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ナックルシティに到着すると、否が応でもその異変が目に入った。
まだ昼間だというのに、ナックルシティ全体が夜のように暗くなっており、スタジアムと一体化しているタワーの天辺を中心に不自然な暗雲が発生している。
またわっかりやすいなおい。どう考えてもあの天辺に何かいるだろ。
「マサル、まずはエネルギープラントだ。スタジアムのエレベーターで地下に行ける」
とにもかくにもエネルギーの供給を止めないことには始まらない。俺達二人が真っ直ぐにスタジアムへと向かうと、ナックルシティの住人達が不安そうな面持ちでスタジアム前に集まっていた。まあ、いきなりこんなわけわからん現象を目の当りにしたらそうなるわな。パニックになっていないだけマシだ。
「みなさん安心してください! チャンピオンの俺が来ました! 今からこの事態の収拾を図ります! だからみなさんは落ち着いて自宅で待機していてください!」
集まっていた住人達にダンデくんが一声かけるだけで、みんな安心したような表情になり各々自宅へと戻っていく。ダンデくん効果すげえな。これがチャンピオンの風格……仮にユウリがチャンピオンになったとしてダンデくんと同じように「私が来た!」ってやってもこうはならない気がする。
……あいつはマスコットみたいなもんだからな。
そんなことを考えつつ、スタジアムの中へ入ってエレベーターに乗り、地下へやってくると映像で見たようなカプセルがいくつも立ち並ぶ通路へと出た。そのまま通路をしばらく真っ直ぐに進んでいくと、ダイマックスができそうなほどの開けた空間が見えてくる。その空間には莫大なエネルギーを内包した無数のカプセル。ローズ委員長とオリーヴさん。
そして、孵ったばかりの巨大な卵に見える……
ソニアちゃんの話から推定すると、あれはおそらく隕石だろう。隕石が割れた卵のように砕けているのはつまり……
「やあ、ようこそダンデくん。それに……ふふっ、嬉しいですねえ。マサルくんもここに来てくれるとは」
「ローズ委員長、ムゲンダイナはどこですか?」
胡散臭くしか見えない柔和な笑顔を浮かべてローズ委員長が俺達を歓迎するようなことを言うも、ダンデくんはそれを無視して委員長に問いかける。
「ほう……。ムゲンダイナの名を突き止めているとは。ソニアくんとマグノリア博士ですかねえ。いやあ、実に優秀な二人だ」
「今すぐエネルギーの供給を止めてください。ムゲンダイナの力を利用してガラルのエネルギー問題を解決しようなんて無茶苦茶だ」
「その無茶を通さなければガラルの未来を守れないのですよ」
「だからといって極端すぎる! 他の解決方法を検討する時間は十分に……」
エネルギーの供給を止めることを最優先でここに来たけど……ローズ委員長の反応を見る限り、これは悪手だったことに気付いた。
「ダンデくん、話しても時間の無駄だ。ローズ委員長のこの余裕……多分、エネルギーの供給を止めたところで
「判断が早いですねえマサルくん。君の言う通り、たとえこのプラントを破壊したところでムゲンダイナは止まりはしない。あれはもう、完全に私の手を離れてしまいましたからね」
「行こうダンデくん。タワーの天辺だ。これ以上は付き合いきれない」
「おや? つれないですねえ。もっと私に聞きたいことがあるのではないですか? 私が行動に移した動機やなぜわざわざトーナメントを潰してまでブラックナイトを始めたのか……」
「ゲームや漫画ならともかく、このめちゃくちゃ一刻を争う事態の最中に悠長にラスボスの自分語りを聞いてる暇なんてないんすよ! 全部解決したら留置所の面会室で話を聞きます!」
「厳しいねえ……厳しすぎるよ。そういうのよくないんじゃないの?」
ローズ委員長は大げさに溜息を吐き、両手を肩のあたりまで上げて首を横に振る。芝居がかった口調と仕草だなおい。まあいい、無視だ無視! とにかくタワーの天辺に行くぞ。
「まあ、ダンデくんはともかく……君を行かせるつもりはありませんがね」
雰囲気が、変わる。
これまで陽気で親しみやすい胡散臭さを醸し出していたローズ委員長がモンスターボールを構えると、空間が張り詰めた緊張感に支配された。
「ダンデくんダーーーッシュ! バトルなんかやってる場合じゃねえ!」
「マサル、君はとことん現実主義者だな……」
ゲームだったら主人公のバトルが終わるまで事態が悪化しないけど、現実である以上そんな保証はどこにもない。バトルして負けるとは思わないが、それとこれとは話が別!
