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言葉に、できない。
いつか……いつか会いたいと、思っていた。
俺が、この世界を知ることになったきっかけであり、全ての、原点。
忘れもしない。俺が、元の世界で六歳だった時。
モノクロで、小さな小さなドットで形作られた、世界。
そこで俺はあなたと出会った。
あなたはきっと、知りもしない。
あなたの旅路を、俺がどれだけ……どれだけ
あなたは、知らない。
「あ……うぅ……あぁ……」
「どーしたとマサル!?」
「なんでいきなり泣き出したんだ!?」
「大丈夫? お腹痛いの?」
「ぴか~?」
ホップ達三人だけじゃなく、ピカチュウまでもが俺を心配してくれている。グリーンさんはぽかんと口を開けてて、レッドさんは無表情だった。
あのさあ。
こんなん泣くに決まってんだろ!!
俺が!! あの世界を!! 何十週旅したと思ってるんだよ!!
初プレイでヒトカゲを選んで地獄を見たタケシ戦、カスミ戦。どう考えてもレベル設定を間違えているハナダシティのライバル戦。何の考えもなしにリザードンに「いあいぎり」を覚えさせた愚行。キチクチバジムの仕掛け「ガサゴソなかはゴミばっかり!」……くたばれ! 「のしかかり」「きりさく」とかいうチート技。「フラッシュ」なしのいわやまトンネル攻略からの明らかに空気が変わったやべえBGMのシオンタウン。ポケモンの捕まえ方がわからず、エリカ戦まで手持ちがリザードン一匹だけ。進化石買い放題のタマムシデパート。サファリパークの「きんのいれば」「なみのり」入手とかいう歩数制限ありの高難度イベント。絶対捕まらないラッキー、ケンタロス。全然レベルが上がらないミニリュウからのハクリューからの初代唯一のドラゴン技が固定ダメの「りゅうのいかり」。せっかくの三色パンチを微塵も生かせない種族値エビワラー。「とびひざげり」を外しまくるサワムラー。迷子になったヤマブキジム。バトルに負けたら潔くロケット団を解散させたサカキ様。間違ってマスターボールをトサキントに使ってしまった時の絶望。「しねしねこうせん」が名物のグレンジム。毛根が焼き尽くされたカツラ。小学1年生には攻略できないふたごじま。むじんはつでんしょのビリリダマ、マルマイントラップ。絶対にナツメより弱いサカキ様。攻略本必須のチャンピオンロード。レベルで「だいもんじ」「かえんほうしゃ」を覚えないファイヤー。四天王最強疑惑のカンナ。「ウーハー!」以外語られないシバ。エスパーごり押し戦法で叩き潰したキクコ。「れいとうビーム」「ふぶき」無双のワタル。歴代ポケモンでもトップ3には入るであろう神BGMからのラストバトル。殿堂入り後のチートミュウツーさん。数多のバグ技。
語り尽くせないほどの思い出が、俺の脳裏を駆け巡る。
「マサル……この人達を知っているのか?」
知らないはずが、ないっ!!
