【完結】すごいよ!! マサルくん   作:わへい

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【前回のあらすじ】
・グルーシャが脳破壊された



ナンジャモ√【エリアゼロ攻略編】ザ・ホームウェイ

 マサル氏と真夜中の会合を果たした翌朝、僕は目を覚ましてゆっくりと起き上がる。

 

 ボタちゃん氏はまだ寝ててアオイ氏とネモ氏はもういない。結構早起きだなあの二人。

 

 ……それにしても、マサル氏が言っていた「ある意味エリアゼロよりも厄介事」って何のことだろう。あの時は厄災絡みかなと思ったけど、よくよく思い返してみればマサル氏のあの反応はそういう感じじゃなかったような気がする。

 

 ううん。今はそれよりもエリアゼロだ。今日こそは最深部までペパー氏を送り届けなければ!

 

 でもエリアゼロでの任務が終わったらマサル氏はカロスに行っちゃうんだよね……。

 

 ぬおおおおおおおおおっっ!! 何を考えてるんだ僕は!! こんなの僕のキャラじゃないだろう!!

 

 へっ! 仕方ないからナンジャモさんが特別に送別会を開いてやんよ!

 

 ってちょっと待て! カロスってカナリィ氏がいるじゃん! ま、まずい……このままマサル氏を放っておけばカナリィ氏の尊厳が破壊されてしまう!!

 

 それだけは絶対に阻止せねば!! で、でもどうやって……? いっそ僕もマサル氏についていく?

 

 いやいやいやいや。それはないだろうナンジャモよ。リーグの仕事はどうするのじゃ。でもオレンジアカデミーの宝探しシーズンも終わりかけてるし……。マサル氏がカロスにいる間だけならついて行っても……。

 

 ただそうするとマサル氏と二人旅になるわけで……フヒッ。

 

 んがあああああああああああああああ!! やめろやめろ僕!! 変なこと考えるな!!

 

 あのマサル氏だぞ!! あの!!! マサル氏だぞ!!!

 

 どうやらまだ頭が起きてないみたいだね。こんな時は新鮮な空気を吸って朝の日差しを浴びるに限る!

 

 さあ行くのだナンジャモよ! 世界に向かっておはこんハロチャオ~♪

 

 そして観測所の扉を勢いよく開いた結果───

 

「腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動ーーー!」

「はい! いっちにーさんしーごーろく!」

 

 観測所の前で体操しているマサル氏、アオイ氏、ハルト氏、ネモ氏、ダイゴ氏……そして彼らのポケモン達の姿があった。

 

「なんじゃこりゃああああああああああああっっっ!!」

「あ、ナンジャモさん。おはようござ……おはこんハロチャオ~!」

 

 マサル氏が実に、実に爽やかな笑顔を向けてそう言った。

 

 

 

 

 

 

ナンジャモ√【エリアゼロ攻略編】ザ・ホームウェイ

 

 

 

 

 

 

「なんで朝っぱらから体操してたんだ!?」

「え? 俺がガラルの教育番組で体操のお兄さんやってるからですよ」

「理由になってな……そんなことやってんの君!? 人選間違ってない!?」

「失礼ですね。俺のちびっ子人気はガラルナンバーワンですよ。奥様方の評判も良いお茶の間の人気者です」

 

 朝食を終え、第三観測ユニットに向かう道中、僕はどうしてもあの早朝の光景にツッコまざるをえなかった。というか体操のお兄さんて……待てよ? 子供人気が絶大って言ってたよね? じゃあ僕も体操のお姉さんになればもっと人気がシビルドン登りになるんじゃ……フヒヒッ。

 

「ナンジャモさんが体操のお姉さんになったらエロコラ画像が作られまくりそう」

「失礼過ぎるだろ君!! というか僕の心を読むな!!」

「体操のお兄さんお姉さんの服装ってTシャツにハーフパンツかジャージですよ。……ナンジャモさんのジャージ姿……あかん流石にダサすぎるナンジャモさんの服装と頭のコイルは今の衣装だから許されてるとこがあるよなでもそのダサさが逆にありかもしれない少なくともグルーシャさんは喜んでくれるただナンジャモさんが媚びる感じで体操をしてエロい目で見られるのは解釈違いだからエロを微塵も感じない致命的にダサいジャージを着てほしい確か社長が今度新ジャージを送ってくれるって言ってたな」

「急に早口厄介古参モードになるのやめろ!!」

 

 最後に恐ろしいこと口走ってたよね? でんTを作った社長が新しいジャージを……? 絶対ろくなデザインのジャージじゃないよ!! って、待て待て待て!! 僕のこの衣装を作ってくれたのはでんTの会社だ!! 僕と会社の関係性を考えれば……新デザインジャージを着てくれと言われたら断れない!!

 

「今度二人でジャージ着て体操の動画でも撮りましょうか!」

「やらんわ!!」

 

 変なバズり方しそうだけど僕が求めるのはそーゆーのじゃない!

 

「……人気を上げたいならガラルみたいなリーグカードを作ればいいのでは?」

 

 ハルト氏の真っ当過ぎる提案に感銘を受けた僕はエリアゼロから帰ったら真っ先にオモダカ氏に進言しようと固く心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べた後、更にエリアゼロの奥へと進んでいく。途中何度か野生のポケモンに絡まれたりしたけれど、その度に主にネモ氏が蹴散らしていた。

 

 第三ユニットへ到着後はこれまで通りロック解除の操作を行い、そこでコライドンとミライドンに関する衝撃の事実が明らかになった。

 

『コライドンとミライドンはタイムマシンの研究で初めて過去と未来から転移できたポケモンだ。その遺伝子パターンや行動パターンを分析するに、モトトカゲの古代、あるいは未来の姿だと推測できる』

 

 パルデアで一般的なライドポケモンであるモトトカゲのご先祖様であり子孫……それにしては姿が違い過ぎない?

 

『他にもさまざまな種類のポケモンが転移してきたが……コライドン、ミライドンの種族は全部で二匹ずつしか転移できなかった』

「は? ってことはこいつら、もう一匹いんの?」

「もしかして家族じゃない? エリアゼロのどこかで待ってるよきっと!」

「感動の再会……?」

「うん! 家族を見つけて再会できたら喜ぶよ! 絶対!」

 

 ネモ氏が表情を輝かせている一方でマサル氏とダイゴ氏は怪訝な表情を浮かべている。かくいう僕も色々と腑に落ちないことはあった。もしももう一匹のコライドン、ミライドンが本当に家族なんだとしたら……あの子達のあの怯えるような様子はなんなんだ?

