【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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 ナンジャモ√の【中編】です。



ナンジャモ√【中編】妹が一人生えたら百人生えてくると思え!!

「妹が三人生えた話。不登校集団のアジトにカチコミをかけた話。秘伝スパイスを追い求めた話……どれを説明してほしいかの?」

「全部だよ!! なんで一部しか説明しない感じになってんの!?」

「も~、ナンジャモさんのヨクバリス」

「僕をあんなデブリスと一緒にすんな!!」

「ナンジャモさんのお鼻プルプルで草」

「しとらんわ!!」

 

 マサル氏は運ばれてきた料理を食べながら僕の顔を見て笑っている。こ、この男と喋ってると喉が渇く。う~……我慢してたけどお酒頼んじゃう? いや待て、冷静になるんじゃナンジャモよ。ここはマサル氏にお酒を飲ませて泥酔した彼の醜態を録画して弱みを握るのもありなんじゃないかな?

 

 ニヒヒヒヒッ! ここから先は僕のターンだ。見てろよマサル氏。僕が大人のおねーさんだってことを君にわからせてやるからな!

 

 

 

 

 

 

ナンジャモ√【中編】

妹が一人生えたら百人生えてくると思え!!

 

 

 

 

 

 

「キャンプと言えばサンドイッチ!! ぜーったいサンドイッチ!! いくらマサルさんと言えども、パルデアにカレー文化を広げるなどという狼藉をこのサンドイッチマスターアオイちゃんが許すとお思いですか!?」

「……アオイよりペパーのサンドイッチの方が美味いだろ」

「それは否定しません! なぜならペパーはアオイちゃんパーティーのヒロインだから! ヒロインの手料理に勝るものはなし! あ、今の『勝る』はマサルさんとかけました! どうですマサルさん? 軽快なトークの中に小粋なジョークを挟むあたしのユーモアに惚れました?」

「ハルト、何度言ったらわかるんだ。なんでお前らは毎回具材を上から落とそうとするんだよ?」

「物理演算を克服しなければ真のサンドイッチマスターにはなれないんです!」

「無視しないでくださいマサルさん! うおおおおおおお!! 可憐なるアオイちゃんのスーパーロケットずつき!!」

「あぶなっ! 火ぃ使ってる時に突っ込んでくんな!」

「マサルさんマサルさん! カレーができるまでまだ少し時間がありますよね? 空いた時間を有効に活用してこそポケモントレーナー! というわけでバトルしましょう!」

「ネモよ。作ってる最中に鍋から目を離すとかカレーに対する冒涜なんだが?」

「ちょっとだけ! ほんのちょっとだけ! 先っちょだけでいいですから! ムゲンダイナ出してくださいよ~! む~げ~ん~だ~い~な~!」

「こんなんが生徒会長とかオレンジアカデミーの教育はどうなってんだ」

 

 オレンジアカデミーの暴走特急共を適当にあしらいつつ、俺はカレーの鍋をかき混ぜる。最初は「復学したボタちゃんの様子を見てきてほしい」というピオニーさんからの依頼でオレンジアカデミーを訪れただけだったのに、いつの間にかこの三人と、今この場にはいないペパーとよくつるむようになっていた。

 

 肝心のボタちゃんにも会えはしたけど、俺の顔を見るなり露骨に嫌そうな顔を浮かべてたな。

 

「ほら、もうカレーができるから離せアオイ」

「やだーっ! 一日三食あたしのサンドイッチを食べるって言ってくれるまで離れません!」

 

 腰のあたりにしがみついているアオイを引っぺがし、首根っこを掴んで持ち上げると手足をバタバタさせて暴れ出した。なんつーか、ガキの頃のユウリを思い出すな。……いや、今でもあいつはあんまり変わんねえか。

 

「マスカーニャも大変だな。アオイがご主人だなんて」

「ふにゃ~お」

 

 そのままアオイをマスカーニャに引き渡すと、アオイは大袈裟な泣き真似をしてマスカーニャに抱き着いた。

 

「うぅ~……そーやってマサルさんはあたしをカレー色に染め上げる気なんだ」

「ただの染みだろそれ」

「はっ!? 待てよ……もしかしてマサルさんはあたしをカレーのようにじっくりコトコト煮込んで自分好みの女に仕立て上げるいやらしい男なのかもしれない!」

「カレー食わねえんだな?」

「食べるます!」

「なるほど。マサルさんの老練な戦術の源はじっくり煮込んだカレーにあったということですね。つまりこのカレーを食べればマサルさんのような強さが手に入る? マサルさん! 私に毎日カレーを作ってください!」

