【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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No.0060 ねっとり!! ローズさん

「ユウリ、そろそろ離れろ」

「いーやーっ!!」

 

 ブラックナイトから数日後、俺はホテルのベッドでユウリに抱き着かれ……というよりしがみつかれていた。なんでこんなことになっているのかというと、俺がムゲンダイナとやり合っている中で文字通り死ぬ寸前まで追い詰められて、自分の命を犠牲にポケモン達だけを救うという決断をしたことがバレたから。

 

 俺はバラすつもりなんてなかった……というか話せば絶対面倒なことになると思ってたから黙っているつもりだったのにダンデくんがあっさりバラしやがったんだ。

 

 いや、ダンデくんに悪気がなかったのはわかってる。ダンデくんのいつもの天然が致命的な場面で炸裂しただけのことなんだ。

 

 で、それを聞いたユウリは大泣きしていた。それはそれは大泣きしていた。俺が必死に事情を説明しようとするも、こうなったユウリは何を言っても聞きやしない。

 

「マサルが悪かね」

「マサルが悪いわね」

「マサルが悪い」

 

 マリィ、トウコさん、ソニアちゃんの言である。いやそもそもローズ委員長がめちゃくちゃなことをしなかったらこうならなかったわけで……ただ、どんな理由があろうとも女の子に泣かれた時点で男が悪くなってしまうのは自然の摂理である。

 

 男性陣は俺をさっさと見捨てた(ダンデくんは事態を理解しておらずダイゴさんはニコニコと笑っているだけだった)ので、ユウリの機嫌が直るまでされるがままというかいうことを聞かざるをえないというか……。

 

 いつもとあんま変わんねえな。

 

「まさる~。もっとぎゅーってして~」

 

 甘ったるい声で囁いてくる。お望み通り抱きしめて頭を撫でてやると、ユウリはフヒフヒと気持ち悪く笑い始めた。

 

「お前ほんと笑い方キモくなったよな」

「き、貴様ーーーっ!! それが泣かせた女に言う言葉かーーーっ!!」

「もう元気じゃねえか」

 

 ユウリが俺に馬乗りになってぺしぺし叩いてきたので、両手でユウリの顔を挟むようにぎゅっとしてやることにする。

 

 おお、変な顔になったな。

 

「ぶっさ」

「超絶可愛いユウリちゃんのぶちゃいくかーーーっ!! ましゃるだって顔を潰したら変な顔に……マサルじゃなくてブサルだよブサル!!」

 

 ぎゃおんぎゃおんと暴れ散らかすユウリを抑え込みつつ、そのまま二人でベッドの上をゴロゴロ転がる。

 

 ひとしきり騒いで疲れたのか、ユウリはキャタピーのようにもぞもぞと動きながら俺に身を預けてきたのでさっきと同じように抱きしめて頭を撫でてやる。

 

「まさる~……」

「んー?」

「私を一人にしないでね……」

「するわけねえだろ。『嫌だ』っつっても一緒にいるからな」

「うへへ……うんっ」

 

 俺はユウリと出会ってから、こいつとの約束を破ったことは一度だってなかった。今回の件を除いて、だ。だからこそ余計にショックだったんだろう。……ユウリだけじゃなく、俺にとってもだけどな。

 

「ムゲンダイナの様子はどう?」

「おとなしいもんだ。ボールの中でずっと寝てるみたいだな」

 

 無理もない。寝起きでエネルギーを過剰に供給されて伝説達に袋叩きにされたんだから。ポケモンセンターで回復してもらったものの、マスターボールの中でずっと眠り続けている。

 

 ムゲンダイナの力は一個人が所有するには過ぎた力だ。本来ならガラルのポケモンリーグ預かりになってもおかしくない状況だったけど、そこはダンデくん、トウコさん、ダイゴさん、レッドさん、グリーンさんが交渉()したらしい。

 

 リーグ関係者は涙目だったとかなんとか。

 

 ……あの五人に囲まれたら誰だってそうなるわな。

 

 ちなみにグリーンさんはたった一人で押し寄せるダイマックスポケモンを蹴散らし、シュートシティを完璧に守り切ったらしい。やっぱ半端ねえなあの人。

 