「かつて、カントー地方で猛威を振るった大規模犯罪組織ロケット団……そんなロケット団が各地で大暴れするも、悉く一人の少年に阻止された。そして連中は七年前に世界的大企業シルフカンパニー本社を制圧。誰もが手をこまねいている中、当時十歳の少年が単身でシルフカンパニーに乗り込み、ロケット団員全員を、ボスをバトルで打ち負かし、一人の犠牲も出すことなくシルフカンパニーを解放し、ロケット団を壊滅させたカントー地方の英雄。それだけじゃない。この人は、カントーポケモンリーグ最年少チャンピオンにして、世界最強のポケモントレーナーと名高いレッドさん! そして……そんなレッドさんのライバルであり、レッドさんよりも先にポケモンリーグを制覇した、カントー地方トップジムリーダーグリーンさんだ!」
「急に早口になったぞ」
「ダイゴさんみたいやね」
「シルフカンパニー……どこかで聞いたことあるような……あ! パパが働いてる会社だ!」
お前ら……この二人を知らないとか……俺がその気になったらこの二人のすごさを一日中話せるぞこの野郎。それからユウリ。レッドさんはお前のパパの恩人なんだからな。……実際にレッドさんが無双してた時は出張で本社にいなかったらしいけど。
「おいおい。レッドはともかく、俺のことまで知ってんのか? っつーかレッド。お前、シルフカンパニーとかロケット団のことってマスコミに話してたか?」
「……覚えてない」
「とすると、お前の代わりに
「……ありえる」
たとえ公になっていないことだったとしても、俺はその軌跡を知っている。
「ま、そいつが言った通りだな。俺はグリーン。こいつはレッド。カントー地方のポケモントレーナーだ。よろしくなガラルのジムチャレンジャー達」
「お、俺達のことを知ってるのか? あ、いや……知ってるんですか?」
「もちろんだぜ、チャレンジャーホップ。それこそが、俺とレッドがここにいる理由なんだからな」
得意げに笑うグリーンさんの隣でレッドさんはずっと無表情だった。ほんとに表情が全然変わんないなこの人。ってか、なんで俺の方をずっと見てくるんすか。何考えてるのかわかんないし、そんなに見られたら緊張するじゃないすか。
「俺達がここにいる理由……それは、チャンピオンカップの解説を依頼されたからだ」
「解説……あ! 確かキバナさんが言ってたぞ! 『あのレジェンド達を招いてる』って! そうか。レッドさんとグリーンさんのことだったんだな!」
「……カントーのトップツーが不在で大丈夫なんですか? リーグの業務とか色々大変そうやと思うんですけど」
「それに関しちゃ問題ないぜ。俺達の
頼れる幼馴染? そんな人いたのか?
「……リーフ、すごくごねてた。お土産買って帰らないと大変」
リーフ……リーフ……あれか? リメイク版の女の子主人公? 基本的に男主人公でしかプレイしなかったし、ライバル枠で登場しなかったからあんま覚えてねえな。多分、ゲーフリスタッフの愛と性癖の詰まった可愛い女の子なのでしょう。
待てよ? 幼馴染三人組でその内女の子が一人……これはそのリーフさんを巡ってレッドさんとグリーンさんの仁義なき戦いが勃発するやつでは? 胸が熱くなるな!
「あ、マサルが泣き止んだ」
「変なこと考えてる顔だぞ」
「ぴか~?」
よし、落ち着いた。ありがとう会ったこともないリーフさん。願わくば「幼馴染二人に好かれすぎて私ったら一体全体どうなっちゃうの~?」みたいなイキリ負けヒロインムーブをするような人じゃないことを。
「……失礼。お見苦しいところをお見せしてしまいました。マサルです。どうぞよろしく」
「おう、よろしくな」
「……よろしく」
レッドさんとグリーンさんが握手してくれた。は、はわわ……俺、一生のこの手を洗わない……! なんてことはない。普通に不潔だし。いやでもまじで感激だわ。ダイゴさんに初めて会えた時も嬉しかった……嬉しかった?
トウコさんの時は嬉しかったな! Nの時はびっくりしたな!
ま、まあとにかく! いつか絶対に会いたいと思っていた二人にこうして会えるとは……。
今のところ、俺のことは顔を見ていきなり号泣し始めた厄介オタクとしか思ってないかもだけど。
「チャンピオンカップのために招待されたということは、俺達が出場するセミファイナルトーナメントも……」
「ああ、しっかり解説させてもらうぜ。ガラルのダイマックスを生で見るのは初めてだから楽しませてくれよ」
俺が尋ねるとグリーンさんは気さくに答えてくれた。ガラルに来るのも初めて、か。カントーからはめちゃくちゃ離れてるからな。ってか、よくこの二人を解説に呼べたよな。チャンピオンを退いて好き勝手してるダイゴさんはともかく、二人はカントーの現役チャンピオンと現役トップジムリーダーだぞ。
「ねえねえマサル。この人のこと、世界最強のトレーナーって言ってたけど、ダンデさんよりもつよ───」
「強い」
「……食い気味に答えよる」
「兄貴が悲しむぞ」
反射的に答えたけど、実際のところどうなるかはわかんねえ。ダンデくんが負けてるところは想像できないが、それ以上にレッドさんが負けている姿のほうが想像できないんだ。
「……僕は、最強のトレーナーなんかじゃない。一回負けたし。一回だけ」
「そうそう。こいつを負かすのは俺だって意気込んでたのに、シロガネ山でどこの誰とも知らねえトレーナーに負けやがって」
「……強かった。名前くらい聞いておけばよかった」
シロガネ山……誰とも知らないトレーナーに負けた……金銀の主人公か!? ロケット団の残党狩りをしながらジョウトとカントーのバッジ合計十六個を集め、ルギア、ホウオウ、エンテイ、スイクン、ライコウを従える化け物トレーナー! あれ? でもそれならグリーンさんもバトルしてるはずなのに……気づいてないのかこの人達?
