お待たせしました。
カナリィ√の後編です。
今さらですけどカナリィってムクのことは呼び捨てじゃなくて「ムクちゃん」って呼んでるんですね。
ムクちゃんごめん。
あと今回でもカナリィ√が終わりませんでした。次回の【完結編】をお待ちください。
マサルがミアレにやってきて二週間以上経った。
マサルはびっくりするくらいこの街に馴染んでいて、近所のちびっ子達と一緒にマサルのポケモン達も交えてよく公園で遊んでいる。ただ、マサルはフラッと一日や二日帰ってこないこともあって、何をしていたのかを聞いたらカロスの他の街を観光していたらしい。
……僕も誘えよ。
まあそれは置いておくとして、この二週間でマサルについても色々と調べてみた。ガラルでも相当な人気を誇る筆頭四天王で、マサルは「自分より上に三人いる」って言ったけれど、実質的にはダンデに次ぐガラルのナンバースリー。そして、数年前の「ブラックナイト」を鎮めた英雄の一人で、ブラックナイトを引き起こした最大の要因であるムゲンダイナと心を通わせた。
……本当にマサルのことなんかこれ。
いや、バトルがめちゃ強いってことは知ってるっす。でも、普段のマサルと画面の向こうでダンデやユウリと死闘を繰り広げている男が同一人物とはとても思えないっす。なんかバトル中は髪型もマンバンヘアになってるし。
ああいうマジな顔もできるんすね。普段のマサルからは想像もできないすけど。
「お前には伝えねばならん。わしの愛する孫娘カナリィの秘密を」
「うーん、ものすごく聞きたくないですね」
マサルとダンデのバトル動画を見ていたら、何やらガレージの方が騒がしくなっていることに気付いた。どうせマサルがまた何かやってるんでしょ? 気にするだけ無駄っす。
「最新のホロキャスターでカナリィのホロを投影して、わしの動きとホロの動きをリンクさせる……つまり、ファンとの交流イベントを開催していたのは───わしなんじゃ!!」
「う、う、う、うわああああああああああ!!!」
マサルの絶叫が聞こえてきた。
何事っすか!?
慌ててガレージの方へ行ってみると、そこには地獄のような光景が広がっていた。
僕のホロとじーちゃんがDG4のポーズを取っているその傍ら……膝をつき、絶望に打ちひしがれたように
あー……じーちゃんが秘密をバラしちゃったんすね。まあ、マサルにはいつか言わなきゃとは思ってたっすけど……そんなにショックだったんすかマサル? ふっ、可愛いところもあるじゃないっすか。そんなに僕のことを思ってくれているなんて。
よーし、ここは可愛いカナリィちゃんがマサルを励まして───
「ずるい……ずるいですよタラゴンさん!! 俺だって───カナリィみたいな可愛い女の子になってちやほやされたい!!」
てめー本当にガラルの英雄なんか?
カナリィ√【後編】
『SIDE MISSION??? 深夜に高速徘徊する謎の電気ポケモンを追え!』
「決めました。これからは俺がカナリィの中の人を演じます!」
「ふん、お前のようなガラルの英雄で四天王などというどこの馬の骨とも知れん男に任せられるか!」
「それもう知れてる馬の骨!」
「やかましい! カナリィの可愛さと格好良さを世界一理解しているのはわしじゃ!」
「ふとした瞬間にタラゴンさんのじーちゃんっぽい動きがホロに反映されたらどうするんですか!?」
「わしがそんなヘマをするわけなかろう! わしはカナリィの存在を世界中にアッピールするために活動を始めたんじゃ! お前のようにちやほやされたいなどという薄汚れた野望を抱く男になんて絶対任せんぞ!」
「ほーん? だったらタラゴンさんは! カナリィを演じる最中に! ファン達から黄色い声援を浴びて! ちやほやされて! 微塵も自身の承認欲求が刺激されなかったと! もっとわしを褒めてくれと! 一ミリたりともそういう気持ちにならなかったと! アルセウスに誓えるんですね!?」
「ち、ちちち誓えるわいっ!」
カスみてえな言い争いが繰り広げられていた。
こんなマサルをフォローしてあげたいとほんの少しでも考えてしまった過去の愚かな自分を罵倒してやりたい。
もういいや。そっとしておくっす。巻き込まれたら絶対面倒なことに───
