【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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No.0062 ただいま!! ハロンタウン

 近づいてきた二人分の足音。

 

 視線を向けると、そこに立っていたのは一人の少女と猫背の青年。

 

 俺達とずっと旅路を共にしてきたマリィと、兄のネズさんだった。

 

「う、う……うええ~~~ん! マリィ~~~!」

 

 ユウリ、一秒も持たず再度号泣。マリィは一瞬驚いたような表情になるも、何かを()()()ようにユウリに歩み寄り、ハンカチで優しくユウリの涙を拭っていた。

 

「ほら、ユウリ。可愛い顔が台無しやけん」

「うぁおおぉん……うえぇぇん……」

 

 マリィはユウリを優しく抱き締め、そっと背中を撫でている。ユウリにとってマリィは、初めてできた同性で同年齢の友達だ。旅の間も、マリィとホップが一時的に二人で行動していた時以外はずっと二人で一緒だった。

 

 ユウリにとってマリィは特別な存在で、マリィにとってもユウリは特別な存在。

 

 互いが互いのことを本当に特別な友人だと……親友だと思っている。

 

 そんな二人の別れなんだ。感情を抑えろなんて無理難題だろう。

 

 現に俺も、そしてホップも、マリィの顔を見て心の奥から熱い感情がこみ上げてくるのを自覚していた。

 

「……色んなことがあったね」

 

 マリィがポツリと呟く。

 

「初めて会ったのはエンジンシティのホテルだったな。マサルが知らない女の子と話していたからびっくりしたぞ」

「俺もまさか七年前に助けた迷子の女の子とジムチャレンジで再会するなんて思ってもみなかったな」

「うん、あたしもそう。二人とも小さかったし、お互いに覚えてなくても不思議やなかったもんね」

 

 そういや、エンジンシティではマリィよりも先にモルペコが俺に気付いてくれたんだよな。それからモルペコはことあるごとに俺におやつをねだって……マリィに気付かれないようにこっそりおやつをあげたりってことも日常茶飯事で……。

 

「ジムチャレンジが始まったばかりの頃のあたしは、すごく気負ってたと思う。スパイクタウンのみんなの思いとか期待とか一身に背負ってて……」

「俺も同じだぞ。あの頃は兄貴と自分を比べてばかりいたからな。ビートにも負けて……危うく迷走するところだったぞ」

「ダンデさんのこと、たくさん話してくれたよね」

「マリィもネズさんのことやスパイクタウンのことをたくさん話してくれたぞ。みんなをどれだけ愛しているのか、スパイクタウンをどれだけ愛しているのか……すごく伝わってきたんだ」

「ユウリとマサルに合流するまでカブさんにたくさん挑んだよね」

「そうだな。負ける度に二人で反省会をして、戦い方を話し合って……カブさんに負けて悔しい気持ちもあったけど、楽しかったな!」

「うん。すっごく楽しかった。あたし、こんな性格やけん二人きりやと上手にお話しできんはずやのに……ホップは話し上手で聞き上手やったから自然にお喋りできたんよ」

 

 最初は別行動をしてたんだったな。ターフタウンのジムに並びたくないとかいう理由で俺とユウリはワイルドエリアにこもってたんだ。それで、チャレンジはいつも挑戦者の中で最後だったのに、いつの間にか他の人達を追い越していたよな。

 

「マサルにはモルペコがよく懐いとったね。マサルがこっそりおやつをあげてたの、気付いてたけんね」

「……記憶にございません」

「ジムチャレンジが始まってからモルペコ太ったんよ?」

「成長期だったのでは?」

 

 俺がそう言うとマリィはわざとらしくぷくーっとほっぺたを膨らませた。

 

「マサルは……不思議やね。良い思い出もたくさんあるのに変な思い出の方が印象に残ってる」

「マリィに朝っぱらから押し倒されてたこともあったな!」

「あ、あれは事故やけんっ!」

「お兄ちゃんと呼ばれたこともあった!」

「そ、その場の雰囲気にあてられて……」

「そういや、俺が貸したアウターは?」

「……気に入ったけん貰っていい?」

「いいよ。ネズさんの前では常にあれを着ててほしい」

「マサルは兄貴を煽りすぎ。スパイクタウンでバトルする時どうなるかハラハラしたもん」

「あの時はネズさんがマリィと戦って満足して腑抜けてたから。マリィより先に俺がネズさんと戦っていればあんな悲劇は起こらなかった」

「あんたが先にチャレンジすると後の被害が拡大するんよ」

「人を災害みたいに……」

 

 そういや、いつの間にか俺のチャレンジは最後に回されてたな。俺としてはふざけてるわけじゃなくて大真面目に攻略しようとした結果なのに。……アラベスクタウンだけはノーカンな。

 