 

 とてもじゃないけれど、家族との再会を楽しみにしているような態度じゃなかった。むしろ逆。自分よりも遥かに強い存在に怯えている……そんな風にすら見えた。

 

「コライドンとミライドンのあの反応って、なんか嫌な記憶があるんかと思った。嫌なことがあった場所とか行動とか思い出すだけで手が震えてくる……ウチがクラスで孤立してた時と一緒。学校のこと考えたらあんな風に引きこもりたくなったし」

 

 どうやらボタちゃん氏も僕と同じ印象を持っているらしい。確かにコライドンとミライドンはエリアゼロそのものにトラウマを感じているような気さえする。

 

「……その辺のことも博士達に会えば全部わかるだろうさ。ま、今のところはっきり言えるのはボタちゃんがもう一回引きこもったら俺が無理矢理にでも外に引きずり出してやるってことだな」

「陰の者に陽キャエナジーは眩しすぎるんよ」

「だがしかし! そうやって甘やかし続けた結果! 引きこもりの高齢化が大きな社会問題になっていることを忘れてはならない! ……俺見たくないよ? ボタちゃんが四十歳になっても職にも就かずピオニーさんの脛かじって引きこもってゲームしてネット掲示板でレスバしてる姿なんて」

「あっあっあっ……シャクヤだけ結婚して幸せな家庭を築いて子供ができてウチは一生独身で時々遊びに来る甥っ子姪っ子にどう接していいかわからず陰キャを炸裂させてドすべり……あっあっあっ……」

「お前がトラウマちゃん植え付けてどーすんだよ」

「大丈夫だよボタン! 私もボタンが引きこもったら部屋から引きずり出してバトルしてあげるから!」

「バトルはしなくていいだろ」

「マサルにぃにが……結婚? 結婚するのか……!! あたし以外の女と!!」

「アオイと結婚する可能性なんざ微塵もねえよ」

「えっ……? しないんですか? してくれないと僕が困ります」

「なんでハルトの方がショック受けてんだ」

 

 途中まで真面目な話だったのになんか脱線した!! 

 

 う~ん……結婚、結婚かぁ。別に僕は全然焦る年齢じゃないけどいやほんとに全然焦る年齢じゃないけど多少は意識してもいい頃だよねまあその前に彼氏すらいないんだけどねはっはっは。……はぁ。

 

 こういう立場になるとねー。彼氏を作るのも色々大変で……ジムリーダーってだけじゃなくてそれなりに名の知れたインフルエンサーだし周囲への影響がねー。

 

 そういうのが全然気にならないくらいの相手ならいいんだろうけど。恋愛マンガじゃないんだからそんな良い人がほいほい現れるわけないもんね。

 

「ダイゴさんは結婚しないんすか?」

「世界中を放浪して泥まみれになりながら珍しい石を集める趣味に理解がある女性がいるなら」

「……そんなんミカンちゃんくらいじゃないすか」

 

 変な意味でハードル高いなダイゴ氏よ。

 

 

 

 

 

 

 それから休憩を挟みつつ、最後の観測ユニットがあるであろう大きな洞窟へとやってくる。

 

 なんだろう……あの洞窟、明らかにこれまでとは雰囲気が違う。これまでの道中がピクニックにしか思えないくらいの緊張感というか強い気配が漂っている。

 

「……アオイ」

「はい」

「こっからはおふざけなしだ。マジで行く」

「はいっ!」

 

 マサル氏はそう言って帽子を取って髪をくくった。僕とのバトルでも見せたマサル氏の超絶マジモード。……ほんとに別人みたいだな。普段からそんな顔してればもうちょっとモテるだろうに。

 

 最後尾でずっとマサル氏の後方支援者面してキラフロルに熱い視線を送っていたダイゴ氏が纏う空気も変わった。なんというか、ピリピリと肌を刺激するような緊張感が伝わってくる。

 

 これがホウエン元チャンピオンの本当の姿。……ただのイケメン面白お兄さんじゃなかったんだね。

 

「チリちゃんさんとアオキさんはここで撤退を余儀なくされた。その理由が改めて分かったな」

 

 洞窟内はもはや、人が安易に足を踏み入れていい領域ではなかった。

 

 野生のポケモン達に混ざってそこら中を闊歩するパラドックスポケモン達。チリちゃん氏のデータによると、サケブシッポ、アラブルタケ、ハバタクカミ、テツノコウベ、テツノイバラ……これだけの数のポケモン達に一斉に襲われたらひとたまりもないだろうね。

 

「……襲ってこない?」

「俺達は八人だからな。数が多いってのはそれだけで脅威だ。チリちゃんさん達の失敗は、()()()()でエリアゼロ最深部を目指したこと。もしも二人だけじゃなくジムリーダーを総動員していれば結果は変わったかもな」

 

 アオイ氏の疑問にマサル氏が答える。確かに、パラドックスポケモン達は僕達を遠くから観察するだけで襲い掛かってくる様子はない。ただ、いつまでもこの膠着が続くとも思えなかった。何事にも()()()存在する。数的不利を無視して襲い掛かってくるポケモンだっているはずだ。

 

「これまで以上に警戒を怠らないようにしようか。みんな、いつでも戦闘に入れるように」

 

 ダイゴ氏の口調こそ穏やかではあるものの圧のある声だった。うーっし。僕も気合を入れ直すか。

 

 

 

 

 

 

「……うーん」

「どしたボタちゃん。なんか変なもんでも見つけた?」

「あ、いや……そこら辺に生えてる……生えてる? 結晶の光がテラスタルオーブに似てるなーって」

「ほう良いところに目を付けたねボタンちゃん実は僕もずっと気になっていたんだよオモダカさんにテラスタルオーブのことについて色々と聞いてみたけれどさすがにパルデアの最高機密らしくて簡単に教えてもらえなかったんだよねでも数多の石と心を通わせてきた僕に言わせればエリアゼロにある結晶でテラスタルオーブが作られていると推測できる」

「めっちゃ怖い!! 真面目な顔で周囲を警戒しながら口調だけ早口やからめっちゃ怖いんよ!!」

 

 テラスタルオーブの原料がエリアゼロの結晶かー……。うん、その可能性は高いよね。だってテラスタルオーブのエネルギーって基本的に自然には回復しないのに、昨日の戦闘でテラスタルを使わされた僕のテラスタルオーブのエネルギーがいつの間にか回復してるんだから。

 

 これって多分、エリアゼロにある結晶からエネルギーを充填したってことだよね?