「あ、カナリィ。丁度いいところに! カナリィホロはタラゴンさんより俺が演じた方がいいよね? イベント中にタラゴンさんが無意識に腰をトントン叩いたりしたらバ美肉爺ってことがバレて炎上するよ! その点俺ならそんなリスクは全くない!」
「誰がバ美肉爺じゃ! お前のような人の
「人を化け物みたいに……カナリィ、そろそろ現実を教えてあげて! 俺とタラゴンさん、どっちを選ぶんだ!」
「そうじゃ! この身の程知らずに教えてやるんじゃ! わし以外の選択肢はないとな!」
ああ、巻き込まれたっす。こうなるから気付かれないうちにさっさと退散したかったのに。
で、何だって? 僕のホロを演じるのはどっちがいいか? そんなの最初から答えは決まってるっすよ。
「本音を言えばどっちも嫌っす」
「なんで!?」
「なんでじゃ!!」
いやぁ、じーちゃんには感謝してるっすよ。じーちゃんがイベントで体を張ってくれてるおかげでファンも増えて動画が盛り上がってるし。ただ、それはそれとして自分の身内が……それもじーちゃんが僕のがガワを被ってあざとい動きをしているのを目の当りにしたら……ねえ? 時々、許可したことを後悔しそうになるっす。
マサルに僕のホロで演じられるのは……なんか普通に恥ずかしい。
「とにかく! カナリィホロを演じられるのは家族にのみ許される特権なんじゃ! お前の出番はない!」
「俺、カナリィにパパって呼ばれたことがあるんですよ! これはもう実質家族だな!」
「カナリィがパパ呼びしたじゃと!? わしだって本当は『じぃじ』って呼ばれたいのに!!」
「はっはっはー! 俺の勝ちですねタラゴンさん!」
「ぐ、ぐぬぬ……貴様を息子とは認めんからな! 絶対に!」
「つまり、
「言葉には気をつけるんじゃな小僧」
本当に不毛な言い争いっすね。マサルがなんか変なこと言ってたけど、気にするだけ意味ないっす。うん。気にするだけ意味ない。もう部屋に戻ろう。これ以上この空間にいると僕の頭までおかしくなりそうっす。
「あ、カナリィ」
「……何すか?」
部屋に戻ろうとするとマサルに呼び止められ、振り返るとマサルが笑顔で僕を見ていた。
「今から買い物行くけど、晩御飯何がいい?」
「……ハンバーグ。デミグラスソースのヤツ」
「おっけー!」
「あ、待って。買い物なら僕も行くっす。お菓子のストックが切れたから」
気付けば、反射的にそう答えていた。……まあいっか。マサルと買い出しに行くなんていつものことだし。
「ふぃあーお♪」
そう考えていると、なんか突然マサルのボールからニンフィアが出てきて僕に近寄ってくる。……何すか一体?
「ふぃーあっ」
なぜかニンフィアは勝ち誇った笑顔で僕を見上げていた。かと思ったらマサルの方へと擦り寄っていく……え? 本当に何なんすか一体?
そんなニンフィアの様子を不思議に思いつつも、それから二人で買い物に行って、一緒にハンバーグを作った。我ながら美味しくできたと思う。料理も案外楽しいっすね。
「温泉に行きたい」
「何なんすかいきなり」
ある日の夜、いつものようにマサルの部屋で一緒にゲームをしていたら突然マサルがそんなことを言い出した。
「でかい湯船につかって足を思いっきり伸ばしたい」
「あー、そういう……気持ちはわからんでもないね」
「ミアレに温泉ってないの?」
「ないっすよ。あ、でも岩盤浴もできるスーパー銭湯なら最近できたっす」
「よし、行くか」
「ほう? カナリィちゃんとスパ銭デートしたいとか……マサルくんも男の子っすねぇ」
「別にカナリィは誘ってない」
「くたばれ」
マサルのコントローラーをガチャガチャして妨害してやったら、マサルにヘッドロックされた。僕の好きな柔軟剤の良い匂いがふんわりと鼻腔をくすぐる。
「おい! 女の子に! なんてことするんだ!」
「俺は真の男女平等主義者。都合の良い時だけ女を振りかざす輩に正義の鉄槌をくだす者」
「お前っ! 今のは炎上発言だぞ!」
「カナリィの毒舌配信には敵わないねぇ」
抵抗するもホールドした腕はびくともしない。こ、この野郎……じーちゃんのアスレチックをロトムグライドなしで攻略する野蛮人に腕力で勝てるわけないだろ!!