「逃げられると思っているのですか、マサルくん」
「……ローズ委員長、あなたは戦う意思のない無防備な子供にポケモンをけしかけられるような悪人じゃないでしょう?」
俺の言葉に、ローズ委員長はどこか嬉しそうに笑ってパチンと指を鳴らす。すると、どこからともなく十人ほどのリーグスタッフが現れて俺達を、正確には俺を取り囲んでモンスターボールを構えた。……どこに隠れてやがったお前らぁ!?
「さすがのマサルくんもここまでやれば無視はできないでしょう。さあダンデくん、タワートップに向かいなさい。ムゲンダイナが君を待っている」
そこまでして俺を足止め……いや、ダンデくんとムゲンダイナをサシで戦わせたいのか!?
「マサル!!」
「行けダンデくん! こんなところでダンデくんのポケモンを消耗させる必要なんてない!」
だぁーっ!! もう面倒くせー!! リーグスタッフの十人くらい……それなりに腕は立つんだろうけど俺の相手じゃない。相手じゃないが!! どう考えても消耗は避けられない。万全の状態でムゲンダイナとやり合いたかったのに……お望み通り先にあんたらを蹴散らしてやるよ!!
ただし!! じいちゃんから教わったガラル空手で……リアルファイトでな!!
この緊急事態に悠長にポケモンバトルなんぞやってられるか!!
俺の超人的な身体能力とガラル空手が合わさればリーグスタッフの十人くらいどうってことねえ!!
こちとら毎日キテルグマと殴り合ってたんだ!!
そうだ。緊急事態における正当防衛ということでチャンピオンダンデくんの権力で俺の暴力行為を揉み消してもらおう!! ヨシ!!
そう結論付け、構えを取った瞬間のことだった。
「ジュラルドン!! キョダイマックス!!」
突風と衝撃波が吹き荒れたかと思うと、キョダイマックスしたジュラルドンがリーグスタッフ、ローズ委員長達の前に立ちはだかった。
「よう。ダンデ、マサル。キバナ様が助けに来てやったぜ」
通路の奥から現れたのはナックルスタジアムの主にしてガラルのトップジムリーダーであるキバナさん。
キバナさんきた! これで勝つる! さすが「ガラルで抱かれたい男」ナンバーワン!!
「一度このセリフ言ってみたかったんだよな。……ここは俺様に任せて先に行け!!」
「物語の中盤で主人公を庇って死ぬ読者人気の高い兄貴キャラ!」
俺がそうツッコむとキバナさんに尻を蹴られた。乗ってあげたのになんてことするんですか!?
