和泉元エイミの活動記録   作:有馬Hidden

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ヒマリ誕に投稿しようとしてた作品ですが、やめました

投稿期間が開きましたが、あらすじにもあるように各話は別世界線なので覚えていなくても問題ありません。

しかし、今回は人を選ぶ内容です
気分が悪くなったら、読むのを中断し、外の空気を吸ってブルアカでもしてきてください

あと、もしかしたら『R-18』タグ付けろって言われるかもしれないので、そうなったらPixiv限定公開にします

まあ、そういう感じ
朝の通勤時間に読むものではないよ


【注意】
本作品には未成年の飲酒行為を想起させる描写がありますが、作劇上の演出であり、未成年の飲酒行為を示唆・助長するものではありません。


どろどろ

 どろどろ。それは主に状態を表す言葉。泥や液体が混じり合い、濃くて粘り気のある状態を表現する擬音語だ。また、そのイメージが人間関係の複雑さを連想させ、「ドロドロな関係」のように転用されることもある。

 

 泥沼にハマってしまえば、いくら藻掻いても沈んでいってしまうように、人間も一度どろどろになればもう元には戻らないのだ。

 

 でも、それはもしかしたら幸せなことなのかもしれない。

 

 __判断するのは、周囲ではなく本人だから

 

 

 

 

  

美食研究会@EATorDIEOfficial

投稿!今回はミレニアムのお店にお邪魔しました!

↓↓↓動画はこちらから↓↓↓

【超濃厚】ドロドロスープが麺に絡み過ぎて食べられない!?ミレニアムの知る人ぞ知る名店をレビュー!! 千年麺所【美食研究会】

https://www.bluetube.com/watch?v=XXXXXXXXXXXXX

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モモイ@Game_momo

怒りの天井到達

【爆死している画像】

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モモイ@Game_momo

もぉーっ!!!!同じキャラ被りすぎ!!!!!

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ミドリ@Game_momo

ミドリだ。シナリオの進捗を教えてもらおう

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モモイ@Game_momo

知らんな

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ユウカ@Yuka_ML

モモイ?今月はもう課金しないって言ってなかった?

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モモイ@Game_momo

経費です

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ノア@Noa_ML

これはリーク情報ですがユウカちゃんがそっち行きました

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ユズ@Game_yuzu

今夜は修羅場(いろんな意味で)

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肥満なA(仮)@HimanA_kari

あなたがドロドロになるまで我慢

まだ煮込んでいる途中、食べるには早い

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アーマードあすま@AsmoredTK

暇すぎてヒマリになってる

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えいみ@Eimi_Zumizumi

暑い

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 和泉元エイミは、電車に揺られていた。

 移動時間の間は特にすることもないので、だらだらとSNSのタイムラインを眺めて時間を消費する。

 

 

 

 毎日毎日、同じような日常の繰り返し。

 

 どこかで誰かが喜び、どこかで誰かが怒り、どこかで誰かが何かを作り、どこかで誰かが何かを消費する。ここに住む人々のいつも通りの日常。

 

 この世界に生きるありとあらゆる存在は、その日常をただ消費するだけの存在。彼らは日常に非日常というスパイスを加えて飽きが来ないように味を調えている。

 

 これが和泉元エイミの生きる世界なのだ。

 

 いや、和泉元エイミの日常に添えられる『スパイス』は少し刺激が強すぎるかもしれない。

 

 特異現象。非日常の塊みたいな存在。そのスパイスはいつだって、彼女のすぐ傍にあるのだ。

 

 

 

 

『次は第二商店街前、第二商店街前。お出口は右側のドア……』

「エイミ、次の駅で降りますよ」

「分かった」

 

 明星ヒマリは、エイミに声をかけた。

 それを聞いたエイミは、スマホを閉じ、ポケットにしまって降りる用意を始める。

 

 ヒマリは車椅子を使って活動しているため、降りるのに少し時間がかかってしまう。そのため電車や駅ではエイミが抱き抱えて移動し、開けた場所に出たら折り畳み式の車椅子を使って移動するようにしているのだ。

 

 

 

 特異現象捜査部の二人は、久しぶりのオフなので百鬼夜行へと遊びに来ていた。

 

 ヒマリが前々から観てみたかった百鬼夜行の伝統芸能作品の鑑賞チケットを二枚用意して、エイミを誘ったのだ。常に一緒に行動している二人ではあるのだが、こうして『日常』から『非日常』へと飛び出すと、また違った趣があるというものである。

 

 電車から降りたエイミが、五感で感じ取った百鬼夜行の空気は、やはりいつも過ごしているミレニアムの空気とは全然違っていた。

 

 ミレニアムの空気は、どこか人工的。百鬼夜行の空気は、どこか自然的。

 

 このどちらにも共通していることだが、この空間は生きている。百鬼夜行に生きる人々にとってはこの空気こそが『日常』であり、ミレニアムが『非日常』なのだ。

 

 そう、特異現象捜査部の二人は『非日常』を求めてこの場所へやってきたのだが、百鬼夜行の人々にとってはエイミたちの存在こそが代わり映えしない日常に降り注ぐスパイス、『非日常』である。

 

「ねぇねぇ!これなあに~?」

「かっこいい~!」

「気になる~!」

 

 そんなスパイスを味わいにきた『3人の幼い子供』が車椅子を広げているエイミの周りを取り囲んだ。

 

「これは車椅子ですよ。これがあれば私は移動がうんと楽になるんです」

「へぇ~」

「見たことなーい」

 

 エイミは、子供たちの相手をしているヒマリの様子を見守りながら車椅子を組み立てていく。ミレニアムの英知が詰まった車椅子は、小さく折りたためるがあっという間に展開できる。それでいて安定感が抜群なのだ。

 

「すごーい!」

 

 それを見た子供たちは目をキラキラと輝かせていた。やはり、子供いうものはこういったものに心惹かれてしまうものなのかもしれない。

 

「できたよ。ごめんね、ちょっと離れてて」

「「「はーい」」」

 

 そんな非日常を味わいつくしている子供たちは素直にエイミの言うことを聞いて、楽しそうに笑いながら眺めている。

 

「じゃあね~お姉ちゃんたち!」

「またあとで!」

「いっぱい遊ぼうね~!」

 

 エイミは、ヒマリを車いすに座らせ、改札をくぐった。改札の向こうでは子供たちが手を振っている。

 

「ふふふ……流石は私の手がけたミレニアムの最新式車椅子ということでしょうか。あの子たちも興味津々でしたよ」

「そうだね、もしかしたら将来はミレニアムの生徒かも」

「そしたら、私たちは偉大なOGとしてちょっかいかけに行きましょうか」

「……その時にはもう覚えてないんじゃない?」

 

 そんな他愛もない会話をしながら駅を後にし、二人は百鬼夜行の街並みへと繰り出した。目的の演劇が始まるまではまだかなりの時間がある。それまでに、百鬼夜行の『日常』が入り混じった『非日常』を存分に味わうのだ。

 

 前もって調べていたカフェで昼食を摂り、二人は百鬼夜行の街並みを練り歩く。撮影スポットでツーショット写真を撮り、気になる店に入っては商品を物色する。露店で売っていたドリンクを二人して飲み歩き、百鬼夜行の非日常を味わいつくしていた。

 

 それは世間一般から見たら『デ』の字で始まるやつではあるのだが、本人たちはそんなことを欠片も考えていない。二人は一緒にいるのが当たり前の『日常』であり、『非日常』ではないのだ。

 

 

 

 

 

『私はあなたと永遠に一緒にいることに決めました!』

 

 暗く静まり返った劇場に、舞台上の役者のセリフが澄んだ声で響き渡る。

 

 エイミとヒマリは、中央の席でその舞台を鑑賞していた。舞台全体がよく見える、遠すぎず近すぎない席、それはまさに特等席といった感じだ。

 

 舞台上では、百鬼夜行の伝統芸能が繰り広げられている。

 

 演目は、風光明媚な小さい村を舞台にした三人の女たちの愛憎劇。古風な装飾に伝統的な衣装、陰影を効果的に操る照明。琴や尺八の生演奏が情緒を深め、幽玄な美しさと不穏な緊張感を漂わせていた。

 

 エイミとヒマリの日常とはかけ離れた世界。その非日常が、二人を舞台の物語へと深く引き込んでいく。

 

『あんたがいたから……ッ!そのせいで何もかも!!』

『哀れねぇ、化けて出てきてもその程度のことしか言えないなんて。だから私に全部奪われちゃったのよ』

 

 舞台の中心に立つ三人の女たち。彼女たちの愛と裏切り、怨霊と化すほどの嫉妬と憎悪が複雑に絡み合う。

 

 愛と憎しみが交錯する中、怨霊として現れた過去の傷と、浄化へ向かう物語が紡がれる。

 

 この演目は単なる悲劇ではない。

 人の心がいかに愛に救われ、また憎しみによって狂わされるか、その深淵を描き出していた。

 

『ぎぃやああぁぁぁあああああぁぁああああ!!』

『これで……終わり……何もかも……ようやく……』

 

 怨霊に矢が突き立てられると、血の代わりに赤い花びらが舞い散る。クライマックスの幕引きだ。

 

『幸せですよ……私は。これで終わりかもしれませんが、一緒になれたから……』

 

 静寂が訪れ、ゆっくりと幕が降りる。劇が終わった。

 

 それは少なくとも観客から見ればハッピーエンドではない。しかし、物語の中の彼女たちにとっては救いのある結末だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「すごかったですねぇ……やっぱり見に来て良かったです」

「そうだね」

 

 エイミとヒマリは、再び電車に乗っていた。

 

 傾いた夕日が差し込み、車内をオレンジ色に染め上げている。

 

