【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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 お待たせしました。

 カナリィ√もといミアレ編完結です。

 嘘じゃないです。本当に完結です。



カナリィ√【完結編】僕がマサルに惚れるなんてプリズムタワーが倒壊するくらいありえないっす

 MSBCの代表であるユカリさんからスーパーユカリトーナメントの誘いが来た。誘いというか強制招集だけど。ユカリさんは無類のポケモンバトル好きで、有力なトレーナーに片っ端から声をかけ、日夜パーティーという名のポケモンバトル大会を開催しているという……。

 

 うん。マサルがいるからいつか目を付けられるとは思ってったすけど、遅かったくらいっすね。

 

「マサルー。ユカリさんからトーナメントの招待状が届いて……ってあれ?」

 

 マサルの部屋に入るも、そこにマサルはいなかった。電話しても出ねーし、愛しのカナリィちゃんを放ってどこに行ったんだあの男は。まさか僕に黙ってムクちゃんのところに行ったんじゃないだろうな?

 

 ……まあいいや。どうせマサルもユカリさんに捕獲されてホテルに連行されるに違いない。

 

 良い機会だ。あの日の屈辱を晴らさせてもらおう。リベンジっすよマサル!!

 

 

 

 

 

 

カナリィ√【完結編】

僕がマサルに惚れるなんてプリズムタワーが倒壊するくらいありえないっす

 

 

 

 

 

 

「なんでいないんだよ!!」

「やっぱりマサルにはGPSを埋め込むべきだった」

 

 ホテルシュールリッシュにやってくるも、そこにマサルの姿はなかった。じーちゃんやカラスバ、シロー、キョウヤとタウニーもいるのに……なんでマサルだけいないんだ! ムクちゃんはムクちゃんで物騒なこと言ってるし!

 

 ユカリさんに聞いてみても裏のある笑顔ではぐらかされてしまった。……怪しすぎる。絶対マサルとなんか企んでるっすよね!? くそーっ! ユカリさんとマサルの悪だくみとか想像したくもないっすよー!

 

 ただ! 僕だっていつまでもマサルの手のひらの上で踊らされるわけじゃないっす。マサルが何を企んでいようが、カナリィちゃんがそれを阻止してやるっすからね!

 

 と、意気込んでいたらでっかいモニターにトーナメント表が映し出されて……。

 

 なんかすっごくあたまのわるいとーなめんとひょうだなぁ。

 

 ユカリさんの位置、何あれ!? シードなんてレベルじゃないっすよ!!

 

 逆にキョウヤはいじめみたいになってる!! 暗黒武術会の浦飯チームっすか!?

 

「……マサル、いない」

「そうっすね。ったく、どこで何やってんだか」

 

 ムクちゃんが隣でしょんぼりした表情を浮かべている。トーナメント表にも載ってないしどこをほっつき歩いてるんだあの男? ユカリさんがマサルを逃がすはずがないからトーナメントに参加しないってことはありえないだろう。

 

 ……何だろう。すごく嫌な予感がしてきたっす。

 

 そんな僕の内心とは裏腹にトーナメントはつつがなく進行、とはいかなかった。なんかいきなりキョウヤとタウニーがトーナメントを辞退するとか言い出して、当然あのユカリさんがそんなの許すわけなかったんだけど、キョウヤとタウニーはそんなのお構いなしにさっさと会場から出て行ってしまった。

 

 でも、僕がユカリさんの報復こえーぞー? とか思っていたら二人が一時間もしないうちに帰ってきたんだ。どういうことやねん。

 

「キョウヤ、どういうこと? あたし達が到着する前に暴走メガシンカが鎮圧されてたんだけど」

「俺に言われてもわかんねえよ」

 

 戻ってくるなり二人は何やらコソコソと話していた。「暴走メガシンカ」とかいうめちゃくちゃ気になるワードが聞こえてきたんすけど?

 

 まあ、とにもかくにもこれでトーナメントが無事に開催されるわけで……僕の初戦の相手はキョウヤ。今のところキョウヤには二戦二敗。今日こそリベンジさせてもらうっすよ!

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、トーナメントを制したのはキョウヤだった。

 

 キョウヤは僕、シロー、カラスバ、なんか途中で乱入してきたジガルデ、ユカリさんの全員をぶっ倒し、優勝してランクBに昇格した。

 

 強い。キョウヤのやつ、会う度に強くなってるっす。僕だって成長してるはずなのに、常にキョウヤは僕の何歩も前を歩いていた。

 

 悔しいなぁ……帰ったらマサルと特訓するっす!

 

「あたしも一緒に特訓していい?」

「もちろんっすよ。絶対キョウヤとマサルに勝つっすからね!」

 

 って思い出したわ! マサルだよ! あの野郎結局最後まで出てこなかったな! 本当にどこで何をしてるんだあの男───

 

「はっはっは! 実に素晴らしいバトルを見せてもらったよ諸君!」

 

 そんなことを考えていたら、聞き馴染んだ声と共に一人の男が拍手をしながら階段をゆっくりと降りてきた。

 

 黒スーツにサングラス、オールバックの男、圧倒的な胡散臭さと黒幕オーラ。

 

「何やってんだマサルゥ!!」

 

 僕は思わず叫んでいた。今までどこで何やってたのかと思ったら二階のVIP席で高みの見物決め込んでたんかい!! カナリィちゃんに内緒で? 良い御身分だなぁおい? いつからてめぇはそんなに偉くなったんだ?

 

「なっ!? マサル……お前がすべての黒幕だったのか!?」

 

 キョウヤが糾弾するように尋ねた。

 

「……そうだ。スーパーユカリトーナメントは仮の姿。言わばこれは、スーパーマサルトーナメント!」

 

 マサルがそう言った瞬間、トーナメント表の優勝者の右側にマサルの顔写真が映し出された。黒幕っつーか完全にユカリさんとグルだろおい。

 

「まさか、俺達より早く暴走メガシンカを鎮めたのも……」

「俺だ」

 

 完全にやってることが黒幕っすね。ってか、暴走メガシンカってなんすか? ろくでもない印象しか受けないんすけど。

 

「マサル……お前の目的は何なんだ?」

「え? あ、うーん……キョウヤ、最強のメガシンカ使いになりたければこの俺を倒してみろ!」

 

 マサル、後先考えずにノリと勢いで出てきたからめっちゃ困った反応してるっす。キョウヤが思ってるような大層な目的なんてマサルにはないっすよ。

 

「あなたを倒すことと最強のメガシンカ使いになることに何の関係があるわけ?」

「借金少女よ。これでも俺はガラルの四天王だ」

「借金少女言うなし! ってちょっと待って……ガラルの四天王? もしかしてあなたがあのカレーのレシピをくれた……?」

「いかにも」

「キョウヤ。敬意を払って全力で相手をしてさしあげなさい」

「えぇ~……?」

 

 タウニーの手のひらドリルライナーで草。

 

 ただ……正直、気にはなる。

 

 ZAロワイヤルを破竹の勢いで勝ち上がるキョウヤとガラルの筆頭四天王マサル……どっちが強いのか。

 

「ええんかユカリ? なんか勝手に話が進んどるで」

「いいも何も、こうなるようにわたくしとマサル様で計画したのですわ!」

「お前らやっぱりグルやったんかい」

 

 カラスバが眉間に指を当ててため息を吐く。マサルがユカリさんに目を付けられないはずがないとは思っていたけど、目のつけられ方が完全に想定外っすよ!

