【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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 ナンジャモ√の【後編】です。



ナンジャモ√【後編】ポケモントレーナーは世界滅亡の危機を乗り越えて初めて一人前になる

「なるほど、事情はわかりました。フトゥー博士、オーリム博士がエリアゼロ最深部にてご子息であるペパーさんを待っている、と。そのためにエリアゼロに入る許可を……戦力は十分確保していらっしゃるようですね」

 

 俺達は現在、パルデアポケモンリーグにてリーグ委員長オモダカさん、四天王チリちゃんさん、ポピーちゃんと面会していた。アオキさんとハッサクさんは何やら別件で動いているらしく、今この場にはいない。

 

 対する俺達一行は、俺、ダイゴさん、アオハル姉弟、ネモ、ペパー、アカデミーで回収したボタちゃんの計七人。

 

「普段ならば、リーグ外の人間……それもパルデア出身以外のトレーナーをエリアゼロへ入れることなど絶対にありえないのですが、今回は事態が事態です。特別に許可を出しましょう」

 

 ……意外とあっさり許可を出してくれるんだな。エリアゼロは入念に封鎖されてる禁足地だって話だったのに。

 

「おや。あっさり許可を出していただけるのですね」

 

 俺が思っていたことをダイゴさんが口にした。

 

「……実の所、フトゥー、オーリム両博士との定時連絡が途絶えて久しいのです」

「え? でも父ちゃ……二人とも俺やアオイには連絡をしてきてたぜ?」

「それが不思議でならないのです。これまで、博士達が定時連絡を怠ることなどありえませんでした。もしやお二人の身に何か起こったのではと思い、調査隊を何度か派遣しましたが……誰一人として、最深部に辿り着くことすらできませんでした」

 

 オモダカさんの言葉に、その場の空気が重くなる。リーグが直々に派遣した調査隊……おそらく凄腕のトレーナー達に違いないだろうが、そんな人達が最深部に辿り着けなかった?

 

「幸い、死者は出ませんでしたが……エリアゼロの生態は、あまりにも人の手に余る」

「チリちゃんもアオキさんと一緒にエリアゼロに入ったんやけどな……多勢に無勢や。個の力で勝っとっても、いかんせん()()()()()()()()()()の数が多過ぎたんや」

 

 パラドックスポケモン?

 

「パラドックスポケモンは、エリアゼロを攻略する上で避けては通れない問題です。一見、エリアゼロ外に生息する一般ポケモンと似た姿をしてますが、タイプもその強さも全くの別物。チリやアオキでさえ、()()()()()()撤退せざるを得なかった」

 

 いやいやいや。四天王が二人で乗り込んで撤退しなきゃならなかったってどんな魔境だよ。ガラルのワイルドエリアが可愛く思えるわ。

 

「パラドックスポケモンという名称は両博士がつけました。まるで、ポケモン達の古代……あるいは未来のような姿をしている、と」

 

 とうとうポケモン達も時空を超え始めたか。いやまあ、シンオウにパルキアやディアルガがいる時点でそんなポケモンがいてもおかしくないとは思ってたけどさあ。その内現代のトレーナーが過去や未来に飛ばされそうだな。そうなったら未来はともかく過去はやべえよ。モンスターボールが普及してない時代に飛ばされるとか考えたくもねえ。

 

「こちらが現在把握している限りのパラドックスポケモンのデータです。どうぞご確認ください」

「ドンファン、プリン、バンギラス、ボーマンダ、サザンドラ……うわあ、ジョウト三神みたいなのまでいやがるのかよ。チリちゃんさん達、よく無事でしたね」

「な? 撤退せんといかんかった理由がわかったやろ? あのアオキさんですら終始マジモードやったんやからな」

「……あんま考えたくないですけど、パラドックスポケモン達がエリアゼロから出て好き勝手暴れ回ったらパルデアの生態系が崩壊しません?」

 

 俺の言葉にオモダカさんが苦笑した。

 

「ええ。マサルさんのおっしゃる通りです。……お恥ずかしい話ですが、今の我々の戦力ではエリアゼロにパラドックスポケモン達を()()()()()()()()()()()なのです」

