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『く、クイタラン倒れる!! この瞬間、マサル選手の決勝進出が決まった!! 近年稀に見るハイレベルな読み合い……しかし最後はホップ選手のポケモンをマサル選手が力でねじ伏せました!!』
降り続いていた雨が止み、再びスタジアムに日光が差し込む。
敗者であるホップは、悔しそうに、心の底から悔しさを噛みしめるように歯を食いしばり、肩を震わせ強く強く拳を握る。
勝者であるマサルは、表情一つ変えなかった。冷静……否、冷淡とも取れる表情を浮かべ、勝利を喜ぶ様子を微塵も見せない。
そんなマサルの表情を見たホップはほんの一瞬だけ驚くも、すぐに破顔した。
そして、バトルが始まった時と同じようにフィールドの中心へ足を進めると、マサルもホップに倣うようにゆっくりと歩み始める。
「なんて顔してるんだよマサル。俺に勝ったっていうのに嬉しくないのか?」
「んなわけないだろ。ただちょっと……
「……そうか」
「言っておくけど、同情なんか一切してねえし、お前を打ち負かしたことに対してうしろめたさや後悔なんざ微塵もねえ」
「当たり前だろ。そんな腑抜けたこと言ってたらぶん殴ってたぞ」
過程はどうあれ、
そんなものは、優しさではない。敗者を傷つけるだけの自己満足だとマサルは知っているから。
「お前がなんでそんな表情をしているのか……
ホップは言う。
「いよいよ、だもんな。ようやく……ようやくこの時が来たんだ。お前がユウリと本気で向き合う時が」
その意味を、他でもないマサル自身が一番理解していた。
「お前はずっと何かを探していた。このジムチャレンジが始まってから、
ホップの言葉に、マサルは少なからず驚いていた。自分の内面を、彼にこれほどまでに見抜かれているとは思わなかったからだ。確かに、これまでマサルが出会った人達の中には、マサルが何かを追い求めていることを理解している者がいた。だが、自分がなくした物を取り戻そうとしている……それに気付けたのは、ホップの他にもう一人。もう一人だけだった。
「なんでわかったのかって顔してるぞ。ったく、何年の付き合いだと思ってるんだ?」
呆れたように、でも
「マサルはこのジムチャレンジで、暗闇の中、終わりの見えない長い長い階段を一歩一歩登り……そして今、俺達の知らない『それ』を取り戻すほんの一歩手前まで来ている。だけど、最後の最後で目の前に立ちはだかる大きな扉。その扉を開けるための、最後の鍵が足りないんだ」
その扉の先にこそ、マサルが本当に取り戻したかった何かが、
かつて彼は、現実に打ちのめされ、地面に這いつくばることしかできなかった。しかし、己の周囲に蔓延る数多の困難を乗り越え、ここまで来た。
自分一人の力だけでここまで来れただなんて、彼は思わない。たくさんの出会いが、彼と出会った全ての存在が、自分に、前に進むための力を与えてくれたことを知っている。
だけど。
それでも。
どうすれば、この扉を開けられるのか。
どうすれば、この先に進むことができるのか。
彼
「俺には、その鍵が何なのかはわからない。だから素直に、俺が今、マサルに思っていることを言うぞ」
彼
「ユウリは、強い。本当に、強い。あんなにすごいトレーナーが、兄貴以外にいるなんて思わなかったぞ。きっと、あいつみたいなトレーナーのことを、天才って言うんだろうな」
否。
「でもな、マサル」
彼もそれを、
「俺は、お前があいつに劣っているだなんて───一度だって思ったことはないんだぞ」
『俺は、お前があいつらに劣っているだなんて───一度だって思ったことはないんだぞ』
それは、彼が知るはずもない、
瞬間、少年は、扉が開く音を───聞いた。
「マサル───ユウリに、勝て」
火が、灯る。
心の中に、
「ユウリに勝て! ジムリーダーに勝て!
