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今回はバレンタイン特別編です!
バレンタイン特別編 その
この世界には、バレンタインという文化は存在しない。
その代わりにサンクスデイなるものが存在する。元の世界の某夢の国にもそんなイベントがあった気がするが、まあ似たようなもんだ。サンクスデイとはその名の通り、日頃お世話になっている人達に贈り物と一緒に感謝を告げる日。
そもそもバレンタイン自体、近年は「好きな人に思いを伝える日」というニュアンスではなくなってきている。放課後に呼び出されてチョコを渡されたり、机の中にチョコが入っていたりというのは残念ながら漫画やアニメの中にしか存在しないんだ。
今となってはただの「お菓子交換日」と言っていい。
まあ、かくいう俺は甲子園効果で死ぬほどモテたからバレンタインの日にお菓子を貰いまくってたんだがな!
お返しが死ぬほど大変だったがな!
そんなことは置いておこう。とにかく今日はサンクスデイということで……俺も日頃お世話になっている人達に感謝の気持ちを伝える旅に出ようと思う。
この
すごいよ!! マサルくん 番外編
その
「お、ナンジャモさんじゃないですか! おはこんハロチャオ~!」
「げっ!? マサル氏じゃん!? ぼ、僕ちょっと用事あるから……」
「なんで逃げようとしてんすか?」
「君に関わるとろくなことにならないからだよ!!」
小分けにした大量のお菓子を紙袋に詰め、いざサンクスデイを敢行しようとする俺が最初に発見したのはパルデアのジムリーダー、ナンジャモさんだった。人の顔を見るなり嫌そうな顔をして逃げようとするなんて失礼な人ですね。
ただ、ナンジャモさんのへなちょこ運動能力で俺から逃げられるはずもなく、俺はナンジャモさんのだぼだぼアウターの首根っこを掴んでずるずると引きずって捕獲する。この人めっちゃ体重軽いな。
「うわー! やめろやめろー! 『マサル氏に襲われるーっ!』って叫ぶぞー!?」
「俺とナンジャモさんの組み合わせで間違いが起こるはずないってパシオの誰もが思ってますから意味ないですよ?」
「なんて世知辛い世の中だ!!」
お風呂を嫌がる猫のようにじたばたと暴れるナンジャモさんだが、この俺に力勝負で勝てるとお思いで?
「俺、ナンジャモさんにそんな避けられるようなことした覚えないっすけどね」
「よくそんなこと言えるな!? 君がグルーシャ氏と組んで僕の配信を乗っ取って『マサトーーク! ~どうしたナンジャモ!?~』なんてわけのわかんない企画で僕の黒歴史を散々掘り返したことを僕は忘れてないからな!」
「あの時は楽しかったですね。グルーシャさん、終始ニッコニコでしたよ」
「僕、グルーシャ氏とそれなりに長い付き合いだけどあんなに良い笑顔初めて見たよ!!」
「それに、俺がドンナモンジャTVを乗っ取った時っていつも再生数シビルドン登りじゃないですか」
「うぎぎ……だから、だから余計に性質が悪いんだ……出禁にしようにも、君の再登板を待つ声が大きいのもまた事実だから……」
ナンジャモさんが「ぐぬぬ顔」で俺を見上げてくる。いやー、面白いなこの人。普段の可愛い感じの配信もいいけど、やっぱりナンジャモさんは芸人魂を発揮してこそ輝くよね。グルーシャさんの気持ちもよくわかる。あの人、普段は目に生気のないバチクソクールなイケメンなのにナンジャモさんを弄る時はめっちゃイキイキするからな。
「というわけでナンジャモさん。俺のおかげで再生数増えたんだからサンクスデイのお菓子ください」
「この状況でよくお菓子をねだれるな君!?」
「くれないと悪戯しますよ」
「ハロウィンと勘違いしてるだろ!! ふ、ふんっ!! マサル氏も男の子だもんね~? お菓子なんて建前で本当は僕にえっちな悪戯をしたいんだろ~?」
ナンジャモさんが反撃の材料を見つけたと言わんばかりに、メスガキっぽい笑顔で俺をツンツンつついてくる。
違うんだよなぁ~。ナンジャモさんに期待するのはそういうのじゃないんだよなぁ~。
「……はぁ~」
「その溜息やめろ!! グルーシャ氏の『そういうの、解釈違いなんだよね……』っていうあの冷たい表情を思い出すから!!」
今度は駄々っ子の様にダボダボの袖で俺をぺしぺし叩いてきた。ほんとに俺より年上なんかこの人。
「じゃあ、お菓子をあげなかったら僕にどんな悪戯をする気だったんだ!?」
「その余った両袖を固結びにして広場に放置する」
「地味に困る嫌がらせ!!」
固結びにして腕を出せなくなったナンジャモさんが四苦八苦する様子を離れたところからグルーシャさんと一緒に眺めていたい。
「ま、二割くらいは冗談なんで安心してください」
「八割ほんとじゃん!? 安心できる要素どこ!?」
「命中率八割の技って信用できます?」
「あ、なるへそなるへそ~。『かみなり』もよく外れるもんね。そう考えれば安心……ってできるかぁ!!」
「やかましい人ですね」
「君のせいだろ君の!!」
「まあまあナンジャモさん。イライラした時には甘い物が一番ですよ。クッキーどうぞ」
「わーい!」
小分けした袋からクッキーを一枚取り出すと、ナンジャモさんは俺の手からそのままパクっとクッキーに齧り付いた。あんだけ弄り倒したのに、俺が激辛クッキーを仕込んだとか警戒してないのか?
