【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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俺が憧れた君へ

『さあ、思わぬサプライズがあったものの、チャンピオンカップ二日目……いよいよファイナルトーナメントが始まります! ポプラ氏を除く七人のジムリーダーとセミファイナルトーナメントを勝ち抜いたユウリ選手。合計八人でのトーナメント! そして! このトーナメントの覇者にはガラルが誇る無敵のチャンピオン……ダンデへの挑戦権が与えられます!』

『ここから先のジムリーダー達は()()()()()()()()()()本気のメンバーでかかってくる。彼らに対してユウリがどういう立ち回りを見せるのか楽しみだな』

『実況席には引き続き、レッドさんとグリーンさんにお越しいただいております。本日もよろしくお願いいたします』

『ああ、よろしく頼むぜ』

『……よろしく』

『一回戦第一試合の組み合わせは……世代最強のポケモントレーナーにして無敗の超大型ルーキー! かつてここまでの挑戦者がいただろうか!? 純白のユニフォームに身を包んだ歴代最高峰のジムチャレンジャー!! 背番号227、ユウリ選手!!』

 

 ビートとのバトルを終え、ポケモン達を回復させたユウリが再びフィールドへ現れるとスタジアムは大歓声に包まれた。颯爽と歩く彼女には、先程ビートと会話を交わしていた時のような笑顔はない。チリチリと、空気が焼き付いてしまいそうなほどの張り詰めた威圧感を纏っている。

 

 誰もがその姿に、チャンピオンの影を見た。

 

『相対するはラテラルスタジアムの主にしてガラル空手の申し子サイトウ!! 決勝でユウリ選手と死闘を繰り広げたマサル選手をジムチャレンジに推薦したトレーナー!! 彼女も並々ならぬ思いを抱き、このファイナルトーナメントに臨んでいることでしょう!!』

 

 凛とした表情ながらも力強い足取りでフィールドを歩くサイトウ。静かな闘志の宿るその瞳に映るのは、一人の少女。ジムチャレンジの時に、一度だけ相対したが、あの時とは比べ物にならないほどに成長したその少女。

 

(いえ……これは……)

 

 再びの対峙。その少女を、ユウリを目の前にした瞬間。

 

 サイトウの頬を、一筋の汗が伝う。

 

(これは「成長」なんて……生易しいものではない!!)

 

 自身の目の前にいる可憐な少女が、自分よりも若き少女が纏う圧倒的な存在感。

 

 カントートップジムリーダーであるグリーンに「チャンピオンの器を持っている」と言わしめたマサルをも打ち破ったポケモントレーナー。

 

(これが……本当のユウリさん……!!)

 

 サイトウは鮮明に思い出していた。

 

 チャンピオン・ダンデと対峙した、あの瞬間を。

 

 それと同時に、こんな考えが頭をよぎる。

 

 もしかすると、この少女はダンデすら上回っているのではないか、と。

 

「サイトウさん」

 

 彼女は、知る。

 

 彼女()は、知る。

 

 そう()()()()()()に、知る。

 

「今の私は」

 

 己のこの考えが間違いではない、ということを。

 

 

 

 

 

 

「ものすごく───強いですよ」

 

 

 

 

 

 

 このファイナルトーナメントが、ユウリという少女の独壇場になるということを。

 

 

 

 

 

 

「……お見、事……です。まさか、ここまで力の差があるとは……精進あるのみ、ですね。おめでとうございます、ユウリさん。あなたの強さはきっと……歴史を変える」

 

 サイトウも。

 

「インテレオンとマサルの弔い合戦……なんてことを言う余裕なんて微塵もなかったわ。あなたのその強さ……七年前のあいつを思い出させるわね……」

 

 ルリナも。

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

「ジュラルドン!! キョダイゲンスイ!!」

「エースバーン!! キョダイカキュウ!!」

 

 太陽を彷彿とさせる巨大な火球が鋼の要塞を飲み込み、葬り去った。

 

「この俺様が……お前のポケモンを()()()()()()()終わるとはな。決勝で負けちまったのは死ぬほど悔しいが……若いやつらの成長には驚くしかねえ! 未来しかねえ! この勢いのままダンデをぶっ飛ばしちまえよ!」 

 

 トップジムリーダーのキバナでさえ。

 

 ユウリを止めることは、できなかった。

 

