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「キルクスタウンポケモンジムのジムミッションを説明します。今お持ちの『落とし穴探知マシン』を使って、全てのエリアを踏破していただきます。エリアには見えない落とし穴があり、落とし穴に近づくほどマシンが激しく反応します」
「ダンペイさーん。激しく反応って、どんな反応をするんですか?」
「ブルブルと強く震えるのです」
「ふーん、そうなんだ。よくわかんないけどとりあえず突撃ー!」
「すごくわかりやすい説明だったでしょう!?」
ホテルで一泊した後、俺達四人は予定通りキルクススタジアムの攻略にかかる。一番手はユウリ。「落とし穴探知マシン」とかいうまんま過ぎるネーミングのL字型の細長い機械を使うらしい。すげーな。あんな古典的なダウジングマシンみたいなの、昔のドラえもんでしか見たことねえぞ。
「わっ! すごいすごい! ダンペイさん! すごく震えてます!」
「近くに落とし穴がある証拠です。慎重に進んでくださいね」
「よーし、行くぞー! ───ってあぎゃーっ!?」
「慎重に進んでくださいって言ったよね!?」
ブルブルと激しく振動する機械に興奮していたユウリが意気揚々と足を踏み出すとバラエティ番組のお手本のように落とし穴に落下していった。何やっとんねんあいつ。
「び、びっくりした……ほんとに落とし穴があった……」
「だから言ったでしょうに! もっと慎重に進みなされ!」
「ふ、ふふーん! 賢くて可愛いユウリちゃんは同じ轍を二度は踏まないのだ! ───ってわああああっ!?」
芸人かな?
機械がめっちゃ反応してるんだからもっと慎重に進めよ。しかもエリアの奥に行けば行くほど砂ぼこりで視界が悪くなるってのに……こんな序盤で穴に落ちまくってたら先が思いやられるわ。
「ゆ、ユウリ……大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないと思うぞ」
「大泣きして帰って来るに千円」
控え室で俺達は「はじめてのおつかい」を見守るパパママのような気持ちになりながらモニターを眺めるのだった。
それからのユウリのジムミッションはどうなったかというと……。
「すごく震えてる……で、でももう一歩くらい……もう一歩くらい進んでも大丈夫だよね? ───あぎゃああああっ!?」
落下。
「待って待って待って!! どの方向を向いても反応してるんだけど!! 詰んだ!! 詰んだよこれ!! ダンペイさん!! 詰みました!!」
「一度戻ってみなされ!!」
「戻る……こっちだっけ? ───あおおおおんっ!?」
落下。
「ぐぬぬぬ……す、砂ぼこりで視界が悪い。だけど私にはダイゴさんから貰ったゴーゴーゴーグルがある! これがあれば平気だよ! ───うにゃああああああああっ!!」
落下。
「う、ううっ……ぐすっ……ましゃる……助け───ひゃああああああっ!?」
ガチ泣きからの落下。
とまあ、こんな感じで悲惨な結果に終わったんだ。最終的にユウリは十回以上落とし穴に落ち、泣きべそをかきながら(途中で待機していたジムトレーナーさん達に慰められながら)どうにかこうにかミッションをクリアした。クリア扱いしてもらえたのも半分お情けだな。
「うぇっ……ふえぇ……ぐすん……うにゃぅ……」
「よくがんばったなユウリ」
「もっと頭撫でてよしよししてぇ……」
「よしよし」
そして、涙と砂ぼこりでドロドロになったユウリが控え室に戻ってくるなり俺に抱き着いてきたので宥めてやることにする。今までのジムミッションで一番苦戦してたな。まあ、ユウリの性格とすこぶる相性が悪かったからしゃーない。
「ユウリ、元気出しんしゃい。あたしがバシッとクリアしてユウリの仇を取ってくるけん」
「うぅ……マリィ……がんばってねぇ……」
マリィはぎゅっと拳を握り、気合十分といった様子で控室から出て行った。マリィにはがんばってほしいけど、ただ……俺としては穴に落っこちるマリィを見たいんだよなぁ。さすがに口には出さないけども。
んで、マリィのミッションチャレンジはというと……。
「お、思ったよりぶるぶる震えとる。こっちはだめやからあっちに───きゃああああああああっ!!」
「可愛いな」
「可愛いぞ」
「可愛いね」