 他の街もジムリーダー達の到着が間に合ったようで、建物の破損が多少あったものの重傷者や死者はゼロという結果に終わった。

 

 一見奇跡的に思えるが……奇跡なんかじゃねえ。ローズさんはそこまで計算していたんだろう。シュートシティ以外の各街のスタジアムで試合が()()()()()()()()()()()こそ、一か所に集まった人々が混乱で身動きが取れなくなり犠牲になる……という事態を避けることができたんだ。

 

 唯一人が大勢集まっていたのはシュートシティスタジアムだけ。だが、ここにはダンデくんを始めとして優秀なトレーナーが集まっていたからどうにでも対処ができる。

 

 ローズさんってやってること自体は無茶苦茶なのにその辺の計算はしっかりしてるよなぁ。ムゲンダイナを捕獲したその日の内に自首して全ての責任を自分が負う形で終わらせようとしてるし。

 

 ちなみにユウリとダンデくんのバトルはまだ行われていない。こんな状況だからあと数日……いや、一週間くらいは延期になりそうだ。

 

「まさる~……」

 

 猫撫で声を出しながらユウリが俺をじっと見つめてくる。こういう視線を俺に向けるユウリが何を望んでいるのか。残念ながら俺にはそれがわかってしまう。

 

「んっ……」

 

 抱き寄せてキスをすると、ユウリが甘い声を漏らした。顔を離せばユウリは頬を紅潮させ、とろんと蕩けそうな目付きで俺を見ている。……ほんとにこいつは黙っていればレベル100だな。口を開けばコイキング以下だけど。

 

 そんなことを考えていたら、枕元に置いていたスマホロトムがふよふよと浮かびながら俺の頭上をくるくる回り始めた。

 

 もう時間か。

 

「悪いユウリ。時間だ」

「え~……私を一人しないって約束したのに~」

「だからちゃんと───」

 

 丁度良いタイミングで、部屋のドアをノックするコンコンという音が響く。

 

 ユウリが駄々をこねることなんてわかりきっていたから、俺はちゃんと策を用意しておいたんだ。

 

「マリィを呼んである」

「マリィ!!」

 

 ユウリは勢いよく飛び起き、寝間着のままバタバタと部屋の入口へ向かって勢いよくドアを開けた。

 

「おはよユウリ。起き───」

「マリィマリィマリィマリィ~~~!! う~んこの匂いとこの感触たまりまへんなぁ~!!」

「ちょっ……ユウリ……! くすぐったいけん……!」

 

 その勢いのままマリィに抱き着き、犬っころのように鼻をくんくんと鳴らしている。とことん発言が気持ち悪いなおい。

 

 まあいいや。可愛い女の子同士の絡みに男が混ざるなんて許されねえからな。

 

「この惨状を放置した挙句なんも言わんと出ていくつもり!?」

 

 そう考え、二人の横をそそくさと通り抜けようとするとマリィに盛大にツッコまれた。

 

「おはようマリィ。良い朝だね」

「おはようマサル! 素敵な挨拶ありがとう! って!! そうやなか!!」

「あ、マサル。いってらっしゃ~い。お昼ご飯一緒に食べようね~」

 

 俺はそのまま二人にひらひらと手を振って背を向ける。マリィには後で何か甘い物でも奢ってあげよう。

 

 

 

 

 

 

 そして俺がやってきたのはシュートシティにあるガラルで一番でかい警察署だった。受付で手続きを済ませ、手持ちのボールを預けた後に案内に従って面会室へ入る。面会室は部屋の中央を大きなガラスで仕切られており、そのガラスの前には椅子が一脚置いてあった。映画やドラマで見たまんまだな。

 

 椅子に座ってしばらく待っていると、ガラスで仕切られた反対側の部屋のドアから一人の男性が警官二人と一緒に入ってきた。

 

「やあマサルくん。また会えて嬉しいですよ」

「……痩せました?」

「ここの食事はいささか塩分が少なくてね」

「ダイエットになって丁度良いじゃないすか」

 