「ああ、任せるぞキバナ!」
「……大真面目に受け止められるとそれはそれで俺様ちょっと恥ずかしい」
おほーっ! これが噂のダン×キバってヤツですか? 腐女子がおったら鼻血と涎を垂れ流して死んでたな。
そんなことはどうでもいい。ここはキバナさんが来てくれたからもう大丈夫だろう。
「やれやれ……キバナくんが私の前に立ちはだかるとは。まあ、君は私に対して色々と疑念を抱いていたようでしたからねえ」
「このナックルシティは俺様の街だ。把握できないはずがねえだろうよ」
「……いいでしょう。君は私が直々に相手をしてあげますよ。ふふっ、本気のポケモンバトルは久しぶりで胸が熱くなりますね」
「かつてチャンピオンカップ準優勝まで上り詰めた実力……相手にとって不足はねえ!!」
「どかーんと一発やってみましょうか。……ダイオウドウ───
背後から轟音が響いているのをよそに、俺とダンデくんはリフトに乗ってタワートップを目指すのだった。
タワートップへと辿り着いた瞬間、空気が色濃く……そして重たくなるのをマサルとダンデは感じ取った。
タワートップに鎮座する、強大で巨大なポケモン。
体長は二十メートル程だろうか。ただし、皮膚や筋肉といったものは見られず、まるで骨格そのものが動いているような姿。赤い膜状のエネルギーで包まれた頭部には、六つの白銀の瞳が輝いていて、筒状に突き抜けた肋骨には赤く発光するエネルギー体。
一言で表現するならば「異質」
これまで多くのポケモンを見てきたマサルとダンデであったが、このムゲンダイナは、今まで出会ったポケモン達とは全く異質の存在であると即座に理解する。
「パッと見たところ、ドラゴンタイプのように見えるが……」
「なんつーか、小さい子供が『ぼくのかんがえたさいきょうにかっこういいポケモン』要素をてんこ盛りにしたみたいなフォルムだな」
「俺達の姿を見ても動かないな……警戒しているのか?」
「3000年前の英雄達に負けたから人間を警戒してるんじゃねえの?」
冷静にムゲンダイナの様子を観察しつつ、マサルはほんの少し、ムゲンダイナに対して
しかしそれは、本当にムゲンダイナの意思によるものなのだろうか。
隕石の中で眠り続けていたムゲンダイナは、
そして、かつての英雄達、剣と盾のポケモンに鎮められ、再び長い長い眠りについていたが、3000年経った今、今度は「人の意思」で眠りから目覚めさせられ、その力を利用されようとしている。
「もしもそうだとすると、気の毒なヤツだよ、お前」
ポツリとマサルの口から自然とそんな言葉が漏れた瞬間、ムゲンダイナの白銀の瞳が
「だとしても、やることは変わんねえけどな」
「マサル、まずはタイプの分析からだ。おそらく、ドラゴンと何かの複合タイプだろう。俺達の知らない、
「わかった。あと、さっきからダイマックスバンドの調子がおかしい。ダイマックスはできないと思った方がいいな。伝承通り、ダイマックスエネルギーを操る力をもっているらしい」
「何、大丈夫さ。俺と君の二人ならな」
マサルとダンデは互いに力強く笑い合い、ボールを構えた。
そして───
3000年の時を経て
ムゲンダイナが現れた!
「ギルガルド!! ドラパルト!!」
「ジバコイル!! バンギラス!!」
マサルとダンデ、両者共に二体ずつ選出した。
これが通常のポケモンバトルではないことを、これがガラルの命運を賭けた戦いであることを二人はわかっている。だからこそ、一対一にはこだわらない。相手は3000年前の災厄「ブラックナイト」なのだから。
「ギルガルド!!」
「ジバコイル!!」
そして奇しくも、ここで二人の思考が一致した。
「リフレクター!!」
「ひかりのかべ!!」
ムゲンダイナとマサル達の間に合計十層の透明な障壁が出現する。タイプがわからない、何をしてくるかわからない相手に対してまずは守りを固める。そのためのギルガルドとジバコイル。そのための鋼タイプ。
そして、ギルガルドとジバコイルが二人にとっての守りの要であるならば。
ドラパルトとバンギラスは───
「ドラゴンアロー!!」