「でも、それだけやなか。マサルは戦い方の相談にも乗ってくれて……それに戦いそのものに対する姿勢とか、相手への敬意とか……ポケモントレーナーとして、人として大切なことをたくさん教えてくれた。セミファイナルトーナメントでも、あたしがユウリと戦う前に背中を押してくれて、あたしがユウリに負けた後は背中を貸してくれて……マサルはいつも、欲しい時に欲しい言葉をくれた。マサルの存在に、どれだけ助けられたことか……」

「助けられたのは俺も同じだよ。スパイクタウンでネズさんに『チャンピオンになる』って宣言したマリィを見て……あの時の俺は、まだ胸を張ってそんなことを言える俺じゃなくて……そんな俺が、マリィのその姿にどれだけ心が震えたか、どれだけ勇気をもらったか。その背中に、双肩に、どれだけの期待を背負って、どれだけの思いを背負っていたのか……俺には想像もできないけれど、それら全てを受け入れてフィールドに立ち続けているマリィをずっと尊敬していたよ」

 

 俺は、俺がとうの昔に無くしてしまったものを取り戻すために、自分が思い描く理想の自分自身になるために、ジムチャレンジに身を投じた。俺はずっと、自分のことばかり考えていた。

 

 だけどマリィは違っていた。俺とは違っていたんだ。

 

 自分のことだけじゃなく、たくさんの人の思いを背負っていたマリィ。

 

 俺にはできなかったことをやり遂げたマリィ。

 

 大切なことを教えてもらったのは、俺も同じなんだ。

 

「その思いは今もずっと変わらんよ。あんた達全員に勝ってチャンピオンになるんはマリィやけんね!」

「残念ながら、その夢は夢で終わるだろう。この俺がいる限り」

「悪の親玉みたいなこと言うとーね。ふふっ、そんな悪い子はマリィとマリィのポケモン達でおねんねさせちゃう」

 

 これはあざとい悪タイプの使い手ですね。マリィに「おねんねさせちゃう」とか言われたら誰でも「はい! おねんねしますぅ!」ってなるだろ。ネズさんは一体マリィにどんな教育を……そう思ってネズさんを見ると、両手で顔を覆って天を仰いでいた。どんな感情なんすかそれ?

 

「うら~……」

 

 弱弱しい鳴き声が聞こえてきたので視線を落とすと、俺の足元で悲しそうな表情を浮かべているモルペコがいた。

 

「モルペコともしばらくお別れだな」

「うらら~……」

 

 しゃがみ込んで頭を撫でてやると、モルペコは駄々をこねるようにイヤイヤと首を横に振った。マリィにはバレてたみたいだけど、こっそりおやつを一緒に食べた仲だもんな。キャンプの時にはよくつまみ食いもしてて……。

 

「モルペコ、わがまま言ったらダメよ。ちゃーんとマサルとお別れしんしゃい」

「うら~……」

 

 マリィの言葉を聞き、モルペコはポケットのような袋の中から木の実を一つ取り出して、俺に差し出してきた。

 

「俺にくれるのか?」

「……うら」

 

 あのモルペコが……いつもお腹をすかせて食べ物をねだってきていたモルペコが……。自分が一番大好きな木の実を俺にくれるなんて……。

 

 やべえ泣きそう。

 

 たまらず俺はモルペコを抱き締めていた。 

 

「ありがとう……ありがとうなモルペコ。家の庭に植えて大切に育てるからな……」

「うらら~……」

 

 モルペコがぽろぽろと涙を流し始める。目の奥が熱くなってきた……俺ほんとこういうのに弱いんだって。

 

 しばらくモルペコを抱き締めた後、ゆっくりと解放すると、モルペコは名残惜しそうに俺から離れてマリィの肩へ登っていった。

 

「ほらユウリ、顔上げんしゃい。最後にちゃーんとお顔見せて」

「最後とか言わないで~~~。マリィはハロンタウンに持って帰る~~~!」

「無茶苦茶言わんと。ハロンタウンとスパイクタウン……遠いけど、その気になればいつでも会えるしいつでも電話でお話しできるよ」

「じゃあ毎日五時間電話していい?」

 

 激重女過ぎる。毎日五時間は正気の沙汰じゃねえな。マリィの表情も若干引きつってるし。

 

「あたし、ユウリの笑顔が大好き。だからほら……ね? 笑ってバイバイしよ?」

「ふぐっ……ふえっ……ふにゅ~ん……。ましゃる~……私が笑えるようなお話して~」

 

 無茶ぶりしなさる。でも、この状況でお前を笑顔にするのが俺の役目だよな。

 

「いいかユウリ、よーく聞け」

「……うにゅぅん」

「俺が男でよかったなぁユウリぃ! 俺が女だったら確実にホップと結婚してお前は行き遅れ一直線だったな!」

「んにゃっ!? だ、だ、だ、誰が行き遅れかーーーっ! そんなことないよねホップ!?」

「……悪いなユウリ。俺が女でもマサルと結婚していたと思うぞ」

「おぎゃぎゃぎゃぎゃーーーっ!? ん? 待てよ……もしも私が超絶イケメン男子だったら幼馴染男トリオでマリィを取り合う展開になっていたのでは!? セミファイナルトーナメントでマリィを巡る熱い戦いが!!」