「うまっ! めちゃうまっ! 外はサクサク中はしっとりで味も濃厚! マサル氏マサル氏! どこで買ったのこのクッキー?」
「実家のバターとモーモーミルクをふんだんに使った俺の手作りです」
「まじ!? マサル氏女子力めちゃ高じゃん! ニヒヒ……これはマサル氏とのお料理教室配信もあり……か?」
「いつもがんばってるコイル達にもあげるからな。ん? 磁石だと持てない? よしよし、この可愛いリボンで結んでやるからな~?」
「僕が貰ったのよりコイルにあげたクッキーの方が豪華じゃん! 何だこの待遇の差は!?」
「ドンナモンジャTVの魅力の八割を担ってるコイルさんですから」
「八割好きだな君!! それに僕の魅力が二割だけってどういうことだ!?」
ナンジャモさんが再び腕をぶん回してダボダボ袖で俺をぺしぺし叩いてくる。どうしよう。ナンジャモさんで遊ぶのは楽しいけど、この人といるだけで一日終わりそうなのが困る。他にも感謝の気持ちを伝えたい人はたくさんいるのに。
あ、そうだ。
「ナンジャモさん」
「何だね?」
「付き合ってください」
「……何に?」
「……はぁ~。そこでちょっとくらい赤面したり動揺したりしないからダメなんすよ」
「君相手にそんな反応する理由ないだろ!!」
「まあ、してたらしてたで『解釈違いだ~』って冷めてましたけどね」
「どっちみち僕八方塞がりじゃん!」
話が進まないので、「これからお世話になった人達に贈り物をするので付き合ってください」と頼むと、これだけ弄り倒したのに二つ返事で了承してくれた。ナンジャモさんも俺と同じ考えで、サンクスデイだから色々動き回る予定だったらしい。
「あ、そうだマサル氏」
「なんすか?」
「はいこれ。なんだかんだ君には色々お世話になったからね~。僕からのサンクスデイの贈り物だよ。ナンジャモの手作りなんて激レアだから感謝して食べたまえ~!」
ナンジャモさんが「ニヒヒ」と怪しく笑いながら小さな紙袋を渡してくれた。中身は何かわからないけど、どうやらお菓子が入っているみたいだ。後でありがたくいただこう。
「俺、ナンジャモさんのそういうところ、好きっすよ」
「お、おう……? ふ、フヒヒ。遂にマサル氏も僕にデレてくれたかぁ~! でもごめんねマサル氏。僕はみんなのナンジャモだから、君の気持ちには応えられ───」
「……そういうの寒いんだよね」
「グルーシャ氏の物真似で梯子外すのやめろ!!」
というわけで「ドンナモンジャTVサンクスデイ特別企画~ブラジャモリ~」はっじまっるよー!
ナンジャモさんと一緒に道行く人やちびっ子達にお菓子を配って回っていると、マリィ、サイトウちゃん、カイさんという珍しい組み合わせの三人組を見つけた。いやほんとに珍しいな。三人に共通点なんてあったか?