 

「その辺のことも博士に聞けば全部わかるさ」

 

 マサル氏の言葉にペパー氏が複雑そうな表情を浮かべる。……うん、仕方ないよね。これまで三つの観測ユニットで博士達が色々と言っていたけれど、二人のことを()()()()()()()()()()のペパー氏が「あいつら」なんて言っちゃうくらいなんだから。

 

 考えたくはない。本当に考えたくはないけれど、どうしても……最悪の事態が頭をよぎる。

 

「そんな怖い顔しなくてもだいじょーぶだよペパー! なんていったってこのアオイちゃんがいるんだからね! あたしがなんとかしてあげる! ぜーったい!」

 

 嘘偽りのない、天真爛漫という言葉がこれほど似合う笑顔を僕は知らない。

 

 すげーなアオイ氏。この状況でよくそんなことを……僕がペパー氏の立場なら惚れてるぞ。

 

「……だな。頼りにしてるぜアオイ」

「お任せあれい!」

「ちょっとちょっとー! 私もいるんだからね!」

「正直、アオイより僕の方が頼りになると思う」

「あ、ウチはあんまり頼りにしないでね」

 

 ぐああっ!? 眩しい……!! 学生達の絆が眩しくて尊いよぉ……!! これが、青春っっ!!

 

「若さっていいっすねダイゴさん」

「そうだね。テラスタルの輝きよりも何万倍も美しい」

 

 いやダイゴ氏はともかくマサル氏もそう歳は変わらんだろ。と思ったが僕はツッコまない。だってそんなことを言えば「まあ、俺はナンジャモさんよりは若いですからね!」なんて言葉が返ってくるに決まってるからだ。僕はマサル氏の生態に詳しいんだ。

 

 そして、それからしばらく洞窟内の坂道を下へ下へと降りていくと最後の観測ユニットが見えてきた。ただ、この第四観測ユニットはこれまでの三つと違って明らかにボロボロで……しかも建物自体が結晶に侵食されている。

 

 ……本当に稼働するのかな?

 

「何これー!? ボロッボロ!」

「なんかが暴れたみたいな……?」

 

 建付けが悪かったのか、はたまた何かしらの衝撃で歪んでしまったのか、とにかくカチカチだった入り口の扉をポケモン達の力を借りて強引に開けると中は悲惨の一言だった。

 

 書物や書類、小型の機材やら雑貨やらが辺り一面に散乱している。ボタちゃん氏が言っていたように、何かが暴れた後みたいだった。なんか、完全にホラー映画みたいな状況だ。

 

「パラドックスポケモンが隠れてるかもしれないからな。気を付け───」

『ハロー、子供達よ』

 

 うおっ! ちょ、ちょっとビビった。マサル氏がみんなに声をかけた瞬間にスピーカーから博士のでかい声が……音量調整ミスってない?

 

「ここって何で壊れてるんですかー?」

『それはすまないハロー子供達よ』

「……あ?」

 

 ネモ氏の疑問に博士は答えない。というか返答そのものが……いや、反応がおかしい?

 

『すすすままないすまななないすますまないすまないまますままままままままままままままハロー子供たチハロー ハロー』

 

 突然の博士の豹変に僕達は絶句した。あのアオイ氏でさえ、目を真ん丸に開いてマサル氏の腕にぎゅっとしがみついている。

 

『……ハロー子供コドモコドドたちドドタチコドモタチ……再起動を開始します』

 

 そして、機械的な音声を最後に通信が切れ、僕達を重たい沈黙が包み込んだ。

 

「悪戯にしては趣味悪すぎ。ちょっとビビった」

「なんか通信変だったね?」

「いや、悪戯とか変とかってレベルじゃねえだろ。あいつら……いや、()()はもう……」

「ペパー?」

「……わりぃ、大丈夫だ。ボタン、さっさとロックを解除しちまおうぜ。あとはゼロラボに行ってあれを問い詰めりゃあ全部終わる」

「……ん。任せろし」

 

 ボタちゃん氏がロックを解除すると同時に博士達との通信が回復し、先程の出来事なんてまるで何もなかったかのように博士達は僕達を最深部へ来るよう促した。

 

 それから僕達は博士の言葉通りに洞窟内をさらに深く潜っていく。途中に何度かパラドックスポケモンが襲ってきたけど、全部ネモ氏とアオイ氏とハルト氏が蹴散らしていた。こんな状況でもバトルになったら一切パフォーマンスを落とさないあたり、さすがチャンピオンランクだね。

 

 ただ、深く潜れば潜るほどパラドックスポケモンの数が増えてきている。今はまだエリアゼロ内にとどまっているけど、これだけのパラドックスポケモンが一斉に大穴から出てきたりしたら……きっとパルデアの生態系は、うん……あんまり想像したくない。

 

「あれがエリアゼロ最深部、ゼロラボか……?」

「到着ー! 財宝伝説確かめちゃう?」

「あれって教科書に書いてあるだけっしょ」

 

 見えてきたのはこれまでの観測ユニットとは比較にならないほど巨大な人工の建造物。最下部には六角形の扉があるけれど、建物の大部分が結晶に覆われていて全貌はわからない。

 

「マサルにぃにどうしたの? そんなに怖い顔して」

「……見られてるな、何かに」

「そうだね。少し前から僕達の後を何かがつけてきているよ。それも()()

 

 マサル氏とダイゴ氏がそんなことを言ってのけた。うおい! そういう大事なことは早く言え! 

