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マサル「お前パシオで優遇され過ぎじゃね?」
ユウリ「可愛いユウリちゃんは世界中で大人気なのだ!」
ポケマスでマサルとユウリがいちゃらぶするストーリーはよ!!
リザードンが倒れ、チャンピオンの証である帽子が高々と宙を舞う。
ダンデくんの表情は、悔しさを滲ませながらも驚くほどに晴れやかだった。
「ははっ……本当に、本当にやりやがったあいつ。ユウリが……ダンデくんに勝った……」
スタジアムはかつてないほどの熱狂に包まれている。いや、熱狂なんて生易しいもんじゃない。ガラルの伝説が終わる瞬間を、歴史が変わる瞬間を目の当たりにしたんだ。観客達は我を忘れたかのように叫び、歓声を上げている。
だけど俺は、そんな周囲の喧騒なんて全く耳に入ってこなかった。
ただただ、心の奥底から熱いものがこみ上げてきている。
それを堪えるので、必死だった。
「マサル、お前……」
視界が、滲む。肩が震えているのが、わかる。
ホップが俺に声をかけてくるも、俺には、熱くなった目頭を押さえるだけで精一杯だった。
「……そうだよな。お前が一番、ユウリのそばでずっとあいつを見てきたんだもんな」
ホップはそう言って俺の背中を優しく叩いた。
「マサルもそんな風に泣くんやね」
「……いや、自分でもびっくりしてる」
本当にびっくりだ。レッドさん達に会えた時のような感動とは全く違う。
あのユウリが。
わがままで。能天気で。年齢以上に子供っぽくて。甘えたがりで。小さい頃からずっと俺にくっついてきていたあいつが。
チャンピオンになった。ガラルの頂点に立った。
大きな大きな喜びの中に、ほんの少しの寂しさと……悔しさ。
ああ、そうか。そういうことか。
「……
観客席で見ているだけじゃない。フィールドに立って、ダンデくんと戦いたかった。勝ちたかった。チャンピオンになりたかった。
他でもない、俺自身が。
「何を言ってるんだ? これから先、いくらでもユウリ達と戦う機会はあるぞ。俺達が挑戦し続ける限りな!」
「そうやね。こんなこと言うと打ち切り漫画みたいやけど……あたし達の戦いはこれからだ! 最後に勝つのはマリィやけんね!」
二人の言葉には納得しかない。珍しくおセンチで感傷的になっちまったな。だけど俺は俺の感情を否定しない。そういう感情を抱いたことを否定しない。それを全部受け入れて、俺は前へ進むと決めたんだから。
「ま、今はひとまずユウリとダンデくん、ポケモン達に拍手だな」
「そうだな!」
「うん!」
「うえーーーん!! ユウリっっ!! よぐ……よぐがんばっだねえ!! あのダンデぐんに勝づなんで……!! ちっちゃい頃がら見てきたユウリが……あんなに立派に……うえーーーん!!」
メイクが崩れるのもお構いなしに、鼻水と涙を垂れ流しながらソニアちゃんが大泣きしていた。相棒のワンパチもちょっと引いてるじゃねえか。
「……ソニアの泣き顔笑えるぞ」
「ソニアちゃんはこういうところが可愛いんだよな」
「ちょっとはフォローしんしゃい!!」
勝った。
私が、勝った。
ダンデさんに、勝った。
呼吸が、荒い。高鳴る鼓動だけが聞こえてくる。心臓が張り裂けそうなくらいに脈打っている。身体中が、熱い。ううん、身体だけじゃない。心が、魂が、燃え上がるように熱い。
「おめでとう、ユウリ。君が新しいチャンピオンだ。そして、最高の試合をありがとうだ」
ダンデさんが清々しい笑顔を浮かべて私に歩み寄ってくる。
そっか。私が、チャンピオン……新しいチャンピオンに、なったんだ。
なんだか、全然実感がわかないや。
「君という素晴らしいポケモントレーナーに、俺達のチームを打ち破ったポケモン達に心から賞賛を。これからも自分自身とポケモン達を信じて突き進め!」
ダンデさんがそう言って私に手を差し出してきた。私はその手をしっかりと握り返し、ダンデさんを見上げる。その表情から、握った手から、色んなものを受け取った気がした。
「……俺の様にはならなくていい。君は君らしくあり続けるんだ。」
「はい」
そしてダンデさんは私にしか聞こえない声でそっとそう言った。
私らしく、か。うん、そうだよね。だって私はダンデさんみたいなチャンピオンにはなれないんだもん。私にないものをダンデさんが持っているように、ダンデさんにはないものを私は持っている。
マサルがそれを教えてくれたから。
……うん、そうだ。マサルだ。
あの時、マサルの声が聞こえたから。
マサルの言葉を思い出したから。
私はダンデさんに勝つことができたんだ。
……会いたい。
なんだか無性にマサルに会いたくなっちゃった。
そう思った途端、マサルの顔を思い浮かべた途端。
緊張の糸がぷっつりと切れちゃったみたいに、全身に力が入らなくなって……。
あ、あれ……? 足が、震えて……立って、いられない……?