「おやおや? これは何やら撮れ高の気配! 行くぞ助手くん! 再生数は何よりも正義なのだ~!」
「いつから助手になったんすか?」
「今この瞬間からだよ。お~い、マリィ氏サイトウ氏カイ氏~。何やってんの~?」
ナンジャモさんが俺の手を引いて三人に遠慮なく近づいて声をかけると、俺達に気付いた三人が小さく手を振ってくれた。
「マサル、ちょうどよかった。あたしら三人でお菓子作ったけん、はいどうぞ。ナンジャモさんもよかったらこれ」
「ま、マリィの手作りお菓子……家宝にして墓の下まで持っていかなければ……」
「兄貴とおんなじこと言わんで食べんしゃい。あんまり日持ちせんのやけん」
「フヒヒ、美少女達からの手作りお菓子……胸が熱くなるね」
「ナンジャモさんって笑い方キモイっすよね」
「真正面から傷つくこと言わないでくれる!?」
「ユウリも時々そんな笑い方しよるね」
そんなこんなで三人とお菓子を交換する。なんでこの三人の組み合わせになったのかというと、サンクスデイ用のお菓子の材料を選んでいたらたまたまばったり遭遇してそのまま流れで一緒に作ることになったらしい。
「マサル! 私、すごくがんばりましたよ! パシオ中のスイーツを食べ歩き……バターと砂糖の量に慄き……健康診断の数値なんて完全に無視して美味しさだけを追求しました!」
サイトウちゃんが腕を組んで見事なドヤ顔を浮かべながらそう言った。修行中やバトル中とは全く違う年相応な女の子の反応、非常に良いですね。
「わ、私はこういうの慣れていなくて……美味しくできたかどうかの自信はないけど……」
対照的にカイさんは自信なさげに手をもじもじとさせている。セキさん相手だとイキリ散らかしてるんだけど、この人って単独だと割と情緒不安定になるからな。テルさんやショウさん曰く、この年齢で団の長を任されていろいろと大きなプレッシャーを感じていて、自己肯定感が低いとのこと。
いや実際組織をまとめるってめっちゃ難しいからな。俺も前世で野球部のキャプテンやってたから多少は共感できる。
というわけで、俺がカイさんから貰った可愛らしい包みを解くと、中に入っていたのはマドレーヌだった。そしてそのままマドレーヌをパクリ。レモンを使っているのか、ほんのりと柑橘系の香りが鼻腔をくすぐった。
「カイさん、めちゃ美味いです! ありがとうございます!」
「ほ、本当に? 本当に美味しい?」
「本当っすよ。これ、レモン使ってますよね? 甘いだけじゃなくてさっぱりしているからいくらでも食べられそうです!」
俺がお世辞抜きにそう言うと、不安げだったカイさんの表情がだんだん明るくなり、花が咲いたような笑顔を浮かべてくれた。やっぱカイさんめっちゃ美人だな。
「ほらねカイさん。言ったやろ? あれだけがんばったんやけん、絶対美味しいよって」
「そうです! パシオのスイーツを食べつくした私のお墨付きなんですから! もっと自信持ってください!」
「ありがとう二人とも……それに、マサルさんも。うん、そうだよね。食べてもらう前からこんな雰囲気だと、もらう側も気を遣っちゃうよね」
どうやらカイさんの不安を取り除けたらしい。いやほんとにめっちゃ美味かったですからね。何ならレシピを教えてもらいたいくらいだわ。
「マサル氏ってさぁ~……そーゆーとこあるよね?」
「なんすかそのジト目? 『僕の時と全然反応違うじゃん!』って言いたげですね」
「僕の気持ちわかってんじゃん!!」
またナンジャモさんがぺしぺし叩いてくる。俺が言うのもなんだけど、俺に対して一切遠慮がないなこの人。
「マサル。ナンジャモさん
「ナンジャモさん、いい子いい子してあげましょうか?」
「犬かなんかか僕は!?」
「そうですよマサル。いつも迷惑をかけているんですから、今日くらいはしっかりと感謝の気持ちを伝えるべきです」
「めっちゃ伝えたよ。これ以上なくらい心の底から伝えた」
「そんな伝えてなかったろ!? クッキー食べさせてくれただけだよね!?」
「アイム ベリーリスペクト ナンジャモ?」
「片言でなんで最後疑問形なんだよ!?」
こんな感じだけど尊敬してるのも感謝してるのもほんとですからね。ただ、それ以上に良い反応してるからイジりたくなるだけで……。
「お二人は本当に仲がいいんだね」
「カイさんとセキさんみたいな関係っすよ」
「私とセキ? それだと別に仲が良いというわけでは……」
「もしかしてカイさん……セキさんにサンクスデイのお菓子……」
俺の言葉にカイさんは不思議そうな表情で首をかしげていた。お労しやセキ上。傍から見たらカイさんとセキさんはいがみ合うバカップルに見えないこともないのに……。仕方ない。セキさんに会ったら「俺はカイさんにお菓子もらいましたけど?」ってマウントを取ってやるか。
セキさんの不憫さに場の空気が変な感じになりつつも、ひとまず目的を達成することはできた。
よっしゃ、次行くぞ次!