 

「ちょ!? ビビるようなこと言わんでよ! ってか気付いてたなら早く言えし! 情報共有!」

 

 よく言ったボタちゃん氏よ。やっぱり僕は君と気が合いそうだ。

 

「悪かったな。これ以上()()()()()()()()()()()()()()んだよ。っつーか、襲ってきたとしても俺とダイゴさんで十分片が付いたからな」

 

 マサル氏の言う通り、観測ユニットでの博士達の豹変やパラドックスポケモンへの警戒で神経を尖らせていたことは確かだ。僕はともかく、他の五人はただの学生……見えないところで僕達の想像以上に負担がかかっていたに違いない。

 

「よくがんばったな五人とも。()()()()()()()()()()()だ。さてボタちゃん、最後のロック解除を頼む」

「な、なんか釈然とせん」

「これも経験だよ。こんな()()()()()()()()()()()()での大冒険なんてなかなかできねえだろ?」

「いや、安全が保障された危険地帯って一行で矛盾しとるやん」

「俺とダイゴさんの存在そのものが安全の保障だ」

 

 すっげー。言い切りやがったよこの男。確かにアオイ氏達がバトルに専念できていたのはこの二人が後ろで控えていたことが大きかったんだろうけど。

 

 そしてボタちゃん氏は嫌いなものを無理矢理食べさせられた子供みたいな表情になって扉前にあるパネルを操作する。うんうん、その気持ちわかるぞボタちゃん氏。

 

「ただ、このまますんなり終わるとは思えないっすよね」

「そうだね。というよりも───来るよ」

 

 ダイゴ氏がそう言った瞬間だった。僕達の頭上……死角になっていた崖の上から二つの大きな影がズドンという大きな音と共に僕達の目の前に飛び降りてきた。

 

「おお! マジか! もう一匹のコライドンとミライドンじゃねえか!」

「もしかして、家族に会いに来てくれた?」

「だな! アオイ、ハルト。コライドンボールとミライドンボールもオープンしようぜ!」

 

 現れたのは博士達の話にあったもう一体のコライドンとミライドン……ただ、目の前にいるこの子達は僕が見た二体よりも一回り身体が大きい。

 

「アギャ……?」

「ギャヌス……?」

 

 そして、ペパー氏達に促されてアオイ氏とハルト氏の二人はそれまで引きこもっていたコライドンとミライドンをボールから出し、同族と対面させる。これで感動の再会になる……かと思いきや。

 

「グアオオオオオオオオオオン!!」

「ギャオオオオオオオオオオン!!」

 

 飛び降りてきたコライドンとミライドンは同族の姿を見るなり、威嚇するように雄叫びを上げた。いや、これは威嚇なんて生易しいものじゃない。明確な()()だ。

 

 対して、ボールから出てきたコライドンとミライドンは委縮どころか怯えるように体を縮め、頭を垂れている。

 

「下がれ。アオイ、ハルト」

 

 即座にマサル氏とダイゴ氏が二人とコライドン、ミライドンを守るように両者の間に割って入った。二人の背中しか見えないけれど怖いくらいの威圧感が伝わってくるのがわかる。かくいう僕も、ほぼ無意識の内にボールを構えて戦闘態勢になっていた。

 

 まさに一触即発。このままだとバトルにまで発展しかねない……と思ったその時だった。

 

 鈍く重たい機械音と共に、僕達に後方にあるゼロラボのゲートが開き始める。

 

 マサル氏達と睨み合っていたコライドン、ミライドンはゲートへと視線を向けた後、僕達に興味を失ったのか、そのまま大きく飛び上がってゲートの中へと入って行った。

 

 ……あれ? 確か中に博士達がいるんだよね?

 

「なーんか嫌な感じだったな。おい、気にすんなよ。お前らがバトルフォルムになればあんなヤツら……」

「感動の再会……? にしてはやけにあっさりしてたね」

「いやいやいや! どう見ても! カチコミ一歩手前のバチバチやったやん!」

 

 ボタちゃん氏の言う通り、あれは家族や同族との再会を喜ぶような反応じゃない。縄張りに入ってきた侵入者を排除する野生ポケモン特有の敵意。ミライドンとコライドンがエリアゼロに対してあれだけ怯えていたトラウマって……もしかしてさっきの同族達のことなんじゃ?

 

「どうやら手厚く歓迎されているみたいだよ」

 

 思考に耽っているとダイゴ氏がそう言って僕達の後方を指差した。視線を向けると、開いたばかりのゲートからパラドックスポケモン達が蟻の巣をつついたようにわらわらと出てきている。

 

 じゅ、十や二十どころじゃないぞあの数!?

 

「いやいやいや! 数多過ぎ! 全部パラドックスポケモン!?」

「これって結構マジヤバちゃんなんじゃ……」

「あはっ! バトルロワイヤルだね! よーしアオイ、ハルト、楽しもうか!」

「……今日だけは生徒会長が頼もしさマックスちゃんだな」

 

 ネモ氏は目をキラキラと輝かせてボールを構える。いや、まあ数は多いけど全員で協力すれば十分どうにでもなるはず。ただ、さっきのコライドンとミライドンがゼロラボの中へ入って行った以上、博士達の身も心配だ。十年以上ここで研究をしていたから自衛の手段は持っているだろうけど……突破にあまり時間をかけたくない。

 

 ふう……やれやれしょうがないにゃあ。

 

 何度目かわからないナンジャモの本気……見せたろやないかい!!

 

「ナンジャモさん、五人を連れて先に行ってください」

「ズコーッ!!」

「いやなんすかその反応?」

 

 マサル氏の言葉に思わずズッコケそうになってしまった。いやいや、ここはこう……互いに背を預け合いながら戦う少年漫画の王道展開的な……。そもそも単純に相手の数が多過ぎるでしょ!?

 

「俺とダイゴさんで道を作ります。ナンジャモさんはペパー達を連れてゼロラボの中へ」

「む、無茶だって! 君が強いのは知ってるよ? でもさすがにこれだけの数のパラドックスポケモンを二人だけじゃ……」

「大丈夫ですよ。俺とダイゴさんなら」

「そうだね。僕と君なら何の問題もない」

 

 な、なんじゃその二人で通じ合ってる感じ!? 

 

「僕もそろそろただの石好き面白おじさんじゃないところを見せないとね」

「いやいや。ダイゴ氏はおじさんって言うほど老けてないでしょ?」

「僕、今年で三十三歳だよ」

「今日イチの衝撃!!」

 

 その顔で三十三歳かよ!! 僕と同年齢かちょっと年上くらいだと思ってたぞ!! どうか若さを保つ秘訣を教えてください!!

 

 ……じゃなくて!!

 

「そ、それならせめて僕も残るよ!」

「俺達の目的はエリアゼロを制圧することじゃない。ペパーを無事に博士達のもとへ送り届けること。それに、ゼロラボ内がどうなってるかわからない以上、()()()()()()()()()()()が必要です。これはナンジャモさんにしか頼めません。……お願いできますか?」

「う、うぅ~……ず、ずるいだろ! そんな言い方されて断れるわけないじゃん!」

 

 そんな真剣にお願いされたら……んがぁーっ! わかった! 僕が責任もって! ペパー氏を送り届けようじゃないか!