「ばかぢから!!」
二人にとっての
バンギラスが果敢にムゲンダイナに突撃し、その剛腕を叩きつけると同時、ドラパルトの頭部に収まっていた二体のドラメシヤが射出され、バンギラスを援護する。
「格闘技の通りが悪い!?」
「ドラゴンアローは想定
途端、ムゲンダイナの胸部にある赤いコアが禍々しく発光し始めた。思考を切り替え、マサルとダンデは即座にポケモン達に指示を出す。
「下がれバンギラス!! 前に出ろジバコイル!!」
「庇えギルガルド!!」
凝縮された禍々しい赤い光がムゲンダイナから放たれ、十層の障壁を容易く破壊し、四体のポケモンに迫る。
だが。
「「まもる!!」」
崩れない。
マサルとダンデが誇るパーティー最優の盾は、この程度では崩れない。
「戻れドラパルト!! 行ってこいリザードン!!」
ここでダンデが早くも相棒であるリザードンを繰り出した。ドラパルトの役目は、持ち前のスピードでムゲンダイナにドラゴン技が通るかどうかを判断するため。まだ無傷のドラパルトを下げ、リザードンを繰り出すという判断……つまりそれほど、ダンデがムゲンダイナを警戒しているということだ。
(ダンデくんがもうリザードンを!? そこまでの相手かムゲンダイナ……。だけど、今の攻防でタイプが絞れた。ドラゴンが前提として、格闘を軽減できるタイプの複合。つまり、エスパー、毒、フェアリー、虫、飛行……未知のタイプの可能性も考慮しつつ、さらにタイプを絞るには……)
高速で思考を巡らせるマサルは、ユウリとのバトルと同じように時間感覚の延長の中にいた。あの時だけの特別な力でないことを自覚しつつ、マサルはさらなる一手を繰り出すため、ダンデに目配せするとダンデは何も言わず小さく頷いた。
「守りを固めろジバコイル!! ひかりのかべ!!」
「ギルガルド!! もう一度リフレクターだ!!」
たった一度の攻防で二人は理解した。ムゲンダイナは他のポケモンと隔絶した能力を有している、と。故に、守りを固めることが最優先。だが、守っているだけでは勝てない。攻めなければ、ムゲンダイナを無力化しなければ、ガラルの未来を守れない。
それら全てを理解した上で、二人は再び攻勢へと転じる。
そして。
激化する戦いの中で。
マサルの一手が。
バンギラスの一撃が。
「バンギラス!! じしん!!」
マサルが選択したのは、地面技。
ドラゴンタイプに半減されない、尚且つ、絞った五つのタイプ候補からたった一撃で解を導き出すことが可能な唯一のタイプ。
それが、地面。
そして、大地を揺るがすバンギラスの強力な一撃を受け、ムゲンダイナが、
「……
マサルの言葉に、ダンデが口角を吊り上げる。自身が生涯で唯一憧れたポケモントレーナーの勇姿に、再び魂を震わせた。
「リザードン!! ドラゴンクロー!!」
マサルとバンギラスの躍動に、リザードンが応える。赤き炎の龍は宙を舞い、自身の十倍は巨大な相手へと、鋭利な刃を突き立てた。
さらに二人は畳みかける。ムゲンダイナのタイプを見抜き、均衡を崩したこの好機を。
見逃す理由が、ない。
「バリコオル!!」
「インテレオン!!」
二人が同時に、もう一体のポケモンを呼び出した。
この瞬間、マサルは紛れもなく、チャンピオンダンデに引けを取らないポケモントレーナーとなっていた。カントートップジムリーダーグリーンに「チャンピオンの器がある」と言わしめたその実力を。
遺憾なく発揮する。
「「れいとうビーム!!」」
絶対零度の白銀光が、ムゲンダイナを貫いた。
チャンピオンパーティー、そしてマサルパーティーの猛攻を受けたムゲンダイナが、3000年前にガラルを恐怖のどん底へと陥れた災厄が、断末魔のような悲鳴を上げ、倒れ伏す。
「まだ気を抜くなよ、マサル」
「わかってる。3000年前の災厄が……この程度で終わるはずがねえ」
ダンデとマサルは、倒れるムゲンダイナを視界に収めながらも微塵も油断したそぶりを見せない。その張り詰めた緊張感は、その場にいる六体のポケモンにも伝わり、最大限の警戒を払っている。
「……こんなこともあろうかと、持ってきておいてよかったぜ」