「二人はチャンピオンカップが終わったらどうするんだ? そのままカントーに帰るのか?」
「帰らねえとリーフがうるせえからなぁ」
「……アローラ行きたい。Zワザ……見たい」
「アローラなんてリゾート地、それこそあいつを連れていかなかったら後々面倒だろ」
「……確かに。リーフは拗ねたら面倒。すごく面倒」
そら幼馴染二人が自分を放っておいて観光地でエンジョイしてたら拗ねるわな。俺とホップがユウリを放ってアローラに行くようなもんだ。もしそんなことしたらユウリが非常に、ひっじょーに面倒臭いことになる。
「ほほう? そのリーフさんとやら……もしやお二人どちらかのイイ人なのでは?」
「ユウリの目がバリ輝いとる……」
ほんとにいい度胸してるなお前。そういうことは気になってても普通聞けねえだろ。ましてや初対面なら。
「……良い人? リーフは良い子だよ。バトルも強いし」
「あ、えーっと……そういう意味じゃなくてですね……」
「?」
レッドさんは無表情のまま首を傾げ、グリーンさんはケラケラ笑っている。二人の反応で幼馴染三人組がどういう関係か即座に理解できてしまった。この感じだとリーフさんを巡る頂上決戦的な修羅場は勃発しなさそうだな。
「……リーフへのお土産、どうしようか?」
「適当に甘いもんでも買っていけばいいだろ。一応、じーさんや姉ちゃん達にも買っていくか。なあ、ガラルでおすすめのお土産って何かあるか?」
「あ、それだったら───」
そして、俺を除くガラルの仲良し三人組がグリーンさんとお土産談義を始めてしまった。取り残されたレッドさんはまたもや俺を見定めるようにじーっと見つめてくる。無表情だけど目力あるなこの人。
「……君は」
しばらく俺を観察していたレッドさんがふいに口を開く。
「……君はいつ、
「……え?」
レッドさんの言葉は完全に予想外で、思わず尋ね返してしまった。
「……君
髪色と同じ漆黒の瞳が、俺の心を見透かしているようだった。
「……君は僕と、
レッドさんは断言する。淡々とした口調ではあったが、その言葉に、俺は至極納得してしまった。
「……世界を旅するのは、本当に、楽しい。知らない土地、知らない文化、知らない食べ物、知らない人達、知らないポケモン。世界は僕の、僕達の、知らないことだらけだ」
俺が知っているのは、この人のカントー地方での旅路……その一部だけ。そして、カントーだけじゃなく、この人は俺の知らない世界をたくさん知っていて、俺の知らない世界をたくさん見てきたのだろう。
知りたいと、思う。いいや、ずっと昔から思っていた。何の因果か、この世界に生を受けて十四年。ずっとずっと、そう思っていた。
だからこそ。
「……君は、そういうものを、知らずにはいられない人間だ」
だからこそ、レッドさんのその言葉がたまらなく、たまらなく───嬉しかった。
初めて会ったはずなのに、初めて会った気がしない。
初めて会ったはずなのに、他人の気がしない。
初めて会ったはずなのに、俺のことを、理解してくれた。
それらは全部、俺の一方的な思い込み、なのかもしれない。
だとしても、だとしても、だ。
俺は今日、ここで、この人に会えたことを。
心の底から、誇らしく思う。
「珍しいな、お前があそこまで気にかけるなんて。
「……マサルとは、初めて会った気がしなくて、なぜか
「懐かしい?」
「……うん。ずっと一緒に、カントーを旅していたような……僕のカントーの旅路を、誰より近くで、一番そばで、見守ってくれていたような、そんな、気持ち」
「それ、リーフには言うんじゃねえぞ」
