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「キバナさん、強すぎだぞ……さすが兄貴のライバルだな」
「頭の処理が追いつかんやった。ダブルバトルってこんなに難しかったんやね」
ホップとマリィの二人がキバナさんに敗北して控え室に戻ってくるも、二人はそれほど落ち込んでいる様子はなかった。ユウリがストレートに勝っちまったから感覚が麻痺してたけど、俺を含めて全員がダブルバトルの経験が浅いんだ。それに関しては、そもそもポケモンバトルの主流がシングルバトルだからしゃーない……が、それを差し引いてもキバナさんは強かった。
「マリィ、特訓するぞ! ジムチャレンジの良いところは何回でも挑戦できるところだからな!」
「うん、そうやね。チャンピオンになるって決めたんやし、この程度で落ち込んでる場合やなか!」
この調子なら大丈夫そうだな。もうちょっとダブルバトルの練習をして慣れてしまえば勝てるだろう。ポケモン自体の強さなら二人のほうが上回っているわけだし。逆に言えば、ポケモンの強さが劣っている状態でキバナさんは二人を倒したわけで……。やっぱ半端ねえなあの人。
「私もお手伝いするよ! 私にできることがあったら何でも言ってね!」
「じゃあ、ユウリがさっきのダブルバトルで意識してたことを教えてくれん?」
「えっとね~……」
そりゃ悪手だろマリンコ。
「相手のポケモンがね、こう……ガガッと動き出しそうになった瞬間にビビッとくるから、それを見逃さずにバーンって指示を出す感じかな」
「……そう」
何一つ伝わらない。ユウリは感覚派というか直感型の極みみたいなもんだから自分のバトルを言語化するのは苦手なんだよ。理解不能な強さだからチャンピオンにはなれてもジムリーダーみたいに他のトレーナーを育成するのは無理だろうな。
「どういう特訓をするにせよ、まずは敗因の分析からだな。二人とも、一番の敗因は何だったと思う?」
「「経験不足!」」
息ぴったりだなお前ら。
「それがわかってるなら話が早い。
「なぁに?」
「俺とタッグを組んでくれ。二対一でホップとマリィをそれぞれ相手にするんだ。二人がかりならキバナさんの処理能力を再現できるだろ」
「マサルとタッグ!? やるやる! えへへ~♪ 楽しみだね~」
俺の提案にユウリは嬉しそうに笑っていた。本当はユウリ一人でもよかったかもしれないけど、ユウリとキバナさんはトレーナーのタイプが違いすぎる。かといって俺一人だと力不足だしな。俺とユウリ、互いの足りない部分を補い合えば特訓に最適なダブルバトルができる……はず。
「マサル! お前とキバナさんのバトル……しっかり勉強させてもらうぞ!」
「行ってきんしゃい! あんたなら勝てるよ!」
「マサルには可愛い可愛いユウリちゃんがついてるからね! 安心したまえ!」
約一名おかしなことを言っているけど気にしないでおこう。
キバナさんとのバトル……多分、今までで一番厳しいものになるだろうが、
「
フィールド内に足を踏み入れた瞬間、マサルはこのナックルスタジアムの雰囲気が他のスタジアムと全く異なっているということに気が付いた。その違いとは、一体何なのか。
それは。
「キバナ様ーーーっ!!」
「勝ってくださいキバナさまぁ~~~~!!」
「でも負けた顔をもっとSNSにアップしてほしいーーー!!」
そう、他のスタジアムと違って、明らかに黄色い声援が多いのだ。中には負け顔を望む厄介ファンもいるが、このスタジアムにいる大多数の女性陣がキバナの勝利を望んでいる。これまでのジムではジムリーダーとチャレンジャーの応援は大体半々だったため、このアウェーの空気に慣れていないチャレンジャーならば、それだけで多少なりとも委縮してしまうだろう。
ポケモンバトルに限らず、スポーツやあらゆる分野においてメンタルが結果に及ぼす影響は大きい。それ故、このような状況下で
そして、当然マサルはこの程度で動揺するようなメンタルではない。それはマサルに限らず、ユウリ、ホップ、マリィも同じだ。
だが。
この空気を最大限利用してやろうとほくそ笑むのは、四人の中でもマサルくらいだろう。