私はそのまま、その場にペタンと座り込んでしまった。
「……ユウリ?」
ダンデさんが私と視線を合わせるようにしゃがみ込んで心配そうに尋ねてくる。でも私は、そんなダンデさんの気遣いに応えることができなくて……そんな余裕がなくて───
『決めた! 私、この子にするっ! おいで、ヒバニー!』
『ファー♪』
『マサルっ! マサルっ!』
『なんぞね?』
『最初の一歩……「せーの!」で一緒に踏み出そっ!』
『私、ユウリ! マサルのおねーさん的ポジションの幼馴染だよ! 君のお名前、教えてくれるかな?』
『あ、えっと……ま、マリィ』
『マリィっていうんだ。可愛い名前だね! 私のことは気軽にユウリって呼んでね!』
『俺は君達を───待っていた』
『はじめまして。僕はダイゴ。ツワブキ・ダイゴ。ホウエン地方出身のポケモントレーナーだよ。よろしくね』
『……あなた、チャンピオンに推薦されたジムチャレンジャーでしたよね?』
『うん、そうだよ。君は?』
『僕はローズ委員長に推薦されたトレーナーです。チャンピオンよりもリーグ委員長の方が偉い……つまり委員長に選ばれた僕の方がすごいのですよ!』
『改めて自己紹介するね。あたし、イッシュ地方出身のトウコ。ガラルに来てまだ一週間くらいで……さっき見せた写真の男の人を探しに来たんだ』
『あの……サイトウさん』
『はい。なんでしょう?』
『さ、サイトウさんは……ま、マサルのこと……どう思って、ますか?』
『マサル、ですか? そうですね……私にポケモントレーナーとしての在り方を示してくれた恩人であり、互いに高め合うライバルであり、良き友人……そんな、特別な人です』
『と、特別ですか……』
『(ああ、なるほど。そういうことですか)……安心してくださいユウリさん───マサルを取ったりしませんから』
『にゃっ!? にゃにゃにゃにを言ってるんですかっ!? べ、別にしょんなの気にしてにゃっ!! 気にしてないですっ!! ありがとうございましたっ!! さようならっ!!』
『ふふっ。ユウリはほんとに、そーゆーところが羨ましいくらい可愛らしかね』
『そんなユウリやからこそ……あたしの一番の友達のユウリやからこそ、ちゃんと言うね? あたし───誰にも負けんから。ユウリにも、マサルにも、ホップにも、兄貴にも……チャンピオンダンデにも。絶対に、誰にも負けん。あたしが一番になる。あたしが、チャンピオンになるけん』
『ま、そいつが言った通りだな。俺はグリーン。こいつはレッド。カントー地方のポケモントレーナーだ。よろしくなガラルのジムチャレンジャー達』
『ここまで来たね、ユウリ』
『ここまで来ちゃったね、マリィ』
『緊張しとる?』
『ううん。ぜーんぜん! むしろすっごくわくわくしてるよ。こうやって本気中の本気のマリィと戦える……練習試合じゃない、後がないこの大舞台でマリィと戦えるのを楽しみにしてた』
『ふふっ、ユウリはどんな時でも変わらんね。あたしはさっきまで緊張しとったけど、今はユウリと同じ気持ち。あんたにはこれまで一回も勝てんやった。だからここでリベンジさせてもらうけん。スパイクタウンのみんなの思いとか、兄貴の期待とか、色んなものを背負ってここに立ってるけど、結局はあたしが一番チャンピオンになりたか! これまでの旅路を、歩んできた全部全部ぜーんぶあんたにぶつけて、あたしが勝つ!』
『おめでとう、ユウリ。あんたは、あたしが出会った中で一番強いトレーナー。ユウリと、あんたとここで戦えてよかった。あたし、今日のこと、絶対忘れんけんね』
『ありがとう、マリィ。マリィは、私が戦ってきた中で一番強いトレーナーだよ。何度もヒヤッとさせられて、その度にひりひりして、高揚して……マリィとここで戦えてよかった。私も絶対に、絶対に今日のこと、忘れない』
『マサルは、強いぞ』
『マサルの強さは───私が一番よくわかってる』
『私ね、待ってたんだよ。ずーっとずーーーっとずーーーーーーーっと……待ってたんだよ』
