お待たせしました。
えちえち可愛いカナリィちゃん√の前編です。
女の子なら誰もが一度はこんな夢を見る。
いつか、白馬に乗った素敵な王子様が自分を迎えに来てくれるかもしれないって。
僕だって、遠い昔。
本当に遠い遠い昔に、そんな夢を見ていたような気がする。
「白馬に乗った王子様? 白馬に乗った豊穣の王様なら知ってるよ。バド様って言うんだけど」
いつだったか、彼にそういう話をした時に全く予想外の答えが返ってきたことを覚えている。
彼は、僕が笑っちゃうくらいにロマンチストの精神なんて微塵も持ち合わせていなかった。
彼は本当に、白馬に乗った王子様からはほど遠い存在だ。
だけど。
それでも。
彼との出会いは───
「くそっ!! なんでただの観光客がこんなに強いんだよ!! ポイントにもならないしバトルするだけ損だった!!」
「ちょいちょいちょいおじさん。背後からいきなり奇襲を仕掛けてきてそれですか?」
「悪かったな兄ちゃん、これがミアレ流なんだ」
「……都会こえー」
マサルとの出会いは───僕の人生を変える、運命の出会いだった。
カナリィ√【前編】
『屈辱のシビルドンTシャツ着用実況!! ガラルのトレーナーがメガシンカを使いこなせるなんて聞いてないっすよ!! ~ピュール&ムク怒りのマサル襲撃編~』
僕はあれから……キョウヤとのバトルに負けてからというものの、ZAロワイヤルに積極的に参加するようになっていた。バトルの楽しさを思い出したのもそうだけど、何よりも負けっぱなしっていうのが性に合わない。今度やる時は僕がボッコボコにしてやるっすからね。首を洗って待ってろよキョウヤ!
という感じで、いつものようにZAロワイヤルに参加するために意気込んでバトルゾーンにやってきたんだけど……。
「くそっ!! なんでただの観光客がこんなに強いんだよ!! ポイントにもならないしバトルするだけ損だった!!」
「ちょいちょいちょいおじさん。背後からいきなり奇襲を仕掛けてきてそれですか?」
「悪かったな兄ちゃん、これがミアレ流なんだ」
「……都会こえー」
なんか……変なTシャツを着た男の子とおっさんが言い争いをしていた。
どういう状況っすか?
男の子のあの大きなリュックを見るに……男の子はミアレにやってきたばかりの観光客で、街を歩いていたらZAロワイヤルが始まる時間になってバトルゾーンに巻き込まれて参加者と間違われたってところかな。
……ちょっと待って。この男の子、参加者に勝ったんすよね? いやいやいや。ここはCランクのバトルゾーンすよ!? ミアレでも上位数パーセントしかいないのに……この男の子、只者じゃないな。
ん? というか、あのクソダサイTシャツと……男の子の隣にいる背の高い水タイプっぽいポケモンに見覚えがあるのは気のせいかな?
「あー、ポケモンセンターで回復してこなくちゃな。兄ちゃん、さっさとバトルゾーンから出た方がいいぞ。俺みたいに勘違いするトレーナーが勝負を吹っ掛けてくるかもしれないからな!」
「バトルゾーンって何!? っておーい! おじさーん!」
男の子の質問に答えることなく、おっさんはさっさと走り去っていってしまった。取り残された男の子は、途方に暮れたようなしょぼーんという効果音が聞こえてきそうな表情を浮かべている。
さ、さすがにこれを見捨てるのは良心が痛むっすね。
それに、この男の子は僕が知っている「彼」かもしれないし。
そうだとすれば、少しばかり
「おーい、そこの少年。大丈夫っすかー?」
良心と打算が入り混じった心境の中、声をかけると男の子が表情を輝かせて僕を見た。うん、まあ……ミアレの事情を知らなかったらそうなるっすよね。
歩み寄って男の子を上から下まで一瞥した後、顔をじっと見つめてみる。やっぱり見覚えがある……というか、ほぼ間違いなく「彼」だろう。
「少年、もしかしなくても観光客っすか?」
「そうなんですよ! 終電ギリギリでミアレに着いてホテルを探してたらいきなりわけのわからないフィールドが展開されて挙句の果てにおっさんに背後から奇襲される始末……あのー、一体何がどうなってるんですか?」
