【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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ポケモントレーナー ホップ

『だ、ダイマックス!? 両者がいきなりダイマックス!? ま、マサル選手はジムリーダーポプラとのバトルで初手ダイマックスという戦法を取っていましたが……』

『……激熱』

『別にダイマックスは最後に使わなきゃいけねえなんてルールはないからな。一体目で使うのも立派な戦法だ。今回は二人とも互いに主導権を握ろうとした結果こうなったんだろうぜ』

『し、しかし……まるで示し合わせたかのように……』

『……幼馴染』

『互いの考えてることなんざお見通しってわけだ。ただ、二人とも意識しちゃあなかっただろうが……大盛り上がりだぜこりゃあ』

『……私、十年以上このチャンピオンカップに実況を務めさせていただいておりますが、このような展開は初めてですね』

 

 実況席が盛り上がる中、スタジアムの観衆達も前代未聞の光景に異常な盛り上がりを見せていた。しかし、中心に立っている二人の少年はそんな歓声には微塵も意に介さず、ただただ互いに笑い合っている。

 

「さすがだぞ! 俺の考えを完璧に読み切っていたんだな!」

「何年の付き合いだと思ってんだよ。これみよがしに俺を煽りやがって」

「トレーナーとして、マサルに考えが読まれていたことは反省すべきだけど……それ以上に嬉しいぞ! やっぱりお前は俺の最高の親友でライバルだ!」

「はんっ! 笑っていられるのも今の内だ。シャンデラの火力……知らねえわけじゃねえだろう?」

「言っておくぞ。俺はお前がシャンデラを出してくると読んでいた!!」

 

 マサルは確かにホップのダイマックスを読んでいた。否、正確にはバトルに入る寸前の表情で気が付いたと言っていい。だからこそ、初めからダイマックスを使うと決めていたホップとは違い、マサルはダイマックスという手札を()()()()()しまったのだ。

 

 ほんのわずかに傾いた主導権の天秤。それをホップがやすやすと手放すはずがない。

 

「バイウールー!! ダイアーク!!」

「シャンデラ!! ダイバーン!!」

 

 ゴーストタイプとノーマルタイプ、互いの技は互いに通らない。故に両者は他のタイプの技を選択せざるを得なかった。ホップが選んだのは、ゴースト対策に……まるでシャンデラを狙いすましたかのような悪技。対してシャンデラは得意の火力を最大限活かした炎技。

 

 互いの耐久力は、ほぼ互角。

 

 勝敗を分けたのは───技の、()()()

 

『た、倒れたーーーっ!! キバナのジュラルドンを沈めた業火に包まれたバイウールーが倒れました!!』

『……シャンデラも結構なダメージ』

『タイプ不一致とはいえ、弱点のダイマックス技を真正面から受けたからな。それに、シャンデラは耐久力こそ優秀だが体力そのものは平均以下。ダイマックス状態を維持できているとはいえ、まだマサルは()()()()()()()()()立場だぜ』

『と、言いますと?』

『バイウールーが倒れた以上、ホップは次のポケモンを出す必要がある。だけどマサルは、()()()()()()()()()()ことを覚悟した上でシャンデラを残すのか……あるいは、ダイマックスを()()()でも交代させるかという選択に迫られている』

 

 ダイマックスが最後のポケモンに使われる最大の理由はそこにある。他の手持ちが残っている状態でダイマックスを切ってしまえば、()()()()()()なってしまうという理由だ。倒された側には次のポケモンを出す以外の選択肢はなく、通常は()()()()()それに合わせてポケモンを交代させる。だが、ダイマックスの恩恵が残っている状態で、それを捨ててまで他のポケモンと交代させるか否か……。

 

 はっきり言おう。この決断に正解不正解は存在しない。

 

 なぜなら、どちらを選んだとしても、結果論にしかならないからだ。

 

「どうするマサル? お前が交代させないなら、俺が出すポケモンは()()()()()()ぞ」

「この野郎……俺にダイマックスを使()()()()上、さらに俺を後手に回させるとはな」

 

 ホップにとってバイウールーが負けたことは確かに大きな痛手ではあったが、マサルも言っていたように、ダイマックスを使わせたこととシャンデラに相当なダメージを与えた時点でバイウールーは十分に仕事をこなしていた。だからこそ、一体がやられたところで簡単にマサルに主導権を奪わせたりはしない。