「……なんで?」
「嫉妬するからだ」
「……嫉妬? どういうこと?」
「そこは自分で考えろ。面倒なことになりたくなかったらリーフへのお土産をがんばって選ぶんだな」
「……それはもう決めた。マサルが着てたTシャツにする」
「正気かてめえ!?」
「……グリーンも手持ちにウインディがいるんだから買うべき」
「買わねえよ!!」
「マサル、サイン貰わんでよかったと?」
「いいんだ。直に会って、話ができて、同じ空気を吸って……それだけで俺は胸がいっぱいだ」
「成仏しそうだぞ」
「南無阿弥陀仏~」
レッドさん達が去った後、俺が満ち足りた気持ちに浸っていると、ユウリが手を合わせてお経を唱え始めた。こっちの世界にもお経というか仏教的な概念があったんだな。
まあいい。思わぬ形でレジェンド達と会えたことでモチベが爆上がりしたから、このままスタジアムに行ってセミファイナルトーナメントにエントリーだ!
と、意気込んでスタジアムに入ったはいいものの……。
「久しぶりボルねでんTマン! みんな大好きボールガイだよ! おはこんボルボル~♪」
「帰れ」
「無二の親友になんてこと言うボル!?」
スタジアムに入るなり、随分懐かしい顔と再会した。こいつと前に会ったのっていつだったか? ラテラルタウンの遺跡以来?
「久しぶりボールガイ! 就職できた~?」
「久しぶりボルユウリ選手! あと、無職やニートに気軽にそんなこと言っちゃうと『今日ハロワに行こうと思ったのにその言葉でやる気なくなったわ!』とか意味のわからん言い訳を振りかざして部屋に引きこもっちゃうボルからね~」
どうやら動画は好評でも就職にまではこぎつけられていないらしい。まあこいつは組織に順応したり会社勤めができるようなタイプじゃないからな。今みたいに得意分野の配信をやってる方が合ってるっちゃ合ってる。それで飯を食っていけるのかどうかは別として。
「ホップ選手とマリィ選手もお久しぶりボル! 君達以外のトレーナーにボールをあげようとしても無視されてたボルからね~。心が折れかけてた時に二人がボールを受け取ってくれて僕の心は救われたボルよ!」
「お、おう……?」
「どういたしまし、て……?」
マリィはともかく、ホップを引かせるとはなかなかやるなこいつ。
「ふっふっふ。エントリーをする前に、君達四人の誰が勝ち上がるかという世間の評価を聞きたいボルか?」
「いや別に聞きたくねえから。じゃあなボールガイ。久しぶりに会えて嬉しかったよ」
「聞いてけー!! 聞いてけボルー!!」
「シャツを引っ張んじゃねえよ!!」
スルーしてそのまま受付に行こうとするも、玩具を買ってもらおうと駄々をこねる子供のようにボールガイが俺の服を引っ張ってくる。
「お教えしよう! 下馬評ではズバリ、ユウリ選手が頭一つ抜けてるボルね~。やっぱり全ジムリーダーを圧倒して手持ちを一体も戦闘不能にさせなかったのが高く評価されてるボル!」
聞いてもねえのに話し始めやがった。ってか、いちいち言われなくてもそのくらいわかってるっつーの。ユウリの強さは俺が一番理解してるんだからな。
「他の三人は割とどっこいどっこいボル。エンタメ補正とカブとのバトルででんTマンの評価がホップ選手やマリィ選手よりも上がったボルけど、ポプラ戦でみんなどう評価していいかわからなくなっちゃったボルね」
妖怪フェアリー婆の後遺症がでかすぎる。もう二度とあのばーさんとはバトルしたくねえな! まあ、今年で引退するみたいだしバトルする機会なんてないでしょう。……ないよな?