 

「キョウヤ、一つ賭けをしねえか?」

「賭け?」

 

 あ、ものすごく嫌な予感。

 

「キョウヤはこのトーナメントの優勝者だ。つまり、参加者全員の思いを背負って俺と戦うことになる。だからこそ、キョウヤが負けたら参加者全員に俺が指定するTシャツを着てもらう!」

「勝てーっ! 絶対勝てキョウヤー! 負けたら許さないっすよー!」

「すごい勢いでカナリィが応援してくる……で、マサルが負けたら?」

「トーナメント参加者全員が俺に貸しを一つ作れる」

「それだけ? なんか俺達が負うリスクの方が大きいような……」

「いや、そうとは言えんでキョウヤ。お前が勝てば、()()()()()()()()()に無条件で貸しを一つ作れるんや。この貸しは使い方次第でとんでもない切り札に化けるで」

「法定金利ガン無視兄さんの言う通り。俺はこれでもそれなりに()()がある。賭けるものの大きさで言えば、俺の方が大きいかもな」

「誰が法定金利ガン無視兄さんや! ……俺のことやな」

「さすが本場コガネのノリツッコミ」

「やかましいわ!」 

 

 あいつ、カラスバにあんなズケズケと……深く関わらない限りカタギに手を出さないとはいえ見てるこっちが冷や冷やするっす。

 

「うーん……貸しとかコネとかよくわかんねえけど、やるか! 俺も気になってたんだよ! マサルがどれだけ強いのか」

「決まりだな」

 

 二人は笑い合ってコートの中心に立つ。今更っすけどこんな高級ホテルの一室にバトルコートがあるってよく考えたらおかしいっすね。メガシンカしたポケモン達がガンガンやり合ってもビクともしないし。

 

 ここならマサルのムゲンダイナも……いやほんとに大丈夫っすか? 僕とやったときは屋外だから何も問題はなかったっすけど。

 

「カナリィ、どっちが勝つと思う?」

「キョウヤ……に勝ってほしい」

「それ願望」

 

 仕方ないじゃないすか。またあんなクソダサTシャツを着る屈辱を味わうくらいならいくらでもキョウヤを応援するっすよ!

 

「あたしはマサルが勝つと思う。キョウヤは確かに強い。ものすごい速度で成長しているのがわかる。……でも、マサルはまだまだ力の底を見せていない」

 

 悔しいけど、僕もムクちゃんと同じ印象だ。これは実際に、マサルとバトルをした僕とムクだからこそわかる感覚。マサルは決して、僕達とのバトルで手を抜いていたわけじゃない。わけじゃないけど、僕達ではマサルの力の全てを引き出すことができなかった。それも事実だ。

 

「それにあたしはヒトモシTシャツ気に入ってるから実質ノーダメージ。キョウヤが勝ったらマサルに何してもらおうかな?」

 

 ムクちゃんはダブルピースしながらそう言った。絶対負けんなよキョウヤ! 負けたらキョウヤもマルゴシサバイバーの刑だからな!

 

 

 

 

 

 

「エンブオー、メガシンカ!」

「シャンデラ、メガシンカ!」

 

 結論から言おう。

 

 このバトルは、マサルの勝利で終わった。最後のメガシンカ対決はエンブオーとシャンデラ。共に炎タイプのポケモンだけど、シャンデラは炎技と格闘技を無効化するから、エンブオーはその真価を十分に発揮できなかった。それでも、キョウヤがエンブオーに地面技や岩技を覚えさせていたのはさすがだった。

 

 だけどマサルのシャンデラはその上を行く。「めいそう」で自身の能力を高めた後の「サイコキネシス」でメガエンブオーを撃破した。

 

「やはり火力こそ正義。パワーこそジャスティス。がんばったマサルとポケモン達を妹がたくさん褒めてあげよう」

 

 ムクちゃんは隣で腕を組みながらうんうんと頷いている。あんなに強いキョウヤでもマサルには勝てなかった。僕やじーちゃん、ムクちゃんよりもマサルに健闘したとはいえ、それでもマサルのポケモンを何体か倒すだけで精一杯だった。

 

「才能はある。鍛錬も積んでいる。ポケモン達の間に揺るぎない信頼関係を築いている。だが、それだけでどうにかできるほどガラルの四天王は甘くない」

「完全にラスボスのセリフだな」

「貴様に足りないものはただ一つ、経験だ」

 

 マサルの言葉にキョウヤは笑っていた。忘れがちっすけど、キョウヤは丸腰でミアレにやってきた観光客だ。本格的にポケモンバトルを始めたのだってミアレに来てから……とんでもねえ才能っすね。

 

「経験かぁ~、ZAロワイヤルでバトりまくるしかねえな」

「キョウヤ様! わたくしでしたらいつでもお相手して差し上げますわ!」

「ユカリさん、良いこと思いつきましたよ。トーナメントの左端をキョウヤにして、残りを全部ユカリさんにするという真のスーパーユカリトーナメント!」

「素晴らしい考えですわマサル様! 名付けて……スーパーユカリトーナメントD!」

「それトーナメントにする意味あんの?」

「じゃあユカリさんと延々戦い続けるスーパーユカリトーナメント∞にしよう」

「だからトーナメントの意味ねえだろ!! マサルも参加しろ!!」

「……ほら、俺にはスーパーユカリトーナメントの素晴らしさを世界の実力者達に伝えてミアレのバトルをもっと盛り上げるっていう使命があるから」

「マサル様……そこまでミアレのことをお考えに……感激いたしましたわ! 旅の資金援助にぜひとも協力させてくださいませ!」

「ありがとうございます。あ、名刺か何かいただけます? 各地で配りたいんで」

「すぐに用意いたしますわ!」

 

 ……マサルとユカリさん、このセットはやべーっすね。シローとはまた違った頭のおかしい化学変化が起きてるっす。それにマサルのやつ、ユカリさんの相手をしれっとキョウヤに押し付けたっすね。

 

 で、キョウヤが負けてしまったのでマサルの言う通りトーナメント参加者の全員がマサル指定のクソダサTシャツを着ることになった。最後まで抵抗していたのはタウニーで、カラスバは意外にもあっさりと着替えていた。

 

「賭けに負けたからしゃーない。筋はちゃんと通さなあかんからな」

「タイレーツのTシャツはありますか?」

 

 なんかシローは普通にノリ気だった。さすがムクの兄貴。……筋肉ですげーパツパツだけど。それでも破れたりしなかったあたり伸縮性は抜群らしい。

 

「ほーらジガルデも着るんだぞー?」

「ゼドッ!?」

 

 そしてなぜかジガルデも犬用の服を着せられていた。ジガルデもキョウヤとバトルしてたからある意味参加者っすもんね。仕方ない。……服を着せられたジガルデは「クゥ~ン」って鳴いてて普通の犬みたいだった。

 

 で、最終的にクソダサTシャツに着替えた参加者全員で集合写真を撮ることになった。ユカリさんはノリノリでTシャツ着てたし、マサルとユカリさんの組み合わせはほんとダメっすね。 

 

「各地の実力者にMSBCを広めておきますね」

「おほーっ! ですわ!」

 

 お嬢様がなんつー声出してんすか。

 

 それと、この時は全然そんなこと思わなかったんだけど、()()()()()を振り返ってみれば……マサルがこんなに強いのにジガルデに選ばれなかったのって、この一件のせいだったんだろうなぁ。

 

「マサル、よくユカリさんがあんなに協力的になってくれたっすね」

「今度ユウリとダンデくんとパルデアのチャンピオンランク連れてくるって言ったら喜んで力貸してくれた」

「コネの暴力!!」

 

 そーだよな! そーゆー男だよな君は!

