【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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キミに───

 着替えとポケモン達の回復を終えてスタジアムのロビーに出ようとすると、リーグスタッフに関係者用の別出口から出るように案内された。どうもロビーは俺達を出待ちしている観客でごった返しているらしく、混乱を避けるためとのこと。自分で言うのもなんだけど、どちゃくそ盛り上がったバトルだったからな。

 

「……なんか有名人みたいやね、あたし達」

「ネット掲示板だけは絶対見ないからな!」

 

 どーせ好き放題書かれてるに決まってる。まあ、あんなのは便所の落書きみたいなもんだから気にするだけ無駄だ。……サイトウちゃんは真に受けて顔真っ赤にしてレスバしそうだけど。

 

 そんなくだらないことを考えながらマリィと雑談していたら、ホップと……ホップの背中に隠れるようにこそこそとしているユウリがやってきた。

 

「……何やってんだお前?」

「あ、あ、ま……ましゃるぅ……」

 

 借りてきた猫みたいになってやがる。こういうおどおどした所を見ると、出会ったばっかのことを思い出すな。懐かしい。

 

「なーに雌顔晒してんだ。どうせインタビューで取り返しのつかないあほなこと喋ったんだろ」

「だ、だ、だ、誰が雌顔かぁーーーっ!! ふ、ふんっ! ユウリちゃんの完璧な受け答えにみんな度肝を抜かれてたからね!」

「終始だらしなく笑ってたんだぞ」

「なんでバラすのーーーっ!?」

 

 ユウリが「キシャーッ!!」と尻尾を踏まれた猫のように暴れ散らかそうとしていたので、捕まえるために一歩近づくとユウリは一歩後ろに下がった。

 

「あん?」

「す、ストップ!! マサル、ストップ!!」

 

 もう一歩近づくと、ユウリはさらに一歩後ろに下がった。……ほう?

 

「だ、だめっ! それ以上近づいたらだめ───にゃああああああああああっ!!??」

 

 ユウリが背を向けて逃げ出そうとしたので後ろから抱きしめるようにしてとっ捕まえてやる。この野郎。普段は意味もなく抱き着いてくるくせにこういう時だけ逃げ出そうとしやがって。

 

「俺に身体能力で勝てるはずねえだろうが」

「あ゙ーっ!! あ゙ーっ!! あ゙ーっ!! あおーんっ!! ぎゃおおーーんっ!! マリィーーーっ!! 助けてーーーっ!!」

「……幸せになりんしゃい」

 

 しばらく暴れていたユウリだったが、ようやく観念したらしく腕の中でおとなしくなった。なんで急にこんなおかしな様子になってんだ? ……割といつものことか。気にするだけ意味ねえな。

 

「うー、うー……」

「抵抗すんのをやめたかと思ったら……ちゃんと自分の足で歩け」

「うにゃおぉん……」

 

 人の言葉を失くしたようなので、俺はユウリを抱えたまま引きずるように運んでやることにする。こんなんで明日のトーナメントは大丈夫なのかよ? まあ、バトルになったら切り替わるか。多分。

 

「やあ、待っていたぜ四人とも」

 

 通路をしばらく進んでいくと、出口付近でダンデくんと遭遇した。迷ってたのか? いや、俺達を「待っていた」って言ってたあたり本当に待ってたんだろうけど……んん!? あのダンデくんが迷わずに待っていただと!? やばいな、明日はきっと何かとんでもないことが起こるに違いない。

 

「感動した……。君達四人のバトルを見て、心が震えるくらいに感動したよ。俺が忘れかけていた大切な……本当に大切な感情を思い出せた気がする。今日ここで、君達の旅の集大成を見られたことを、俺は一生忘れない」

 

 吹っ切れたような笑顔でダンデくんはそう言った。なんつーか……懐かしい顔してんなぁ。チャンピオンになる前の、小さい頃によく見た笑顔だ。……まさか、ここにきてダンデくんまで覚醒したんじゃねえだろうな。漫画の主人公かよ。

 

「だからこそ! 俺達は持てる力の全てをチャレンジャーにぶつける! 俺の前に立つチャンジャーが……ユウリ。君であることを心から願うぜ!」

「は、はいっ!」

 

 お? ユウリもようやく人の言葉を取り戻したか。俺に抱えられながらっていうしまらない体勢だけど。

 