あの日、失ってしまったものが。
心の奥の奥。その先にある、長い長い階段の頂点。
最果ての、扉。その向こう。
そこにあったのは、
そうか……そういうことだったのか……。
俺は、気付いた。
ようやく、気付けたんだ。
「この先、立ちはだかる全員に勝って───」
最後の、鍵。俺が、本当の意味で、前に進むために、扉を開くために、必要だったもの。
それが───
「
お前だったんだな───ホップ。
特別な力、などではない。
ただ、「少年」のことを、
この世界で、最初にできた友達である「彼」こそが───最後の扉を開く鍵。
知らないからこそ。
「彼」が
「彼」は、「少年」にとっての鍵となる。
「マサル、サンキューな。お前がいてくれて、よかったぞ!」
お礼を言いたいのは、自分の方だとマサルは思う。だが、心の奥底から湧き上がる溢れんばかりの感情が、口を閉ざし、マサルの言葉を塗り潰した。
「
そう言ってホップが右手を差し出した。
「だけどな」
そして、マサルがよく知る幼馴染としての笑顔と、ポケモントレーナーホップとしての笑顔が混じり合う。
「俺は絶対に、夢を諦めないぞ。これから先、何度でも、何十度でも、俺が頂点に立つその日まで───お前達に挑み続ける」
自分が今、どんな表情をしているのか、マサルにはわからなかった。ただただ、こみ上げてくる感情に、身を委ねるしかなかった。
だが、それでもマサルは差し出された手を握り。
そして。
どちらからともなく、抱擁を交わした。
背番号「189」
ジムチャレンジャー ホップ(ハロンタウン)
ガラルポケモンリーグ・チャンピオンカップ
セミファイナルトーナメント 一回戦敗退
「ええ顔しとーね」
控え室に戻ると、マリィが優しい笑顔で俺を迎えてくれた。自分が今、どんな顔をしているのかはわからないけれど、多分、この世界に生まれて初めての……いいや。きっと、俺が
「今のあんたなら、大丈夫そう」
立ち止まっている俺に向かってマリィがゆっくりと歩いてくる。俺よりも頭半分ほど背が低い彼女は、俺の目の前に立って、さっきと同じように優しい笑顔で見上げてきた。
そして、マリィは両手を俺の両頬にそっと添え、背伸びをする。俺の額と、マリィの額が触れるくらいに。
こんなにも近くに彼女の顔があるのに、俺は不思議と緊張しなかった。むしろ、今の俺を包み込んでいるのは、柔らかい安心感。きっとマリィも俺と同じ気持ちなんだろう。だから自然と、俺達二人は目を閉じていた。
「ユウリはあたしの一番の友達やけん、マサルだけを応援することはできんけど、あんたもあたしの大事な友達。それに、マサルはたくさんあたしを助けてくれた……だから、ね?」
マリィの優しくて、温かくて、柔らかい声が耳を打つ。
「がんばり、マサル。あんたなら、ユウリに勝てるよ」
そう言って、マリィはゆっくりと額を離す。目を開けて彼女の顔を見ると、頬が少しだけ桃色に染まり、紅潮しているのがわかった。そんな彼女の顔を見て、俺が無意識の内に彼女の頭に手を乗せると、彼女は抵抗することなく、俺の行為を静かに受け入れてくれる。
「んっ……」
マリィは気持ち良さそうな表情で、甘い声を漏らした。
彼女が俺のことを大事な友達だと言ってくれたように、俺も彼女のことを、本当に大切な友達だと思っている。
それだけじゃない。スパイクタウンでの、マリィとネズさんのバトル。あの時の、彼女の言葉。
『だってあたし───チャンピオンになるけん』
あの言葉に、マリィの姿にどれだけ俺の心が震えたか。
君は、それを知らない。
でも、それでいい。
「ねえ、ホップ」
「なんだ? ユウリ」
「さっき、バトルが終わった後にマサルと何を話してたの?」
「……男と男の秘密だからな。ユウリには内緒だぞ」
「えー!? 何それずるーい!」
一回戦の第二試合、マサルとホップが戦って……マサルが勝った。つまり、決勝の相手は───マサル。
マサルとは、ずーっと、ずーーーっと一緒に旅をしてきたけど、私とバトルをしたことは、一度もなかった。なんでバトルをしなかったのか、理由はわからない。ただ、マサルがそれを望んでいないことだけはわかってたんだ。だから私も旅の途中でそれを話題に出すことも、マサルに尋ねることもしなかった。
ううん。
だって……だってなんだか、マサルが遠くに行っちゃう気がしたから。
マサルが私から離れていくはずがない。そんなの、
だから私には何も言えなかったんだ。
でもね。本当は寂しかったんだよ。
ホップやマリィとはバトルをしていたのに、私とだけはしてくれなくて……。
それが意地悪なんかじゃないってわかってたよ。マサルが私のことを真剣に考えてくれているからバトルできなかったっていうことも、ちゃんとわかってたんだよ。それでも、頭では理解できていても、感情だけはどうにもできなかったんだ。
だから、その反動で私はマサルにたくさん甘えちゃったんだ。……甘えてた理由はそれだけじゃないけど。
……あれ? そういえば、よく考えたら甘えてたのってそれだけじゃない理由の方が多くない? そ、そんなことないよね? そうだよねホップ?