「なるほどね。だから僕達に許可を出したわけだ。パルデアのチャンピオンクラス三人に加え、()()()()()()()()()である僕とマサルくんがいるから」

「ホウエン元チャンピオンにガラルの筆頭四天王……お二人がパルデアに滞在中なのは僥倖でした。本来でしたらパルデアの人員だけで問題を解決するのが筋なのでしょうけれども」

「困ったときはお互い様ですよ。俺達としても、大事な友人の悩み事を解決できる。パルデアポケモンリーグとしても、博士達の安否やエリアゼロ最深部の状況を確認できる。お互いWin-Winといきましょう」

「それでも、あなた方に大きな負担をかけてしまうことには変わりません。それこそ、下手をすれば命に関わるほどの……」

「だったら()()()()、ということにしておいてください」

「マサルの貸しとか嫌な予感しかせえへんのやけど?」

「ただより高い物はないって言うじゃないですか」

 

 まあその「貸し」も問題を無事に解決できたらの話だけどな。っつーか、俺とダイゴさんがいてどうにもできないってんならパルデア滅亡待ったなしだからな。もしそうなったらユウリやダンデくんも呼ばなきゃならなくなる。

 

「しかしながら、あなた方だけにお任せするわけにはいきません。リーグから一人、サポート役をつけましょう」

 

 ネモやアオイ、ハルトはパルデアのチャンピオンクラスとはいえ、アカデミーの生徒で厳密には()()()()()()()()()()。ペパーやボタちゃんだってそうだ。で、俺とダイゴさんはガラルポケモンリーグ、ホウエンポケモンリーグの人間。戦力的には問題ないとしても、そこにパルデアポケモンリーグの人間が一切関与していないというのはそれはそれで問題だろう。

 

 だからこそ、パルデアポケモンリーグから人員を派遣する必要があった。

 

「エリアゼロでの戦闘経験のあるチリかアオキが適任ですが……」

「チリちゃんとマサルお兄ちゃんが行くならポピーも行きますの!」

「あかんあかん! ポピーをそないな危ないとこに連れてけるわけないやろ!」

鋼使い(ハガネラー)の絆があれば大丈夫です! 会長のダイゴさんもいますの!」

「ま、ま、ま、マサルお兄ちゃん!? ポピーちゃん! マサルさんはあたしのマサルにぃにだよ!」

「……ポピーの方が先にお兄ちゃんと呼び始めましたの。つまりアオイさんはポピーの妹なのです!」

「年下の姉……あり寄りのあり!」

「じゃあポピーちゃんは私のお姉様でもあるんだね!」

「お姉様……とっても良い響きですの」

「マサル、自分の女関係どないなってんねん」

「チリちゃんさんも俺の妹になりますか?」

「どんな人生歩んできたらそんなセリフが出てくるんや。なるわけないやろ。むしろマサルがチリちゃんのことをお姉様って呼ぶべきやな」

「そんなことをしたら俺は夢女子達に殺されてしまう」

「どんだけ罪深い行いやねん!!」

 

 途中まで真面目な話だったのに話が脱線してしまった。アオイが訳のわかんねえことを言うから……やっぱアオイも置いてくか? いやそんなことしたらこいつは許可なくエリアゼロに侵入するに違いない。絶対に。だったら目の届くところに置いておく方がいいな。

 

「ハッサクさんはどうなんですか?」

「あの人、アカデミーの教師でもあるやろ? なんか最近アカデミーがごたついとって忙しそうにしてんねん。なんでも、不登校やった生徒が一斉に復帰したとかなんとか」

「あっ……ふーん」

「う、ウチを見んなし!」

 

 ボタちゃんに視線を向けるとプイっと顔を背けられた。

 

「……なんか事情知ってそうやなマサル。お姉さんに話してみ? ん?」

 

 そんなことを言いつつ、チリちゃんさんは老若男女いちげきひっさつスマイルを浮かべながら俺に顎クイしてきた。顔が良過ぎるだろこの人。

 