「立ち話もあれだし、歩きながら話そうか。ほら、ここにいるとさっきみたいに問答無用でバトルを仕掛けられるかもしれないからね」
そして僕達は並んで歩き始める。横に並んだら……意外と背が高いな少年よ。
「えっと、何から聞けばいいか……」
「大丈夫。一から順に説明してあげるっす」
それから僕は男の子に色々と教えてあげた。「ZAロワイヤル」のこと。「バトルゾーン」のこと。「ワイルドゾーン」のこと。「クエーサー社」のこと等、ミアレで無事に過ごすために必要な知識を。
「なんかもうあれだ。ミアレやべーって感想しか出てこないですね。こんな大都会の深夜にドンパチやり合うって……騒音の苦情とかすごそう」
「その辺はちゃんと配慮されてるっすよ。ZAロワイヤル中、バトルゾーン内の建物は外の音を遮断してポケモンの技でもぶっ壊れないように特殊なシールドが張られてるから」
「かがくのちからってすげー! ってかクエーサー社ってすげー!」
「野生のポケモン達を完全に隔離できるワイルドゾーンを作った会社っすからね」
「
男の子の口から「ガラル」という言葉が出てきた。ああ、そうか。そうなんだ。やっぱり君は、そうなんだね。
「あ、自己紹介が遅れましたね。俺はマサル。ガラル出身です!」
「僕はカナリィ。よろしくっす」
彼の言葉を、彼の名前を聞いて……僕はマスクの下で思わず口元を綻ばせてしまった。どうしよう。顔のにやけを抑えられない。まさかこんなところで、こんなところで彼と……
「僕、マサルのこと知ってるっすよ」
「え? マジですか? いやー、照れますね。ガラルの四天王も有名に───」
「ナンジャモにクソダサTシャツを着せてバズったガラルのトレーナー!」
「そっちかい!!」
忘れもしない。ドンナモンジャTVで伝説になったあの回を。マサルがナンジャモをマジバトルで打ち負かし、クッッッソダサイコイルTシャツをナンジャモに着せてSNSのトレンドを席巻し、ドンナモンジャTV史上過去最高の同接数になったあの回を。
まあナンジャモは元々体を張った企画が多かったけど有名になって視聴者の年齢層が広くなってから一般受けの企画しかやらなくなったからねいや別にそれが悪いってわけじゃないよ昔の尖った企画を今やっちゃうと下手すれば炎上するしでも最近のぬるい企画ばかりじゃ物足りなさがあったのも事実だからマサルがゲストの回は古き良きナンジャモを思い出させてくれて本当に楽しかったやっぱりナンジャモは身体を張った企画でこそそのポテンシャルを最大限発揮できるよね僕も思わず高額スパチャしちゃったしそういえばあの配信でグルなんとかさんって人も高額スパチャしてたな。
「まさかあれを観られていたとは」
「僕も配信……はたまにしかやらないけど、ゲーム実況者の端くれだからね。それに、ナンジャモと同じ電気タイプの使い手だから多少なりとも彼女のことは意識はしてたっすよ」
「ん? ゲーム実況、電気タイプの使い手、カナリィ……もしかして───」
おや? その反応……ふっ、やれやれ。どうやら僕も有名になったもんだ。
「炎上スレスレ発言毒舌系実況者カナリィさん!?」
「面と向かってよくそんなこと言えたな!!」
し、失礼だな少年。言ってることは全部事実だから否定しないけども!!
ま、まあ? 彼は僕のファンみたいだしぃ? ファンのそういう発言を許すのが一流の実況者って者───
「いやー、ナンジャモさんが言ってたカナリィさんがあなただったとは……俺は動画見たことないんですけど」
「うぉい!! ファンですらなかったんかい!!」
「す、すみません!! パルデア滅亡の危機を救ってたからそれどころじゃなくて……あ、これオフレコだった」
「パルデアで何やってたんだ君は!?」
さらっととんでもないこと言わなかったかこいつ!? き、気になる……気になるけど厄ネタというか厄介ごとの匂いがプンプンするな。そういうのには蓋をしてないないしちゃおうねぇ。僕は何も聞いてないからな!