「そんな目で見てもマサルと何を話したかは言わないぞ。ちゃんと
ホップの言葉で、自分の思考が明後日の方向に飛んでいきかけていたことに気付く。あ、危ない危ない……ユウリちゃんギリギリセーフ!
自分の目で、か……。うん、そうだよね。
正直に言えば、さっきまでは不安だった。すごくすごく、不安
その不安は「マサルに負けてしまうかもしれない」という不安なんかじゃない。
「マサルと本気で向き合うこと」自体に対する不安。
でも、ホップと話をした後のマサルの顔を見て、そんな不安は綺麗さっぱりなくなっちゃった。
それと同時に、ちょっとだけ、悔しくなっちゃったんだ。
マサルにその顔をさせるのは、私の役目だって思っていたから。
だけどホップなら仕方ない。納得だ。だってホップは私よりもマサルと付き合いが長いんだもん。
だから悔しさもちょっとだけ。ほんのちょびーっとだけだもん。
ホップはきっと、私の知らないマサルをたくさん知っている。
でも私だって、ホップの知らないマサルをたくさん知ってるんだからね。
そして、今のマサルは……。
私もホップも───
「マサル、最後に一つだけ言っておくけんね」
「ユウリ、最後に一つだけ言っておくぞ」
俺と向き合うマリィは、俺の目を真っ直ぐに見てそう言った。
私と向き合うホップは、私の目を真っ直ぐに見てそう言った。
「ユウリは、強いよ」
「マサルは、強いぞ」
その言葉に、俺は迷いなくこう答える。
その言葉に、私は迷いなくこう答える。
「ユウリの強さは───俺が一番よくわかってる」
「マサルの強さは───私が一番よくわかってる」
ホップと合流するために観客席へ向かったマリィを見送り、俺は一人、控え室のベンチに座り込む。思うことはたくさんある。考えるべきことはたくさんある。だけどもう、迷わない。覚悟は決まった。
いくつもの夜を越え、最後の扉の先にあったもの。
それは、
固い固い、扉の向こう。深い深い、真っ暗な心の奥底にそれはあった。
扉を開いて、闘志の残滓に触れた時、俺は気付いたんだ。
この扉は、残滓を閉じ込めていたんじゃない。
この扉は、残滓を
今にも消え入りそうな、小さく、か細い残滓を。
消えないように。いつか俺が、火を灯しに来るその日まで。
ずっとずっと、守ってくれていた。
「ずいぶん……待たせちまったなぁ……」
自然と、そんな言葉が漏れていた。
心の奥底に、光が届かないほどの真っ暗な闇の中に築かれていた固い扉。
なんてことはない。
その扉を、築き上げていたのは……作り上げていたのは……。
他ならない、俺自身。
現実を、
そんな、かつての俺が、いつか必ず
ずっと、守ってくれていたんだ。
俺を一番信じていなかったのは、俺自身であるように。
俺を一番
「……ありがとよ」
それは俺が、俺自身に向ける、感謝の言葉。
俺は、かつての俺を否定しない。するわけがない。絶対に。
心が折れ、膝をつき、全てを諦めることしかできなかった俺だったとしても。
夢半ばで敗れ、現実を受け入れることしかできなかった俺だったとしても。
俺は俺を否定しない。
かつての俺がいたからこそ、今の俺がある。
かつての俺がいなければ、今の俺はここにいない。
そう。
俺はようやく、ようやく。
本当の意味で、現実を受け入れることができたんだ。
もう二度と、決して、絶やすことのない火を心に灯しながら。
そして立ち上がり、
『やっほーマサル! みんな大好きソニア博士だぞー?』