 

 が、マサルの決断は早かった。

 

「戻っておいで、シャンデラ」

 

 マサルが()()()()()シャンデラをボールに戻したことにより、観客達の間に異様などよめきが広がる。それと同時に、ホップが少しだけ悔しそうに目を細めた。

 

「この程度じゃお前を揺さぶれないか。だったら次の手を使うまでだぞ!」

「……いつまでも主導権を握っていられると思うなよ」

 

 マサルがそう言った瞬間、ホップは理解した。次にマサルが「何かを仕掛けてくる」と。

 

 だが、この時点でマサルの仕掛けを見抜くことができたのは───このスタジアム内で()()()()

 

 そしてその四人の中に。

 

 ホップは()()()()()()()

 

「行けっ!! アーマーガア!!」

「行ってこい!! ()()()()()!!」

 

 マサルの選択は、シャンデラ。

 

 ダイマックスを捨ててまで交代させたのだから、次にシャンデラを()()()()()()()()()()という心理を逆手に取った戦法。

 

 ガラルポケモンリーグにおける、バトル中のポケモンの交代に関するレギュレーションは存在する。

 

 だが、「直前に交代させたポケモンを次に出してはいけない」というルールは()()()()()。なぜなら、わざわざ一度下げたポケモンを連続で出すことにほとんどメリットがないからだ。ポケモンを交代させるのは、圧倒的に不利な状況か戦闘不能直前であることが多い。そんな状況下で、あえて同じポケモンを続けて出すにはリスクが大きすぎる。

 

 そもそも、バトル自体が超スピードで展開されるため、交代のタイミングは基本的に「どちらかのポケモンが倒れた」時だ。それ以外のタイミングで交代させるつもりならば、相手のトレーナーの()()()()()となるのだが……前述したようにバトルのスピードを考えた場合、後者の理由でポケモンを交代させるケースは()()()()()

 

 以上のような理由から、同じポケモンを続けて出すという行為自体が()()()()である。

 

 だからこそ、だからこそマサルの選択は───

 

 ホップにとって()()()()()()

 

「なっ!? シャンデ─」

 

 そして、ホップのその一瞬の動揺を。

 

「オーバーヒート」

 

 マサルは、見逃さない。

 

『あ、アーマーガア撃墜!! ホップ選手、指示がほんのわずかに遅れた隙を完全に突かれました!!』

『……面白い戦い方』

『連続でシャンデラか。これは俺も()()()()()()()()な。っつーかマサル、ほんとに十四歳か? 戦い方がガキのそれじゃねえ。ポケモンのタイプ相性だけじゃなく、相手の「こんなことしてこねえだろう」っていう心理に加え、バトルにおける交代のルールまで逆手に取ってやがる。まるで何十年も研鑽を積んだ爺───おほん、ベテランみたいだな。年齢詐称してんじゃねえの?』

『……人生二週目みたい』

 

 奇しくもマサルの本質を見抜いてしまった二人だが、それが真実であるということは誰も知りえない。

 

「上出来だ。戻っておいでシャンデラ」

 

 ホップのアーマーガアが戦闘不能となり、これでホップの残る手持ちは三体。対してマサルは五体のポケモン全てが健在だった。

 

「今度は()()()()番だホップ。次は何を出す? 俺は()()()()()()()()()()かもしれねえぞ?」

 

 この時ホップは、戦いの主導権を完全にマサルに握られてしまったと理解した。しかし、理解した上でホップは全く諦めていない。

 

 なぜなら。

 

「さすがだぞマサル! お前なら()()()()()()やってくるだろうって思ってた! シャンデラを連続で出してくるのは予想外だったけどな!」

 

 マサルの戦術そのものはホップにとって想定外であっても、マサルの強さはホップにとっての想定内だったからだ。

 

「まだまだこれからだぞ! この程度で俺に勝った気になるなんて早過ぎだからな!」

 

 ただ純粋に、楽しそうに前だけを見据えるホップ。微塵も己の勝利を疑わない彼を見て、マサルは何かを懐かしむようにわずかに目を細め、ボールを構える。

 

『マサル選手はさらに続けてシャンデラを出してくると思いますか?』

『なくはねえ。今のこの()()は、炎タイプに有利だからな。で、ホップも炎タイプのクイタランが手持ちにいるからこの状況を利用したいと考えるだろう。クイタランの天敵であるマサルの相棒インテレオンを出し辛い天候だからなおさらだ』