「俺が女だったら間違いなくチリちゃんさんに惚れてましたね」

「仮定がおかしいやろ」

「……つまりチリちゃんもあたしのにぃにだった?」

「違うなアオイ。チリちゃんさんは『格好良い』と言われ慣れてるから逆に『可愛い』と褒めまくれば『私を一人の女の子として扱ってくれる! 好き!』ってなるタイプのヒロインだ。俺は詳しいんだ」

「勇気を出して女の子らしい服を着て好きな男の子を攻略しようと赤面するチリちゃんからしか得られない栄養がある!」

「あかん。トップ、メンバーを再考したほうがええかもですよ」

 

 結論から言うと、ハッサクさんはアカデミーの対応で多忙だから無理。チリちゃんさんにお願いするとポピーちゃんまでついてきて四天王が二人不在になるから無理。ポピーちゃん一人にお願いするのはもっと無理。アオキさんはジムリーダーと兼業している上、オモダカさんから別案件を与えられているから無理。オモダカさん自身が動くのはもっと無理。

 

 ということになり……。

 

「では、ジムリーダーを一人サポート役として付けるということで……」

「あ、オモダカさん。それだったらぜひとも力を借りたい人がいまして───」

 

 

 

 

 

 

ナンジャモ√【後編】

ポケモントレーナーは世界滅亡の危機を乗り越えて初めて一人前になる

 

 

 

 

 

 

「───というオージャの湖より深い深い事情があってナンジャモさんを指名したわけです」

「なんでそこで僕になるんだよ!! 実力で言えばトップジムリーダーのグルーシャ氏に頼むべきじゃん!」

「グルーシャさんはスノーボードへの情熱を取り戻して練習に励んでいる最中なんですよ! そんなグルーシャさんのお手を煩わせるなんて……そんなこと! 俺にはできない!」

「僕の手は煩わせていいのか!?」

「はい」

「んがぁーーーっ!!」

 

 オモダカ氏から連絡を受けてゼロゲートにやってきてみればこれだよ!! マサル氏がいる時点で嫌な予感しかしなかったけど、エリアゼロに突撃するってどういうことだ!! いや事情は分かったよ!! ちゃんと理解したよ!! でもさあ、ほんとになんで僕を選んだわけ!?

 

「だってなんだかんだナンジャモさんとは一番仲良くさせてもらってるし……」

「そ、そんな殊勝な態度になんて騙されないぞ!! 本音を言ってみろマサル氏!!」

「ジムリーダーで一番良い反応見せてくれるかなって」

「だよな!! 君はそーゆー男だもんな!!」

 

 エリアゼロなんて超絶危険地帯にこの僕が……空を見てみろよ空を! 大穴の上空をガブリアスが普通に飛び交ってるんだぞ! その上パラドックスポケモンだなんて……バトルの腕に自信がないわけじゃないけどさあ!

 

「安心してください。俺とダイゴさんがいるならよっぽどのことにはなりませんよ。そもそもこのメンバーで手に負えないような事態なら……パルデアが滅亡の危機に陥るだけですから」

「どこに安心できる要素があるんだよ!! そこは嘘でも『俺がナンジャモさんを守ってあげます』くらい言ってほしかった!!」

「いいんですか? 俺にそんな歯の浮くようなセリフを言わせると全身から蕁麻疹が出て吐血して俺という戦力が使い物にならなくなりますよ?」

「難儀な生き物だな君!?」

 

 僕がマサル氏の言葉に頭を抱えていると、ダイゴ氏が爽やかスマイルを浮かべて僕を見てきた。イ、イケメン過ぎる……。

 

「大丈夫だよナンジャモちゃん。ホウエンは海の底に沈みそうになったり海が干上がりそうになったりしたけどなんとかなったし、ガラルはブラックナイトで滅亡しかけたけどどうにか乗り越えてきたから」

「うむ。俺とダイゴさんは『滅亡のプロフェッショナル』と言ってもいい」

「悪党の肩書きだろおい!」

「ま、生きていれば誰しも滅亡の危機を一度や二度は経験します。それを乗り越えて初めて一人前のトレーナーになれるんですから」

「一人前のトレーナーになるハードルが高過ぎる!!」

 

 隣でダイゴ氏もうんうん頷いてるし。この二人を基準にしたらやべえ!! ダイゴ氏は常識人枠だと思っていたのにまさかのマサル氏と同類だったかー!?