「マサルさーん! ナンジャモさーん!」
マリィ達と別れ、再びパシオの街中を歩いていると、元気な双子が全力疾走で俺に突撃してきたので受け止めてやる。
「アオイ、ハルト、危ねえだろ?」
「えへへ! マサルさんの姿が見えたからつい」
「僕は止めようとしたんですよ。でもアオイが犬みたいに走っていったから……」
突撃してきたのはパルデアの超新星、双子ちゃんのアオイとハルトだった。素直でとても可愛らしい、パシオでの俺の弟分と妹分。
「相変わらず二人はめっちゃマサル氏に懐いてるね」
「それはもう! なんて言ったってマサルさんはあたし達をパシオに招待してくれた恩人ですから!」
「ネモやペパー、ボタン達は招待されたのに僕達だけ仲間外れ……マサルさんはそんな孤独な僕達に手を差し伸べてくれたんだ!」
「でも君達が起こした『でんコス事変』ってテロみたいなもんだったからね?」
「でんコス事変」とは、でんTを着た俺とアオイとハルトがパシオに乗り込み、パシオの有力なトレーナーに次々とバトルを仕掛け、打ち負かしたトレーナーとバディーに強制的にでんTを着させるという、パシオを恐怖のどん底に突き落とした事件だ。
なぜ俺がそんな事件を起こしたのかというと、ユウリ、ホップ、マリィ、挙句の果てにビートまでもがパシオに招待されたのに、一向に俺が招待されないことに業を煮やしたからだ。で、俺と同じ境遇にあるアオイとハルトを一緒に連れて行ったってわけ。
まあ、最終的にレッドさん、ユウリ、ユイ(パシオの超大型ルーキー)にボコられたことで終息したんだけどな。ちなみに事件扱いされているけど、事前にパシオの最高責任者であるライヤーさんには許可をもらっていた。パシオを盛り上げるためって言ったら二つ返事で了承してくれたな。事件中は屋敷の部屋も貸してくれたし。ライヤーさんめっちゃ良い人。
「これ、ハルトと一緒にガトーショコラを作りました! 受け取ってください!」
「さんきゅーな。俺からも二人にプレゼント。手作りクッキーだ。ありがたく味わいたまえ!」
「「わーい!」」
クッキーが入った小袋を手渡すと、二人はさっそく中を開けて嬉しそうに食べ始めた。ほんとに二人とも素直で可愛いなぁ。そう思いながら二人の頭を撫でてやるとますます笑顔になった。
「ギャッス!」
「アギャッス!」
と、そこでいきなり二人のボールから二体のポケモン、ミライドンとコライドンが出てきた。出てくるなり二体は物欲しそうな表情でじーっと俺を見てくる。
「ちゃんとお前らの分もあるから安心しろ」
リュックから小皿を取り出してクッキーを盛ってやると、途端に二体ががっつき始める。まんま大型犬だなこいつら。とても未来や古代から来たパラドックスポケモンとは思えねえ。
「マサルさん! 僕、今年こそは上手にサンドイッチを作れるようになります!」
「具材を上から落とさなかったら綺麗にできるだろ。しかもなぜか最後にパンを載せねえし。アカマツくんも呆れとったわ」
「物理演算的な不思議な力のせいです!」
「物理関係ねえよ」
「マサルさんマサルさん! あたしの野望はサンドイッチをパシオに広めることです! あたしが毎日作りますから、マサルさんも一日三食あたしのサンドイッチを食べて野望に協力してください!」
「ユウリも似たようなこと言ってたなぁ……」
「ユウリさんとはいずれまた戦う運命にあります……カレーキチにパシオを乗っ取られてなるものか!」
人様に迷惑をかけない程度にがんばってくれ。ただ、ユウリのカレーキチを甘く見ないほうがいい。あのカロスの淑女、セレナさんをドン引きさせたからなあいつは。
「ちょっとちょっと二人とも~? 僕には何もないのかな~?」
「あ、忘れてました。ナンジャモさん、はいどうぞ!」
「マサル氏と扱いが違いすぎる!!」
「そりゃあジムミッションで二人にあんなおもんない企画をさせたら好感度下がりますよ」
「おもんないとかはっきり言うなよ!? あんまり企画を凝りすぎるとクリアできなくなっちゃうんだって!」
「だからと言って、あれは……ねえ? クラベル校長のキャラとアオイとハルトの可愛さで辛うじて観れるものになってたくらいだし」