 

「っつーわけだ。お前らナンジャモさんの言うことをしっかり聞けよ。状況次第じゃ博士と合流してさっさと撤退しろ。俺達もここを片づけたらすぐに行く」

 

 アオイ氏達が元気よく返事をする中でボタちゃん氏だけはマサル氏に「誰やこいつ?」みたいな視線を向けていた。うん、言いたいことはわかるぞボタちゃん氏。ほんとこういう時にマサル氏って別人になるよね。

 

 まあ、それがマサル氏の格好良いところでもあるけど。

 

 で、そうこうしている間にパラドックスポケモン達が僕達を取り囲むように……というか本当に何体いるんだよ!!

 

「ダイゴさん」

「ああ、()()()()()()よ。おいでエアームド」

 

 二人が同時にボールを構えた。

 

「バンギラス、ウーラオス。前に出てスペースを作れ。後ろは心配しなくていい。シャンデラ、十時の方向に『ねっぷう』だ。一帯を焼き払え。ニンフィア、二時の方向に『マジカルシャイン』で敵を散らせ。ジバコイル、全員に『ひかりのかべ』と『リフレクター』だ。インテレオン、エアームドに乗って()()()。前衛の援護は任せる。レジエレキは……うん、その辺でぴょんぴょんしてな。あんま遠くに行くなよ。気が向いたら戻っておいで」

 

 マサル氏が手持ちの子達を一気に呼び出して指示を出す。途端に乱戦になって一帯がごちゃごちゃし始めて状況が複雑化した。だけどマサル氏は動じない。戦場を俯瞰しているかのようにポケモン達に的確に指示を出している。

 

「バンギラス、二秒後に『じしん』で連中の動きを止めろ。ウーラオス、『じしん』に合わせて()()。そのまま前に出て足を止めたヤツらに片っ端から『すいりゅうれんだ』。シャンデラ、ニンフィア、十二時方向に『かえんほうしゃ』『ムーンフォース』。ウーラオスに寄らせるな。インテレオン、『ねらいうち・五月雨(さみだれ)』。一匹たりとも撃ち漏らすな」

 

 僕達の進行方向をバンギラスとウーラオスが抑えて道を開き、パラドックスポケモン達が密集している場所ではシャンデラとニンフィアの範囲攻撃が猛威を振るう。ジバコイルの的確なサポートで守りを固め、乱戦でポケモン達が入り乱れる中、エアームドに乗ったインテレオンが上空からの正確無比な射撃で確実にパラドックスポケモン達の急所を撃ち抜いていく。レジエレキはぴょんぴょんしているだけかと思いきや……あのスピードに翻弄されて結果としてパラドックスポケモン達の気を良い感じに引いているらしい。

 

 みんな強いけど特にあのインテレオンがヤバい。こんなごちゃついた戦場なのに一切フレンドリーファイアすることなく高圧水流を連発している。っていうか連発!?  射撃間隔が短すぎだろ!! マシンガンかよ!! 僕の知ってるスナイパーじゃないんですけど!? 針の穴を通すってレベルじゃねえぞ!! どんな鍛え方したらああなるんだ!!

 

 あ、あれがマサル氏の相棒……。一対一じゃわからないヤバさがあるんだね。

 

「さて。マサルくんがお膳立てしてくれたことだし……メタグロス───メガシンカ」

 

 ダ、ダイゴ氏ってばとんでもねーポケモンを連れてやがった!! これが噂に聞くメガシンカ……テラスタルと違って場所を問わずポケモンを強化する進化を超えた進化……。

 

「まだまだこんなもんじゃないよ。今こそ真価を見せるときだ。輝けメタグロス───()()()()()

 

 ダイゴ氏が懐から取り出したのは僕達にとっても馴染み深いもの……というかなんでダイゴ氏がテラスタルオーブを!? しかもメガシンカしたポケモンにテラスタル!? そんなの前代未聞だよ!!

 

「……うお。マジでメガシンカとテラスタルを両立させてやがる。あのメタグロス、規格外過ぎっすよ」

「はっはっは。君のインテレオンだって大概だからね」

 

 いやどっちも頭おかしい。

 

「それじゃあ、とっておきの技を見せようか」

「バンギラス、ウーラオス! ()()()()()!」 

 

 瞬間、メタグロスの纏う輝きが一層激しくなった。

 

「───()()()()()()

 

 鋼色の閃光がパラドックスポケモン達を飲み込んだ。前衛のウーラオスとバンギラスが開いた突破口を、メタグロスが完全にこじ開ける。

 

「下がれウーラオス! 合わせろバンギラス!」

「アーマルド、ユレイドル、ボスゴドラ」

 

 ダイゴ氏がさらに三体のポケモンを呼び出した。バンギラスを含め、威圧感のある四つの巨体がパラドックスポケモン達の前に立ちはだかる。

 

「ストーンエッジ!!」

「ストーンエッジ!!」

 

 四体の屈強なポケモン達によるストーンエッジにより出現した鋭利な巨岩群がパラドックスポケモン達の行く手を遮り、ゲートまでの道が完全に開かれた。

 

 ……なんだこの二人の阿吽の呼吸染みたコンビネーション!? これ本来だったら僕と背中合わせで「やりますねナンジャモさん」「マサル氏こそ」ってなんか良い感じになってたとこじゃないの!?

 

「わたぱち! ナンジャモさん達を先導しろ! ゲートまで送り届けたら戻ってこい!」

「イヌヌワン!」

 

 愕然とする僕をよそに、マサル氏の指示を受けた愛犬パルスワンが凛々しい表情で僕達に向かって頷いた。

 

 ええい! 切り替えるのじゃナンジャモよ。今はマサル氏から託された使命を全うするのみ!

 

「さあ皆の者! 僕についてくるんだ! マサル氏とダイゴ氏の意思を無駄にしちゃいけない!」

「あたし、この戦いが終わったら結婚するんだ」

「マサルお兄様! ダイゴさん! 帰ったら百本勝負しましょうね!」

「これでマサルさんもダイゴさんもチャンピオンじゃないってガラルとホウエンはどんな魔境なんだろう」

「ホウエンはよく知らんけどガラルのトップ層は異常者の集まり」

「俺、とんでもねー怪物ちゃん達にスパイス探しを手伝ってもらってたんだなぁ……」

 

 なんでや!! 押し寄せる大軍を身を挺して食い止めてくれている仲間を置いて先に進む感動的なシーンのはずなのにアカデミーズの反応がおかしいやろ!! 