 快進撃、などという言葉では足りない。ただただ、圧倒した。

 

 ガラルのジムリーダー達を、本気になったジムリーダー達を、ユウリという少女は寄せ付けなかった。

 

『つ、強い……!! ガラルの屈強なジムリーダー達を退け……ファイナルトーナメントを制したのはユウリ選手!! ジムチャレンジャーがファイナルトーナメントを勝ち上がったのは実に七年ぶり!! 七年前のダンデ以来の快挙です!!』

『キバナならもしかしたらと思ったが……ユウリの成長が著しかったな。マサルとのバトルとは違って、不安定な部分なんて微塵もなかった。昨日とはまるで別人だよ。ただそれでも、ユウリのポケモンを三体倒したキバナはさすがだった。サイトウとルリナは一体も倒せなかったんだからな。もしかするとカントーの四天王も……筆頭四天王のリーフも勝てるかどうかわかんないぜ』

『……多分、リーフより強い』

『お前、カントーに帰ったら怒られるぞ』

 

 

 

 

 

 

「……マサル、あんたよくユウリをあそこまで追い詰めたね」

「相対的にマサルの評価がヤバいことになってるぞ」

「俺に勝ったんだ。あのくらいやってもらわないと困る」

「次がダンデくんでしょ? うっわー……ダンデくんが負けるところなんて想像できないけど、今のユウリが負けるイメージも湧かないよ」

 

 俺とホップ、そしてマリィとソニアちゃんは観客席の最前列でファイナルトーナメントを観戦していた。ビート少年は妖怪ばば……ポプラさんに拉致されてしまったので俺達とは別行動である。あのばーさん本当にパワフル過ぎるだろ。本当に八十歳超えてんのかよ。

 

「はぁ~……それにしても、ユウリだけじゃなくてあんた達三人とも急に強くなりすぎでしょ。何がどうしたらああなるわけ?」

「ほら、よくあるじゃん。『あ、これちょっと覚醒しないと勝てねえな』って感じの場面。昨日ユウリと対峙した時の俺がそうだった」

「漫画かよ!! そんなほいほい覚醒してたまるか!!」

「マサルの言ってること、なんとなくわかるぞ」

「あたしはわから……いやちょっとだけわかるかも……」

「な、なんなのあんた達……凡人の私には全然わかんないよぉ……」

 

 で、出た~。ソニアちゃんの「自称凡人自虐ネタ」

 

 ソニアちゃんほどの女が凡人なわけなかろうて。大体、自分を凡人って言うような人間は比較対象が規格外なだけで、世間一般では十分傑物の部類だからな。

 

 そんな風に四人で雑談しつつ、ユウリとダンデくんの試合を待つ。さーて、次がいよいよ最後の試合なわけだけど……今のところ何も起こらねえな。トーナメントを中止させるような変な動きもないし、怪しい人間がスタジアム内をうろついているわけでもない。

 

 どうかこのまま杞憂で終わってほしい、が……ローズ委員長の行動力やら権力やら諸々を考えたらマジで何が起こるかわかんねえ。何があってもすぐ動けるように警戒だけはしておくか。はあ……純粋に試合観戦だけを楽しめればよかったのになぁ。

 

「お! 兄貴とユウリが出てきたぞ!」

「ユウリ、勝ちんしゃい! 今だけはマリィがあんたのエール団になってあげるけんね!」

「ぐぬぬ……ダンデくんとユウリ、どっちを応援すればいいのよ? ……ええい! どっちもがんばれー!」

 

 フィールドの整備が終わり、ユウリとダンデくんの二人がしっかりとした足取りで中心へと向かって歩いていく。ダンデくんの姿が現れた瞬間、スタジアムが地鳴りのような大歓声に包まれた。

 

 やっぱりダンデくんの人気は半端ねえな。

 

「改めて名乗ろう。チャンピオンのダンデだ」

「チャレンジャーのユウリです」

 

 フィールドの中心で向かい合う二人。その二人を見て、こう思う。

 

 俺も立っていたはずの場所、なのに。

 

 なのにあの場所は、今この瞬間は、俺の知らない場所になっていた。

 

 あの二人の周辺だけが、まるで別世界のように切り取られている。俺には、そう見えた。

 

 そこに立つことを許された者と許されなかった者。

 

 両者の隔たりは、想像を絶するほどに大きい。

 