「そうだな。だけど、今日は激闘続きだったしとりあえずホテルで体を休めたいぞ」

「その前にエネルギー補給だ。何か食べに行くとしよう」

「それはいいけど……兄貴は味にこだわらないからなぁ」

「ソニアちゃんの手料理に対する感想が()()だもんな」

「ん? ソニアの料理は手早く食べれて俺好みだぜ?」

 

 味を褒めろ味を。昔っからこうだからなダンデくんは。あんまり悠長に構えてるとソニアちゃんがどこぞの色黒夢女子メイカーに寝取られるかもしんないよ? そもそもキバナさんはソニアちゃんともジムチャレンジ時代の同期で最近はブラックナイトの調査でナックルシティの宝物庫にも頻繁に出入りしてて……。

 

 うむ。いざとなったらソニアちゃんの尻を蹴っ飛ばしてやるか。「ハロンの気ぶりじじい」とは俺のことよ。

 

「よし、それじゃあ『ホテル・ロンドロゼ』のレストランでディナーをご馳走しよう。俺は用事を済ませてから行くから、先にホテルに戻っていてくれるか?」

 

 超一流ホテルの高級レストランでご馳走してくれるなんてさすがチャンピオン。ただ一つだけ懸念事項を挙げるとすれば、ダンデくんがスタジアムからホテルまで無事に帰りつけるかってことだな。……最悪、リザードンに運んでもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

「うえええええん。感動した……!! 感動したよ!! みんなよく戦ったわね!! もうね……私の中ではね……!! みんな優勝よ優勝!! うええええええん!!」

 

 ホテルに到着してロビーに入るなり、ソニアちゃんが駆け寄ってきたかと思うと鼻水を垂れ流しながらびーびー泣き始めた。うーん、この感情ジェットコースター女。感動してくれたのはうれしいけど絵面が……というか顔が酷い。

 

 しょうがないのでティッシュを渡してあげると、思い切り「チーン」と音を鳴らしながら鼻をかんでいた。乙女の尊厳なんてあったもんじゃないけど、これがソニアちゃんの良いところだよな。

 

「ソニア、化粧が崩れて見るも無残な顔になってるぞ」

「うっさい! 化粧が崩れるくらい何よ! 遺跡調査やってたら泥だらけになるなんて日常茶飯事じゃい!」

「遺跡調査といえば……ソニアちゃん、ブラックナイトについてなんかわかった?」

「ふふん。聞いて驚きなさい! 英雄と共にブラックナイトを鎮めたあの剣と盾のポケモン……その名前がわかったわ! いやぁ、ナックルシティの宝物庫や書庫を漁った甲斐があったね!」

 

 まじですごい大発見してるな!? 普通にガラルの歴史がひっくり返るんじゃねえの!?

 

「まだ色々と裏付けは必要だけどね。ただ、この一件……ガチの王族が絡んでそうで厄ネタの匂いがプンプンするんだよ~」

「……ソニア。消されるぞ?」

「お前は、知り過ぎた」

「物語の序盤で黒幕の正体に気づいて真っ先に殺されるやつ!!」

「ちょっとは私の心配しろよー!! ポケモンの名前教えてやらねーぞー!?」

 

 ソニアちゃんのその言葉に俺達はあっさりと掌を返す。

 

「さすがだぞ! ガラルの真の伝説を解き明かしたんだな!」

「俺はね。ソニアちゃんは昔からやればできる子だって信じてた」

「美人な女博士! かっこいいな~憧れちゃうな~!」

「わはははは! もっと……もっと褒め称えなさい若人達!」

 

 こんな風にロビーで俺達がぎゃーすか盛り上がっている中、マリィは俺達から距離を取って他人のフリをしてモルペコを愛でているのだった。

 

 ちなみに、件のポケモンの名前は「ザシアン」と「ザマゼンタ」と言うらしい。なんでも、姉弟ポケモンだとかなんとか。タイプは何になるんだろうな。ガラルっていう土地柄を考えたら鋼が入ってそうだけど……ダイゴさん大歓喜。その内ダイゴさんはガラルに別荘建てそうだな。

 

「あ、パパだ! パパ~!」

 

 ソニアちゃんを適当におだてて褒めていると、ユウリがパパを発見し一目散に駆け寄っていく。無事にガラルに帰ってこれたみたいだな。よかったよかった。

 