「ようやくお出ましか。待ちくたびれたぜ」
「俺、好きな物は最後まで取っておく派なんですよ」
「奇遇だな、俺様もだ」
人の良い笑顔を浮かべながら歓迎するキバナと不敵に笑うマサルが対峙する。キバナと向かい合いながら、マサルは目の前にいる男がこれまで対峙してきたジムリーダー達と一線を画す実力の持ち主であることを、改めて肌で感じていた。
ここに来るまで、キバナとは何度か談笑する程度の仲であったが、その時には微塵も見せなかった絶対強者の威圧感。腹にしっかりと力を込めていなければ、思わず膝をついてしまいそうなほどの重圧。普段の姿とは、まるで別人。
これが、トップジムリーダーキバナ。
それと同時に、キバナもマサルに対して言い知れない不気味な気配を感じていた。ユウリともホップともマリィとも違う、異質な気配。おそらく、その異質な何かをダンデは高く評価しているのだろうが、キバナにはそれを言語化することができなかった。
そもそも、ここまで勝ち進んできたチャレンジャーは全員、例外なく確かな実力を持っている。
だが、
本当に必要なものは、他の誰にもない、自分だけの特異性。
そして、目の前にいるこの
「なーにを笑ってやがんだよ」
「いやぁ……キバナさんへの黄色い声援が多いなぁって思いまして」
観衆を見回すマサルの表情に、緊張はない。いや、むしろこの状況を大いに楽しんでいる節すらある。
「お前……何を企んでんだ?」
「企むだなんて人聞きが悪いですね。ただ、この声援を、
キバナは、マサル個人のことについてはそれほど詳しくはないが、マサルという
そして、目の前のマサルの表情を見る限り、今のマサルは明らかに前者であると確信した。
(おもしれーじゃねえか)
友人二人が目の前で敗北したというのに、この男は何一つ動揺していない。それどころか、お得意の盤外戦術で自分のペースに巻き込もうとしている。キバナは決して、マサルのことを侮ってなどいない。ここまで勝ち進んできた上、あのダンデが実の弟であるホップよりも期待している。
侮る要素など、微塵もない。
いや。そもそも、だ。
相手が誰であろうと、わずかでも油断や慢心を抱くトレーナーが、トップジムリーダーになど、なれるはずがない。
(お手並み拝見といこうか。お前の全てを引き出した上で、完膚なきまでに叩きのめしてやる)
結論から言おう。
マサルの盤外戦術、いや「戦術」と呼べるほど大層なものではないが。
この後のマサルの行動がバトルに与えた影響は、
「キバナさんって───モテますよね?」
「……はぁ?」
マサルの予想外の問いかけに、キバナは思わず素の表情で反応してしまった。
「高身長、垂れ目ながらもイケメン、日に焼けた健康な肌、ほどほどマッチョ、バトル強い、あざとい『ガオー』とかいうポーズを平気でやる、SNSで大人気……なんだその欲張りセットは!! ラノベ主人公でももうちょっと自重しますよ!!」
「いきなり何言ってんだお前!?」
「スタジアム中の黄色い声援……俺は今日、ジムチャレンジャーとしてだけでなく、一人の男として、あなたに挑む」
「いやだから何言ってんだおま───」
「問おう!!」
「俺様の話を聞け!!」
マサルはキバナの言葉を無視し、大げさな仕草で両手を広げ、キバナに背を向けてスタジアムを見回し、大きく息を吸い込んだ。
「世のモテない男諸君!! 顔面偏差値の暴力で日陰を歩かざるをえなかった諸君!! 好きだったあの子が『あたし、男は顔で選ばないから』って言ってたからワンチャンあるかもと思っていたのにあっさりとイケメンと付き合い始めて脳破壊された諸君!! 『せめてイケメンの性格が悪くあれ』と願うもこんな自分にも優しく話しかけてくれる性格の良いイケメンばかりで逆に自分の性格の悪さに打ちひしがれそうになった諸君!!」
「観客にこうかばつぐんじゃねえか」
マサルが演説をするかのように声高に語り始めると、スタジアムの至る所から野太い悲痛な叫び声が上がった。
「イケメンに対する一方的な妬み? 大いに結構。