「いや、もしお前が男だったらマリィを三人の共有財産にしてただろうな」

「マリィシェアだぞ!」

「そうか! 月火は私がマリィを独占! 水木はマサル! 金土はホップ! 日曜日はフリーにすればみんな幸せだね! なんという素晴らしい家族計画!」

「おぞましい家族計画!!」

「……お前達ハロンの三馬鹿は奇跡のバランスで成り立ってやがったんですね」

 

 それまで沈黙を貫いていたネズさんまでツッコんできた。でも確かに、言われてみればそうだな。俺達三人の誰か一人でも性別が違っていたら……(主にユウリが)悲惨な結末を迎えていたかもしれない。

 

 ……まあいいや。ユウリの涙が止まったからとにかくヨシ!

 

「やっと笑ってくれたね。……うん。やっぱり、笑ってるユウリが一番可愛い」

「えへへ……私もね、マリィの笑顔大好きだよ」

「あたしがこうやって自然に笑えるようになったんはユウリに……みんなに出会えたから」

「こっそり笑顔の練習してたもんね」

「そ、それは内緒っ……!」

 

 ユウリの言葉にマリィは顔を赤くした。旅が始まった頃は確かに表情の変化が乏しかった気も……いやでもめっちゃツッコミ役になってなかったか?

 

 ……言うだけ野暮だな。

 

「マリィ、あのね」

「うん」

「私達、これからもずーっとずーーっとずーーーっと……おばあちゃんになってもずーーーーっと親友だよ!」

「……うんっ!」

「ありがとうマリィ。私と出会ってくれて。私と一緒に旅をしてくれて。私と友達になってくれて。だーい好き!」

「あたっ……あたしの方こそ、ありがとう。ユウリのこと……みんなのこと……大好きやけん」

 

 ユウリとマリィが互いの存在を確かめ合うように、もう一度強く抱き締め合う。少しだけ、ほんの少しだけマリィの声に涙の色が混ざっていたことには気付かないふりをした。

 

 そして最後に、マリィは俺達と握手を交わしアーマーガアタクシーへと乗り込む。

 

「さよならは言わないよ! また会おうね、マリィ!」

「みんなでスパイクタウンに遊びに行くぞ!」

「ウチの牧場にも来てくれよな。美味いもんめいっぱい食わせてやる!」

「うん……約束、約束する……。絶対、また会おうね、みんなっ……!」

 

 俺達の別れに、涙はいらない。たとえそれが精一杯の強がりだったとしても。

 

 俺達は、最後の最後まで。

 

 タクシーの姿が見えなくなるまで。

 

 笑顔で。

 

 大きく、大きく手を振り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「よくがんばりましたね、マリィ」

「……っ!!」

「今は俺以外誰もいません。だからもう、我慢しなくていいんですよ」

「あに、き……。あんね……マリィね……」

「うん」

「もっと……もっとみんなと……一緒に……いたかった……」

「うん」

「もっとみんなと……たくさんお話し……したかった……」

「うん」

「お別れが……こんなに、こんなに辛いなんて……思わんかった……」

「良い出会いでしたね。本当に……気持ちの良い連中でした」

「みんな……大事な……マリィの、一生の……宝物……」

「今は思う存分泣きなさい、マリィ。涙を見せるのは俺の前だけですからね」

「……ユウリに負けた後、マサルの前で泣いたけん」

「……運転手さん。ちょっと戻ってもらえますか? ぶっ飛ばしたい野郎がいるんで」

「兄貴の身体能力じゃマサルにリアルファイトでは勝てんよ、絶対」

「泣きながら辛辣ですね、妹よ」

 

 

 

 

 

 

「マリィ、行っちゃったね……」

「ああ」

「私、最後はちゃんと笑顔でお別れできたよ」

「そうだな。よくがんばった」

「……マサル」

 

 ユウリが俺の名を呼んで両手を広げている。泣き腫らした目は真っ赤になっていた。そんなユウリの頭を撫でて抱き締めてやると、腕の中でユウリが静かに泣き始め、俺とホップは顔を見合わせて苦笑する。

 

「とりあえず、兄貴に連絡……ソニアに連絡して合流するぞ」

「だな」

 

 そう言ってホップがソニアちゃんに電話すると、なぜかダンデくんが駅の反対方向に向かおうとしていたらしく駅に到着するまであともう少しかかるとのことだったので、しばらくユウリをあやしていると……。

 

「やあみんな、ここにいたんだね」

 

 爽やかな笑顔で俺達に手を振りながらダイゴさんがやってきた。

 

 そっか。この人とのお別れがまだだったな。今思い返せば、ガラル鉱山で高笑いしながら石を発掘していたのが最初の出会いで……色んなことがあった。本当に色んなことがあったよこの人とは!