ナンジャモに認知されていたことだけ素直に喜んでおこう。
「あ、カナリィさん。助けていただいてさらにお願いするのは気が引けるんですが……」
「何すか?」
「今からチェックインできそうなホテルってご存知です?」
「ん~……今の時間だと、ほとんどのホテルが受付終わっちゃってるね」
「ですよねー。じゃあキャンプできる場所ってありますか?」
「こんな街中にあるわけないだろ!? おまわりさんに職質されるのがオチだよ!!」
「しょうがない。だったらワイルドゾーンでテントを張って……」
「張るな張るな!! どんな野生児だ君は!! ネカフェに行くとか色々あるだろ!!」
「ネカフェ……その発想はなかった」
どれだけ未開の地からやって来たんだこの少年……。ワイルドゾーンでキャンプするなんてあのシローですらやらなかったのに。もしかして僕はとんでもない男に声をかけてしまったのでは……?
いやでも!!
悪いが少年、僕の飛躍のために君を利用させてもらうよ。ふふーん、男なんて僕の可愛さとボディーラインで誘惑してやればイチコロよ!
「……マサル、ウチ来る?」
僕が自慢の胸を寄せつつ魅惑の笑顔と上目遣いでそう言った瞬間、マサルは三歩下がってボールを構えた。ほんとに失礼なヤツだなおい!!
「つ、美人局!! 知ってますよ!! そうやってホイホイついて行った先が怖いお兄さん達のいる事務所なんでしょ!? カナリィさんも結局俺の身体がめあてだったのね!!」
「違わい!! 今のご時世にそんな怖いお兄さんのいる事務所なんてあるわけ……あったわ」
「都会こえー……」
マサルがビビり散らかしている。サビ組は法定金利をガン無視した阿漕な商売をやってる一方で、街の揉め事を解決したり、行政の手が届かないインフラ整備に関わってたりしてるからなぁ……。
「大丈夫。街を守る良いヤクザ? ってヤツだから」
「本当に良い人はヤクザになったりしないですよ」
「百理ある」
しまった。マサルの言葉に反論できない。それに、マサルの身体がめあてっていうのもあながちまちがいじゃないんだよね。そうじゃなかったら出会ったばかりの男の子にこんな風に声をかけたりしない。
とはいえ、だ。マサルに警戒されたままだと僕の目的を果たせない。仕方ないからじーちゃんに連絡してさっさと事を進めちゃうか。
「もしもし、じーちゃん? あのさ、ウチの従業員の下宿用の部屋ってまだ空いてたよね? うん、そうそう。バトルゾーンに巻き込まれた観光客がいてさ。宿がないらしいから泊めてあげたいんだけど」
じーちゃんは僕のお願いだったら大抵は二つ返事で了承してくれる。今回も僕の優しさに感動してすぐに部屋を用意してくれると言ってくれた。
「ウチ、実家が工務店なんすよ。で、従業員の下宿用の部屋が余ってるから貸してあげるっす」
「……いいんですか? いや、俺としては願ったり叶ったりですごく助かるんですけど」
「まあ、対価として僕のお願いを聞いてもらうつもりっすけどね」
「やっぱそういう展開ですか。先に言っておきますけど脱ぎませんからね」
「誰もそんなもん望まんわ!!」
一肌脱いではもらうけどね!!