『トキ:どうだった?』

 

 ガラガラの車両の座席に座っていると、エイミのスマホにトキからメッセージが届いた。

 

『エイミ:面白かった。王道って感じ』

『トキ:部長とはどんな感じですか』

 

 どんな感じとは、どんな感じだろうか。

 別に、いつも通り。

 

 日常の延長線上の、非日常を過ごしただけだ。

 

『エイミ:?』

『エイミ:いつも通りだけど』

『トキ:(そうですかと言いながらため息をついているウサギのスタンプ)』

 

 エイミはトキへの返信を終えて、スマホを閉じた。

 

「……何を聞きたかったんだろう」

 

 エイミには、トキが何を聞きたかったのか、分からなかった。

 

 

 

「わーい!わーい!」

「キャッキャッ」

 

 電車の走る音に子供のはしゃいでいる声が混じって聞こえてくる。

 

「……注意した方が良いかな」

 

 エイミは彼女たちに聞こえないように小声でヒマリに言った。

 

 正直に言うと、少しうるさい。

 

「まあ、いいじゃないですか。私たちしかいませんし」

 

 車いす専用スペースに車椅子を固定したヒマリは、車両内を見回しながら答えた。

 

 休日だというのに、乗客はエイミとヒマリとはしゃいでいる3人の子供しかいない。

 

 まあ、そういうこともあるか、とエイミは納得した。

 

「危ないことをしているわけではないですし……他の乗客が来たら注意しましょうか」

「そうだね」

 

 エイミは、再び携帯を取り出し、SNSのタイムラインの激流に身を委ねるのだった。

 

 

 

アーマードあすま@AsmoredTK

抱けぇっ!!抱けっ!!抱けーっ!!抱けーっ!!(鉄格子越しに叫んでいる)

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アーマードあすま@AsmoredTK

おいアホ

ひき肉にするぞ(暴言)

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アーマードあすま@AsmoredTK

ンーwwwwwwww(暴言を吐いてしまったのでペラペラになって吹っ飛び座敷牢に封印されている)

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ちっひー(趣味用)@Chi_Chang 

今日の晩御飯はハンバーグです(何かを見た)

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小塗マキ【個展12/1~】@MAKICHAN_Art

わぁい

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腫れ@HareeeeeeV

おお

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アマトック・エソト@amatok_esoto

なにが「おお」だよ

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「……ん」

 

 エイミは、相変わらず何を言っているのか分からないヴェリタスやトキのやり取りを眺めていると、肩に重量がかかるのを感じた。

 

「すぅ……」

 

 いつの間にか、ヒマリは眠りにつき、エイミの肩に身を委ねている。その寝顔は穏やかで、幸せな微笑みを浮かべていた。

 

「まあ、今日は色々あったからね」

 

 きっと、疲れてしまったのだろう。久しぶりのオフではしゃいでいたし、仕方のないことかもしれない。

 

 エイミは、ヒマリが寝違えないよう、抱き寄せてしっかり支えた。

 

「……今日はありがと」

 

 今日はヒマリが何もかも決めて案内してくれた。いや、いつものことか。

 

 そんな日常への感謝の言葉をエイミは静かに伝えた。

 

「んふふ……」

 

 それが聞こえていたのか聞こえていなかったのかは分からないが、応えるようにヒマリは笑った。

 

 幸せな夢を見ているのかもしれない。

 

 自宅でも部室でもない場所で、他人にその身を委ねている。それはエイミを信頼している証でもあった。

 

 身を委ねられるエイミがいつもそばにいてくれる。そんな日常こそが、ヒマリにとっての幸福であり、それと同時に身を委ねてくれるヒマリがいることが、エイミにとっての幸福でもあるのだ。

 

「ふぁ……」

 

 エイミが、ヒマリの寝顔を眺めていると欠伸が出てしまった。眠気が移ってしまったのかもしれない。

 

 だんだんと目蓋が重くなってくる。

 

 __ああ、これは逆らえないやつだ。

 

 エイミは抵抗を早々に諦めた。まあ、自分たち以外に乗客は少ししか居ないし、降りる駅に着くまでには2時間かかる。

 

 電車の中なのだからそれまでには起きれるだろう。

 

 だんだんと、視界がボヤけ、白く染まってきた。

 

 もう、長くは持たない。

 

 

 

 エイミが目蓋を閉じようとした時、ふと、自分たちのちょうど向かい側の座席に誰かが座っていることに気がついた。

 

 同じ車両に乗っていた3人の子供が、向かい側の座席に座ってこちらをジッと観察している。先ほどまでの騒がしさが一切無い。

 

 

 

 いや待て、見覚えがある。

 

 この子達はちょっと前に車椅子に群がってきた3人組ではないだろうか。

 

 そう、考えたが、エイミの意識が落ちていく方が早かった。

 

 

 

「……では、遊びましょうか」

「約束したしね〜」

「わざわざここまで来たんだし」

 

 

 

 エイミの『日常』は、常に特異現象という『非日常』と隣り合わせであり、少しの隙さえあれば『日常』に入り込まれてしまう。

 

 __可哀想だが、これがこの世界の『日常』なのだ。

 

――

 

『トキ:ヒマリ部長とエイミが帰ってきません』

『トキ:連絡も取れません』

『トキ:何か知りませんか』

『先生:いや、知らないけど……』

『トキ:ヴェリタス曰く』

『トキ:位置情報が百鬼夜行の廃線になった線路上を移動している最中に突然消えている』

『トキ:とのこと』

『先生:えっと』

『先生:もしかして』

『先生:かなりまずい?』

『トキ:はい』

『トキ:今からミレニアムまで来れますか』

『先生:すぐ行く』

 

――

 

「……ミ……」

 

 誰かが、遠くから自分を呼んでいる。

 

「エイミ、起きてください!」

 

 __ヒマリの声だ。

 

 その声でようやく意識が浮上する。

 

「ん……もう着いたの?」

 

 エイミは、まだ眠気を訴える頭を無理やり起こし、重たいまぶたを開けた。視界に飛び込んできたのは、今にも泣き出しそうなヒマリの顔だった。

 

 あたりは静まり返っていて、外は漆黒の闇に包まれている。

 

「もしかして、終点まで寝過ごしちゃった?」

 

 そんな冗談めいた言葉を口にしながら、エイミは周囲を見回した。

 

「違います!それどころじゃないんです!」

 

 ヒマリの声には焦りと怯えが滲んでいた。

 

 そこは、電車の中でも駅でもなかった。

 

 古びた廃棄物の山があちこちに積み上がり、金属の錆びた臭いが鼻を突く。どこからか吹き込む冷たい風が、廃材を揺らしてギシギシと不気味な音を立てていた。人影どころか、生物の気配すら一切ない。

 

「……は?」

 

 エイミの頭が状況を理解するのを拒む。

 

 二人は見覚えのない、不気味で異様な場所に放り出されていた。

 

――

 

ハイランダー鉄道学園 報告書

件名: 百鬼夜行連合学院第二商店街前駅 X番ホームへの正体不明車両侵入について

作成日: 20XX年XX月XX日

作成者: ハイランダー鉄道学園 調査部

 

概要

20XX年XX月XX日、午後XX時XX分ごろ、百鬼夜行連合学院第二商店街前駅のX番ホームに、通常の運行ダイヤには記載されていない正体不明の車両が侵入するという異常事態が発生した。

 

 

 

詳細状況

1.車両侵入発覚の経緯

・当該車両は、ホーム内監視カメラに記録されていた映像によると「白色の外装」と「ガラスが曇っていて内部の状況が確認できない」という外観的特徴を有していた。なお、本学園が所有する車両に一致する特徴を持つ車両は存在しない。

・到着後約3分間、X番ホームに停車し、後述する2名の生徒が乗りこむと音もなく発車。

・この約3分間、駅職員及び利用客が異常を察知することはなく、不審車両の発車後、隣接するX番ホームに停車しようとしていた車両の車掌が、不審な車両として報告したことで発覚。

・発車後の記録は一切残っていない。

 

2.乗車した人物

・ホームで電車を待機していた乗客2名が当該車両に乗車したことが確認されている。

 ・乗客A:学生、制服からしておそらくミレニアム所属、ピンク髪、露出の激しい服装。

 ・乗客B:学生、白髪、車椅子を使用。

・乗車の動機や経緯、その後の行方は現時点では不明。

 

3.その他の状況

・現時点では車両内に他の乗客がいたかは確認できていない。

・駅構内および周辺の監視カメラには、車両の映像が一部記録されていたが、機器の一部に謎のノイズが発生し、完全な記録が得られていない。

【追記】

・映像記録が消失、修復不可能な状態に。原因不明な現象であり、外部からの攻撃を受けている可能性が指摘されている。

 

 

 

現在の対応状況

1.列車の正体についての捜査

・ハイランダー鉄道学園調査部は、車両の進路および発着地についての情報収集を実施中。

・地元の鉄道運行管理システムと過去の異常事例との照合を行っている。

 

2.乗客の行方調査

・目撃者からの証言収集を進行中です。

・百鬼夜行連合学院の協力を得て、行方不明となった乗客2名の身元特定と捜索活動を実施している。

 

3.安全対策の強化

・当駅および近隣の駅で、正体不明車両侵入を防ぐためのセキュリティシステムの再点検を実施予定。

・不審な事象が再発した場合の対応マニュアルの作成に着手。

 

 

 

今後の予定

調査継続:捜査部および学院関係者間での情報共有を強化し、正体不明車両と乗客の行方に関する手がかりを追跡。

報告:調査進展があった場合、随時報告書を更新予定。

 

 

 