 

「ユウリちゃん。あらためて、チャンピオン就任おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「今まで君は挑む立場であったけれど、これからの君は挑まれる立場だ。そのプレッシャーはこれまでの比じゃないだろう。その責務を重荷に感じることがあるだろう。だけど君は一人ぼっちなんかじゃない。マサルくんが、ホップくんが、マリィちゃんが、ダンデくんが……君と競い合ったたくさんのライバル達が、心強い味方として君を支えてくれることを決して忘れないでほしい」

「は、はいっ!」

 

 めっちゃ良いこと言うなこの人。元チャンピオンだけあって言葉の重みと説得力が桁違いだ。やっぱ石と鋼タイプが絡まなきゃ普通のイケメンお兄さんだな。

 

「マサルくん」

「はい」

「僕は、君のことを()()()()()に伝えようと思う」

 

 ある男の子?

 

「歴史を変える才能を持った少女を間近で見続けた結果、夢半ばでその道を諦めてしまった男の子に……ね」

 

 ああ、なるほど……そうか。今のホウエンチャンピオンはハルカさんだったな。

 

「君は彼と似た境遇でありながら、いくつもの苦難を、逆境を乗り越え、その魂に再び火を灯した。君の存在はきっと……いや、必ず彼にとって大きな刺激になる。だから僕は君のことを彼に話してあげたいと思ったんだ」

 

 彼の……ユウキくんの立場からすると、隣に引っ越してきた女の子が、ポケモン博士の息子である自分よりも遥かに優れた才能の持ち主で、あっという間に自分を追い越していき、チャンピオンになった。

 

 心が折れるには、十分すぎる理由だろう。

 

 俺には、彼の気持ちが痛いほどわかる。わかってしまう。

 

 だって、かつての俺も同じだったから。

 

「もしも君が将来、ホウエンに来るようなことがあれば……どうか彼とたくさん話をしてほしい。きっと君達は仲良くなれるよ」

「はい。いつか必ずホウエンに行きます」

 

 俺は別に、諦めることが悪いだなんて思わない。ただ、諦めるのは全ての努力を尽くしてからでも遅くはないんだ。

 

 かつての俺にはできなかった。だけど、今の俺ならそれができる。

 

「俺がこの先、何かを諦めるとすれば、考えうる限りの手を尽くし、努力を尽くし、己の力を出し尽くした時だけです。その時が来るまで、俺は()()()()()()()()()

「……その言葉が聞けて、君に会えてよかった」

「俺の方こそ、ダイゴさんには(変なこともたくさんあったけど)すごくお世話になりました。ありがとうございました! ホウエンに帰っても、どうかお元気で……」

 

 そう言って俺が右手を差し出した瞬間だった。

 

「え? 僕はまだ帰らないよ」

「帰らねえのかよ!! 完全に帰る流れだったろ!!」

「魂のツッコミだぞ」

「マサルがとうとう敬語を使わなくなっちゃった」

 

 何なんだよ今の空気はよぉ!! 珍しくダイゴさんとの間でしんみりした空気になってたのによぉ!!

 

 昔のコントみたいに「ズコー!!」ってズッコケるとこだったわ!!

 

「だって、僕はまだガラルを満喫し切っていないからね!」

「あ、あれだけ色んな所に行ってたのにまだ満足してないんですかぁ?」

「うん。まだ一番肝心な所に行けていなかったからね」

 

 どこだよ一番肝心な所って。

 

「もちろん、君達の故郷であるハロンタウンさ! ダンデくん、マサルくん、ユウリちゃん、ホップくんといった素晴らしいトレーナーを何人も輩出したハロンタウン……その空気を、その景色を、君達が育った場所を、僕も目で見て肌で感じてみたい」

 

 ダイゴさんの言葉にユウリとホップは感動したような表情を浮かべてダイゴさんを見ている。だけど俺は信用しない。今言ったことも嘘じゃないんだろうけど、ダイゴさんの本心はもっと別のところにあるはずだ!

 

「……で、本音は?」

「剣と盾のポケモンが眠っていたという森には珍しい石があるかもしれない!」

「安心と信頼のダイゴさんだぞ……」

「ダイゴさんはダイゴさんだったね……」

 

 途端にユウリとホップもスンとした。

 

 一応森は立ち入り禁止なんでちゃんと許可取ってくださいよ。まあ、ホウエン元チャンピオンなら大丈夫だろうけど……。

 

 で、その後ダンデ君達と合流してダイゴさん含む六人でハロンタウンへの帰路に就くのだった。

 

 

 

 

 

 

「これでシュートシティともばいばい……あれ?」

「どうしたユウリ?」

 

 ダンデくん、ソニアちゃん、ダイゴさんグループとハロンの三馬鹿に分かれて列車の座席についてホームの景色を眺めていると、ユウリが何かを発見したらしく、窓に張り付くように外を見ていた。何を見つけたんだこいつ。

 

 まあいいや。どうせもう出発だし。

 

「マサルマサルっ! あれ見てあれ!」

「あん?」

 

 ユウリが指差した先にいたのは……筋肉質なモンスターボールの化け物だった。

 

