【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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No.0052 ぶちぎれ!! ネズさん

『あなたの目玉にマスターボール! ボールガイだよ! おはこんボルボル~!』

 

 俺達四人はキルクスタウン南東から九番道路を抜けて、入り江の定期船に乗りスパイクタウン方面へと向かっていた。入り江は氷河が広がっており、定期船そのものが世にも珍しい砕氷船だったので、俺を除く三人は船内を探検している。

 

 で、残された俺は船内の共用座敷でホップのバイウールーを枕にして寝っ転がりながら荷物番をしていた。やっぱ畳はいいな。落ち着く。

 

「ふぃあ~お♪」

 

 ゴロゴロしていると、いつの間にかニンフィアとルカリオとモルペコがやってきたので、モルペコを抱っこしつつ、ニンフィアとルカリオをモフりながらスマホを弄っていると、懐かしい人物の動画を見つけた……見つけてしまった。

 

『今日は記念すべき第一回目の『ボールガイのポケモンゲットだぜ! 講座』ということで、トップジムリーダーのキバナさんと一緒に、ポケモンの捕まえ方を勉強していくボルよ~!』

『よろしく頼むぜ』

 

 生配信……じゃなくて収録か。まあ、素人がいきなり生配信なんてハードルが高いわな。ってか、冒頭のあいさつは何だよ!? 完全にナンジャモのパクリじゃねーか! 本人に見られたら怒られるぞ!?

 

『ちなみに冒頭のあいさつはちゃーんとナンジャモさんに許可をもらってるボルからね~。どうせこれを見ているどこぞのでんTマンは画面の向こうで「ナンジャモのパクリじゃねーか! 本人に見られたら怒られるぞ!?」とか浅はかなツッコミをしているんだろうボルけど……実に、甘い! M-1予選落ち!!』

 

 はっ倒すぞ!! 炎上してしまえ!!

 

「くわんぬ」

 

 俺の心の内を察したようにルカリオが俺の頭をよしよしと撫でてくれた。ええ子や。

 

『今日は初回なので、ショップでよく見かけるオーソドックスなボールを使ってワイルドエリアのポケモンを捕まえるボルよ~!』

 

 そのまま何の気なしに動画を垂れ流していると……内容自体はものすごくしっかりしていた。モンスターボール、スーパーボール、ハイパーボールの違いを説明しながら捕獲する際の注意点に触れつつ、キバナさんにポケモンを捕まえてもらうという流れだった。

 

 それだけじゃなく、ワイルドエリアの植生やポケモンの生息地の分布についても触れ、最後は巣穴でダイマックスポケモンを捕まえていた。普通に面白いし勉強になるのが腹立つな。

 

『今日の講座はここまでボルよ~。次回はカブさんをゲストに迎えて鉱山地帯のポケモンを捕まえていくボルからね~!』

 

 は? 次回のゲストがカブさんとか絶対見るしかないじゃん。

 

『ではではみなさんご一緒に! いつ捕まえるか? 今ボル!』

 

 そのあいさつは流行らないし流行らせねえからな!

 

 動画を見終えて謎の倦怠感に包まれていた俺はバイウールーを枕にしたまま目を閉じる。ニンフィアもルカリオもモルペコもモフモフで温かいからこのまま寝れるな。

 

「マサル~! おでん買ってきたよ~!」

 

 そんな風にウトウトしていると、探検を終えたらしいユウリ達が帰ってきた。売店でおでんを売っていたようで、ご機嫌な様子のユウリが笑顔で容器を渡してくる。湯気がモワモワと立っており、良い匂いがした。やっぱ冬はおでんだよな。コンビニのおでんは不衛生だなんだって言われてるけど、あったら食いたくなるんだよ。

 

「探検はどうだった?」

「おもしろかった! あのねあのね! デッキに出たら風がすっごく冷たくてね! それでね、タマンタの群れが水面をぴょんぴょん飛んでて……」

 

 嬉しそうに語るユウリの話を聞きながらおでんをモルペコ達にも食べさせてやることにする。船なんて滅多に乗らないからテンション上がるよな。ただ、俺の経験上、こうやってテンションが上がったユウリは突然電池が切れたように寝始めるので要注意だ。

 

「見間違いかもしれんけど……離れ小島で水着になっとる人がおったよ」

「どこぞの道場の門下生が修行でもやってたんじゃねえの?」

「カップルだったぞ」

「正気の沙汰じゃねえ!!」

 