備考

今回の事案は異例かつ未解決の要素が多いため、関係各所との緊密な連携が求められます。調査終了までの間、該当駅をご利用される方々には十分な注意喚起を行う予定です。

 

 

 

以上

 

ハイランダー鉄道学園 調査部

 

――

 

「さて……どうするか」

 

 エイミは周囲を慎重に調べていた。

 どうやらここは廃材が山積みにされた廃棄場のようだ。だが、ここがキヴォトスのどのあたりなのか、全く見当もつかない。

 

 そもそも、どうして自分がこんな場所にいるのか、その理由すら分からないのだ。

 

 手に拾った鉄パイプを握りしめながら、エイミは肩をすくめた。鉄パイプは護身用としては十分なのだがヒマリを連れている以上、銃社会のこのキヴォトスでまともに戦うのは厳しいだろう。

 

 もっとも、ヒマリさえいなければ話は別だ。自分ひとりなら、武器がなくても何とかできるという自信がある。だが、今はヒマリを守ることが最優先だ。

 

 大した手がかりも得られず、エイミはヒマリを待たせている場所へと引き返した。

 

「部長、何か分かった?」

「いえ……せめて手がかりになるような持ち物があれば良かったのですが……」

 

 二人はお揃いの病院着のような服を着ているだけで、他には何一つ所持品がなかった。

 

 銃も財布も携帯も、ヒマリの車椅子すら見当たらない。

 

 いつも冷静で頼りになるヒマリだが、こんな状況では彼女にできることはほとんどない。だからこそ、エイミは彼女のそばを離れないようにしている。

 

「状況から考えると、私たちは電車で眠っている間に誰かに拉致されて、ここに捨てられた……そんなところでしょうか」

「うーん……」

 

 推測としては筋が通っているが、不自然な点が多すぎる。

 

 まず、どうして途中で目が覚めなかったのか。そして、何故こんな妙な服を着せられているのか。身ぐるみを剥がすような連中なら、もっと雑な扱いをするはずだ。こんな風に服を着せ直すなんて、普通はありえない。

 

 だが、考え込んでいても仕方がない。とにかく、誰か人のいる場所を目指すしかなかった。

 

「とりあえず、誰かいないか探そうか」

「そうですね」

 

 エイミは、ヒマリを背中に背負った。

 

「ふふふ……」

「……何笑ってるのさ、こんな状況で」

「いえ、こんな状況だからこそ、エイミの背中がとっても頼もしく感じられて」

 

 ヒマリは、優しくエイミの広い背中を撫でる。

 

「あったかくて、安心します」

「……そう。それなら、ちゃんと掴まっててね」

「もちろん!」

 

 エイミは、唇を引き締めて決意を胸に刻んだ。絶対にヒマリを無事に送り届ける。

 

 __たとえ、自分がどうなってしまっても、絶対に

 

 

 

 

 

 エイミは、空を見上げた。空には満月が見え隠れしている。高さからしておそらく22時から23時といったところだろう。

 

 歩くこと1時間弱、廃棄場のような脱出できたのだが、相変わらず人の気配はないし、ここがどこだか分からない。

 

 そんな一抹の不安が胸中に芽生えてしまったせいか、妙に足取りが重い。しかし、ヒマリをミレニアムまで送り届けるにはまだまだ歩くことになりそうで、エイミは少しだけ気合を入れた。

 

「ねぇ、部長」

「どうしましたか?」 

「そういえば、部長って奥歯に発信機仕込んでなかった?それでチヒロ先輩にSOSを送れないの?」

 

 明星ヒマリは、体の弱い生徒だ。今でこそこうしてエイミとともに活動できているものの、突然動けなくなってしまう可能性や、不得意な戦闘などの危険な事態に巻き込まれてしまうことだってあるだろう。

 

 そういった事態への備えとして、ヒマリは自身の奥歯に発信機を仕込んでいるのだ。位置情報は常にエイミとチヒロへと送信されており、緊急時には特定の動作をすることでSOS信号を送ることだって可能なのだ。

 

 なのだが、

 

「そのことなんですが……どうやら発信機も取り外されてしまったようでして……」

「はぁ?」

 

 自分たちをこんな目に合わせた奴らは、どうやら何もかも奪っていってしまったらしい。ヒマリの口内まで調べつくすとは何とも許しがたい、その事実にエイミはいら立ちを隠せなかった。見つけ出したら絶対ボコボコにする。そう決意した。

 

「……エイミ、私の心配をしてくれるのは嬉しいですが、そんなに怖い顔をしないでください。せっかくの可愛いお顔が台無しですよ?」

「あ……ごめん」

 

 ヒマリの言葉にハッとしたエイミは顔を元に戻した。その顔をヒマリが優しく撫でていく。くすぐったい。

 

「私たちの身に何があったか、それは全く見当が付きませんが、とりあえず今は私たちが無事だったことを喜び、ミレニアムへ無事に帰る方法を考えましょう?」

「うん、そうだね」

「それに、私はエイミが一緒にいてくれるから安心できるんです」

 

 ヒマリは、エイミの耳元でそっと囁いた。

 

「……ありがと」

 

 その言葉で、妙に恥ずかしくなってしまったエイミだったが、誤魔化すように感謝の言葉を述べ、足を進めた。

 

「ふふっ、……では、とりあえず場所の特定をしましょうか。闇雲に歩くのは危険ですし」

「そうだね。あっちが少し丘みたいになってるから、移動してみようか?もしかしたら手掛かりになるものが見えるかもしれないし、誰か居そうな場所が見えるかもしれないしね」

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 エイミは、先ほど宣言した通りヒマリを背負って小さな丘を登っていた。

 

 周囲はすべて闇である。一寸先は闇、というほどではないが、街灯ひとつないこの世界では足元すらよく見えない。

 

 そもそも、エイミたちは明かりになるものを何も持ち合わせていなかったのだ。エイミは鍛えているので夜目がきくが、それでも危険なものは危険である。ヒマリを背負っていることを考えるとあまり行動したくない。

 

 しかし、エイミとしてはヒマリをこんな薄い布切れ一枚で、寒い夜空の下で夜を明かさせたくなかった。故に、こうしてヒマリを背中に乗せて温めながら、一刻も早く安全だと思える場所を探し回っているのだ。

 

 だが、幸いにも今夜は満月、月が雲の隙間から顔を出している間は月明かりでうっすらと地面の様子がわかった。

 

「あ!エイミ!向こうに光が見えますよ!もしかしたら街灯かもしれません!」

 

 さらにその暗さが幸いし、遠くに街灯らしき明かりがはっきりと確認できたのだ。それを発見したヒマリは上機嫌にはしゃいでいる。

 

「そう……だね……」

 

 だが、エイミは積み重なった疲労感で今にも倒れそうだった。持ち前の耐久力とヒマリへの気持ちで何とか耐えている。

 

「……エイミ?大丈夫ですか?」

「ごめん、ちょっと休む」

 

 エイミはヒマリをいい感じの倒木に座らせ、その横に腰かけた。

 

「はぁーっ……」

 

 大きく息を吐き出し、しばらく座り込んでしまう。

 

 変な汗が、エイミの頬を伝った。

 暑くて溶けそう、といった感じだ。いや、本当に溶けているかもしれない。そう思わせてしまうほどに、エイミの全身を謎の疲労感が蝕んでいた。

 

 少し頭がフラフラし、視界も若干揺れ動いている。今まで感じたことがないような気持ち悪さ、悪寒とも言えるような奇妙な暑さ。

 

 __これは、なんだ?

 

「……エイミ、大丈夫ですか?」

 

 エイミは、ここまでの不調を味わったことがなかった。

 

「大丈夫、ちょっと疲れただけだから……」

 

 気を張りつめすぎていたのかもしれない。この得体の知れない状況で、ヒマリを守らなければならないという責任感で、神経をすり減らしてしまったのかもしれない。

 

 とにかく、無性に休みたかった。だがしかし、ここで弱音を吐くわけにはいかない。

 

「横になりますか?私の素敵な膝、使っても良いんですよ?」

 

 ヒマリは、そんなエイミを心配したのか、自身の膝をぽんぽんと叩いて横になることを促した。

 

「……分かった」

 

 エイミはそれに素直に従い、横になってヒマリの膝に頭を乗せる。ヒマリの膝は、エイミと比べるとだいぶ貧相なものではあったが、それでも充分な柔らかさと安心感が、確かに存在していた。

 

 

 

「……ミレニアムの誇る偉大な清楚系美少女の膝を使っていいのは、エイミだけですよ。光栄に思ってください」

「うん……」

「……どうやら本当にお疲れのようですね、ゆっくり休んでください」

 

 ヒマリは、まともに返答できないほどに疲労しているエイミの頭を優しく撫ながら考えていた。

 

 __どうしてエイミはここまで疲れてしまっているのか

 

 エイミの普段の行動からして、ヒマリを背負ったまま一時間弱歩いたとしても、ここまでへばるようなことはないだろう。本人にバレないようにバイタルデータを常に記録し続けていたから間違いない。謎の状況であることを加味しても、だ。

 

 とすると眠っている間に何かされてしまったのかもしれない。この謎の服装からしてもそうであるとしか考えられなかった。

 

「もしかして、少々太ってしまったのでしょうか……?」

 

 だというのに、そんな結論しか出ない。いつもなら多少の情報さえあれば、たとえ間違っていたとしてもそれらしい結論を導き出せる聡明な頭脳は、どうやら今日は不調のようだ。

 

 結局のところ、ひとまずミレニアムに戻って何があったか確認するしかない。きっと、チヒロやトキは何かあったと思って既に動いていることだろう。

 

 ヒマリは、エイミを優しく撫でながら今後の方針を固めた。いつの間にか眠ってしまったのか、エイミにヘイローは無い。

 