『だからね、マサル。ちゃんと聞かせて。あなたの───あなただけのこたえを』
『お前に勝って───俺がチャンピオンになる』
『俺はお前に言ったよな? 「お前は深く考えずに、自分の直感を信じろ。そうしているお前が一番強い」って』
『迷ってんじゃねえ。悩んでんじゃねえ。ビビってんじゃねえ。俺を見ろ、ユウリ』
『今、お前の前に立っているのは誰だ?』
『お前の目の前に立っているのは───お前が全身全霊をかけなくちゃ倒せないポケモントレーナーだろうが』
『俺はな、ユウリ。お前に勝ちたいんだよ。心の底から尊敬するポケモントレーナーユウリに勝ちたいんだよ!!』
『ユウリ───お前の勝ちだ』
『ユウリ。お前は、勝ったんだ。俺に……俺の全てに勝ったんだ。だから、胸を張れ───ポケモントレーナーユウリ』
『うん』
『次に俺と戦うまで、誰にも負けるな───ユウリ』
『うんっ!』
『大丈夫だ、ユウリ』
『何も心配すんな。お前の不安がなくなるまで、お前が落ち着くまで……ずっとずっと、こうしててやるから』
『……うん』
『ユウリ』
『俺と一緒に───世界を見に行こう』
『お前とずっと、一緒にいたいんだ』
『ずっと?』
『ずっと』
『ずーっとずーーっと?』
『ずーっとずーーっと』
『ずーっとずーーっとずーーーっと?』
『ずーっとずーーっとずーーーっと』
『ぐわあああああああっ!? 修行のトラウマが蘇るぅ!! はぁ……はぁ……よくもポケモンだけじゃなく僕の能力も低下させてくれたな……本当に何者なんだあのバアさん!! だけど僕は負けない!! こんな理不尽に負けやしない!! 行きますよユウリさん!! 僕はフェアリータイプとエスパータイプを操る大いなるピンクを継ぐ者!! いざ尋常に勝負!!』
『私はハイパーキュートウルトラプリティDXユウリちゃんαΩ!! 受けて立つよ!!』
『……お見、事……です。まさか、ここまで力の差があるとは……精進あるのみ、ですね。おめでとうございます、ユウリさん。あなたの強さはきっと……歴史を変える』
『インテレオンとマサルの弔い合戦……なんてことを言う余裕なんて微塵もなかったわ。あなたのその強さ……七年前のあいつを思い出させるわね……』
『この俺様が……お前のポケモンを三体倒すだけで終わるとはな。決勝で負けちまったのは死ぬほど悔しいが……若いやつらの成長には驚くしかねえ! 未来しかねえ! この勢いのままダンデをぶっ飛ばしちまえよ!』
『俺は、ムゲンダイナと一緒に世界を旅して、たくさんのことを一緒に知りたいと思う。その旅の中で、少しずつ世界のことを、自分のことを知っていく中で……自分の力の使い方を、自分の力との向き合い方をゆっくり覚えていってほしい。力を制御するのは、俺じゃない。ムゲンダイナ自身だよ』
『……どうして』
『……どうして君は、そこまで?』
『だって俺は───ポケモントレーナーだから』
『俺の試合はいつも満員になるんだが、これほど熱狂しているのは初めてだ。……みんな知っているんだ。俺達が剣と盾の伝説のポケモン達と共にガラルの未来を守ったことを。君は、屈強なライバル達を退け、ガラルが誇るジムリーダー達を打ち破りここに立っている。間違いなく、歴代最高のチャレンジャーだ。俺の無敗記録を伸ばすにはもってこいの相手だぜ』
『……こうして、ここで立って向かい合っただけでわかります。ダンデさん……あなたは間違いなく、私が対峙したトレーナーの中で一番強い』
『だけど私はマサルと約束しました。「次に彼と戦うまで誰にも負けない」って。ダンデさん、あなたがどれだけ強くても、あなた達がどれだけ強くても……私は、私達はあなたを超えていく』
『……そうか。奇遇だな。俺も約束したんだ。俺が生涯で唯一憧れたトレーナーとフィールドで相まみえるまで誰にも負けないとな』
『勝て!! ユウリ!!』
『私は───ポケモントレーナーのユウリだ』