「え? やだよ。毎日は飽きるだろ」

「すごい……ペパーなら過剰に反応するアオイとネモのツッコミどころしかない発言を華麗に受け流している。カレーだけに」

 

 三人の顔を見ながら俺は思う。俺達と旅をしていたマリィもこんな心境だったのか、と。どうやら俺は、安定したツッコミがいるという状況にずいぶんと甘えていたらしい。

 

「この俺をツッコミに回らせるとは……オレンジアカデミーの人材はどうかしてやがる。ちょっとはナンジャモさんを見習え」

「おおっと! マサル選手、会話中に別の女の名を出すことで本命の嫉妬心を刺激する高度な恋愛戦術を披露! ふっふっふ。数多の少女漫画を読み尽くしたアオイちゃんに恋愛頭脳戦を挑もうというのかね?」

「デザートの特製牛乳プリンいらねえんだな?」

「食べるます!」

「確かにナンジャモさんの戦術には見習うところがありました。テラスタルで電気タイプの弱点をなくし、意気揚々と地面タイプを出してきた相手を返り討ちにする……はっ! カレーも使用する食材によってその味を七色に変化させる。だけど、いかにカレーと言えどどんな食材を入れてもいい訳じゃない。当然、相性が存在する。そう、タイプ相性のように。やっぱりカレー作りにはポケモンバトルの真髄が!!」

「カレーじゃなくてもどんな料理にも言えることだろそれ」

「マサルさんがいると楽できていいな。暴走したアオイとネモをまともに相手しなくていいから」

 

 ハルトが諦めの境地に達してやがる。ネモはともかく、生まれた時からアオイと一緒に育てばそうもなるわな。ハルトはアオイと一緒に悪乗りして暴走はしないけど、積極的にアオイを止めたりもしない。本当の本当にヤバい最悪の事態にだけはならないよう立ち回っている感じだ。

 

 アオイはもうあれだ。犬だ犬。散歩に行く直前でテンションがぶち上がった犬。誰もリードを握らねえからあっちこっちへ行きやがる。これでバトルがバチクソ強えーから余計に始末に負えないんだよなぁ……。ユウリと似たような超感覚を持ってやがるし。

 

 まあ、まだ俺の方が強いけど。一年後は知らね。

 

「どうしましたマサルさん! そんなに情熱的に見つめてきて……はっ!? とうとうアオイちゃんの可愛さにマサルさんのマサルさんがテラスタルして───」

「お前には首輪とリード付けなきゃなぁって思ってたところだ」

「特殊プレイ過ぎる!? マサルさんにそんな趣味があったなんて……わんわんっ!」

「アオイ」

「わんっ!」

「お手」

「わんっ!」

「おすわり」

「わんっ!」

「ステイ」

「わんっ!」

 

 キラキラした瞳で俺の言うことに素直に従うアオイ犬。わたぱちにやるように頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。黙ってれば可愛いんだよこいつ()。黙ってれば。

 

「イヌヌワン!」

「おーおー? どうしたわたぱちー? アオイばっか撫でてるから嫉妬したんか? 可愛いヤツめ~」

「ヌワ~♪」

「あーっ!! わたぱちとあたしどっちが可愛いんですか!!」

「わたぱちに決まってんだろ。比べるまでもねえな」

「んがーっ!!」

 

 わたぱちに対抗するようにアオイが俺の手のひらに頭をぐりぐり押し付けてくる。お前ほんとに犬っぽいな。

 

「あのアオイがちゃんと言うことを聞いている。やっぱりマサルさんは僕の見込んだ通りの男だった。これからもアオイの飼い主としてその敏腕を振るってもらおう。僕が楽をするために」

「どっちかというと兄妹に見えるような……はっ!? マサルさんの妹になればいつでも好きな時に()れるってことだよね! マサルお兄様! 私の家族になってください!」

「ならん」

「な、なにぃ!? このあたしを差し置いてネモが妹でお兄様呼びだと!? な、なんてレベルの高いプレイ……マサルさんマサルさん! あたしの方が妹に相応しいですよね!? ほら、あたしの方がネモよりちっちゃくて頭撫でやすくて抱っこしやすいですし……あ、でもおっぱいはこれから成長するので安心してください! おまけに今ならなんと! 『にぃに』と呼んであげます! 『にぃに』と! どうですか! 超絶可愛い妹アオイちゃんが欲しくなりましたよね!?」