 この極寒の海で水着になってるカップルとか……動画配信者かよ。体張りすぎだろ。あ、体張るで思い出したけど、昔のナンジャモは体を張った企画が多かったよな。今は人気が出て大衆向けの企画ばっかだけど……昔の汚れ役ナンジャモも好きだったなぁ。シビルドンとの「ヌルヌルオイルタイマン相撲」は神回だった。

 

「う~ん……」

「どうしたユウリ?」

「このおでん……美味しいけど、何かが足りない気がする……」

 

 ユウリがおでんを食べながら首をかしげてそう言った。足りないって、十分美味いだろ。強いて言えば味変用の調味料くらいか。

 

「何だよ? からしか? 味噌か?」

「違うなぁ~。もっとこう、刺激というかスパイス的な何かというか……はっ!? そうか!」

「……その先は言わなくていいからな」

「カレーを入れればいいんだよ!」

「おとなしくそのまま食ってろ」

 

 世紀の大発見のように言ったユウリがレトルトカレーをおでんにぶち込もうとするのを全力で阻止する俺達だった。

 

 

 

 

 

「ここがスパイクタウンか! なんだか独特な雰囲気だぞ!」

「マリィの故郷……ふひひ……これって実質結婚のあいさつみたいなものだよね!」

「あながち間違いじゃねえなぁ」

「どの辺があながちっとーと!?」

 

 定期船を降りてしばらく歩き、俺達はスパイクタウンへとやってきた。なんつーか、あれだな。寂れたシャッター街って印象だ。ハロンタウンも田舎っちゃー田舎だけど、スパイクタウンとは違って農業が盛んなオープンな田舎だ。スパイクタウンはどちらかというと、閉ざされた田舎って感じがする。マリィが復興させたいって思う気持ちもわかるな。

 

「なーんもないとこよ。今回はジムチャレンジやからあんまりのんびり滞在はできんけど、また今度色々案内を───」

「あ、エール団のおじさんだ~! おーい、おじさーん! マリィがよく行くお店教えてー!」

「あんた人の話聞いとーと!?」

「んげっ!? 妖怪カレー女にでんTマン!! それにダンデの弟まで……」

「よりによってハロンの欲張りセットと一緒にお嬢が帰ってきちまった!?」

「ね、ネズさんに報告ー!!」

 

 見覚えのあるペイントと腹の贅肉……エール団のおっさん達は俺達の姿を見るなり蜘蛛の子を散らしたかのように走り去っていった。

 

 俺達が何をしたっていうんだ。

 

「おお、本当にエール団が妨害しなくなってるぞ」

「ネズさんにめっちゃ怒られたらしい。前のあいつらのままだったら、町の入り口のシャッターを封鎖するくらいやってただろうなぁ……」

「うっ……ウチの人達がい、色々とご迷惑をおかけしました……」

 

 言うほど迷惑かけられてないけどな。何回かバトルをふっかけられて返り討ちにしたくらいで。

 

「ねえねえマサル」

「なんだよ?」

「マリィが『ウチの人達』って言うの……なんかお嫁さんっぽくていいよね」

「わかりみ」

「わからんでよか!! ほら、早くチャレンジの手続きするよ!」

 

 マリィは恥ずかしそうに照れながら町の中へ入っていき、俺達はそれについていく。手続きといっても、スパイクタウンにはスタジアムがないので、入り口のポケセンの横にある簡素な受付で手続きするらしい。

 

「受付もエール団の人達がやるんだ~」

「あ、実は私達……ジムトレーナー兼リーグスタッフなんですよ」

「リーグスタッフがチャレンジャーの妨害してたんすか!?」

「いやいや、あれは一部の過激派だけでして……我々とは無関係です」

「じゃあ、なんでエール団の格好をしているんだ? 普通のジムトレーナーだってわからないぞ」

「それは、お嬢……マリィ選手を応援していたらいつの間にかこうなってて……」

「露骨な贔屓!!」

「仕方ないよマサル。マリィの可愛さを目の前にすると誰もが推しにしちゃうんだから」

 

 それはわかる。マリィってすげー応援したくなるもんな。現に、俺達がこうやって手続きしてる間にもエール団やスパイクタウンの住人達が集まってきて、マリィに次々と声をかけてるし。