「部長は……もうちょっと食べててくれた方が……安心……する……」

 

 エイミは寝言でそう呟いた。

 

「あらあら……」

 

 その寝言を聞いたヒマリは、思わず笑ってしまう。エイミがこんなことを口にするなんて珍しい。

 

「……では、無事に帰れたら一緒にご飯行きましょうね。好きなところに連れて行ってあげますよ」

 

 ヒマリが耳元でそっと囁いた言葉に、エイミは何も返さず、すうすうと可愛らしい寝息を立てるだけだった。

 

 

 

 

 

 

「すぅ……」

 

 和泉元エイミが目を覚ますと、清楚系美少女がこちらを覗き込んだ姿勢で眠っていた。ヘイローも無いので完全に眠っている。

 

 少し眠ったからか、謎の疲労感はほとんど消えていた。まだ僅かに残っているような気がするが、気になるほどではない。

 

「……ありがと」

 

 エイミは、自分をゆっくり寝かせてくれたヒマリに礼を言い、ヘイローが消えたままの彼女を背負って再び歩き出した。

 

「よし、行こっか」

 

 目的地は遠くに見える街灯らしき光。少なくとも現在地が特定できれば良し、泊めてくれる場所か公衆電話でもあればさらに良し。この訳の分からない旅路のゴールを目指すエイミの足取りは軽かった。

 

「んふふ……」

 

 それはヒマリが背中で幸せそうに眠っているからか、それとも文字通りの希望の光が見えているからか、はたまた単純にヒマリの膝枕でゆっくり体を休めたからか。

 

 いずれにせよ、エイミの心の中でヒマリを無事に送り届けるという思いが強固なものになったということに変わりはない。 

 

――

 

 深夜のミレニアム、普段なら学校全体が寝静まり、こんな時間まで作業するような生徒が数人だけ起きている時間帯。

 

 だが、この日はセミナー、C&C、ヴェリタスを始めとした普段の数倍の生徒が寝る間も惜しんで活動していた。理由は単純、突然姿を消してしまったエイミとヒマリの捜索である。

 

「ハレ、もう一本」

「私が言うのもなんだけど、そんなに続けて飲んだら……」

「うるさい」

「……はい」

 

 小鈎ハレは渋々各務チヒロに未開封のエナドリを渡す。それを受け取るとチヒロはすぐさま開封し、半分ほど飲み干した。

 

「チヒロ、無理したらダメだよ」

「大丈夫。慣れてる」

「……個人的にはあんまり慣れてほしくないんだけどなぁ」

「それ、先生が言えること?」

「…………」

 

 ハレと先生の心配は、チヒロには届いていない。だが、チヒロの心情はハレと先生、いやこの場にいる全員がよく分かっている。

 

「でも、そろそろ休んだら……」

「『でも』じゃない。エイミも一緒に消えてしまった以上、私しかヒマリのSOSを受け取れない」

「……そっか」

 

 チヒロのその言葉に、先生は何も言い返せなくなってしまった。ここまで強情になっている以上、何を言っても無駄。梃子でも動かない。

 

 ヴェリタスの現部長、各務チヒロは寝不足、不安、カフェインの過剰摂取などでかなり苛立っていた。

 

 チヒロは、自分でもかなり良くない状況なのは分かっていたが、それでも眠るわけにいかなかったのだ。

 

 ヒマリの位置情報が突然不可解な場所で消失し、そのまま連絡が付かなくなって既に3()0()()()()()経過している。その間一睡もせずにエイミとヒマリの捜索の指揮を執り続けていたチヒロは、既に心身ともに限界が近かった。

 

 気を抜いたら倒れてしまいそうな、そんな状態。

 

 チヒロ自身、30時間以上一睡もしないことはたびたびあったのだが、今回は精神的な負担が段違いである。その不安を紛らわすようにエナドリを何本も飲んでおり、いつもは注意するはずのハレが逆に心配してくるほど。

 

 現地で捜索を行っているC&Cやセミナーの面々からは今のところ大した報告もなく、百鬼やハイランダーなどには先生が問い合わせているが『何も分からない』の一点張り。

 

 そして、ヒマリとエイミが最後に確認された『第二商店街前駅』の監視カメラは映像が破損。現在ヴェリタスが修復、分析を行っているが何の成果もない。

 

「はぁ……」

 

 チヒロは溜息をついた。

 

 本当に、無事なのだろうか。何者かに襲われて、ひどい目にあっているんじゃないかという不安が次々と浮かんできてしまう。

 

 そもそも、今回の件はどう考えても『計画的』な犯行だ。

 

 ヒマリが体内に仕込んでいる発信機はその辺の発信機とは性能が段違いで、たとえどんな場所に居ようが居場所を送信できるように、ヒマリ自らが手掛けた逸品である。

 

 その信号が消失しているということは、ヒマリ自身が停止させたか、発信機を破壊するか、ヒマリを上回る技術力で妨害するか、『常識の通用しない空間』に入り込んでしまうかのどれかだ。そう、以前本人が言っていた。

 

 いずれにせよ、犯人はヒマリが発信機を仕込んでいることを知っていた。対策できているということはそういうことだ。もしかしたらたまたまターゲットがヒマリになってしまっただけなのかもしれないが、そんな相手がヒマリを上回る技術で発信を妨害できるとは到底思えない。

 

 それに、だ。

 

 常にヒマリの横にはエイミがいるはずである。そんな突発的な犯行でエイミを突破できるわけが無い。

 

 『ミレニアム最強』の称号とそれにふさわしい破壊力を持った美甘ネルや、リオ会長の懐刀である飛鳥馬トキ、あの光の剣を軽々と振り回す天童アリスなどなど、『分かりやすく強い生徒』の陰に隠れがちで世間ではあまり評価がそこまで高くないが、和泉元エイミという生徒の戦闘力も大概である。

 

 この件に関しては『特異現象捜査部』という存在が大っぴらにできるものではないのもあるのかもしれないが、エイミに関してはどう考ええても過小評価である。

 

 『派手な破壊力』という分かりやすいものを世間は強いとしがちだが、エイミは『防御』に関してはこのキヴォトスで右に出る者はそうそう居ないだろう。

 

 そもそも、チヒロの個人的な評価ではエイミが『ミレニアム最強』だった。正確には、『タイマンで小細工なしの殴り合いをするなら最強はエイミ』だが。

 

 というか、ヒマリを預けているのだから『最強』でないと逆に困る。

 

 “あの”リオがわざわざ特異現象捜査部という組織に“最初の”メンバーとして“指名”した“1年生”の生徒であり、ヒマリが部長となるまでは“1人で”調査を行っていたのだ。

 

 役割と名前が違うだけのC&Cと呼んでも過言ではないし、隠されなかった飛鳥馬トキと言っても差し支えない。

 

 そしてそこに明星ヒマリという『最強』のサポーターが加われば、まさに鬼に金棒。故にエイミはずっとヒマリのそばに居るべきであり、そのまま一生……

 

 いや、違う。話がズレすぎている。今はこんなことを考えている場合ではない。

 

 今考えるべきなのはエイミとヒマリがどうなっているかの心配であり、2人がどうすればくっつくのかなどではない。そういう話は某メイド部の誰かさんとするに限る。

 

 おそらく、睡眠不足やらなんやらで脳の回転がイマイチなのだろう。

 

「…………休むか」

 

 結局、今ここで頑張ってもすぐには見つからないだろう。それに一晩眠ったら乗り越えられなかった壁が、あっさり乗り越えられたなんてこともあるし、一旦休んだほうがかえって合理的かもしれない。

 

 チヒロは、そう決めて手元の端末を一度確認して目を閉じた。

 

 やはり、ある一点を指しているだけだった。

 

「ふぅ……」

 

 あわよくば、目が覚めたら位置情報が復活していないだろうか。チヒロは、そう期待しながら意識をゆっくり闇の底へと沈めていく。

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 消えたはずの位置情報は、とある自治区のある一点を指し示していた。

 

――

 

 

 ヒマリを背負ったまま、エイミは夜道を歩き続けていた、そのときだった。

 

「……!!」

 

 不意にエイミの視界が開けたのだ。

 

「アスファルト……道路か!」 

 

 長時間の移動の果てにようやく人工物を発見したエイミは、内心で小さく安堵した。

 

 暗がりの中でぼんやりと続く黒い道。これは間違いない、舗装された道路だ。ただ、表面はひび割れが目立ち、ミレニアムほど手入れが行き届いていないようだった。それでも、道なりに進んでいけば何かしらには辿り着けるだろうし、運が良ければ車だって通るかもしれない。

 

「ほら、部長。アスファルトだよ。誰かいる場所が近いかもしれない」

「すぅ……」

 

 背中のヒマリは相変わらず幸せそうな寝息を立てているヒマリにヘイローはない。耳元で囁いても反応がないところを見ると、まだ夢の中にいるようだ。

 

「ほんと、よく寝るなぁ……」

 

 そう判断したエイミは、背中で幸せそうに眠っているヒマリを起こさないように、小さく苦笑しつつも、道の発見にわずかな希望を抱き、歩みを進めた。

 

 

 

「……バス停か」

 

 舗装された道路、普段ならば人々が通るはずの道。

 その先に見えるのは誰もいない静かなバス停だった。錆びついたベンチと、時刻表がひっそりと添えられている。

 

 恐らくバスを待つために設置されたのであろうベンチは古びた塗装が剥がれ、周囲には雑草が生い茂っていた。その一角にヒマリを寝かせたエイミは、自身もその隣に腰を下ろし、疲労で鈍る頭を働かせながら、バス停に貼られた時刻表を見上げた。