「いらん」

 

 貴様らの妹力なんぞマリィの前では塵芥も同然。出直してこい偽りの妹達よ。

 

「ふっふっふ。そんなことを言っていられるのも今の内ですよ。たとえマサルさんがあたしやネモを認知しなくてもすぐに第三、第四の妹が生えてきますからね。妹が一人生えたら百人生えてくると思え!」

「生えてくるわけねえだろ。ゴキブリかよ」

 

 なお、カロスとイッシュで俺の妹を名乗る不審者が生えてくることになる模様。

 

「マサルさんがアオイの兄になれば僕はアオイの弟という呪縛から解放されるのでは?」

「ミライドン、コライドン。お前らのご主人はどうなってんだ?」

「ぎゃっす」

「あぎゃっす」

 

 サンドイッチとカレーを貪る大型犬のような二体のポケモンを見て俺はザシアンとザマゼンタを思い出していた。なんでもこの二体は傷ついて海岸で倒れていたところをアオイとハルトが発見して一緒に行動しているとのこと。謎の多いポケモンで、マグノリア博士に写真を送ったけど、博士ですら見たことのないポケモンらしい。

 

「それでですねマサルさん。ミライドンとコライドンにはバトルフォームっていうのがあって、ママのサンドイッチを食べたらちょっとだけ本当の力が復活したんですよ」

「……秘伝のスパイスじゃなくてアオハルマッマのサンドイッチを食わせたらペパーのマフィティフも元気になるんじゃね?」

「母さんの力を借りるのは最終手段にしましょう。秘伝のスパイスもあと一つですし」

「最後のヌシはどんなポケモンなのかなぁ。きっと強いんだろうなぁ。楽しみだなぁ」

「マサルさん! あたしすごいことに気付きましたよ! カレーとサンドイッチ……決して相容れることのない存在だと思ってましたが、一緒に食べるとすごく美味しいです! 大切なのは拒絶ではなく共生。互いに認め合うことだったんですね」

「すごく良いこと言うねアオイ! 互いに認め合うことが大事……つまりマサルさんが私達を妹と認めることがガラルとパルデアのさらなる相互理解につながるんです! さあマサルお兄様! もっともっとお互いを理解し合いうためにバトルしましょう!」

「……サンドイッチカレーなるものを作れば世界を征服できるのではなかろうか? さすがあたし! 天才の発想! マサルさん! あたしと一緒に世界を獲りに行きましょう!」

「……やっぱオレンジアカデミーの教育は失敗してんだろ。大量の不登校生徒もいるし」

「先生が一斉に入れ替わったあたり闇が深そうですよね。ま、僕達はそんな闇深学校に通ってるわけですが。はっはっは!」

 

 笑い事じゃないんだよなぁ。っつーか、先生達も癖の強い人しかいなかった気がする。レホール先生とかやべーだろあの人。リーグの監視が必要なレベルの危険人物なのでは? サワロ先生は癒し。

 

 その後、アオイがサンドイッチカレーについて熱く語っているのを適当に聞き流すも、数ヶ月後に俺はミアレシティでクロワッサンカレーなるものに出会うのだった。

 

 

 

 

 

「───という感じで妹が生えてきましてね」

「もうどこからツッコんでいいかわかんねえ!!」

 

 この男は一体何を言っているんだ? 本当に僕と同じ人類で僕と同じ言語を喋っているのか? いやね、言葉自体はわかるんだよ。言葉自体は。だけど……だけど……それを理解しようとすると脳が拒絶反応を起こしているんだ!!

 

 というかさぁ……アオイ氏もハルト氏もネモ氏もそんなキャラなの? いや、ハルト氏は哀れな被害者に見えないこともない……か? ネモ氏にいたってはパルデアのチャンピオンランクなんだよ!? あのオモダカ氏をぶっ倒したくらい強いトレーナーなんだよ!? それが「マサルお兄様」ってなんだよ!!