悲鳴を上げるマリィは大変可愛らしかったです。これにはエール団もにっこり。
「情けなか!! あんだけ……あんだけ大見得切ったのにこの体たらく……。穴があったら入りたか!!」
「穴に落っこちてただろ」
「しぇからしか!!」
結局、何度か穴に落ちて砂まみれになったマリィが控室に戻るなり己の無力さを恥じていたところ、俺が余計な茶々を入れるとほっぺたをぐいぐい引っ張られた。マリィが戻ってくる頃にはユウリも泣き止んでおり……というかこいつも穴に落っこちるマリィを「可愛い可愛い」言いながら見てたからな。俺だけが悪いんじゃないからな。
「ホップ、気ば付けんしゃい。自分が思っとる十倍は慎重に進んだ方がよか。『まだいける』は危なかよ」
「ああ、わかったぞ。それより、そろそろマサルを解放してあげたらどうだ?」
「マサルのほっぺた、もちもちして気持ち良かね」
マリィは手を離すどころかますます俺のほっぺたで遊び始めた。まあいいけどね。マリィに触られるなら役得だし。
「二人のチャレンジを決して無駄にしないぞ! 落とし穴の位置は大体把握したからな!」
と、こんな感じで意気揚々と控室から出て行ったホップだったが……。
「ユウリとマリィの歩いていたルートから判断すると、こっちは安全なはず───うわああああああっ!?」
「落とし穴の位置はチャレンジごとに変わっています」
どんまいホップ。
「ふん! まったく、揃いも揃って情けないな。三人は気付いてなかったみたいだが……このミッションには必勝法がある!!」
「何企んどーと?」
「絶対ろくでもないことだぞ」
「ジバコイルに乗って落とし穴の上を通るのはだめだからね!」
俺がちょっとやる気を出すとすぐこれだ。今までのジムミッションだって俺なりに脳みそをフル回転させて攻略したってのにこの信頼度の低さよ。悲しいね。
「何一つ信用してねえな。言っておくけど、俺はこのミッション……一度も落とし穴に落ちずにパーフェクトでクリアする自信があるから」
「ふーん? じゃあ一回でも落ちたらマサルは一生私の言うこと聞くんだよ?」
「俺がノーミスでクリアできたら?」
「何もなし!」
「ふざけんな! 不平等すぎるだろ!!」
「えー? なになにー? もしかしてマサルくんは可愛いユウリちゃんにそんなに言うこと聞かせたいのー? はぁ~♪ 女の子を自分の思うがままにしたいだなんてマサルくんってば本当にいやらし───あいだだだだだだだだだだっ!?」
ユウリがメスガキ顔でふざけたことをぬかしやがったのでアイアンクローをお見舞いしてやることにする。お前さっきまでびーびー泣いてたくせに調子に乗りやがってこの野郎。どっちが上の立場かわからせてやらねえとなあ?
「ユウリちゃんは俺に何をさせたかったのかな? はぁ~、いやらしいいやらしい。ユウリちゃんは本当にえっちな子ですね~。やーい、むっつりユウリちゃん」
「む、むむむむっつりじゃないもん!」
「じゃあオープンえっちなんだな」
「ち、違うもん! 私は全然えっちじゃないもん! 清楚な淑女だもん!」
「清楚と淑女の意味を辞書で調べてこい」
「……ホップ、止めんでよかと?」
「バンバドロに蹴られたくないんだぞ」
「とうとう現れおったな狂気の沙汰!!」
「やめてくださいよ。まるで俺がダンペイさんに迷惑かけてるみたいじゃないですか」
ダンペイさんはミッションエリアに入ってきた俺の顔を見るなり露骨に嫌そうな顔をしてそう言った。さっきまでの三人に対する態度とは大違いだな。俺も随分ダンペイさんと仲良くなったもんだ。
「まあまあダンペイさん。もう六番目のジムですし、こうして俺とじゃれ合えるのもあとほんの数回なんですよ」
「……何を言っとるんだ。お前さんと関わるのはこれが最後に決まっとるだろーが」
「え? なんでです?」
「気付いとらんかったんか!? スパイクスタジアムはそもそもジムミッションがない上、ナックルスタジアムのミッションはジムリーダーが直々に見届けるダブルバトル。審判の介入する余地がない!」
そ、そう言われればそうだった!! 目の前のミッションを乗り越えることばっか考えてて肝心なことを忘れてた!? つまりもう、ダンペイさんの血圧が高くなるようなツッコミも血管が破裂しそうになるツッコミも胃を痛めるほどのツッコミも聞けなくなるってこと!?