マサルの言葉に、先ほどまでスタジアムに溢れかえっていた呪詛のような呻き声が不気味なほどにピタリと止んだ。
「妬んでいいんだ。嫉んでいいんだ。羨んでいいんだ。その思い……全部全部、俺が受け止めてやる。全部全部、俺が背負ってやる。だからみんな……俺に力を!! あのイケメンを倒すために力を貸してくれ!!」
スタジアムが、沸いた。
キバナへの黄色い声援に支配されていたスタジアムが、モテない男共の野太い歓声へと塗り替えられる。そしてマサルは、不敵に笑って再度キバナへと向き直った。
「キバナさん……俺の双肩には、スタジアムのみんなの……いや、スタジアムだけじゃない。世界中のモテない男達の思いが乗っている。みんなの思いを、願いを背負って───あなたに勝つ!!」
「なんか少年漫画みたいな熱い展開やってるとこ悪ぃけど、お前が背負ってるもんって呪いの装備みたいなもんだからな」
「はい炎上発言」
「うるせえよ! 口の減らねえヤツだなほんとに! オニオンと足して2で割れば丁度いいんじゃねえのか?」
「マサ×オニ……だと……? 夢女子だけじゃなく腐女子まで取り込むつもりですか!? 見境ないなあんた!!」
「足し算と割り算だっつってんだろーが!! 勝手におぞましい掛け算してんじゃねえ!!」
「オニオンくんは俺の大事な友達なんだ! こんな茶番に巻き込むなんて許さない!」
「巻き込んだのお前だろ!?」
そんな風にマサルと言い合いながら、キバナは気付く。完全にマサルのペースに乗せられている、と。この程度で冷静さを失ったりはしないが、これこそがマサルの策なのではないかとキバナは疑った。
(だが、それだけか? 本当にこいつはそれだけが目的でこんなくだらない会話を? ジムミッションの時からぶっとんだ発想を見せることは多々あったが、こいつは基本的に
(───なんて、深読みしてくれれば万々歳だ)
キバナと
ダブルバトルでは並列思考、脳の処理能力が物を言う。だからこそマサルは、キバナに余計な思考をさせて処理能力を少しでも圧迫しようと考えたのだ。
(ただ、この程度でキバナさんが集中を乱したりミスをしたりってことは
マサルはキバナを決して甘く見ているわけではない。むしろ、過剰なほどに警戒しているからこそ、相手がキバナだからこそこのような番外戦術を仕掛けたのだ。ネズに対する挑発とは全く異なる、純粋に、バトルを有利に進めるための番外戦術。
そして、前述したように、マサルの想定通り、キバナはマサルとの会話を深読みすることになるが、それがバトルに影響を与えることは
『え、えー……ダイゴさん、この一連のやりとり、どうご覧になられました?』
『彼の意図はわかります。が、それを今ここで話すのはフェアではないので黙っておきましょうか。それに……』
『それに?』
『いえ。ただ……キバナくんがあることを指摘していたら暴動が起きてたかもしれないなぁと思って』
『暴動、ですか?』
実況が問いかけるも、ダイゴはさわやかな笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。
(モテない男性達の思いを背負ってって言っていたけれど……マサルくんは幼馴染の女の子とずーっと一緒に旅をしているんだよね)
もちろん、マサルもそれを指摘されるかもしれないことを考慮していたが、指摘されたとしてもマサルにとってそれはそれでよかったのだ。指摘された結果、スタジアムが異様な雰囲気に包まれた場合「なぜわざわざそんな状況を引き起こしたのか?」とキバナに深読みさせることができるからだ。
(深読みさせたところで、効果はほとんどないだろうけど……それでも勝率を0.1パーセントでも上げるためなら、何だってやってやるさ)
そしてようやく、幾多の思惑が混ざり合った茶番が終わり。
最強のジムリーダーとのバトルが、始まる。
「ギガイアス! フライゴン!」
「インテレオン! ニンフィア!」
両者が二体ずつポケモンを呼び出し、フィールドに四体のポケモンが現れる。互いの選出は、
(ドラゴンを無効化できるニンフィア、岩と地面に有利をとれるマサルの相棒インテレオン。当然、そうなるよな?)