 

「では改めて紹介しますね。こちら、ツワブキ・ダイゴ探検隊総隊長ツワブキ・ダイゴ!」

「エリアゼロの未知なる鉱石が僕を待っている!」

「趣味全開の男が総隊長でいいの!?」

「一番隊隊長、あたし!」

「二番隊隊長、僕!」

「三番隊隊長、私!」

「そして俺が零番隊隊長!」

「部下がいねえのにそんなに管理職いらないじゃん!!」

「今の世の中、毎年安定した昇給があるわけじゃありませんからね。給料を上げるには役職に就くしかないんですよ」

「中小企業の悲しい現実を反映させんな!!」

 

 ノリノリすぎるだろこの四人! 本当に事の重大さを理解してる!? だ、ダメだこいつらボケしかいねえ。願わくばあとの二人が常識人枠であることを願うよ……。

 

「こちらがペパー。フトゥー、オーリム博士のご子息で我が探検隊のヒロインです」

「ども。よろしくっす」

「もうヒロインって部分にはツッコまないぞ……って君がペパー氏? マフィティフが元気になってよかったねぇ~!」

「あ、はい。ありがとうございます……なんで俺の事情知ってんの?」

「マサル氏が全部教えてくれた」

「そしてナンジャモさんはペパーとマフィティフの感動物語を聞いて鼻水垂れ流して号泣してた」

「鼻水は垂らしてないわい!!」

 

 うーん、この反応を見る限り、どうやらペパー氏は僕と同じ常識人側の人間と見た。よしよし、仲良くしようねペパー氏。一緒にマサル氏に対抗していこう。

 

「まあ、俺はバトルが苦手なんでそっち方面ではあんまり役に立てねえけど……」

「ペパーは自称バトル苦手ちゃんです! あたしもハルトも負けかけました!」

「あんなに追い詰められるとは思わなかった……」

「え? ペパーってそんなにバトル強いの? じゃあこの一件が終わったらとりあえず私と十本勝負しようか!」

 

 ……訂正、どうやらペパー氏もあっち側の人間だったらしい。アオイ氏とハルト氏を追い詰めるってマジで凄腕のトレーナーだよ。

 

「そしてこちらはメカニックのボタちゃんです」

「……よろしく」

「ちょっと人見知りするけど根はとてもいい子です」

「も、もう騙されないぞ。君もマサル氏達みたいにとんでもない設定持ちの少女と見た!」

「で、でんTマン達みたいな異常者達と一緒にしないでほしいし。ウチは普通の女の子やもん」

 

 確かにちょっとおとなしいけど普通の女の子っぽい。ふー……よかったよかった。同性で真っ当な感性を持っている子がいるのは心強いよ。

 

「ちなみにこの子は不登校集団のマジボスです」

「やっぱ普通の女の子じゃない!!」

「あとボタンはLPシステムにハッキングしてあたし達にLPを不正発行してたスーパーハカーです!」

「ちょ……言うなし!!」

「そして今やオモダカさん公認のエンジニア! 僕、あの怪しいLPに手を付けなくてよかったよ」

「マジでイカれたメンバーじゃん。常識人が僕だけとか大丈夫かこの探検隊……」

 

 バトルはすっげー強いんだろうけど別の意味でめちゃくちゃ不安だぞ。う、うぅ……これはもう僕がしっかりしなければ! エリアゼロから生きて帰れるかどうかは僕の双肩にかかっているといっても過言じゃないよ。

 

「さて、自己紹介も済んだところで簡単な方針を決めておこうか。僕達の目的はエリアゼロの最深部にペパーくんを連れていくこと。その道中でもっとも気を付けなければならないのは、パラドックスポケモンだ。オモダカさん達の資料によると、相当な戦闘力を有している上、奥に進めば進むほどその数を増していくらしい」

「こっちは実力者揃いとはいえ、数じゃ負けてる。だから、極力バトルはしない方針で行こう。襲われたらもちろん迎撃するが、俺達から野生のポケモン達を刺激するような真似だけは絶対しないように。あと、絶対に全員固まって動くこと。単独行動なんてもってのほかだからな」

 

 うわあ! 急に真面目になるな! 温度差で風邪引いちゃうだろ!