僕とマサルは大体いつもこんな感じだ。二人で一緒に対戦ゲームをやって最終的にリアルファイトに発展する。ひとしきり二人でぎゃあぎゃあ暴れ回ったらマサルが冷蔵庫に飲み物を取りに行って終了。で、休憩したら再開してどっちかが寝落ちするまで遊ぶ……っていうのが僕とマサルの日常。
当たり前の、日常だった。
「僕より遅いってどんだけ長風呂してんすか?」
「いやね、ポケモン達を洗ってたら楽しくなっちゃって」
「……シャンデラも?」
「湯船には浸かれないけど体を洗ってあげたら喜ぶんだよ」
スパ銭について話した翌日、僕達はさっそくやってきたんだけど、お風呂から上がってロビーに出たらまさかのマサルの方が遅い始末。僕も結構長風呂するタイプだけど君も大概だな。お風呂自体はすごく満足した。いろんなタイプの湯船があって飽きなかったし。
「岩盤浴行くっすか?」
「先にお昼食べない? お風呂入ったらお腹空いた」
「そっすね」
確かに僕もマサルを待ってる間にお腹が空いた。というわけでフードコートみたいになっている食堂にやってきて、めっちゃアピールされていたハンバーグ定食を二人で注文することにした。
「……どうっすか?」
「まあこんなもんか」
「うん、前にマサルと一緒に作ったハンバーグの方が美味しいっすね」
「おっ? 今の発言でマサルくんポイント100ポインツ!」
「貯まったら何かあんの?」
「10万ポインツで俺と結婚できる」
「罰ゲームだろそれ」
「口の減らねえ女だ」
テーブルの下でお互いに足で攻撃し合うという仁義なき戦いを繰り広げつつお昼ご飯を食べ、岩盤浴コーナーへとやってくる。広間のようになっている場所や、狭い個室になっている場所、カプセルホテルみたいになっている場所……色々あるんすね。
「あっちに漫画コーナーがある! なるほどね、漫画読みつつ寝っ転がって体を温めると。……最高だな」
「最高っすね。どこに行くっすか?」
「個室でよくない? 二人だし」
「二人きり。狭い個室。薄着の男女。何も起きないはずがなく」
「薄着の男女が狭い個室で二人きりって俺とカナリィの日常じゃん」
「そう言われればそうっすね」
確かに毎日のようにマサルの部屋で遅くまでゲームしてるっすね。いや、だからといってその反応はどうなんすか? 僕は仮にも年頃の女の子だぞ。
「こんな暑いところで……しかも個室とはいえ外から丸見えな所でおっぱじめるとか正気の沙汰とは思えない。……いや、カナリィの性癖を否定してるわけじゃないよ?」
「僕が!! そんな性癖だと!! 一度でも口にしたことがあったか!?」
「ちょっと何言ってるかわからない」
「わかれや!!」
腹立つ表情でそんなことをほざいたマサルを肘で小突きつつ、適当に漫画を選んで空いている個室へと入る。えーっと、床に大きいタオルを敷いて、枕を置いて、寝っ転がって……うん。岩盤浴だから床は固いけど悪くないっすね。
「おお、すっげーぽかぽかする」
「気持ち良いっすね」
岩盤浴なんて初めてきたけど思ったよりも良いっすね。今度ムクちゃんも連れてきてあげよう。……あ、ムクちゃんで思い出した。
「そういやマサルって、この前シローと会ったんすよね?」
「会った会った。面白い人だったわ。ついでに
「習得すんなそんなもん!!」
「代わりに俺はガラル空手の極意をシローさんに教えてあげた」
「とんでもねえ化学反応が起きてやがる!!」
「でもシローさんは道場より野球やった方がお金稼げると思う」
「シローは別に金儲けのために道場やってるわけじゃないっすからね」
「ムクちゃんに聞いてたよりずっと話がわかる理性的な人だったな」
話がわかる……? 理性的……? 頭ジャスティスに洗脳されたんすか?