……良いことずくめだな。俺と出会ってしまったばっかりに。お労しや。
「しまった……こんなことならもっとダンペイさんとの思い出をたくさん作っておくんだった」
「これ以上ワシの精神を追い詰めてどうするんじゃ!! もうお腹いっぱいで胃もたれ起こしとるわい!!」
「つまり俺は……ダンペイさんの消えない傷になったってこと?」
「なんでちょっと嬉しそうなの!?」
「これはもう実家の牧場で『ありがとうダンペイさんセール』をやるしかないな!」
「自分が勝ち進んだお祝いセールをせんかい!!」
こんな応酬も最後になると考えたら名残惜しいな。ありがとうダンペイさん。ターフタウンのジムミッションからずっとお付き合いいただいて。あなたのおかげでこのジムチャレンジに彩を添えることができました。
「あと俺にできるのは……ジムチャレンジの集大成としてこのミッションをダンペイさんのツッコミなしでクリアすることだけだ」
「まだジムリーダーを全員倒してないのにこんなところで集大成にするな!」
いきなりツッコまれてしまい、俺の野望は儚く散るのだった。
「いいからさっさとマシンを持ってミッションに挑戦しなさい」
「あ、今回はそのマシンなしでクリアするつもりなんで」
「この時点で嫌な予感しかしない!!」
俺はそう言って改めてミッションエリアを見渡すことにする。挑戦者が変わるごとに落とし穴の位置も変更されるので、他の三人が挑戦したルートは全く参考にならない。エリアの地面は砂漠のような柔らかい砂になっており。どこに落とし穴があるのかは全く分からなかった。
まあ、俺の場合は落とし穴があろうがなかろうが
「ポケモンに乗って落とし穴を越えるのは失格じゃからな!」
「そんなことしませんよ。正真正銘、俺は
ダンペイさんにそう宣言し、俺は十メートルほど後ろに下がって、クラウチングスタートの体勢を取った。
「ま、まさかお前……!?」
気付きましたかダンペイさん。俺の「必勝法」に。
そして俺は、最後にダンペイさんに笑いかけ、強く地面を蹴った。
一気にトップスピードまで加速し、無数の落とし穴が存在するエリアを眼前に捉える。だが俺は、一切減速することなくトップスピードを維持したままエリア内へと足を踏み入れた。
『な!? ま、マサル選手!! マシンを使わずに真っ直ぐにエリア内に突入を!? マサル選手の足元がどんどん崩れるも全く意に介さず!! 落とし穴に落ちる気配がありません!!』
『素晴らしい身体能力ですね。落とし穴には蓋がしてあるので、その蓋を踏んで穴に落ちる前に次の足を前に踏み出すことで落下することを防いでいるのでしょう』
『いやいやいや!! 蓋って言っても柔らかい布地ですからね!? 片足で踏んだ瞬間にドボンなんですよ普通は!!』
『彼の身体能力が普通の人間を遥かに凌駕しているということでしょう』
『忍者か何かですか!?』
実況と解説の人が盛り上がっている間にも、俺は落とし穴がない中継地点までやってきていた。振り返って俺が通ってきた場所を見てみると、見事に落とし穴だらけ。行けるかどうかちょっと不安だったけど、案外何とかなるもんだな。
「お前本当に人間か!? 新種のポケモンと違うんか!?」
「ふっ……ダンペイさん。こんなの、
そう言った瞬間、サイトウちゃんが俺と同じことをやろうとして穴に落ちて「できるわけないじゃないですか!!」と涙目になってる光景がありありと脳裏に浮かんでしまった。サイトウちゃん、元気にしてるかな?
