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『インテレオン倒れる!! 互いに死力を……己の持てる力を尽くし……激闘を制したのはユウリ選手!! この瞬間、ユウリ選手のファイナルトーナメント出場が決まったああああああああ!!!!』
スタジアムの大歓声。
割れんばかりの声援っていうのはきっと、こういうものを言うのだろう。
だけど……だけど私には……。
今の私に、
だって。
こんなにも、心臓が破裂しそうなくらい脈打っているから。でもそれは決して、マサルに勝ったことに対する喜びや高揚感なんかじゃない。
唇が、ほんの少しだけ震えているのがわかる。
背筋を嫌な汗が伝っているのがわかる。
「あ……マサ……マサ、ル……」
言葉が、出てこない。
晴れやかな表情で、穏やかな優しい笑顔で私に近づいてきているマサルに何を言えばいいのか、わからない。
それくらい、私の心の中はぐちゃぐちゃになっていた。
「ったく、なんて顔してんだよ」
今の私がどんな顔をしていたのか……きっと、酷く青ざめていて、人に見せられるような顔をしていないのだろう。でもマサルは、そんな私を見て、ゆっくりと、優しく、いつもみたいに頭を撫でてくれた。
それだけで、私は涙があふれてきそうになっちゃって……鼻の奥が、ツンと痛くなっちゃって……。
「わ、わたっ……私……ま、負け……さい、最後……」
言葉にできない。伝えなくちゃいけないことが、マサルに言わなくちゃいけないことがたくさんあるのに。私の心が、制御できない感情がそれを許してはくれなかった。
「ユウリ」
マサルが私の名前を呼んでくれた。だけど私は、マサルの顔を見れなくて……それどころか、足がガクガクと震えてきて……立っていられなくなっちゃって……。
「ユウリ」
もう一度、さっきよりも優しい声色でマサルが私の名前を呼んだ。
と同時に、嗅ぎ慣れたほんのりとした甘い香りと、お日様のような温かさに包まれる。
マサルに、抱きしめられていた。
「ユウリ」
マサルはそっと、壊れ物を扱うようにそっと私を抱きしめて、子供をあやすように優しく私の背中を撫でてくれた。彼の匂いと体温に触れて、私は目を閉じる。さっきまで、破裂しそうなくらいうるさかった心臓が少しずつ、少しずつ落ち着いてきているのがわかった。
「マサ、ル……私、私ね……あのね……」
「大丈夫。大丈夫だユウリ。俺はここにいるから。ちゃんと聞いてるから」
マサルが、私を抱きしめる力をほんの少しだけ強くする。言わ、なきゃ……。私の、正直な気持ちを……ちゃんと、言わなくちゃ。
「マサル……あのね、あのね……」
「うん」
「私ね……最後ね……負けてた、よ……」
最後の、数秒。パルスワンの「かみなり」が発動してからインテレオンの「ねらいうち」が外れるまで、数秒の、出来事。
本当なら私は、負けていたんだ。
勝ったと確信して、油断しちゃったあの瞬間。
私は───負けていたんだ。
「インテレオンの攻撃が……外れなかったら……あとほんの、
「ユウリ、それは違う」
マサルが私の言葉を遮った。穏やかで優しい声だったけど、力強さを感じる、そんな声で。
「俺は、インテレオンの攻撃が
私達の、強さ……。
「インテレオンが倒れるまでに、どれだけの
そんなの……言葉では言い尽くせないくらいたくさんあったよ。たくさんたくさん……今までのバトルで一番……本当にたくさん考えたよ。ポケモン達も、みんなも……そんな私に応えようと……すごくすごく、がんばってくれたよ。
「一瞬の積み重ねの果てに、無数の選択肢を選び取った果てに、今の結果がある。バトルは……いや、勝負っていうのは、
「たくさんの……積み重ね……」
「そう。その積み重ねが……俺よりも、ほんの少しだけお前の方が重かった。その『差』だけ、お前に天秤が傾いた。だから俺は……お前達の全てに、お前達がこの旅で培ってきたもの全てに、負けたんだ」
「私達の、旅?」
「この長い旅を通して、ユウリは……いいや、ユウリだけじゃない。俺も、本当に……本当にたくさんのことを学んで、たくさんのことを経験してきた。この旅があったから、ホップがいたから、マリィがいたから……お前と一緒に旅ができたから───俺は、
私は、覚えてる。
旅の始まりを、昨日のことのように覚えてる。
ダンデさんにポケモンをもらって、初めてのポケモンバトル。初めての、自分の手で捕まえたポケモン。初めてのワイルドエリア。マサルと一緒に、手をつないで最初の一歩を踏み出した。