「ふふ~ん♪ やはり私こそ頂点に最も近い女……たとえマリィに可愛さで負けてもバトルでは負けないからね!」
「何言ってんの? ユウリの方があたしよりずーっとずーっと可愛らしかね」
「おっふおっふ。私、チャンピオンになったらマリィと結婚するんだ……」
「……盛大な負けフラグだぞ」
ユウリがマリィの手を取って百合ん百合んな雰囲気を醸し出してる……が、こいつがチャンピオンになるよりマリィと結婚する方が難易度が高いと思っちまうのはなんでだろうな。
その後、ボールガイの話を適当に聞き流した後、受付で四人分のエントリーを済ませる。他のチャレンジャーはまだナックルシティを突破できていないようで、トーナメントの組み合わせ抽選はまだしばらく行われない。ただ、俺達四人がエントリーしている……つまり、
「あ、みんな~。エントリーは無事に終わった?」
受付を済ませ、セミファイナルトーナメント開催まではまだ数日の余裕があるとのことだったのでとりあえずこのままシュートシティの散策をしようとしたところで、トウコさんとダイゴさんがスタジアムに現れた。トウコさんはともかく、ダイゴさんはナックルシティで解説してたんじゃないですか?
「ダンデくんに引き継いできたよ」
とのことらしい。ダンデくんはあれで解説はしっかりできるからな。極度の方向音痴さえなかったら完全無欠のチャンピオンなんだ。
「トウコさん。カントーのチャンピオンとトップジムリーダーには会いました?」
「嘘!? いるの!? そんな大物達が来てるの!? どこどこ!? どこで会える!?」
軽い気持ちで尋ねたら思いのほか食いついてきた。残念ながらあの二人がどこに行ったかまでは知りません。そう告げるとトウコさんはあの顔文字みたいにしょぼーんとした顔つきになった。可愛い。
「カントーチャンピオン、か。噂には聞いているよ。相当な凄腕であのロケット団を壊滅にまで追い込んだ人物だってね」
「あたしだってプラズマ団を壊滅させましたよ」
「ハルカちゃんだってマグマ団やアクア団を蹴散らしてたからね」
主人公連中は悪の組織を簡単に滅ぼしすぎる。ガラルは平和でよかったな! エール団はただの「マリィだいすきクラブ」だったし。
「君達のご家族は応援に来るのかい?」
「ウチは牧場だから……どうですかね。父さんと母さんは来ると思いますけど、じいちゃんばあちゃんは微妙だなぁ」
「俺の家族はみんな応援に来てくれるぞ!」
「あたしも……スパイクタウンのみんなが来てくれるかな」
「そうそう! 私もパパがお休みを取って来てくれるって言ってたよ!」
「まじかよ。あの超絶レアキャラのユウリパパと久しぶりに会えるのか」
「うん! だからマリィ……私の両親を紹介するね?」
「そげん顔赤らめて言うことやなか」
シルフカンパニー本社勤務で世界各地を飛び回る敏腕エリート営業マンで年末年始くらいにしか帰ってこないあのパパが! そりゃあ、仕事よりも可愛い一人娘の晴れ舞台のほうが大事だわな。
「ただ、パパって行く先々で色んなトラブルに巻き込まれるから心配なんだよね。ホウエンでもイッシュでもシンオウでもカロスでも大変な目に遭ったって言ってたし……」
ユウリパパはラノベ主人公バリのトラブル引き付け体質で、毎度毎度出張の度に事件に巻き込まれて死線を潜り抜けているとのこと。仕事の最後は大体爆発オチでギャグマンガみたいに頭がアフロになって終わるらしい。幸い、大きな怪我には至ってないようで、体質のおかげでバトルの腕もそれなりに優秀だとかなんとか……。
「ユウリのパパが帰ってくるってことは……ガラルが荒れるぞ」
「縁起でもないこと言うのやめーや。この平和なガラルのどこにそんな不穏な種があるっつーんだ……」
ありますねぇ。ブラックナイトとかいうとんでもないクソデカ地雷が。
ま、まだ爆発すると決まったわけじゃないし。そもそも、これまでユウリパパがガラルに帰ってきても何も起こらなかったし。いや、これまで起こらなかった分、その反動でとんでもないことになるんじゃ……。
「世界滅亡の危機なんて稀によくあるわよ」
「うん。稀によくあることだね」
トウコさんとダイゴさんが笑いながら言う。実際にそんな危機を乗り越えてきた人達の言葉には説得力があるなちくしょう!