色んなことがあった。本当に、たくさんの……ことが、あった。語り尽くせないくらい、たくさんのことが。
ここに来るまで。
私がチャンピオンになるまで。
たくさんの人と出会って。たくさんの人に支えられて。
みんながいたから。
そして何より。
マサルがいてくれたから。
私はここまで来れたんだ。
気付けば、心の奥底から湧き上がってくるたくさんの感情が、涙と一緒に溢れていた。
会いたい。
会いたいよ。
今すぐ君に……マサルに会いたい。
「うえ~~~ん……ましゃる~~~!!」
「ユウリが大泣きし始めたぞ」
「マサルのこと呼んどーね」
「……さっきまでの感動と涙がどっか行ったな」
スタジアムの大型モニターにユウリの泣き顔が盛大に映し出されている。何をやってんだあいつは。ダンデくんと握手したかと思ったらいきなりへたり込んで大泣きして……いやまあ、あいつらしいっちゃあいつらしいが。
「マサル、兄貴が困ってるぞ」
「マサル、どうするん?」
「……なんで俺を見てんだよ?」
「泣いてるユウリを宥めるのは昔からお前の役目だったろ?」
「ダンデさんもこっち見てない? あ、撮影用のロトムが一体こっちに近づいてきとる」
マリィの言葉通り、一体のロトムがふよふよと俺達の方へ飛んできているのがわかった。いやいや、この距離でなんで俺達がここにいるってわかるんだよ。ダンデくん、どんな視力して……そういやハロン人なら割と普通だったな。
近づいてきたロトムは困ったように目が八の字になっている。そんな縋るような目で見られても……。っつーか今度は俺の姿がモニターに映ってんじゃねえか!
「行ってこいマサル。ユウリがお前を待ってるぞ」
「いっぱい褒めてあげるんよ」
「じゃあ二人も一緒に来てくれ」
「いや、さすがにこの空気の中フィールドに入る勇気はないんだぞ」
「がんばりんしゃいマサル。マリィはここからエール送ってあげるけんね!」
あっさり見捨てやがったなこの二人。いい性格してやがる。
「ソニアちゃんは……鼻水まみれで人前に出れる顔じゃねえなぁ」
「うるへーーーっ!!」
わかった。わかったよ。行くっつーの。いやほんとになんなんだこの状況は。ホップとマリィだけじゃなくて周りの観客達もめっちゃ俺を見てるし。くそ。でんTを着てたのが間違いだったか。これのせいで俺の居場所がどこからでもすぐにバレる。
「……ソニアちゃん連れて控室で待っててくれ」
「さすがだぞ! ユウリの気持ちをばっちりわかってるんだな!」
「あたし、マサルはできる子って信じてた!」
ほんとに調子良いなこの二人。後で覚えてろよ。
そんなことを思いながら、俺は観客席からフィールドへ飛び降りるのだった。
「……何泣いてんだよ、バカ」
「ましゃる~~~!!」
フィールドに降りて二人がいる中心までやってくると、ダンデくんは困ったような苦笑を浮かべており、ユウリは見事に大泣きしていた。ダンデくんに勝ったのに、チャンピオンの威厳やカリスマなんて微塵もねえな。……まあ、ユウリはこれでいい。変にチャンピオンらしく振舞ったところでどうせすぐにボロが出る。
「立てるか?」
「立てない~~~。おんぶしてぇ」
へたり込んでいるユウリに手を差し出すと、ユウリは小さな子供の様にいやいやと首を横に振って両腕を広げて俺を見上げてきた。おんぶってお前……ったく、しょうがねえヤツだな本当に。
俺は観念してユウリに背を向けてしゃがみ込む。すると、後ろでもぞもぞと動いている気配がしたかと思うと、ユウリが俺の首に腕を回して身を預けてきたので立ち上がった。
「……ちょっと重くなったな。好きなもんばっかり食い過ぎだ」
「おっぱいが大きくなったの!」
「それはない」
ユウリはちょっと元気を取り戻したらしい。……が、どうすんだよこの空気。普通、この後って新チャンピオンのインタビューとかチャンピオンカップの表彰式やら閉会式やらあるよな? でも新チャンピオン様はこんな情けない姿で……。うん、ダンデくんに丸投げしよう、ヨシ!