(これまでの
そして、ギガイアスがフィールドに現れた瞬間、スタジアム内が「すなあらし」に包まれる。マサルは即座にゴーゴーゴーグルを装着し、冷静に思考を働かせた。「すなあらし」は他の天候変化と同じく、特定の技の威力に影響を与えたり、特定のポケモンの能力値や姿形を変化させる。
だが、「すなあらし」の最も厄介な点はそこではない。
「すなあらし」特有の
「インテレオン、ねらいうち! ニンフィア、ムーンフォース!」
砂塵が荒れ狂うフィールド内、青きスナイパーの指先から一筋の高圧水流が放たれ、ギガイアスを貫いた。マサルは本音を言えば「なみのり」を使って「すなあらし」ごと押し流してやりたかったのだが、ダブルバトルという性質上、「なみのり」は味方のニンフィアまでをも巻き込んでしまう。
それに加え「すなあらし」の厄介な特性によって「ねらいうち」を
「……
ニンフィアの「ムーンフォース」はフライゴンに命中しなかった。これこそが、「すなあらし」という天候が引き起こす最大の脅威。トレーナーがゴーゴーゴーグルを装着しなければならない程に、
だからこそ、マサルはインテレオンに最も命中率が高く信頼のおける技を指示したのだ。マサルは前世の知識における「すなあらし」と、実際に引き起こされる「すなあらし」の違いを
「フライゴン、かぜおこし!」
キバナの言葉とともに、突風が吹き荒れる。が、インテレオン、ニンフィアの二体に大きなダメージはなく、回避行動を取った二体の間に
そこでマサルは言いしれない違和感に襲われる。なぜキバナがあえて「かぜおこし」という技を選択したのか。「すなあらし」という天候下で
傍目には、一撃でギガイアスを葬ったマサルが有利にバトルを進めているように映ったかもしれない。
だが、対峙しているマサルは微塵もそんな思いを抱かなかった。それどころか、何か取り返しのつかない事態になってしまったような、底なし沼に足を取られてしまったような不気味な気配に包まれていた。
そして、マサルは体感する。
トップジムリーダーキバナの───実力を。
「行ってこい!!
瞬間、スタジアム中がどよめき、マサルの心臓が大きく跳ねた。ギガイアスが倒されたことにより、フィールドに現れたキバナの
それは、マサルにとっての
(じゅ、ジュラルドン!? いや待て、慌てるな。冷静になれ。この状況下でジュラルドンを出してきた……キバナさんの狙いは───)
数秒にも満たない動揺。
だが、トップジムリーダーキバナを前にして、それはあまりにも
ジュラルドンとキバナの眼光が、ニンフィアを射抜く。
「っ!?
マサルが指示を
その信頼関係こそが、
(わざわざ「かぜおこし」を使ったのはダメージを与えるためじゃない。ニンフィアとインテレオンの間に距離を作って互いが互いをフォローできないようにするためだった! ドラゴンタイプの天敵である
それは
そう、半分。
つまり、キバナの読みは───マサルのそれの、さらに数段上をいく。
「フライゴン、かみなりパンチ」
高速で低空飛行してきたフライゴンが、電撃を纏いインテレオンに突っ込んでくるも、マサルとインテレオンは、妨害が入ることを想定していたため冷静にこれを回避。さらに、マサルはフライゴンを一撃で落とすための技を、インテレオンに習得させていた。
その技を発動させるため、インテレオンが
「インテレオン、れいとう───」
瞬間。ぞわり、と。
背筋が凍るような冷たさが、
「───かかったな?」
ニンフィアに向けられていたはずのジュラルドンとキバナの眼光が、
(しまっ……!? 釣られ───)
「一手、遅い。ジュラルドン───かみなり」
雷鳴が、轟く。
「テレポート」などのいくつかの例外を除けば、雷よりも速く動ける生物など存在しない。いかにインテレオンが、機動力に優れたポケモンであろうとも、だ。
故に、電気系最上級技が容赦なくインテレオンに襲い掛かる。
(やられ、たっ……! キバナさんの狙いは