ダンデがそう言って取り出したものは、一つのモンスターボール。それを見てマサルは、思わず大きく目を見開いた。ダンデの手にあったボールは、紫色をベースに白で書かれた「M」の文字、両サイドには赤い円がデザインされている。
「……マスターボール。本物は初めて見たな」
それは、野生のポケモンであれば必ず捕まえることができるとされている、究極の性能を持つモンスターボール。カントーのシルフカンパニーが開発し(故にロケット団に狙われた)、希少な素材と高度な技術を要するため一般には出回っていない、半ば都市伝説とされているモンスターボール。
「出し惜しみはしない。これで終わりだムゲンダイナ!」
ダンデがマスターボールを構え、ムゲンダイナへ向かって真っ直ぐに投げた。
投げられたボールは、ムゲンダイナへと吸い込まれるような綺麗な軌道を描く。
そして。
野生のポケモンであれば
ムゲンダイナへと触れるその瞬間。
莫大な赤い光がムゲンダイナを包み込み、マスターボールを
それだけではない。突風のような衝撃波に十層の防壁は破壊され、ダンデとマサル、そして六体のポケモン達は吹き飛ばされてしまった。
「ごほっ……大丈夫かマサル!?」
「こっちは大丈夫だ! ポケモン達にも大きな怪我はない!」
ダンデとマサルは
それは、
「……この野郎。マスターボールをぶっ壊しやがった」
だが、その事実に驚いているだけでは事態は好転しない。
ボールを投げてもポケモンを捕まえられなかった。
ただ、それだけのこと。
ポケモントレーナーであれば、誰もが必ず通る道。
故に、ダンデとマサルはこの程度では絶望しない。
「あの赤い光はダイマックスエネルギー……ガラル粒子か!?」
「あいつのコアを中心にエネルギーが集まってやがる……」
そこからの二人の行動は早かった。何が起こっているのかはわからないが、ムゲンダイナに時間を与えるわけにはいかない。二人は本能でそれを理解する。
「ギルガルド、ラスターカノン!! バリコオル、れいとうビーム!! リザードン、りゅうのはどう!!」
「ジバコイル、ラスターカノン!! バンギラス、じしん!! インテレオン、れいとうビーム!!」
六体のポケモン達による総攻撃。遠慮も容赦も一切ない、命すら奪いかねない怒涛の六連撃。
だが。
ムゲンダイナのコアから放たれた赤い光がその巨体を守るように包み込み、一切の攻撃を遮断する。
そして、集束した膨大な量のエネルギーは赤い光の柱となり、天を貫いた。瞬間、上空を覆っていた暗雲が大渦のように蠢き始め、ムゲンダイナは耳を覆いたくなるような叫びと共に大渦の中心へ向かって飛び上がった。
「逃げ、た……?」
マサルは呟くも、その可能性を即座に否定する。
ではどうする?
逃げるのではないのならば、この後ムゲンダイナはどのような行動に出る?
二人の人間を、
その敵を───排除しようとするはずだ。
「なんだ……あの姿は!?」
上空の大渦から再び姿を現したムゲンダイナを見て、ダンデは思わず声を漏らした。
その、ムゲンダイナの異形の姿に。
長大な身体はコアを中心に渦巻いた形で固定されており、身体の先端、おそらく顔であろう部分は五つに枝分かれし、それぞれに頭部がついている。まるで、巨大な掌を二人に向けるように。
そして、一番の特徴はその体長だ。
先程まででさえ、目視で二十メートルはあろうかと思われる巨体だった。
だが、今のムゲンダイナの体長は。
今までの、
「これほど巨大なポケモンが存在しているとはな……」
「でかすぎて笑えて……いや、笑えねえよ」
ダイマックスを見慣れている二人でさえ、目を疑うほどの大きさ。その姿を見てマサルは、そしてダンデは嫌な汗が背中を伝うのを感じていた。
二人は理解していたのだ。
この巨体が、見掛け倒しではないことを。
これこそが、ブラックナイトの「真の姿」なのだと。
しかし、たとえそうであったとしても。
「だからといって……」
「怖気づくわけにはいかねえ」
二人が歩みを止める理由になりはしない。