まったく……本当に何なんだこの男。
あ、そういえばじーちゃんに男の子だって言うの忘れてたけどまあいっか。とゆーか、
そして僕がマサルを連れて家に帰ると……。
「カ、カナリィが男を連れて帰って来たじゃと!? 小僧貴様……カナリィの優しさにつけこみおってからに!! 絶対に許さん!! ワシと勝負じゃ!!」
「えぇー……」
じいちゃんは期待通りのリアクションでマサルを迎えてくれた。当のマサルは「話通ってないじゃん」とでも言いたげな表情で僕を見る。うん、ごめんね。こうなるのは最初っからわかってた。
「大丈夫。バトルに勝てばじいちゃんも認めてくれるっすから」
「うーん……確かに、よく考えたら大事な孫娘さんが見知らぬ男を連れて帰ってきたらこんな反応にもなりますよね」
「君みたいなイカれた服装をしてるならなおさらだ」
「いやいや、服装で言うならカナリィさんだって……電気タイプの使い手ってみんなこうなのか?」
おい。僕の服装にケチをつけるのか? 確かに人より少しだけ露出が激しいから夏は蚊に刺されまくるけども。僕はこの格好を気に入ってるからな。
「何でもかんでもバトルで片をつけるっていうのはこの世界の共通認識ですもんね。……やりますか」
「潔いな小僧。ワシの大事なカナリィをたぶらかした罪……その身をもって償ってもらうぞ!」
どっちかというとたぶらかしたのは僕なんだけどね。
まあいいや。
「……ワシの負けじゃ」
バトルの結果は、マサルの圧勝だった。
強い。強すぎる。マサルは僕が想定していたよりも何倍も強かった。マサルのエースポケモン、インテレオンが地面タイプに相性が良いとはいえ、じいちゃんのガチパーティーをこうも圧倒するなんて。
マサルとナンジャモのバトルは動画で見たけど、生で見るとこうも違うのか。ただ、君のインテレオンは僕のパーティーの前では機能しない。そして、君のパーティーには僕の天敵となる地面タイプのポケモンはいない。ナンジャモとの一戦で、君の電気タイプに対する戦い方も見せてもらった。
……勝ったな。
「真っ向勝負でこうも捻じ伏せられたのは
「いえ、俺の方こそ夜分に押しかけちゃってすみませんでした。お言葉に甘えてお世話になります」
じーちゃんとマサルが互いの健闘を称え合って握手してる。うん、これで一件落着かな。ふっふっふ。すべて僕の計画通り!
「じゃあマサル、部屋に案内するっすね。今夜はゆっくり休んで明日は僕の用事に付き合ってもらうっすから」
「……ちなみに用事って?」
「それは明日のお楽しみ♡」
可愛らしくウインクしてそう言うとマサルは胡散臭いものを見るような目を僕に向けてきた。お前! 本当に可愛げのない反応だな! 明日は覚悟してろよ!
「あ、カナリィさん」
「何?」
「本当に今さらですけど、助けてくれてありがとうございました」
「……おう」
訂正。今の笑顔はちょっとだけ可愛かった。ちょっとだけ。
「カナリィさん、おはようございます!」
「おふぁよ……てか何すかこの状況?」
翌朝、朝というには遅すぎる時間すね。もう昼過ぎてるし。仕方ない。昨夜は哀れな観光客マサルくんを可愛いカナリィお姉さんが助けていたから仕方がない。僕がこんな時間まで起きなかったのは全部マサルのせいだ。
で、起きてガレージにやってくると……どこから持ってきたかわからないでかいキャンプテーブルが設置されていて、その上に大量のサンドウィッチ。それを美味しそうに食べているじいちゃんや従業員のみんな。モーモーミルクを嬉しそうにマサルから貰っているシビルドン達。
シビルドン達?
「僕のポケモンが!! マサルに餌付けされている!!」
「みんな良い食べっぷりですね。作り甲斐がありましたよ」
「君が作ったの!? この大量のサンドウィッチを!?」
「これからしばらくお世話になるわけですし、これくらいさせてください」
な、なんという殊勝な心掛け。みんなのためにご飯を作ってくれるとか……いや僕だってちょっと本気出せばこのくらい余裕っすよ。料理くらいできるっすよ。嘘じゃないっすよ。嘘じゃねえつってんだろ!
……おほん。サンドウィッチで思い出した。確か一時期パルデアでパンを乗せないサンドウィッチが話題になって「それもうサンドしてねえだろ」ってツッコんだ記憶がある。
「カナリィさん、コーヒー飲みます?」
「うん、飲む。ミルクもちょうだい」
「砂糖は?」
「なしで」
みんなが飲んでいるコーヒーもマサルが自前の豆を挽いて淹れてくれたらしい。いつものインスタントとは全然違う……あれ? ガラルって紅茶のイメージがあったんだけど。話を聞くと、マサルはコーヒー派だとか。ふーん、僕と一緒なんだ。……ふーん。
「こんなにたくさん……作るの大変だったんじゃない?」
「慣れてますから。いつも朝四時起きなんで」
「じーちゃんかよ!? 朝四時って下手したら僕が寝る時間だぞ!」
「実家が農家だからこういう生活リズムなんですよね」
この大量の食材やモーモーミルクも実家から送られてきたものらしい。僕、農家に生まれなくてよかった……食べ物が美味しいのはありがたいけど。とゆーかマサルのヤツ、いつの間にかじーちゃんや従業員のみんなとも仲良くなってるし。コミュ力高いなこの男!