 胡散臭さの残る笑顔で俺の対面に座ったのはローズ()委員長だった。ブラックナイトの翌日、ローズさんはあっさり自首して自分のやってきたことをあっさりと全部話しているらしい。

 

 とはいえ……。

 

「取り調べでくそ忙しいはずなのになんでわざわざ俺を呼び出したんです?」

「君と少し話をしたくなってね。ムゲンダイナを捕獲した君と」

 

 そんなことだろうと思った。ローズさんの計画じゃあ、ムゲンダイナを捕まえるのはダンデくんの役割だっただろうからな。いや実際、ダンデくんが捕まえる寸前までいったんだよ。ただムゲンダイナが規格外過ぎてマスターボールをぶっ壊しただけで。

 

「君も私に聞きたいことがあるんじゃないのかい? 地下プラントではゆっくり話もできなかったからね」

「こういう面会って事件の内容を話すのはダメなんじゃないです?」

「それが許されるくらいの力はまだ持っているつもりですよ」

 

 ローズさんが目配せすると、後ろに控えていた警官二人が面会室から出て行った。おいおい、そんなことまでできんのかよ。監視カメラがついているとはいえやりたい放題だな。さすがガラルの経済を一手に担っていた男。

 

 まあいっか。俺も聞きたいことはあったし。

 

「……どこまで想定していたんです?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ」

 

 尋ねるとあっさりととんでもねえことを答えやがった。

 

「解説としてリーグを通して公式に招いていたレッドさん、グリーンさん、ダイゴさんはともかく……」

「イッシュの英雄と王についても()()()()ですよ」

「あの二人は世界各地を放浪していた。それがタイミングよくガラルに来るなんてこと……」

「それができるだけの人脈をガラル以外にも広げてきましたからね」

 

 ガラルの経済を、エネルギー産業を一手に担っていた以上、その人脈はガラル国内だけにはとどまらない。いや……だがそれでも、トウコさんとNの二人をそう簡単にガラルへ誘導することなんてできるのか?

 

「君はどうやら───二年前のイッシュの()()を知っているらしい」

 

 ローズさんの射貫くような視線が俺を捉える。

 

 Nがきっかけでイッシュのポケモンリーグが物理的にぶっ壊されたのは公にはなっていない。表向きには、あくまで強大なポケモンの暴走という形で報道されている。その真実を知るのは、各地方の一部の権力者や事件の当事者、あとは俺のような例外くらいだろう。

 

「実際に()()()()()からね」

 

 嘘は言ってない。まあ、本人達に聞いたどころか見てきたんだけどな。

 

「……なるほど。確かに、彼女達二人は正式に招けるような()()()()ではありませんでした。ですが、二人の目的を()()()()()()()()、ガラルに誘導することなど容易い。イッシュの王となるはずだった青年は人とポケモンの真実を追い求めていた。そして、このガラルにおける人とポケモンの関係性は彼の求める真実にきっと近い。だからこそ、そういう情報を違和感なく自然に彼の耳に届くように流すことができれば、彼は自分の意志でここにやってくる」

「トウコさんはNを追っていた。だから彼女にはNの足跡(そくせき)を与え、ガラルへと誘導した」

「そういうことです」

 

 サラッと言ってるが、とんでもねえ情報操作能力だなおい。いやまあ、ムゲンダイナの存在を今の今まで完璧に隠してきてたんだから情報を隠蔽するのなんてお手の物なんだろうけど……いやそれにしてもだろ。相手は各地方のレジェンドクラストレーナーだぞ。ここまで手玉に取るなんて……。

 

「ダンデくんがムゲンダイナを捕獲する展開が理想的ではあったのですがね。ガラルが誇る無敵のチャンピオンの制御下であれば誰もが安心したでしょう」

「残念でしたね。期待通りの展開にならなくて」

「残念? 馬鹿を言っちゃあいけないよ。私の期待を裏切ってくれるなんて……これほど()()()()ことはない」

 

 虚勢……じゃないな。いつもの胡散臭さを感じない笑顔だ。

 