ま、まあ? たとえブラックナイトが起こったとしてもこっちにはレッドさんがいるしぃ? 何ならダンデくんもトウコさんもダイゴさんもNもグリーンさんもいるしぃ?
この戦い、我々の勝利だ!!
いや実際、これだけの面子がいてどうにかできなかったらガチで世界が滅びるわ。
そんな風に戦々恐々としながらも、六人で楽しく談笑するのだった。
「マグノリア博士、お忙しいところ失礼いたします。今お時間よろしいでしょうか?」
『ええ、大丈夫ですよ。どうしました、マサル?』
「
軽くシュートシティを散策し、夕食をみんなで食べてからホテルの部屋に戻り、マグノリア博士への
「やっほ。急に悪いわね、マサル」
訪ねてきたのは夕食後に別れたトウコさんだった。他にも誰かいるのかと思って廊下を見渡してみるも、彼女以外には誰もいなかったので、どうやら俺と二人で何か話したいことがあるらしい……が、皆目見当がつかないな。
「どしたんすかトウコさん」
尋ねると、トウコさんは悪戯っ子のようににっこりと笑ってこう言った。
「デートしましょ♪」
「いいっすよ」
俺があっさり答えたら、途端にトウコさんは可愛らしくほっぺたをぷくーっと膨らませた。
「反応が軽ーい。もうちょっと面白い反応しなさいよ~」
「……はぁっ? ばっ……おまっ……!? で、デートとか……急に、そんな言われても……困るっつーか、その、俺にも予定が……」
わざとらしく動揺した反応を見せるも、それもお気に召さなかったらしくトウコさんが俺の両頬を引っ張ってくる。とはいえトウコさんも別に怒っているわけではないので、俺は素直に彼女についていくことにした。
さてさて、どこに連れて行ってくれるのやらと内心わくわくしていると、トウコさんは完全に予想外の行動に出る。
「さ、行きましょ」
「……行きましょって、どこに?」
ホテルを出て、近くにある誰もいない夜の公園へとやってくるなり、トウコさんはボールからあるポケモンを呼び出して、さっきみたいに悪戯っ子のような愛らしい笑顔を浮かべてこう言った。
「空よ」
というわけで、トウコさんが呼び出したポケモン……ゼクロムに乗って二人で空中お散歩デートをします。
……なんでこうなった?