全部全部、覚えてるよ……マサル。
「俺は、これまでの旅路が、自分の選んだ選択が間違いだったなんて思わない、絶対に。本当に……たくさん遠回りをしたし、たくさん時間がかかったけれど……俺はやっと、理想の自分を手に入れることができたんだ」
私もね。同じだよ、マサル。最初は、みんなみたいにジムチャレンジで大きな目標があったわけじゃない。でも、たくさんの人と出会って、マサルと一緒に旅をして……みんなの背中を見て、私も……ううん。私
「俺はこの先、何があろうとも、もう二度と、折れたりしない。もう二度と、忘れたりしない。もう二度と、失ったりしない」
私も……私ももう二度と、何があっても勝利を確信したりしない。最後の最後まで、この目でその瞬間を見届けるまでは絶対に、油断なんてしない。
「ユウリ。勝利を否定するな。勝利を否定すること……それはお前の、お前達の旅路を、お前の期待に応えたポケモン達の軌跡を全て……全て否定することになるんだ」
そっか……。私は、そうだったんだ。
マサルがそれを、気付かせてくれた。本当に大切なことを、教えてくれた。
「ユウリ。お前は、勝ったんだ。俺に……俺の全てに勝ったんだ。だから、胸を張れ───ポケモントレーナーユウリ」
「うん」
「
「うんっ!」
私は、マサルの背中に腕を回す。とくんとくんと、マサルの心臓の鼓動が伝わってくる。温かくて、安心する……私の大好きな、匂い。私は目を閉じて、マサルの温かさを、匂いを、存在を確かめるように強く抱きしめた。
「ただ、一つだけ……覚えておいてほしい」
ふいに、マサルがぽつりとそう言った。
「お前はこの先、必ず……必ず、今まで一度も体験したことがない
私にしか背負えない、強大な重圧。……なんだろう? そんな大きなものと、私がこの先向かい合うことになる? マサルはそれを知っているの? それが一体何なのか、知っているの?
「もしかすると、そんな重圧に押し潰されそうになるかもしれない。耐えられないと思ってしまうかもしれない。目を逸らして、逃げ出したくなるかもしれない」
マサルの言葉を聞いて少しだけ……ほんの少しだけ怖くなってしまった。他の誰でもない、私以外の誰にも背負うことができない、未知の重圧。
「俺には、それを背負うことができない。でもな、ユウリ」
だけどマサルは、そんな私のわずかな恐怖を拭い去るような、優しくて力強い声でこう言った。
「
マサルが強く、強く私を抱きしめる。
「前だけを見て走り続けろなんて言わない。後ろを振り向くななんて言わない。立ち止まるななんて言わない。休んでいいんだ。振り返っていいんだ。立ち止まっていいんだ。いつだって、どんな時だって、俺が必ず隣にいる。絶対に、何があっても───俺がお前を、一人になんてさせやしない」
心臓が、高鳴る。
でもそれは、バトルの時のような高揚感とは全く異なるものだった。
顔が、熱い。
でもそれは、スタジアムの熱にあてられているわけじゃない。
この胸の高鳴りも。体中を支配する熱も。全部全部、心の奥底から湧き上がってくる不思議な感情のせいだった。
だけど私が。
この感情の意味を知るのは。
この感情の名前を知るのは。
「最後に、ユウリ」
もう少しだけ、後のこと。
「ファイナルトーナメント進出───おめでとう」
ガラルポケモンリーグ・チャンピオンカップ
セミファイナルトーナメント
同率三位
No.960 マリィ(スパイクタウン)
同率三位
No.189 ホップ(ハロンタウン)
準優勝
No.151 マサル(ハロンタウン)
優勝
No.227 ユウリ(ハロンタウン)
『では、改めてこのバトルを振り返って……二人の勝敗を分けたものは一体何だったのでしょうか?』
『いやぁ、それを言葉にするのは野暮ってもんだろ』
『……それを言葉にするのが解説の仕事』
『おめーはほとんど仕事を放棄してたじゃねえか!? ……はぁ~、ったく。バトルってのは、結果論で語られがちだ。勝敗がついた後に「あの時ああしていればよかったんじゃないか」って外野はいくらでも好きに言える。別にそれが悪いってわけじゃねえ。こういう解説の仕事も言い換えりゃあ「結果論」を語る仕事だからな。じゃあ、外野が言うように別の選択をすれば勝敗がひっくり返っていたのか? そうとは言えねえ。なぜなら、自分が選択を変えたことによって相手も同じように選択を変えちまうからだ。そんな風に、ポケモンバトルは……いや、ポケモンバトルに限らず、他のスポーツにも言えることだが、「勝負の世界」ってのは、その一瞬における無数の思考と選択の積み重ねなんだ。その一瞬が独立しているわけじゃなく、最初から最後まで、全てが繋がっている。そして、常に無数の分岐が広がる中で、常に「最善の選択肢」が目まぐるしく変化する中で、俺達は決断し続けなければならない。確かに、