「というわけでダンデくん。ユウリは回収していくから後は任せた。良い感じに締めてくれ!」
「ああ、任せておけ」
ダンデくんは白い歯を見せてニッコリ笑ってそう言った。頼りになり過ぎるな本当に。そしてダンデくんはスタジアムをぐるりと見回し、元チャンピオンとして、この大会を締めくくった。
「ガラルのみんな! 今ここに、新たな伝説が生まれた! もちろん、彼女だけじゃない! このチャンピオンカップで、ジムチャレンジで、みんなは希望を見たはずだ! 彼らが描く、彼らが導く、輝きに満ちたガラルの未来への希望を! さあみんな! 彼らと共に、俺達と共にガラルの未来を築いていこう!」
ダンデくんが拳を高々と掲げて宣言し、スタジアムは最高潮の盛り上がりを見せた。観客の全員が立ち上がり、スタジアム内が大きな拍手に包まれている。……ユウリにこんな演説は無理だな。こいつはこいつらしく在ればそれで良いと思ったけど、多少は人前での話し方とか礼儀作法とか勉強させた方がいいかもしんねえ。
そんなことを考えつつ、大歓声と盛大な拍手に包まれながら俺はユウリを背負い、入場口へと向かって歩き始めた。
「ねえ、マサル」
「あん?」
「私、勝ったよ」
「ああ、そうだな。ちゃんと観てたよ。よくやったな、ユウリ」
「えへへ、うん。……ねえ、マサル」
「あん?」
「私、約束守ったよ」
「ああ、そうだな。次は俺が勝つから楽しみにしとけ」
「えへへ、うん。……ねえ、マサル」
「あん?」
「私、ダンデさんみたいなチャンピオンにはなれないよ」
「ああ、そうだな。だけどお前はそれでいい。飾らない、縛られない、在りのままの、等身大のチャンピオン。お前はそういう存在になればいい」
「えへへ、うん」
「多少のお勉強は必要だけどな」
「勉強やぁ~だ~。……ねえ、マサル」
「あん?」
「私、お腹空いた。マサルが作ったカレー食べたい」
「ああ、好きなだけ作ってやるよ」
「りんごとはちみつたっぷりの甘口ね」
「わかってる。ヴルストも添えてな」
「えへへ、うん。……ねえ、マサル」
「あん?」
「私、がんばったよ。いっぱい褒めてくれる?」
「ああ、好きなだけ褒めてやるよ」
「いっぱいぎゅーってしてくれる?」
「ああ、好きなだけ抱き締めてやるよ」
「えへへ、うん。……ねえ、マサル」
「あん?」
「私ね、あの時ね、マサルの声が聞こえたんだよ。マサルが『勝て』って言ってくれたから……私、ダンデさんに勝てたんだよ」
「そうかい。じゃあお前は俺に一生感謝しなきゃいけねえな」
「一生……一生……えへへ、うん。……ねえ、マサル」
「あん?」
「これからね、マサルは私とずーっとずーーっとずーーーっと一緒だよ」
「当たり前だろ。何言ってんだ」
「えへへ、うん。……ねえ、マサル」
「あん?」
「───大好き」
「俺もだ」
その後、報道陣による新チャンピオンに対するインタビューが行われることになったのだが、かなり異例のインタビューになるのだった。
どう異例だったかというと……まず、スタジアム内にある広い会議室を使ってそこに報道陣を招いたこと。次に、ダンデくんとユウリ、二人を同席させてのインタビューになったこと。さらに、ユウリが変な質問をされないよう、ポプラさんを除くメジャージムリーダー七人とダイゴさん、レッドさん、グリーンさん、トウコさんの合計十一人がユウリ達の背後で報道陣に睨みを利かせていたこと。
下衆な質問をしてくるマスコミもいるからな。ただ、ジムリーダーや各地方のレジェンドを敵に回すようなアホはいない。それでも強引な手段を取るような輩がいれば……、俺の持てる力(コネ)を使って潰してやる。あと物理的にも潰してやる。