 

「あれ? そういえばマサル氏、さっき妹が()()生えてきたって言ってたよね? あと一人は?」

「ポピーちゃんです。パルデア四天王の」

「ガチ幼女じゃねーか!! 犯罪だ犯罪!! マサル氏、悪いことは言わないから自首しよう。僕が弁護……はできないけど毎日面会には行ってあげるからさ!!」

「失礼ですね。元々俺はパルデアに来る前からポピーちゃんとチリちゃんさんとは知り合いだったんですよ」

「何がどうなったらあの人達と知り合うんだよ!?」

「えっとですね……数年前に俺が妖怪ピンク婆のフェアリータイプの不思議な力に洗脳された時に鋼使い(ハガネラー)として覚醒したんですが、その時に世界中の鋼使い(ハガネラー)と共鳴してその内の一人がポピーちゃんだったんですね。で、俺の地元で鋼使い(ハガネラー)の集い……通称アイアンズクラブの第一回『I8』が開催されてアイアンズクラブのメンバーである俺とポピーちゃん、ポピーちゃんの付き添いで一緒に来ていたチリちゃんさんと知り合ったわけです」

「まるで意味がわからんぞ」

 

 宇宙人かよ。本当に僕と同じ世界に住む人間なのかよ。マサル氏が何を言っているのか一割も理解できなかったぞ。いや、深く考えるな僕……これは理解しようとすればするほどドツボに嵌って抜け出せなくなるヤツだ。マサル氏との付き合いは長くないけど、それくらいはわかる。

 

「君はあれか? 出会う女の子をみんな妹にしないと気が済まない性質(たち)なのか?」

「どんな妖怪ですか」

「ま、まさか僕のことも妹にしようと目論んでいるんじゃ……!?」

「貴様のようなドスケベな妹は知らん!」

「……マサルおにーちゃん♡」

「うわキツ」

「ぶっ殺されてーのかてめー?」

 

 マジでドン引きした表情になりやがったこの男。ドン引きしたいのは僕の方だよ!! くっそー……本当にマサル氏には僕の攻撃が全然効かないな!! どうすればこの男を攻略……いやいやいや。攻略する必要なんてないだろ。何考えてんだ僕。

 

「とまあ、俺に妹が生えてきた話はこんな感じっすね。では続きまして、不登校集団のアジトにカチコミをかけた話ですが……」

「僕はもうお腹いっぱいだよ」

 

 酒飲まなきゃ聞いてられんわ。もーいーや。知ーらない。大人のお姉さんの魅力をわからせてやるとかどうでもいいよ。好きなお酒頼んじゃうもんねー♪

 

「この話はいたってシンプルです。オレンジアカデミーで……まあその、いじめが起こりましてね」

 

 初めてマサル氏が歯切れの悪い口調で話し始める。いじめねぇ……学校、に限らず集団にはつきものと言っても過言じゃない問題だ。社会に出れば大人でさえ陰湿ないじめをしていることも珍しくはない。それがもっと精神的に未熟な子供達ならなおさらだ。

 

 それでマサル氏はいじめが原因で学校に来られなくなった生徒達の家を訪ねてカウンセリングみたいなことでもやったのかな? なるほどなるほど、「カチコミ」なんて言葉を使ったのは()()()だったのか。素直に「カウンセリングした」なんて言って褒められるような流れになるのが恥ずかしかったのか。

 

 ふっ。可愛いヤツめ。マサル氏も年相応な所が───

 

「いじめの被害者達が一致団結して加害者達に反撃したのが問題になって色々あっていじめの被害者だけじゃなく不良っぽい生徒達まで集まるようになっていつのまにか巨大な不登校集団ができあがってその集団が道路や土地を不法占拠してアジトを作るようになったんです」

「なんか僕の知ってるいじめ問題とは全然毛色が違うんですけど!?」

 

 そんなバイタリティがあるなら学校行かなくてもどうとでもやっていけそうだな!?