『その「落ち度」こそが、結果論であり……二人の勝敗を分けてしまった、と』
『それも重箱の隅をつつくようなもんだけどな。そういう意味で、言葉にするのは野暮って言ったんだ』
『なるほど』
『っつーかよぉ。ガラルのジムチャレンジって毎年こんなにレベルが高いのか? どんだけ無名の猛者達が眠ってたんだ』
『……いえ、今年と七年前が異常だっただけです』
『だよなぁ。毎年こんなんだったらガラルはどんな魔境だって話だ。でも、ジムチャレンジって形でポケモンバトルを興行化してるのは本当に面白いな。賛否両論あっただろうが、
『ありがとうございます。ではレッドさん。最後に一言お願いします』
『……僕も今からここでバトルしたい。……だめ?』
『ダメに決まってんだろ』
「……良いバトルでしたね」
「ええ、本当に……二人とも、いいえ。四人とも素晴らしいバトルを見せてくれました。純粋に、一人の観客として楽しませていただきましたよ」
「マサル選手……残念でしたね」
「一ファンとしては、ですね。ただ、彼は私と似た境遇でありながらも、私とは違う答えを得て……私の期待を遥かに上回る姿を見せてくれた。もちろん、彼だけではありません。ユウリくんも、ホップくんも、マリィくんも……次世代を担う若き才能達が開花する瞬間に立ち会えて光栄です」
だからこそ本当に、本当に残念ですよ。ビートくんがこの場にいないことが。本当ならば、ビートくんも彼らとしのぎを削り、切磋琢磨し合う関係になれたはずなのですが。いやはや全く、世の中とはままならないものです。
「……心苦しいですね」
「では委員長、おやめになられますか?」
「冗談が上手いですねえオリーヴくんは。私はもう、止まれないところまで来てしまいました。それに、
「ですが、そんな愚かでおこがましい考えも全ては───」
「ガラルの未来を守るため」
そのためならば、私が後世に語り継がれるような汚名を被ることなど、些事に等しい。
カントーのレジェンド達にやイッシュの英雄、かの宗教団体の王だった男、ホウエン元チャンピオン……
いえ、もしかすると……彼が、いや彼女が……。
私の期待を
こんなにも、罪深い私でも。
「うおおおおおおおおんっっっ!!! よくやった……!! よくやったわマサル、インテレオン!! 本当によく頑張った!! 感動した!! さすがはバウスタジアムの後継者ね!! あんた達の仇は私が必ず取ってあげるわ!!」
「おっと。何を言うとんじゃルリナさん。マサル選手のファーマー力……ターフタウンにこそ必要な人材じゃ」
「もう二度と、絶やすことのない、消えることのない闘志をその身に宿した。まさに、炎のジムリーダーに相応しい」
「何を言っているんですかみなさん。あのバンギラスとの絆を見ていなかったのですか? ロックの魂を受け継ぐものとして、彼は僕と岩タイプを盛り上げていくんですよ!」
「ゴ、ゴースト……!!」
「マサルが氷タイプの一体でも持ってたらよかったんだがねぇ」
「スパイクタウンには来るんじゃねえ!! 絶対来るんじゃねえぞ!! フリじゃねえからな!!」
「違うピンクの波動を目覚めさせてたみたいだが、後継者が見つかった以上あたしもいらないねえ」
ルリナ達め、好き放題言いやがって。まあ、気持ちはわからねえでもない。あれだけのバトルを見せられて……いいや、魅せられて、だな。気持ちがどうしようもなく昂っちまったのは俺様もなんだから。
つっても、マサルの意思を無視して外堀を埋めにかかろうとするのはどうかと思うけどな。そもそも、あいつの性格はジムリーダーに向いてねえだろ。興行や勝負の世界における深い理解、ポケモン達との信頼関係……マサルが持っているものだけ箇条書きにすりゃあ後継者としてこれ以上ないくらいの人材だが……。
あいつ絶対、一か所でじっとなんかしてられねえだろ。フラッと他の地方に旅に出て数年帰ってこないなんて事態になりそうだ。で、結婚報告がてら現地で捕まえた嫁さんを連れて帰ってきて……おい、大丈夫かユウリ?