「ワイルドゾーン撤廃をただ声高に主張するだけじゃなく、道場を開いてトレーナーを心身ともに鍛えるっていう具体的な活動に取り組んでいる。コタネちゃんとも話したけど、ジャスティスの会はただの脳筋集団なんかじゃない。その活動の根底には、ポケモン達に対する深い理解が確かにあった」
「深い理解……すか?」
「うん。ポケモン達との共生ってさ、聞こえはいいけど実際色んな障害があるんだよ。ポケモンにはポケモン独自の生態と文化が、人間には人間独自の生態と文化がある。どっちかを押し付けるんじゃなくて、互いに互いを理解して歩み寄るべきところは歩み寄る、距離を置くべきところは距離を置く。そうしないと、とてもじゃないけど共生なんてできやしない」
「確かにそうっすね。僕も電気ポケモンをたくさん持ってるっすけど、それぞれの生態に合わせた育成をしてるっすから」
「見た目が可愛くておとなしそうでも容易に命を奪う力を持つポケモンだっている。そういうことをちゃんと理解しておかないと大変なことになるだろ?」
ゴーストポケモンが良い例っすね。あんなに可愛いヒトモシだって生物の生命力を吸う性質を持ってるんすから。
「ジャスティスの会は、シローさんはポケモン達への理解がどれだけ重要かをわかってる。現に、トレーニングだけじゃなくて専門家を呼んで座学もやってるみたいだし」
「へー、そうなんすね」
「ただ、ワイルドゾーンの撤廃は限りなく難しい。なんせ、人とポケモンの距離が
「それがわかれば苦労しないっすよ」
「だよなー……って何その顔?」
「いや、マサルってそういう頭良い会話ができるんだなって思って」
「俺のIQは100億万あるぞ」
「その発言がもう頭悪い」
フーディンのIQが5000やぞ? マサルがフーディンの200万倍頭良いわけないだろ。この男が人類最高峰の頭脳の持ち主だったら人類はもう終わりだよ。
「それとさぁマサル」
「なんじゃい?」
「……コタネちゃんって誰すか?」
ジャスティスの会はシローさん目的の女性会員が多い。多いどころか九割以上は女性会員だ。そんなところにほいほい乗り込んでマサルくんは早速女の子と仲良くなったんすねぇ? ……ほーん?
「コタネちゃんは……種あげたらポケモンの技を強化してくれるすごい女の子」
「僕の欲しい情報じゃないけどほんとにすごい女の子だった!?」
何だよ種あげたらポケモンの技を強化してくれるって!? ハムスターか何かか!! いや待て……種ってまさか種(意味深)じゃないだろうな!!
「種ってあれだよ? なんかそういう専用の種があって……カナリィが考えてるようないやらしい種(意味深)じゃないから」
「僕がいつそんなこと考えた!!」
「顔からえちえちオーラが湧き出てる」
「湧き水みたいに言うな!!」
「滲み出てる」
「言い方変えても一緒!!」
「まろび出る」
「まろ……なんて!?」
「これがIQ100億の語彙力」
「ゴミみてえなドヤ顔」
ムカつくからほっぺたを引っ張ってやる。なんでこんなにモチモチしてんだ。腹立つな。
「ふっ……俺とコタネちゃんの仲を邪推して嫉妬するとかカナリィも可愛いところがあるじゃないか」
「ウヴォェェオゲロロロロロッッ!!」
「年頃の女の子が出しちゃいけない汚ねえ擬音!!」
「危ない危ない。マサルのキザなセリフに体中の細胞が拒絶反応を起こしてゲロ吐くところだったっす」
「新種の病原菌か俺は」
「ギリギリ乙女の尊厳は守れたっすね」
「とっくに崩壊してんだよなぁ」
「……まあ、マサルの前で猫被る必要も意味もないし」
「お? これはもしや『みんな僕を有名実況者としてしか見てくれないけどマサルだけは僕を一人の人間としてみてくれる!! 好き!!』ってヤツでは?」
「僕を一人の人間として見てくれる人はたくさんいるっすよ。というか、そんな薄っぺらい理由で惚れるなんて恋愛したことがない童貞の哀れな妄想の中だけっすよ」
「前世で経験豊富だった俺には関係ない話だな」
「マサルの前世ってライオン?」
「なんでライオン?」
「ライオンって一日に五十回セッ○スするらしいっすよ」