サンドウィッチも悔しいことに美味しかった。悔しいことに。
「昨日言った君に付き合ってもらう『僕の用事』というのは他でもない。マサル……僕と、バトルしてほしい」
「こんな立派なバトルコートに連れてこられた時点でわかってましたけど。にしてもギャラリーが多いな……」
ご飯を食べてマサルと一緒に近くのバトルコートへやってくる。
「こんな大勢に注目されながらバトルするのは緊張するっすか? 可愛いところもあるっすね。そんなんで実力を十分に発揮できるのかな?」
「いや、別に緊張はしてませんよ……ただ、
そう言ったマサルは強がっているわけじゃなさそうだ。本当に、昔を懐かしむような穏やかな表情を浮かべている。
おかしい。これだけのギャラリーに囲まれながらのバトルなんてそうそうあるものじゃない。いくらガラルのトレーナーだからといって……そう、ガラルのジムチャレンジでもなければこんな状況には───
その瞬間、僕はマサルの昨日の発言を思い出していた。
『え? マジですか? いやー、照れますね。ガラルの四天王も有名に───』
ガラルの……四天王? あの時は軽く流しちゃったけど、まさかこの男……ガラルのジムチャレンジャーだった?
「光栄ですよ。ミアレに来て早々、こうも
雰囲気が変わった。さっきまでの穏やかな表情も、飄々とした気配なんて微塵も感じない。チリチリと肌を焼くような闘志が明確に伝わってくる。
面白い。そうこなくっちゃね。じゃないと、君とバトルをする
僕は、キョウヤに負けてバトルの楽しさを思い出すことができた。
でも、それだけじゃ足りない。思い出しただけじゃ足りないんだ。
今の僕は、停滞してしまっている。足踏みしてしまっている。それを嫌というほど実感していた。
だから、今の状況を打破するためには、僕がもっと強くなるためには。
君のような新しい起爆剤が必要なんだ。
ごめんね、マサル。
君に声をかけたのは、親切心から……だけじゃない。そういう
「ねえ、マサル。一つ賭けをしないっすか?」
「賭け?」
「そう。互いに大事なものを一つ賭ける……その方が、盛り上がるっしょ?」
この提案に、マサルは乗ってくるはずだ。絶対に。
だって君は、
「賭けるものは金でも地位でも名誉でも
「……へぇ。面白いっすね。じゃあ僕に負けたら一か月間下僕やってもらうっすよ」
「じゃあ俺に負けたらカナリィさんには───この特製シビルドンTシャツを着てもらいます!」
「クソダセぇ!!!!!」
いや確かにシビルドンは僕の相棒だけれども!! それをなんであんなダサくデザインできるんだ!? とゆーかマサルはあのシリーズのTシャツを何種類持ってるんだ!! ってシビルドン!! 勝手にボールから出てきて喜ぶな!! 僕は絶対あんなの着ないからな!! ちくしょう!! 負けられない理由が増えた!!
そもそもマサルくんよぉ……君さぁ、こんな可愛い女の子と賭けをするんだったら普通もっと別のものを賭けるだろ!! なんでそんな賭けの内容なんだ!! 僕に魅力がないって言うのか!? おぉん!? どーなんだおい!? お前それでも男か!! キ〇タマついてんのか!?