 それでも俺は知っている。

 

 俺は、あの場所の名前を知っている。

 

 長い長い年月をかけて、何度も何度も遠回りをして、夢の正体に触れた俺は知っている。

 

 あの場所を「特別」と呼ぶことを。

 

「コートの張りつめた空気。それとは真逆の観客の熱狂。どちらも最高だな。彼ら観客は、どちらかの勝利を願うとともに、どちらかの敗北を願う残酷な存在だ。そして俺は、全ての恐怖、プレッシャー、理不尽を跳ね除け、己の持つ全ての力をかけて、ポケモン達の全ての力を引き出し勝利をもぎ取る! 君が、君達がどれだけ強くとも、その全てを打ち砕き、俺達が勝つ!」

 

 これだけ離れていても、わかる。観客席からであっても、わかる。

 

 ダンデという人間の……ポケモントレーナーの圧倒的存在感。並のトレーナーなら、その存在感に気圧されて、彼の前にただ立っていることさえ難しいだろう。

 

 だけど。

 

「ダンデさん」

 

 ユウリは微塵も、劣っちゃいねえぞ。

 

「勝つのは、私です」

 

 ユウリの言葉に、ダンデくんは()()()()()()()()、帽子を深くかぶり直した。

 

 そして───

 

「さあ───チャンピオンタイムだ」

 

 スタジアムのボルテージが最高潮に達する。

 

 ガラルのチャンピオンを決める戦い。

 

 ガラルの最強のトレーナーを決める戦い。

 

 その火蓋が、切られる。

 

 ───瞬間。

 

 

 

 

 

 

『ハロー! ダンデくんにユウリくん!』

 

 

 

 

 

 

 突如、戦いの空気に似つかわしくない陽気な男性の声がスタジアム内に響き渡った。ボールを構え、今まさに雌雄を決する戦いに身を投じようとした二人の動きが、止まる。

 

 いや、二人だけじゃない。ジムリーダー達を含む、スタジアム内の人間全員の視線が、大型モニターに映し出された男性に注がれていた。

 

 ……始まったか。

 

「ローズ委員長?」

 

 隣でマリィが首を傾げ、ぽつりと呟く。

 

『いやぁ、申し訳ない。本当に申し訳ないよ。こんな形で、君達のチャンピオンカップを台無しにしてしまうなんてね。だけど仕方がないんだ。これも全て、ガラルの未来を守るためなんだから』

 

 スタジアムが、ざわめく。おそらくこの瞬間、事態を把握できていたのは俺とダンデくんくらいだろう。ダンデくんに視線を移すと、彼も他の観客たちと同じようにモニターをじっと見つめていた。ユウリは何が起こっているのか理解できず、オロオロと狼狽している。

 

「なんだ? 何を言ってるんだ?」

 

 ホップが立ち上がってそう言った。

 

 ローズ委員長の後ろにあるもの……あれは何だ? でかいカプセルがいくつも並んでて……カプセルの中にあるのは……「ねがいぼし」?

 

「ナックルシティの地下プラント!?」

 

 ソニアちゃんが叫んだ。なるほど、あれが噂の地下プラントか。「ねがいぼし」から得られるガラル中のエネルギーを電気に変換するエネルギープラント。ローズ委員長から話には聞いていたが……やべえな。超特大の嫌な予感しかしねえ。

 

『本当に残念ですよ。できれば、君達の戦いを……その結末を見届けてからにしたかった。心苦しくはあるけど世界は待ってくれない。時間は待ってくれないんだ』

 

 心の底から悲しげな表情を浮かべてローズ委員長は言う。そして、委員長の感情と反比例するように彼の背後にある無数のカプセルが輝き始めた。

 

 あの輝き……どう見ても暴走寸前の光じゃねえか!?