「化け物かよ。……なんでそんなこと知ってんの?」
「……さーて、そろそろ涼しい部屋で休憩しようかな」
「やっぱドスケベカナリィじゃん」
自販機で飲み物を買って冷房が効いた休憩用のスペースにやってくる。畳張りになっていて、岩盤浴で火照った身体を休ませている人達がいた。隣のスペースには無料で使えるミニテレビ付きマッサージチェア。至れり尽くせりの施設っすね。
「これはヤバいな。今横になったら確実に爆睡できる」
「いいんじゃないすか。貸し出し用の毛布と枕もあるし」
「お昼寝すっかー」
「そうっすね」
貸し出しの枕は羽毛の物やそば枕、低反発枕と色々種類があった。本当に充実してる施設だなここ。
「毛布は一枚で十分じゃないすか? 横向きにすれば二人並んで使えるっしょ」
「え? カナリィに真横で寝られると噛まれそうで怖いんだけど」
「無理矢理起こされない限り噛まないっすよ!」
それから二人で空いている畳のスペースに移動して枕を並べて畳の上に寝転んだ。……うん、秒で寝れそう。
ただ、なんとなく横に視線を向けてみるとマサルと目が合って、なぜか少しだけ恥ずかしい気持ちになってしまった。
「マサルが苦しむ姿を見たい」
「いきなりやべーこと言い出したぞこの女」
そんな気恥ずかしさを誤魔化すように、僕はとっさにそんなことを口走っていた。
「マサルがミアレに来てからの僕って、マサルにいいようにしてやられてばかりじゃないすか。だからこの辺りでカナリィちゃんの華麗な逆転劇を誰もが望んでると思うんすよ」
「どうやって俺に逆転勝利するつもりかね?」
「……こう、マサルがその身一つでポケモン達の容赦ない全方位攻撃から逃げ回るのを眺める的な?」
「悪党の発想で草」
「名付けてマルゴシサバイバー!」
「マルダシ? 俺を裸にひん剥いて何する気だこのえちえち女!!」
「君をひん剥いても何も面白くないだろ!!」
「じゃあカナリィがマルダシに? やっぱえっちじゃん」
「裸から離れろ!!」
絶対今度痛い目に遭わせてやるからな!
しばらく二人でいつものようにくだらない話をしていると、ほどなくしてマサルの寝息が聞こえてきた。なんという無防備な寝顔。相変わらず警戒心のない男っすね。僕に何かされるとか思ってないのか? ……いや、別に何もする気はないっすけど。うん、ないっすよ。本当にないっす。
まあいいや。眠くなってきたし、このまま昼寝するっす。
僕も目を閉じてマサルの方へ身を寄せると、僕の好きな柔軟剤の香りがした。
そして、昼寝してだらだら過ごした後の帰り道、なんかガメノデスが暴れ回っていたからマサルと二人で鎮圧しておいた。あのガメノデス、なんかでかいしやたら強い上めっちゃトレーナーを狙ってきてたっすね。とゆーかマサルはガメノデスと殴り合おうとすんな!
「イヌヌワン!」
「おお~、これが噂のイヌヌワン。カロスじゃお目にかかれないポケモンっすね」
今日はマサルのポケモン達と戯れることにする。マサルって電気タイプのポケモンを三体持ってるんすよね。このイヌヌワンとジバコイルと……なんかぴょんぴょんしてる黄色いの。ほんとになんなんだこの黄色いの。やたらとクイボが似合うビジュアルしてやがる。
最近、マサルはインドア派で引きこもりの僕を無理矢理外に連れ出して散歩に付き合わせたりしている。別に嫌ってわけじゃないっすよ。マサルやポケモン達とお散歩すると楽しいし、食べ歩きするの楽しいし。
それにマサルのポケモン達はみんな良い子だ。僕のポケモンともすごく仲良くしてくれている。
ただ……。
「ふぃあ~お♪」
このニンフィアだけは謎だ。
マサルにやたら甘えてて、時々勝ち誇った顔で僕を見てきたり、「私、わかってますよ?」みたいな表情を浮かべてたり……きっとこの子は魔性の女に違いない。僕がマサルの部屋で寝落ちしたらいつの間にかベッドに潜り込んでたこともあったし。
そういやマサルはどこ行ったんすかね。なんかキッチンの方から甘い匂いが漂ってきてるからお菓子か何かを作ってるっぽいけど。
……あと、僕のシビルドンどこ?