そして俺は、ジムトレーナーさん達のドン引きした視線を浴びながらジムミッションをノーミスパーフェクトでクリアするのだった。
うん! 文句のつけようがない完璧な攻略だったな!
「まさかとは思うけど……マサルと同じハロン人のあんたらも同じことができるんやなかろうね?」
「あんなことできるのはマサルの一族だけだよ!!」
「サラッとサイトウさんも被害に巻き込まれてるぞ」
控え室に戻ったらユウリとマリィにぎゃーぎゃー言われ、サイトウちゃんから怒涛のメールラッシュが来ていたので返信すると、最終的にサイトウちゃんは「私は水の上を走れるようになります!」と謎の宣言をするのだった。そういうところが可愛いね。
その後、ミッションをクリアしたのでマクワさんとのバトルになったんだけど、穴に落ちまくって泣き顔を全国に晒したユウリはバトル前にしきりにマクワさんに心配されていた。なんという紳士力。これを見てユウリも少しでもガラル淑女らしく……と思ったけどバトルの内容は全く淑女らしくなかったんだ。
初戦、パルスワンVSガメノデス
岩、水の混合タイプという珍しいガメノデスに対して電気で有利の取れるパルスワン。防御は低いが、持ち前のスピードでガメノデスを翻弄し、多少のダメージを受けつつも撃破。
二戦目、メタグロスVSツボツボ
ツボツボは防御と特防が伝説系すらをも上回る、全ポケモン中文句なしのナンバーワン。しかも「パワーシェア」というやべー技を覚えてて一筋縄ではいかない相手だ。が、真正面からの殴り合いの末、タイプ相性と体力の差でメタグロスの勝利。
三戦目、ルカリオVSイシヘンジン
岩単体タイプで、攻撃と防御に全振りしているオーソドックスな岩ポケモン。その分、特防と素早さが低いのでルカリオの「はどうだん」で完封。
最終戦、ダイマックスシャワーズVSキョダイマックスセキタンザン
セキタンザンは岩と炎の複合タイプで水技が刺さりすぎるため、シャワーズであっさり撃破……かと思いきやセキタンザンが「ダイソウゲン」を使ってくるというサプライズ。しかし、セキタンザンの元の特攻が低かったことと、シャワーズの耐久力が高かったことによりシャワーズの勝利。
こうしてユウリはエースバーンを温存したまま、相変わらず圧倒的な強さを見せつけてマクワさんを退けたのだった。
続くマリィもユウリと同じようにガメノデスに電気タイプのモルペコをぶつけ、後は格闘タイプであるズルズキンとドクロッグを中心に戦わせるもツボツボに苦戦し、最終的に総力戦となって二体の犠牲を払いながらもなんとか勝利。バトル後に「やっぱり鋼がいたほうがいいかも……」と呟いておりこれにはダイゴさんもにっこり。
ホップはエースのゴリランダーがセキタンザンと相性が悪いので、あえて先発で起用。その後は攻撃で有利を取れるアーマーガア、バイウールーの「コットンガード」からの「ボディプレス」コンボが活躍。最後のセキタンザンはカビゴンと相打ちという形で突破した。
さてさて、次は俺の番だな。
「待っていましたよ、マサル選手」
フィールドに足を踏み入れ、中心で待っているマクワさんと向かい合うとサングラスの奥で彼の目が朗らかに笑っているのがわかった。なんだろう……ユウリ達と対峙してた時はこんな雰囲気じゃなかったはずなのに。
「あなたとは一度、話をしてみたいと思っていたのです」
「話、ですか?」
え? な、何を言われるんだろ。もしかして、さっきのジムミッションのことで怒られたりするのかな?