「あの場に集まっていたトレーナー達だけじゃない。剣と盾のポケモン、ザシアンとザマゼンタが君を認め、ムゲンダイナは君を()()()。そんな君こそ、()()()()()()に相応しい」

「俺()こそ、でしょう。俺一人じゃ、とてもじゃないですが何もできなかった」

「それでも、君がいたことでムゲンダイナが救われたことには変わりない」

「救われたって……そういうことを言うのなら初めからこんな無茶苦茶な方法を取らないでくださいよ。エネルギー問題は確かに未来に残しちゃいけない負の遺産でしょうけど、今すぐガラルが滅亡するわけじゃない。やり方が極端過ぎます」

 

 ダンデくんだって普通に協力するつもりだったし、話聞いたときは意味不明で宇宙猫だったわ。

 

「思い立ったらすぐに行動しないと気が済まない性質(たち)でね。ただ、それだけが理由じゃない。この問題は、ガラルが抱えるエネルギー問題は私が一人声高に叫んだところで解決しない。この地に住む人々に()()()()()()()()必要があったのですよ」

 

 言わんとすることはわかる。元の世界でもそうだったからな。エネルギー問題や環境問題……こういう問題は一人一人が意識をしないと解決できない問題なんだ。

 

 だからといってやり方が極端すぎるのに変わりはねえけどな!

 

 おかげで死にかけたしユウリを泣かせる羽目になったしな!

 

「しかし、私の計画で君が命を落としかけた。これは完全に私の落ち度です。申し訳ありませんでした」

 

 ローズさんはそう言って俺に深く頭を下げる。俺がムゲンダイナを捕獲した以外は全部想定内って言ってたけど、これも想定外なんじゃねえの? ローズさん的には犠牲者を出さないように計画してたはずだからな。

 

「それに関しては……俺にも自惚れていた部分がありましたから」

 

 ナックルシティへ向かうのではなく、ダイゴさん達との合流を最優先にしていればあんなことにはならなかったはずだ。まあ、あの時は混乱で回線が込み合ってて連絡が取れなかったっつー事情もあったんだけど。

 

「で、ローズさんはこれからどうするつもりなんですか? マクロコスモスの株価がえらいことになってますよ」

「どうするかなんて決まっていますよ。全ての責任を背負い、辞任する。全ては私の独断と暴走。他の社員は()()()()()()()()

「……それが通ると思っているんですか?」

()()()()よ。それが私の、代表としての()()()()()だ」

 

 この人が言うのならば本当にそれを通すのだろう。というか、ここまでが計画だったんだろうな。自分の壮大な計画に巻き込んだ会社を、社員を守る。ただ、実際ローズさんをどんな罪に問えるのかって言ったら……何になるんだろうな。

 

 誰かを殺した訳でも、会社の金を不正に使った訳でも、国家の転覆を企んでいた訳でもない。後で分かったことだけど、ローズさんはこの一連の騒動に対してマクロコスモスの財力を一切使わず、全て()()で賄っていたらしい。

 

 それが彼なりのけじめだったのだろう。会社を巻き込むにしても、その被害を最小限に抑えるための。

 

 そういう人だからこそ、これだけの事件を起こしているにもかかわらず、わずか数日で減刑を請う活動が活発に行われている。こういう状況は少なからず裁判に影響するはずだ。

 

「そもそも、マクロコスモスの実務は私がいなくとも十分に回ります。それだけの人材を集め、育成してきた自負がある。数年は逆境に立たされるでしょうが、()()()()で倒れるようなやわな会社を作った覚えはありません」

 

 マクロコスモスに対する重過ぎるほどの信頼。確かに、実務に関してはオリーヴさんがほぼ全てを担っていたらしいから問題はないだろうけど……。

 

 まあぶっちゃけ、その辺の大人の事情に首を突っ込む気はない。っつーか、俺みたいな子供にできることなんてほとんどないだろうしな。

 

「話は変わりますが、君に頼みがあります」

「……引き受けるどうかは別として、聞くだけなら」

「厳しいですねぇ」

「こんな状況でほいほい安請け合いなんてできる訳ないじゃないすか」

 

 頼みごとをするにしてももっと他に適任がいるだろ。なんでわざわざ俺を……あー、というか、俺を呼び出した本題がこっちだったか。

 

 何を頼まれるのかと内心警戒していたが、ローズさんの依頼内容は完全に予想外のものだった。

 

「私のポケモン達を、君に預かっていただきたいのです」

「……は?」

 

 思わず間抜けな声で聞き返してしまった。……今なんて言いました? 預かってほしい? ポケモンを?