 

「で、このままじゃその集団は出席日数が足りなくて留年するか退学するかしか道がなくなったので、俺とアオイとハルトで不登校集団のアジトにカチコミをかけて幹部をぶっ倒してその集団を解散させようとしたって流れです」

「それで解決になるの!? というかなんで君達が率先して動いてるんだよ!! こんなの教師が対処しなくちゃいけない問題じゃん!!」

「あ、これに関しては校長が自ら走り回って解決に尽力してました」

「トップ自ら動いてんの!? いやでも確かに急を要する事態ならトップが動く方が早く解決につながることも……オモダカ氏もそんな感じだし」

「ちなみにその校長は以前ナンジャモさんのクソおもんないジムミッションに快く協力していたクラベルさんです」

「あの紳士クラベル氏!? というかどさくさに紛れてクソおもんないとかとんでもない悪口挟んだな!!」

「あ、ナンジャモさんならわかってると思いますけど、デリケートな問題なんで口外しないでくださいね」

 

 そりゃあねえ。オレンジアカデミーにしてみれば特大の地雷というか汚点だし、被害者達のことを考えたら吹聴する気になんてならないよ。……あれ? そういえばオレンジアカデミーって確か教師が一斉に入れ替わった年があったよね? もしかしてこの件が関係してるんじゃ……? が、学校現場の闇……!!

 

 ……これ以上考えるのはやめておこう。こういう時はお酒を飲んで忘れるに限る。

 

「この一件に関してはクラベル校長の尽力もあって、みんな復学できたみたいですよ。出席日数がヤバいんで補習は避けられないみたいですが」

「その程度で済んで良かったね」

 

 クラベル氏のような人が校長先生なんだったら、オレンジアカデミーはこの先何があっても大丈夫だろう。うん。そう思いたい。

 

「それで~マサル氏~? 最後の秘伝スパイスってのはなにぃ~?」

「酔ってます?」

「このくらいで酔うわけないじゃーん。僕のお酒の強さを甘く見るなよ~?」

「酔い潰れたらジムに捨てていきますからね」

「せめて送るって言えや!!」

 

 年上の可愛いお姉さんが目の前で無防備に酔っぱらってるのに何なんだその反応は!! いやでもマサル氏が()()()()反応を見せたら見せたでちょっと困ってたところもあるけどでもガン無視されるのは僕の女としてのプライドが許さない!! そんなに僕に魅力がないのかぁ!? おぉん!? 

 

「伝説のスパイス……これはねナンジャモさん。涙なしでは語れない、それはそれは大きなドラマがあったんです」

「ふーん」

「微塵も信じてねえなこの二色頭女」

「これまでのマサル氏の言動を鑑みれば当然の反応っしょ?」

「予言しよう。俺の話を聞き終える頃にはみっともなく鼻水を垂れ流しながらびーびー泣いていると」

「ほーん? じゃあその予言が外れたら僕の言うことを何でも一つ聞いてもらうよ?」

「いいですよ。それを提案して本当に勝った人を俺は見たことがありませんけどね」

 

 言ったなぁおい? 数多の修羅場を潜り抜けてきたこの僕が簡単に泣くと思うなよ。

 

 フヒヒヒヒッ! マサル氏が何でも言うこと聞いてくれるってぇ~。さーて何をお願いしようかなぁ~?

 

 

 

 

 

 

「みんな、ここまで協力してくれてありがとう。あいつが最後のヌシ……秘伝スパイスを探す旅もこれで終わりだ。どんな結末になったとしても、俺は受け入れる準備ができている。だからみんな、あと少し……あと少しだけ俺に力を貸してくれ」

「どんな結末になったとしても……? 心配すんなペパー。俺はハッピーエンド以外認めねえ」

「マサル……」

「そうだよペパー! あたしとマサルにぃにがいるんだから何があっても大丈夫!」

「水臭いねペパー。僕はずっと信じてる。ペパーのことを! マフィティフのことを!」

「これで終わりなんかじゃない。ここからもう一度始めるんだペパー。君とマフィティフの、私達の物語を!」

「アオイ、ハルト、生徒会長……」

「胸を張るんだペパーくん。君の努力は、君のマフィティフへの思いは……全てはこの時のために、全ては報われるためにあるんだから」

「ダイゴさん……」

 

 

 

 

 

 

「ちょいちょいちょい! ちょい待ちマサル氏!!」

「なんすかナンジャモさん。ここからが一番良いシーンなんすよ?」

「『なんすか』じゃないよ!! いきなり全然知らない登場人物が生えてきたんだけど!? ダイゴさんって誰だよ!!」

「あのダイゴさんをご存知ない!? 元ホウエンチャンピオンでデボンコーポレーションの御曹司であるツワブキ・ダイゴを!?」

「とんでもねー大物だった!! なんでそんな人がパルデアにいるんだよ!!」

「だってダイゴさんだから」

「説明になってねえ!!」

「ちなみに俺の友達です」

「君の交友関係はどうなってんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 くっそでかいナマズみたいなヌシをみんなの友情パワーでぶっ倒した後、洞窟の奥で最後の秘伝スパイスを発見した俺達は早速調理に取り掛かった。

 

 これが最後の秘伝スパイス……あんま考えたくない、考えたくはない、が……。

 

 もしもこのスパイスが効かなかったら?