つまり、だ。ここまでのマサルの動きは全て、キバナに誘導されたものだったのだ。この一瞬の攻防で何が起こったのか、キバナの狙いを見抜いたマサルの洞察力は称賛に値するが、
(完、全に……読みを通された)
重ねて言うが、キバナの読みは、マサルの数段上をいく。
(けどなぁ……)
だが。
「俺の相棒を───なめんじゃねえぞ」
マサルの
「なっ!?」
キバナが思わず声を上げた瞬間だった。
「かみなり」の直撃を受けたインテレオンが、フライゴンの尻尾を掴む。
「ニンフィアから引き離すためとはいえ、フライゴンを近づかせたのは間違いでしたね」
今のインテレオンに、反撃するだけの力はない。技を出すだけの力はない。が、
「ニンフィア」
マサルとインテレオンの視線が交錯する。言葉に出さなくとも、両者の思いは、考えはわかっていた。
「ムーンフォース」
フライゴンとインテレオンの頭上に疑似的な月が出現し、周囲が夜のように暗くなる。そして、目を覆いたくなるほどの眩い月光が───フライゴンとインテレオンを貫いた。
よって、フライゴンとインテレオン。両者───戦闘不能。
(完璧だインテレオン。お前は完璧に俺のオーダーに応えてくれた。『ニンフィアのフォローに入れ』ってオーダーにな)
フライゴンに確実に「ムーンフォース」を命中させるために、インテレオンは最後の力を振り絞って、足止め役であったはずのフライゴンの足を逆に止めてみせたのだ。
キバナの策に対するマサルの見事な意趣返しと言えるだろう、が。
「ジュラルドン───ラスターカノン」
その程度でトップジムリーダーキバナは、揺らがない。インテレオンの強さが己の想定を上回っていようとも、ただ冷静に、隙をさらしているニンフィアへ、技を発動させた直後で無防備なニンフィアへ、容赦ない一撃を繰り出した。
『い、インテレオン、ニンフィア……共に、共に戦闘不能!! ここまでのジムリーダーとのバトルで、一度も手持ちを戦闘不能にさせることなく勝ち進んできたマサル選手……そのマサル選手のポケモンを初めて、ラテラルタウンで猛威を振るったニンフィアを……カブの相棒を沈め、あらゆる局面で八面六臂の活躍を見せていたインテレオンを……トップジムリーダーキバナが撃破しました!!』
実況の興奮と共に、スタジアムのボルテージが上がっていく。が、そんな盛り上がりと反比例するように、対峙する二人の男は冷静だった。
「ハッ、やるじゃねえか。ジュラルドンのために『かぜおこし』で
「……俺だって、まさかキバナさんが三体目にジュラルドンを出してくるだなんて思いませんでしたよ」
「光栄に思えよ、マサル。俺様が、こんな策を取らされたジムチャレンジャーはお前が初めてだぜ」
キバナが不敵に笑うと同時、彼のダイマックスバンドが輝いた。
「ジュラルドン、キョダイマックス。来い、サダイジャ」
キバナが最後の一体であるサダイジャを呼び出し、ジュラルドンをキョダイマックスさせる。高層ビルをも彷彿とさせる強大な鋼の集合体が、静かにマサルを見下ろしていた。
「さあ、俺様は全ての手札を晒したぜ」
キバナは笑い、大袈裟に両腕を広げてみせた。
「次はお前だ」
対してマサルは、己の頬に一筋の汗が流れていることを自覚する。
「もっともっと、俺様を楽しませろ」
その言葉に、マサルは口角を吊り上げた。
『ダイゴさん、今の一連の攻防をどうご覧になられましたか?』
『いくつもの読み合いと駆け引きのある非常に高いレベルの攻防でしたね。そうそうお目にかかれるものではありません。この目で直接見られた幸運に感謝したいですね』
『なるほど、元ホウエンチャンピオンの目から見ても素晴らしいものだったと! さて、状況はキバナが残り二体に対してマサル選手は三体、数の上ではマサル選手がやや有利なように思われますが?』
『ですが、今のマサル選手の手持ちには、致命的な弱点があります』
『致命的な、弱点……?』
ダイゴの言う致命的な弱点にマサルはもちろん、キバナも気付いていた。そしてそれは、マサルだけではなく、自らの手でポケモンを捕まえ、育て、パーティを作り上げたトレーナーならば、誰しもが一度は