 

「ねえねえマサル」

 

 そこでムクちゃんがマサルのスーツの袖をくいくいと引っ張った。仕草があざとい。

 

「暴走メガシンカって何?」

「暴走メガシンカとは、暴走したメガシンカということです」

「情報が何一つ増えてねえっすよ!!」

「そうなんだ。それとマサル……スーツ似合ってる」

「ありがとムクちゃん」

 

 それはまあ……うん。ムクちゃんの言う通りっす。

 

「兄を褒めるのは妹の役目。そして妹を甘やかすのは兄の役目。マサルにはあたしの頭をなでなでする義務がある」

「よしよし」

「むふー♪」

 

 なんやこいつら。

 

「カナリィ、どうよ? 似合ってる?」

「は? 自惚れんなし」

「え? 俺に惚れた?」

「マサルに惚れるなんてプリズムタワーが倒壊するくらいありえないっす」

 

 

 

 

 

 

 ユカリさんとマサルの悪だくみイベントが終わってからも、僕は変わらずマサルと面白おかしく日々を過ごしていた。一緒にゲームをするだけじゃなくて、強くなるためにバトルしたり(一回も勝てないけど)、バトルの戦術について語り合ったり……。

 

「そういや、ガラルってダンデがめちゃくちゃ有名っすけど、一般トレーナーの質はどうなんすか?」

 

 さすがにマサルを基準に考えちゃいけないだろうけど、それでも気になるところではあった。

 

「ガラルのポケモンバトルは興行という側面が強い。興行におあつらえ向きの見栄えの良いダイマックスって現象があるからな。ただ、だからこそ、()では()()()()()()を結構言われるんだよ。『ガラルのトレーナーは興行を意識するあまり絡め手などを使わない真っ向勝負を好む傾向がある。だから、他地方のトレーナーと比較して戦術理解度が低いのではないか』ってな。はっきり言って、そういう意見は的外れもいいところ、ナンセンスだ。ガラルのトレーナーのことを何もわかっちゃいない」

 

 実際にマサルはそう言われたことがあるかのように、苦笑していた。

 

「興行を意識したバトルってのはある。エキシビションマッチはその最たる例だ。そういう場においては、真っ向勝負を好む傾向があるのも事実。だけど、それ以外のバトルはそうじゃない。絡め手、補助技、変化技……めちゃくちゃ使うよ? ジムリーダーがワンシーズンで何試合すると思う? その試合の全てが、何の工夫もない力押しの真っ向勝負だけだと? そんなわけがない。常日頃から工夫をこらし、戦術を磨き、相手を分析する。そうしなければ、()()()()()()()()()()できやしない。四天王の俺だって、ジムリーダーに戦術を読まれ、策を通され、追い込まれたことは何度もある。そして、ガラルではそういうハイレベルなバトルが当たり前のようにテレビで放送、動画サイトで配信されている。だからガラルのトレーナーは……いや、トレーナーだけじゃなく一般の人達でさえハイレベルな戦術を()()()()()()んだよ。他の地方のことはよくわかんねえけど、ガラルのトレーナーの戦術理解度が低いってことは()()()()()んだ」

 

 確かに、言われてみればそうだ。少なくとも、カロスではガラルのようにジムリーダー同士のバトルがバンバン放送されているってことはない。ミアレはミアレで独自のバトル文化を築いていてトレーナーのレベルが上がってるっすけど、ガラルにはガラルでトレーナーのレベルを底上げする地盤がしっかりとできていた。それも、地方レベルで。

 

「なるほど。ガラルの特殊な環境がマサルが強くなった要因の一つでもあるんすね」

「そういうこと。ポケモンバトルはガキの頃から死ぬほど見てきたからな。それにさ、数年前にダンデくんがバトルタワーって施設を作って、ジムチャレンジに参加できない一般トレーナーもジムリーダーとバトルできるようになった上にバトル講座も積極的に行っている。『ガラルのみんなで強くなりたい』っていうダンデくんの夢と理想が込められた施設だ」

 

 すごいなガラル。バトルに対してリーグだけじゃなく地方全体で盛り上げていこうっていう気概が半端じゃない。そんな環境で揉まれたらマサルもそうなるっすよね。ミアレのZAロワイヤルやバトルゾーンも大概だと思ってたっすけど、それはあくまで街レベル。ガラルはガラルで別種の魔境だった。

 

「そもそもさ。一般論だけど、競技人口の多いスポーツほどアマチュアのレベルも高くなるだろ? ポケモンバトルだって同じだよ。バトルを見て、トレーナーになりたいと思う人が増えれば増えるほど競争が激しくなる。競争が激しくなれば、その分全体のレベルが底上げされる。バトルに触れる機会が多いガラルはその傾向が特に顕著だ。他の地方もトレーナーのレベルを向上させる独自の取り組みを行っているだろうけど、ガラルは決して他の地方に劣っていないと胸を張って言える」

 

 面白いな、ガラル。他の地方のトレーナーと話をする機会ってあんまりなかったから、こういう意見はすごく新鮮だ。なんだか、マサルの話を聞いていると、他の地方にも行ってみたくなってくるっす。

 

「俺が世界を旅している理由の一つに、()()()()()。他地方のそういう取り組みを学んで、ガラルへ持ち帰る。……四天王っぽいだろ?」

「あ、ただ遊んでるだけじゃなかったんすね」

「そうじゃなかったら一年もリーグ業務放って旅なんてできねえよ」

 

 僕の指摘に年齢以上に子供っぽい笑顔を浮かべるマサルがとても印象的だった。

 

 そんな風に、マサルと当たり前の日常を甘受していた僕に。

 

 ……いや、僕だけじゃない。ミアレに、カロスに住む人達にとって決して忘れることのできない大事件が起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

「ま、マサルマサルマサル! マサルぅーーーーっ!!」

「……プリズムタワーの方角だな」

 

 それは、ある晩のことだった。

 

 地震のような大きな地鳴りが起こったかと思うと、夜にもかかわらずミアレの空が昼間のように輝き始める。

 

 何事かと思って、工務店の屋上に上がるとすでにマサルがそこにいて、真剣な表情でプリズムタワーの方角を見つめていた。

 

「な、何々っ!? 一体何が起こってるんすか!? 何だこの空!? めっちゃ不気味な光!!」

「プリズムタワーで何かが起こった……とりあえず状況確認だな。クエーサー社に連絡すっか」

「……やけに落ち着いてるっすね」

「だってブラックナイトもこんな雰囲気だったし」

 

 忘れがちっすけど、マサルってガラルの英雄なんすよね。ほんと忘れがちっすけど。

 

 こういう状況には慣れてるってことっすか。

 

 ふう……マサルを見てたらちょっと落ち着いてきたっす。マサルの言う通りクエーサー社に連絡っすね。

 

 で、マスカットさんに連絡して何が起こったか簡単に説明してもらうと……こういうことらしいっす。

 

・AZという人物がプリズムタワーにアンジュという装置を作る。

・そのアンジュは特別なフラエッテが制御すること前提の装置だったが、数年前の「最終兵器」発動の危機にアンジュがフラエッテなしで勝手に起動。

・それが原因でプリズムタワーからメガエネルギーが漏れ、ミアレシティの各地で暴走メガシンカが多発。

・アンジュの暴走を阻止すべく、タウニーが特別なフラエッテを伴ってプリズムタワーのコックピットへ突入。

・阻止できなかったよ……。

 

「……まさか、『話は聞かせてもらった! プリズムタワーは崩壊する!』が現実になるなんてな」

「AZって人が悪くない?」

「力そのものに罪はない。大切なのはその使い方……だけどこんな状況になってるしな」

「マサル、どうするっすか? 僕らもプリズムタワーに向かう?」

「最終的にそうするとして……ただ、まずは情報の共有だ。ミアレで知り合った有力者達と連携したい。カナリィ、なんか方法ある?」

「そーゆーことならカナリィちゃんにお任せっすよ!」

 

 他でもないマサルに頼られたっすからね。僕もちょっと本気出しちゃうっすよ。

 

 マスカットさんにさらに話を聞くと、今はMZ団の面々が集まって作戦会議をしているとのことなので、その会議にちょーっとお邪魔させてもらうっすよ。

 

 もちろん、僕達だけじゃなくて()()()()も一緒にね。

 

「ホロキャスターの技術がすごいのもそうだけど、遠隔でグループトークに割り込むカナリィのスキルもすげーな。俺にはできない」

「わははーっ。もっとカナリィちゃんを褒め称えろー! 後でご褒美くれてもいいんすよ?」

「……しょーがねーなー」

 

 よし! 言質取ったっすからね!