 

 もしもマフィティフが元気にならなかったら?

 

 俺は、俺達はどうすればいい?

 

 そんなの決まってんだろ。別の方法を探せばいい。いざとなったらダイゴさんに拝み倒してデボンコーポレーションの力を借りてもいいし、確かジョウトのタンバシティには凄腕の薬屋がいたはずだ。

 

 そう。方法は一つじゃない。一つじゃないんだ。

 

 ただ、今の俺達にできるのは信じることだけ。このスパイスを、ペパーの努力を、ペパーの思いを、マフィティフの強さを信じることだけだ。

 

「お待ちどうさん! ペパーお兄さんの『元気じるしファイナルスパイスサンド』だ! 友情(ダチ)の証の バッジを握りしめながら食ってくれよな!」

 

 気を張ったような無理した笑顔でペパーは言う。ペパーのメンタルも限界が近い。むしろ、よくここまで折れずに……。いや、同情するのはなしだ。そんなの、ペパーに対してあまりにも失礼だよな。

 

「……マフィティフ。今、食べさせてやる。最高に元気が出るぞ! 俺達がうんとがんばったんだ。また……昔みたいにさ……いっぱいいーっぱい……ボール遊びしよう。……元気になってくれ。……それだけで、いいから……」

 

 ペパーがサンドイッチを与え、マフィティフが弱弱しくも咀嚼し、飲み込む。

 

「アギャ……」

「アギャス……」

 

 ミライドンとコライドンが心配そうにマフィティフを見つめている。この二体も同じように秘伝スパイス入りの特製サンドイッチを食べて、()()()その効果が表れた。だから、効果自体は本物のはず……はずなんだ。

 

 だけど……。

 

「ワフッ……」

 

 マフィティフは弱弱しい鳴き声を上げるだけで、起き上がることすらできなかった。

 

 その場を支配する重たい、沈黙。

 

 誰もが、ダイゴさんさえ声を上げかねている中、ペパーは何かを堪えるように唇を噛み締め、だけど、できる限りの笑顔を浮かべてマフィティフを優しく撫でた。

 

「マフィティフ。よく……がんばったな……」

 

 ペパーの言葉を聞き、目の奥が熱くなる。隣にいるアオイが何かを主張するように俺の手をぎゅっと握ってきた。

 

 大丈夫。大丈夫だ。望みが絶たれたわけじゃない。どんな手段でも、どんな伝手を使ってでも、マフィティフが元気になる治療法を見つけ出してやる。必ず……必ずだ。

 

「みんな、本当にありがとうな。みんなの力がなかったら、俺はここまでがんばれなかった」

 

 ペパーが立ち上がった拍子に、モンスターボール型の玩具がころんと転がり落ちる。

 

「辛気臭いのはなしだぜ? 少なくとも、マフィティフはちょっとずつ元気にはなってきてるんだ。だから……うん……次は……別の方法、を───」

「───ワフッ!」

 

 唐突に、()()()()()訪れた。

 

 それは、鳴き声だった。

 

 今までの、消え入りそうな、蚊の鳴くような声じゃない。

 

 確かに、確かに「生」を実感する、力強い鳴き声が洞窟内に響き渡った。

 

「バフ! バフッ!」

 

 マフィティフが起き上がり、ボール型の玩具をくわえ、尻尾を振りながらペパーを見上げている。

 

「あ……あ、ああ……ああっ……!!」

 

 ペパーは膝から崩れ落ちるようにマフィティフを強く、精一杯の力を込めて抱き締めた。

 

「ワフン! ワフン!」

「うん……うん……っ!!」

 

 ペパーが今まで堪えていたものが、堰き止められ、抑え込まれていた感情が、嗚咽が、彼の頬を伝う涙と共に流れ落ちていく。

 

 俺はその光景を、その美しい光景を見て、熱くなった目頭を押さえることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「ひっく……! えぐっ……! えうぅっ……! うあおおおおおおおおおんっ!」