「どうよシビルドン、今回のガレットの出来は? ……えー? 80点? まだ固さが足りない? これ以上固くするのは俺のスキルじゃな~」
大量のガレットを作ったマサルと料理評論家面したシビルドンがキッチンの方からやってくる。マサルは僕のポケモン達によくおやつをあげているから、ポケモン達もマサルに懐いていた。
この甘い匂い、ガレットだったんすね。
「お、わたぱちはカナリィと遊んであげてたのか。偉いな~」
「イヌヌワン!」
「僕が遊んであげてたんだよ!」
憤慨する僕の口にマサルがガレットを突っ込んできた。……うん。悔しいけど美味しいっす。甘い物は苦手だけど、マサルは甘さ控えめのものも作ってくれていた。ほんとにそーゆーところは気遣いできるんすね。ただ、マサルと一緒にいると太りそう。
もしかして、だからマサルは僕を散歩に連れ出してるんすか? いや、そうじゃないと思いたい。マサルが来てから別に太ってなんかねーし。かーっ! 栄養は全部胸にいってるからなーっ! 最近また下着とか衣装の胸あたりがきつくなってきたんだよなーっ!
「こんなに大量に作ってどうするんすか」
「ちょっと調子に乗り過ぎた。近所のちびっ子達に配るかー」
「また変なあだ名つけられそう」
「今さら一つ二つ増えたところでどうってことねえな」
ガラルからやって来た妖怪お菓子配りクソダサTシャツマン。ガラルの四天王っていう社会的地位がなかったら完全に不審者っすね。
「そういやマサル。ずっと気になってたんすけど、あの黄色いの何なんすか?」
「あれはレジエレキ。雪山にある遺跡の封印解いたらなんかついてきた」
「解くな解くなそんなもん!!」
遺跡の封印解いたってなんだよ!? 封印されてたってことはヤバいポケモンなんじゃないの!? そんなポケモンを放し飼いにすんな!!
「ぴょんぴょん跳ねて高速であちこち動き回るだけだから害はないよ。バトルに興味ないから自分から誰かに喧嘩を吹っ掛けることもないし」
「う、うーん……確かによく見たら愛嬌のある顔立ちをしてるような……」
「おいで、レジエレキ」
「じじ♪ じじじ♪」
マサルが名前を呼ぶと高速移動どころかテレポート並みの速さで僕らのそばに現れた。なんだよ今の動き!? 全然目で追えなかったっすよ!?
「ほら触ってみ。静電気でちょっとバチっとくるから」
「バチっとするのに触るわけないだろ!!」
「一説によるとガラル全土の電気を賄えるらしい」
「そんなポケモンを触らせようとしたんすか!?」
遺跡に封印されてたからそのぐらいの力があってもおかしくなさそうっすけど……ムゲンダイナといい、マサルのパーティーはどうなってんすか? ただ、このレジエレキは僕のお気に入りのクイボがよく合う色合いだから気が向いたら可愛がってあげよう。電気タイプだし。
「カナリィいるー? ちょっと聞きたいことがあんだけどさー!」
マサルのポケモン達と戯れていたら、ガレージの入り口から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。間違いないこの声の主は……。
「キョウヤ!!」
「うおっ? なんでそんな睨んでんの? ってかガレージにたくさんポケモンが……でっか! なんじゃこの少年の心をくすぐるビジュアルのドラゴン!!」
やってきたのは僕がZAロワイヤルに復帰するきっかけになった男、キョウヤだった。MZ団とかいうグループに所属してて、ただの観光客のくせにやたらとバトルが強いトレーナーだ。
「僕と勝負しに来たんすか?」
「いや違う違う。聞きたいことがあって……って、そっちの人、もしやピュールにクソダサTシャツ着せてたガラルの……?」
「どうも。一般観光客のマサルです。どうぞよろしく」
「あ、これはどうもご丁寧に。一般観光客のキョウヤです」
「君らみたいな一般観光客がいるか!!」
出会っちゃいけない二人が出会っちゃった気がするっす。
それからマサルとキョウヤが意気投合してお互いの近況やミアレにやって来た経緯なんかを話してて……マサルはともかくキョウヤはポケモンも持たず所持金一万円と旅行鞄一つでミアレにやってきたらしい。何考えてんだこの男? ある意味マサルよりやべーっす。
「いやー、ミアレに着いて早々タウニーに拾われて幸運だったよ」
「俺も到着したのが深夜でさ。わけわかんねえままバトルゾーンに巻き込まれたところをカナリィに助けてもらって」
「めっちゃボーイミーツガールしてんじゃん!」
ボーイミーツガール……? 出会ったきっかけだけならそうかもしんないっすけど……マサルと出会って僕がどれだけ振り回されたと思ってんすか!!