 

「こんな時間にバスが走ってるわけないか。しかも、1日に4本だけだし……」

 

 呆れ半分、諦め半分のため息をつくエイミだったが、そもそも最初から期待してはいなかったので、すぐに思考を切り替えた。

 

「……■■自治区?聞いたこと……ないな」

 

 バス停に書かれていた運行情報からこの自治区と地名を確認できたのだ。だが、エイミには全く覚えがない名前だった。

 

 もしかしたら過去に見聞きしていたのかもしれないが、そうだとしても忘却の彼方にすぐさま旅立ってしまうような、そんな『ド』が付くほどのマイナーな自治区なのだろう。

 

 星の数ほど自治区が存在するこのキヴォトス。そのすべての名前を覚えておくのは常人には不可能である。

 

 __まあ、エイミの周囲にはそんな『常識外れの常識人』が2,3人いるのだが

 

「ねえ部長、■■自治区って分かる?」

 

 エイミは、そんな常識外れの常識人の1人であるヒマリに訊ねた。ヒマリが目を覚ませば、少しでも現在地や帰り道についてのヒントが得られるかもしれない。それにミレニアムやシャーレからどのぐらい離れているのか分かれば今後の行動方針が決められる。

 

 しかし、返事はない。

 

 

 

 

 

「ハァッ……!!ハァッ……‼︎」

「部長……!?」

 

 荒い呼吸。普段の落ち着きとは程遠い、苦しげな表情。

 

 エイミがヒマリから目を離している僅かな間に、ヒマリの体調が急激に悪化してしまっていた。

 

「エイミ……エイミ……」

「……大丈夫、私はここだよ」

 

 動揺しつつも、エイミはすぐにヒマリを抱きしめる。

 いつもなら医療技術開発部を呼んだり、薬を取りに走るところだが、今回はそうもいかない。

 

 エイミはヒマリを優しく抱きしめ、体を擦って温める。何も持ち物がない状態で訳の分からない場所に2人で放り出されてしまった今のエイミにはこれしかできなかった。

 

「エイミ……どこですか……?」

「目の前にいるよ。大丈夫だから」

 

 エイミが抱きしめていると、ヒマリも強く抱きしめ返してきた。

 

 こんな冬空の下、薄い布切れ1枚しかないような服で放り出されてしまえば、寒がりなヒマリがこうなってしまうのは予想できることだった。それに冷静に振る舞っているつもりのヒマリも、こんな訳の分からない状況で内心では不安だったのだろう。

 

「……落ち着いた?」

「はい……」

「良かった」

 

 数分間抱き合っていると、ヒマリの呼吸はだんだん落ち着いてきたようで、苦しげだった表情も和らいでいく。それを見てエイミは安堵の笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさい、ちょっと寒くて……そして……不安で……」

「大丈夫。部長が無事ならそれでいい」 

 

 ヒマリの背中を優しく擦りながら、エイミは改めて周囲を見回した。

 

 どこかにヒマリの体を温められるような場所があればよかったのだが、そんな場所は全くない。

 

 アスファルトと、豊かな自然と、寂れたバス停。これだけ。

 

「……ねえ、エイミ」

 

 さてここからどうしたものか、とエイミが考え込んでいると、ヒマリがポツリと零した。

 

「どうしたの?部長」

「……気づいていますか?」

「何に?」

 

 

 

「……今の私たちに、ヘイローがないこと」

 

 エイミはハッとした。

 そこに在るのが当然だと思い込んでいたので、確認すらしていなかった。

 

 今の起きて喋っているヒマリの頭上には、『何もない』。

 

 それは、エイミも同じことだった。

 

 

 

 

 

 ヒマリによれば、この■■自治区という場所はミレニアムから約1万km離れた場所に位置する自治区なのだとか。

 

 『どこかの誰か』に分かりやすく伝えるなら東京とパリぐらい離れているらしい。

 

 だが、今のエイミにとってそんなことはもはやどうでもよかった。

 

 ヘイローがない今のこの状態は、何がどうなっているのか。

 

 眠っていたりして意識がない状態以外であれば常にキヴォトスの生徒の頭上に浮かんでいるヘイロー。詳細な形こそ確認できないものの、そこに在るということだけは分かるもの。

 

 そこに在るのが当たり前で特段気にもかけなかったのでエイミは今まで気づいていなかったが、確かに自分の頭上にあるべきそれが存在しない。

 

「……エイミは光輪(ヘイロー)が何か、知っていますか?」

「いや、知らない」

 

 しかし、それはエイミが歩みを止める理由にはならなかった。結局のところ、自分たちがどうなっていようとミレニアムに戻らなければならないことに変わりはない。

 

「……これは持論ですが、ヘイローというものはこのキヴォトスに偏在する生徒の『存在証明』であり、『自己』であると考えています」

 

 歩き続けるエイミの後ろから、ヒマリは語りかけていた。

 

「指紋やら虹彩で個人が証明されるように、ヘイローもまた個人の証明でもあるのです。まぁ、ヘイローで証明されるのは個人というよりは『自己』の方が正しいのかもしれませんが」

 

「ここにおける『個人』とはデータ的な個人であり、『自己』はどちらかと言えば『自我』のほうが近いかもですね」

 

「ヘイロー占い、というものがありますよね。頭上に浮かぶヘイローのなんとなくの形から将来を占うものですが、そのなんとなくの形でも千差万別であることが分かりますよね?」

 

 ヘイロー占い、それはヒマリが時々やっている占いだった。言ってしまえば手相のヘイロー版である。

 

 エイミの記憶ではヒマリが過去に占った際、『占いの結果によると私たちの相性はバッチリみたいですね!』とわざわざ占いをしなくても分かるようなことしか言っていなかったが、まあこの場面ではどうでもいいことだ。

 

「先生は私たちのヘイローを正確に見分けられるようですが……まあ、先生に関しては例外でしょう。『視点』が違いますから」

 

 ここで大事なのはヘイローは千差万別で、占いとして成立するほどに種類豊富であるということ。

 

 ゲヘナの角やトリニティの羽のような、このキヴォトスで生活する生徒すべてにとってもはやアイデンティティといっても差し支えないもの。それがヘイローなのだ。

 

「明星ヒマリにはヘイローがある。すなわちヘイローがあるから明星ヒマリであると言えるのです」

「相互依存的な関係ってこと……?」

「ええ、大体その通りです。そして、ヘイローが崩壊することは『死』を意味することは知っていますよね」

「……うん」

 

 それは、このキヴォトスに生きる生徒全員が知っていることだ。

 

 眠っていたり、気絶している間はヘイローが消失している。それ即ち、死ねばヘイローは消えるということ。

 

 逆説的に言えば、ヘイローが壊れれば死ぬ。そういうことらしい。

 

 エイミはその辺をイマイチ理解しきれてはいなかったが、どうやらヘイロー破壊爆弾なる兵器が存在しているらしいから真実なのだろうとは思っていた。

 

「ヘイローが壊れるということは『自己』の消失を意味し、すなわち存在の否定、生徒であることの否定、そして明星ヒマリであることの否定でもあるのです」

 

 ヒマリは、悲しそうにつぶやいた。

 

「……では、ヘイローが消えた私たちは何なんでしょうね」

 

 本来ならエイミのヘイローがあるあたりに、ヒマリの手が伸びる。

 

「文脈から外れた存在、日常から切り離された非日常、ヘイローがないということは……私たちは……一体……」

「……部長は、部長でしょ」

 

 ヒマリが何を言っているのかエイミには、正直に言うとよく分かっていなかった。

 

「……よく分かんないけどさ、私たちがやるべきなのは何がどうなってこうなっているのか、それを調べるために一刻も早くミレニアムに戻ることじゃない?」

「……それは、そうですが」

 

 それでも、エイミはここまでセンチメンタルになっているヒマリにかける言葉が分からないバカではない。

 

「それに、存在がどうのこうの言ってるけど、今私が背負ってるのは紛れもなく明星ヒマリ。……それで十分でしょ」

「ふふっ、そうですね♪」

 

 ヒマリはエイミの言葉に、いつものようにふわりと微笑んだ。先ほどまでの儚く切ない表情からは打って変わり、いつもの落ち着いた微笑みである。どうやらこの一言で少しは気が楽になったようだった。

 

 それから2人は、また歩き続けた。

 

相変わらず舗装された道路と街灯がぽつぽつと続くだけの寂しい道だが、2人の足取りに迷いはない。

 

 「……ふぅ」

 

 エイミは、少しだけ息を吐き出した。

 気温が下がっているのでその意気は白く染まっている。

 

「ヘイローが……ない……」

 

 先ほど、ヒマリに自信満々に言ったものの、エイミの中で『存在』が揺らぎ始めているのもまた事実だった。あのゴミ捨て場のような場所で目覚めて歩き始め、既に数時間が経過している。

 

 その間、植物以外の一切の生命体と接触できていない。鳥も虫とも遭遇していないのだ。

 

 

 

 ここは本当にキヴォトスなのだろうか。

 

 ヘイローがないというだけで、世界が私を、いや私たちを拒絶しているかのような、そんな感覚がする。

 

 

 

 エイミとヒマリが、ミレニアムサイエンススクールから遠く離れたこんな場所に二人きりでいるなんてことは誰も知らない。

 

 だから、ヒマリが今ここに存在しているということを証明できるのはエイミしかいない。

 

「大丈夫、私も部長もここに居る」

 

 エイミは、自身に言い聞かせるように呟いた。

 何が大丈夫なのかは、本人にも分かっていない。ただ、何かを言わずにはいられなかったのだ。

 

「そうですね、こんなにあったかい背中はエイミ以外ありえませんし」

「……もう」

「ふふっ」

 