「僕の可愛さは!?」
ナンジャモさんが俺のシャツを掴んでガックンガックン揺らしてくる。ナンジャモさんが可愛いのなんて周知の事実なんですから、あとはどれだけプラスα要素を増やせるかじゃないですか。
「そういえば、どうしてお二人は一緒に行動して……はっ!? まさかお二人は付き合っているんですか!? ひどいですマサルさん!! あたしのサンドイッチを毎日食べてくれるって言葉は嘘だったんですか!?」
「身に覚えがねえな」
「浮気する男はみんなそう言うんですっ!」
「ま、マサルさんがユウリさん以外と付き合う……? う、嘘だ……僕はそんなの、認めない……! NTRなんて認めない……はずなのに……! 脳が、破壊されているはず……なのに……はぁ、はぁ……なんで僕は気持ちよくなっているんだ?」
「病院行け」
パルデアのトレーナーも大概濃いよな。ってか、パシオに集まっている時点で誰も彼もが一癖も二癖あるんだよ。毎日カロリー過多で生活習慣病になるわ。
「あ、ポピーちゃん。あそこにマサルくんがいますよ」
「ほんとですっ! マサルおにーちゃーん! ポピーのお菓子も食べてくださいです~!」
「また女の子が集まってきた!? くっ……僕は絶対に屈しない……! 屈しないぞ!」
「ハルト氏はもう色々手遅れだね」
その後、ミカンちゃんとポピーちゃん、「アイアンズクラブ」のガールズ達も合流してわちゃわちゃしつつお菓子交換するのだった。
「マサル氏ってほんとに人気者だね~」
「そんな俺の人気にあやかろうとして俺とコラボしたのが運の尽きでしたね」
「自分で言うな自分で!! 君はポケモンの技で言うと『もろはのずつき』だな!!」
「ナンジャモさんは何だろう……『かいでんぱ』?」
「僕のチャンネルが怪電波だって言いたいのか!?」
ナンジャモさんがチャームポイントのギザっ歯で噛みついてきそうだったので、余ったクッキー生地で作った小さいメロンパンの皮を口に押し込んであげると、はむはむし始めた。今度配信に呼ばれたら「ナンジャモさんを餌付けしようのコーナー」でもやってみるかな。アドリブで。
ナンジャモさんはメロンパンの皮を大変お気に召したようだったけど、口の中がパッサパサになったらしく、放送禁止の表情で俺に助けを求めてきたので、こんなこともあろうかと用意しておいた紅茶を与えることにする。
そんな風にナンジャモさんを介護していると、背後からそろりそろりと誰かが近づいてくる気配を感じ取った。バレバレだな。俺を驚かそうとしているみたいだけど、ユウリじゃない。普段なら逆にこっちが驚かし返してやる、が……まあ、今日くらいは好きにさせてやるか。誰かはわかってるし。
「だーれだっ?」
「メイ」
「早っ!? ちょっとくらい悩むそぶりを見せてくださいよ~」
甘い声と甘い匂い。振り返ると、そこには予想通りの人物、ポケウッドで名の知れた女優であるメイがいた。相変わらずすげー髪型してんな。
「あ、メイ氏じゃ~ん。おはこんハロチャオ~♪」
「ナンジャモさん、おはこんハロチャオです!」
そしてこのメイは何を隠そう、「でんコス事変」の記念すべき最初の犠牲者なのだ。俺とアオイとハルトがパシオに乗り込んで最初に見つけた有名なトレーナーがメイ、タケシさん、カスミさんの三人だった。いやあ懐かしい。
「まさかメイ……俺にサンクスデイのプレゼントを?」
「ふふーん♪ その通りです! このメイちゃんが真心込めて作った───」
「とうとう頭のベーグルを齧らせてくれるんだな。いただきます」
「ぎゃーっ!? 口を開けて迫ってこないでください!!」
途端にメイは悲鳴を上げてナンジャモさんの後ろに隠れてしまった。
「冗談だったのにそこまでビビることないだろ」
「マサルさんは嫌がるあたしに無理やり
「でも、僕もその髪型気になるな~。どうやってセットしてるの?」
「え? 別に普通ですよ。グワッとしてガッってやってくるくる~って」
「あー、なるなる~」
擬音ばっかで何一つ伝わってこねえ。ほんとに女優やってたんかこの子。ってか、なんでナンジャモさんには通じてんだよ。女の子同士特有のよくわからん共感覚か?