とまあ、そういう風にガチガチにユウリを守るための布陣を敷いていたので、インタビュー自体は大きなトラブルもなく、つつがなく進行していた。ちなみにソニアちゃん含む俺達四人は会議室の隅っこでインタビューの様子を見守っている。
ユウリが答えに困っていると、隣に座っているダンデくんがすぐに助け船を出してたしな。さすがダンデくん、インタビュー慣れしてるからこういう場面でもめっちゃ頼りになる。
「ダンデさんに質問です。ユウリ選手とのバトル前に仰っていた『生涯で唯一憧れたトレーナー』とは誰のことなのでしょうか?」
「それは……」
その時、ダンデくんが一瞬俺の方を見た気がした。
「答えられません。
ダンデくんは子供の様に悪戯っぽく笑ってそう言った。素直に俺の名前を出されてたら困ってたけど、その答えもどうかと思うけどな!?
「ダンデくんの憧れたトレーナー……? 誰のことだろう。師匠のマスタードさんかな?」
「何言ってるんだソニア? そんなの、マサルに決まってるだろ」
「はぁ!? マサル!? なんでそうなるのよ!?」
「……案外、兄貴のこともマサルのこともわかってないんだな。兄貴が憧れるようなトレーナーなんてマサル以外にいないんだぞ」
「えーっ!? いや、確かにマサルは頼りになるけどさ……だって……えーっ!? マサル! どういうこと!?」
「さあね。後でダンデくんに聞いてみたら?」
「あのダンデくんの顔……絶対教えてくれないヤツだよ!」
「……マサルに憧れるの、マリィちょっとわかるかも」
「今のセリフもう一回言ってくれない? 録音してネズさんに聞かせたい」
「二度と言ってあげんけんね!」
とまあこんな感じで、ダンデくんがさらっと流したおかげでこの質問に関してはこれ以上掘り下げられることはなかった。よし、このまま平和に終わってくれ。今のところユウリもダンデくんのフォローがあったとはいえ、問題なく受け答えできてるし。どうか爆弾発言が飛び出しませんように。
「ユウリ選手。ダンデさんとのバトルに勝利した後、マサル選手の名前を呼んでいましたが……マサル選手とはどういうご関係なのでしょうか?」
「……え?」
やめろや!! 今までそれ系の質問は一切なかっただろ!!
「え、えーっと……」
ユウリが困ってる。ここは後ろに控えてるジムリーダーさん達の出番だな! ヨシ! 頼みますよ皆さん!
と、思っていたが、レッドさんは不思議そうに首を傾げ、他の十人は微笑ましい視線をユウリに送っていた。
止めろや!!
「どうした、ユウリ?」
そこでダンデくんがフォローに入る。いや待て。ダンデくんはおそらく、レッドさんと同じようにこの質問の
頼むから余計なことは言わないで! 変なことは言わないで! フリじゃねえぞダンデくん! フリじゃねえからな!
「ユウリとマサルが強い絆で結ばれているのは誰の目から見ても明らかだろう。だが、俺だってマサルに対する思いは負けていないからな」
ダンデくんの言葉に報道陣が一瞬ざわついた。……セーフなのかこれ? アウト寄りのセーフ? セーフよりのアウトだろ!?
「……ホップ。もしかして私の最大のライバルはマサルだった?」
「ある意味そうだぞ」
ソニアちゃんとホップがそんなことを言っているが気にしていられる状況じゃない。ただ、ダンデくんの発言で風向きが変わった。このままこの質問が流れていきそうな空気になってる。
だから頼むから黙っててくれユウリ! 変なこと言うなよ! フリじゃねえぞユウリ! フリじゃねえからな!