「あの人がユウリのお父さんなんやね。なんか、えらい疲れとるよーな……」

「ユウリのお父さんはすごいんだぞ! 行く先々で地方を揺るがす大事件に遭遇して爆発オチに巻き込まれてるんだ!」

「……漫画の主人公みたいやね」

「漫画の主人公と違うところは、『現地でヒロインが生えてこないことくらい』って言ってたな」

「既婚者やろ! 生えてくるほうが問題やん!」

「ユウリのお父さんが帰ってきたってことは、ガラルでも何か起こるに違いないぞ」

「明日のファイナルトーナメントが中止になるくらいの事件が起きたりしてな!」

「笑いごとやなか! そんなほいほい事件が起こるわけなかろ。色んな地方の凄腕トレーナーが集まってるんやけん」

 

 いや、逆にそんな各地方の主人公連中が集まっているからこそ何か起こるわけで……起こったところで面子を考えたらどうにでもなるわな。世界征服を目論む悪の組織が急にぽっと湧いてきたところでレッドさん達に勝てると思えないし。っつーか、あの人達に勝とうと思ったらモンスターボールを封じるくらいの無法じゃないと無理だろ。

 

 その内どっかの悪の組織がやりそうな展開だな。主人公達のボールが封じられてポケモンを出せない! そこへ伝説のポケモンが救援に……! なーんてな。

 

 まあいいや。とりあえず疲れたからダンデくんとの約束の時間まで風呂入って仮眠する!

 

 

 

 

 

 

「遅い! おかしい! どんな約束も守る兄貴なのに……チャンピオンになったのも俺との約束だったんだぞ! 飯の時間を守るくらい全然余裕だよな?」

 

 待ち合わせの時間を三十分以上過ぎてもダンデくんはホテルに現れず、ホップは落ち着かない様子でロビーをうろうろしている。

 

「……迷ったか。もうダンデくんは発信器を身体に埋め込んだ方がいいな」

「出所した犯罪者みたいな扱いね!?」

「でもなソニアちゃん。ダンデくんの居場所を常に把握できている方が公共の利益に繋がると思うんだよ」

「ダンデくんのプライバシーは!?」

「ソニアちゃんがもしダンデくんの彼女だったら、居場所がわかってる方が安心できるだろ?」

 

 俺の言葉にソニアちゃんは満更でもないような表情を浮かべた。そういうとこだぞソニアちゃん。

 

「……(二人が付き合うのは)何十年先になるかわかんないけどな!」

 

 ソニアちゃんに尻を蹴られた。痛い。そんなことするならはよ告白せんかい。でもダンデくんってソニアちゃんに「好き」って言われても「ああ。俺もソニアのことは(友人として)好きだぜ」って返事しそうなんだよな。可哀相なアンジャッシュ。

 

「相変わらずノイジーな連中ですね。あれだけのバトルを繰り広げたのと同一人物とは思えませんよ」

「……だってさマリィ」

「あんたのことやろ!!」

 

 ソニアちゃんで遊んでいたら、相変わらず気だるげな表情で猫背なネズさんがやってきた。

 

「チャンピオンなら来ませんよ。ローズタワーに行きましたからね」

「ローズタワー? なんでだ?」

「さあ。委員長に呼ばれたとは言っていましたが、俺もモノレール乗り場で会っただけですから詳しいことは聞いていません。ただ、約束の時間に遅れることをあなた達に伝えてほしいと」

 

 ローズ委員長に呼ばれたのか。それなら仕方ないな。ってか、それくらいならメールしてくれよ。わざわざジムリーダーのネズさんをパシらせるって……。まあいいか。それよりも俺は腹が減ったんだ。

 

「ローズ委員長との会合か。子供の俺達が出る幕じゃないな、ヨシ!」

「腹を満たすほうが大事だぞ。先にレストランで食べてるとするか」

「高級ビュッフェが私を呼んでいる! ガラル中のカレーを制覇することが私の使命!」

「チャンピオンを微塵も気にかけてない反応やね!?」

「……ダンデくんだからね。寝坊ばっかりするし、むしろ時間通りに行動する方が珍しいよ」

「仕方ありませんねえ。ダンデの財布を空にしてやるとしますか!」

「ソニアちゃんは自腹な?」

「なんでだよ!?」

 

 というわけで、ダンデくんは放っておいてみんなで先にご飯を食べることにします。そういや思い出したけど、ローズタワーの屋上って確かダイマックスできるバトルコートがあるんだよな。これはダンデくんとローズ委員長の間で熱いダイマックスバトルが繰り広げられているに違いない!