『彼のパーティーには───
地面タイプは、飛行タイプにこそ無効化されてしまうものの、こと攻撃に限って言えば、技の威力を半減させられてしまうタイプは全十八種中、草と虫の二種類
故に、サブウエポンとして地面技を仕込ませるトレーナーが多く存在しているのだ。
『ジバコイル、バンギラス、シャンデラ。三体全てが、地面タイプを弱点としています。これは、サダイジャを擁するキバナくんに対してあまりにも不利だ。まあ、鋼を愛するこの僕も地面タイプを苦手としているんですけどね。そして、地面タイプが優秀であるが故、その天敵となりうるインテレオンの排除を何よりも最優先とした』
『な、なるほど……しかもマサル選手のニンフィアはマクワとのバトルで草タイプ技である「マジカルリーフ」を使っていました。ドラゴンを無効化でき、尚且つ地面の弱点を突けるニンフィア……ま、まさかキバナは、
『そうですね。ジュラルドンを
ダイマックスやキョダイマックスという切り札を有していることに加え、ポケモンバトルが
だが、それを無視してでも、キバナは勝利を優先した。ユウリに対してでさえ、ここまで徹底することはなかったのに、だ。
『誇っていい……誇っていいんだマサル
ダイゴはこの時、今の自分の立場を忘れてしてしまっていたのだろう。
『だが、これで満足するのであれば……
それはもはや、解説という立場を超えた、一人の大人としての期待。
ポケモントレーナーダイゴが、一人の少年に向ける───ただただ純粋な、期待。
『さあ、君の答えを見せてくれ』
腹はとっくに、決まっていた。
マサルにとって想定外の事態もあったが、ジュラルドンとサダイジャが残ること、インテレオンとニンフィアが戦闘不能になること、
故に、ここから先の打開策は、勝利へのピースは───切り札は未だ、その手の中に。
「バンギラス、ダイマックス!! 行くぞ、シャンデラ!!」
言葉と同時、キョダイマックス化したジュラルドンに負けず劣らずの巨体を揺らし、地鳴りにも似た雄叫びを上げながらバンギラスが現れた。そして、その隣で静かに佇むは───灼熱の獄炎を操る黄泉への
「ここから先は───」
「小細工なしだぜ?」
後にダイゴはこう語る。
「瞬きすら惜しむ、数十秒だった」と
「バンギラス、
「守れジュラルドン!! ダイウォール!!」
バンギラスが巨大な拳に炎を纏い、ジュラルドンへと叩きつける。が、守りに徹したジュラルドンを崩せない。見えないシールドに拳が阻まれ、バンギラスは苦悶の表情を浮かべた。
「サダイジャ、10まんばりき!!」
バンギラスの側面からサダイジャの容赦ない地面技が炸裂した。ダイマックスして耐久力が上がっているとはいえ、バンギラスの弱点且つ、直接攻撃を得意とするサダイジャのタイプ一致物理技。大ダメージを与え、バンギラスの体勢を崩すには十分だった。
だが、その瞬間に生じる、このバトルにおける
肌が焼け付くような、ジリジリとした痛み。その痛みの原因をキバナは───いや、キバナ
「シャンデラ」
このガラルで、
気付いた時点で、手遅れだった。
「ソーラービーム」
照り付ける太陽からのエネルギーを、
狙いは、サダイジャ。
バンギラスへの攻撃直後の隙を突かれ、サダイジャは呆気なく光の奔流に飲み込まれた。だが、サダイジャもただでは終わらない。ユウリとのバトルで見せたように、倒れ際に体内の砂を全て吐き出し、舞い狂う砂塵が照り付ける太陽を
目まぐるしく変わりゆく天候と戦況は文字通り、観客達を置き去りにしていた。
「ジュラルドン!! キョダイゲンスイ!!」
「バンギラス!! ダイウォール!!」
今度はジュラルドンが攻勢に出る。ジュラルドン専用のキョダイマックス技。敵にダメージを与えつつ、敵の攻撃力を奪う技。バンギラスはすんでのところで障壁を張り、間一髪で受けきるものの、最大の武器である攻撃力を削られてしまった。
(バンギラスの体力は残り少ない。ダイマックス技を使えるのはあと一回だろう)