明るくも呑気な声色のソニアちゃんだった。はぁ……タイミングが良いのやら悪いのやら。
「どしたね? みんな大好きえっちなソニア博士」
『えっちは余計だろこの野郎!!』
「用がないなら切るよ?」
『用もないのに試合前でピリピリしてるタイミングで電話なんかするかい!!』
「でもソニアちゃんって間が悪いところがあるからな」
『うるせーやい!!』
否定しないあたり自覚はあるらしい。なんともまあ気の抜けた会話だけど、今このタイミングで
『マサル、覚えてる? 七年前のチャンピオンカップ……ダンデくんとの決勝戦の前に、あんたが私に電話をかけてきてくれたでしょ?』
覚えてる。忘れるわけがないよ。あの日のことは、あの日の光景は……七年経った今でも色褪せることなく、俺の心に強く焼き付いているんだから。
『あの日、あの時、あんたが私に言ってくれたことがどれだけ励みになったか……どれだけ勇気になったか……。マサルがいなかったら、きっと私はダンデくんと向き合うことができずに、
偉大な功績を持つマグノリア博士の孫娘であるソニアちゃんだからこそ、余計にダンデくんに対してそういう思いがあったことを、俺は知っている。そして、それが一番顕著に現れたのが、「まどろみの森」での一件だった。
『マサル。あんたは私と
ほんの少し、ソニアちゃんの声色に影が混じる。
『
俺は口を挟まず、ソニアちゃんの次の言葉を待った。
『ホップとのバトルが終わった後の顔を見て、今のマサルの声を聞いて……安心したよ。私の知らない苦しみを、乗り越えることができたんだ、ってね』
随分と、本当に随分と遠回りをしたけれど……たくさんの出会いがあって、たくさんの出来事があって……最後にホップが気付かせてくれたんだ。
『だから、ここから先の私の言葉は、
電話の向こうで、ソニアちゃんが小さく息を吸い込んだのがわかった。
『
それは、同じ言葉。
七年前と、同じ言葉。
あの日の、あの時の、ソニアちゃんへ向けた言葉。
「ありがとうソニアちゃん───魂、入った」
『おう。ぶちかましてこい!』
通話を終え、俺は静かに目を閉じる。
そして、五つのボールを取り出した。
「おいで、みんな」
現れたのは、俺と共に、ずっと旅をしてきた頼もしい仲間達。彼らの姿を一瞥し、俺は静かに語りかける。
「シャンデラ」
シャンデラは透き通った宝石のような声で返事をした。
「出会ったばかりの頃は、内気で気弱でおどおどしてばかりだったのに……本当に立派になったな。インテレオンを除けば、最古参の仲間で……俺とインテレオンがいない時には、しっかりみんなをまとめてくれた。バトルでも、お前の献身的なまでの強さにどれだけ助けられたことか。ヤローさん、サイトウちゃん、キバナさん、ホップ。たくさんの場面で活躍してくれたよな」
手を伸ばし、シャンデラに触れると、琥珀色の瞳が嬉しそうに細まり、青い炎が俺の身体を優しく温める。
「ジバコイル」
機械音を鳴らし、いつもと何ら変わらない無表情でじっと俺を見ている。
「お前はパーティーで一番特殊と言うか……いつも俺を不思議そうに観察していたよな。まるで俺を珍獣か何かみたいに。あ~ん? 気付いてたに決まってるだろ。キャンプでもいつも一歩離れたところから視線を感じてたからな。まあ、お前が俺を変に思うのもしゃーない。ポプラさんとのバトルで迷惑かけたし……いやでもあれは俺悪くないよな?」
同意を求めるように尋ねるも、変な機械音を発するだけで……実は俺のこと笑ってるだろお前?