 

 ……そんなことは置いておくとして、とりあえず飯だ飯!

 

 

 

 

 

 

「ユウリ……カレー何杯食べると?」

「まだ三杯目だよ。レシピを丸裸にするまで私の挑戦は終わらない……!!」

「お前は一体何と戦ってやがるんですか?」

 

 

「……ウチで作ってるヨーグルトの方が美味いな」

「牧場のと比べたらダメでしょ?」

「ソニアは野菜ばっかりだぞ。年を取ると肉を食えなくなるって言うもんな」

「そうそう。最近脂っこいものがしんどくなって……って!! 誰が年増じゃ!!」

「俺はなんも言ってねえだろ!?」

「ふんっ! 美と健康のためよ。麗しいお肌を保つためには食生活から気を付けないとね」

「ソニアちゃんは(ルリナさんに負けるけど顔は)美人だもんな」

「そうだな。(中身は残念だけど)美人だぞ」

「……なんか素直に喜べないんだけど」

「マサルマサル!! 私とソニアちゃん、どっちが可愛い!?」

「マスコット的な意味でならお前の圧勝だな」

「ふ、ふへへ~♪」

「喜ぶような発言じゃありませんよ。何なんですかこいつら……」

 

 

「マリィ。来年からスパイクタウンのジムリーダーになるってことは、ユニフォームも新しくするのか?」

「うん。一応そのつもり。せっかくやからデザインも新しくしたいしね」

「可愛いのにしよう! 可愛いの! ゴスロリ系かふりふり魔法少女系!」

「絶対そんなのにせんけんね!!」

「そういや、ユニフォームって全部パンツタイプだよな。一人くらいスカートタイプのユニフォームでもいいんじゃねえの?」

「そうだな。きっとマリィに似合うと思うぞ」

「私がチャンピオンになったらあらゆる権限を使ってスパイクタウンのユニフォームを私好みのデザインにしてやる!!」

「……ユウリ。お前だけは絶対にチャンピオンにさせるわけにはいかないですね」

「あ、それならルリナのユニフォームも変えちゃいなよ。あの子が可愛い系全開の服を着ることってあんまりないのよね」

「うーん……ルリナさんのユニフォームはえちち度と美のバランスが完璧だから手を付けたくないんだよね~」

「お前は何目線で言ってやがるんですか」

 

 

「みんなすまない! 遅くなった!」

「本当に遅いぞ兄貴! ローズさんと何を話してたんだ?」

「……()()()()()とか色々だ」

「ダンデくん。もうみんなデザート食べちゃってるよ」

「ソニア。君は確か『最近ウエストが気になるから甘いものは控える』と言っていなかったか?」

「い、遺跡調査でいっぱい歩いたから相殺できるもん。実質カロリーゼロ!」

「ソニアちゃん、年末も同じようなこと言ってたよな。『カロリーは年をまたがない!』とかなんとか」

「でも年明け早々ダイエットしてたぞ」

「う、ううううっさい!」

 

 ユウリがお腹いっぱいになって眠くなり始めた頃にようやくダンデくんがやってきた。思ったより長い時間ローズ委員長と話してたんだな。ただ、ホップに話の内容を聞かれて一瞬だけはぐらかすような反応してたけど……大人の話だろう。下手に首を突っ込むこともないな。

 

 と、思ってたのに。

 

「マサル、二人で話がしたい。少し時間をもらえるか?」

 

 レストランからの帰り際、他の誰にも聞かれないようにダンデくんは俺にそう言った。

 

 うん。嫌な予感しかしねえ!