「きったねえ泣き顔っすね」

「うるへーっ!! こんなん……こんなん泣くに決まってんだろっ! よがっだ……!! よがっだねえマフィティフ~!!」

 

 豪快に泣き散らかしている僕を見て、マサル氏は苦笑しながらティッシュを差し出してきた。

 

「はい。ちーんしてくださいちーん」

「やめろ! 幼稚園児か僕は!?」

「ふぃあ~お♪」

「なんじゃ!! 急にどっから出てきたこのニンフィア!?」

 

 マサル氏のボールから勝手に出てきたニンフィアが僕の頬をぺろぺろと舐めてくる。もしかして……僕の涙を拭ってくれてるのかい? なんて……なんて優しい子なんだこの子は!

 

「ナンジャモさんを慰めてあげてるのかー? 優しいな~ニンフィアは」

「ふぃ~あ♪」

 

 マサル氏が娘を溺愛する父親のように笑いかけながらニンフィアを優しく撫でている。おいっ! そんな優しい笑顔を僕に向けてくれたことないだろ!!

 

 そんな風に憤慨していると、ニンフィアがじーっと意味深な視線を僕に向けている……かと思ったらなぜか勝ち誇ったような笑顔になっていた。うおい! なんだその顔は!?

 

「マサル氏マサル氏! なんかニンフィアがすっげー勝ち誇った顔で僕を見てくるんですけど!?」

「うーん……ニンフィアの可愛さレベルを100としたらナンジャモさんはせいぜい10なんで当たり前では?」

「お前ふざけんなよぶっとばすぞ」

「じゃあ聞きますけどぉ!? ハラバリーと俺だったらどっちが可愛いんですか!?」

「なんでキレ気味なんだよ!! ハラバリーに決まってんだろ!!」

「ほらね。つまりはそういうことですよ」

「どういうことだおい!?」

 

 トレーナーが自分のポケモンを我が子のように可愛がる……それは理解できる、できるが!! 僕の可愛さレベルが10はないだろ10は!! 親バカ補正がかかってたとしても50はあるだろ!! いや自惚れじゃなく!! 僕って結構モテるんだからな!!

 

 あ~んもう……ヤケだヤケ!! ヤケ酒だ!! これ以上素面でマサル氏に付き合いきれねえ!! お酒様の力でマサル氏に対抗してやる!!

 

 

 

 

 

 

「ナンジャモさーん、生きてますー?」

「うにゃんにゃ~ん♪」

「うっわあざとっ! よっしゃ、この醜態を録画してナンジャモさんの黒歴史フォルダに永久保存してグルーシャさんと共有するか」

「恐ろしい企画を立てるんじゃない!!」

 

 約一時間後、酔い潰れてはないけどふわふわして気持ち良くなった僕は個室でだらしなく寝そべっていた。醜態を晒すことなんぞ慣れとるわい。それに、マサル氏相手に今更取り繕うのもバカバカしい。……グルーシャ氏に「ぜったいれいど」の目で見られるのは勘弁だけど。

 

「ほら、もういい時間ですし帰りますよ。歩けます?」

「むぅ~りぃ~。マサル氏ぃ~、おんぶしてぇ~」

「……しょうがねえなぁ」

 

 僕が甘えるようにそう言うと、想に反してマサル氏は苦笑しながらもすごく穏やかで優しい笑顔を浮かべていた。……初めて僕にそんな笑顔を向けてくれたな。

 

 てっきり手や足を掴んで引きずるふりをして僕がツッコミを入れる羽目になると思っていたのに。

 

 でもなんだろうこの違和感。マサル氏は僕を見ているようで、僕を通して()()()()を見ているような……。

 

「ねえマサル氏」

「はい」

「……今、僕じゃない誰かの顔を思い浮かべたろ?」

「あ、ユウリっすね」

「少しは返事を躊躇えよ!! 恋愛漫画とかだったら曖昧に誤魔化したりして僕がもやっとする展開だろ!!」

 

 まったく悪びれる様子もなく、あっけらかんとした様子でマサル氏が答えた。罪悪感とかないんかこの男!?