 

 え!? もしかして僕の方がおかしい!? 僕の方がおかしいの!?

 

 ものすごく釈然としない気持ちになりながら僕達はゼロラボへ突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、ナンジャモちゃん達は無事にゲート内へ入ったことだし……」

「もう()()()()必要はありませんね」

「うん。正真正銘、ここから先は()()でいく」

「こうやってダイゴさんと肩を並べて戦うのは()()()以来……ブラックナイト以来っすね」

「不謹慎だけれどこんな状況なのに心が躍っている自分がいるよ」

「それならもう少しだけ付き合ってもらうっすよ」

「喜んで」

 

 

 

 

 

 

 ゼロラボの内部は荒れている……というよりも寂れているという印象だった。ラボの中でオーリム博士とフトゥー博士の二人が待っていて、ラボのさらに地下にある施設へ向かうエレベーターの中で全ての事情を僕達に話してくれた。

 

 コライドンとミライドンのこと。

 

 パラドックスポケモンのこと。

 

 タイムマシンのこと。

 

 そして、ペパー氏の両親のこと。

 

「……お前達は父ちゃんと母ちゃんじゃないんだな」

「今まで黙っていてすまなかったペパー。僕達はオーリム、フトゥーの人格、頭脳、思い出をインストールされたAIに過ぎない存在なんだ」

 

 本物の博士達は第四観測ユニットでの事故で命を落とし、それ以降はこのAI達が博士の研究を引き継いでいたらしい。だけど、この二人はどこからどう見ても生きている人間にしか見えなくて……科学技術の発展を恐ろしいとさえ思ってしまった。

 

「博士達は古代のポケモン達、未来のポケモン達が現代のポケモン達と共に暮らせる世界を夢見ていたが、それは本当に夢物語でしかなかった。パラドックスポケモン……その性質は博士達の想像を超えていて、このままパラドックスポケモンが増え続ければパルデアの美しい生態系が崩壊してしまう。オリジナルの博士達は『それも自然の摂理だ』と言っていたが。僕らはそうは思わない。あまりにも非合理的だ。だからこそ、タイムマシンを止めなければならない」

 

 そのためにペパー氏を、そしてアオイ氏やハルト氏達のような優秀なトレーナーをここに呼んだのか。でも、そんな大それたマシンを止めるなんてどうやれば?

 

「タイムマシンを止めようとすれば、防衛プログラムが作動し、最強のAIが立ちはだかるだろう。君達に任せたいことはただ一つ。そのAIを倒すんだ」

 

 もうこの時点で僕は嫌な予感しかしなかった。最強のAIって……そんなのもう今僕達の前にいる博士達のAIに決まってんじゃん! 倒せって何さ!? ペパー氏の目の前で二人のAIをぶっとばせって言うの!? 人の心とかないんか!! ……AIだったなちくしょう!!

 

 でもパルデアの生態系が崩壊するのを止めてほしいとか言ってるあたりオリジナルよりAIの方が常識あるんだね!!

 

「はい博士! 質問です! 最強のAIを倒すってどうすればいいんですか? トリックフラワーを十発くらいぶっ放せば倒せますか?」

 

 アオイ氏が手を上げて元気よくそんなことを尋ねた。あんな凶悪な技を十発もぶち込むんじゃない!

 

「これまで君達が数多の困難を乗り越えてきた時と同じことをすればいい」

 

 そして、機械音と共にエレベーターが停止して外に出る。そこに広がっていた光景に、僕達は全員言葉を失った。

 

 壁一面が、天井一面が結晶に覆われているまるで万華鏡のような神秘的な空間。さっき通ってきた洞窟内とは違い、結晶は規則正しく並んでいて、明らかに人の手が入っていることがわかる。そして、空間の中央には六角形の台座。

 

「ラストダンジョンっぽい場所!」

 

 アオイ氏は目を輝かせてきょろきょろしている。ほんとに大物だな君!

 

「……ペパー。この台座にスカーレットブックとバイオレットブックを。タイムマシンを止めるにはその本に搭載された博士達のIDが必要だ」

「だから俺にこいつを持って来いって言ったのか」

 

 ペパー氏は複雑そうな表情を浮かべて二冊の本を取り出す。

 

「ただ、一つ問題があってね。マシンを停止しようとすると、僕達は君達に襲い掛かるだろう。AIである僕達の意思はプログラムに乗っ取られてしまうんだ」

「じゃあさっき言ってた立ちはだかる最強のAIって……」

 

 ハルト氏が尋ねると、二人の博士のAIが頷いた。

 

「僕達は邪魔者を排除するだけの戦闘マシンになる。パルデアの歴代チャンピオン達の戦い方を分析した無敵のAIだ」

 

 チートすぎるだろそんなの!! ……あ、でも話の流れ的に博士達のAIを直接ぶっとばすんじゃなくて戦闘マシンと化したAI達にバトルで勝てってこと? いやそれはそれでめっちゃキツイな! こっちにはチャンピオンランクが三人いるとはいえ……相手はパルデアポケモンリーグの歴史そのものみたいなものだぞ!?

 

「君達とポケモン達の絆なら勝利できると信じているよ」

 

 そう言った二人の笑顔がやけに印象的だった。AIが……信じる。人を、信じる……。ありえるのか? そんなことが……。今さらだけど、本当に今さらだけど。僕は今、歴史的な瞬間に立ち会っているのかもしれない。

 

 そして、ペパー氏が二冊の本を台座に置き、タイムマシンを停止させるためのプログラムが起動する。

 

 瞬間、けたたましいサイレンと共に先程まで白く輝いていた空間一面の結晶が警告を示すように黄色い光を放ち始め、中央の台座がせり上がり、博士達のAIが高い位置から僕らを見下ろしている。

 

「頼むぜ。アオイ、ハルト」

「がんばって。ウチじゃ力になれんし」

「いざとなったら私もいるからね!」

 

 アオイ氏とハルト氏の二人が前に出る。最強のAIとやらがどれだけ強いのかはわかんないけど、この二人だって規格外の怪物なんだ。それに、ネモ氏だけじゃなく僕だって……いざとなったらマサル氏とダイゴ氏だっている。

 

 よっしゃ勝ったな! 風呂入ってくる!