そんな風にちょっぴり不安になっていたけど、マクワさんの口から予想外の言葉が飛び出してきた。
「アラベスクスタジアムでのポプラさんとのバトル……大変感銘を受けました」
「血迷ったんですか!?」
唯一俺がどうやって勝ったのか理解も説明もできないバトル。できることならあれを見た人達の記憶から抹消したいあのバトル。そんなバトルのどこに感銘を受けたというのか。
「正確にはバトルの内容ではなく、ポプラさんと交わしていた言葉に、ですね」
ポプラさんと交わした言葉……? あの人と何を話してたっけ? やべえ……「ダイゴマックス」とか「全能力六段階ダウン!!」とかしか思い出せねえ。
「ポプラさんはあなたにとって……あなたの一族にとって因縁のある相手でした。だけどあなたはこう言った。『バトルという場においては必要以上にそういう感情に囚われていけない』と。そしてあなたは言葉通りに、一族の因縁に囚われず自分自身の力で勝利を掴み取った。その姿に、とても感銘を受けたのです」
なるほどね。あのバトルをそこまで好意的に解釈していただけるとは。確かに一族の因縁には囚われなかったけど、別の意味わからん力に……
「何やら、一族にまつわることで思うところがありそうな物言いですね」
「ふっ、仰る通りです。マサル選手、あなたもご存知のように僕の母は氷タイプのエキスパート……いいえ、母だけではない。僕の一族は代々氷タイプのポケモンを育て上げ、このキルクスタウンのジムを受け継いできました」
マクワさんがメロンさんについて言及するのは意外だった。メロンさんからの感情は別として、マクワさんからメロンさんへ向ける感情は、傍から見れば決して良いものに見えなかったからだ。
「だけど僕は、そんな一族の習わしに縛られるのが嫌でした。自分が本当に、心の底から育てたいと思うポケモンをパートナーにしたいとずっと思っていた。そうでなければ、ポケモンに本当の愛情を向けることなんてできないと思っていたから」
なるほどな。確かにマクワさんの言う通り、パートナーとなるポケモンに本当の愛情を向けられないのであれば、それはポケモンにとってもトレーナーにとっても……互いにとって不幸にしかならないだろう。
「だからマクワさんは、岩タイプを選んだんですね」
「はい。氷タイプの弱点である……一族の天敵である岩タイプを、ね」
マクワさんはそう言って、少しだけ自嘲気味に笑った。
「自分でもね、わかっているんですよ。僕のやっていることは、一族の習わしに縛られたくないというのは、幼稚で、ちっぽけで、駄々をこねている子供のような我儘に過ぎないって」
それを自覚しているからこそ、氷タイプを受け継がせようとしていたメロンさんに強い態度を取ってしまった。キルクスタウンのジムが、伝統ある名門ジムであるから尚更だ。
「後悔、していますか?」
「……え?」
「氷タイプを受け継ぐのではなく、岩タイプを極める道を選んだことを」
尋ねながら、俺はマクワさんが何と答えるのかわかっていた。
「まさか、後悔なんてあるわけない。確かに、僕が岩タイプを選んだきっかけは、子供のような反抗心からだったかもしれません。でも、僕がポケモン達に向ける愛情は、岩タイプにかける思いは、熱意は、覚悟は全部───本物だ」
そうでなければ、ジムリーダーになんてなれやしない。マクワさんの目は、そう語る。
「……それら全てが本物だからこそ、メロンさんは全力でマクワさんにぶつかってきたのでしょう。そしてあなたは、それに全身全霊で応え、本気でぶつかり合い、勝利を掴み取ったからこそ、今こうして、ここに立っている」
マクワさんは一族の敷いたレールではなく、あえて困難な道を選んだ。実際、育成ノウハウのある氷タイプを選んだ方が楽だったのかもしれない。しかし、一族が代々受け継いできた氷タイプを背負うというのは、周囲の人間には想像もできない重圧があったことだろう。
そして、マクワさんの選んだ道に対して、こう思う人がいるかもしれない。
「一族の重圧から逃げ出したのだ」と。
だけど、俺はそうは思わない。