『ただ、そこでホップ選手のクイタランを誘ってあえてインテレオン、バンギラスを出してくることも考えられます』

()()()()()()でゴリランダーを出すか……あるいはこの天候に左右されないカビゴンか』

『マサル選手がゴリランダー読みでシャンデラを三連続で出すことも……()()()()()ありえないのに、すでに連続でシャンデラを出しているマサル選手ならばやりかねませんね』

『長年実況を務めてバトルの目が肥えているあんたも、カントートップジムリーダーの俺でさえ()()思っちまってる。まさにマサルの術中だ。ま、そういうのが()()()()()()()()()()()も存在するがな』

 

 グリーンは苦笑しながら隣にいるレッドを見るも、当のレッドは解説の役割など忘れ、食い入るようにフィールドに立っている二人を見つめている。これこそが、()()()解説に呼ばれた理由。レッドは本来無口で解説には向かないため、基本的にこういう場においてはグリーンが解説に役割を果たすことになっていた。

 

 観客と何も変わらないなとグリーンは思いつつ、もはや慣れたものなので、彼も自分の仕事に集中することにする。

 

「次に出すポケモンは決まったか?」

「ああ! ここから俺の逆転劇を見せてやるぞ!!」

 

 向かい合う二人が三体目に選んだポケモンは───

 

「バンギラス!!」

「カビゴン!!」

 

 二体とも、()()()()()()()()()()()ポケモンだった。そして、ここでマサルがシャンデラ以外のポケモンを出してきたことにスタジアム内がざわめく。観客達も少なからず、マサルがもう一度シャンデラを出してくると思っていたらしい。

 

(さすがに三連続シャンデラはなかったか。仮にシャンデラだったとしても、手負いの状態ならカビゴンのDDラリアットで十分落とせた。それに、ここで俺が()()()()()()()()()()()バンギラスを出してきたな!)

 

 もう先程のような失態は犯さない。相手が何を出してこようとも、ホップはもう二度と、動揺して隙を晒したりはしない。

 

「カビゴン!!」

「バンギラス!!」

 

 ここでマサルとホップの二人が重量級物理アタッカーを出した意味。

 

 それは───

 

「ばかぢから!!」

「ばかぢから!!」

 

 小細工を弄さない、力と力の真っ向勝負。

 

 二体のポケモンは真っ直ぐに相手に向かって突撃し、己の拳を互いの腹部に叩きこんだ。両者の体長は約二メートルと互角だが、バンギラスの体重約200キロに対し、カビゴンの体重は450キロ以上と両者の間には二倍以上の差があった。

 

 人間の格闘技と違い、体重がポケモンバトルの勝敗を大きく分けるということはない。ないが、ポケモン達にとっても、二倍以上の体重差は決して無視できるものではなかった。

 

 450キロを超す超重量の拳がバンギラスに襲い掛かる。しかし、バンギラスが纏う黄金の鎧は、その程度では砕けない。

 

 ズズン、という鈍い衝撃音と振動と共に、苦悶の表情を浮かべたカビゴンの巨躯がフィールドに倒れ伏した。

 

『け、決着!! 真正面からの激しい殴り合いの結果……軍配はバンギラスに上がりました!!』

『……ぎりぎり』

『カビゴンはああ見えて特殊防御が高いポケモンで、物理防御はそれほど高くない。それに対してバンギラスは物理防御は高いものの、悪と岩の複合っつー格闘タイプが最悪の天敵になるポケモンだ。カビゴンの火力を考えたら、バンギラスもただで済むはずがない』

『となると、バンギラスは()()()()()()()()()状態と言っていいでしょうか?』

『無理をすれば、()()()()()()()できるだろうぜ。ただ、ゴリランダーには太刀打ちできねえだろうよ。それに、今の天候を考えたら、クイタランの炎技を受けるのも危険だな』

『ホップ選手の残るポケモンはクイタランとゴリランダーの二体。対してマサル選手はまだ一体も戦闘不能になっていないものの、その戦力は確実に削られています』

 

(俺のポケモン達はよくやっている。みんな、俺の期待に全力で応えようとしてくれている……。なのに、なのに届かない……! 俺とマサルの間には、そんなに力の差があるっていうのかよ……!! いや、弱気になるな!! マサルのポケモンだって無傷じゃない。シャンデラはともかく、バンギラスはカビゴンの一撃で致命的なダメージを受けてる。俺の裏をかくためだけに、マサルがバンギラスを続けて出してくるなんてことはありえない! マサルは、()()()()()()()()()()自分のポケモンを駒や道具の様に扱うことなんてできない人間だ。だからこそ、バンギラスとシャンデラという選択肢は捨てる。俺の手持ちは残り二体……守りに入っても状況を打破できるはずがない。攻めあるのみだぞ!)