「……見なかったことにしよう」

「ボールガイがこっちに気付いたよ。おーい!」

「手なんか振らなくてよろしい!」

 

 あいつまだシュートシティにいたのか。……そもそもどこ出身なんだあの不審者? こっちに走ってくるけど、もうこの列車は出発するぞ。

 

 そんなことを考えたら出発の汽笛が鳴り、扉が閉まって列車がゆっくりと動き出した。にもかかわらず、ボールガイは全力疾走で列車を追いかけてくる。

 

「あ、ボールガイが転んじゃった」

「動き始めた列車を追いかけてホームを必死に走る……昔の恋愛ドラマのヒロインみたいだぞ」

「追いかけてくるのが筋肉質の不審者じゃなけりゃな」

 

 倒れたボールガイは俺達に向かって大きく手を振った後、駅員さんに注意されていた。残念でもなく、当然の対応である。さらばボールガイ。仕事しろよ。

 

「最後の見送りがボールガイってのは釈然としねえなぁ」

「あーあ、これでシュートシティともお別れか~。もう一回あの観覧車に乗りたかったな~」

「……いつでも連れてきてやるよ」

「ほんと!? えへへ、しょーがないな~。どーしても、どーしても私と二人で乗りたいだなんて~。ふへへへへ……ねえホップ。マサルが私のことを好きすぎるんだけど~♪」

「……そうだな!」

 

 ホップは考えることを放棄した。

 

「っつーか、このメンツにダイゴさんが普通に混ざってんのは何なんだろうな」

「何を言うんだいマサルくん。僕達は魂が共鳴し合った仲じゃないか」

「そうだよマサル。ダイゴさんにはたくさんお世話になったでしょ? 私がダンバルをもらったのもシャワーズに進化できたのもジバコイルに進化できたのもシャンデラに進化できたのも、全部ダイゴさんがいたからだよ」

「メガストーンのことを教えてくれたのもゴーゴーゴーグルをくれたのもマサルがポプラさんに勝てたのもダイゴさんのおかげだぞ」

「ムゲンダイナを倒すことができたのだってダイゴさんのおかげだぜ」

 

 月島さんかよ。全部事実だけど過去に記憶を挟まれてるみたいな感覚になるからやめーや。これでダイゴさんが「僕は君達が小さい頃からずっと見守ってきたじゃないか」とか言い出したら完全に過去を改変されてるな。

 

 ……そのうち、月島さんみたいな能力を持つ伝説ポケモンが出てきそうだな。

 

「時に、マサルくんとユウリちゃんはどちらが先に思いを伝えて付き合い始めたんだい?」

「嘘だろ。石にしか興味がないあのダイゴさんが恋バナ、だと……? さては偽物だなあんた! 本物のダイゴさんを出せ!」

「失礼だな~。僕だってそういうことには人並みに興味があるさ。それでユウリちゃん、どうだったのかな?」

「ま、マサルからでしゅっ! えへへ……セミファイナルトーナメントが終わった日の夜にぃ~ホテルの部屋でぇ~マサルがぁ~……ふひゅっ、ふへへへへ」

 

 ユウリが顔を赤く染め、両頬に両手を添えて体をくねらせながら答える。ほんとお前その笑い方どうにかならねえの?

 

「さすがだなマサル。古い考えかもしれないが、やはりそういう思いは男から伝えるべきだと思うぜ」

 

 ダンデくんがそう言った瞬間、ダンデくんの隣に座っていたソニアちゃんがものすごい顔になった。

 

 これはあれだ。縁壱が「私たちはそれほど大層なものではない」って言った時に兄上が浮かべていた表情と同じだ。……まあ、そんな気持ちにもなるわな。

 

 だが、ソニアちゃんに同情していると、次の瞬間にダンデくんがとんでもない爆弾を投下した。

 

 

 

 

 

 

「俺もマサルと同じように()()()()()()()()()()()からな。懐かしい」

 

 

 

 

 

 

 時が、止まった。

 

 ディアルガ様じゃ!! ディアルガ様が降臨なさったのじゃ!!

 

 ……なんてくだらないことを考えている場合じゃない。

 

 ダンデくん、今……なんて言った?

 

 ソニアちゃんに気持ちを……伝えた……?

 

 ソニアちゃんの顔を見ると「私そんなの聞いてない!」って顔をしている。

 

「い、いいいいいいつ!? いつダンデくんは私にそんなこと言ったの!?」

「おいおいソニア。忘れたのか? 酷いぜ全く。七年前の俺達のジムチャレンジの最中、ワイルドエリアでキャンプしている時に君が俺に聞いてきただろう? 『私のことどう思ってるの?』って。だから俺は『好きだぜ』って答えたんだ。そうしたら君も『私も好きだよ』って言ってくれたじゃないか」

 

 七年前って……十歳の頃じゃねえか!!

 

「あの日から()()()()()()()っていうのに、忘れられていたなんてさすがの俺も少しショックだな」

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ!?」

 

 ソニアちゃんがものすごい声を出した。いやどういうこと!? 完全に宇宙猫になってんだけど!?