 

 

 

 

 

 

 博士達のAIは「最強」の名にふさわしいといえるほど強かった。繰り出してきたのは合計十二体のパラドックスポケモン。その全てが、マスターボールで捕獲されていた。

 

 でも、アオイ氏とハルト氏の強さはAIの想定を遥かに超えていた。襲い来るパラドックスポケモン達を意に介さず、迷いのない的確な指示でパラドックスポケモン達を圧倒する。

 

 歴代チャンピオンの戦闘を完璧に分析した()()では、彼ら二人を止めることなどできなかった。

 

「だーっ! やっと追いついた! ナンジャモさん、状況説明を求む!」

「遅いよマサル氏! もう全部終わっちゃったよ!」

 

 博士達のAIとの戦闘が終わったところでマサル氏とダイゴ氏がやってきた。ほんとに二人であの数のパラドックスポケモン達をどうにかしちゃったんだね。

 

 マサル氏達にここまでの流れをざっくり説明して視線を台座の方へ戻すと、いつの間にか台座が元の位置に戻っていた。だけど、博士達のAIは膝をついたまま時折体を震わせているだけ。……あれ大丈夫なの?

 

「今マで、ありがトう。ようヤく、タいムマシんヲ、彼らノ、意思ヲ、止めルこトが、デきタ」

 

 そこで、博士達のAIがゆっくりと立ち上がる。だけどその体は不自然に震えていた。

 

「あア、コんナにも、大キく、育ッて……クれて、嬉しい。ワたシ達の……さミしイ、思い、今マで、すマナい さセて、ペ───」

 

 それは一体()の言葉だったのか。AIなのか……博士達の愛情がそんな(ことわり)を乗り越えたのか。それとも───

 

『セキュリティに異常発生。セキュリティに異常発生。タイムマシンが危険にさらされています。タイムマシンが危険にさらされています』

 

 瞬間、先程と同じ警告音の後、どこからともなく機械音声が鳴り響き、結晶が()()()()輝き始めた。

 

 ちょ!? 二人のAIにバトルで勝てば終わるんじゃなかったの!?

 

「こレは……まさカ……!?」

 

 うおい!! 二人にとっても想定外なんかい!?

 

『タイムマシンの活動に障害が発生しています。障害を取り除くため楽園防衛プログラムを起動します』

「こレは……!? 博士はどうシてモ、たいムましンを止めたク、ないノ、か!?」

 

 おいおいおいおい!! なんじゃその『楽園防衛プログラム』って!? 絶対ろくなもんじゃないだろ!! おい!!

 

 そして次の瞬間、僕達ポケモントレーナーにとって()()()()()()()()()言葉が告げられた。

 

 

 

 

 

 

『オーリム、フトゥーIDを除く()()()()()()()()()()()()()()()します』

 

 

 

 

 

 

 ……はい?

 

 い、いいいいいいいい今なんて言ったこの野郎!?

 

「ぼ、ボールが使えない!? これじゃ戦えないよ!」

「わっわっ! 変な電波で妨害されとる! ハッキングでも解除できん!」

「ズリィ……! これが大人のやることかよ!」

 

 ボタちゃん氏達がボールからポケモン達を呼び出そうとするも、ボールは全く反応してくれなかった。もしかしなくても僕のボールも!? タイカイデン! マルマイン! ハラバリー! レントラー! エレキブル! ムウマージ!

 

 だ、だめだ誰も答えてくれない!

 

「すマない……君達でハ、不可能ダ……に、逃ゲて、クレ……」

 

 悲痛な表情で博士達のAIが僕達に向かって手を伸ばす。彼らの足元が……いや、彼らの身体が結晶に侵食されている!?

 

 そこでふと、僕は気付いた。さっき、「オーリム、フトゥーIDを除く全てのモンスターボール」ってアナウンスがあったよね? つまり、つまりだ……。モンスターボールをロックされたのは僕達だけであって───

 

「あいつら!?」

「さっきウチらに襲い掛かってきたコライドンとミライドン!?」

 

 そう。博士達のAIは何の問題もなくボールを使えるんだ。

 

 ちょっと待てい! この二体って確かめっちゃ凶暴な個体って話だったよね!? ポケモンを呼び出せない僕達じゃどうにもできないよ!

 

「ハルト」

「うん。わかってるよアオイ」

 

 そんな絶望的な状況にもかかわらず、アオイ氏とハルト氏の二人は真っ直ぐに前を見据えコライドンとミライドンの前に立ちはだかった。

 

「あ、危ないよ二人とも! 早く下がって!」

「あたし達は大丈夫ですよナンジャモさん。だって───」

「僕らには───この子達がいる」

 

 二人が取り出したのは、一つのモンスターボール。博士達のID以外は使えないはずのモンスターボール。

 

 だけど二人は、迷いなく。

 

 迷いなく、そのボールを。

 

 そして。

 

 

 

 

「おいで、コライドン」

「来るんだ、ミライドン」

 

 

 

 

 モンスターボールが()()し、現れたのは、もう一体のコライドンとミライドン。

 

 そうか! 元々コライドンとミライドンは博士達が捕まえたポケモン……つまり、あのモンスターボールは博士達のIDが登録されているから起動できたんだ!

 

「行っておいで。コライドン、ミライドン」

「僕らは君達を信じている」

 

 コライドンとミライドンが振り返り。

 

「お前には力がある! 俺達もついてる! だから……あんなヤツらに負けんな! 勇気を出して立ち向かってこい!!」

 

 ペパー氏の激を受け、コライドンとミライドンは頷き、力強く、どこまでも力強い雄叫びを上げた。

 

「これがコライドンとミライドンのバトルフォルム……普段は大型犬みたいでウチを舐め回してたのに」

「いっけー! コライドン、ミライドン! 全部終わったら私とも戦ってー!」

 

 ネモ氏がなんか変なこと言ってるけど……とにかくこれで数は互角だ。いや、アオイ氏とハルト氏がついているならこっちが負ける道理なんてない! 

 

 この戦い、我々のしょ───

 

『新たな障害を検知。防衛プログラム、第二フェーズに移行します』

 

 無機質で残酷な機械音声が再び響き渡った。

 

 第二フェーズってなんだよ!?