 

「マサル!? どこ行くの!?」

 

 俺は反射的に観客席から飛び降りる。

 

 ソニアちゃんが止めるよりも早く、頭で考えるよりも早く体が動いていた。

 

「二人と合流する!! どう考えても異常事態だ!!」

 

 もう試合どころじゃない。ダンデくんの予感が当たっていたんだ。あのローズ委員長が本気で動き始めたんだ。幸い、まだ観客達はざわめいているだけで大きな混乱に陥っているわけじゃない。動くなら、今。

 

 返事を待たずに俺は二人の元へ駆け出した。

 

「俺も行くぞ!」

「あ、あたしもっ……!」

「ちょっ……あんた達まで!? う~~~っ!! もうっ!! 私も行くーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

『たとえ誰に恨まれようとも、私にはガラルの未来を守る使命と信念がある』

 

 彼の言葉の真意を理解できていた人間は、今この瞬間、世界中で一人だけ。それはもちろん、俺でも、ダンデくんでもない。

 

 世界でたった一人だけ。

 

 ()()、一人だけだった。

 

 

 

 

 

 

『さあ───ブラックナイトを始めよう』

 

 

 

 

 

 ローズ委員長の言葉に呼応するように、二人が立っているスタジアムの中心が赤い光を帯びた。

 

 知っている。

 

 俺は、俺達は……その光の正体を、知っている!!

 

「ユウリ!!」

 

 目を覆いたくなるほどの眩い光が炸裂する、その寸前。

 

 俺はユウリを抱え、転がるようにその場から飛びのいた。瞬間、赤い光の柱が天に向かって立ち上る。

 

「あ、ありがとうマサル……」

「怪我は?」

「うん。大丈夫だよ」

 

 ユウリを気にかけつつモニターに目を移すと、エンジンスタジアム、ラテラルスタジアム、キルクススタジアム……ガラルにある全てのスタジアムが、()()()()()()シュートスタジアムと同様の現象に見舞われている映像が映し出されていた。

 

「ま、マサル……この赤い光って、ワイルドエリアの……?」

「多分な」

 

 ただ、ワイルドエリアの巣穴で見たのはあくまで自然現象だった。だけど、今この目の前にある赤い光の柱は……明らかに人の手、何らかの強引な干渉によってもたらされている。

 

「大丈夫か二人とも! 何が起こっているのかわからないが……一旦ここから離れよう!」

 

 ダンデくんが俺達に駆け寄ってきた。俺は自分が走ってきた方向に視線を向けると、ホップ達三人も俺達の方へ走ってきているのが見える。うん、ダンデくんの意見に賛成だな。こうなったらもうバトルどころじゃねえし、このダイマックスエネルギーがどんな影響を及ぼすのか想像もできない。

 

 そして、合流した俺達は入場用ゲートへと急いで移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

「兄貴! 一体何がどうなってるんだ!? あの光ってパワースポットのダイマックスエネルギーだよな? それに、シュートシティだけじゃなくて他のスタジアムも同じようなことになってたぞ!」

「……さっぱりわからない。わからない、が昨日の話の通りなら、1000年先の未来を守るためにローズ委員長が意図的にこの状況を作り出したらしい」

「1000年先の未来ってどういうことだ? 意味わかんないぞ」

 

 ホップが縋るように俺とダンデくんを交互に見てくる。安心しろホップ。俺達にもさっぱりわからん。いやまあね、確かに未来のためにエネルギー問題を解決することは大事だと思うけど……何もこのタイミングで悪の組織の黒幕ムーブみたいなことしなくていいだろ。

 

「ナックルシティのエネルギープラントが映ってたけど……ダンデくん、あれ相当ヤバいよ。普通じゃありえないエネルギーが集まってた。あのエネルギープラントの異常な稼働がこの事態を引き起こしてるといっていいね」

「ソニア、君の優秀な頭脳を見込んで聞きたい。ローズ委員長が言っていたブラックナイトを君はどう分析する?」

「……伝承を調べた限り、ブラックナイトの正体もポケモンだよ。3000年前、隕石と共に飛来したポケモンで、巨大化したポケモンが暴れ回ってガラル地方を滅ぼしかけたとされている。そして、二人の英雄が剣と盾のポケモンと協力してブラックナイトを鎮めた」

「巨大化したポケモンが暴れ回った……つまり、ダイマックスか。ソニアの言う通りだとすると、ブラックナイトはダイマックスエネルギー、『ねがいぼし』と関係しているということになるぞ」

 

 ソニアちゃんの言葉を聞いて、ホップは腕を組んで冷静に分析する。こういうところを見ると、ホップは案外研究者とかに向いてそうだな。

 

「『鎮めた』っつーところがポイントだな。ソニアちゃん、明確に『命を絶った』って表現はあった?」

「ううん、そういう直接的な表現はなかったよ。でも、3000年も生きられる生物がいるなんて……いや各地方に伝わっている伝説のポケモンならなんでもありだろうけど……」