「ニンフィア」
「ふぃあ~お♪」
愛らしくも甘い声を発しながら、ニンフィアが俺に擦り寄ってくる。
「可愛さと強さを兼ね備えた究極のアイドル……だけど立派な悪女に育ってそうでパパすごく心配」
「ふぃ~あっ♪」
「お前はそうやって俺に一番甘えてたよなぁ……今でも勝手にボールから出て布団に潜り込んでくるし」
首の下をこしょこしょと撫でてやると、ニンフィアは気持ち良さそうに目を細めた。
「ただ、お前はいつも、誰かが悲しんでいる時に一番早く駆け付けて、一番側で寄り添ってくれる優しい子だよ」
シャンデラも、バンギラスも、そして俺も……お前のそういう優しさに何度も救われたんだ。
「バンギラス」
「ぐがおぉん♪」
名前を呼ぶと、バンギラスは両手をパタパタと振りながら嬉しそうに飛び跳ねた。
「俺が言った通り、最高に強くて格好良いポケモンになったな。洞窟の隅で膝を抱え、怯え泣いていたお前はもう……自分の無力さに打ちひしがれ、自暴自棄になっていたお前はもう……どこにもいない。過去を乗り越え、現実を受け入れ、未来を掴み取ったんだ。お前のそんな姿に、俺はたくさんの勇気を貰ったよ」
ヨーギラスの頃から変わらない、垂れ目がちで穏やかな瞳。俺よりもすっかり背が高くなったバンギラスの頬をそっと撫でた。
「インテレオン」
最後は俺の最初の仲間にして───
「俺がお前をどう思っているか、お前が俺をどう思っているかなんて───今さら言葉にするまでもないよな」
最も信頼する、最高の、相棒。
たとえ言葉にしなくとも、俺達の思いは通じ合っている。この旅を通して、それだけの信頼関係を、築いてきた。
「
そして。
「───俺に力を貸してほしい」
言葉と共に、改めて全員を一瞥する。
答えなんて、聞くまでもない。
「さあ、行こう」
そして俺は、
歩き慣れた、スタジアムの通路。決戦の地へと続く、暗い道のりを、今までずっと、一人で歩いてきたのこの道を、少年は五体の仲間達と共に進む。一歩一歩、前に進むたびに、フィールドの光が近づいてくるたびに、少年は胸の高鳴りが強くなることを自覚した。
だが、それは決して、緊張によるではない。
確固たる自分自身を築いたことによる、魂の高揚。
彼の一歩後ろを歩く仲間達も少年の大きな変化に気付いていた。幾度となく見てきた彼の背中は、背番号151はこう語る。
「俺を信じてついて来い」と。
彼らは、少年のことを疑ったことなど一度もなかった。少年のことを心の底から信じているからこそ、彼らが抱く思いは、ただ一つ。
「この少年を───王にする」
そのためならば、この身を捧げることを決して厭わない。自分達の主こそが、頂点に立つにふさわしい存在だと、彼らは信じている。
この先何が起ころうとも、どんな強敵が現れようとも、自分達ならば必ず、我らが主ならば必ず、立ちはだかる全てを打ち砕くだろう。
そう。
これは
王の───凱旋。
そして、暗い通路を抜け、光差す決戦場へと足を踏み入れた瞬間、地鳴りのような、怒号のような歓声が響き渡った。しかし少年は、彼らは一切動じない。少年はただ、真っ直ぐに前を見据え、彼ら五体は「刮目しろ。我が主に」と言わんばかりに観客達に胸を張る。
「……考えてることは、
少年は小さく呟いた。
少年の視線の先、その鳶色の瞳に映っているのは、一人の少女。
その少女の、
少女の、五体の仲間達。
彼女達の姿を見て、少年は───
マサルは───
その、意味に。少年の、変化に。
気付けた者は極わずか。
『……変わった』
『明らかに、だな』
カントーチャンピオンが。カントートップジムリーダーが。
「マサル。それが、あなたのなりたい理想の自分……」
イッシュの英雄が。
「そうか。マサルくん……ようやく、辿り着いたんだね」
ホウエン元チャンピオンが。
「……君はどうやら、私とは違う答えを得たようだ」
マクロコスモスグループ最高責任者が。
そして。
「そうだ、マサル」
ガラルポケモンリーグ・チャンピオンダンデが。
「それが───
「ねえ二人とも。どっちが勝つと思う?」
「……正直、どうなるかわかんないぞ。あんなマサルは初めて見るからな」