 

 マサルからどんなご褒美をもらうかは後で考えるとして……MZ団、キョウヤ達からさらに詳しい話を聞くと、ローズ地区にいるジガルデに会いに行けば何かあるのでは? ってことらしい。

 

「いやいや、この緊急事態だろ? ジガルデが来いよ!」

 

 僕が思わずそうツッコんだ隣でマサルがうんうん頷いていた。ジガルデに認められたキョウヤを試してるとかそんな場合じゃないだろ。悠長なことしてたらプリズムタワーが吹っ飛んで大惨事になるって! もう現時点で結構な惨事だけどさ!

 

「ほんなら、キョウヤがそのローズ地区に行けるようにすればええんやろ? 問題はどうやってそこまで行くかなんやけど……」

「話は聞かせてもらいましたわ! わたくしの出番ということでございますね!」

「いきなり会話に割り込んできて図々しいな!!」

 

 連絡がつかなかったユカリさんが突然ホロで会話に割り込んできて、どうやって撮影したかわからないプリズムタワー周辺の航空写真を僕達に共有してくれた。

 

 この人、「ユカリゾーン」とかいう意味の分からない高等技術を持ってるっすもんね。ワイルドゾーンってクエーサー社の専売特許じゃなかったんだ……。

 

 で、共有された航空写真を見ると、プリズムタワーがでっかい花を咲かせて周辺の建物を見事にぶっ壊していた。怪獣映画かよ。

 

「怪我人への対応は?」

「わたくしの力を使ってすでに手配済みですわ!」

「さすユカ!」

 

 マサルが尋ねるとユカリさんがあっさりそう答える。こんだけ建物がぶっ壊されてたらそりゃあ少なくない怪我人がいるっすよね。あ、もしかしてユカリさんが割り込んでくるのが遅かったのってそういう救急の手配をしてたからなんじゃ……。

 

 ただのバトル好きの変態じゃなかったんすね。ちょっと認識を改めるっす。

 

「んで、どうやってジガルデのとこまで行くんや? ユカリの写真を見る限り、瓦礫で道が結構塞がれてるみたいやけど」

「空を飛んでけばよくないですか? わざわざ陸路にこだわる必要はないと思いますよ」

「あんなマサル。ミアレではポケモンに乗って飛行するんは条例で禁止されてんねん」

 

 カラスバにルールの順守を指摘されるとかギャグかな?

 

「ま、緊急事態にそんなことも言ってられへんか……」

「そういうことです。ルールを守ってミアレが滅びましたじゃ本末転倒でしょう。それに、いざとなったらユカリさんに揉み消してもらえばいいんです!」

「マサル様の言う通りですわ! こんな時に乱用しないで何が金と権力でしょうか!」

「これは光の金持ち権力者」

「それほどでもございませんわ!」

「ノリノリやなお前ら」

 

 何だこの劇薬コンビ。

 

 マサルとユカリさんの化学反応がヤバい。相対的にカラスバさんが真人間に見えるっすよ。

 

「ジガルデはキョウヤさんにお任せして自分達は周辺エリアの暴走メガシンカの鎮圧に集中しましょう。これだけのメガエネルギーが溢れ出ている状況では、今までとは比にならない程の暴走メガシンカが発生しているでしょうから」

 

 シローがめっちゃまともなこと言ってる!?

 

「それでは、クエーサー社から皆様に暴走メガシンカの位置情報を随時お送りいたします」

「みなさん、ご武運をお祈りします。自分も己のジャスティスに従い、全力でミアレを守りますので!」

「カナリィ、マサルお兄ちゃん、気を付けてね」

 

 そう言ってムクちゃんとシローのホロが消えていった。最後の最後に爆弾ぶっこみやがりましたねムクちゃん。

 

「おにっ!? え!? マサルお前……ムクにお兄ちゃんて呼ばせとるんか!? そういう趣味の人間やったんか!?」

「ムクちゃん曰く、俺は生き別れになった兄らしいです」

「……DNA鑑定するか? ええ医者紹介したるで?」

 

 カラスバが優しくて草。

 

 そんなこんなで作戦会議が終わり、キョウヤはオヤブンボーマンダに乗って飛んで行った。さーて、僕達もミアレを守るために本格的に動き出すとしますかね。

 

 マスカットさんから送られてきた暴走メガシンカの位置情報を確認すると……暴走メガシンカを示す赤い点が地図上にうじゃうじゃ表示されていた。これは骨が折れそうっすね。

 

「……数が多すぎる。タラゴンさん達の協力が必要だな」

「そうっすね。工務店のみんなもそれなりにバトルできるし」

「ただ、必ず二人一組以上で行動してもらおう。質で勝っていても数で押されればかなりキツイ」

 

 その後、マサルがじーちゃん達に状況を説明して、じーちゃん達には比較的暴走メガシンカが少ない工務店周辺を中心に任せることにした。暴走メガシンカはプリズムタワーに近づくほどたくさん発生しているから、僕とマサルでプリズムタワーに向かいつつ対処する方針だ。

 

「さて、と……」

 

 マサルはいつもかぶっていたニット帽を脱いでヘアゴムを取り出し、髪を後頭部でまとめ始める。この髪型……動画で見たっす。マサルがユウリやダンデとバトルする時、超絶マジモードになった時の髪型だ。

 

「その帽子、いつもかぶってるっすね」

「ガラルでジムチャレンジに参加する時、ユウリがプレゼントしてくれたんだ」

 

 その言葉を聞いた時、僕はなぜか胸の奥がちくりと痛むのを感じた。そっか……その帽子は、マサルにとって大切な宝物なんすね。

 

「おいで、みんな」

 

 僕のそんな胸の痛みに全く気付いていないマサルが呼びかけると、ボールからマサルのポケモンが()()出てきた。

 

 え? ちょっ……マサル……? 一体何するつもりっすか? まさかとは思うけど……え……?

 

「出し惜しみはしねえ。今回はお前の力も貸してもらうからな、レジエレキ」

「じじ♪ じじじー♪」

 

 バトルに興味がないはずのレジエレキまでやる気満々だ。

 

「シャンデラ、バンギラス───メガシンカ」

 

 二体同時のメガシンカ!? いくらなんでもそんな無茶が……いや、そうか。暴走メガシンカが多発するくらいプリズムタワーからメガエネルギーが溢れ出ているこの状況を逆手に取ったのか!