 

「つまり……なんだ。兄貴は七年前からソニアと付き合ってたってことなのか?」

「ん? そう言っただろ?」

「あ、これ……兄貴が本気でそう思ってる時の顔だぞ」

「インタビューで何回もそういう話題振られてけどいつも曖昧に誤魔化してたよな?」

「あれは委員長の指示だ。男女の問題が一番厄介だと言っていたからな」

「お、俺達そんなの聞いてないぞ」

「……言ってなかったか?」

「聞いてねえよ!!」

「……そうだったか?」

 

 つまり、あれか? ダンデくんの今までのクソボケ的行動は本人的には全然クソボケなんかじゃなくて、とっくの昔にソニアちゃんと付き合ってると思ってたが故の、むしろ好意を受け入れているが故の自然な行動だったってこと!?

 

 わかるかぁそんなの!! 衝撃の事実過ぎるわ!!

 

 よく七年間誰も気付かなかったな!!

 

 ただ、ある意味ダンデくんらしすぎる……。

 

「どういうことだユウリぃ!!」

「わ、わがんにゃい……」

「う、嘘でしょ……私の七年の思いが、実はとっくに報われてたってこと……? わ、私がどれだけ悩んで……」

「ソニアの脳みそがバグってるぞ」

 

 ……こんなん頭おかしなるでほんま。

 

「本当にハロンタウンは人材の宝庫だね。はっはっは」

「ほらダイゴさんの好きな恋バナっすよ。何とかしてください」

「……とりあえず、おめでとうとでも言っておけばいいんじゃないかな?」

「投げやりっすね」

 

 まあでもダイゴさんの言うことも一理あるし、これ以上この話題を掘り下げるとドツボにハマっていきそうなので……。

 

「ソニアちゃん、おめでとう」

「おめでとうだぞ」

「おめでと~……?」

「イヌヌワン!」

「おめでとう」

「よくわからないがおめでとうだぜソニア」

「ありがとう……ってなんじゃこの流れはーーーっ!!」

 

 エヴァの最終回みたいにみんなで拍手しながらソニアちゃんを祝福するも、ソニアちゃんの虚しい心の叫びが列車内に響き渡るのだった。

 

 なんだか知らんが、ソニアちゃんの恋が報われたからとにかくヨシ!

 

 ……ということにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 列車での長旅を終え、とうとうブラッシータウンに到着する。途中で衝撃の事実が明らかになり、ダイゴさんとダンデくん以外の四人が著しく体力を消耗するも、それ以外のトラブルらしいトラブルはなく無事に到着することができた。

 

 んで、駅の外に出ると……想像の十倍以上の人混みでごった返していた。

 

「ユウリちゃーん! 可愛い~!」

「新チャンピオーン!」

「新しい時代を作ってくれー!」

「ダンデー! 次は負けんなよー!」

「そのダサいマントはユウリちゃんに引き継がなくていいからなー!」

 

 新しいチャンピオンであるユウリ、元チャンピオンながらも圧倒的な人気を誇るダンデくんへの声援。ダンデくんは慣れているので軽やかに手を振り、ユウリは俺の後ろに隠れながらおっかなびっくりといった様子で手を振っていた。

 

「ホップー! マサルとの試合感動したぞー!」

「男の熱い友情からしか得られない栄養があるんだー!」

「マサ×ホプ尊い……」

 

 誰だ最後に変なこと言ったヤツ。

 

「ソニア博士ー! 白衣がよく似合ってるよー!」

「ガラルの歴史を覆す世紀の発見だー!」

「お、おう……すご。私にまでこんな声援……?」

 

 実際、ソニアちゃんの研究成果ってマジでガラルの歴史を変える世紀の大発見だからな。どこかから圧力がかからないことを祈ろう。……かかったところでソニアちゃんのバックについている人達を考えれば大丈夫か。

 

「マサルー! 服装以外は完璧だったぞー!」

「ユウリちゃんを幸せにしろよー!」

「ユウリちゃんを泣かすんじゃねえぞー!」

「子供がマサルのTシャツをねだって大変だったんだからなー!」

「ただのTシャツに30000円も払えるかー!」

 

 俺への声援だけなんかおかしくね? でんTのことは知るか! 買ったのは俺じゃなくてばあちゃんなんだから文句はばあちゃんに言え!