 

 マサルがバンギラスをボールに戻すのを確認しながら、ホップは高速で思考する。ポケモンバトルには、戦術だけでなくそのトレーナーの性格……人間性が大いに反映されている。相手のことを理解しているからこそ、迷いなく選択肢を捨てることができることもあれば、その()もまた然り。

 

(優位に立っているのはマサルだ。だからこそ、あえてリスクを負ってまで危険な選出をする理由がない。俺の打つ手がなくなるまで、どっしり構えて押し切ろうとするはず……これ以上、お前の好きにはさせないぞ!)

 

 マサルとホップが同時にボールを構えた。

 

「クイタラン!!」

「ニンフィア!!」

 

 ホップの選出は、この天候の恩恵を最大限活かせる炎タイプのポケモン、クイタラン。それに対してマサルのニンフィアという選出にホップは疑問に思うも、思考を止めないままクイタランに指示を出す。

 

「だいもんじ!!」

 

 天候の影響により威力が増大した獄炎の塊がニンフィアに襲い掛かった。

 

「ひかりのかべ」

 

 マサルの指示と同時に、ニンフィアとクイタランの間に透明な五層のシールドが形成され、「だいもんじ」と衝突する。

 

 一層目、二層目のシールドはあっさりと炎に飲み込まれ、三層目……四層目に差し掛かったところで目に見えて「だいもんじ」の威力が減衰しているのがわかった。そして最後の五層目。鍔迫り合いの様に炎とシールドが押し合っていたが、ガラスの砕けるような音と共に炎がニンフィアに襲い掛かる。

 

『クイタランの「だいもんじ」がニンフィアの「ひかりのかべ」を完全に破壊!!』

『……日照りだから』

『通常の天候なら微妙だが、()()()()()防ぎきっていただろうな』

 

 炎に飲み込まれたニンフィアに対して、ホップは追撃の手を緩めない。ここが好機、分水嶺だと言わんばかりにホップがクイタランに向かって叫ぶ。

 

「もう一発だ!! だいもんじ!!」

 

 ホップはニンフィアの特殊防御の高さをよく理解している。だからこそ、あの程度の攻撃でニンフィアが戦闘不能になるはずがない。この「だいもんじ」で、この一撃で確実に仕留める。

 

 ───はずだった。

 

「あまごい」

 

 クイタランが攻撃の予備動作に入った一瞬の隙。炎に包まれながらニンフィアが発動させた技は───天候操作。

 

 肌を刺すような熱を持つ日光が遮られ、曇天を思わせる分厚い雲が出現し、瞬く間に大雨を降らす。

 

 その大雨は、ニンフィアを包んでいた炎をかき消し、「だいもんじ」の威力を半減させるのに十分だった。

 

 この天候下であれば、いかに「だいもんじ」であろうとも。

 

 ニンフィアの特殊防御力ならば、真正面から受けきれる。

 

『こ、ここで「あまごい」!? 炎タイプ有利の天候が一転して大幅不利に……!!』

『……上手い』

『ニンフィアの特殊防御の高さがあっての荒業だな。最初の「ひかりのかべ」で強化された「だいもんじ」の威力を測り、ニンフィアなら耐えられると判断した。一手使ってでも天候を操作する……タイミング的にはここが最適だったろうぜ。これに対抗するには、ホップがクイタランに「にほんばれ」を使わせてさらに天候を上書きするしかないんだが……現実的じゃない』