 

「俺、()()()()()()()()()嘘つきたくないんで。ほら、早く乗ってください。あんま長居し過ぎるとお店の人に迷惑ですから」

 

 マサル氏はさらっとそんなことを言ってのけ、僕に向かって背を向けてしゃがみ込んだ。あまりにもあっさりした言い方だったから、この時の僕はその発言の意味を深く考えずマサル氏の背中に抱き着いた。

 

「フヒッ。思ったより良い身体してるね~君。結構がっしりしてるじゃん」

「さて、確か店の裏にゴミ捨て場があったよな」

「発言には気を付けろよ小僧。内容次第じゃ首筋に噛みついてやるからな」

 

 そう言いつつマサル氏に身を預けると、ほんのりと甘い干したてのお布団みたいな柔らかい香りに包まれた。

 

 ……これヤバい。秒で寝れる。

 

 うおおおおおっ!! 寝るな寝るな寝るな僕!! がんばれがんばれがんばれ僕の瞼!! ここで寝たら!! マサル氏にお持ち帰り……はされないか。うん、彼はそーゆー人じゃないし。いやでもマサル氏も男の子だ。グルーシャ氏の同類とはいえ酔い潰れた僕を……ハッコウシティにもホテル街はあるしマサル氏ならまあ別にってダメだろ何考えてんだ現役ジムリーダーが他地方の四天王と身体の関係を持つなんて炎上案件どころじゃ───

 

 あ、もー無理。マサル氏の匂いと体温と微妙な揺れで睡魔に逆らえませんごめんなさいオモダカ氏謝罪会見はよろしく。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、目を覚ましたのはジムにある仮眠室のベッドの上だった。

 

 ぬおお……あ、頭痛い。飲み過ぎた。昨日の最後の方は記憶が曖昧だ……。確か、マサル氏と一緒に夜ご飯を食べてそのまま僕が酒を飲みまくって……。

 

 ってそうだ!! マサル氏はどこ!?

 

 勢いよく体を起こすと頭の内側がハンマーで殴られたみたいにガンガン痛んだ。僕は涙目になりながらも周りを見回すもマサル氏はいなかった。

 

 服は乱れてない……いやめっちゃ乱れてる。でもこれ脱がされたって言うより夜中に暑くなった僕が自分で脱ぎ散らかしたな。あの衣装胸元ガバガバだけど生地が分厚いから暑いんだよ! くっそー。誰だあんな衣装を用意したのは!? ……僕だよ!!

 

 痛む頭を押さえているとスマホロトムがふよふよと漂いながら僕にメッセージを見せてきた。送信者は……マサル氏だ。

 

 確認すると、僕を心配する内容と色々買った物を冷蔵庫に入れてあるとのこと。

 

 早速冷蔵庫を確認したら、大量のミネラルウォーターやゼリー、ヨーグルト、カットフルーツ、ウコンドリンク……インスタントのしじみの味噌汁まであった。

 

 こんな気遣い泣いてまうやろ!!

 

 うぅ……ありがとねえマサル氏。それからごめんねぇ、醜態晒しちゃってぇ。次に会ったらおねーさんが優しくしてあげるからねぇ。

 

 そんなことを考えつつ、ウコンドリンクを一気飲みしていると、僕は昨日のマサル氏の()()()()を思い出した。

 

『俺、ナンジャモさんには嘘つきたくないんで』

 

 ……あれは一体、どういう意味だったんだろう。いやマサル氏のことだ大した意味はないに決まってるうん絶対そうに違いない気にするだけ意味がないんだ。

 

 でも少しだけ、ほんの少しだけマサル氏に対する認識を改めてもいいかもしんない。……なーんてね♪

 

 うし、シャワー浴びよ。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「ようこそナンジャモさん!! これからエリアゼロに突撃するイカれたメンバーを紹介するぜ!! まずはこの人!! ツワブキ・ダイゴ探検隊総隊長ツワブキ・ダイゴ!!」

「よろしくナンジャモちゃん」

「どういうことだマサル氏説明しやがれこの野郎!!」




 順調にナンジャモの好感度が上がってるな! ヨシ!

 今さらですが、カナリィといいナンジャモといい、ifルートでは一度マサルに屈辱を味わわされないとヒロインになれないようですね。初期好感度が低いヒロインがだんだんと主人公を好きになっていく王道の恋愛物!!

 次回、ナンジャモさんがツワブキ・ダイゴ探検隊と共にエリアゼロに突撃します!

Q:なぜダイゴさんがパルデアにいるんですか?
A:ダイゴさんだから。

 ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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 次回のナンジャモ√【後編】お会いしましょう。

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