「当時の英雄達と剣と盾のポケモンでも、ブラックナイトを封じるので精一杯だった。モンスターボールなんてなかった時代だろうしな。んで、3000年経った今……ローズ委員長がブラックナイトと呼ばれるポケモンを発見して『ねがいぼし』のダイマックスエネルギーを使って復活させた……そんなところか」

「でもマサル、ブラックナイトとガラルの未来を守るってどういう関係があるん? あたしにはむしろ、委員長がガラルを滅ぼそうとしてるようにしか見えんのよね」

「……もしもブラックナイトが周囲のポケモンを自在にダイマックスさせられるとしたら? そうでなくても、ブラックナイトがダイマックスと密接な関係があることは明確だ。つまり、ダイマックスエネルギーを操ることに長けているとされているブラックナイトを利用して、ガラルのエネルギー問題を解決しようとしたんだ」

「そんな無茶苦茶なことすると!?」

 

 それをやるのがローズ委員長という人間だ。彼はそれが()()()()()()立場にあったんだから。マジもんの黒幕ムーブだけど、ローズ委員長が他の地方の悪の組織と違う点は、彼が本気でガラルの未来を憂いて、ガラルの未来を守るために行動したということ。

 

 だからといって何やってもいいってわけじゃねえけどな!!

 

「マサル! 私わかったよ!」

「おう、言ってみろユウリ」

 

 それまで黙って話を聞いていたユウリ(話の内容を理解していたかは不明)が勢いよく手を挙げた。

 

「つまり! ブラックナイトをぶっとばせばいいんだね?」

「……まあそうだな」

「ふふーん♪ 私もね、ちゃんとお話をわかってるんだよ! ねえ、偉い? 私偉い?」

「偉い偉い」

 

 頭を撫でてやると、ユウリは嬉しそうにふにゃふにゃと笑った。割と危機的状況なのに呑気だな。やっぱお前って大物だわ。

 

「ありがとうソニア、みんな。だいぶ状況を把握できた。とにかく俺はナックルシティへ向かう。ローズ委員長があそこにいるのなら、元凶となるブラックナイトもそこにいるはずだ」

「大丈夫か兄貴? 方向音痴なのにナックルシティに行けるのか?」

 

 ホップはダンデくんの身よりも無事に辿り着けることの方が心配らしい。いや、ホップだけじゃなくて全員か。

 

「安心しろホップ。俺がついていく」

 

 元からそのつもりだったし、昨日の夜に個人的にダンデくんから話を聞いていた身としては俺も一緒に動くのが筋だろう。本当はダイゴさん達と連絡を取りたいけど、この混乱とスタジアムの人混みによる輻輳(ふくそう)で通信が繋がらない。ただ、ダイゴさんは一度あのエネルギープラントを直に見ているから、あの映像の場所がナックルシティだということにも気付くはずだ。……あわよくばトウコさんも一緒に連れてきてほしい。

 

「マサルがいるなら安心だぞ! よーし、俺達にも何か手伝えることは……」

「ホップホップ! 『まどろみの森』に行こう! 私達が出会ったあのすごいポケモンが剣と盾のポケモンかもしれないよ!」

「さすがだぞユウリ! ブラックナイトを鎮めた伝説のポケモンの力を借りることができれば何も怖くないぞ!」

「だったら私もユウリ達についていくよ。英雄達の知識が一番あるのは私だからね」

 

 強くなった今のユウリとホップならまどろみの森に入っても大丈夫だろう。ってか、今思ったけど自分が住んでる田舎町のすぐ横の森に伝説上の生き物がいるってゲームかよ。……ゲームの世界だったよ。

 

「あ、あたしは……」

 

 俺達が各々方針を決めている中、マリィが不安そうな声を上げる。そして、彼女の不安の理由が俺にはわかっている。

 

「マリィはスパイクタウンに向かってほしい」

「……え?」

「映像を見た限り、パワースポットのある他の街もシュートシティのような現象に見舞われている。おそらく、集まったジムリーダー達は自分の管轄の街に戻って対処に追われるだろう。スパイクタウンにパワースポットはないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を俺達は知っている」

 