 

「おかえりなさいお嬢!」

「ネズさんが待ちわびてましたよ!」

「後で俺の店にも顔出してくれよな」

「ありがとね、みんな。あとバッジは二つやけど……最後まで応援よろしく!」

 

 愛されてんなぁ……。こんな風に町のみんなが自分のことを応援してくれているんだったら、期待に応えたいって思うだろうし、町そのものを盛り上げて復興させたいって思うよな。

 

 みんなの期待に応える、か。

 

 ()()俺には……できなかったな。

 

「ねえねえおじさん。マリィはおじさんのお店によく行ってたの?」

「ああ。お嬢はウチの店のエネココアが大好きでな。生クリームをたっぷり乗せて甘ーく仕上げて……ハニートーストもよく食べてたなぁ」

「マリィ! 今からこのおじさんのお店に行こう! 聖地巡礼だよ!」

「い、今から? 兄貴とのバトルは!?」

「ネズさんとのバトルの前に英気を養わないとね! マリィだって帰ってくるのは久しぶりなんだから故郷の味を楽しみたいでしょ?」

「う、うん……それは、そうやけど」

「それにね……」

「それに?」

「マリィが好きな物を、私も好きになりたいから」

「ユウリ……」

 

 ユウリの言葉にマリィは顔を赤らめている。これは見事なキマシタワーと言わざるを得ない。ユウリめ、男相手には絶対そんなこと言わないくせに、マリィに対しては効果抜群マシーンになりやがるな。あれを意図的じゃなくて天然でやってるから性質が悪い。ユウリママもこうやってパパを口説き落としたんだろうな。

 

「ゆ、ユウリがそこまで言うなら……ちょっとだけ、ね?」

「うん!」

 

 そして二人は手を繋いで歩き始める。とりあえず俺達もついていくか。俺とホップの二人だけで先にネズさんのところに乗り込むと面倒なことにしかならない気がするし。

 

「お嬢が……無口で引っ込み思案だったあのお嬢が友達を連れて帰ってきた……」

「年を取ると涙もろくなっていけねえ……」

 

 二人の仲睦まじい様子におっさん達は目頭を押さえていた。ここまで愛されてるんだったら、もしもマリィが彼氏を連れて帰ってきたらどうなるんだろうな。

 

 ……想像したくねえ。

 

「どうしたんだマサル? 二人に置いて行かれるぞ」

「マリィの彼氏になる男は大変だなって思ってただけだよ」

「う~ん、確かに苦労しそうだけど……マリィと同じくらい、この町の人達から愛される人間になればいいだけだと思うぞ!」

「……お前は本当に良い男だな」

 

 お前にならマリィを任せられるな。頼むぞホップ。怒れるネズさんの魂を鎮められるのはお前しかいない。

 

「何言ってるんだ? 俺はマサルほど良い男を他に知らないぞ」

 

 ホップさん……。

 

「ダンデくんは?」

「トレーナーとしては最高だけど男としてはどうかと思うぞ」

 

 否定できないのが辛い。

 

 

 

 

 

 

「こ、これがマリィの愛するエネココアとハニートースト……。マリィの故郷で一緒に思い出の品を食べるって実質セ───ごほん。実質結婚なのでは?」

「どんな拡大解釈したらそーなると!?」

 

 マリィ案内の元、場末のスナック的なお店へとやってくる。このお店は昼はカフェで夜はバーになっているらしい。子供だけだと入りにくいけど、ちょっぴり背伸びをしたくなる年頃の俺達の心を絶妙にくすぐる大人な雰囲気のお店。お洒落で明るいバトルカフェとはまた違った味わいがあるな。

 

 まあ、そんな趣深さをぶち壊すような発言をユウリがしているわけなんだけど。

 

「それにしても、マリィは本当に町の人達に愛されているんだな! ジムチャレンジを通してスパイクタウンのバトルの魅力を伝えてもっともっと町を盛り上げる。立派な目標だと思うぞ!」

「ありがと。ここまで勝ち進んであたしの名前もちょっとずつ売れてきた……でも、夢を叶えるにはまだまだ遠かね。それに、バトルだけやなくて町の雰囲気とか建物の老朽化とか……課題は他にもたくさんあるんよ」

「いっそのこと、今の雰囲気を前面に押し出すのもありだと思うけどな」

「マサル、どーゆーこと?」

 