 

「はいっ!」

「……お前が一番心配なんだよアオイ」

「そんなにあたしのことが心配なら道中はずっとおててを繋いでいましょう! それがいいです!」

 

 なんでアオイ氏はマサル氏にこんなに懐いてるんだ? いやまあ、確かにマサル氏は一緒にいて楽しい人ではあるけど……。

 

「じゃあ、そろそろ出発しようか。エアームド!」

「コライドン!」

「ミライドン!」

「ムゲンダイナ!」

 

 話がまとまったところでなんかいきなりみんながポケモンを呼び出し始めた。……え? なんで?

 

「あ、言うの忘れてたんすけど、ゲートの転送装置が使えないんでポケモンに乗って突入します」

「そんな原始的な方法で!? 先に言ってよ!!」

 

 じゃあ僕もタイカイデンを……いやちょっとサイズ的に不安かも。

 

「アオイ、後ろに乗せて!」

「あ、ウチもお願い……」

「おうよ! アオイちゃんの華麗なるドラテクでお嬢ちゃん達を虜にしてやるぜ!」

「ハルト、頼むぜ」

「僕はアオイと違って安全運転だから安心して」

 

 あ、あ、あ……なんかみんなどんどんポケモンに乗ってる。こ、この感覚……体育の時間に「はい。二人組作ってー」って言われた時の気まずさに似てる……!! ぬおおおおっ!! 僕だけ余って先生と二人組を作るなんて地獄を味わってたまるかーっ!!

 

「ナンジャモさん……俺の後ろ、空いてますよ?」

「別の意味で地獄だな!!」

「失礼なこと言いますね」

 

 決め顔でそう言ったマサル氏だけど、君のそんなわざとらしい決め顔を見ても不安しか出てこないんだよ! うう……でも仕方ない。消去法でマサル氏しかいないんだから……。というか、クッソでかいなこのポケモン。全長何メートルあるの?

 

「はい、ナンジャモさん」

「お、おう……」

 

 僕が色々葛藤しているとマサル氏が手を差し出してきた。ぐ、ぐぬぬ……覚悟を決めるのじゃナンジャモよ。いくらマサル氏とはいえ、これから危険地帯に飛び込むんだからさすがにこれ以上ふざけた真似はすまい。

 

 し、信じてるぞマサル氏。

 

「雲が分厚くて下の様子が全然わかんねえな……」

「僕が先行するよ。雲の中は視界が極端に狭くなるから、距離とスピードに気を付けようか」

 

 ダイゴ氏がそう言って勢いよく雲の中へ飛び込んでいった。ぜ、全然躊躇いがない……。

 

「よーし、行こうかコライドン! 突撃ーーーっ!!」

「ミライドン、アオイについて行って」

 

 アオイ氏やハルト氏達も特に怖がる様子もなく飛び出していく。君達普通の学生だよね!? なんなのそのメンタルとクソ度胸!?

 

「そんじゃ俺達も行きますか。ナンジャモさん、しっかり掴まっててくださいね」

「……んっ!」

 

 僕はなりふり構わずマサル氏の背中に思いきり抱き着く。怖いもんは怖いんだ! 臆せず突撃していったあの人達がおかしいの! 僕はいたって普通なの!

 

「飛べっ! ムゲンダイナ!」

 

 年頃の男女が二人きりでポケモンの背に乗って空を飛ぶ……字面だけはロマンチックだな!! 字面だけは!!

 

 あばばばばばばばばばばばばっっっ!! ふ、浮遊感が!! 内臓が浮き上がってくるような独特の感覚が!!

 

 あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばーーーーーっっっ!!!

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……途中、二回死んだ……」

 

 下へ降りるとボタちゃん氏が蹲ってネモ氏に背中をさすられていた。気持ちはわかる。すっごくわかるぞボタちゃん氏!