俺様知ーらない。
……んで、ユウリに対して、ルリナ達が
まあ、そんなことを一切気にせず、良い意味でも悪い意味でも空気を読まねえチャンピオンがここにいるがな。
「マサルが負けて気落ちしてんじゃねえだろうな、ダンデ」
「気落ち? 馬鹿なことを言うなよキバナ。むしろ逆だ。俺が最も期待していたマサルは、俺の期待以上の成長を、強さを見せてくれた。そして、そんなマサルをユウリは打ち破った。燃えない理由がないだろう」
「それを聞いて安心したぜ。腑抜けたお前に勝っても何の意味もないからな」
「俺と戦うその前に……キバナ、君はユウリに勝てるのか?」
こいつは本当に、よくもそんなことを正面から堂々と……。
「俺様以外の、誰があいつに勝てるっつーんだ」
「私が勝つに決まってるでしょ! 組み合わせ発表はまだ!? もちろん一回戦は私とユウリよね!? じゃないと暴れるわよ!! それに、ユウリだけじゃない! ここにいる全員私が押し流してやるんだから!」
テーブルをバンバン叩きやがって……ゴリランダーかあいつは。とてもトップモデルとは思えねえ。確かにガキの頃から
「ユウリちゃんはこのセミファイナルトーナメントで多くの経験をした。マサルくんとの一戦で、ポケモンバトルの怖さを、勝負の世界の厳しさを知った。彼女は絶対に、もう
それまで口を挟まず、静かに成り行きを見守っていたダイゴさんに全員の注目が集まった。
「明日のファイナルトーナメントは───荒れる」
その言葉に、室内が静まり返る。その意味を、ダイゴさんの言葉の意味を全員が理解していて、この人が実際に、
「本当に、
そんなダイゴさんの隣でトウコが……
そうか。二人の目には、そう見えているんだな。
俺様が一度も辿り着けていない場所に、その頂に立った二人には、そう見えているんだな。
上等だよ。
勝つのはダンデでもユウリでも、ましてや他のジムリーダー達でもねえ。
頂点に立つのは、俺様だ。
「そういえば、キバナ」
「あん?」
人が決意を固めている隣で、ふいにダンデが尋ねてきた。
「君はマサルを、後継者にしたいとは思わないのか?」
何を聞いてくるかと思いきや……俺様がマサルを弟子にしないのかって?
確かに、天候操作には目を見張るもんがあった。戦い方も、考え方も、バトルへの向き合い方も俺様好みではある。
だけどな。
「
俺様の言葉に、ダンデは笑った。
そんなダンデを尻目にふとそこで、室内を見回して気付く。
……サイトウのヤツ、どこ行った?