 ユウリが口の周りをはちみつでベトベトにしながら尋ねてきたので拭いてやりながら疑問に答えることにする。

 

「端的に言うと、この町をジャズやロックの聖地にするんだ」

 

 俺はそう言ってスマホを操作して、ジャズやロックのレコード、CDのジャケット画像を三人に見せた。

 

「こういうジャケットの画像って色々種類があるけど、スパイクタウンみたいな町の雰囲気、路地裏の壁の落書きなんかを背景にするのが傾向の一つでもあるんだ。だから、本格的に老朽化がヤバいところは安全のために修繕するとして、それ以外の場所はそのままにしてスパイクタウンそのものの雰囲気と音楽を融合させる」

「そうか。ネズさんは有名なシンガーソングライターだからそっち方面のコネも強いはずだからな!」

「マリィの言っていた通り、バトルでスパイクタウンを盛り上げるのは()()()だ。だけど、町の規模だけで言えばここはエンジンシティやシュートシティ、ナックルシティにどうしても劣っている。そんなでかい街と対等にやり合うには、ポケモンバトル以外の要素……他の街にはない特異性、付加価値を見出して勝負する」

 

 スパイクタウンでのバトルはダイマックスが使えない。だからこそ、トレーナー同士の高度な読み合いを楽しめるが……他の街と違ってスタジアムがないので、町のキャパには限りがある。いくらバトルに魅力があっても、キャパが小さければ集められる人の数には限界があるんだ。故に、バトル以外の要素で町を盛り上げることも必要だと俺は考えた。

 

 もちろん、音楽以外の要素で盛り上げるのもいいだろう。俺の意見はあくまで、スパイクタウンに初めてやってきた第一印象によるものにすぎないんだから。

 

「町の規模を考えれば、他の街みたいにスタジアムで何万人も集めてライブを! ってのは無理だけど、世の中には燻っているインディーズバンドの方が圧倒的に多い。そういうインディーズバンドをターゲットとして呼び込み、スパイクタウンで活動してもらう。悪い意味じゃなく、良い意味でここは田舎だから……」

「地価が安い。つまり、小規模なレンタルスタジオやライブハウスの利用料を安くできるってことやね。バンドマンは基本的にお金がないし……そういう意味でもインディーズバンドにとっては都合がええね」

「そゆこと。キルクスタウンから定期船が出てるし、七番道路を通ればナックルシティにも行ける。スパイクタウンって、案外交通の便は悪くないんだよ。あとは、ジャズとロックの住み分けをしっかりして……ジャズバーなんかもあったら面白いな」

 

 こうやって考えてみると、スパイクタウンはしっかりと復興できるだけのポテンシャルを秘めている。ただ、そのポテンシャルを発揮するための最大の問題があって……。

 

「すっごく面白い意見。でも、何をするにしてもお金がかかる……それが一番の問題やけん」

 

 そして、マリィもそれを十分すぎるほど、おそらく俺以上に理解していた。

 

「ま、突き詰めればそこにぶち当たるよな。それについてはネズさんががんばって音楽関係の支援者を引っ張ってくるか……ローズ委員長の力を借りるかだな」

「兄貴にそういう業界の知り合いがおるとは思うけど……ローズ委員長は力を貸してくれるんかな?」

「あの人は、ガラルを盛り上げるための、ガラルの未来のための()()()()()()()()。お金の使い方をよくわかっている人だから、今のスパイクタウンのポテンシャルをきちんと説明できて投資に対するリターンが見込めるのなら可能性は十分にある」

 

 まあ、ローズ委員長を納得させるだけの計画書とか作るのはめっちゃ大変だろうけど。でも、それくらいの困難を乗り越えなければ、いくらポケモンバトルが興行化しているとはいえ、それだけでスパイクタウンを復興させるのは難しい。

 

「地域の特色を生かす。ラテラルタウンは骨董市、キルクスタウンは温泉とウィンタースポーツ。成功例はいくつもあるんだから、悲観的にならなくていい。必要なら、俺達だって力を貸すさ。ってか、サイトウちゃんやマクワさん、メロンさんに話を聞いてみるのもいいな。あとはラテラルタウンとキルクスタウンの観光課に問い合わせたり」