 

 

 

 

 

 

 一度部屋に戻った俺は、他のみんなにばれないようにホテルを抜け出してダンデくんと合流し、そのまま外を歩き始めた。俺かダンデくんのどっちかの部屋だと誰か来た場合に誤魔化すのが面倒だからな。

 

「答えを見つけられたみたいだな」

 

 歩き始めるなり、ダンデくんはそう言った。

 

「このジムチャレンジを経て、チャンピオンカップを経て……多くの人と出会い、戦い、学び、君はその手で掴み取った。誰に言われたわけでもない、自分だけの答え……自分自身の力でたどり着いた答えを、君は一生忘れないだろう」

 

 人生が変わる瞬間、なんて大げさに聞こえるかもしれないが……今日、この日は間違いなく、俺の長い人生における転機だったと、はっきり言える。

 

 あの瞬間を。己の手で掴み取ったあの瞬間を。魂の高揚を。

 

 俺は絶対に忘れない。

 

「ただ、惜しむらくは……」

 

 隣を歩くダンデくんは、凛々しさの中にほんの少しの幼さと悲しみを交えた表情を浮かべていた。

 

「この舞台で()()、相まみえたかったぜ」

 

 その言葉に、鼻の奥がツンと痛くなる。確かに、俺がこの舞台でダンデくんと戦うことは叶わなかった。

 

 だけどな。

 

「いつか必ず、必ずその時は来るさ。俺とダンデくんが───ポケモントレーナーである限り」

 

 そう。今日という日は俺にとって始まりに過ぎない。これから先、何十年と続いていくであろうポケモントレーナーとしての、始まり。いつかどこかで、俺達の道が交わる時が必ず来る。

 

 そんな確信が、あった。

 

「ああ、そうだ……そうだな」

 

 俺の言葉に、ダンデくんは白い歯を見せて子供のように笑った。テレビじゃあんまり見せない表情だな。ガキの頃から見慣れた笑顔ではあるけれど。

 

「それとな、ダンデくん」

 

 もう一つ、言っておきたいことがある。

 

「ユウリはきっと───ダンデくんに勝つよ」

 

 あいつは俺との戦いで、ポケモントレーナーとしてのステージを一つ上げた。申し訳ないが、本気になったジムリーダー達でも今のユウリは止められないだろう。たとえ、他の地方ではチャンピオンになれる実力を持つキバナさんといえど、だ。

 

 おそらく、ファイナルトーナメントはユウリの独壇場になる。あいつは、それだけの力を持っている。

 

 ダンデくんの無敗伝説を終わらせるだけの力を。

 

 今のユウリは持っている。

 

「……そうか」

 

 俺の言葉を聞いたダンデくんの表情に、先程の見慣れた笑みはない。

 

 そこにあるのは。

 

「それは本当に、楽しみだ」

 

 チャンピオン・ダンデの姿。

 

 その姿に、安心感を覚えると共に悔しさがこみ上げてくる。

 

 その舞台に、()()立ちたかった、と。

 

 

 

 

 

 

「で、本題に入るわけなんだが……」

「くそっ! 良い感じの雰囲気で終わらせようと思ったのに!」

 

 やっぱりそうかよ! こんな話をするためだけにダンデくんがわざわざ俺を呼び出す訳がないもんな! さあ何だ? どんな厄介事だ? 面倒事だ? タイミング的にローズ委員長との会合が関係してそうだけど!

 

「今日、ローズ委員長と話したことについてだが───」

 

 おのれ!! 今日ばかりは自分の勘の良さを恨むぞ! 絶対ろくなことじゃねーじゃん。大抵の荒事はダンデくん一人でどうとでもなるのに……ってか、これまではそういう大人の事情に俺達を巻き込もうとはしなかったのに。

 

 つまり、俺に話をせざるを得ないほどの内容ってわけだ。

 

 んで、ダンデくんの話を要約すると……。

 

 ローズ委員長が千年先の未来を守るために明日のファイナルトーナメントを中止しようとしたらしい。

 

 うん、意味わからんな!

 

「エネルギー問題……俺も委員長と少し話をしたけど、そんなぶっ飛んだこと言ってんの?」

「あれは本気だった。委員長は本気で明日のトーナメントを中止するつもりだ」

「明日のトーナメントと千年先の未来に何の関係が……」

「それはわからない。わからない、が……委員長が明日、何かしらの行動を起こすことは確実だ」

 

 まじかよ。あのローズ委員長が……ガラルをこよなく愛し、ポケモンリーグの運営に誰よりも情熱を持っているあの委員長が……いや、愛と情熱が強すぎるが故、か。

 

 だとしても明日のトーナメントを中止する意味がわかんねえ。ダンデくんだって明日が終われば協力するって言ってんのに、なんでそこまで明日にこだわる?