「どう、マサル? イッシュの伝説ポケモンの乗り心地は?」
「いやー、正直めっちゃ恐れ多いっすね。焼き尽くされるんじゃないかと冷や冷やしましたよ」
「さすがにそんなことしないし、させないわよ」
俺がトウコさんに流されるままゼクロムに乗ると、ゼクロムは俺の緊張や戸惑いなんぞ気にも留めることなく空高く飛び上がった。想像していたよりもスピードがあったので多少驚きはしたものの、それよりも俺は前に座っているトウコさんのふわふわポニテをもふもふしたい衝動に駆られていた。
……こんなこと考えてたら冗談抜きでゼクロムの稲妻で焼き尽くされるかもしれないな。
「それで、一体どうしたんすか? わざわざこんな風に二人っきりになれる状況まで用意して」
「ん~……最近、お兄ちゃん成分が不足してるからマサルで代用しようと思って」
「あー、なるほど。それなら俺ほど適任な男はいませんよ。なんたって俺は『ジェネリックお兄ちゃん』と巷で評判なので」
「誇らしげに言うことそれ?」
背中を向けているからトウコさんの表情は見えなかったけれど、柔らかい声色から判断すると、おそらく笑っているのだろう。
「ま、半分は冗談よ」
「半分はほんとなんすね」
イッシュを出てどれくらい旅をしているのかはわからないけど、少なくとも一年以上はトウヤさん達に会えていない。トウコさんは相当なブラコンだし、寂しいと思うのも当然だろう。で、肝心なのはもう半分の方なわけで。
「前にナックルシティでゼクロムを見せた時に、この子があなたに興味を示してね」
「……良い意味ですよねそれ? 敵認定されてませんよね?」
「されてたらこの子が自発的にあなたを背中に乗せたりしないわ」
伝説のポケモンに興味を持たれるって……ゲームだと嬉しい展開だけど現実だと普通にこえーよ。本気を出せば世界を滅ぼしかねない力を持ってるんだから。
「ゼクロムは、理想を司るポケモンよ。マサル、あなたが追い求めている理想……それが何なのか、あたしにははっきりとはわからない。でも、あなたがそれを追い求めている姿勢や生き方、そういうものにゼクロムは興味を持ったみたいなの」
「……俺が追い求めているものは、どこまで行っても
「理想の大小は
「……俺は一度、現実に打ちのめされて、夢を諦めてしまった人間ですよ」
ほとんど無意識の内に、ぽろりと本音が零れていた。
「それでもあなたは立ち上がった。どれくらい長い間、這いつくばったままだったのかは知らないわ。そして、
トウコさんの言葉に、俺は何も言えなかった。彼女の言うように、かつての俺は、ジムチャレンジに参加するまでの俺は這いつくばったままだった。そして、確かに、確かに俺は立ち上がったのだと自惚れではなく事実だと、そう言える。
でも、それだけだ。
今の俺は、立ち上がっただけなんだ。
「俺はまだ、理想の自分になれていない」
あの日の俺には、あの日以上の俺にはまだ、程遠い。
「遠いと思っているのは、あなただけよ」
ふと、甘い香りが俺の鼻腔を擽った。気付けば、トウコさんが俺の胸にもたれかかるように体を預けている。
「あなたにとっての最後のピース、理想の自分を築くために必要なものはきっと……あなたの中にある真実
トウコさんの言葉を聞き、いつかの夜を───Nと出会った夜を思い出した。
「あなたが思っているよりも
そう言って、彼女は俺の手を握った。掌を通して伝わってくる体温が、心地良い。
そして。
「誰が何と言おうと、あなたの生き方は、理想を追い求める不断の努力は───ゼクロムに認められた」
彼女の言葉の意味を。
最後のピースが何なのかを。
「だから胸を張りなさい」
理解するのは───この出来事から
「ありがとうございます、トウコさん」
俺達四人を除く、
ガラルポケモンリーグ・チャンピオンカップ
セミファイナルトーナメント一回戦
第一試合
ユウリ(ハロンタウン)─マリィ(スパイクタウン)
第二試合
マサル(ハロンタウン)─ホップ(ハロンタウン)
俺にとって、生涯忘れることのできない───長い長い一日が、始まる。
【悲報】リーフさん、レッドさんからのガラル土産がでんTになってしまう
でも、でんT渡されて困っちゃうリーフちゃん可愛いね。ちなみにお留守番中のリーフさんはカントー四天王のワタル枠という設定です。ワタルがジョウトのチャンピオンになっちゃったからね。
それはそれとして、マサルの今後やパーソナリティに非常に大きな影響を与えるお話でした。トウコがまるでメインヒロインのようになっていますが、この役割は彼女にしかできません。理想を追い求めるあまり、誤った努力をして闇落ちしかけたチェレンを間近で見てきたので。
次回からいよいよセミファイナルトーナメントが始まります。
さらっと流していたマグノリア博士への謎の調査依頼内容は……あと三、四話後くらいで判明する予定。わかった人はすごいです。トウコのポニテをもふもふさせてあげます。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします。
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