「マリィ……サイトウちゃん」
控え室に戻ると二人の女の子が、私服に着替えたマリィとユニフォーム姿のサイトウちゃんの二人が俺を待っていた。二人とも別の場所で観戦してたはずなのに、わざわざ来てくれたのか。
「マサル、お疲れ様。ええ試合やったね。何度も鳥肌が立つくらい痺れたよ」
「おう、ありがとな」
マリィが笑顔でタオルを差し出してくれたので、受け取って顔を拭く。めっちゃ良い匂いするなこのタオル。……うん、ちゃんと洗って返そう。でもその前に「マリィが俺のためにタオル用意してくれたんすよ」ってネズさんを煽り散らかしてやるか。
「ま、マサル……その……」
マリィとは対照的に、サイトウちゃんは気まずそう……というか、俺にどんな言葉をかければいいのかわからないって感じだな。そりゃあそうだ。良かれと思って敗者にかけた言葉が逆に追い詰めることになってしまう……俺はそれを、嫌というほど知っている。
「ごめんな、サイトウちゃん。
ラテラルスタジアムで交わした約束。「チャンピオンカップで会おう」という、約束。
俺はそれを、果たすことができなかった。
「そして改めて、ありがとう。あの時も言ったけれど、サイトウちゃんがいなければ、俺がとうの昔になくしたと思っていたものを、もう一度取り戻すことはできなかった。サイトウちゃんがいなければ、今の俺はここにいなかった。サイトウちゃんがいたから、俺は俺で在り続けることが……これからも戦い続けることができる」
俺はサイトウちゃんの前に立ち、彼女に手を差し出す。
「本当に───ありがとう」
俺の言葉に、サイトウちゃんは涙を必死でこらえるように唇をぎゅっと嚙み締め、両手で包み込むように俺の手を握った。
「私の方こそ……ありがとう、ございます。あなたの存在に……どれだけ心が躍り……あなたの戦う姿に……どれだけの感銘を受けたか……。感謝するのは……私の方です……。マサル……あなたを、あなたを推薦したことは……私の一生の、誇りです」
彼女の言葉に、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
本当に、よかった。
このジムチャレンジに参加できて……この場所に立つことができてよかったと。
心の底からそう思う。
「思ったよりも落ち着いとーね。もうちょっと落ち込んでたらマリィがよしよししてあげようと思っとたに」
「しまった。サイトウちゃんみたいにびーびー泣けばよかったか……」
「びーびーは泣いてませんよっ!」
サイトウちゃんが涙目でぷんすかしながら抗議の声を上げる。そんな彼女の様子に思わず笑ってしまうと、マリィも俺につられたように頬を緩ませた。
「正直言えば、悔しいさ。今すぐリベンジしたいくらい、死ぬほど悔しい。でもな、反省点はめちゃくちゃあっても……俺は微塵も、何一つだって、後悔なんてしちゃいねえ。そんなことをしちまえば、あいつらに……俺の期待に、俺の想いに、全力以上で応えてくれたポケモン達に申し訳が立たないからな」
「あの時ああしておけばよかった」「こうしておけばよかった」と後悔することと、反省し、己の過ちを次に活かそうとすることは全く異なる。もちろん、負けたこと自体に対する悔しさはある。だけどそれ以上に、確かな手ごたえを感じていた。
俺の力は、頂点に届きうる、と。
「今すぐに、とはいかない。だけどな……必ず、必ず俺が───頂点に立ってやる」
二人を前に、力強く宣言する。今日の敗北を糧に……いや、今日の敗北だけじゃねえ。これまでの経験全てを、これからの経験全てを糧にして這い上がってやるからな。
「素晴らしい意気込みです。やはり、私達の目に狂いはなかった……!」
控え室のドアが開き、いきなり誰かが入ってきたかと思うと……そこにいたのはいつぞやのでんT会社の美人なお姉さんだった。今日もおっぱいが大きいですね。
「ご無沙汰してます」
「エンジンシティ以来ですね。試合、観戦させていただきました。あの日にお会いした時より、一回りも二回りも大きくなられて……いたく、いたく感動いたしました!」
お姉さんが興奮気味に近寄ってきて俺の手を両手で握る。ちょいちょいメールとかで連絡は取り合ってたけど、会うのは久しぶり……つってもそこまで昔じゃないな。いやでもエンジンシティでカブさんと死闘を繰り広げたのが遠い昔のように感じる。
「社長も大変興奮しておりました。興奮しすぎて社長室の花瓶を割ってしまうくらいに」