『ホップ選手は、天候操作に()()使()()()()()()()()()から、ですね?』 

『基本的に天候操作ってのは、数的優位に立っている側がさらに自分の優位性を高めるために使用する技だ。不利な側が一発逆転を賭けて使うもんじゃねえ。ここで強引にクイタランに天候操作技を使わせる……つまり、ニンフィアに対して一手無防備になっちまう。この状況でそれはあまりにも致命的だ。よしんばニンフィアの攻撃を耐え切って、返す技でニンフィアを倒せたとしても後が続かない。残りがゴリランダーだけであることを考えれば、炎タイプ有利の天候ってのは諸刃の剣だ』

 

「だいもんじ」を耐え、未だ健在のニンフィアを見てホップは歯噛みする。だが、悔しがっているだけでは状況は変わらないどころか、判断の遅れはさらに状況を悪化させてしまう。事実、ホップはこのバトルの最中に一度それで痛い目を見ているのだ。だからこそ、ホップは次なる一手を繰り出そうとするが。

 

 その前に、マサルが想定外の行動に出た。

 

「俺は───()()()()()()()を宣言する!!」

 

 一瞬の停滞、その隙を突くようにマサルが大声で叫ぶ。瞬間、スタジアム内はまたもや異様などよめきに包まれた。

 

『ここで交代を宣言!? い、いや……ホップ選手が同意すれば可能ですが……え、えー……非常に、非常に珍しい展開ですね。バトル中の交代宣言はここ数年記憶にありません』

『……多分、()()()()()()()()

『この天候はクイタランには不利だ。だからクイタランが消耗することなく安全に交代できることに大きなメリットはある……が、それはつまり、ゴリランダーを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。引きずり出されるっていうのは、そういうことだ』

『できることならホップ選手は自分のタイミングで交代させたかったでしょうね』

『だが、ホップがここで交代を拒否したところで、炎技を実質封じられている状態のクイタランがニンフィアに勝てるかどうか微妙なところだ。はっきり言うぜ? どちらを選択したとしても───』

『……間違いじゃない』

『俺のセリフを取るんじゃねえよ』

 

 ここで交代宣言を受け入れることがどういう意味を示しているのか、グリーンの言っていたメリットとデメリットをホップはもちろん理解していた。理解した上で、ホップは改めてマサルの顔を見る。

 

 これだけ優位にバトルを進めているにもかかわらず、油断も隙も微塵も感じない彼の表情に。

 

 ホップは心の底から安堵した。

 

(そうか。お前は……お前はそこまでやってくれるんだな。こんなにも俺を追い詰めているのに、最後の最後まで、一切の容赦なく、俺に付け入る隙を与えようとしない……。ああ、そうだ。そういうお前だからこそ。そういうお前を見てきたからこそ俺は───)

 

 ホップは笑い、もう一度、気合いを入れ直すように己の両頬を二度叩く。

 

「交代を認めるぞ!! 戻れ、クイタラン!!」

 

 クイタランをボールに戻し、ホップはマサルに見せつけるかのように、()()()()()()()()()()()()()を取り出して、構えた。

 

「出して来いよマサル───お前の()()を。ここまで来たら、読み合いも何もないだろ?」

 

 挑発とも受け取れる言葉。その言葉を聞いて、マサルはほんの一瞬……対峙しているホップ以外の誰も気付かないであろう一瞬、よく知る幼馴染としての笑顔を浮かべていた。

 

「戻っておいで、ニンフィア」

「ふぃあ~お♪」

 

 嬉しそうに擦り寄ってくるニンフィアの頭を撫で、マサルはニンフィアをボールに戻し……()()()()()()()()()使()()()()()()モンスターボールを手に取った。

 

「言われるまでもねえよ、ホップ。俺は()()()()、そのつもりだったぜ?」

 

 マサルの言葉を聞き、マサルの顔を見て、なぜかホップは思い出していた。

 

 自分の兄にポケモンを貰った日のことを。

 

 自宅の裏庭で、マサルと初めてポケモンバトルをした日のことを。

 

 ほんの一瞬、あの日の景色が今と重なり、ホップはこれがチャンピオンカップのセミファイナルトーナメントであるということを忘れてしまっていた。

 

 終わりが、近づいてきているのだ。

 

 この、楽しい時間の───終わりが。

 

「インテレオン!!」

「ゴリランダー!!」

 

 両者が繰り出したポケモンは、互いが最も信を寄せる絶対的エース。

 

 タイプ相性だけならば、インテレオンが不利。だが、その不利を覆すほどのポテンシャルを持っていることを、ホップは嫌というほど知っている。それに加えて、この雨だ。

 

 だが。

 

(あのマサルが、安易に水技で攻めてくるはずがない!!)