 

「ムゲンダイナ。膨大なエネルギーを無理矢理に注ぎ込まれるその苦しさを、お前は誰よりもわかっている。だから、その苦しみからポケモン達を助けてあげるんだ」

 

 マサルが優しい声色と表情でムゲンダイナに語り掛けると、ムゲンダイナは頷いて高く飛び上がった。

 

「インテレオン」

 

 マサルの一番傍に控えていたインテレオンが一歩前に出る。

 

「道を切り拓け」

 

 言葉と共に、インテレオンの無数の精密射撃が暴走メガシンカポケモン達の急所を正確に打ち抜き、圧倒していく。

 

 ……これがマサルの相棒か。

 

 そしてマサルは、()()()()()()()()()()()───

 

 

 

 

 

 

「さあ、ミアレを救おうか」

 

 

 

 

 

 

 ポケモン達が躍動する。

 

 インテレオンが。

 

 シャンデラが。

 

 ジバコイルが。

 

 ニンフィアが。

 

 バンギラスが。

 

 ムゲンダイナが。

 

 ウーラオスが。

 

 レジエレキが。

 

 パルスワンが。

 

 マサルの的確な指示の下、九体のポケモン達が街中を縦横無尽に駆け回り、暴走メガシンカポケモン達を次々と撃破していく。

 

 僕は改めて、改めて目の当たりにした。

 

 マサルというポケモントレーナーの実力を。

 

 複数の戦場を、戦況を同時に把握する視野の広さ。並外れた判断力。思考力。並列処理能力。指揮能力。

 

 そして、ポケモン達との間に築かれた、揺るぎない信頼関係。

 

 これが、ガラルの英雄。

 

 これが、ガラルの筆頭四天王。

 

 理想を、見た。

 

 その姿に。

 

 マサルの姿に、ポケモントレーナーの理想を見た。

 

 初めてだ、こんな気持ち。

 

 自分以外のポケモントレーナーを、こんなにも格好良いと思ったのは。

 

 生まれて初めてだ。

 

 心臓が、うるさいくらいに高鳴っているのがわかる。

 

 自分の顔に、熱が集まってきているのがわかる。

 

 正直に言おう。

 

 僕はマサルに見惚れていた。ポケモントレーナーとしての理想を体現しているマサルに。

 

 どうしようもなく見惚れていた。

 

 自分もこうなりたいと思ってしまっていた。

 

 でも、それだけじゃない。

 

 ただ見惚れるだけじゃない。ただ憧れるだけじゃない。

 

「シビルドン───メガシンカ」

 

 僕はマサルの隣に立ち、最も信頼する相棒を呼び出した。

 

 僕だって、ポケモントレーナーなんだから。

 

 

 

 

 

 

「これ以上徒歩で進むのは無理だな」

「そうっすね。迂回するにしても時間がかかりそうっす」

 

 暴走メガシンカポケモンを鎮めつつプリズムタワーに向かうも、近づけば近づくほど瓦礫で通れなくなっていた。いや、じーちゃんのアスレチックを完全攻略したマサルならこの瓦礫を越えていけるかもっすけど……。

 

 そうなったら僕の出番はここまでっすね。暴走メガシンカポケモンはほとんど鎮めたし、あとは一人でも大丈夫っす。……寂しいけど。

 

「ムゲンダイナ」

 

 僕が少しだけ悲しい気持ちになっていると、マサルがムゲンダイナを呼び戻し、上着を羽織ってその背に跨った。……あれ? マサルさん……? まさかとは思いますが……?

 

「ほら、カナリィ」

 

 戸惑う僕にマサルが笑顔で手を差し出している。

 

「───行こう」

「……うんっ!」

 

 僕はマサルの手を取り、ムゲンダイナの背に乗った。

 

「よし、飛べっ!」

 

 ムゲンダイナが低い雄叫びと共に飛び上がる。突然の浮遊感に、僕は思わずマサルの背中に抱き着いていた。

 

「怖い?」

「ちょっと、びっくりしただけっす……」

 

 ポケモンに乗って空を飛ぶなんて初めてだ。僕が恐る恐る目を開けると、視界に飛び込んできたのは……ミアレの夜。

 

 街中の街灯が、ネオンが、家の明かりがミアレの夜を照らしていた。

 

 本当に、こんな時に本当に不謹慎だけれど。

 

 僕はこの景色を見て、こう思ってしまった。

 

 綺麗だ、と。

 

「綺麗な街だよ、本当に」

 

 マサルがポツリと呟く。

 

 嬉しかった。

 

 マサルが僕と同じことを思ってくれていて、すごくすごく嬉しかった。

 

「だからこそ、これ以上この綺麗な街を壊させるわけにはいかないっす」

 

 守らなくちゃ。僕が生まれ育ったこの街を。僕が大好きなこの街を。

 

 そう思うと同時に、体がぶるりと震えてしまった。……しまった。こんなことならもっと厚着してくるんだったっす。空はとても綺麗だけど、思った以上に寒かった。

 

「カナリィ、少しだけ身体を離してくれる?」

 

 言われた通りにすると、マサルは羽織っていた上着を脱いで僕に手渡してきた。……本当に、そーゆー気遣いはできるんすね。

 

 やっぱりずるいや……マサルは。

 

 上着を受け取って羽織ると、お日様のような柔らかいマサルの匂いがした。それがなんだか無性に恥ずかしくなって、それを誤魔化すように僕はさっきのようにマサルの背中に抱き着いてしまった。

 

「ねえ、マサル」

「んー?」

「僕、ミアレの空をこんな風に飛んだのは初めてっす」

「うん」

「僕、こんな景色を見たのは初めてっす」

「うん」

「……マサルはこうやって、たくさんの景色を見てきたんすか?」

「そうだな。たくさん見てきたし、これからもっともっとたくさん見てみたいと思ってる」

 

 羨ましいと、思ってしまった。マサルは、僕の知らないことをたくさん知っていて、これからも僕の知らないことをたくさん知っていくのだろう。

 

 そういう生き方を、羨ましいと思ってしまった。

 

 だから僕は無意識の内に、さっきよりも強くマサルの背中を抱き締めていた。

 

「カナリィも───」

 

 マサルが何かを呟いていたけれど、風の音でよく聞こえない。

 

「マサル?」

「いや、なんでもないよ。さあ、もうプリズムタワーに着く……って、お? キョウヤがなんかでかい花と戦ってんな。よっしゃ、いけムゲンダイナ! このまま突撃じゃーっ!! ムゲンダイビーム!!」

「ちょ、ちょっと待って! きゃあああああああああああっ!!」

「あ、カナリィもそんな可愛い悲鳴あげるんだ」

「うっさいあほーっ!! クソダセー技名しやがってー!!」

「ユウリが考えた」

「五歳児レベルのネーミングセンス!!」

 

 その後、キョウヤと共闘して最終的にジガルデがなんとかしてくれましたとさ。

 

 

 

 

 

 

「あれはブラックナイト……いいや、ムゲンダイナか。……そうか、良き主に出会えたのだな」

 

 

 

 

 

 

 で、事の顛末についてなんだけど。

 

 プリズムタワーが倒壊した。

 

 それはそれは見事に倒壊した。

 

 キョウヤやジガルデ、街のみんなの奮闘もあって何とか事態を収めることはできたけど、ミアレのシンボルであるプリズムタワーが完全に倒壊してしまった。しかもプリズムタワー周辺もワイルドゾーンになる始末。

 

 ……死者が出なかったことだけが不幸中の幸いっす。

 

 ただそれでも、プリズムタワーの他に壊れちゃった建物もあったわけで、復興には年単位の時間がかかるだろうと思ってたんだけど……。

 

「今こそわたくしの財力が火を噴くときですわ!」

「ジプソ、ウチの連中を総動員して復興にあたらせろ」

「ワシらラシーヌ工務店に直せん建物はないわい!」

「クエーサー社も全力で復興支援いたします」

 

 街のみんなで一致団結して、二カ月くらいで元通り……とまではいかなくても、ある程度の目途がたった。ジャスティス会やMZ団も協力してくれて、もちろん僕もマサルもたくさんお手伝いしたっす。

 

「お二人がいればもっと事態は簡単に収まってたんですからね。ちょっと聞いてますかカルムさん! 今どこにいるんです? セレナさんといちゃいちゃばっかしてないで一回こっちに戻ってきてくださいよ」

 

 ある日の夜、マサルが誰かに電話していた。カルムとかセレナって聞こえたっすけど……まさかね。いやでもマサルだしどこで誰とどんなコネを作ってるかわかったもんじゃないから十分ありえる。

 

 そんなこんなで、アンジュの大暴走で一時はどうなる事かと思ったっすけど、この街は僕が思っていたよりもずっとずっと強い街だ。そんなミアレだからこそ、僕が生まれ育ったミアレだからこそ、この街をもっとみんなで盛り上げていきたい。

 

 そう、思っていた。

 

 だけど僕は、忘れていたんだ。

 