 

()()()()()()()()()()()()がある、のか……?」

「おそらくそうだろう。あの委員長が何の考えもなしに行動するとは思えない。ファイナルトーナメントを中止にしてでも、優先したいことがあるのだろう」

「その事情を聞いては……?」

「いないな」

 

 だよな。

 

 くそがっ!! 「報連相」をちゃんとしろ!! 社会人の常識だろうが!! 意味深なことだけ言って困惑させやがって!! とんだ黒幕ムーブだなローズ委員長!!

 

 ユウリパパが帰ってきたから大事件が起こるとか冗談交じりで言ってたことが現実になりそうじゃねえか!!

 

 ……ふう、とりあえず落ち着こう。仮に何かあったとしても、今のガラルにはダンデくんの他にレッドさん達がいる。ってか、委員長もそれをわかってるはずだよな。解説として招いてるんだから、そこは当然織り込み済みのはず……。

 

 わかんねえ。あの人が何を考えてんのか全然わかんねえ。

 

「他の人はどれくらい気づいてる?」

「……キバナが委員長の動きを不審に思っていた節はある。他のジムリーダー達は、おそらく気付いていないはずだ。ポプラさんはよくわからない」

 

 さすがキバナさん。顔が良くて背が高くてバトルが強いだけじゃないな。ポプラさんは……気付いてそうだけど「これからの時代を担う若い連中が解決しな!」っていう魔人ブウ編の悟空みたいなこと考えてそう。で、最終的に「やれやれ……このあたしを動かすとはねえ……」って感じの大物ムーブしそう。

 

「ホップやユウリには……言えないよなぁ」

「ホップは隠し事が苦手だからすぐに顔に出る。それにユウリは余計なことに気を取られず、トーナメントに集中してほしいんだ」

 

 ソニアちゃんもホップと同じですぐ顔に出るからな。そこいくと身近に話せる相手が俺くらいしかいなかったわけで……。その信頼は嬉しい……嬉しいが! 俺の手に負える事態じゃねえよ。

 

「マグノリア博士は、ここ最近のマクロコスモスの動きが一部、どうもきな臭いと言っていた。特に、ナックルシティのエネルギープラント。機材の異常動作が頻発している、と」

 

 うへぇ。エネルギー問題を解決するって話だからそこは当然絡んでくるよなぁ。もしかして、最近パワースポット以外でダイマックス現象が確認されてたのも関係してんのか?

 

「それで、俺に何をしてほしいの?」

「今のところは頭の片隅に置いておくだけでいい。俺達だけで解決する……と言いたいところだが、どうも嫌な予感が拭えないんだ。最悪の場合は君にも動いてもらいたい」

「……ローズ委員長が何をやらかすかによるな。内容次第で俺の行動も変わってくる」

 

 連絡先を知っているダイゴさんやトウコさんへの連絡はどうするか……あの人達の主人公力を考えたら下手に細かく行動を指定する方がかえって逆効果になりかねない。ああいう人達は誰に何を言われなくとも常に最適解を導き出すだろうから、メールで「明日何かあったらご自身の判断で臨機応変に対応お願いします」みたいな感じでふわっと伝えておくか。

 

 何か起こっても、世界を救ったことがあるあの人達なら「あー、はいはいこの展開ね。よくあるやつ~」みたいな感じでさくっと解決してくれそうだ。

 

 うん。俺一人の力なんてたかが知れてるし、いざという時は全力で頼らせてもらいます!

 

 というわけで、ダンデくんから衝撃の告白を受け、俺達はホテルへの帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ホテルの自分の部屋に入るなり、俺はベッドにダイブする。とんでもねえ話を聞かされた。明日何事もなくトーナメントが無事に終わればいいんだけど……絶対なんか起こるよな。だってそういう世界だもの。

 

 まあいいや。とにかくユウリにだけは勘付かれないようにしよう。変なところで俺の内心を察するからなあいつは。

 

 うん、今は別のことを考えるか。これ以上この件について深く考えても、実際何かしらが起こってからじゃないとどうにも動きようがねえし。

 

 で、何について考えるかな。俺のチャレンジは終わったから、次にやりたいこと……世界の各地方をこの目で見て、この足で歩く、俺の旅について考えるか。

 