「なるほど。頭に丸っこいもんくっつけてる同士だから理解し合えたのか」
「丸っこいもんって……これはあたしのトレードマークです! お団子の応用ですよ!」
「僕達を珍獣みたいに……言っておくけど、常時へんてこなTシャツを着てる君には言われたくないからな!」
「俺はスポンサーに配慮してるんですよ。っつーかファッションでだったらナンジャモさんも大概じゃないですか! なんすかその保護者からクレームが来てそうな隙間?」
「僕の魅惑のチラリズムは! モンペなんかに屈しない!」
「……運営様には?」
「あ、垢BANだけは勘弁してくだせぇ……」
ドンナモンジャTVを見たちびっ子達の性癖をどれだけ破壊したのだろうか。想像したくねえな。実際、インナーはくそエロイし胸元というか首元はゆるゆるでカメラアングル次第では丸見えになるし……まあ、その辺はプロだから注意してるんだろうけどね。それにしてもお子様達の教育には悪いわな。
「まあまあ、お二人のファッションセンスは時代を先取りしすぎているということで……」
「いや、メイのTシャツも……何? そのデザイン……何?」
「何ってモンスターボールですよ! 可愛いじゃないですか!」
メイがそう言って見せつけるように胸を張った。この子、年の割に胸がかなり大きいからTシャツのデザインが歪むんだよな。ボールが楕円になってるし。ユウリには縁のない光景だ。
「Tシャツもそうだけど、メイ氏のスカート? キュロットスカート……? いやどう見てもスカートってレベルじゃないじゃん!! ただのヒラヒラした布だよ!! よくこんなの履いて人前歩けるね!?」
「タイツ履いてるから平気です! そもそもそんなアウターを着てるナンジャモさんには言われたくありません! へっへっへ~、このジッパーを開いたら中はどうなってるのかな~?」
「やめろやめろー! チラリズムがモロリズムになっちゃうだろー!?」
「結論、メイもナンジャモさんも人前に出るには恥ずかしいファッションをしているということで」
「そんなTシャツ着てるマサル氏には言われたくないよ!!」
「そんなTシャツ着てるマサルさんには言われたくないです!!」
しばらく三人でファッションについてぎゃーすか言い合うも、結局収拾がつかなかったのでたまたま近くを通りかかったリーフさんとトウコさんのお姉さんコンビを引き留めて客観的な意見をもらうことにした。
その結果……。
「いや、三人ともおかしいわよ」
「そうだね。顔の良さで中和されてるところもあるけど……いや、マサルは中和されてないか」
「リーフさんひでえ。確かに、俺の顔面偏差値なんてメイやナンジャモさんと比べること自体おこがましいっすけど」
「あはは、違う違う。そうじゃないよ。ウインディのインパクトが強すぎて中和できないって意味だから。マサルはもうちょっと自分の顔に自信もっていいよ? トウヤくんやカルムくんみたいに誰もが見惚れるイケメン! って感じじゃなくて、素朴で端正で化粧映えしそうな顔立ちだね」
「あ、それすごくわかるわ! あたし、マサルにメイクしてあげたいって前から思ってたの」
「マサルさんって髪型変えるだけでもかなり印象違いますよね~」
「そうだよ。マサル氏のニット帽も可愛いけど、もっと自由に髪型弄るのもいいと思うな~」
女子四人が俺の頬っぺたや頭を好き放題触りながらきゃっきゃと楽しそうに話し合っている。しまった。「女三人寄れば姦しい」って言うけど四人集まったらもうどうにもならねえな。今の俺には、彼女達に身を任せて嵐が過ぎ去るのを待つことしかできない。
「どう、マサル氏? 僕のプロデュースでヘアメイクしてみる?」
「変な二色にされそうなんで遠慮しておきます」
「甘いね。四色だよ!」
「余計嫌っすよ!」
なんだよ四色って!? グランドラインとレッドラインで世界を四つに区分するつもりですか!?