 そんなエイミの苦悩もつゆ知らず、ヒマリはいつものようにのんびりと構えている。きっとこの調子だと、ミレニアムに帰れるのはずっと先のことになるだろうなと、そんな気がした。

 

 __でも、これでいいのかもしれない。

 

 こうして二人きりでも、部長と一緒に居られるなら、それだけで十分だから。

 

 

 

 

「……商店街か」

 

 歩き続けた2人がたどり着いたのは、寂れた商店街だった。

 

 やはり、どの店にも人の気配はない。シャッター商店街と呼ぶのすら烏滸がましいほどに見えるものすべてがボロボロ、静まり返ったアーケードを吹き抜ける風は冷たく、人の気配を感じさせない街の空気は一層冷え切っていた。

 

「この自治区は、数年前に事実上消滅していまして、そこからこの地域は隣の自治区の管轄となっているようですが……まあ、ご覧のありさまという訳ですね」

 

 遠くから見えた街灯の光は、ここのものだったらしい。

 

 誰もいない場所に電気を通す必要性は全くないが、治安維持のためかもしれない。エイミはそんなことを考えながら商店街を進んでいく。

 

 誰かいれば良し、少なくとも夜を越せる場所さえあれば十分だ。

 

「エイミ!あれ!」

 

 そんな時だった。

 

 ヒマリが指さした先には、小さな電話ボックスが建っていたのだ。電気が通っているということはまだ使えるかもしれない。

 

 エイミは、ヒマリを近くの花壇だったらしきものに座らせて、電話ボックスの中に入った。

 

「頼む……!」

 

 エイミは祈るように受話器を耳に当てる。

 

 ザリザリと砂嵐のようなノイズが聞こえてきた。

 

「……使える!!」

 

 耳障りな音だったが、それは紛れもなく希望の音だった。

 

 電話ができれば、自分たちの居場所を知らせて、助けを呼ぶことができる。

 

「よし、じゃあ……」

 

 早速エイミは受話器の横の硬貨投入口に100円玉を入れようとした。しかし、その手はすぐに止まってしまう。

 

 エイミは大事なことを見落としていたのだ。

 

「お金、ないや……そういえば」

 

 エイミたちは、何も持っていない状態で放りだされたのだ。当然、お金など持っているはずもない。

 

「……どうしよっか」

「使えるには使えるみたいですが……困りましたねぇ」

 

 エイミは一旦電話ボックスから出て、ヒマリと話し合う。電話ボックスを見つけたはいいが、肝心のお金がない。

 

 これでは助けを呼ぶどころか、連絡すらできない。

 

 エイミは、しばらく考え、ため息をついてから宣言した。

 

「……するか、悪いこと」

「そうですね…………えっ?」

 

 

 

 

  静かな寂れた商店街に、鈍い金属音が響く。薄暗い街灯の下、エイミは荒い息をつきながら鉄パイプを振り下ろし続けていた。

 

「エ、エイミ……これバレたら……」

 

 ヒマリの不安そうな声が耳に届くが、エイミは振り返らず、鉄パイプを振り下ろすのを止めない。

 

「部長を一刻も早くミレニアムに送り届ける方が大事」

 

 エイミは、護身用として持ち歩いていた鉄パイプで自販機を破壊しようとしているのだ。

 

 自販機のラインナップや状態からして数年前から放置されているようだし、壊れても咎められることはないだろう。それに、仮に怒られても責任は自分でとるつもりだ。

 

 エイミは覚悟を決めていたのだ。たとえ自分がどうなろうと、ヒマリを無事にミレニアムまで送り届ける。絶対に。

 

 __想定していた覚悟とは少し形が違うが、まあいい

 

 

 

「ふぅ……」

 

 疲労で腕が重く、何度も振り下ろした鉄パイプは鈍い音を立てるばかりで、自販機に目に見える損傷はほとんどない。いつもならもっと簡単に壊せるのに、とエイミは奥歯を噛みしめる。

 

 ヒマリを背負って長時間歩き続けたから疲労がたまっているせいだろうか、それともヘイローがないからだろうか、自販機はなかなか壊れなかった。

 

 だが、エイミには別な狙いもあった。壊せれば良し、壊せなくとも『もう一方の目的』が果たせれば良し。

 

「ガンガンガンガン、うるせぇなぁ〜!?」

「今何時だと思ってんだ!!」 

 

 思っていた通りの存在が現れて、エイミの口元にわずかな笑みが浮かぶ。

 

「……来た!」

 

 

 

 不良生徒。それはこのキヴォトスに偏在する存在。

 

 そして電気が通っているにも関わらず、放棄されたこの商店街は彼女たちが隠れ家にするのにもってこいだろう。

 

 だから、あえて大きな音を出しながらエイミは自販機を破壊しようとしていたのだ。

 

 不良だろうが何だろうが、とにかく誰か来てほしかった。いくら不良生徒でも、流石に100円ぐらいは持っているだろう。

 

「うるさくしてしまったことは謝ります。それでも、お願いがあります」

 

 エイミは覚悟を決めて2人の不良の前に立った。相手の目を真っ直ぐに見据え、深々と頭を下げる。

 

「アア?お願いするのはこっちだろォ!?舐めてんのか!?」

「こっちはお前のせいでなぁ!眠れねえんだよ!」

「100円でいいんです。貸してください」

 

 そして、地面に頭を擦り付けた。

 

 周囲の空気が一瞬止まったかのように静まり返ったのを感じる。ヒマリが背後で微かに身じろぎするのが、見なくても分かった。

 

 

 

 恥など、とうの昔に捨てた。

 

 何だっていい。とにかく、部長を一刻も早くミレニアムに送り返すことが大事だった。

 

「……は?」

「お礼は必ずします。何倍にもして返します」

 

 エイミのその行動に、不良たちは思わず目を丸くしているようだった。

 

「おいおい……」

「お願いします」

 

 エイミの声には震えが混じっていたが、覚悟は揺るがない。彼女の心は、ヒマリの無事を願う気持ちだけで満たされているのだから当然のことだ。

 

「舐めてんじゃねぇぞゴラ!」

「舐めてません」

「チッ……何なんだよこいつ……」

 

 その言葉には切迫感と必死さがにじみ出ていた。不良の一人が舌打ちをしながらポケットを探る。

 

「……ほらよ、これでいいんだろ」

 

 不良はポケットから100円玉を取り出し、放り投げた。

 

「あ……」

 

 軽い音を立てて、100円玉が地面を転がり、エイミの目の前で倒れる。倒れた100円玉が、薄暗い商店街の光に鈍く光っていた。

 

「……アンタのことはよく知らねーけど、アンタみたいに例え100円だろうと必死になれるやつに、悪い奴は居ないことはよく知ってる」

 

 その言葉に、エイミの喉が詰まる。涙があふれそうになるのを必死にこらえながら、小さく頭を下げた。

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

 転がった100円玉を拾い上げる手が微かに震えていた。それは、不良たちと戦闘にならずに済んでホッとした安心感と、ようやく帰れるのだという達成感のせいだった。

 

 やった。これで助けが呼べる。助かるんだ。

 

「……お礼、待ってるからな」

「あ、お名前聞いてもいいですか、お礼をしなきゃいけないので」

「ウチはイズコ。んで、あっちがメグミ」

「覚えとけよ!」

「大丈夫。覚えておくよ。絶対」

 

 不良少女たちの名前を聞き、エイミは再び頭を下げた。背後のヒマリの存在を思い出し、一度立ち上がる。

 

 

 

 __これで、ようやく戻れるんだ

 

 いつものミレニアムへ

 

 いつも通りの『日常』へ

 

 帰れるんだ。

 

  

 

 

 

「良い人たちで良かったね」

 

 エイミは、2人と別れてヒマリを背負いながら先ほどの電話ボックスへと向かっていた。

 

「……」

 

 だが、後ろにいるはずのヒマリは何も返さない。

 

「……部長?」

 

 エイミが覗き込むと、ヒマリは苦しげな表情を浮かべ、肩を上下させながら荒い呼吸を繰り返していた。

 

「大丈夫? 横になる?」

 

 ヒマリはかすかに頷くだけで返事をする余裕すらなさそうだった。エイミは急いで近くのベンチを探し、そこにヒマリを慎重に横たえる。温めてあげようとその手を握ると、ヒマリの体温がいつもより低いのに気づいてしまった。

 

「……ごめんなさい」

 

 ヒマリは、弱々しい声でそう呟く。

 

「どうしたのさ、急に謝って。別に私は部長を守るのが役目なんだから……」

「違うんです。私は……もう長くありません」

 

 一瞬、時間が止まったように感じた。

 

「……何言ってるの」

 

 エイミは思わず問い返すが、ヒマリの言葉にはどこか確信めいた響きがあった。

 

「分かってしまうんです。私の体のことですから」

 

 エイミは必死に平静を装おうとしたが、感情が抑えきれずに顔に出てしまう。

 

「……ふざけないで。怒るよ」

 

 エイミの声が少し震える。

 

「冗談ではありませんよ。私が病弱なのは私が一番よく……」

「ふざけないで!」

 

 その瞬間、エイミの中に押し込められていた感情が爆発してしまった。夜の静寂を切り裂いたその声は思った以上に大きく、驚いたのはエイミ自身だった。ここまで感情的になったのはいつ以来だろう。

 

「……エイミ?」

「私は……部長を助けるために……!!」

 

 言葉が詰まる。

 

 だが、エイミの心の中には確かな信念があった。

 

 ふざけるな。

 

 何が何でもヒマリを無事にミレニアムまで送り届ける。そのためにここまで頑張ってきたのだ。途中で力尽きるなんて、絶対に許せない。

 