 とりあえず、すぐの出発ってわけにはいかない。でんTの会社が旅の資金を出してくれるとは言ってたけど、それ以外にも準備することはたくさんあるからな。早くても一年後、遅くとも二年後。まずはガラルの色んな所を回ってみて実力を身に付ける。ヨロイ島とかカンムリ雪原とか気になるところはたくさんあるし。

 

 で、準備ができたらどこから攻めるか……やっぱカロス地方かな。距離的にも近いし、せっかくメガストーンを手に入れたんだから、バンギラスをメガシンカさせてやりたい。ただ、パルデアのテラスタルも気になるんだよな。ナンジャモのジムにカチコミをかけてバトルに勝ったらでんTを着せてその姿を配信してえ。

 

 最後は絶対カントー地方のマサラタウン。オーキド研究所に乗り込んで博士にサインをもらおう。「かがくのちからってすげー! おじさん」もいればなおヨシ!

 

 今からすっげー楽しみになってきたな。レッドさんも言っていたように、この世界は俺の知らないことで、不思議なことで、楽しいことで溢れている。

 

 何の因果か、俺はこの世界で二度目の生を受けたんだ。だったら、後悔のないようにこの世界を満喫し、人生を謳歌してやる。

 

 あとは、()()()をどうするか───

 

 ベッドに寝転がりながらそんなことを考えていると、ドアがノックされる音が聞こえてきたので体を起こした。

 

「マサル~? いる~?」

 

 ドアの向こうから情けなさの混じった声が聞こえてきて、俺は思わず頬を緩ませる。

 

 ベッドから降り、ドアを開けるとそこにいたのは予想通りの人物……ユウリだった。

 

 寝巻に着替えたユウリは、枕を抱きしめながら不安そうな表情を浮かべて立っている。

 

「どうした、ユウリ?」

「あ……うん。その……なんか、マサルの顔……見たくなっちゃって……」

 

 恥ずかしそうに、目を泳がせながらユウリが見上げてくる。俺はそんなユウリの頭を撫で、部屋に招き入れてソファに座らせた。

 

「なんか飲むか?」

 

 尋ねると、ユウリはフルフルと首を横に振った。やたら縮こまっているユウリの隣に座ると、俺の肩にちょこんと頭を預けてくる。なんでこいつがしおらしくなってるのか……理由は一つしかないだろう。

 

「明日のトーナメント、緊張してんのか?」

「……うん」

 

 これまでのスタジアムでのバトルでは、緊張とは無縁の立ち居振る舞いを見せてきたユウリも、さすがに明日のファイナルトーナメントは別らしい。まあ、今日の俺とのバトルで敗北寸前まで追い詰められて、一発勝負の怖さや一瞬の油断が命取りになることを知ったからな。加えて、明日のジムリーダー達はジムチャレンジの時とは違って、本気のパーティーでかかってくる。いくらユウリの実力が飛び抜けているとはいえ、緊張はまた別問題だ。

 

「マサル~……」

「なんだ?」

「ぎゅーってして~」

 

 ユウリが甘えるような上目遣いで俺を見てくる。そんな様子に思わず笑ってしまいそうになりながらも、俺はユウリを抱きしめた。

 

「よしよしして~」

 

 お姫様の要望通り、ゆっくりと頭を撫でてやる。

 

 こうしていると、あの日のことを……エンジンシティでのことを思い出すな。

 

 カブさんとのバトルの前日、戦い方に行き詰まり、苦悩していたところにユウリがこうやって俺の部屋を訪れて、ユウリの一言で俺は光明を見出し、カブさんに勝つことができたんだ。

 

 あの時ユウリは、俺のことを助けてくれた。

 

「大丈夫だ、ユウリ」

 

 だから今度は、俺がユウリを助ける番だ。

 

「何も心配すんな。お前の不安がなくなるまで、お前が落ち着くまで……ずっとずっと、こうしててやるから」

「……うん」

 

 俺の腕の中にすっぽりと収まるくらいの、小柄な少女。どこにでもいるような、ごく普通の女の子。

 

 そんな少女が、世界でも稀有な才能と実力を持ち合わせている。だけど、才能と実力の大きさが、必ずしも精神の強さと比例するわけではない。

 

 そして俺は知っている。

 

 彼女が、ユウリが()()()()()ことを知っている。

 

「ユウリ。お前は、ダンデくんとは違う。ダンデくんとは違う力を、ダンデくんにはない力を、お前は持っている」

 