混沌としているフィールドとは裏腹に、マサルの思考は時間が経つにつれ、どんどんクリアになっていく。場の全てを把握、理解し、最適解を導き出せているという自信があった。
だからこそ、彼は自分の判断を、感覚を決して疑わない。
(あと一回。それで、十分。次の攻防で───終わりだ)
そしてキバナも理解する。マサルと同様に。その、終焉を。
「バンギラス!!」
「ジュラルドン!!」
二人は、互いのポケモンに、命じた。一人は、戦いを、終わらせるために。そしてもう一人は───
「ダイナックル!!」
「ダイスチル!!」
鈍い輝きを放つ、巨大で鋭利な無数の刃がバンギラスに襲い掛かる。対してバンギラスは、真正面から拳を叩きつけ、刃を粉砕し、ジュラルドンに迫った。黄金色の鎧が傷つくことを厭わず、バンギラスは前へ前へ、進む。
しかし。
「敵ながら天晴れだぜ、バンギラス」
バンギラスの拳がジュラルドンに届く寸前、刃と言うにはあまりにも暴力的で強大な一本の槍が。鋼の槍が、バンギラスの鎧を打ち破った。
「ぐ、が……あぁ……」
ダイマックスが解け、倒れるバンギラス。だが、その表情に
そこにあるのは、
「よくやったバンギラス。やっぱりお前は最高に格好良いポケモンだ」
そして、キバナは気付いた。
サダイジャの砂塵によって遮られていた灼熱の日光が、再び───
「まさかてめえ……!? 最後のダイナックルは……ジュラルドンを消耗させるためだけじゃなく───」
砂塵を吹き飛ばし、
「シャンデラ」
瓦礫の影から、それまで息を潜めていた黄泉の国への
「くっ、はははははははははははははっ!!」
全てを理解したキバナは、声を上げて笑った。
(まさか……まさかこの俺様と!! 最後の最後で!!
地獄の業火を纏う、黄泉の国への誘い人。今のキバナに、その炎を止める術は───ない。
「マサル、
奇しくも、キバナに引導を渡すのは、彼の最大のライバルであるチャンピオンダンデの相棒と、同種の炎ポケモン。
否、純粋な炎の威力
チャンピオンが誇る、赤き龍をも凌駕する。
「───オーバーヒート」
全てを焼き尽くす獄炎の柱が立ち上った。
バンギラスとの戦いで、力の大部分を使い果たした難攻不落の要塞が。
崩れ、落ちる。
「……次は、俺様が勝つ。必ず、必ずだ」
そして少年は、己の拳を高く、高く掲げ、力の限り、叫ぶ。
この瞬間。
少年は、チャンピオンカップ「セミファイナルトーナメント」への出場権を手に入れた。
second season
【激動期】ジムチャレンジ編 完
次回
final season
【覚醒期】ガラルの英雄編 開始
というわけで、これにて第二章は終了です。
第二章のラスボスであるキバナはジムリーダーで唯一、マサルのポケモンを倒しました。しかも三体も。サブタイトル通り「すごいよ!! キバナさん」ですね。見事なサブタイ回収といえるでしょう。
今回のお話であった「気付いたらパーティ全員に地面タイプが刺さりまくるんだが!? 現象」は旅パあるあるだと勝手に思っています。地面タイプって受けようと思ったら草か虫でしか半減するか飛行で無効化するかしかできないから辛いんですよね。
だから、地面を相手にするときは「やられる前にやる!」という脳筋戦法になりがちです。私だけかもしれませんが。
次回は最終章開始と言いつつ、キバナ戦後の諸々を済ませて「シュートシティへ行くぞ! 俺達の戦いはこれからだ!」的なお話になると思います。あと、モンハン発売までに完結させる予定でしたが絶対に無理なのでこれからものんびりやっていきます。
ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!
第二章完結の記念に感想や評価等々たくさんいただけるとすごく嬉しいです!
お待ちしています!
ポケマスのマサルと本作のマサルの性格が違い過ぎて草。
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