それと同時に、ムゲンダイナも理解していた。
この程度で、二人が決して止まらないということ。
故に。
「リザードン!!」
「インテレオン!!」
ムゲンダイナは、その力をもってして。
「りゅうのは───」
「れいとうビ───」
ムゲンダイナが耳を劈くような叫び声を上げた瞬間だった。
マサルが、ダンデが、六体のポケモン達が。
ムゲンダイナにひれ伏すように、膝をつく。
「ぐ、あぁっ……!?」
全身が鉛のように重いというのがいかに甘い表現なのかということを、マサルは体感した。鉛どころではない、全身を圧し潰さんとする重圧。少しでも気を抜いてしまえば、その場に倒れて身動き一つとれなくなってしまうという確信があった。
現に、並の人間とはかけ離れた驚異的な身体能力を持つマサルでさえ、この状況では
そして、それ以上の身体能力を有するポケモン達はこの状況を打開しようと無理矢理に体を起こし、指示を出せないマサルの状況を理解した上で、己の判断で技を放とうとする。
しかし。
「技が、使えない……!?」
攻撃の構えを取るだけで、六体のポケモンから技が放たれることはなかった。その事実に驚愕したのはマサルとダンデだけでなく、彼らの六体のポケモン達。磨き上げ、鍛え上げ、数々の強敵を打ち破ってきた、彼らが誇る技の数々が。
(無効化、なんて生易しいもんじゃない。そもそも技を使わせすらしないだと!?)
野生のポケモンであれば必ず捕まえることができるとされるマスターボールを破壊し。
トレーナーの動きを止め。
ポケモン達の技を封じた。
「これが、ムゲンダイナ……ブラックナイト……」
まさに、災厄の名に相応しい力。マサルもダンデも、決して侮っていたわけではない。油断など微塵もなく、彼らは最大限の警戒をもってこの戦いに臨んでいた。
だがしかし。
本物の災厄は、そんな人間の想像を、いとも容易く超えていく。
「ローズ委員長は、こんな力を制御しようとしてたのかよ……」
およそ人間にどうこうできる力じゃない。マサルは率直にそう感じたが、それでもこの現状を打破しなければ1000年先の未来どころか、数舜先の未来さえ、守れやしない。
マサルは歯噛みしながら必死に動かない体を動かそうともがくも、立ち上がることすらできなかった。
そして、ムゲンダイナの五つの頭部。その先端にある白色の瞳が。
その瞬間、マサルは今までの人生で一度も感じたことのない恐怖、悪寒に全身が支配される。ムゲンダイナの瞳から感情らしい感情を読み取ることはできないが、それでも本能で理解した。
「逃げろ」と。
掌を開いたようなムゲンダイナの顔部分。その中心にある、瞳と同色の光の球体に莫大なエネルギーが集まってくる。ムゲンダイナが何をしようとしているのか、誰の目にも明らかだった。
「が、ぐっ……マサ、ル……」
動けない。百戦錬磨のダンデも、相棒のリザードンも、動けない。
(なぜ……ムゲンダイナは、マサルだけを……狙う……? あれだけの、巨体だ……。俺ごと吹き飛ばすなんて、容易い……はず……。まさか、マサルに己のタイプを看破されたから、か……? ムゲンダイナは、それを理解できるだけの、頭脳を……有している、と……)
ダンデは思考するが、ムゲンダイナがマサルだけを狙っているのには二つの理由があった。
一つ目はダンデが想像した通りの理由。己の弱点を明確に見抜いた相手を警戒しないわけがない。
だがそれよりも。
それよりも、ムゲンダイナがマサルを警戒した理由が他にあった。
それは。
伝説の───
レシラムとゼクロムの、残り香。
マサルはこの旅を通して、多くのポケモンと出会い、戦い、心を通わせてきた。
その中には、イッシュの伝説とされるレシラムとゼクロムも含まれている。
実際にレシラムとゼクロムに出会い、直に触れ合ったことで、マサルには伝説の痕跡がほんのわずかに残されていた。
その微かな残滓を、ムゲンダイナは明確に感じ取る。
故に、ムゲンダイナはダンデよりもマサルの排除を最優先とした。
トレーナーとしての力量は、ダンデが上回っていると理解しながらも。
(や、べえ……!!)