 

「誰だあのイケメン!?」

「確か……解説の人!」

「え? なんで解説の人がダンデ達と一緒に……?」

 

 当然の反応である。だけどダイゴさんはそんなざわつきを一切気にせず、興味深そうに周囲を観察していた。ま、ブラッシータウンもハロンタウンも自然ばっかりなごく普通の田舎町ですよ。

 

 近所の森に伝説のポケモンが住んでたけど。

 

「う~ん、北の方から何やら石の気配がするね。北には何があるんだい?」

「北って言ったら……ソニアちゃんの実家とでかい湖っすね」

「湖! それだ! おいでエアームド!」

 

 突然、ダイゴさんがエアームドを呼び出してその背中に跨り、合図とともにエアームドが宙に浮く。

 

「見知らぬ土地の見知らぬ石が僕を呼んでいる! さあ行こうかエアームド!」

「あ、ちょ……ダイゴさーん! 晩御飯俺の家で食べていきますかー?」

「お言葉に甘えさせてもらうよー!」

 

 そしてダイゴさんは集まった人達や俺達のことなんておかまいなしに、エアームドに乗って颯爽と飛び去って行った。

 

 最後まで自由だったなあの人。

 

 で、集まった人達と写真を撮ったりサインを書いてあげたり握手をしてあげたりしていると……。

 

「マサルくーん! みんなー!」

 

 金髪の可愛らしい女の子が俺達に駆け寄ってきた。

 

「あ、リコちゃ~ん! 久しぶり、元気だったー?」

「元気だったよ~。ユウリちゃんおめでとう! すっごく格好良くてすっごく可愛かった!」

「でしょでしょー? えへへへへ……」

 

 ユウリとリコちゃんはきゃっきゃしながら手を取り合っている。

 

「ホップくんもとっても格好良かった! 女の子はみんなきゃーきゃー言ってたよ!」

「そうなのか?」

「リコちゃん、俺は?」

「マサルくんは……うん、服装以外は格好良かったかな。あ、でもね。ちびっ子達は大喜びだったよ」

 

 解せぬ。

 

「そうそう。マサルくんにね、お礼を言っておきたかったんだ。四番道路でイーブイを捕まえられるって教えてくれたでしょ? パパにお願いしてターフタウンに連れて行ってもらって、イーブイをゲットできたんだよ!」

「おめでとう! よかったじゃん!」

「ありがと~! それでね。私もイーブイをニンフィアに進化させたくって……マサルくん、どうやったの?」

「毎日一緒に寝て朝起きたら知らない間に進化してた」

「すっごくアバウト!」

 

 事実だからしゃーない。俺だって未だに進化条件がわかってないんだから。

 

「それからね。ユウリちゃんと一緒に幸せになるんだよ」

「色んな人に言われる。でも大丈夫、何があってもユウリとは死ぬまで一緒にいるから」

「うわ~、いいないいいな~。私も男の子にそんなこと言われてみたいな~」

「リコちゃん! いつでも私が恋愛相談に乗ってあげるからね! 恋愛種族値600族のこの私が!」

 

 恋愛種族値コイキングがなんか言うとるわ。

 

「ユウリちゃんって昔からマサルくんのこと大好───」

「いやぁ~。昔からマサルは私のことが大好きだったからなぁ~! うへへへへ……」

「ウンソウダネー」

 

 リコちゃんの目がスンッてなった。間違ってもユウリに恋愛相談はしない方がいいよ。何一つ参考にならないのが目に見えてるから。ってか、リコちゃんすげー可愛いし良い子だからすぐに良い人が見つかるよ。

 

 それからリコちゃんやちびっ子達の相手をしつつ、その場は解散となったので俺、ホップ、ユウリの三人でハロンタウンへの道を歩き始めた。

 

 ソニアちゃんとダンデくんは……一回ソニアちゃんの家に行くらしい。そこで今後の話をちゃんとするとかなんとか。いやほんと衝撃的だったわ。ダンデくんの中ではとっくの昔にソニアちゃんと付き合ってたってことだもんな。

 

 ……マグノリア博士になんて説明するんだろ。まあいいや、知ーらない。

 

「結局最後はこの三人か」

「旅の始まりもこの三人だったぞ。あれから半年……ずいぶん昔にも感じるし、つい昨日のようにも感じるぞ」

「色々あったね~。この田舎道を歩いてると『帰ってきた~』って感じがするよ」

 

 本当に色々あったな。言葉では語り尽くせないくらいに色々なことが。

 

 このジムチャレンジは、間違いなく俺の人生の転機になった。俺はこの先、何があろうとも、生涯この半年間を忘れることはないだろう。絶対に。

 

 それから俺達は帰路の中で思い出話に花を咲かせる……ことはなく、帰ってきたということをゆっくりと、心の底から味わうように黙々と歩き続けた。

 

 そして。

 

「到着だぞ。懐かしの我が家だ! ジムチャレンジは終わったけど、俺達の伝説はまだ終わらないんだぞ!」

「おーっ! 私達の戦いはまだまだこれからだー!」

「じゃあまた後でな二人とも。じいちゃん達が気合入れてバーベキューの準備してるみたいだから適当な時間に来てくれ」

「カレーは?」

「昨日食ってたろ」

「毎日食わせろーっ!」

 

 そんな感じでいつもの日常のように俺達は別れ、各々の自宅へと向かう。俺達の間に湿っぽいもんなんていらねえよ。どうせ明日からまた毎日のように顔を合わせるんだから。

 

「マサルーっ!」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、ついさっき別れたばかりのユウリが俺に突撃してきた。

 

「なんだユウリ? 忘れもんか?」

 