 

「裁判の結果次第でしょうが、おそらく私は数年は出てこられないでしょう。そもそも、ポケモン達には何の罪もない。にもかかわらず、施設送りにしてしまうのはあまりにも不憫でしてね」

「いや……まあ、話は分かりますけど、なんで俺なんですか? それこそ、オリーヴさんやダンデくんの方が……」

「オリーヴくんにはこれからマクロコスモスを引っ張っていってもらいたい。ダンデくんには……これ以上重荷を背負わせるのは忍びなくてね」

 

 俺ならいいんかい。とツッコミたかったが、あの二人に任せるのが難しい理由はわかる。オリーヴさんは会社の立て直しでそれどころじゃない。でも、どんな状況であろうと、彼女はローズさんの頼みなら確実に引き受けるだろうからなおさら頼むわけにはいかないのだろう。

 

 ダンデくんはダンデくんでチャンピオンっていう立場にいて、抱えているものが大き過ぎる。

 

 ただ、なんでその次に俺に頼むのかがわかんないけどな!

 

「一番の理由は、私が君のファンだからですよ」

 

 ローズさんは疑問を浮かべる俺に向かってそう言った。なんだろう……言葉自体は嬉しいはずなのにすげーねっとりとした湿度を感じる気がする。

 

「私は君に夢を見た。私と似た境遇にありながら、私と同じく一度諦めてしまった人間でありながら、君は私と違う答えを得て立ち上がった。たとえそれが、どれほど茨の道であろうとも、全てを諦め、受け入れる方が楽だということを知りながらも、君はそれでも前に進むことを決めた。私にはできなかった生き方を選んだ君を、尊敬しています」

 

 俺はこの人の過去に何があったのかを知らない。ローズさんは、自分にできなかった生き方を俺が選んだと言ったけれど、茨の道だと知りつつも、諦めたほうが楽だと知りつつも、それでも前に進み続けてきたのはこの人だって同じだろう。だってこの人は、全てを理解しながらも、ブラックナイトを引き起こしたのだから。

 

 ここに来るまで、俺には想像もできない苦労をしてきたはずだ。多くの失敗を、苦境を、挫折を乗り越え……そして、()()()()()()()、この人は己の野望を実現させた。 

 

「私の()()()()()()()()()()()に任せるのは心苦しくはありますが……それでも私は、君に託したいと思っている」

 

 そう話すローズさんの顔は、マクロコスモスの代表としてでも、ポケモンリーグの委員長としてでもなく、俺と同じ、ただ一人のポケモントレーナーとしての物だった。

 

 だから俺は。

 

「俺でよければ、引き受けましょう」

 

 こう答える以外の選択はなかった。

 

 そして、俺の答えを聞いてローズさんは、いつもの胡散臭くて何を考えているのかわからない笑顔ではなく、憑き物の落ちたような穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

 立場が人を作るとは言うけど、この人の場合はちょっと極端だな。

 

 にしても、ローズさんのポケモンってキバナさんに話を聞く限り鋼タイプばっかなんだよな。うーんこれはダイゴさんに相談ですね。聞いてないこともノリノリで答えてくれそう。

 

 あと、次にビート少年に会ったら「俺はローズさんからポケモンを任されたけど?」ってマウントを取ってイキり散らかしてやるか。どんな反応を見せてくれるのか楽しみだ。

 

 で、思い出したついでに、ローズさんにビート少年のことを尋ねてみると……。

 

「ジムチャレンジを失格になったのは本当に残念でしたよ。ですが、ポプラくんに拾われてポケモン達との向き合い方が、人との向き合い方が大きく変わり成長しました。今の彼は、とても良い顔をしています。将来が非常に楽しみですね。……トーナメントに乱入してくるのは予想外でしたが」