集束する膨大なエネルギー。その矛先が自分に向けられている現実に、マサルは高速で思考を巡らせていた。
(あんなもん……受けちまったら「ひんし」や戦闘不能なんて、
それがわかる。わかってしまう。あれはポケモンバトルのように、
マサルは理解してしまう。
(ポケモン達は技を出すどころか、立っているので精一杯……俺とダンデくんに至っては立ち上がることすらできねえ……辛うじて動くのは、
打開策なんて、ありはしない。この絶望的な状況をひっくり返す逆転の一手など。
マサルは持ち合わせていなかった。
気持ちや根性でどうにかなる相手ではない。時間をかければ策の一つや二つ思いつくかもしれないが、ムゲンダイナは決してそれを許してはくれない。
だからこそ。
だからこそマサルは。
現実主義者であるマサルは。
この残酷なほどの現実を受け入れ。
(ムゲンダイナを倒すことも、捕まえることもできねえ。だけどな……)
彼が何を、諦めたのか。
(だけどな!!)
それは。
「
己の───命。
「
辛うじて動く右手でモンスターボールを握り、マサルはムゲンダイナを睨みつけた。
その瞬間、ムゲンダイナは思い出していた。
3000年前、己の前に立ちはだかったあの英雄達を。
それと同時に、こう思う。
これが「己の命を諦めた生物の顔なのか」と。
その少年の瞳に宿るのは、全身に宿るのは、魂を焦がすほどの、闘志。
己の命を諦めながらも、彼は最期の最期、
故に、気圧される。
ムゲンダイナは、気圧される。
人間の、魂の輝きに。
「
ボールを構え、マサルは告げた。
マサルは、ムゲンダイナの一撃が放たれれば自分の命がなくなることを理解していた。だがそれでも、たとえ自分が命を落とそうとも。
ポケモン達の命だけは、奪わせやしない。
辛うじてではあるが、右腕は動く。
その右腕で、
それが、今のマサルにできる
残酷なまでの最善手。
(あれだけ莫大なエネルギーを使う技……そう連発はできねえだろう……。俺達の体の自由を奪っているこの現象だって……技を使っちまえばその維持だって難しいはずだ。ああそうだ。
マサルはそこで、離れた場所に吹き飛ばされたダンデを見た。
そしてダンデは理解する。
マサルの表情を見て、彼が一体何をしようとしているのかを。
「ま、て……マサ……がっ!?」
ダンデを、ダンデのポケモン達の全身を支配する重圧が、一層強くなる。声を出すことすら、難しい。
それはすなわち、ムゲンダイナからの意思表明。「助けなど出させやしない」という、明確な意思表明。
(何が……無敵のチャンピオン……。俺は……俺は友人の一人さえ……たった一人の憧れた人さえ救えないのか……!!)