「どっちが勝ったとしても、あたしは誇りに思うよ。みんなで一緒に旅をして、互いに高め合って……ここで戦えたこと、あたしは一生忘れない」
「ああ、俺も同じ気持ちだぞ」
「そっか。……うん、そうだよね。きっと
観客席の一角。白衣に身を包んだソニア、そんな彼女と合流したホップとマリィ。三人は、フィールドの中心に立つ二人の少年少女を静かに見守っていた。彼らが見据えていたものは、二人の戦いの行く末であり、己の未来。
ホップとマリィは彼らに敗れ、挑戦は終わったが、二人が胸に宿している願いを叶えるための挑戦は、終わらない。まだ、始まったばかりなのだ。
「マサルとユウリ、どっちが勝つかは本当に予想ができないぞ。でもなソニア、俺には予感があるんだ」
「予感?」
「ああ。このバトルに勝った方が───チャンピオンになる。そんな予感だ」
ホップの言葉に、ソニアは大きく目を見開いた。つまりホップは、こう言ったのだ。現チャンピオンである自分の兄が、この二人のどちらかに負けるのだ、と。崇拝にも近い感情を兄に抱いているホップを見てきた彼女にしてみれば、信じられない発言だった。
「奇遇やね。マリィもそう思うよ」
それは、マリィも同じ。実際に、あの二人の強さを体感したからこそ、ホップとマリィはそう言える。
そして、奇しくも。奇しくもではあるが。
ホップの言葉通り。
この試合の勝者こそが───次世代のチャンピオンとなるのだった。
「そちらの席、空いてるかな?」
「あ、どうぞどうぞ」
「ありがとう」
そんなことは露知らず、三人で会話を続けていると、帽子を深く被り、
「あれ? どうしたのよ二人とも」
「う~ん……いや、気のせいだぞ(この人に見覚えがあるようなないような)」
「そ、そうやね……(あたしも見覚えある気がしたけど……『どこかで会ったことありますか?』ってナンパみたいな真似はできんけん!!)」
青年を見て難しい表情を浮かべた二人に対して、その理由がわからずソニアは首をかしげる。
そして件の青年は、透き通るようなサファイアブルーの瞳に少年の姿を映し、誰にも気付かれないようにそっと表情を綻ばせるのだった。
(マサル……君はやっと、自分の中にある真実を見つけられたんだね)
「まねっこ! 私のまねっこだよマサル!」
「お前が俺の真似したんだろうが」
示し合わせたかのように、互いのポケモン達をボールから出して入場することになった二人。マサルは、いつもと何ら変わらないユウリの姿を見て、安心感すら覚えてしまった。
「ねえ、マサル」
ユウリが、彼の名を呼んだ。
「私ね、待ってたんだよ。ずーっとずーーーっとずーーーーーーーっと……待ってたんだよ」
知っている。マサルはそれを知っている。苦悩するマサルを誰よりも近くで、一番側で見続けてきたユウリが。誰よりも、この瞬間を待ち望んでいたことを。
マサルは、知っている。
「だからね、マサル。ちゃんと聞かせて。あなたの───あなただけのこたえを」
ユウリの言葉に、マサルは天を仰ぐように顔を上げ、静かに目を閉じる。
長かった。本当に長かった。ここまで辿り着くのに、あの日失ったものを取り戻すのに、自分が思い描く理想の自分になるために。
「ユウリ」
少女の名を呼び、少年はゆっくりと目を開く。
その瞬間、抜けるような青空が───瞬いた。
その光は、真っ直ぐに、真っ直ぐに、真っ直ぐに。
空を貫き、大気を切り裂き、少年に吸い込まれるように。
少年の背後へと、飛来する。
その飛来物が、何なのか。
そう、それは。
彼らと彼女の───
心を燃やし。
確固たる己を築き。
真なる願いを宿した彼ならこう言える。
胸を張って、こう言える。
「お前に勝って───俺がチャンピオンになる」
ポケモントレーナーのマサルが
ポケモントレーナーのユウリが
勝負をしかけてきた!
すごいよ!! マサルくん
No.0151
「ポケモントレーナー マサル:オリジン」
次回マサルVSユウリ
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