「あ、そこはわかんなかったんすね」

「アラベスクタウン……というよりもポプラくんの動きは私の情報網を駆使しても把握できないところがありますから」

 

 イッシュの英雄や王すら掌の上だったってのに、やっぱとんでもねえなあの婆さん。

 

「マサルくん、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」

「……答えられることなら」

 

 話が一段落し、面会時間の終わりを告げるブザーが鳴る。

 

 もう、時間か。

 

()()()()()()()()()()()()()ずっと疑問に思っていました」

 

 その言葉に、ダンデくん共にハロンタウンにやってきたローズさんと初めて会ったあの日のことを、シュートシティで初めて言葉を交わした日のことを思い出す。

 

「君は一体、何者なんだい?」

 

 その問いに、俺は迷いなくこう答えた。

 

 

 

 

 

 

「俺は───ポケモントレーナーですよ。()()()()()からね」

 

 

 

 

 

 

 面会を終えて警察署を出ると、ダンデくんと遭遇した。迷子になって警察の人に道を聞きに来たとのと思ったが、どうもそうじゃないらしく、さっきまで事情聴取を受けていたとのことだ。俺達も散々事情聴取されたな……。俺達以上にローズさんに近い立場にあったダンデくんの比じゃないけど。

 

「委員長と話はできたのか?」

「色々話したよ。最終的になぜか俺がローズさんのポケモンを預かることになった」

 

 といっても、すぐに預かれるわけじゃなく、色々と手続きが必要なため、後日改めて説明やら書類の用意やらしなければならない。

 

「……そうか、君に託されたのか。普通は肉親に任せたりするものだが、委員長は独身で、弟とも絶縁状態だったらしいからな」

「ローズさんの弟……チラッと聞いた記憶がある」

 

 確か、ラテラルタウンの遺跡をぶっ壊したダイオウドウはローズさんが弟と一緒に捕まえたとかなんとか言ってたような……。

 

「昔のガラルチャンピオンだぜ。ローズ委員長の就任と同時にチャンピオンを辞めたんだが……」

「……あんまり仲が良くなかったのか」

「そうらしい。俺がチャンピオンになってから委員長の弟……ピオニーさんには何度か会ったことがあって、すごく陽気な方でよくしてもらったんだ。ただ、幼少期から委員長と比較され続けてきたみたいでな」

 

 なるほど。ガラルの歴代チャンピオンだとダンデくんやマスタードさんが飛びぬけて知名度が高いから、そんな人がいるなんて知らなかったな。俺も特に調べようとは思わなかったし。まあ、あれだけ優秀なローズさんと比較され続けて育ったのなら何かしら歪んでもおかしくねえよ。

 

 周囲から優秀な兄と比較され続けて歪んでしまった元チャンピオン……背景だけなら黒幕じゃね?

 

 と、この時の俺はそう思っていたが、後々ピオニーさんと出会い、「伝説の○○伝説!!」という伝説がかぶったネーミングのツアーでこの人に黒幕オーラなんぞ一ミリもないことを知るのだった。

 

「今回の一件でマクロコスモスも、ガラルポケモンリーグの在り方も大きく変わるだろう。俺は委員長の意志を継ぎ、ガラルのエネルギー問題にしっかりと取り組んでいくつもりだ。もちろん、もっともっとポケモンリーグを盛り上げていくことも忘れないがな」

 

 ガラルではポケモンバトルがメジャーな興行として成立していて、その経済効果は計り知れない。マクロコスモスが苦境に立たされている今だからこそ、国民全員がより一丸となって盛り上げていく必要がある。

 

 言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しい。

 

「俺はチャンピオンになってからずっとこう思っていた。一部のトレーナーだけが強く在るのではなく、ガラルに住む全員がもっとポケモンに対する理解を深め、もっと強くなってほしいと。確かに、ガラルは他の地方と比べてポケモンバトルが身近なものだが、それでもまだまだ足りないと思っている」