どんだけ暴れてんだよ。
「本来ならば社長も現地での観戦を希望していたのですが、何分多忙な身……この日のために全オフィスのモニターを最新の物に入れ替えるだけにとどまりました」
相変わらずとち狂ったことやってんな。
「失礼。話がそれてしまいましたね。本日お伺いした理由はマサル選手に敬意と感謝を伝えるためだけではございません。マサル選手のこれまでのご活躍……そして、
「これからの……って、俺のチャンピオンカップは今日で終わりですよ?」
「ですが、これで
そっすね。むしろこれからが、ポケモントレーナー人生の本当の始まりだと思う。
「特にマサル選手の行動を制限するつもりはございません。あなたは自由に振る舞ってこそ、その真価を発揮する。ただ、時折弊社の新商品を着用して各地で活動していただければ幸いです」
「社長の暴走でこれ以上変な商品を作らないでくださいね」
「前向きに努力することを検討いたしましょう」
政治家の信用できない常套句だろそれ。……まあいいや。でんTよりも変な服が誕生することはないだろう。多分。
「その内お願いしようと思います。一年後か二年後……力をつけて世界各地を旅しようと思っていますので」
「それは素晴らしい! 旅の資金援助はお任せください!」
一番ネックだった資金問題がこれで解決したな! もしかすると、旅をする時にへんてこな服を着せられるかもしれないけど……そのくらいは甘んじて受け入れよう。もうすでにガラルででんTを着ている姿が全国放送されてるんだから。
「そっか……マサルは旅に出るんやね」
「マリィも一緒に行くか?」
「ん、ん~……魅力的、すっごく魅力的なお誘いやけど、まずはスパイクタウンを復興させんといかんけんね」
だよな。それに、マリィは来シーズンからスパイクタウンのジムリーダーになるから色々忙しいだろうに。ま、今すぐって訳じゃないし、追々考えりゃあいいか。
「武者修行の旅……いいですね! 私もオフの間は『ヨロイ島』で己を鍛えようと思っています!」
マスタードさんの所か。サイトウちゃんが言うように、それもありだな。連絡先は教えてもらってるし、何よりガラルのレジェンドの実力を肌で感じてみたい。
……その前にサイトウちゃんはチャンピオンカップだな。
「お疲れのところ失礼いたします。マサル選手、少々お時間よろしいでしょうか?」
そんな風に四人で盛り上がっていると、控え室のドアがノックされる音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。返事をするとドアが開かれ、その向こう側に立っていたのは……いつぞやの大手メディアのインタビュアーとカメラマン。確か、ミチさんとテルさんだったか?
「どもども。お久しぶりです。バトル後のインタビューですか?」
「ええ、大変恐縮ではございますが……少しだけ、お時間をいただけますでしょうか?」
「俺の所でいいんです? ユウリの方が
「ユウリ選手の元へは別のスタッフが向かっております」
なるほど。あいつ一人だったらそれは愉快なことに……いや、ホップがいるだろうから放送事故にはならないか。運の良いヤツめ。
「大丈夫かユウリ、顔が赤いぞ?」
「あ~う~……ど、どうしようホップ~! バトルが終わってから心の中がぽわぽわしてきゅーってなって全然落ち着かない~っ! にゃ、にゃにこれ何これ~!? こんな顔じゃ取材なんて受けられないよぉ~! 助けてホップ~!」
「(さっき全国放送で雌顔を晒してるから)大丈夫だぞ! (マサルが)しっかり責任取るからな!」
「では早速、インタビューに入らせていただきます。失礼にあたる質問であることは重々承知しておりますが、ズバリ聞きます。ユウリ選手とのバトル……勝敗を分けた要因は何だったのでしょうか?」
お、本当にズバリ聞いてきたな。まあ、そのくらいストレートに聞いてくれた方が俺としてもやりやすい。別にこの程度で気分を害するような性格でもないしな。……ってか、その道のプロならインタビューする対象の性格くらい把握済みだろう。
「正直、曖昧な表現になってしまって申し訳ないのですが……一番の要因は『強さ』だと考えています」
「『強さ』……ですか?」
「はい。ただ、勘違いしないでいただきたいのは……俺のポケモン達がユウリのポケモン達に劣っていたという訳じゃない。俺の実力がユウリに劣っていた……