 とてもとても大切なことを忘れていたんだ。

 

 いや、正確にはそのことを()()()()()()()していたのかもしれない。

 

 だって、そうじゃないと……いつもの僕でいられないような気がしてたから。

 

「カナリィ、ちょっといい?」

「改まってどうしたんすか?」

 

 ある日の夜、夕飯を食べ終わった後にマサルが珍しく僕の部屋へとやって来た。その時のマサルの、寂しそうな笑顔がすごく印象的で、その時点で僕は何となく嫌な予感がしちゃってたんだ。

 

「あのさ……」

「うん」

 

 とても言い辛そうに、でも意を決した表情で、マサルは僕の目を真っすぐに見てこう告げた。

 

 

 

 

 

 

「───ミアレを出ようと思うんだ」

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、頭の内側を殴られたような感覚に襲われた。

 

 あまりの衝撃に、僕はとっさに言葉を紡ぐことができず、ただ平常心を保とうとするので精一杯だった。

 

「ミアレに来て三カ月……色んな、本当に色んなことがあった。最初はこんなに長くいるつもりはなかったんだけど、こんなにも長くいてしまうくらい、ずっと()()()()()()と思ってしまうくらい、俺はこの街を好きになっちゃったんだ」

 

 僕はそんなマサルの笑顔を、たくさんの優しさの中に寂しさを滲ませた笑顔を直視できなかった。

 

 やめてよ、マサル……。

 

 そんな笑顔を僕に向けないで。

 

 ()()()()()()に、今までたくさん見せてくれた笑顔を……僕に向けてよ。

 

「でも俺は、行かなくちゃいけない。ミアレだけじゃ……カロスだけじゃない。もっともっとたくさんのことをこの目で見て、肌で感じて、世界を旅する───それが俺の夢だから」

 

 知っている。

 

 僕はマサルの夢を知っている。マサルがそういう人間だって知っている。

 

 だって、たくさん……本当にたくさんの時間を君と一緒に過ごしてきたんだから。

 

「一週間後、俺は旅に……俺の夢に戻ろうと思う。それを誰よりも先に、()()()()()カナリィに伝えておきたかったんだ」

 

 言葉が、出てこない。

 

 マサルになんて答えていいのかわからない。なんて言えばいいのかわからない。

 

 その後の記憶が酷く曖昧で、いつの間にかマサルはいなくなっていて、気付けば僕は、部屋のベッドで一人力なく仰向けで寝転がっていた。

 

「ははっ……ウケる」

 

 自嘲する。思っていたよりも遥かに、マサルの言葉に()()()()()()()()()()()()自分に。

 

 わかっていた。

 

 最初からわかっていたはずなんだ。

 

 マサルが、ミアレの人間じゃないってことを。

 

 彼は、世界を旅していて、その旅の中でたまたまこの街に立ち寄った観光客。目的を達成すれば、また次の場所へと旅立っていく。

 

 そんな、当たり前のことを……僕は()()()()分かっていたはずなのに。

 

 ずっと、それを考えないようにしていたんだ。

 

「バカだな、僕は……」

 

 でも、それだけじゃない。

 

 僕が考えないようにしていたのは、僕が()()()()()()()()()()のは、それだけじゃないんだ。

 

 もっと大きな、別の感情と僕は向き合ってこなかったんだ。

 

 マサルは大切な()()だ。君はいつもふざけてばっかりで、君はいつもムクばっかり甘やかして、君はいつも僕を振り回して……。

 

 でも、楽しかった。

 

 君と過ごした時間は、すごく……すごく楽しかった。

 

 君とバトルゾーンで出会って、君を家に連れて帰って。

 

 君と初めてバトルをして。

 

 君と毎日夜通しゲームをして。

 

 一緒に夕飯を作ったり、一緒に服を買いに行ったり、一緒に銭湯に行ったり……。

 

 君と色んな所に遊びに行った。

 

 三カ月。

 

 君と出会ってたった三ヶ月だけれど。

 

 いつの間にか、君と一緒にいるのが僕の当たり前の日常になっていた。

 

 ずっとずっと、それが続くと思ってしまっていた。

 

 だけと、そんな当たり前の日常が、当たり前じゃなくなってしまう。

 

 僕の胸がこんなにも痛いのは。こんなにも苦しいのは。

 

 きっと、()()()()()()()()からだろう。

 

「マサル……僕は……」

 

 あの日の夜。

 

 ミアレシティを救うための戦いに身を投じたあの日の夜。

 

 ムゲンダイナに乗って、君と一緒に空を飛んだあの日の夜。

 

 君のぬくもりに触れて。君の優しさに触れて。君の強さに触れて。

 

 僕は知ってしまったんだ。

 

 君をどれだけ……僕が君を、どれだけ───

 

「ははっ……なんてこった……」

 

 今になって、僕はようやく自覚した。

 

 

 

 

 

 

「僕は君を───好きになってしまってたっす」

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、午前十時を過ぎたところだった。どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。……頭が痛い。目が腫れているのがわかる。頬を何かが伝った跡がある。多分、今の自分は酷い顔をしているのだろう。とても人に見せられそうにないっす。

 

「カナリィ、起きてる?」

 

 ドアをノックする音の後、部屋の外からマサルが声をかけてきた。

 

 その声を聴いた瞬間、僕は胸がきゅっと痛くなるのを自覚する。

 

 だめだ。君の声を聴いただけで、涙が溢れそうになってしまった。君の顔を見たいのに、君に僕のこんな顔を見られたくない。

 

「ご飯……部屋の前に置いておくから。食べられそうだったら食べてね」

 

 君の優しい声が、僕の心をかき乱す。今すぐドアを開けて、力の限り、君を抱き締めたい。君のぬくもりを感じたい。

 

 だけど、できなかった。

 

 僕にはそんなことはできなかった。

 

 ……知らなかったなぁ。僕はこんなに、弱い人間だったんすね。

 

 でも、仕方ないじゃないすか。こんな気持ちになったのは、誰かにこんな気持ちを抱いたのは、生まれて初めてなんだから。

 

 しばらくベッドで放心した後、ドアを開けるとサンドウィッチが置かれていた。僕の好きな具材ばかり使われてる……本当に、そーゆーところっすよマサル。

 

 そーゆーところがどうしようもなくずるくて、そーゆーところがどうしようもなく好きなんだ。

 

 

 

 

 

 

「カナリィカナリィカナリィカナリィカァァァナリィィィィィ!!!!!!」

 

 マサルが作ってくれたサンドウィッチを食べて再びベッドで放心していると、ノックもしないでムクが部屋に突撃してきた。ムクちゃんがこんなに声を荒げるなんて珍しい。でも、ムクちゃんがどうしてこんなことになっているのか、理由は一つだ。

 

「お兄ちゃんが!! いなくなってしまう!!」

「マサルはムクちゃんのお兄ちゃんじゃないっすよ」

「本当の兄かどうかは重要じゃない。本当に大事なのはあたしがマサルを兄と思っているかどうか」

「意味わかんないっす」

 

 あまりにもムクちゃん過ぎるムクちゃんを見て、僕は思わず笑ってしまった。確かにマサルは面倒見が良いっすけど、まさかムクちゃんがこんなにマサルに懐くようになるなんてね。最初は対立していたはずなのに。いやでも割とすぐに手のひら返してたような……。

 

「マサルがウチに来た。来週ミアレを出るって。どうしようカナリィ。ユカリさんに頼んでユカリゾーンに閉じ込めてもらう?」

「発想がヤンデレ地雷女っすよ」

「……だってマサルと離れたくない」

「気持ちはわかるっすよ。僕だって、()()()()()()()()寂しいんすから」

 

 ムクちゃんを少し羨ましいと思ってしまった。こんなにも自分の感情に素直に行動しようとしているのだから。

 