 

 そう思ったのも束の間、僕達の後方にある結晶の壁が一部開き、その中からパラドックスポケモン達がわらわらと飛び出してきた。その数は……さっき集団で襲い掛かって来た時と同じくらいかそれ以上!?

 

 ちょいちょいちょい! ちょい待たんかい! それは反則だろおい! コライドンとミライドンの登場で逆転勝利の流れだったろ!

 

「ナンジャモさん、俺の後ろに」

「マ、マサル氏……」

 

 最後尾にいた僕を庇うようにマサル氏が前に出る。気持ちは嬉しいけど、いくらマサル氏でも……ポケモンを呼び出せない状況であの数のパラドックスポケモンはどうにもできないよ……。

 

「ど、どうしようマサル氏……」

「大丈夫。あとは俺が……()()がなんとかします」

 

 マサル氏は安心させるように僕に笑いかけ、さらに一歩前に出る。

 

 なんで……なんで君はこんな絶望的な状況なのにそんな顔ができるんだ。

 

 僕の心情なんて知りもしないで、彼は一つのボールを取り出した。

 

 あのボールは……。

 

「ムだダ……少年。いクら君ガ、ガラルの英雄といエど……いくラそレが、()()()()()()()といえド……()()()()()でモなけレバ───」

 

 

 

 

 

 

「来い───()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 マスターボールが()()()()

 

 現れたのは、体長二十メートルにも及ぶ巨体を持つドラゴンポケモン。

 

 ガラル地方でブラックナイトを引き起こしたと言われる、厄災の象徴。

 

「これは、この世で最も偉大なポケモントレーナーから託された、正真正銘()()()()()()マスターボール。俺がオリジナルを持っている可能性を()()()()()()()()()みたいだな」

 

 マサル氏の視線が、真っ直ぐに博士達のAIを射抜く。その言葉を、マサル氏の言葉を聞いて、博士達のAIは穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「そう、カ。君ハ、僕達ニ……パルデア最高峰の頭脳ヲ持つAIニ、()()()()ダといウ現実ヲ突き付けルのか……」

 

 こんな危機的な状況にもかかわらず、博士達のAIは嬉しそうに、どこか安心したように笑っている。

 

「頼ム……僕達ヲ……防衛プログラムを、止メて、くレ……」

 

 マサル氏は頷き、アオイ氏とハルト氏に背を向ける。

 

「アオイ、ハルト。後ろは心配すんな。そっちは()()()。好きにやれ」

 

 マサル氏の言葉に、二人が力強く返事をした。

 

「コライドン、ミライドン。現在(いま)がその時だ。過去を乗り越え、未来をその手で掴み取ってこい!」

 

 マサル氏の言葉に、二体が力強く返事をした。

 

「ムゲンダイナ」

 

 そしてマサル氏は、驚くくらいに優しい声で、ムゲンダイナを呼ぶ。

 

「お前の力は、壊すためのものでも、傷つけるためのものでもない。大切な誰かを守るための力だ」

 

 ムゲンダイナの顔を優しく撫でながら、マサル氏は言う。

 

「さあ行こう。みんなを守るために、お前の力を貸してくれ」

 

 ムゲンダイナを伴って、マサル氏は一歩一歩進んでいく。

 

 いくらムゲンダイナが強いとはいえ、相手は十や二十では済まない数のパラドックスポケモン。普通なら絶対に勝てないはずの戦いだ。

 

 だけど。

 

 だけど。

 

 だけど。

 

 なんで僕は、こんなにもマサル氏の背中に安堵を覚えてしまうのだろう。

 

 なんで僕は、こんなにもマサル氏のことを信頼してしまえるのだろう。

 

 なんで僕は、こんなにもマサル氏の存在に心が高鳴ってしまうのだろう。

 

「止まれ」

 

 さっきまでの穏やかで優しさを感じる声じゃない。お腹の底にズンと響くような圧のある声。

 

 その声に気圧されたのか、パラドックスポケモン達の群れが、()()()()()

 

「お前達の領域に土足で足を踏み入れたことは謝る。人間の勝手な都合でこんな状況になっちまったことも謝る。だけど決して、お前達と争いに来たわけじゃない。ただ、こっちにも絶対に譲れない事情ってもんがあったんだ」

 

 マサル氏の背中から、思わず膝をついてしまいそうな、思わず後ずさってしまいそうな圧を感じる。

 

 後ろで守られている僕達でさえ()()なんだ。マサル氏と向かい合っているパラドックスポケモン達は一体どれほどの……。

 

「繰り返す。俺達はお前達と争いたいわけじゃない」

 

 これが、ガラルの英雄……。

 

 いや、違う。

 

「だがそれでも」 

 

 これが……。

 

「それでも俺達に向かってくるっつーんなら」

 

 これが……!!

 

 

 

「お前達がどれだけの過去からやって来たポケモンだろうが、どれだけの未来からやって来たポケモンだろうが」

 

 

 

 頂点に至る器の持ち主。

 

 

 

「ガラル()()()()()()()()()を、その身で味わってもらうことになるぞ」

 

 

 

 ポケモントレーナーマサル。

 

 

 

「さあ、どうする?」




 というわけでエリアゼロはこれで攻略完了です。後は原作と同じ流れです。さすがにマサルとダイゴさんでもオーリム、フトゥーAIの結末は変えられません。

 ダイゴさんさえいなければナンジャモがマサルと背中合わせで共闘してパラドックスポケモンを倒しつつひろいんぢからを稼いでました。が、そうはならず! おのれツワブキ!

 で、SVをプレイしててかなり衝撃だったのがモンスターボールロックというポケスペ並みの禁じ手。

 だけどマサルには通用しません。レッドさんから貰った世界で最初のマスターボールをロックできるわけないだろ!! という理屈もクソもないご都合主義です。でも納得できる屁理屈だと思います。

 余談ですが、ダイゴさんはボールロックされていても特に焦ることなく腕を組んでマサルの後方支援者面してました。デボンコーポレーションの御曹司だからダイゴさんもボールロックへの対抗策を持っていてもおかしくないですね。

 さてさて、想定以上にパルデア編が長くなったので、次回で絶対に完結させます。

 はたしてナンジャモは無事にヒロインの座を掴み取ることができるのか!?

 ちなみに他のif√でもマサルはエリアゼロでナンジャモに対してあれだけのムーブをぶちかましますが、諸々解決したらさっさとカロスに行ってしまいます。

 そりゃあカナリィ√のオチでナンジャモもああなりますよね。

 ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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