 ダンデくんに必要だったのは、頂点に立つ自分を打ち負かしてくれるかもしれない、対等な存在。

 

 ユウリに必要なのは、頂点に立つ自分を支えてくれる、心の底から信頼できる存在。

 

 俺にはそれがわかっていた。

 

 わかっていたからこそ、俺はユウリにとって、そういう存在で在り続けたいと思う。

 

 ただ俺は、そういう存在で在り続ける()()じゃない。

 

 俺は、お前と肩を並べ、お前を超える存在で在りたい。

 

 だけど、()()そうじゃない。

 

 今の俺は、そうじゃない。

 

 だからこそ、今だからこそ、俺はユウリに伝えたいことが……伝えなくちゃいけないことがある。

 

「なあ、ユウリ」

 

 名前を呼ぶと、ユウリが俺の腕の中でもぞもぞと動いた。

 

「俺さ、旅に出ようと思うんだ」

「……旅?」

 

 ユウリが尋ねてくる。

 

「すぐにってわけじゃない。一年か二年後……しっかり準備をして、世界をこの目で見て回ろうと思ってる」

 

 俺はそこで、ユウリの身体を離した。不思議そうな表情で俺を見上げてくるユウリを見て、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「だからな、ユウリ」

 

 そして俺は、ユウリの目を真っ直ぐに見てこう言った。

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に、世界を見に行かないか?」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 ユウリはきょとんとした表情で、ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返す。大事なことを伝えたはずなのに、なんともまあ間抜けな反応なことで。

 

 でも、そんなお前を俺は───

 

「いや、相手に答えを(ゆだ)ねるのはずるい、よな……」

 

 そう考え、俺はもう一度。

 

「ユウリ」

 

 彼女にもう一度。

 

 俺の思いを、言葉に乗せた。

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に、世界を見に行こう」

 

 

 

 

 

 

 ユウリに答えを委ねたくないくらいに、どうしようもないくらいに……俺はずっと、お前と一緒にいたいと思っている。

 

 思って()()()()、いる。

 

「あ……マサ、ル……」

 

 俺の思いに、ユウリは瞳が揺れ動き、頬を紅潮させていた。

 

 そんな姿が。

 

 俺以外の、誰も知らない彼女の姿が。

 

 どうしようもなく愛おしい。

 

「私で……いいの……?」

「お前がいいんだ」

 

 彼女の問いに、俺は迷いなく答えた。

 

「お前とずっと、一緒にいたいんだ」

 

 他の誰でもない、俺が。

 

 今までも、当たり前のようにずっと一緒にいたけれど……これからは、そんな当たり前の中に、ほんの少しの「特別」を。

 

 俺とユウリ、二人だけの「特別」を。

 

「ずっと?」

「ずっと」

「ずーっとずーーっと?」

「ずーっとずーーっと」

「ずーっとずーーっとずーーーっと?」

「ずーっとずーーっとずーーーっと」

 

 これから先、何があっても。

 

 俺はずっとそばにいる。俺はお前のそばにいる。

 

 繋いだこの手を。腕の中の温もりを。

 

 絶対に、離してやらない。

 

「ふえ……」

 

 情けない声と共に、ユウリの瞳に大粒の涙が溢れてくる。

 

「……何泣いてんだよ、ばか」

「だって……だってぇ……」

 

 彼女の答えを聞くまでもなく。

 

 彼女の涙の意味を尋ねるまでもなく。

 

 俺は彼女を理解していた。

 

 彼女の思いを理解していた。

 

 だから俺は。

 

 そっと彼女の涙を拭い。

 

 もう一度。

 

 強く強く彼女を抱きしめ───

 

 

 

 

 

 

 初めて彼女にキスをした。

 

 

 

 

 

 

すごいよ!! マサルくん

『キミにきめた』 




 ブラックナイト前夜にヒロインに愛の告白。

 マサル……お前、死ぬのか?

 次回、愛と勇気を武器に勝ち確ヒロインユウリちゃんがファイナルトーナメントで大暴れ。

 ですが、その前に……。

「重要文化財を破壊してジムチャレンジから追放された僕が妖怪婆の薫陶を受けてトーナメントに大乱入!? 妖怪婆の弟子になったことを後悔してももう遅い!!」

 次回、脳内ピンクヒロインVS脳内ピンク落ちわからせボーイ

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