「そうだよマリィ! マサルの言ってることは途中から全然わかんなかったけど……スパイクタウンを音楽とカレーの町にするために私もいっぱい協力するよ!」

「カレーのことなんざ一言も言ってなかっただろうが」

「スパイクタウンでカレーフェスをやるんだよ! ガラル中のカレー自慢達がお店を出してその年のナンバーワンカレーを決める……うへへ、興奮してきたな……!」

「さすがだぞユウリ! マサルの話を理解できていなかった頭の弱さはともかく、カレーフェスは面白いアイデアだと思うぞ!」

「でしょでしょー? ユウリちゃんにお任せあれ! なのだーっ!」

 

 ハロン組の三人がきゃっきゃと盛り上がっていると、マリィは俯いてしきりに目元を手で拭っていた。それに気付いたユウリとホップは慌てたようにマリィを慰めようとしている。

 

「あり、がと……みんな。あたしの、あたしらのためにたくさん考えてくれて……すっごく、嬉しい。マリィ……みんなと友達になれてよかった」

 

 マリィは涙を流しながらも精一杯の笑顔を浮かべてそう言ってくれた。うーん、やばいな。マリィのこの表情……こんなん絶対好きになるだろ。あの朴念仁のホップでさえ胸を押さえて机に突っ伏してるんだからユウリなんてもっと暴走するに決まってる。

 

「おっふおっふ……私が男だったらマリィを抱き締めてキスしてたよ。で、マリィ……式はいつにしようか?」

「け、結婚はせんけんね!」

 

 可愛い女の子同士の微笑ましいじゃれ合いにツッコミを入れることもなく、俺はエネココアに舌鼓を打つのだった。

 

 

 

 

 

 

「……遅いですよ」

「ご、ごめん兄貴……みんなとスパイクタウンの復興について話し合ってたら予想以上に盛り上がって……」

「愛する妹がジムバッジを六個集めて満を持して兄に挑む熱いバトルを今か今か待ち焦がれていたのに、当の妹は兄を放ってカフェでお茶……聞いてください。哀愁のネズで『俺の妹がこんなに冷たいはずがない』」

「ぎゃーっ!? 即興で変な歌歌うのやめんしゃい!!」

 

 ユニフォームに着替えてスパイクタウンのバトルステージ……というか、フェンスに囲まれたバスケットボールコートっぽい所にやってくると、待ちぼうけを食らって哀愁を漂わせながらも静かに怒っているネズさんがいた。

 

 いやほんとすいません。でもスパイクタウンのために一生懸命知恵を絞ってたんで許してください。

 

「まあ、それはいいでしょう。マリィの我儘に振り回されるのは今に始まったことじゃありません。俺の服を勝手に着て出かけたり、俺のポケモン達に勝手におやつをあげたり、小さい頃は勝手に色んなところを歩き回って迷子になるなんて日常茶飯事……機嫌が悪くなるとクローゼットの中かズルズキンの脱皮した皮の中に隠れる始末」

「これ以上あたしの恥を晒さんで!!」

「ネズさん!! 私、もっとマリィの小さい頃のエピソード聞きたい!!」

「ネズにアンコールはないのだ!! と言いたいところですが妹は別」

 

 正直、俺もマリィの小さい頃の恥ずかしいエピソードはめっちゃ気になるけど……これ以上追及するとマリィの機嫌がマイナス方向に天元突破してしばらく口をきいてくれなくなるかもしれないから、助け舟を出してあげるか。

 

「すみませんネズさん。マリィの魅力はたっぷり伝わったんで、そろそろバトルをお願いしま───」

「俺はお前を!! ぶっ潰すためにここにいる!!」

「なんかすっげーブチ切れていらっしゃる!?」

「……マサル、一体何をしたんだ? 俺も一緒に謝ってやるぞ」

「何もしてねえよ!!」

「お前もぶっ潰してやるからな!! ダンデの弟!!」

「なんでだ!?」

「お前ら二人……揃いも揃って俺の可愛い可愛いマリィをたぶらかしやがって!! お前達のジムチャレンジはここで終わりです!!」

「マリィと二人っきりで旅をしていたのはホップです。俺は悪くない」

「なっ!? マサルだって小さい頃に迷子だったマリィを助けてジムチャレンジで七年ぶりに再会したっていう漫画みたいなことをやっているんだぞ!!」

「ノイジーな野郎共ですね。妹を守る兄が最強だということを教えてやりますよ!」

「待ったぁ!! ネズさん、マリィは私のお嫁さんになるんだからね!!」

「意外な伏兵!! お前、とんでもねえロックな女ですね!? 同性愛が認められつつある昨今とはいえ……その意気やよし!! 今の俺は哀愁ではなく怨讐のネズ!! ハロンタウンの三馬鹿よ。まとめてかかってきなさい!!」