「で、色々あってなんかなりゆきで最強のメガシンカ使いを目指すことになってさー」
「あー、なるほどね。なりゆきで悪の組織ぶっ潰したり世界救ったり……よくあるやつ」
「そうそうそれ」
「君らどんな人生歩んできたんだよ!!」
「へっ、おもしれー男。お近づきの印に高級食材ヤドンの尻尾をあげよう。カレーとの相性も抜群」
「カレーに入れるんすか!? このでかい肉の塊を!?」
「さんきゅー! タウニーが喜びそうだな。マサル、今度ホテルZに遊びに来いよ。タウニーがクロワッサンカレーを振舞ってくれるぜ」
「こっちもこっちでやべーカレー作ってた!?」
「そのタウニーちゃんとやら……なかなかのカレーキチとお見受けする。ガラルチャンピオン秘伝のカレーレシピを進呈しよう。ぜひミアレで流行らせてほしい」
「ガラルチャンピオンの秘伝がカレーってなんだよ!! バトルの極意とかじゃねえのかよ!!」
「カナリィ、遊びに来た。今日こそマサルをあたしのお兄ちゃんにする」
「またボケが増えた!! ツッコミが追いつかないから勘弁して!!」
「あれ? ムクじゃん。……え? マサルってムクの兄貴だったん?」
「そう。マサルは小さい頃海に捨てられてガラルに流れ着いて生き別れになったあたしの兄」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「そうでないとしか言えないだろ! いきなり悲しい過去を生やしてどうするんすか!!」
「うーん……言われてみればマサルとムク、二人の顔立ちが似てるような気も……」
「完全に気のせいっすよ!!」
「でもこの前マサルは
「あ、それは完全にシローさんの血縁者だな」
「判断基準がおかしいだろ!!」
四人でぎゃーぎゃー騒いで忘れてたっすけど、キョウヤがウチに来た理由は「深夜に高速徘徊する謎の電気ポケモンの噂」について調査していたかららしい。絶対レジエレキのことっすよ! 近所でそんな噂になってたんすか!?
で、案の定レジエレキのことだったらしく、マサルが説明するとキョウヤは満足そうに帰って行った。
「マサル。兄は妹を甘やかす生き物。よって今日はあたしを甘やかすべき」
「しょうがないにゃあ。ガレット食べる?」
「食べるー」
「飲み物は?」
「ココア。お砂糖いっぱい入れて」
「おっけー」
ほんとムクちゃんには甘いっすねマサルは!! そんなに妹って響きが好きかゴルァア!!
憤慨する僕だったが、マサルが僕好みのコーヒーを淹れられるようになったから許してやろう。心の広い可愛いカナリィちゃんに感謝するがいい。
その後、みんなでお茶会をして、マサルが作ったガレットを三人で近所のちびっ子達に配るのだった。
……たまにはこんな日もいいっすね。
カナリィ√が終わりませんでした!(半ギレ)
カナリィ√っていうか完全にミアレ編だなこれ。ここまで来たらZAの他の主要キャラも出そうと思います。
次回こそ……次回こそカナリィ√【完結編】になるはず!!
キョウヤはマサルのせいでサイドミッションが増えました。でもレジエレキが深夜に高速徘徊してたら絶対変な噂になると思う。
ちなみにマサルに精神攻撃して膝をつかせたのはポプラとタラゴンの二人だけです。この世界のジジババは強い。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
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