 スパイクタウンからナックルシティへ向かう途中の出来事だった。地震のような地鳴りとともに発生した赤い光の柱。あの時はたまたまダンデくんが近くにいたからあっさり対処できたけど、もしも実力のあるトレーナーが不在の街であんなことが起こってしまえば大惨事になりかねない。

 

「だからマリィはスパイクタウンに戻って、()()()()()()()()()()()

 

 これがマリィの不安の理由。自分の生まれ育った故郷が、ガラルで唯一()()()()()()()使()()()()()()がある町。言い換えれば、ダイマックスポケモンの対処に最も慣れていない町だ。だからこそ、マリィのようにダイマックスを普通に扱えるトレーナーの力があの町には必要なんだ。

 

 ハロンタウンやブラッシータウンはホップ達が向かうし、じいちゃんがいるからどうとでもなる。

 

「……ありがと、マサル」

 

 そしてマリィは、俺の言葉の意図に、俺の気遣いに気付いていた。

 

「よし、方針は決まったな。俺とマサルはナックルシティに。ソニア、ホップ、ユウリはハロンタウンに。マリィはスパイクタウンに。すぐにジムリーダー達や、凄腕のトレーナー達も動き出す。決して無茶はするな!」

 

 一番無茶しそうなのはダンデくんなんだよな。だから俺がついていくんだけど。

 

「やはりこちらにいましたか。その様子だと、何が起こっているのか把握しているようですね」

 

 暗い入場用通路に、壮年の女性の声が響き渡る。全員が視線を向けると、そこに立っていたのはマグノリア博士だった。

 

「おばあ様!? どうしてこんなところに!?」

「あなた達に大事なことを伝えようと思いましてね」

「大事なこと?」

 

 ソニアちゃんが尋ねる。

 

「かつて、ブラックナイトと呼ばれた災厄……そのポケモンの本当の名前を」

 

 ブラックナイトが本当の名前じゃない? つまり、あくまでもブラックナイトは()()()()()に過ぎないってことか。本当に大事なことだな。これから対峙する身としては、その名を知っているのと知らぬのとでは大きな違いがある。

 

「その名は───」

 

 そして、マグノリア博士が静かに、告げた。

 

 

 

 

 

 

「───ムゲンダイナ」

 

 

 

 

 

 

「すまない! 俺達二人をナックルシティまで頼む! 超特急でだ!」

「チャ、チャンピオン!? それにマサル選手も!?」

 

 スタジアムを出て俺達が真っ先に向かったのはアーマーガアタクシー乗り場だった。長距離移動をするなら、列車よりも空を飛んでいく方が早い。

 

「この三人をハロンタウンに! あの少女をスパイクタウンに送ってくれ! 一刻を争う事態なんだ!」

「……さっきのローズ委員長の放送ですね。お任せください! すぐにあと二台も手配しますから! とにかくチャンピオンとマサル選手のお二人はこれに乗ってください!」

 

 運転手さんに言われた通りタクシーに乗り込もうとすると、ふいに誰かに手を引っ張られる。振り返ると、不安そうな顔で俺を見上げてくるユウリが後ろに立っていた。

 

 ったく、なんて顔してんだよ。一丁前に俺の心配しやがって。

 

「大丈夫だよ。ダンデくんもいるし、俺の強さはお前が()()よくわかってるだろ?」

 

 安心させるように、ユウリの頭を優しく撫でてやる。お前にそんな顔はさせたくなかったんだけどな。

 

「うん……気を付けてね」

「お前こそ、あんまソニアちゃんやホップに迷惑かけんじゃねえぞ」

 

 俺はできる限りの笑顔を浮かべてタクシーに乗り込むと、運転手さんが言っていたようにすぐに二台のアーマーガアタクシーがやってくる。そっちは任せたぞ四人共。

 

「お二人共、しっかり掴まっていてくださいよ! なんたって、こいつのスピードは()()()()ですからね!」

 

 

 

 

 

 

「くっそ速えなおい……」

 

 運転手さんが言った通り、アーマーガアタクシーのスピードは俺の想像を遥かに超えていた。空だからスピード違反とかないけど、もしもそういう交通ルールがあったら完全にアウトだわ。アーマーガアってこんなにトップスピードは速かったんだな。バトルだと限られた範囲のフィールドが戦場で、トップスピードよりも瞬発力が求められるから知らなかったわ。そういや、キバナさんが言ってたけどパルデアにはこんなアーマーガアを打ち落とすポケモンがいるんだよな。