 

 ジムリーダーのネズが 勝負をしかけ───

 

「四人とも───しぇからしか!!」

 

 マリィにめっちゃ怒られました。ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 で、気を取り直してネズさんとのバトルだ。挑む順番はユウリ、ホップ、マリィ、俺。どう考えても一番盛り上がるマリィを最後に回すべきだと思ったのに……。

 

「マサルは一回、あたしらの気持ちを理解した方がよか」

「そうだよ! マサルの後のジムミッション……ほんとにやりにくかったんだからね!」

 

 という感じで女子二人に押し切られ、俺が最後になってしまった。しゃーない。女子の団結力の前では男なんて無力な生き物だから。

 

 で、ユウリとネズさんのバトルはルカリオ無双! とはならなかった。

 

 まず、ズルズキンVSシャワーズ。シンプルな耐久力勝負になったものの、最終的にはシャワーズが水技でゴリ押ししてズルズキンに勝利。

 

 次、カラマネロVSエースバーン。これまた意外な選出で、エースバーンに「とんぼがえり」を使わせてカラマネロを一撃で粉砕。タイプ不一致とはいえカラマネロは悪とエスパーの複合。エースバーンの物理攻撃力なら十分落ちる。ってかユウリのやつ……読みを外さねえのもそうだけど、サブウエポンの使い方がめちゃくちゃ上手くなってるな。まじで手が付けられねえぞこいつ。

 

 それに、あのエースバーン……サブウエポンの割には「とんぼがえり」の威力が高くなかったか? 気のせいか?

 

 三戦目はスカタンクVSメタグロス。メタグロスは悪が弱点だけど毒を無効化できる上、たとえ弱点を突かれても生半可な火力では守りを崩せない。結果、メタグロスの「じしん」でスカタンクを蹴散らした。

 

 最後はタチフサグマVSルカリオ。両者のスピードはほぼ互角だったが、火力とタイプ相性の差でルカリオに軍配が上がる。

 

 終わってみればユウリの圧勝。こいつ、一つジムを越える度に尋常じゃない速度で成長してやがる……。

 

 まあ、勝負の世界にはよくあることだな。スポーツの世界なんかでは特に顕著だ。

 

 で、次のホップは格闘タイプもフェアリータイプも持っていないからなかなかに苦戦していた。ゴリランダーとカビゴンの「ばかぢから」ウホウホ大作戦からのバイウールーの「コットンガード」「ボディプレス」コンボにアーマーガアの「てっぺき」「ボディプレス」コンボ。要は脳筋ゴリラ戦法でごり押ししまくった結果、何体かの犠牲を払いながらもなんとか突破。

 

 そしていよいよ、本日のメインイベント。

 

 マリィVSネズさん

 

 俺が、ユウリが、ホップが、エール団が……スパイクタウンの住人達が見守る中、マリィはしっかりとした足取りでコートへと現れた。

 

「ようやくここまで来ましたか、マリィ。戦う前に、お前に言っておくことがあります」

 

 マリィと向かい合ったネズさんは静かに口を開いた。

 

「スパイクタウンのジムリーダーを、お前に譲りたいのです」

「うん、知ってる。兄貴が今シーズンで引退するつもりだって……意地でもダイマックスを使わずによくやったんじゃない?」

 

 ネズさんはマリィと年が離れているとはいえ二十代でまだまだ若い。むしろ、トレーナーとしてはこれからどんどん脂が乗ってくる時期だろう。そんなネズさんが、まだ全盛期を迎えていないネズさんが、そこまでしてジムリーダーの座を譲りたい理由。

 

 それは、マリィがネズさんを遥かに上回る才能の持ち主だから。

 

 ネズさんが安心して、スパイクタウンのジムを任せられるくらいに。

 

「あたしね、そんな兄貴が大好き」

 

 マリィは穏やかな表情を浮かべていた。

 

「でもね、返事はNOだよ!」

 

 力強く、拳を突き出して、マリィは宣言する。

 

 ネズさんに、スパイクタウンの人達に、俺達に。

 