「それに、この帽子はユウリがプレゼントしてくれたんでしばらく変えるつもりはないですし、髪型変えようとするとあいつ不機嫌になるんすよねぇ」
俺がそう言うと、四人の女子達はにんまりと笑って「あらー♪」とでも言いたげだった。出やがったな厄介な女子の団結力!
「マサル」
胡散臭いものを見るような視線を四人に向けていると、リーフさんが目をシイタケみたいにキラキラさせながら肩を叩いてきた。
「それは紛れもなく、愛……さ」
「愛ね」
「愛ですね」
「愛だね~」
なんやねんこの流れは。
「そんな愛されマサルくんはユウリちゃんから何をもらったのかな~? ほれほれ、お姉さんに教えてみ? ん? ん?」
リーフさんが怪しく笑いながら肩を組んでくる。レッドさんやグリーンさんの幼馴染やってるだけあって、この人も異性へのボディタッチが激しいな。めっちゃ良い匂いするし。
「いや、まだなんにももらってないっすね」
「……え? ほんとに?」
「ほんとに」
そう答えると、さっきまでのテンションはどこへやら。リーフさんはものすごく気まずそうな表情になってしまった。
「マサル、これあげるね。レッドやグリーン達にあげた余りだけど」
「あたしもこれあげるわ。お兄ちゃん達にあげた余りだけど」
「余りって言う必要あります?」
リーフさんとトウコさんは心底同情したような表情で、俺の頭を撫でながらお菓子をくれた。いや、そんな同情しなくていいっすよ。どうせユウリのことだから、俺を驚かそうと変に気合いを入れて郊外でキャンプ張ってるだろうから。
まあでもくれるのであればありがたくいただこう。俺も二人にお菓子あげたかったし。ただ、トウコさんには結構お世話になったけどリーフさんにはあんまお世話になった記憶がないんだよな。リーフさんのイーブイと俺のニンフィアのどっちが可愛いかについてマウントを取り合ったり(最終的にどっちも可愛いという結論になった)はしたけど。
「まあまあ、今日ユウリ氏に何も貰えなかったら仕方ないから僕が慰めて───」
そんな感じでみんなでお菓子を交換し合っていた時のことだった。
「あ、マサルいたーっ!!」
馴染みのある能天気な声が後ろから聞こえてきたので、俺は無意識の内に表情を綻ばせていた。そして、振り返る前に腰のあたりに強い衝撃が走る。
「まったく! サンクスデイにこのユウリちゃんを放っておいて女の子に囲まれているとは何事か! 真っ先に私に感謝を告げに来るべきだよね!?」
ユウリはほっぺたをぷくーっと膨らませながらもご機嫌な声色だった。そもそも、お前が街中にいなくてどっかほっつき歩いてたから悪いんだろうが。そう思ってユウリの頭をぐしゃぐしゃにしてやると嬉しそうな悲鳴を上げた。
「あ、これみなさんにサンクスデイのプレゼントです! クッキー作りました!」
そう言ってユウリはナンジャモさん達に可愛く包装された小袋を渡している。ユウリのやつ、クッキー作ったのか。俺とモロ被りしてんじゃねえか。
「俺のは?」
「マサルの? ないよ」
「どんな仕打ちだよ!?」
尋ねると、ユウリは首をかしげて不思議そうに答えた。何のために俺に突撃してきたんだこいつ。
「マサルにはね~。ユウリちゃんの特製カレーを食べさせてあげようと思います!」
「……一応聞くけど、どこで作ったんだ?」
「山!」
どうりでこいつから薪を燃やした匂いがしたわけだ。郊外でキャンプ張ってるって予想は当たってたな。
「じゃあ、すいませんみなさん。今からこいつと山登りしてくるんで」
俺がそう言うと四人ともニマニマと怪しく笑いながら手を振ってくれた。ユウリはそんな笑顔の裏にちーっとも気付かず、尻尾を振る犬っころのように笑顔で四人に手を振り返す。
「で、何カレーを作ったんだよ? 当然、俺の好きなヤドンのテールピリ辛カレーだよな?」
「違うよ。私の好きなりんごとヴルストたっぷり甘口カレー」
「俺への感謝じゃねえのかよ!」