 

「マサル、ローズ委員長の行動をどう思う?」

「ヤバいくらい不自然。委員長とはジムチャレンジで知り合ってちょろっと会話しただけだから人として深いところまでは知らないけど……無茶苦茶すぎて意味わからん」

「俺ももう七年の付き合いだが、それでも掴み所のない部分があった。確かに、思い立ったらすぐに行動に移さないと気が済まない人で、思考と実際に発する言葉にズレがある人だから会話が嚙み合わないことも多々あった」

「ただ、ガラルに対する愛は本物だった。1000年先の未来を守るってのも本心だろうし、今日の試合を中止にしたくなかったってのも委員長の本心だと思う」

 

 で、「1000年先の未来」と「今日の試合」を天秤にかけた結果、前者に傾いたってとこだろ。どういう思考の流れでそういう結論に至ったのかは全く理解できねえけどな!

 

「マサル、なぜ委員長は()()()今日という日を選んだと思う? ガラル中の注目が集まる、今日、この日を」

「ん、ん~……あくまで俺の勝手な想像だけど、いい?」

「ああ、君の考えが聞きたいんだ」

 

 ダンデくんの言うように、事を起こすならわざわざ今日じゃなくてもよかったはずだ。よりによって、ガラルのチャンピオンを決める今日……ガラルが一年で一番盛り上がる今日でなくとも、だ。

 

「俺の考え……()()()は『本当は今日にするつもりはなかったが、ブラックナイト……ムゲンダイナを制御することができずに今日に()()()()()()()』から」

 

 ブラックナイトってのは、3000年前にガラルを滅ぼしかけた災厄だ。3000年前と比較して現代は科学技術こそ遥かに発展しているものの、それがブラックナイトを完全に制御できる保証にはならない。ローズ委員長もそれは当然想定しただろうが、運の悪いことに今日という日にブラックナイトが復活をしてしまった。

 

 おそらく、ローズ委員長の狙った結果ではなかったのだと思う。行動はどうあれ、彼のガラルに対する愛は本物だ。本当ならば、もっと被害を最小限に抑えられる日に事を起こそうとしたはず。今日の試合を中止したことでガラルの経済に、決して小さくないダメージを与えちまったからな。

 

「なるほど。……さっき『一つ目』と言っていたが、他にはどういうことが考えられる?」

「さっきの考えとは真逆。『今日という日……もっと正確に言えば、チャンピオンカップ期間中なら()()()()()()()()』から」

「……ほう?」

「チャンピオンカップ期間中は、ガラルのジムリーダーやチャンピオン、有力トレーナー達がシュートシティに集結する。他のスタジアムの隙を突くには、暗躍するにはこれ以上ないくらい最高のタイミングだ。その上、この期間中は()()()()()()()()()をも利用することができる」

「……レッドくんやグリーンくん、ダイゴさん達のことだな」

「うん。推論に推論を重ねるような話になるけど……ローズ委員長は保険をかけていたんだと思う」

「ブラックナイトの制御に失敗した時の保険か」

「そういうこと。俺は今、『二つの考え』を別物として話したけど、委員長は一つの思考にとらわれていたわけじゃない。ありとあらゆる可能性を想定していたはずだ」

「今日という日に事を起こしたくなかったのも本音だが、今日という日であったとしても対応できるだけの保険を用意していた。なるほど、実に委員長らしい考えだ。だがマサル、君の想像通りだとすると……このブラックナイトは───」

「───()()()()()()()()()()()

 

 繰り返しになるが、ローズ委員長はガラルを滅ぼしたいというわけじゃない。制御不能のブラックナイトを、ムゲンダイナを好き勝手に暴れさせてガラルに甚大な被害が出てしまっては本末転倒だ。

 

 ローズ委員長の狙いはあくまでブラックナイトを、ムゲンダイナを()()()()()()

 

 どうやって?

 

 ガラルの優秀なトレーナー達、その頂点に立つ、チャンピオンダンデの力を借りて。

 

 もしもチャンピオンダンデの力がブラックナイトに及ばなかったら?