 

 ゴリランダーは物理アタッカー。距離を詰めなければどうしようもない。対してインテレオンは遠距離高機動特殊アタッカー。

 

 つまり、インテレオンにゴリランダーの攻撃を命中させるには、距離を詰めつつインテレオンの()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺はお前を、信じているぞ。ゴリランダー」

 

 ゴリランダーは静かに頷いた。

 

 そして。

 

「ゴリランダー!! ウッドハンマー!!」

「インテレオン!! れいとうビーム!!」

 

 マサルが選んだのは水技ではなく、草タイプに有利な氷技。

 

 両者の間に距離がある今、全て凍てつかせる白銀の閃光が先にゴリランダーに襲い掛かる。しかしゴリランダーは閃光に飲み込まれようとも、周囲の雨が凍り付き、霰となって己の身体に襲い掛かろうとも、腕を振るい、雄叫びを上げ、前に進む。

 

 この程度では、彼の歩みを止めることなどできやしない。

 

 攻撃が届くまであと三メートル、二メートル、一メート───

 

 その攻撃が、インテレオンに届く寸前。

 

 遂に、ゴリランダーの足が止まった。

 

 彼の足が、腕が、身体が。

 

 周囲のフィールドが凍てつき、ゴリランダーを中心とした、巨大な氷像となる。

 

 氷の中に閉じ込められたゴリランダーは、ピクリとも動かない。否、動けない。

 

『しょ、勝負あった!! ゴリランダー!! 戦闘不───』

「まだだっ!!」

 

 ホップが叫ぶと同時、何かが裂けるようなピシリという音と共に、氷像に一筋の亀裂が入る。その瞬間初めて、このバトルで初めて、マサルの顔色に()()が生じた。

 

「お前の力は!! こんなもんじゃねえだろゴリランダー!!」

 

 その亀裂は、瞬く間に広がり。

 

「下がれインテレオン!!」

「遅え!!」

 

 砕け、散る。

 

「ぶちかませ!! ウッドハンマー!!」

 

 ゴリランダーは身の丈ほどもある巨大なハンマーを両手で握り、攻撃範囲内にいたインテレオンに───

 

 叩き、込む。

 

 回避が遅れたインテレオンは、ゴリランダーの強力な一撃を受け、マサルの遥か後方に吹き飛び。

 

 立ち上がることは、なかった。

 

『戦闘不能!! インテレオン戦闘不能!! 凍り付いた状態からゴリランダーが起死回生の一撃!! インテレオン!! 立ち上がれません!!』

『……すごい』

『ゴリランダーもすげえが、あの状態になってもゴリランダーを信じていたホップもすげえ。ホップの指示に迷いがなかったからこそ、マサルの反応がほんのわずかに遅れちまった。二連続でシャンデラを出してきたマサルに対するホップの見事な意趣返しだな。……まあ、あの状態で力ずくで氷をぶち破ってくるなんて普通思わねえよ』

 

 マサルの落ち度、と言うにはあまりにも特殊な状況ではあるが、ポケモンがトレーナーの想像を超える底力を見せることがあったのは、マサルにとってはこれが()()()()()()()。だからこそ、自分は気付くべきだった。

 

(まだまだだな、俺も。油断なんてしてるつもりはなかったが、どうやら本当に()()()だったらしい)

 

 相棒のインテレオンをボールに戻し、マサルは思考を切り替える。反省するのは、後だ。まだバトルは終わっていないのだから。

 

「ゴリランダー! まだいけるな?」

 

 ホップはどうやら交代させるつもりはないらしい。インテレオンを撃破したとはいえ、未だ雨は降り続いており、炎タイプにとって不利な状況であったからだ。

 

 それになにより。

 

(この勢いを失いたくない。ゴリランダーは手負いだけど、気合いは十分だぞ! ここを足掛かりに反撃を───)

「させねえよ」

 

 その声に、ホップの首筋にぞわりと嫌な寒気が走る。

 

「悪いがホップ。お前の逆転劇は、ない。今から俺が、()()()、教えてやる。」

 

 ホップは、マサルのことを誰よりも理解している。

 

 マサルが異質な現実主義者(リアリスト)であることを、誰よりも理解している。

 