そう。俺には確信があった。あいつの背中を……あの人達の背中を掴んだという確信が。俺の牙が、あの人達の喉元に届きうるという確信が。
「俺も、ユウリも、ポケモン達も、100%以上の力を出して……持てる限りの力をぶつけ合いました。そして、最後の結果に至るまでの積み重ね……バトルでの、旅を通しての、これまでの
そういう意味での「強さ」だ。
「あいつは天才だから」とか「あいつのポケモンが強かったから」とか、決して、そんな単純な話じゃない。
確かに、ユウリの「ポケモントレーナーとしての才能」は俺を大きく上回っている。それは紛れもない事実だ。だけど、それが勝てない理由にはなりえない。絶対に。負け惜しみにしか聞こえないだろうが、ユウリが俺にはないものを持っているように、俺もユウリにはないものを持っている。
現に俺は、ユウリにあそこまで肉薄した。
ジムリーダー達が手も足も出なかったユウリに。
マリィすらをも圧倒してみせたユウリに。
俺はあそこまで肉薄した。俺はあそこまで追い詰めた。
結果
という正直な思いを、熱い感情をミチさん達は静かに聞いてくれていた。
「なるほど。全ての積み重ね……ですか」
「反省点や落ち度は多々ありますけどね。そういうのを分析してあーだこーだ言うのは専門家にお任せします」
ミチさん達が聞きたいのはきっとそういうことじゃない。今の俺の、今しか出せない、俺の溢れんばかりの感情を多くの人に伝えたいはずだ。だから俺も、自分の気持ちを、言葉を、何一つ偽るつもりはない。
「マサル選手だけでなく、ユウリ選手、ホップ選手、マリィ選手……このジムチャレンジに参加した全ての選手達が、多くのものを積み重ね、多くの努力を積み重ね……挑んだ。そして、これから先も色々なものを積み重ねていくことでしょう。その果てに、自分の夢や理想を掴み取ることができる」
「……
「酷く重みのある、厳しいお言葉ですね」
「ミチさん、俺はね……『がんばれば必ず夢は叶う』とか『努力は必ず報われる』なんて、そんな無責任なことは言えない……言いたくないんです。だって、世界には報われない努力が溢れていることを、夢半ばで諦めるしかない現実を、俺は知っているから」
あくまでも、努力や積み重ねというものは、夢を叶える可能性を、理想を掴み取る可能性をゼロから引き上げるための
それが、現実。
「だけど」
そんな現実が目の前に立ちはだかろうとも、どうしても伝えたいことが、ある。
「誰もが
誰もが平等に持っている、誰もに平等に与えられている、権利。
この時俺は……いつだったか、誰かの言葉を思い出していた。
「世界は平等じゃなくて平等だ」と。
ああ、まったく。
その通りだよ。
それでも俺は決めたんだ。そんな世界で生きることを決めたんだ。
「俺は生涯……ポケモントレーナーとしての生涯を終えるその最後の瞬間まで、挑戦し続ける」
二度と絶やすことのない炎を、消えることのない闘志を抱きながら。
「……では最後に、マサル選手が今、最も強く心に抱いていることをお聞かせください」
俺が今、最も強く心に抱いていること……か。
そんなもんは、決まってる。
「次にあいつと……ユウリと戦う時にどう勝つか───それだけだ」
俺の、十四年以上の歳月を費やした長い長い挑戦が終わりを告げ。
本当の旅が───始まる。
ガラルポケモンリーグ・チャンピオンカップ
ファイナルトーナメント
一回戦第一試合
No.227 ユウリ ─ No.193 サイトウ
俺達の───チャンピオンカップは終わらない!!
そして次回、ローズタワーにカチコミをかけ───ません!
マサル「ダンデくんがローズ委員長と会合? 子供の俺達が出る幕じゃないな! ヨシ!」
ユウリ「そんなことよりホテルのバイキング……カレーだ!」
ホップ「腹を満たす方が大事だぞ! 兄貴にはメールしておくから大丈夫だ!」
マリィ「……ほ、本当にあたしも行っていいの?」
ネズ「遠慮することありませんよマリィ。さて、チャンピオンの財布を空にしてやるとしますかぁ!!」
マサル「ソニアちゃんは自腹な!」
ソニア「なんでだよ!?」
本作の登場人物の性格を考えたら絶対こうなるので、ローズがダンデにねっとりと絡んでいる間、ホテルで豪華なバイキングを楽しむ展開になるでしょう。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
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