 

「よっ……と。はい、ナンジャモさん。気を付けて降りてくださいね」

「ふぁい」

 

 マサル氏の手を借りつつ降りた瞬間、膝ががくがくと震え始めて立っていられなくなってしまった。

 

「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょばないっ……!」

 

 そのままマサル氏に抱き留められ、マサル氏が僕の背中を優しくポンポンと叩いてくれる。ぜ、絶叫系は慣れているはずだったのになんてザマだナンジャモよ……。いやでも絶叫マシンって安全が保障されてるからね。今回のはほとんど紐なしバンジーだったし。

 

 ……ふう。マサル氏にしがみついてたらちょっと落ち着いてきた。

 

「あーっ! ナンジャモさんばっかりずーるーいーっ! にぃに! あたしも怖くて立てない! だっこしてください!」

「ピンピンしてんじゃねえか。おとなしくしてろ」

「残念! 背中ががら空きだ! とうっ!」

 

 アオイ氏がマサル氏の背中に飛びついてきた。げ、元気過ぎるだろこの子。というか、ダウンしてるのが僕とボタちゃん氏だけって……タフだなみんな!

 

『生体認証確認中……。全員、コンディションオールクリア。バイタルは正常な数値です。無事に降下できたようだな』

 

 うおっ!? いきなりアオイ氏のスマホロトムが……なんだこの機械っぽい女性の声?

 

「はっ! ずいぶん快適な空の旅だったぜ」

『それはよかった。現在可能な降下方法は難易度が高いため心配していたのだ』

 

 ペ、ペパー氏の皮肉が通じてない。今度は男の人の声……通話の相手は誰だ?

 

「いや、どちら様なん?」

『申し遅れた。私はオーリム、こちらはフトゥー。ペパー達をここへ呼んだ張本人だ。学籍番号805C001、ネモ。学籍番号803B121、ボタン。来てくれて感謝する』

 

 は!? マジ!? マジモンのオーリム博士とフトゥー博士!? いや確かにペパー氏のご両親だってことは聞いてたけどさ……。

 

『ガラル筆頭四天王、マサル。ホウエン元チャンピオン、ツワブキ・ダイゴ。ジムリーダーナンジャモ。優秀な人材を集めてきたようだな』

「なるほど。俺達の存在も当然のように認知しているってことっすね」

 

 というか、連絡してくるタイミングが良過ぎるだろ。まるで僕らを監視してたみたいに……パルデア最高峰の頭脳を持つ博士二人ならそのくらいできるの、か……?

 

 で、なんでこのタイミングで博士達が連絡してきたかというと、ゼロラボの入り口にはロックがかかってて、それを解除するために四つの観測ユニットでロックを解除しなくちゃいけないらしい。

 

 なんて面倒臭いことを……でも、ゼロラボの重要性を考えたらそれくらい厳重にしないといけないか。

 

『では、健闘を祈る』

 

 用件を告げるだけ告げて博士達は一方的に電話を切った。こらーっ! 親なんだからもうちょっとペパー氏を心配するようなこと言えよーっ! ほらー! ペパー氏がすっげー複雑そうな表情してるじゃん!

 

「さて」

 

 澱んだ空気を入れ替えるように、ダイゴ氏が手をパンと叩いて全員を見回した。

 

「博士達の言う通り、まずは観測ユニットとやらを目指そうか。このままあの大穴をポケモンに乗って落下していけば楽に着きそうだけど……」

「はい、ダイゴさん! なぜかコライドンとミライドンが勝手にボールに戻っちゃいました! 出てくる気配がありません!」

「うん。出てこないのなら仕方ない。まあそもそも、空中で未知のパラドックスポケモンに襲われたらひとたまりもないから元々歩いて進んでいくつもりだったけどね」

「歩いて……よーしみんな! アオイちゃんについてこ───ぐえっ!?」

 

 走りだそうとしたアオイ氏の首根っこをマサル氏が掴んだ。

 

「マサルくん。先頭をお願いできるかな?」

「え? ダイゴ氏が先頭じゃなくていいの?」

「僕は最後尾で警戒しておくよ。それに、僕はマサルくんというポケモントレーナーに()()()()()()()()()()()