「俺には想像もできませんが、マクワさんが岩タイプを極める道を選んだことに対して、周囲から色々と言われたこともあったでしょう。それこそ、心無いことだって。だけどあなたは逃げなかった。それらを全て受け止め、跳ね除け、確固たる結果を出した。そんな生き方を選んだあなたを、尊敬こそすれ軽んじるなんてありえない」
どちらの道が正しくて、どちらの道が間違っているとか、そういう話ではない。
マクワさんが、自分で選んだ道を
「マクワさん、あなたは言いましたね。『幼稚で、ちっぽけで、駄々をこねている子供のような我儘だ』と。だけど、そんな幼稚な我儘も、貫き通して結果を出せば───それは強さの証明だ」
彼がどれだけの努力を、研鑽を積んできたのかを俺は知らない。だけど彼は、マクワさんは自分自身の力と、ポケモン達の力で証明してみせたんだ。メロンさんにはない強さを。一族にはない強さを。
「胸を張ってくださいよ。あなたは、トップジムリーダーであるキバナさんに無敗を誇る氷の女王を退けた岩タイプマスターなんだから」
俺の言葉を聞いて、マクワさんは眼鏡のブリッジに指を当てて目を伏せる。実際、この人がやったことって滅茶苦茶すげーからな。いくら岩タイプが氷タイプに有利を取れるとはいえ、氷タイプのポケモンはサブウエポンとして水タイプの技を覚えるケースが多い。にもかかわらず、マクワさんはメロンさんからメジャージムリーダーの座を勝ち取った。やべーよ本当に。
「……あなたと向かい合って、わかりましたよ」
マクワさんは顔を上げて、言う。
「なぜカブさんが、己の進退を懸けてまで、あなたと勝負することを選んだのか」
その瞳に、憂いはない。
「こんなことを言うと、ジムリーダー失格かもしれませんが」
ボールを構え、マクワさんは笑顔を浮かべる。
「
ジムリーダーのマクワが 勝負をしかけてきた!
「イシヘンジン!!」
「インテレオン!!」
バク宙からのアクロバティックな投法で繰り出されたのはイシヘンジン、対してこちらは初手からエースのインテレオン。
出し惜しみは、ない。
「いきなりカブさんの相棒を沈めたインテレオンですか……お手並み拝見といきますよ!!」
上等だ。どれだけ強固な守りを持つ岩ポケモンだろうが、ウチのスナイパーに撃ち抜けないものは、ない。
「インテレオン、ねらいうち!!」
技の威力だけじゃない。このずば抜けた機動力で、マクワさんのポケモンを圧倒して───
「ワンダールーム」
インテレオンの指先から放たれた高圧水流がイシヘンジンを貫くも、倒れない。一時的に特防を爆発的に向上させたイシヘンジンはその場に踏みとどまり、インテレオンを睨みつけた。
瞬間、ぞわりと背筋が凍るような感覚に襲われる。インテレオンもそれを感じ取ったのか、俺が指示を出すよりも早くインテレオンは後ろへ飛び退いた。
「そういう動きをすることは、読めていましたよ───がんせきふうじ」
インテレオンが着地すると同時、地面が盛り上がりインテレオンの下半身を拘束する。なるほどな、マクワさんもインテレオンの機動力を一番警戒していたか。どうやら、サイトウちゃんとの試合でインテレオンの動きを見せ過ぎていたらしい。
「イシヘンジン!! のしかかり!!」
イシヘンジンが飛び上がり、動きを封じられたインテレオンへと迫る。インテレオンは特攻と素早さが非常に優れているが、耐久力は低い。イシヘンジンの「のしかかり」を受けてしまえばひとたまりもないだろう。たとえ「ねらいうち」で迎撃し、戦闘不能にしたところで、自由落下してきたイシヘンジンと相打ちになることは間違いない。
先発のポケモンが相手のエースと相打ち……お釣りがくるほど十分すぎる戦果、この後のバトル展開が一気にキツく───
なるわけねえだろ。
「ハイドロカノン!!」
瞬間、「ねらいうち」とは桁違いな量の莫大な水流がイシヘンジンに襲い掛かった。
自由落下してくるイシヘンジンと相打ち? させるかよそんなこと。こっちの身動きが取れないのと同じように、空中にいるイシヘンジンだって身動きが取れないんだ。