ふぅー……落ち着け僕。これはマサルをしっかりわからせてやる必要があるっすねぇ……。
「判断を誤ったっすねマサル。君のポケモン、君の基本的な戦い方はじーちゃんとのバトルでしっかり見せてもらった! 電気タイプとの戦い方もナンジャモとのバトルで把握済み! そして、君のエースであるインテレオンは僕とのバトルでは
「ムゲンダイナ!」
「───っておい!! なんだそのチートそうな見た目のクソデカドラゴン!! そんなのじーちゃんとのバトルでもナンジャモとのバトルでも使ってなかっただろ!!」
「あのガレージでこいつを出したら建物が吹っ飛んでましたよ」
マサルはいきなり見たこともない巨大なドラゴン……ドラゴン? みたいなでかいポケモンを出してきた。ムゲンダイナってなんだよ! そんなポケモン聞いたことないっすよ! でも見た目は骨みたいな貧弱ボディ。きっと耐久力は低いに違いない。僕のポケモン達の火力で押し切ってやるっすよ!
うおおおおおおお!! 可愛いカナリィちゃんの勇気が未来を救うと信じて!! DG4!!
「バンギラス───メガシンカ」
「い、色違いバンギラス!? ガラルのトレーナーがメガシンカを使いこなせるなんて聞いてないっすよ!! あqwせdfrtgyふじこlp!?」
結果は、僕の敗北。
強かった。マサルは……マサルのポケモンは信じられないくらい強かった。エースのインテレオンが使えないにもかかわらず、他のポケモン達に僕のパーティーは圧倒されてしまった。その上マサルはミアレに来たばかりにもかかわらず、キーストーンとバンギラスナイトを持っていた。
な、何なんだこの男……。
「俺の勝ちですね、カナリィさん。じゃあ約束通り、このTシャツを着てもらいますよ」
「……他のお願いじゃダメっすか?」
「ダメっす」
僕が全力媚び媚びぶりっ子上目遣いまで使ったのに無慈悲に即答しやがったこの男!! そーだよな、君は昨日もそーだったもんな!!
「くっ……!!」
「殺せ?」
「誰もそんな女騎士みたいなこと言ってないだろ!!」
このバトルの様子は僕のスマホロトムを通して配信されている。当然、バトル前の賭け云々のやりとりもだ。ここで賭けを反故にしてしまえば視聴者やファン達の信頼を損ねてしまうかもしれない。
ぐ、ぐぬぬ……。
「やるっすねマサル。僕をここまで追い詰めるなんて……」
「賭けがどうのこうのって言い出したのはカナリィさんですからね」
「やめろ!! そんな正論は聞きたくない!!」
マサルは無慈悲に……とゆーか笑いながら僕にTシャツを差し出してくる。くぅ……見れば見るほどこのTシャツ……あれ? よく見たらシビルドンのキュートなボディラインやクールな牙がリアルに表現されてて結構ありなデザインなんじゃ……はっ!? そんなわけあるかい!! このTシャツにはきっと怪しい催眠効果があるっす!! こんな可愛くておっぱいが大きい美少女カナリィちゃんを催眠にかけるとかエロ同人かよ!! ってシビルドン!! だからそんな期待に満ちた眼差しを僕に向けるな!!
ああ、そうか。やっとわかった。
あの時のナンジャモも、今の僕と同じ気持ちだったんすね。
観念した僕がマサルからTシャツを受け取ろうとしたその瞬間───
「ちょっと待ったぁ!!」
「その賭け、待ってもらいますよ!!」
声を上げてギャラリーの中から僕達の間に割って入ってきたのは二人の男女。
「ムクちゃん!! それと……前のイベントでキョウヤのバックについていた外付け頭脳くん!!」
「カナリィ、あたしが助けてあげるからね」
「推しに認知されていた!? くっ……本来ならただの一ファンである僕がでしゃばるような場面じゃない推しとの適切な距離を守ってこそ一流のファンです応援の形は数あれど配信中に突撃するなんて言語道断許されることじゃないとわかっていますがこれを黙って見過ごすわけにはいかない!!」
「君、だいぶ拗らせ厄介ファンっすね」
ムクちゃんと外付け頭脳くんがボールを構えて僕達に近づいてくる。ムクちゃんの実力はよく知っているし、外付け頭脳くんがどれくらいやれるのかはわからないけど、キョウヤと一緒にいたってことは凄腕のトレーナーである可能性が高い。
そうだ。諦めちゃダメっすよカナリィ。
「あたしのカナリィにそんなダサイTシャツを着せるなんて絶対に許さない」
「あなたのカナリィさんではなくみんなのカナリィさんです、と普段の僕ならそう言うでしょうけれど今はそんな時じゃない。……僕だって服飾に携わっている人間の端くれ。ファッションセンスや好みは人それぞれではありますが、強要するのは許せませんね」
「あんた、カナリィとファッションのことになると早口になるね」
「人のこと言えるんですか!?」
いや、ダメかもしんないっす。
「俺達の勝負に割り込んでくる……かなりの実力者とお見受けします。それにしてもそのシャンデラを模したその帽子、素敵ですね」
「……わかる?」
「わかりますよ。俺もシャンデラ使いですからね、ほら」
マサルはそう言ってボールからシャンデラを呼び出した。
なっ……シャンデラまでいるのか!? 僕とのバトルでもじーちゃんとのバトルでもナンジャモとのバトルでも使ってなかっただろ!!