 

 うぉ……ホウエン元チャンピオンにそこまで言わせるって……どういう関係なんだこの二人? マサル氏は友達って言ってたけど、なんかそれだけじゃなさそう。

 

「任せてください。ジバコイル、電磁波で常に周辺の様子を……特にポケモン達の位置を探るんだ。ヤバそうなのがいたらすぐに教えてくれ」

 

 マサル氏がボールから呼び出したジバコイルがふよふよと浮き上がって先導する。確か、ジバコイルの頭の黄色いのってレーダーの役割があるんだよね。……未知の電波を受信してるって眉唾物の噂もあるけど、マサル氏のポケモンだ。それが本当だったとしても今更驚いたりはしない。

 

「ナンジャモさん、そろそろ大丈夫ですか?」

「あ、うん。ありがとねマサル氏」

 

 そういやずっとマサル氏に抱き着いたままだった。いつの間にか膝の震えも収まってる。うん、これならちゃんと歩けそうだね。

 

「にぃに! にぃに! 早く行こう!」

「アオイ、ステイ!」

「はい!」

「おすわり!」

「はい!」

「お手!」

「はい!」

「よしよし良い子だ」

「うへへ~♪」

 

 兄妹じゃなくて完全にペットだよ!! マサル氏に撫でられてるアオイ氏の顔……大好きな飼い主を前にした犬!! ハルト氏!! 姉があんな姿になってて何とも思わな……なんで腕組んで満足そうな表情で頷いてるんだ君は!? 何だこの姉弟!?

 

「おや? 木の根元が結晶で覆われているね。実に興味深い。砕いてこっそり持って帰ったらダメかなぁ……」

「そういや、ネモはアオイやハルトとどんな関係なん?」

「同じクラスでご近所さんなんだ! 『チャンピオン目指そう』って言ったらチャンピオンになってくれたんだよ!」

「え……? 何それヤバ……」

「ふん。俺達の友情物語に比べたらまだまだだな」

「いや、マウントとんなし」

「そういうボタンこそ、マサルお兄様とはどんな関係なの?」

()()をお兄様と呼ぶとか気は確かか!?」

「……マサルさんがお兄様になってくれたらいつでも好きな時に()れるよ?」

「え……? 何それヤバ……」

「諦めろ。これが生徒会長だ」

「マサルにぃに! アーマーガアがいる! あ、待って待って! あたしのデカヌチャンがボールから出ようとしてる!」

「エリアゼロにアーマーガア? ……ってことは天敵のデカヌチャンはここに生息してないのか? っつーか、天敵同士をパーティーに入れて育て上げてるポピーちゃんやべえな」

「むぅ~……そうやって別の妹ばっかり褒める! よーし、あたしのデカヌチャンもアーマーガアと仲良くできるってことを証明して……」

「おいバカやめろ」

 

 どいつもこいつも自由人過ぎる!! やっぱりこの集団は僕がしっかりしないとダメだ!!

 

 

 

 

 

 

「お、おお……! おおおっ!」

「アオイ、頼むから俺の手を離すなよ」

 

 エリアゼロに対する第一印象は、自然豊かで神秘的な場所だった。大穴の下の方を覗いてみるとすり鉢状の地形になっていて、穴の外周部は広い坂道だ。野生のポケモン達もたくさん生息していて、僕達を遠巻きに眺めているだけで襲い掛かってくるようなことはない。

 

「今のところパラドックスポケモンっぽいのはいねえなぁ」

「そうですね。早く……早く()りたい。くうぅ……右手が、疼く……」

「やり合わねえように慎重に進んでんだろうが」

「あっちにチルタリスが! モフモフ! モフモフしたい!」

「ダメだっつってんだろ。飴ちゃん舐めておとなしくしてろ」

「甘っ! うまっ!」

「うーん……どうにかしてマサルさんをパルデアに拘束しておくことはできないかな。いや、いっそアオイをマサルさんの旅に拉致……同行させてしまえば僕は悠々自適なアカデミーライフを……」