だったら、大量の水と技の威力で押し流してやるだけだ。
「このくらいで、ウチのエースを倒せると思いましたか?」
「このくらいで、あなたのエースを倒せるなんて思っていませんよ」
マクワさんは不敵に笑った。
「インテレオンの機動力を封じた時点で、イシヘンジンの仕事は終わっていたんだ! ツボツボ!」
二体目、ツボツボ。面倒なのが出てきたな。こいつの面倒なところは、ただ防御と特防が高いだけじゃないってところだ。
「そしてイシヘンジンはインテレオンに『ハイドロカノン』を使わせるという
……ちっ。やっぱこの人は、
「技の反動で、インテレオンは
「パワートリック」は自分の攻撃力と防御力を入れ替える技。そしてツボツボの防御力は、全ポケモン中ナンバーワン。
つまりこの瞬間、ツボツボの攻撃力は───
「ストーンエッジ!!」
隆起した鋭い岩がインテレオンに襲い掛かった。一時的に伝説ポケモンすら遥かに凌駕する火力を手に入れたツボツボの「ストーンエッジ」。
こんなもん、耐えられるわけがないだろう。
そう、
「インテレオン」
言葉と同時、隆起した岩の陰から
「まさか……みがわり!?」
気付いたところで、もう遅い。
「アクアジェット」
インテレオンの機動力を封じられようが、ツボツボの機動力はそれ以下だ。そして、ツボツボの最も厄介
故に、インテレオンの物理技で───落ちる。
『二体目のツボツボもインテレオンが撃破した!! マサル選手の読みがジムリーダーマクワをも上回っているというのか!?』
『とはいえ、非常にギリギリの攻防でしたね。ツボツボの機動力……技の発動があと少し早ければ、インテレオンが反動から立ち直り「みがわり」を仕込むより前に「ストーンエッジ」が決まっていれば倒れていたのはインテレオンだったでしょう』
実況と解説の人が言っている通り、一見、俺がスマートに倒したように見えてるかもしれないけど内心冷や冷やだったからな。まあ、そんなことは表情にはおくびにも出さないけど。
「上出来だ。戻っておいでインテレオン」
「うぉん」
「いつもギリギリの苦しい場面ばかり任せて悪いな。次も頼む」
俺が労いの言葉をかけてやると、インテレオンは俺の肩をポンポンと叩いてボールに戻る。ここまでは良い流れだ。一手遅かったらインテレオンがやられてたけど、それを見事にカバーしてくれた。本当に頼りになるヤツだよ。
マクワさんの手持ちは残り二体。だけど、セキタンザンは最後に出してくるだろうから、次に出してくるポケモンは決まっている。
「ガメノデス!!」
「ニンフィア!!」
「ふぃあーぉっ♪」
さあ行ってくるんだ、完璧で究極なアイドルよ。その可愛さでスタジアム中を虜にしてやれ。
『に、ニンフィア? ここでニンフィア……ですか? マサル選手はガメノデスに有利を取れるジバコイルを所持していたはずですが……』
『何か考えがあるのでしょうね。非常に楽しみです』
実況の人達は多少戸惑っているらしい。だよな。普通だったらジバコイルの電気技で攻めると思うよな。
「サイトウさんとの試合で猛威を振るっていたニンフィア……正直、何を考えているのかわかりませんが、僕のやることは変わらない!! ガメノデス、からをやぶる!!」
ガメノデスの初手は、積み技。当然の選択だろうな。サイトウちゃんとのバトルでは持ち前の可愛さでゴロンダを魅了し、何もさせないまま戦闘不能にしたんだから。下手に攻撃すれば「あまえる」で無力化されかねない。だからこその、積み技。
だけど俺は、
「ニンフィア」
ガメノデスが───
「マジカルリーフ」
その技に、マクワさんが目を見開き、スタジアム中がどよめいた。だけどこれは、俺が一番最初に思いついたガメノデス対策。ガメノデスは岩と水の複合タイプ。つまり、草タイプの技が天敵中の天敵。
さらに「からをやぶる」で特防が下がっている今のガメノデスならば───たとえタイプ不一致であっても、ニンフィアの特攻で、落ちる。
『舞い散る無数の深緑の刃がガメノデスを切り裂いた!! ガメノデス、戦闘不能!! 戦闘不能です!!』