「彼は悪い人じゃないかもしれない」
「ちょろ過ぎでしょ!? 何しに出てきたんですかあなた!!」
「あのシャンデラ、彼とすごく強い絆で結ばれているのがわかる。きっとヒトモシの頃から大切に育てられたに違いない。シャンデラに限らず、ゴーストタイプには恐ろしい性質を持つポケモンが多い。それこそ命に関わるほどの。そんなゴーストポケモンと心を通わせる難しさを私は誰より理解している」
「あなた、カナリィさんとゴーストポケモンのことになると早口になりますね」
ムクはゴーストタイプの使い手で相棒はシャンデラだ。ジャスティス会にも彼女を慕ってゴーストタイプを扱うトレーナーもいる。ゴーストタイプへの愛情が深いからこそ、ムクがマサルに絆される可能性も……。
「だけど今は関係ない。むしろ、どちらが優れたシャンデラ使いかはっきりさせるべき」
僕は最初から信じてたっすよムクちゃん!
「ちょっと。何を先にバトルする空気を出しているんですか。彼を倒してカナリィさんを救うのは僕の役目です」
「あいつとやるのはあたしが先」
「僕です!」
「あたし!」
「……二人まとめて相手になりますよ」
言い争いどころかバトルに発展しそうだったムクちゃんと外付け頭脳くんにマサルが告げる。おいおいマサル……それは二人をなめすぎじゃないっすか?
「あたしをなめてる?」
案の定ムクちゃんが怒ってるし。
「なめてませんよ。お二人が強いトレーナーだっていうのは、
「それをなめてると言うんですよ」
「違いますよ。事実であり
マサルは虚勢を張っているわけでも自惚れているわけでも自分の力を過信しているわけでもない。根底にあるのは確かな自信……? いや、自信だけじゃない。何なんすか……この違和感。
「上等。そこまで言うなら二人でぼこぼこにしてあげる」
「僕達が勝ったらさっきの賭けは無効にしてもらいますからね」
「じゃあ俺が勝ったら君達にも素敵なTシャツを着てもらおうか」
いけー! ムクちゃん、外付け頭脳くん! マサルを倒して僕の仇を取ってくれー! 僕はあんなTシャツ着たくなーい!
「つ、強い……」
「二人がかりで負けた……? あなた一体、何者なんですか?」
「ミアレを観光中のガラル四天王ですよ」
「ガラル四天王? つまり、ガラルにはまだあんたより強いトレーナーが……」
「俺より上には
ムクちゃんと外付け頭脳くんが負けた。あの二人だって相当強いのに……マサルの実力はさらに上だった。なるほど、ガラルの四天王っていうのはどうやら本当らしいっすね。ただ、マサルより上に三人もいるってガラルはどんな魔境なんすか?
……まあ、一番恐ろしいのはこの後に待っている罰ゲームなんだけど。
「じゃあ、シャンデラ使いちゃんには……」
「……あたしの名前はムク」
「ムクちゃんにはこのヒトモシTシャツを」
「……ちょっと可愛いかも」
だ、騙されちゃダメっすよムク! やっぱりあのシリーズのTシャツには冷静な判断力や思考力を奪う催眠能力が!?