 

 

 

 

 

「だってあたし───チャンピオンになるけん」

 

 

 

 

 

 

 その言葉は、マリィの言葉は、俺の心の奥の奥、深層にある俺の感情を強く、強く揺さぶった。

 

 そうか、マリィ……君は、言えるのか。

 

 ()()を言葉にできるのか。

 

 そんなことを考えていた時だった。ふと、身体に柔らかさと温かさが伝わり、嗅ぎ慣れた甘い匂いが俺の鼻腔を擽った。

 

 視線を落とすと、俺に抱き着いていたユウリが不満そうな顔で見上げてくる。

 

「マサルっ! その顔禁止!」

 

 わざとらしくほっぺたを膨らませてユウリが言った。頭を撫でてやると、不満の色が一変してユウリがふにゃりと表情を崩す。

 

 悪かったよ。でも大丈夫だ。ちゃんとマリィを見てるから。

 

「そう、ですか……」

 

 ネズさんの声色に、表情に、落胆はない。マリィの言葉を嚙み締め、むしろ喜んでいるようにすら思えた。

 

「では、お前がチャンピオンになれるかどうか───兄が確かめてあげるとしましょう」

 

 二人が、モンスターボールを構える。

 

 そして───

 

「ズルズキン!!」

「ズルズキン!!」

 

 両者の先発は奇しくも同じズルズキン。互いが互いの弱点をつけるため、小細工なしの真正面からの殴り合いだ。

 

 結果は、相打ち。壮絶な殴り合いの末、両者ノックアウト。

 

「まだまだこれから!! スカタンク!!」

「モルペコ!!」

 

 次に出てきたのはフェアリー封じの毒、悪複合のスカタンク。対してマリィは相棒のモルペコ。

 

「じだん───」

「ふいうち」

 

 単純な機動力ならばモルペコの方が上だ。だが、モルペコが攻撃に移る一瞬の隙をついてスカタンクの「ふいうち」が炸裂。吹き飛ばされるモルペコだが、マリィの表情に動揺はない。

 

「モルペコ!!」

「うらっ!!」

 

 モルペコの「じだんだ」。スカタンクの弱点である地面技が、通る。モルペコはダメージを受けながらもマリィのオーダーに完璧に応えてみせた。それだけではない。攻撃の直後、モルペコの身体と目の色が変化する。普段の愛くるしさはなくなり、血の様に真っ赤な瞳、黒と紫の体毛。

 

「オーラぐるま!!」

 

 間髪入れず、モルペコの技がスカタンクへと命中。これで二対一、マリィが優勢───

 

「甘いですよ、マリィ」

 

 ネズさんの言葉と共に、モルペコが苦しそうな表情でその場にうずくまった。体毛も、目の色も元に戻っている。それだけじゃない。モルペコの顔色がどんどん青ざめている。

 

「どくどく……オーラぐるまが命中する瞬間に、モルペコに猛毒を浴びせたんやね」

「単純なスピードはモルペコの方が上だからね。ですが、これでモルペコは戦えない。さあ、マリィ。次は何を出しますか?」

 

 二対二。状況は……マリィの手持ちがネズさんより一体多いことを踏まえてもイーブン。ネズさんの経験値とトレーナーとしての技量なら、一体の差なんてあってないようなものだろう。

 

 相手がマリィでさえなければな。

 

「やっぱり強いね、兄貴。さすが、あたしが最初に憧れたトレーナー」

 

 そして、ネズさんも理解していた。

 

「でもね」

 

 とうとう、()()()が来たのだと。

 

「あたしの方が、強いよ」

 

 マリィの三体目はオーロンゲ。悪とフェアリーの複合タイプで圧倒的な物理攻撃力を誇るポケモン。マリィの相棒をモルペコとするならば。このオーロンゲは、マリィの切り札。

 

「わかっていますよ。マリィにはそいつがいることをね。だけど、その火力の高さが命取りだ。カラマネロ!! イカサ───」

 

「イカサマ」は自分の攻撃力ではなく、相手のポケモンの攻撃力が高ければ高いほど威力を発揮する技だ。オーロンゲの火力を考えれば、この一撃で落ちていてもおかしくはなかった。

 

 そう、()()()()

 

「ふいうち」

 

 先程のモルペコとスカタンクのバトルの意趣返し。カラマネロの攻撃技を読んでいたマリィが、ネズさんの策を上回る。

 