「金貰っても嫌だわ」

「なんでですか!! 可愛い上にバトルが強いアオイちゃんを連れて行かない手はないでしょう!! 一石二鳥の女ですよあたしは!!」

「それを補って余りあるデメリットがあるんだよなぁ」

「なるほど! つまりあたしが可愛すぎて目を離せないと! ふっふっふ。どうやらあたしは自分が思っている以上に罪深い女らしい……」

「おっそうだな」

 

 あのマサル氏を振り回すとは……オレンジアカデミーの人材は化け物か!? ぼ、僕もこの三人を見習えばマサル氏を相手に主導権を握れるのでは……? マサル氏を屈服させて主導権を握る……フヒヒヒッ! 想像しただけで涎出そう。

 

「キモイ顔してどしたんすかナンジャモさん」

「振り向きざまにキモイとか言うな!!」

「きっとマサルにぃにでいやらしい妄想をしていたに違いない!!」

「し、ししししとらんわ!!」

「ったく、ドスケベなのは服装だけに……いやこんな服装してる人の脳内がドスケベじゃないわけないもんな」

「ち、違うもん! 僕別に変なこと考えてないもん!」

「まずい! マサルさんがナンジャモさんとくっついたら僕の計画に支障が……いやナンジャモさんもマサルさんの旅に連れ出してもらって僕がハッコウシティのジムリーダーになれば何の問題もないか。ナンジャモさん、後任は僕に任せてください!」

「チャンピオンランクがジムリーダーになったらダメでしょ!?」

「ハルトがジムリーダー? じゃあ私、毎日ハルトのジムに入り浸るね!」

「え? 何なんこの人ら……ヤバ……」

「緊張感皆無ちゃんかよ」

 

 うぐおあああ~~~!! ボタちゃん氏、ペパー氏、そんな目で僕を見るな! 僕はどちらかと言えば常識人側なんだ! マサル氏達の「かいでんぱ」が僕を侵食しているだけなんだ!

 

 ダイゴ氏ー! ダイゴ氏ー! なんとかしてー!

 

「僕はパルデアに来て一つの真理に辿り着いた。そう、それは───僕自身がテラスタルすることだ」

 

 何言ってんだこいつ!?

 

「まあ、ダイゴさんならその気になれば鋼テラスタルできるんじゃないすか」

「ポケモンにできて僕にできない理由がないよね」

 

 理由しかないだろ!!

 

「マサルにぃにもテラスタルできそう」

「でんTマンがテラスタルとか想像したくもないし。というか、タイプは何?」

「ふっ、ボタちゃんよ。俺のテラスタルはタイプなんぞに囚われない。言わば、全タイプの力を宿した究極のテラスタル……」

「そんなんチートやん」

「はいはーい! 可愛いアオイちゃんはもちろんフェアリーテラスタルします!」

「残念だがアオイ、お前がフェアリーテラスタルするにはピンクが足りねえ。オルティガに弟子入りしてこい」

 

 ピンクが足りないって何!?

 

「うーん、私も格闘テラスタルできれば少しは運動ができるようになるかな……?」

「生徒会長がテラスタル……そのうち自分で戦い始めそうだな」

「自分がポケモンの技を使えるようになればバトルがもっと楽しくなるね!」

「異常者ちゃんめ」

 

 このメンバーの中に放り込まれて僕は改めて、強く……強くこう思った。

 

 ……僕のキャラ、薄くね?




 マフィティフを助けてブチ上がったテンションのまま灯台に行ってペパーに返り討ちにされたプレーヤーは多い。

 本当はね。今回でエリアゼロを攻略して次回でナンジャモ√を完結させるつもりだったんじゃよ。

 でもね。登場人物が増えたらそれだけ会話が増えるわけでね。

 これも全部ツワブキ・ダイゴって男が悪いんだ。

 ダイゴさんがテラパゴスと遭遇したらどうなるんだろうね。

 というかそもそもこれは本当にナンジャモ√なのか? ……まあでもカナリィ√もムクちゃん義妹√みたいなもんだったし。

 何も問題はないな、ヨシ!

 それとみなさん、機会があればXで「ポケマス 喫茶店」と検索してみてください。マサルが決め顔でハーレムを築いてます。

 ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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