 そんなマサルが、自分に対して「現実を教えてやる」と言った。

 

 その言葉の意味を。

 

 たとえ()()()()()()()()()

 

 ホップは、理解せざるを得なかった。

 

「ジバコイル」

 

 満を持して登場したのはジバコイル。マサルの五体目。このバトルで、()()()姿()()()()()ジバコイル。

 

 つまり。

 

 何一つ消耗していない、()()のジバコイル。

 

 対してホップのポケモンは、インテレオンを撃破したとはいえ、「れいとうビーム」で致命的な一撃を受けたゴリランダー。

 

 マサルの言う()()を───ホップは、思い知る。

 

「ドレインパンチ!!」

「リフレクター」

 

 ホップの選択は草技ではなく鋼タイプに有利な格闘技。攻撃を与え、それと同時に相手の体力を吸収する攻防一体の格闘技。体力をほとんど消耗している今のゴリランダーがジバコイルに出せる()()()

 

 だが、その最適解は。

 

 現実という強大な壁の前に、沈む。

 

『と、届かない!! ゴリランダーの拳が……リフレクターを突破できない!!』

 

 繰り出された五層のシールドの内、三層目でゴリランダーの拳が止まる。もしもゴリランダーが万全ならば。もしもインテレオンとの戦いで力をのほとんどを消耗してさえいなければ。

 

 しかし、ここで()()()()など。

 

 何の意味も持たないことを、彼らは知っている。

 

「ラスターカノン」

 

 ジバコイルの一撃がゴリランダーを粉砕。

 

 膝を突き、倒れて意識を失う寸前まで、ゴリランダーは闘志を燃やし、震える拳をジバコイルへ向かって伸ばし続けていた。

 

「よし、上出来だ。ジバコイル」

 

 最後まで戦う意思を捨てなかったゴリランダーに心の中で敬意を表し、マサルはジバコイルをボールへ戻す。

 

 これで、ホップに残されたポケモンはあと一体。

 

「バンギラス」

 

 マサルが最後に選んだのは、二度目のバンギラス。カビゴンとの戦いで消耗しているバンギラスだが、雨という天候に左右されず、クイタランに、炎タイプに対して優位に立てるが故の選出。

 

 自分はこの程度で()()()()()()()()()()()()()()()()という、意思表示。

 

 そして、マサルのその意思は、たとえ言葉にしなくともホップには伝わっていた。

 

 だからこそホップは、幼馴染としてではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()、最後までマサルの前に立ち続けた。

 

「クイタラン!!」

 

 ホップの、最後のポケモン。

 

 固唾を飲んでバトルを見守っていた観客達も理解した。

 

 次の一撃で、幕だと。

 

「クイタラン!! オーバーヒート!!」

「バンギラス!! ストーンエッジ!!」

 

 

 

 

 

 

 降り続いていた雨が、上がる。

 

 

 

 

 

 

 ガラルポケモンリーグ・チャンピオンカップ

 セミファイナルトーナメント

 

 決勝戦

 ユウリ(ハロンタウン)ーマサル(ハロンタウン)




 マサルVSホップ 決着。

 色々とツッコミどころ満載だと思うけど許してね。あくまでバトルはノリと勢い、演出重視だから。それとバトルにおける交代のルールは独自解釈なので悪しからず。ツッコまれてもスルーするからね!

 決勝戦の組み合わせは恐らく多くの人の予想通りだったでしょう。でも、例え予想通りだったとしても、大事なのは過程とその見せ方ですからね。次回はホップ戦後の諸々で終わると思います。ユウリとのバトルは次々回まで待つのだ!

 あと、今回のお話の中でも少し触れましたが、レッドさんは毎回コメントが原稿用紙一行分未満なので解説役としては最悪です。レッドさんソロの解説だと実況の人が死ぬので絶対にグリーンさんというレッドさんの外付け翻訳機が必要なのです。

 ちなみにリーフちゃんはコミュ強の明るい女の子ですが「リザードンががーってなってぎゃーんってなってすごいですね!」という小学生レベルの擬音まみれの解説しかできません。ユウリと同じ超感覚派トレーナーです。リーフちゃん可愛いね。ノースリーブがえっちで好き。なので、レッドさんとリーフちゃんの二人が解説として呼ばれると地獄絵図になります。

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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