「あ、えっと……こ、答えられません。
ユウリは顔を真っ赤にしながら俯き気味にそう言った。ダンデくんに対するさっきの質問と全く同じ答えを。
……答え言ってるようなもんじゃねえか!! 誰がどう見ても俺とユウリがそういう関係だってバレるだろ!!
はあ……まあいい。あいつに腹芸なんて無理なのは最初からわかってた。バレるのは時間の問題だった。遅いか早いかの違いだな。ただ、もうちょっと時間が経って落ち着いてからにしてほしかったけどな!
報道陣もユウリの反応に満足したようで、それ以上深堀りされることはなかった。
そして、報道陣以上にネズさんがとても満ち足りた顔をしているのを見て、俺は「ネズさんが知らないジムチャレンジ中の超絶可愛いマリィちゃんのウルトラ可愛いエピソード」でマウントを取ってやろうと固く心に誓うのだった。
それからは特に波乱もなくインタビューが終わり、報道陣が解散した後、俺達はスタジアムの食堂を貸し切って打ち上げを行っていた。ホテルのレストランでもよかったんだけど、ユウリが「俺のカレーを食べたい」って言ってたからキバナさんに相談したら食堂の使用許可をあっさり取ってくれた。さすがにこの状況で新チャンピオンとキャンプするわけにはいかねえしな。
で、ジムリーダーの人達やレッドさん達も参加してくれて……ポプラさんとビート少年、Nはいなかった。まあ、Nはしゃーない。でもまたトウコさんから逃げたら今度こそマジギレされるぞ。
「で、マサルはいつバウタウンに引っ越すのかしら? 後継者として水タイプの極意を授けてあげるわ!」
「ルリナさん、それは無理な話じゃて。マサルさんの能力を最大限活かせるのはターフタウンって決まっとるんじゃ」
「君の闘志に心が震えた。炎のジムは、いつでも君を待っている」
「ロックの魂は砕けない。それに、仕事の後の温泉は格別ですよ?」
「シャ、シャンデラ……僕と、一緒……!」
「ムゲンダイナはドラゴンタイプらしいな?」
打ち上げの間、なんかやたらとジムリーダー達に勧誘された。ただ、「俺のスポンサーはでんTの会社ですよ? 俺をジムの一員にするとユニフォームのデザインがどうなるか保障できません」って言ったらみんな複雑そうな顔をして引き下がった。
ジムリーダーもやりがいのある仕事なんだろうけどな。俺には合わない気がする。実家の牧場もあるし。
「……ふう。今のお前ならスパイクタウンに歓迎できそうですよ。マリィに寄ってくる悪い虫ではなくなったお前ならね」
「ここでハロン紳士のホップをスパイクタウンにシューッ!! マリィがホップに堕とされる様を一番側で見続けて脳破壊されるといいですよ」
「───テメェとは殺し合う運命にあるらしいな」
ネズさんとは出会ってから終始こんな感じだったな。まあネズさんが嫌だっつってもスパイクタウンには勝手に遊びに行くんで。
そんで、サイトウちゃんとも話そうと思ったんだけど……。
「これがぁ~ガラル空手奥義!! 酒の呼吸終ノ型『酔八仙拳』!! マサル~見てましゅかぁ~?」
……そっとしておこう。
誰だよサイトウちゃんに酒飲ませたの。
こんな感じで打ち上げも良い感じに盛り上がり、解散したのは深夜になってからになるのだった。
翌日からはユウリだけじゃなく俺達にも色々と取材が入っていたりと大忙しで、結局チャンピオン決定戦後から一週間ほどシュートシティに滞在することとなる。
ああ、そうだ。
なんというか、まあ。
使い古された言葉ではあるが。
出会いがあれば別れもある。
変わらないものもあれば、変わりゆくものもある。
永遠の不変など、ありえない。
それは至極、至極当然のこと、なんだ。
そしてとうとう。
別れの日が、来た。
次回、カントー組やイッシュ組、サイトウちゃん、マリィ達とお別れしてハロンタウンに帰ります。
ちなみにダイゴさんとはお別れしません。ダイゴさんはまだガラルを満喫しきっていないのでハロンタウンまでついてきます。
私が余計なことを思いつかなければあと二話で最終回となるでしょう。
どうぞ最後までお付き合いよろしくお願いします!
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