「カナリィさんの厄介ファンくんにはムゲンダイナTシャツを」
「ピュールですよ。くっ……触れただけでわかる。このTシャツ、とんでもなく高価な素材を惜しみなく使っててその上機能性も抜群だ! デザイン以外は完璧のTシャツ!」
二人は観念したようにTシャツを受け取っていた。そしてマサルは悪魔のような笑みを浮かべて僕に近づいてくる。
ふぅー……どうやら僕も年貢の納め時らしいっすね。
僕も二人と同じように観念してTシャツを受け取り袖を通す。くうぅ……恥ずかしい。こんな屈辱は生まれて初めてっすよ! 着心地抜群なのが余計に腹立つな!
「いやー、みなさんお似合いですね。これにはスポンサーも大喜びですよ」
君スポンサーついてるの!? いや、ガラルの四天王ならスポンサーの一つや二ついてもおかしくないけど、どこのどいつだ!! こんなクレイジーなTシャツを生み出したのは!!
後になってマサルに話を聞くと、マサルのスポンサーは僕もよくお世話になっている服飾会社だった。
どーなってんだおい!!
「せっかくなんでポーズでも取ってみます?」
何が「せっかく」だ! 何が!
「ポーズと言ったらこれ一択。ジャスティスポーズ」
ムクさん!? どうして君もちょっとノリノリになってるの!? マサルに毒されちゃったの!?
「力こそパワー! パワーこそジャスティス!」
「さすが、シャンデラの超火力を使いこなすだけありますね。そういう考え方、好きですよ。どんな堅い守りも圧倒的火力でぶち抜けばいいって知り合いの豊穣の王様が言ってました」
知り合いの王様って何だよ!!
「その通り。あんたとはちょっと気が合いそう」
うぉい! ムクさん!? 君はそんなちょろい女の子じゃなかっただろ!?
「ジャスティスポーズもいいですけど、俺がパルデアで教わったとっておきのポーズを教えてあげますよ」
「……ほう?」
「僕はもう何もツッコみませんからね」
諦めないでよ外付け頭脳くん!! ムクちゃんもちょっと期待に満ちた表情を浮かべるな!!
「お疲れ様でスター!」
クソダセぇ!! なんだその中腰!? 「お疲れさまでした」の「した」と「スター」をかけてるってか!? はっはっは!! 上手いこといいますねぇ……ってなるかい!! 誰だそんなもん考えたのは!!
「これはパルデアのオレンジアカデミーっていう学校にいる不登校集団が生み出したポーズで……」
そんなクソダサポーズ考えるよりも学校行けや!!
「なかなか趣深い。実にハイカラ。お疲れ様でスター! ……こう?」
「もうちょっと腰を落として顔を上げて星を描く腕の動きをスムーズに……」
無駄に細かくレクチャーしてんじゃねえ!!
こうして僕達はクソダサイTシャツを着てクソダサイポーズで配信を締めることになるのだった。
これまでゲームの生配信なんて何回もやってきたけど……このマサルとのバトル回が僕のチャンネル史上最高の同接数を叩き出すことになったのは未だに納得してないからな!!
でも、ナンジャモからDM貰って仲良くなれたからそこだけは感謝するっす。
これが僕とマサルの出会い。
全然ロマンチックでもなくて、全然ドラマチックじゃない。
笑っちゃうくらいに、マサルは白馬の王子様とはかけ離れた存在だ。
そんなマサルと僕が出会ってからというものの。
ミアレで本当に、本当に色んなことがあって。
二人でたくさんの思い出を作って。
僕達の関係が少しずつ変わっていくんだけど。
それはまた、別の機会に話すとしよう。
カナリィちゃん√の「前編」です。タイトルで「編」と「編」が被ったけどピオニーの伝説ツアーリスペクトということで。
一気に最後までやろうと思いましたが、出会ってでんT着せるだけで終わりました。本当はもっと甘々いちゃらぶさせようと思ったのに終始ギャグでしたね。カナリィのツッコミ適性が高すぎる。
「後編」はもっと二人がいちゃらぶするはず!! ムクに寝取られなければ。
ちなみにですが、本当は剣盾発売六周年の日に超絶可愛いユウリちゃんのひろいん日記を投稿しようと思ったのですが、おぞましい怪文書が出来上がったのでお蔵入りになりました。需要があったら公開します。多分。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
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