 だけど僕にはできない。ムクちゃんのように素直に行動なんてできやしない。普段の僕ならそんなことは絶対あり得ないのに。普段の僕なら感情のままに行動して、思ったことは何でも口にできるはずなのに。

 

 今の僕に、そんなことはできなかった。

 

 だって……だって……。

 

 それくらい、マサルのことを好きになってしまっていたから。

 

「僕の我儘でマサルを困らせたくない」

 

 自分の口からそんな言葉が出てくるだなんて思いもしなかったな。

 

「そっか。カナリィはそれだけマサルのことが大好きなんだね」

「……うん」

 

 認めよう。認めるしかないんだ。この感情を。

 

 本音を言えばマサルとずっと一緒に居たい。これからもずっと、バカみたいなことを言い合って、一緒にご飯を作って、一緒に遊びに行って、一緒にゲームして……。

 

 そんな、当たり前の日常を失いたくない。

 

 でも、それ以上に。

 

「僕は……マサルの夢を応援したい」

「カナリィ……」

 

 ムクちゃんが寂しそうに目を伏せたので、僕は頭を撫でてあげた。まったく、本当に罪深い男っすねマサルは。こんなに可愛い女の子を二人も悲しませるなんて。

 

「ありがとね、ムクちゃん。僕のために色々気を遣ってくれて」

「……カナリィが良い女しゅぎてちゅらい」

「ただ臆病なだけっすよ」

「カナリィ、こうなったらもうズドンしてオギャーで既成事実を作るしかない」

「僕の話聞いてたっすか?」

「はっ!? カナリィがマサルと既成事実を作ればカナリィは必然的に私のお姉ちゃんになるのでは? 三人で幸せな家庭を築ける……」

「ムクちゃんはどこまでもムクちゃんっすね」

 

 呆れるくらい笑っちゃうっすけど、今はそんなムクちゃんのありのままの姿が僕にはとてもありがたかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、あっという間にマサルがミアレを発つ日になってしまった。

 

 あれから一週間、僕はマサルとろくに会話もできないまま……今日という日を迎えてしまった。

 

 昨日はウチのガレージでキョウヤやムクちゃん達も招いて盛大にマサルの送別会をやったのに、マサルの顔を見るたびに、胸がきゅっと締め付けられるように苦しくなって、涙が出そうになっちゃって……それは今日になっても変わらなかった。

 

「寂しくなるなー。また絶対ミアレに遊びに来いよ! なっ?」

「世界を一周したらまた来るよ。なあキョウヤ、ジガルデは?」

「マサルに姿を見せたくないみたいだな。変な服着せられたのをよっぽど根に持ってるらしい」

「おっかしいなー。俺って基本的にポケモンには好かれるのに」

「俺もいつかガラルに遊びに行くよ。()()()()()()()()()も連れてな」

 

 マサルが出発する朝、工務店の前にはじーちゃん達、キョウヤ達MZ団、ムクとシロー、ユカリさんとハルジオ、マスカットさんが集まってくれた。カラスバ達はいない。……多分、気を遣ってくれたんだろう。

 

「タウニーよ。『カレーは一日にして成らず』という言葉があるように、カレー道は恐ろしいほどに長く、そして険しい。だけど俺は信じている。君のカレーがいつか世界を変えることを」

「まずはクエーサー社の食堂メニューにクロワッサンカレーを追加することから始めるし」

「……今更だけど、ヤーさんから借金するような子を社長にしてクエーサー社大丈夫?」

「こ、これからたくさん勉強するから! それに、もうお金は銀行以外からは借りないし」

「マサル様! ぜひともまたミアレにいらしてくださいね。今はミアレでスーパーユカリトーナメントしか開催できませんが……いつか世界中の猛者達を集めて世界最強決定トーナメントを開催したいですわ!」

()()()()()()()()()()()()()()()()ってところですかね。……ガラルのスタジアムで実現できたらおもしろそうだ」

「マサルさん、あなたの正義(ジャスティス)……しかと見届けさせていただきました。ポケモンと人の共生……困難な道であることは重々承知しています。ですが、あなたのガラルはミアレと違う形で共生を実現させている。私はこれからも、己の正義(ジャスティス)を貫いていきます。どうかマサルさんも、自分の信じる道を歩み続けてください。……お元気で」

 

 マサルがみんなと一人一人握手を交わしていく光景を、僕はただ黙ってみていることしかできなかった。

 

「……マサル」

「ムクちゃん」

「……行っちゃやだ」

「……ごめんね」

「寂しい」

「……俺もだよ」

「本当に、行っちゃうの?」

「……うん」

「どうしても?」

「……うん」

「また会える?」

「もちろん」

「絶対?」

「絶対」

「あたしに会いに来てくれる?」

「約束する」

「……破ったら呪うから」

「破らないよ。何があっても」

「マサル」

「うん?」

「……最後にぎゅーってして」

 

 マサルがムクちゃんを優しく抱き締める。これが今のムクちゃんにできる、一番の我儘。本当は、ムクちゃんももっとマサルを引き止めたかったに違いない。もっと我儘を言いたかったに違いない。だけどムクちゃんは受け入れた。マサルの顔を見て、受け入れざるをえなかった。

 

 だってマサルは……穏やかで、優しい笑顔だったけれど、決意に満ちた表情をしていたから。

 

「カナリィ」

 

 そして最後に、マサルは僕に歩み寄ってきた。

 

「君に会えてよかった。この街に来て最初に出会えたのが、君でよかった。君がいたから……俺は……」

 

 マサルが真っ直ぐに僕を見る。だけど僕は、君の顔を直視できなかった。今にも泣き出してしまいそうで、今にも君に、僕の気持ちを全部全部ぶつけてしまいそうだったから。

 

「君と過ごした日々を、俺は一生忘れない。最高に……楽しかった───ありがとう」

 

 お礼を言うのは僕の方っすよ……マサル。

 

 君と出会ってから色んなことが、本当に色んなことがあったけれど……楽しかった。すごくすごく、楽しかった。

 

 わかってる。

 

 わかってるんだ。別に、一生マサルに会えなくなるわけじゃないって。

 

 そんなことはわかってるんだ。

 

 でも……僕は、ずっとずっと君と一緒に居たかった。君ともっと、たくさん思い出を作りたかった。

 

 だから、マサル……行かないで。 

 

 なんてことを、言えるわけもなく。

 

「僕も、君に会えて……楽しかったっす」

 

 君に、そう伝えるだけで精一杯だった。

 

 僕の言葉を聞いて、マサルは優しい笑顔を浮かべ、みんなを一瞥し、深く頭を下げる。

 

 そして、僕達に背を向けて、歩き出した。

 

 ゆっくりと遠ざかっていく背中を。もう、僕の手が届かないところに行ってしまう背中を。

 

 最後まで、見送ることができずに。

 

 最後まで、見送りたくなかったから。

 

 僕は、顔を伏せてマサルに背を向けてしまった。

 

 これは弱さだ。どうしようもない、僕の弱さ。

 

 誰かとの別れが。こんなにも苦しくて、こんなにも辛いなんて。僕は思いもしなかった。

 

 そしてすぐに後悔した。

 

 こんなことになるのなら、こんな思いを抱えてしまうのなら。

 

 僕の気持ちを、全部全部───君に伝えてしまえばよかったんだ。

 

 だけどもう、どうしようもない。

 

 君は僕を置いて……いいや、違う。

 

 僕に勇気がなかったから。

 

 僕が臆病者だったから。

 

 僕は───

 

 

 

 

 

 

「カナリィ」

 

 

 

 

 

 

 背を向けた僕の手を誰かが掴み。

 

 背を向けた僕の名を誰かが呼ぶ。

 

「……やっぱり、無理だ」

 

 振り返ると、そこにいたのは、一人の男の子。

 

「カナリィと離れたくない」

 