『非常に面白い戦い方ですね。ニンフィアはフェアリータイプですが、優秀な他タイプの技をいくつも使えます。サイトウジムリーダーとの戦いで、フェアリータイプらしさを強く印象付けていたのも上手かった』
まあ、草技を使わせるなら素直に草タイプのポケモンを出すからな。その方が威力も出るし。
「よし、戻っておいでニンフィア」
「ふぃあ~♪」
ニンフィアが嬉しそうな笑顔で飛び跳ねながら俺の足に擦り寄ってくる。こんなにも可愛らしいのに、意外とニンフィアは好戦的だからな。悪い女やでほんまに。
「最後の一体……ですがまだだ!! まだ僕の闘志は崩れちゃいない!! 山となり、全てを粉砕しろ!! セキタンザン、キョダイマックス!!」
マクワさんの最後の一体、セキタンザン。キョダイマックスするとまじでゴジラみたいだな。岩と炎の複合タイプだからインテレオンがぶっ刺さるけど、あいつは結構消耗している。
それに、俺は初めから、セキタンザンの相手は
さあ、行ってこい。
お前の強さを、存在をガラル中に教えてやれ!!
「バンギラス!! ダイマックス!!」
ダイマックスバンドが輝き、荒々しくも勇ましい雄叫びと共に、巨大化したモンスターボールから金色の鎧を纏った戦士が現れる。お前にとって、これ以上ないくらいふさわしい場面だ。
遠慮はいらねえ。何もかもぶっ飛ばしてやれ!!
『ば、バンギラス!? しかもこれは……色違い、色違いの個体です!!』
『……驚きましたね。色違いのバンギラスを初めて見たのもそうですが、マサル選手は六番目のジムにもかかわらず、まだ切り札を隠していた』
世にも珍しい色違いバンギラス。しかも相手は岩タイプマスターマクワの最後の一体、セキタンザン。
スタジアムが、湧かないはずがないだろう。
「消耗しているとはいえ、インテレオンを出すという選択肢もあった。この
「……マクワさんが相手だから、ですよ。あなたが言った通り、バンギラスを隠しておいた方がこの後のジムで有利に立ち回れたかもしれない。だけど……それ以上に!! あなたが岩タイプマスターだからこそ!! 俺のバンギラスで挑まずにはいられなかった!!」
人によっては挑発と受け取られるかもしれない。俺にそんな意思が全くなくとも、だ。
だけど、マクワさんは笑っていた。心の底から、このバトルを楽しんでいるかのように笑っていた。
「こんなにも胸が熱くなったのは……
マクワさんの言うあの人が誰のことなのか、わかっていたが俺はあえて口にしない。
「その挑戦、受けて立ちます!! そして証明してみましょう!! 僕のセキタンザンがあなたのバンギラスよりも強いことを!!」
「それはこっちの台詞ですよ。俺のバンギラスで、あなたのセキタンザンをねじ伏せる!!」
もうこれ以上、言葉は必要ない。
次の一撃で、終わりだ。
そして。
奇しくも。
俺達二人が選んだ技は。
「ダイ───」
「───ロック!!」
激しいダイマックス技のぶつかり合いの末にどちらに軍配が上がったかのか。
言うまでもないだろう。
『た、倒れたのは───セキタンザン!! よってこのバトル……マサル選手の勝利です!!』
マサル「これからも見せてよ! マクワさんのロック『まくわ・ざ・ろっく』を!」
ポプラ戦とは違って真面目なバトルでしたね。ダイゴマックスとかやってたのと本当に同一人物なんかこいつ。
バトルに関して補足しておきます。キョダイマックス個体のセキタンザンがダイマックス技を使っていますが、本作のバトルはノリと演出重視なのでこの件についてツッコミはしないでください。
あと、マクワの心情に関しては完全独自解釈のオリジナルなので、ご了承ください。
最近更新ペースが落ちてきたので、もっと執筆速度を上げたいところ。モンハンが発売されるまでに完結したいな。
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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