「だって私がそれを食べたい気分だったんだもん。それよりもマサルは? 当然、この可愛い可愛いユウリちゃんに感謝の貢物を用意してるよね?」
「さっきトウコさん達にあげた分でなくなったわ」
「ふざけんなこのやろー!!」
ユウリがへなちょこパンチで俺をぽこぽこと叩いてくる。冗談に決まってんだろ。ちゃんとお前の分は別で取ってあるっつーの。そう思いながら俺はリュックから、他の人の物とは違う包装をした小袋をユウリに渡した。
「ほれ」
「何? チーズケーキ?」
「なんでチーズケーキなんだよ」
「お口がチーズケーキの気分だったから」
「そうかい、残念だったな。マカロンだよマカロン」
「ま、マカロン!? 馬鹿な……マサルにそんな可愛いお菓子を作る技量があったなんて……」
「いらねえんだな?」
「いるーっ! いるーっ!」
取り上げようとすると、ユウリは俺から守るように大事に小袋を抱き締めた後、おもむろに開いて中からマカロンを一つ取り出して頬張った。飯食う前だってのに何やってんだ。
「ふへへ~美味しい~♪ 中はちゃーんとしっとりしてる~。マサル、ありがとね!」
ただ、こいつの笑顔を見るとそんな注意をする気も失せるわけで。
ほんと、呆れるくらい俺はこいつに甘いというか弱いというか……。
「でも、なんでマカロン?」
「そういう気分だったんだよ」
「気分か~。気分なら仕方ないな~」
そう言ってユウリは嬉しそうに俺の手を握った。なんでマカロンにしたかなんて、
「ユウリ」
「なぁに?」
ただ、一つだけ言えるのは。
「……付け合わせの福神漬け、忘れてねえだろーな?」
「ふっふっふ。このユウリちゃんがカレーに関して妥協するとお思いか?」
こいつが俺にとって「一番の特別」だってことだ。
今までも、これからも、ずっとずっと。
「……今日マサル氏と行動して思ったんだけどさ~。僕って完全に当て馬だよね?」
「「「……」」」
「否定せんかーい!!」
すごいよ!! マサルくん 番外編
その
はい。というわけでバレンタイン特別編でした。
本編よりもマサルとユウリの空気が甘々()でしたね。この二人の真っ当なイチャラブ()を書けて満足。
今回はマサルを他シリーズの色んなキャラと絡ませたかったのでポケマスのパシオという便利な人工島を利用させてもらいました。ポケマスやってない人がいたらごめんね。もっとたくさんキャラを出したかったけど、これ以上は収拾がつかなくなるから私の力量では無理でした。
ちなみに今回登場した女性キャラの何人かは完結後のifルートがあります。多分。
それと、今回のお話で触れていた「でんコス事変」についてですが……
パシオに一向に招待されないマサルが業を煮やして、同じ境遇にあるアオイとハルトを引き連れてパシオに乗り込み、負かしたトレーナーとバディーに強制的にでんTを着させるという、ある意味でパシオを恐怖のどん底に陥れた事件です。
最初の犠牲者はポケマス序盤のメインヒロインであるメイとジャローダ。その後、ジムリーダーや各地方の主人公クラスの実力者ばかりを打ち負かし(もちろんナンジャモも犠牲者)、最終的にダイゴ、シロナ、ワタルのアルコストリオを撃破したことでマサル達の脅威度が一気に跳ね上がります。
が、伝説の男レッド、妖怪カレー女ユウリ、パシオの超大型ルーキーユイ(ポケマス主人公)の三人にマサル達が倒され、パシオに平和が訪れた……という感じです。
負けたらクソダサTシャツを着せるというテロまがいの行動ですが、事前にパシオの責任者に許可を取ってあったという周到な計画でした。
ポケマスで「でんコス」が実装されないかなぁ。されないだろうなぁ。
ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
次回こそ最終章に突入します!
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