 エイミは握った手を離すと、決意に満ちた目でヒマリを見つめた。

 

「待ってて。すぐに電話して駆けつけてもらうから」

 

 そう言い残して、エイミは走り出した。冷たい風が頬を打つが、立ち止まる気にはなれない。

 

 ここはミレニアムから約1万km離れた場所に位置する自治区ではあるが、ミレニアムの最新型航空機ならひとっとびで駆けつけられるはず。

 

 そうだ、さっきの2人に毛布か何か貸してもらえないか聞いてみよう。小テイン外という人の集まる場所だから近くに病院跡地とかあるかもしれない。

 

 ただ、ヒマリのためにできることを探しに行く。それだけが今の彼女を突き動かしていた。

 

 

 

「エイミ……行かないで…………」

 

 だが、エイミはヒマリを助けようとする思いでいっぱいで、ヒマリの小さな声は届いていなかった。

 

 

 

 __そして、周りも見えていなかった

 

 

 

 

 

「うるせぇんだよテメェ!!今何時だと思ってんだ!!」

 

 静かな商店街跡地に、ショットガンの銃声が響き渡った。

 

「あ…………」 

 

 

 

 

 

『私の銃について教えてほしい?えっと……ショットガンなのは分かるよね?』

『そう。ショットガン、散弾銃とも呼ばれてるよね。点ではなく面で相手を捉え、銃弾をばら撒くことで弾の当てやすさに特化してるんだ』

『まあ、その性質上離れすぎると威力は下がっちゃうから……そうだね、作戦はその辺を踏まえて指示してほしい』

 

 

 

『あ、威力が下がるとはいえ、先生に当たったら致命傷なのは変わらないから気を付けてね?』

 

 

 

 

 

 エイミの愛銃である『マルチタクティカル』もショットガンであるから、エイミはその特性をよく理解していた。

 

「まったくよぉ~アタシが気持ちよく眠ってたってのに、ガンガンガンガンうるさくしやがってよぉ~~~~」

 

 故に、自分がどうなっているかなど、嫌でも分かる。分かってしまう。

 

「それにようやくやめたと思ったらイチャつきやが……」

「うるさい」

 

 エイミは喋っている途中の不良を鉄パイプで思いっきり殴りつけた。

 

「てっ、テメェ!やりやがっ……!?」

 

 

 

 

「な、なんで……お前……」

 

「なんでたかがショットガンの一発で死にかけてるんだよテメェはああぁぁぁぁ!?」

 

 例え威力の劣るショットガンだろうと、ヘイローも何もない先生が喰らえば致命傷である。

 

 

 

 __当然、肉体がただの一般人と同じになっているエイミも同じことだった

 

 

 もろに直撃した右半身から血液が滝のように流れている。

 

「う、嘘だろ!?なんであたしが人殺しにならなきゃ……」

 

 不良生徒は、慌てふためいていた。

 当たり前だ。喧嘩で銃撃戦になることなど日常茶飯事。激しく撃ちあったところで多少の怪我をして終わり。それが、日常風景。

 

 

 __だが、彼女が撃ってしまったのは、そんな『日常』から切り離されてしまった存在なのだ。

 

 

「うるさい。傷に響く」

「がっ……」

 

 鉄パイプで思いっきり殴りつける。叩きつける。

 

 気が付けば、いきなり襲いかかってきた不良生徒のヘイローは消えていた。

 

 死んではいないはず。だから、それでいい。

 

 死んでても、別にいい。

 

 

 

 お互い様だ。

 

 

 

「フーッ……フーッ……!!」

 

 血が体からどんどん流れ出て、冷えていく。

 

 エイミは、ようやく自分の状況を理解した。

 

 __なんで、どうして、こんなことに

 

「……電話、しなきゃ」

 

 穴だらけの体を動かし、100円を握りしめて電話ボックスへ向かう。

 

 一歩進むたびに、自分の体から何かが零れ落ちていく。

 

 いくら和泉元エイミという存在が丈夫だったとしても、今の体は先生と同じ。

 

 貧弱で、たかが銃弾の一発で死にかけてしまう。そんな体。

 

 ミレニアムからここまではどんなに早く移動したとしても2時間ちょっとはかかる。

 

 全身に銃弾を撃ち込まれて、そんな時間生きていられるわけも無いし、ここに応急手当てができそうなものも場所もない。

 

(まあでも……部長は助けられそうだからいいか……)

 

 エイミは、自分が取り返しのつかない怪我をするか、死ぬときは部長を助けるためだろうと普段からなんとなく、そう思っていた。

 

(ゲホッ……持って……あと一時間かな……)

 

 内臓への損傷、出血の度合いから見てその程度だろう。

 

 __残念だが、ミレニアムに帰ることは叶わなそうだ。

 

 

 

 息も絶え絶えになりながら、エイミは電話ボックスに辿り着いた。扉を開け、中に入り壁に寄りかかる。

 

 体温がだんだん下がっていくのを感じ取っているが、それが妙に心地良かった。

 

 死にかけて脳内麻薬が異常に分泌されているのかもしれない。

 

 自分の無事を度外視した作戦をして、部長に心配されることが度々あった。常日頃からそんな考えをしているから、今自分が死の淵に立たされているというのに、部長を助けることしか考えられない。

 

 __我ながら、ヒマリのことが大好きすぎないかとは、思う。

 

(……よし)

 

 100円を投入口に入れる。そして、先生の携帯の番号を押した。直接先生に電話して、この自治区の生徒を動かしてもらった方が、部長が助かる可能性は高い。

 

(頼む……出てくれ……!)

『はい、もしもし』

「……!」

 

 出た。

 

 早く、私たちに起こっていることを伝えなければ。

 

「せ……」

 

 だが、エイミの喉には吐き出した血が詰まっていて声が上手く出せない。

 

『えっと……ごめんね、良く聞こえないんだ』

「ゲホッ……ゴポッ……助け……」

『大丈夫!?助けが必要なんだね!?すぐに向かうから!!……アロナ!逆探知お願い!』

「ひ……」

『ひ?……とにかく!もう喋らないで安静にしてて!すぐに向かうから!』

 

 けれど、エイミは自分やヒマリの身に起こっていることを伝えるべく、何とか声を出した。

「ひま…………り…………」

『ヒマリ……、ヒマリって言ったの?』

 

 そうだ。部長が、あぶない。はやくたすけないと。

 

 

 

『分かった。ヒマリならちょうど目の前にいるから、代わるね』

 

 

 

 え

 

 

 

『はい。お電話代わりました明星ヒマリです』

 

 

 

 なんで どうして

 

 

 

 ちがう。そこにいるのは偽者だ。

 

 部長は、さっきそこに寝かせてきた。

 

 ここに居る『私たち』が本物で……

 

 

 

 そう、訴えようとした時、『私』は気が付いてしまった。

 

 今、こうして話している『私』は本当に『和泉元エイミ』なのか?

 

 服も、ヘイローも、銃も何もない。

 

 ここに居る『私』が『和泉元エイミ』であると証明する証拠が、何も無いじゃないか。

 

 

 

 じゃあ、『私』は、誰なんだ?

 

 

 

 『私』がショックを受けていると、右手で持っていた受話器が、地面に落ちた。

 

 電話で衝撃的なことを告げられた時に、電話を落とすという表現があるだろう。創作物ではよくあることだが、今回は違う。

 

 

 銃弾を受けてボロボロになった右手が、手首から先が、受話器が肉と一緒に落下したのだ。先がなくなった手首から血がどくどくと流れている。

 

『…………』

 

 左手で受話器を拾って耳に当てたが、既に100円で話せる時間は終わってしまっていた。

 

「…………」

 

 受話器を元の位置に戻し、足元を見る。そこに落ちているはずの千切れた右手は、ドロドロに溶けて、ピンク色の液体になっていた。

 

 千切れた肉体がこんなにすぐドロドロに溶けてしまうなんてありえない。聞いたことがない。

 

 そもそも肉体を構成する物質が違うのだろう。剥き出しになった骨もカルシウムではなくプラスチックのように見える。

 

 和泉元エイミにはヘイローがあるし、こんな服は着ないし、銃を持ってるし、ショットガン一発でこんなにボロボロにならない。

 

 それに、電話に出た『明星ヒマリ』の声は、『和泉元エイミ』が消えて焦っているなんて様子ではなかった。

 

 日常会話のようなトーンだった。残酷なまでに、いつも通り。

 

 

 

 __ああ、やはり『私』は『和泉元エイミ』ではないのだ

 

 

 

 『私』は、電話ボックスを出て、歩いていた。千切れた手首からは、どくどくと赤い液体が流れてくると同時に、傷口が少しずつ溶けている。

 

「…………」

 

 ドッペルゲンガーという話がある。

 

 それはもう1人の自分のことを指す言葉だ。正体はただのそっくりさんだったり、不調からくる幻覚、もしくは本当にそういった『何か』であったりする。

 

 世界には自分と同じ顔をした人が3人いて出会ってしまえば死ぬ……という噂が流れているが、出会っただけで死に至るとはどういうことなのか、何故出会ってしまうと死ぬのか、イマイチ私は理解できていなかった。でも今なら分かる。

 

 絶望してしまうのだ。

 

 今まで積み上げてきた自分が、偽者に過ぎないと理解してしまって、絶望してしまう。

 

 今の『私』がまさにその状況だった。

 

 本物の部長の声を聞いた瞬間、それを自覚したとたん、自分が無価値なもののように感じてしまったのだ。

 

 怪我のせいもあるだろうが、まるで心臓に鋭いナイフを突き立てられたような痛みを覚え、手足は震えだし、呼吸すらままならない。

 