「ジムチャレンジは興行としては優秀なシステムだけど、そもそも推薦されないと参加すらできない。もっと気軽にバトルができて高め合える施設でもあればいいな」

「それについては考えているぜ。ジムチャレンジ以外でもジムリーダー達に挑めるような施設をな」

 

 ほーん? バトルサブウェイみたいな? あれも大概魔境だけど。

 

「あと思いつくのは……ランキングと二つ名だな! 男の子達はみんな大好きなんだ。ガラルランキング第〇位『無敵』のダンデ! みたいなのが」

「確かに、それは心が擽られる」

 

 俺の提案にダンデくんは表情を綻ばせた。

 

 バトル漫画には外せない要素だな。ただ、漫画だと大体インフレし過ぎて最終的にランキングが意味をなさなくなるけど。

 

「あとさ。ジムリーダーとは別枠で『四天王制度』を導入してもいいんじゃない? 今の制度だとチャンピオンの負担がでかすぎる気がするんだよな。圧倒的チャンピオンの存在におんぶにだっこ……()()()()()()()それでいいかもしんないけど、リーグの業務って多岐に渡るだろ? 組織の抜本的な改革を行うのなら、チャンピオンを補佐するポジションが絶対必要だと思う」

「……なるほどな。検討してみよう」

 

 それからも二人であーでもないこーでもないと色々議論しながらホテルまでの道のりを歩いていく。

 

「そうだ。大事なことを伝え忘れていた。延期になっていたチャンピオン決定戦が三日後の13時に決まったんだ。ユウリにも連絡が入っているだろうが、念のため伝えておいてくれるか?」

「おーけー。ダンデくん、寝坊しないようにな」

「昼からだから大丈夫だ」

 

 子供の頃からそれで何度遅刻してきたんですかねぇ? まあいい。いざとなったらソニアちゃんをけしかければ問題ないな。あ、ソニアちゃんで思い出したわ。キバナさんの話によると、俺達がムゲンダイナとやり合っている最中、ソニアちゃんは地下でオリーヴさんとガチバトルしてたらしい。で、半泣きになりながらもソニアちゃんが勝ったとか。……ソニアちゃんはちょっと不憫なくらいが可愛いな!

 

「マサル。君は以前、俺にこう言ったな。『俺が自分を超えるトレーナーが現れることを期待している』と」

 

 覚えてる。確か、ダンデくんにポケモンをもらった次の日……旅に出る前のことだったな。

 

「俺自身にそういう気持ちがあったことを否定はしない。だけどな、マサル」

 

 そしてダンデくんは、俺に向き直ってこう言った。

 

 

 

 

 

 

「俺は、君とフィールドで相まみえるまで───誰にも負けるつもりはないぜ」

 

 

 

 

 

 

 こういう所が、ダンデくんがガラルの人達に愛される理由なのだろう。見る者を虜にし、その心に火をつける。ポケモントレーナーの頂点に立つに相応しい存在。

 

「チャンピオンタイムを楽しめ、マサル」

 

 ダンデくんはそう言って、俺に背を向けて颯爽と歩いていく。その身に、その双肩にどれだけの期待を、希望を、重圧を背負っているのか、俺には想像もできない。

 

 そして、それら全てを一身に背負い、立ち上がり、君臨する。

 

 そのような存在を、人は「チャンピオン」と呼ぶのだろう。

 

 感慨深い気持ちになりながら、俺は気付いた。

 

 とてもとても、()()()()()に気付いてしまった。

 

 ダンデくんを、一人で先に行かせてしまったということに。

 

 だが、気付いたところで時すでに遅し。

 

 案の定、ダンデくんは迷子になってしまうのだった。




 ユウリ:ベッドの上でマサルといちゃいちゃちゅっちゅ→さすがメインヒロインの風格。
 ローズ:留置所でねっとり面会。自分の大事なポケモンをマサルに任せる→さすが剣盾ヒロインの風格。
 ダンデ:「マサルと戦うまで誰にも負けない」→さすが主人公に憧れを抱く一途ヒロインの風格。

 見事なハーレムですね(白目)

 次回、ユウリVSダンデ

 本作のラストバトルです。おそらくあと3話くらいで最終回。

 最後までお付き合いお願いします。

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

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