 

 そのために各地方からレジェンドクラスのトレーナー達を招いていた。

 

「どういう形であれ、ローズ委員長はブラックナイトを───制御下に置くつもりだったんだ」

 

 これが俺の考え……マジで想像というか推論でしかないけど、今の状況から考えられるのはこのくらいだ。もちろん、俺の予想が完全に外れていてローズ委員長が本当は「ブラックナイトの力を利用してガラルだけじゃなく世界を征服してやるぜガハハハハ!!」とか「人類は滅びるべきです」とか考えてるかもしんないし。

 

 まあ、委員長がどんなことを考えていようとも俺達がブラックナイトを阻止することには変わんねえけどな。事情を聞くのは俺の仕事じゃないし、聞くとしても全部終わってからじゃい。

 

「ありがとうマサル。おかげで考えを整理できた」

 

 俺も自分の考えを話せてちょっと冷静になったな。ってか、改めて考えてみると本当に無茶苦茶やってるよなローズ委員長!!

 

「マサル、こんな時に不謹慎かもしれないが……俺は少し、わくわくしているんだ」

「……あ~、未知のポケモンと戦えるもんな」

「理由はそれだけじゃないさ」

 

 ダンデくんが意味深に笑って俺の顔をじっと見てくる。他にどんな理由があんのよ。

 

「君と一緒に戦えるからだよ、マサル」

「……は?」

 

 完全に想定外だったダンデくんの言葉に、俺は思わず間抜けな声で聞き返してしまった。

 

「いつか、君に尋ねられたことがあったな。『なんでダンデくんはそこまで俺に期待してくれてんの?』と」

 

 そんな話をしたこともあったな。あれはいつのことだったか……確か、ジムチャレンジに参加する前。ユウリとホップがまどろみの森に勝手に入った日のこと。

 

「結局あの時、俺はその理由を言えずじまいだった」

 

 いやいやちょっと待って。なんで今、そんな話を……?

 

「でも、今なら言える。()()()()()()、言える。……マサル。俺が誰よりも、ホップよりも、ユウリよりも君に期待していた理由は───」

 

 俺の疑問なんておかまいなしに、ダンデくんはこう言った。

 

「君が、君こそが()()()()()()()()()()()()ポケモントレーナーだからだ」

 

 言葉が、出てこない。

 

 何を……何を言っているんだダンデくんは? 俺に、憧れた……?

 

 なんで、俺なんだよ? 俺よりも強いトレーナーなんて、俺よりも優秀なトレーナーなんてたくさん───

 

「『なんで自分を?』という顔をしているな? 『自分よりも優秀なトレーナーはたくさんいるだろう』と思っているな? それは紛れもない()()だが……それが、()()()()()()()()()()()()()()だろう?」

 

 動揺する俺を置き去りにするように、ダンデくんは続ける。

 

「子供の頃、師匠にヒトカゲをもらって修行をしていた時、俺は自分を天才だと思っていた。俺こそが、最高のポケモントレーナーになると信じてやまなかった。だけどあの日……七年前のまどろみの森にソニアを助けに行った……あの日、あの時、あの場所で……君の姿に、君の勇姿に、真のポケモントレーナーを見た」

 

 あの日のことは、はっきりと覚えている。ただ、あの時のアーマーガアとの戦いも、マタドガスとの戦いも無我夢中だった。とても誰かに憧れを抱かれるような……いや、そうじゃない。

 

 人が誰かに、何かに憧れる理由、それを否定する権利なんて誰にだってありはしない。

 

 ただ俺は、ダンデくんのその言葉を聞いて───

 

 

 

 

 

 

「俺が憧れたポケモントレーナーは───今も昔も君だけだ」

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いて、ただただ、震えるくらいに感動していた。

 

 相手がチャンピオンだから、じゃない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()そう思われていた、ということに。

 

「そんな君と肩を並べて戦えることを───心から、誇らしく思う」

 

 そしてダンデくんは、小さい頃によく見せてくれた子供のような笑顔を浮かべてそう言った。




 ダンデがマサルを誰よりも高く評価していた理由。

 マサルがダンデにとって生涯で唯一憧れたポケモントレーナーだったから。

 ……ダンデがヒロインなのでは?

 ま、まあゲームでもダンデを助けに行ったりしてたからね。実質ヒロインみたいなもんだね。

 ホップといいダンデといいマサルの周りにはヒロイン力の高い男が多いな! 

 この二人が男でよかったなぁユウリィ!

 次回、クソダサTシャツマン&クソダサマントマンVS寝起きのむげんだいなちゃん3000しゃい

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