 ユウリを抱き留めつつ尋ねると、ユウリは満面の笑みを浮かべて首を横に振る。

 

「あのね、マサル。あのね……あのね……」

 

 どうやらこいつは俺に何か言いたいことがあるらしい。

 

「ありがとね、マサル。私とずっと一緒にいてくれて。それからね……これからもずーっと一緒にいようね!」

 

 そう言って、ユウリは背伸びをして俺にキスをした。

 

 数秒後、顔を離したユウリは自分のやったことが恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしてそのまま逃げるように自分の家へと走って行く。

 

 突然のことに呆気に取られていた俺は、ただ黙ってユウリの背中を見送ることしかできなかった。

 

 ……なんつーか、あいつはああいうところがずるいよな。

 

 俺は苦笑しつつ背を向けて、我が家へ入る……その前に、牧場の柵を飛び越えた。

 

「イヌヌヌヌヌワン!!」

 

 すると、誰よりも早く俺を出迎えてくれたのは───

 

「わたぱち~!! 元気だったか~? 俺がいなくて寂しかったか~? だーっしゃっしゃっしゃ。ヨーシヨシヨシヨシ!」

 

 愛犬のパルスワン……「わたぱち」が俺に飛びついてきたので受け止めて、芝の上をゴロゴロを転がる。するとわたぱちは俺の顔をべろべろと舐め回し始めた。

 

「また毎日一緒に遊ぼうな!」

「ヌワッ!」

「ふぃあ~おっ」

 

 わたぱちを抱き締めて撫で回していると、いつの間にかニンフィアが勝手にボールから出てきていた。そして何やらニンフィアはわたぱちをじーっと見つめていた、かと思うと俺に甘えるように擦り寄ってくる。心なしか勝ち誇ったような表情で。

 

「ふぃ~あっ♪」

「ヌワワ~」

 

 なるほど。ニンフィアもわたぱちも俺を独占したいらしいな。まったく可愛いヤツらめ。

 

「よし、おいでみんな」

 

 呼びかけると、インテレオン、シャンデラ、ジバコイル、バンギラスの四体がボールから出てくる。初めての場所に誰も緊張しておらず、特にシャンデラとバンギラスは楽しそうにきょろきょろと周囲を見回していた。

 

「今日からここがみんなの家だ。そんでこいつが愛犬のわたぱち。みんな仲良くするように」

 

 俺がそう言うと各々鳴き声で返事をする。みんな良い子だから大丈夫だろう。これからはのびのびとこの牧場で一緒に暮らそうな。

 

「じゃあわたぱち、みんなに牧場を案内してあげてくれるか?」

「イヌヌワン!」

 

 わたぱちが元気よく返事をして先導すると、インテレオン達はおとなしくわたぱちについて行った。ここでの生活に慣れてきたら仕事も手伝ってもらおうかな。

 

 みんなを見送った後、俺は唯一出てこなかった仲間が入ったボールを、マスターボールを取り出した。

 

「怖がらないでいい。出ておいで、ムゲンダイナ」

 

 できるだけ優しい声で呼びかけると、マスターボールが輝き、中から二十メートルの巨体を持つムゲンダイナが現れた。他の五体の仲間達とは違い、ムゲンダイナだけはビクビクと怯えているように見える。

 

 無理もないだろう。

 

 体の傷は癒えた。だけど心はそうはいかない。

 

 ムゲンダイナは俺を主と認めてくれたけれど、それとこれとは話が別だ。

 

「大丈夫だ、ムゲンダイナ。怯えなくていい、怖がらなくていい。ゆっくり、深呼吸して」

 

 ムゲンダイナに触れ、そう告げる。

 

「そう、そうだムゲンダイナ。俺の顔を見て」

 

 少し落ち着きを取り戻したらしく、ムゲンダイナは俺の声に反応して、首を垂れるように俺を見た。

 

「これからお前は俺達と一緒にここで暮らすんだ。大丈夫、安心していい。ここにはお前をいじめたりするようなヤツはいないからな」

 

 言いながら、ムゲンダイナの顔を優しく撫でてやる。

 

「これから先、何があっても俺が、俺達がお前を守る。これから先、何があってもここがお前の帰る場所だ。だから、慌てなくていい。焦らなくていい。ゆっくり、少しずつ、一緒に知っていこう。この世界のことを。自分のことを」

 

 そして、教えてあげるんだ。俺のことを。俺達のことを。それだけじゃない。俺の隣が、俺達のいる場所が、ムゲンダイナにとって世界で一番安心できる場所になるように。いつか笑って「ただいま」と「おかえり」ができるように。

 

 今日がその、第一歩。

 

「ムゲンダイナ」

 

 俺は精一杯の笑顔を浮かべてこう言った。

 

 

 

 

 

 

「ガラルへようこそ」

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 ───二年の月日が流れた。




「この作品がここまで続いたのも全部ツワブキさんのおかげじゃないか!!」

 次回、最終回。

 最後まで駆け抜けていきます!

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