 僕から離れて行ってしまった男の子。

 

 僕がずっと一緒に居たいと思ってしまった男の子。

 

 そして。

 

 僕が好きになってしまった男の子。

 

 そんな男の子が、僕の目を真っすぐに見てこう言った。

 

 

 

 

 

 

「好きだカナリィ───一緒に行こう」

「───うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 男の子が……マサルが強く僕を抱き締める。ただそれだけのことが嬉しくて。ただそれだけで涙が溢れてきて。

 

 何よりも。

 

 僕が好きな男の子が。僕と同じ気持ちでいてくれたことが。

 

 どうしようもなく幸せで。

 

「すみませんタラゴンさん。カナリィ、貰っていきます!」

「なんじゃとう!? まさか貴様を相手にこの言葉を言う日が来るとはな! 人生で一度はこのセリフを言ってみたかったんじゃ! カナリィが欲しければこのワシを超えて行けっ!」

 

 じーちゃんがそう言うと、マサルは笑って僕をお姫様抱っこして、軽々とじーちゃんを飛び越えて僕を地面に下ろす。

 

「バカモン! 物理的に超えていくやつがあるか!」

 

 じーちゃんは怒ったように言っていたけれど、その表情はどこか嬉しそうだった。

 

「ごめん! じーちゃん、みんな! 行ってきます!」

 

 僕はみんなに大きく手を振り、マサルの手を握って駆け出した。

 

「あたしが許す! 抱けーっ! 抱けーっ!」

「ハッピーエンドこそ正義(ジャスティス)であり王道(ジャスティス)!」

「大変良いものを見せていただきましたわ~!」

「すげーなマサル、恋愛漫画みたいなことをやってのけやがった。……ってか、カナリィもあんな雌顔するんだな」

「キョウヤにもあれくらいの甲斐性があればね」

「推しの幸せを一番に願うのが真のファンというものです……がはぁっ!!」

「キョウヤもタウニーも感心してる場合じゃないよ! ピュールが脳破壊されちゃったでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 心臓がこんなにも高鳴っているのは走っているからじゃないだろう。

 

 大好きな人と手を繋いでいる。

 

 大好きな人が隣にいてくれる。ただそれだけで、僕の心は満たされていて、どうしようもなく幸せだった。

 

「ねえマサル、覚えてるっすか? 前に、ファッションバトルで僕が勝った日のこと。あの時のお願いがまだだったっすよね?」

 

 僕の言葉に、マサルが隣で笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 女の子なら誰もが一度はこんな夢を見る。

 

 いつか、白馬に乗った素敵な王子様が自分を迎えに来てくれるかもしれないって。

 

 僕だって、遠い昔。

 

 本当に遠い遠い昔に、そんな夢を見ていたような気がする。

 

「白馬に乗った王子様? 白馬に乗った豊穣の王様なら知ってるよ。バド様って言うんだけど」

 

 いつだったか、彼にそういう話をした時に全く予想外の答えが返ってきたことを覚えている。

 

 彼は、僕が笑っちゃうくらいにロマンチストの精神なんて微塵も持ち合わせていなかった。

 

 彼は本当に、白馬に乗った王子様からはほど遠い存在だ。

 

 だけど。

 

 それでも。

 

 彼との出会いは───

 

 

 

 

 

 

「マサル───ずっと一緒にいてください」

 

 

 

 

 

 

 マサルとの出会いは───僕の人生を変える、運命の出会いだった。

 

 

 

 カナリィ√ fin

 

 

 

 

 

 

「ん? 何見てるんだユウリ」

「あ、ホップ! あのね、最近の私の推し……カナリィの配信だよ!」

「カナリィ……? ああ、マサルの被害者か」

「ねー。あんなにえちえちで可愛いカナリィにクソダサTシャツ着せるなんて大罪だよ大罪! まったく、私のお嫁さん候補になんてことをしてくれたんだマサルは……」

「そのカナリィの配信がどうかしたのか?」

「なんかねー。諸事情でしばらくゲーム実況ができなくなるんだってー。それでね。今日の配信で重大発表があるって……はっ!? もしや私との結婚発表なのでは!?」

「……嫌な予感がするから俺も一緒に見るぞ」

 

 数分後、ガラルチャンピオンの汚い悲痛な叫び声が響き渡ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「おいマサル氏! カナリィ氏の配信見たぞ! 僕の配信に出た時は全然そんな甘い空気にならなかったろ!? どういうことだおい!! どういうことだおい!! 僕もカナリィ氏と同じ電気タイプの使い手で動画投稿者なのになんだこの差は!? やっぱりおっぱいか!? おっぱいなのか!? 散々僕を振り回しておいてこんなことが許されると思っているのか!? 君達がエリアゼロに突撃する時にお目付け役として君が僕を指名したせいでパラドックスポケモン達とバトロワさせられたことは絶対忘れないからな!! それからな!! グルーシャ氏が『マサルは次いつ出演するの?』ってめっちゃ聞いてくるんだよ!! いいかマサル氏!! ガラルに帰る前にパルデアに寄るんだぞ!! スルーしたら襲撃するからな!!」




 カナリィ√という名のミアレ編完!

 長かった。なんで剣盾じゃないキャラのルートに四話もかけているんだ私は。どこぞの幼馴染よりカナリィの方がよっぽどヒロインしていた気がしますね。

〇カナリィ
 本ルートのメインヒロイン。褐色巨乳えちえち僕っ子ゲーム実況者という属性モリモリ女。基本的にマサルに振り回されるツッコミ少女だが、ベッドの上では常に彼女が主導権を握っている模様。毎日夜のマルゴシサバイバー(意味深)が繰り広げられているに違いない。

〇ムク
 妹枠。ガラルで言うあざといマリィ枠。マサルの妹枠が各地方で生えてくるであろうことを見越し、スーパーマサルトーナメントS(Sは(シスター)という意味)の開催を目論む。「第一シードはもちろんあたしがもらう」

 ちなみに各地方の女主人公に対するマサルの認識は……。

・頼れるお姉さん枠:トウコ、ハルカ、セレナ
・真っ当な女友達枠:クリス、コトネ、ヒカリ、ミヅキ
・妹枠(アホの子枠):ユウリ、メイ、アオイ、リーフ(年上)

 こんな感じです。

〇キョウヤ
 ZA主人公。歴代ポケモン主人公の中でも屈指の身体能力を持つ。現時点では経験が少ないためマサルに勝てないが、あと一年もすれば各地方の主人公勢と何ら遜色ない実力を有するだろう。

〇ユカリ様
 ダイゴさん枠にしてスポンサー枠。マサルと混ぜるとハルジオの胃が死ぬ。この人がきっかけでマサルはワールドチャンピオントーナメントを開催しようと決意したので実はかなりの重要人物。

〇ジガルデ
 マサルにクソダサい服を着せられたので、絶対に何が何でもキョウヤを選んだ犬。

〇アンシャ
 出したらマサルがミアレからいつまでも出発できないので出番がなくなった子。登場していたらムクとマサルの妹枠を取り合って仁義なき戦いが繰り広げられていたに違いない。

アンシャ「ドーナツ作り……やめてしまいますの?」
マサル「キョウヤぁ! 材料持ってこい!」
キョウヤ「アンシャのためなら100個でも200個でも作ってやるぜ!」
ムク「妹力100000……200000……バカな!? まだ上がっていくだと!?」

 こんな感じでカナリィそっちのけでキョウヤと一緒にアンシャを甘やかしていたと思われる。

 正直、いくらでも話を広げられそうでやばかったです。ちょっとカナリィ√の執筆カロリーが高過ぎたので、他の√をどうするかは完全に未定です。ただ、カナリィ√は大半がギャグだったので今度こそ甘々なお話を書きたいなと。

 あ、でもナンジャモ√だけはカナリィ√以上のギャグになります。

 ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

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