいつも知っている。

 

「ゴオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 ボスが一際大きな咆哮を上げてバンギラスへと突進し、その拳を腹部へと叩きつけ、バンギラスを吹き飛ばした。

 

「ア、ガ……グァ……」

 

 倒れたバンギラスは苦しそうな呻き声を上げながら必死に立ち上がろうとするも、全身に力が入らないのか、身体を震わせるだけで立ち上がることができない。

 

「くっ……エースバー───」

「手ぇ出すなユウリ」

 

 思わずエースバーンを突撃させようとしたユウリを制止する。ユウリの行動は責められない。俺だって、力を貸せるのなら貸してやりたいんだから。だけどこれは、この戦いは……あいつ自身の力で乗り越えなければ意味がない。

 

「お前の優しさは十分伝わってるよ。ありがとなユウリ……だけど、大丈夫だ。俺はあいつを信じてる。だからお前もあいつを、俺が信じるバンギラスを信じろ」

 

 その言葉に、ユウリがそっと、俺の手を握った。

 

 俺は、この戦いに力を貸してやることはできない。だけど、ほんの少しだけ、お前の背中を押してやることくらいはできる。

 

「お前の強さは誰よりも、俺が一番知っている!!」

 

 お前がどれだけがんばってきたのを。自分の弱さを嘆き、苦しみ、それでも努力を積み重ねてきたことを、俺は誰よりも一番側で見続けてきた。

 

 お前は俺と、同じなんだバンギラス。

 

 だから───

 

「立て!! バンギラス!!」 

 

 バンギラスの目に再び、闘志が宿る。ボロボロの身体を震わせながら立ち上がり、俺と視線が交錯した。

 

 行け、バンギラス。

 

 俺の思いが通じたのか、バンギラスは今まで一番の咆哮を上げ、強く強く拳を握る。

 

 相対するボスは、バンギラスの闘志に応えるように、同じように拳を握った。

 

 その場にいる、誰もが理解した。

 

 次の一撃で幕だ、と。

 

 両者が駆け出し、互いが背負っている全てが宿った、互いが懸けている全ての思いが宿った拳が、炸裂した。

 

 両者は互いの拳をぶつけ合ったまま、数秒の間硬直する。

 

 そして。

 

 先に倒れたのは。

 

 ───()()()()の鎧を纏った、戦士。

 

 それに対し、黄金色の鎧を纏った戦士は、息も絶え絶えになりながら、俺の方へ振り返り、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

 俺の手を握っていたユウリが、そっと俺の背中を押してくれた。

 

 そして俺も、バンギラスへ向かって歩き出す。

 

「バンギラス」

「ぐがぁ……」

 

 先ほどまでの闘志が嘘のように、バンギラスは、出会った頃と何も変わらない穏やかな瞳で俺を見つめていた。

 

「ちゃんと見届けたよ、この目で。お前はやっぱり、最高に強くて格好良いポケモンだ」

 

 だからこそ、だからこそ……お前にどうしても、最後に()()()()()()()()()()ことがある。

 

「なあ、バンギラス。ここにいる全員が、この戦いを見届けた。この戦いを見て、全員が……お前のことを認めたはずだ」

 

 だからな、バンギラス。

 

「ここはお前の生まれた場所だ。だから、お前が望むのなら、ここに残っても───」

 

 言い終わる前に、バンギラスが俺の身体を強く抱き締める。

 

 その温もりに触れ、俺はバンギラスの思いを理解した。

 

 そうか。お前は俺を選んでくれるんだな。

 

 俺と一緒にいたいんだな。

 

 これからも、俺の側に───いてくれるんだな。

 

 だったら、改めてお前にこう言うよ。

 

「俺と一緒に行こう───バンギラス」




 バンギラス覚醒編でした。

 この展開、というか進化に関しては最初から考えていました。 

 せっかくの600族だし、一体くらいはただバトルを重ねて進化するんじゃなくてアニポケというか王道バトル漫画っぽく覚醒させたかったのです。

 ご都合主義と言われればそれまでですが、ちょっとでも楽しんでいただけたら嬉しいです。今回の内容に関して感想とかもらえたら嬉しいな。

 あと、最後にマサルがバンギラスに「ここ残ってもいいんだぞ?」と確認したのは、ヨーギラスを仲間にした経緯や抱えているものが他のポケモンと違って特殊だったからです。本当にお別れしたかったわけではありません。劇場版だとお別れしてエンディングだったでしょうね。

 それにしてもあれだな。完全にバンギラスがヒロインみたいになってるな。

 シャンデラもヒトモシの頃からヒロインっぽかったしニンフィアはニンフィアだし……どういうことだユウリ!?

 ま、冗談はさておき、次回はこの戦いの後処理をしてキルクスタウンに向かいます。キルクスタウンといえば……そう、温泉です。サービス回です。ヒロイン達(ポケモン)のサービスシーン満載になるでしょう。

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!


 
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