だが、いくら嘆いても今のダンデに、彼のポケモン達にできることは何もない。それが、現実だ。
「あとは頼んだ。ガラルの未来を守ってくれ」
そしてマサルは、ポケモン達の命を守ろうと、モンスターボールを起動させる。
しかしマサルは失念していた。マサルが己の命を懸けてでもポケモン達を守ろうとしたように。
ポケモン達
「な、んで……戻らない……!?」
ボールをいくら起動させても反応しない。ポケモン達が、ボールに戻らない。一瞬、マサルはボールの故障が頭によぎった。マスターボールを破壊したムゲンダイナが自分のモンスターボールの機能に干渉したのだと。
だが違った。
それは違った。
振り返ったインテレオンの、バンギラスの、ジバコイルの顔を見て、マサルは理解してしまった。
ボールが起動しなかった理由。ポケモン達がボールに戻らなかった理由。
それは。
ポケモン達が、ボールに戻ることを
マサルとポケモン達は絶対的な信頼関係で結ばれている。たとえ言葉にしなくとも、互いの考えていることを、互いの気持ちを、互いの感情を理解できてしまう程に。
故に、ポケモン達も理解してしまったのだ。
マサルが何をやろうとしているのか。
その全てを。
「ニンフィア!? シャンデラ!?」
「な、何やってんだお前ら!! 戻れ!!」
だが、戻らない。
インテレオンは。
シャンデラは。
ジバコイルは。
ニンフィアは。
バンギラスは。
マサルの言うことを、聞かなかった。
それは、彼らにとって───
たとえ己の命を犠牲にしてでも。
たとえ己の命よりも大事な主の命令であったとしても。
守りたいものが、ある。
その姿を見て。
自分を守ろうとするポケモン達の姿を見て。
マサルは思い出していた。
この旅の始まりを。ポケモン達との出会いを。幾人もの尊敬するトレーナー達との戦いを。
楽しいことばかりじゃなかった。辛いこともあった。苦しいこともあった。先の見えない暗闇の中でもがき続けたこともあった。
それでも、いつだって自分のそばにはポケモン達がいてくれた。
そんな旅路を。長いようで短かった、彼らとの、ポケモン達との旅路を。
マサルは、思い出していた。
(なんで……なんで今、こんなことを思い出すんだよ。もうやめろ……やめてくれ。守らなくていい。俺の命なんて守らなくていいから……)
マサルにはわかっていた。
自分がポケモン達を愛しているように。ポケモン達も自分のことを愛してくれていると。
自分の命を犠牲にして彼らの命を守ったところで、彼らが決して喜ばないということを。
マサルはわかっていた。
だけど。
「それでも俺は……お前達に生きていてほしいんだよ」
それは、ポケモン達も同じだった。何があっても、マサルにだけは生きていてほしい、と。
同時に彼らは理解もしていた。技を出せない今の自分達は、マサルの
だが、たとえそうであったとしても。最期の瞬間は───愛する主のそばで。
(ああ、そうか。そうだよな。お前達も……俺と同じ気持ちだったんだよな)
光の集束が、終わる。
あの巨大なエネルギー体は、容赦なくマサル達の命を奪うだろう。
だが、もうどうしようもない。
全ての手を尽くした。一度はムゲンダイナを追い詰めたものの、その真の力の前には為す術がなかった。
技も使えず、ボールも使えず、ポケモン達の命を守ることもできなかった。
最後の最後まで、自分の命以外の全てを諦めなかったのに、それでも届かなかった。
そんなマサルが、最期の瞬間に思い浮かべたのは。
「ずっと一緒にいるって約束、果たせそうにねえや」
一人の、少女。
「ごめんな───ユウリ」
そして。
全てを破壊する災厄の一撃が放たれる。
その瞬間───
「らいげき」
「あおいほのお」
天を貫く神の雷が。
万物を灰燼に帰す群青の炎が。
ムゲンダイナを飲み込んだ。
神話のような光景にマサルは、ただただ己の目を疑っていた。
タワートップの上空を舞う、
白と黒の伝説。
その背に跨るイッシュの英雄と、王。
だが、ムゲンダイナもただでは終わらない。
神話級の一撃を受けたことで収束させたエネルギーの大半が霧散するも、残ったエネルギーをマサル達に向けて、放つ。
「メタグロス───
マサル達に降り注ぐ白色のエネルギー体を、四つ足の鋼の要塞が、弾き返し。
異形の進化を遂げた怪物が、災厄の前に立ちはだかった。
それを従えるは、世界最高峰の鋼使いにして。
「遅くなってすまない」
ホウエン地方
「助けに来たよ、マサルくん」
───ツワブキ・ダイゴ
主人公の危機を救うのはヒロインじゃない!
次回、世界の英雄達と共に反撃に出ます。さらばムゲンダイナ!
ちなみにですが……。
【サブタイトル登場回数ランキング】
1位 ユウリ 9回
2位 マリィ 6回
3位 ツワブキ・ダイゴ 4回 ← !?
やはりダイゴさんがヒロインなのでは?
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
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