「オーロンゲ、いばる」

 

 さらにマリィは畳みかける。「いばる」の効果は相手を混乱させた上で()()()()()()を爆発的に上昇させる技。

 

 そう、相手の攻撃力を、だ。

 

「これでおしまい───イカサマ」

 

 混乱状態でまともに動けないカラマネロに、オーロンゲの「いばる」で攻撃力が上昇したカラマネロに「イカサマ」が炸裂。ネズさんがやろうとした戦法で、マリィがカラマネロを沈めた。

 

 マリィの表情を見て、ぞわり、と。首筋の辺りが寒くなった気がした。

 

 知っている。この感覚を、知っている。

 

 カブさんとのバトルで、ユウリが才能を開花させたように。

 

 マリィもこの瞬間、ポケモントレーナーとしての才能を完全に開花させた。

 

「───タチフサグマ」

 

 ネズさんの最後のポケモン。対してマリィはオーロンゲを含め、まだ三体のポケモンが残っている。

 

 勝敗は決した。

 

 成長したマリィを見て、才能を開花させたマリィを見て……ネズさんは満足そうに、だけど少しだけ寂しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 ……俺、この後にバトルしなくちゃいけないんすか?

 

 

 

 

 

 

「妹の成長は嬉しくもあり、寂しくもある。兄として複雑な心境ですが……ここは喜んでおくとしましょう」

「完全に賢者モードっすね」

「ああ、そういえば忘れていました。七年前に、妹を助けていただいてありがとうございました」

「あんなにブチギレまくっていたネズさんが俺に頭を下げただと!?」

 

 マリィとネズさんはバトルが終わった後、熱い抱擁を交わし、その光景を見ていたエール団の連中やスパイクタウンの住人達は揃って涙を流していた。そりゃあ、小さい頃からマリィの成長を見守ってきたんだから、色々と思うところがあるのかもしれないけど……やりにくいわこの空気!!

 

 あのユウリでさえ気まずさを隠しきれてねえんだぞ!!

 

「今の俺は哀愁でも怨讐でもない……慈愛のネズ。世界はこんなにも───眩しかったんですね」

 

 何を言うとるんだこの人は。完全に腑抜け……とは違うかもしんないけど燃え尽きてんな。このままバトルに入ったところで、いやネズさんに限ってバトルで手を抜いたりってことはないんだろうけど。それでも!! 俺がバトルをしたい相手は!! 慈愛のネズなんかじゃない!!

 

 切れたナイフみたいな、触れたものをみな傷つけるようなギラギラしたネズさんとバチバチのバトルをしたいんだ!!

 

 というわけで、ネズさんを思いっきり煽ってやろうと思います。

 

「今のネズさんに何を言ってもちょっとやそっとじゃ怒んないっすよね?」

「ええ。俺の心は、春の海のように穏やかです。たとえ何を言われても……それを慈愛の心で受け入れられるでしょう」

 

 言ったな? 何を言ってもいいんだな?

 

「ネズさん」

「はい」

 

 俺はそこで一度、フェンスの向こう側にいるマリィ達へと視線を移す。バトルを終えて、ユニフォームから私服へと着替えたマリィ達の方へと。

 

「今、マリィが着てるジャケット───()()なんすよ」

「───あ゙ぁ?」

 

 ワンナウト。

 

「俺、マリィに押し倒されたことがあるんすよ」

「───あ゙あ゙あ゙ぁっ!?」

 

 ツーアウト。

 

「俺、マリィに───『お兄ちゃん♡』って呼ばれたことがあるんすよ」

「───あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁぁっっっっっ!!!???」

 

 スリーアウト。

 

「俺の全てを懸けて───お前を潰す」

 

 怒り狂ったジムリーダーのネズが 勝負をしかけてきた!




 あけましておめでとうございます!

 新年一発目のお年玉更新です。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 新年一発目がボールガイから始まり、スパイクタウン復興計画からのネズさんとマリィの兄妹バトルからのマサルの煽りオチ。

 ちょっと詰め込み過ぎましたね。でもやりたかったから仕方ない。ネズさんファンの人達にはこの場をお借りして謝罪します。キャラ解釈違いだったらごめんなさい。

 次回、マサルVSネズ

 二人がマリィのお兄ちゃんの座をかけて死闘を繰り広げます。

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