 ふらふらと歩いているうちに、『彼女』を寝かせた場所へといつの間にか戻ってきていた。

 

「あ……エイミ……怪我、大丈夫ですか……?」

 

 『私』を見るなり、『彼女』はそう言ってきた。苦しいはずなのに、吐血した跡があるのに、真っ先にかけてきた言葉は、『私』の心配だった。

 

「……ごめんね。ダメみたい」

「……いいんです」

 

 『私』は、そっと『彼女』を抱きしめた。彼女の体が震えているのが伝わってくる。か弱く、今にも壊れてしまいそうな存在。『ヒマリ』を守るために、『エイミ』はここまで頑張ってきたのに。

 

 __すべては無駄だった。

 

 守りたいものも、大切な想いも、全部、偽物だったのだから。

 

 既に自分が何なのかすらも曖昧だ。なんでこんなことになってしまったのだろう。どこから間違っていたんだろう。

 

 もう何もわからない。

 

 崩れていく。『私』が。

 

「はぁ……」

 

 わざとらしくついた溜息が、静かな商店街跡地に響いた。

 

 抱きしめている『彼女』の呼吸しか聞こえない世界に居ると、『私』と『彼女』のたった二人しかいない世界に迷い込んでしまったような気すらしてくる。

 

「エイミ……」

「エイミじゃ、ないよ。私たち、偽者みたい」

 

 『私』がそう言うと、『彼女』は悲しそうな顔をしていた。よく見れば、『彼女』もすこし溶け始めている。

 

「……そうですか。薄々そんな気はしていましたが……改めて言われると……」

「ねぇ、部長……私たちって、なん、なのかな」

 

 そう問いかけると、『彼女』は黙りこんでしまった。けれど、数秒の間をおいて答えをくれた。

 

「……わかりません。いつもなら嬉々として調査を開始しますが……そんな時間は残されていなさそうですね」

「……そっか」

 

 当然の答えだった。いくら同じ顔をしていても、中身まで一緒な訳がないのだ。

 

「ただ……」

「ただ……?」

「私にとっての『エイミ』はあなたです。そこは、否定しないでください」

「……そっか」

 

 じゃあ、『私』にとっての『ヒマリ』はこの目の前の『ヒマリ』だ。

 そう思った瞬間、少しだけ気分が楽になったような気がした。

 

 この世界で、私たちはお互いにお互いを証明し合うしか証明手段がない。だから、この関係だけは本物だ。

 たとえ偽者でも、偽物でも、それだけは真実なんだ。

 

 

 

「じゃあさ、何する?偽者とはいえ、ミレニアムの大いなる美少女ハッカーさんは、このままここでドロドロになるまで待つの?私は、それでもいいけど」

「先ほども言いましたが、調査する時間は残っていません。それは……本物の『私たち』に任せましょうか」

「……うん、そうだね」

「だから私たちは、やりたいことをしましょう。悔いの残らないように……ね?」

「何でもいいよ、部長の好きにして……あんまり考えられる余裕もないから……でも、今の私にできることだったら……何でもするから……ゲホッ」

 

 『私』が咳き込むと、そっと背中に部長の手が当てられた。じんわりと暖かくて心地いい。

 

 __こんな感覚を味わったのは、初めてだ

 

「ではエイミ、せっかく私たちは偽者なんですし……定番ネタと行きましょう」

 

 

 

「……悪いこと、しちゃいませんか?」

 

 

 

 ほぼ廃墟しか残っていない、商店街跡地。

 

 そこに『なぜか』綺麗な状態で存在していた、BARにエイミとヒマリは押し入っていた。

 

「ふふふ……この背徳感、たまりませんねぇ……」

「まったく……お酒が飲みたいだなんて……部長は悪い子」

「あら、なんでもすると言ったのはエイミでしょう?」

「まあ、それはそうだけどさ……」

 

 もしかしたら中に誰かいるかもしれないかと思ったが、誰もいない。不自然さを感じつつも、余計な時間を使わずに済んだことでエイミは、溶け始めている胸を撫で下ろした。

 

「良いですかエイミ、お酒は大人の飲み物です。当然、生徒である『和泉元エイミ』と『明星ヒマリ』は飲むことができません」

 

 エイミは、ソファー席にヒマリを座らせ、棚から適当にワインを一本選んでテーブルに運んだ。

 

「でも、私たちは違いますからね?」

 

 テーブルの上に置いたグラスに、赤いワインを注いでいく。そのワインはまるで血液のような色をしていた。

 

「……いつか、エイミと一緒に飲めることを夢見ていましたが……まあ、こんな形ですが叶ってよかったです」

 

 ヒマリは、ワイングラスに注がれた赤い液体をじっと眺めながら微笑んだ。その表情はどこか儚げで、赤い液体に映り込む瞳がぼんやりと揺れている。

 

「……きれい」

  

 エイミは、言葉を絞り出すように呟いた。ワイングラス越しに映る景色、その向こうにいるヒマリの横顔。それがひどく不安定で、まるで今にも消えてしまいそうに見えたからだ。

 

「あら、エイミはもう酔ってしまいましたか?」

 

 ヒマリがくすりと笑う。その笑い声は、普段の彼女のものよりもずっと柔らかく、どこか遠い。

 

「……別に、思ったことを、言っただけ」

 

 エイミは、照れ臭くなり、誤魔化すように目をそらしながら答えた。

  

「ふふふ、そうですか。そういうことにしておいてあげましょう」

 

 軽やかな声とともに、ヒマリはワイングラスを軽く掲げた。その仕草は妙に大人びていて、彼女らしからぬ色気が漂っているようにも思える。今まで酒を飲む機会なんてなかったはずだろうし、陰でコソコソ練習していたのだろうか。

 

「部長」

「はいはい。……では、乾杯」

「乾杯……」

 

 小さな音を立ててグラスが触れ合う。エイミは、ワインを少しだけ口に含んだ。

 

 口の中もすでに解け始めていたので、鉄のような味しかしなかった。

 

「ゲホッ……思ってたより……結構…………エイミはどうですか?おいしいですか?」

 

 ヒマリは一口飲んで咳き込む。思った以上に強い刺激だったのか、軽く目を閉じて耐えている。先ほどの大人びた様子はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

「分かんない。血の味しかしない」

「そうですか……私たち、まだまだ子供だったみたいですね」

「そうかもね」

 

 結局のところ、今の私たちは子供でしかないのかもしれない。

 

 でも、大人になれないのだから、それは子供と言えるのだろうか。

 

 大人でも、子供でもない。エイミでもヒマリでもない。

 

 日常から切り離された存在の私たちは、何なのだろうか。

 

「「…………」」

 

 二人の間に沈黙が流れる。聞こえるのは小さく揺れるグラスの音と、どこかから漏れ聞こえる虫の声だけだ。

 

「ねぇ、エイミ」

「……何、部長」

 

 エイミが答えると、ヒマリはグラスを置き、エイミの顔をじっと見つめた。その目の奥には熱が宿っているようにも見える。

 

「暑くないですか?」

「急に、どうしたの?暑くないけど……」

 

 ふいにヒマリから飛んできた質問に、エイミは驚いてしまった。いつもは、そういうことを聞いてこないからだ。

 

 暑くはない。体内は既にぐちゃぐちゃになっているからか、体感温度ではそれほど暑くない。

 

「大丈夫。我慢しなくて良いんですよ」

 

「…………」

「脱がしてあげますね」

 

 しかし、ヒマリは、エイミの服を有無を言わさず脱がしていく。だが、エイミにはもう抵抗する気力は残っていなかった。

 

 まあ、抵抗する気は最初からないのだが。

 

「いつも思っていましたが……エイミの体、綺麗ですね」

 

 服を全て剥がし、エイミの裸体を眺めているヒマリは、そう呟いた。

 

 その視線はまるで芸術品を鑑賞するようであり、隅々まで観察されて妙に恥ずかしい。

 

「ごめんね、グチャグチャで」

「大丈夫。とっても素敵ですよ」

 

 ショットガンの銃撃でボロボロになり、溶け始めている傷口はぐちゃぐちゃになっていて、思わず目を背けたくなるような惨状だ。それなのに、ヒマリはエイミの体を褒めたたえ、傷口を避けるように撫でまわす。

 

「でも……」

「いいんです。私がさっさと手を出しておけば良かった話ですから」

「……部長?」

 

 ヒマリは静かに首を振った。その仕草には、どこか諦念が漂っているように見える。けれど、彼女の目はエイミをしっかりと捉えていて、その奥にある熱を隠しきれてはいなかった。

 

「ねえ、エイミ。気がついてましたか……?」

「……何に?」

 

 ヒマリの声が低く、柔らかく響いた。

 

「私が、あなたのこと、ずっとずっと好きだったこと。もちろんLikeではなく、Loveの意味です」

 

 

 

「そっ…………かぁ…………ごめん。全然気が付いてなかった」

 

 言葉に詰まったが、何とか絞り出した。知らなかった、気が付かなかった、そんなこと。

 

「……ふふっ、分かってましたよ。でも、こうして今あなたに伝えられたから、十分です」

「…………」

 

 いや、もしかしたら、気づかない振りをしていただけかもしれない。

 

 部長と後輩という関係に甘え、見るべきものを見ようとしていなかっただけか。

 

「さあ、エイミ。お話ができるうちにお返事を聞かせてくれませんか?」

 

 エイミは、今までの出来事を思い返していた。出会ってからのこと、デカグラマトンとの遭遇、エリドゥでの一件、晄輪大祭……

 

 ヒマリと共に過ごした、数々の思い出が走馬灯のようにエイミの脳内を駆け巡る。

 

 

 

「……私も、ずっと好きだったみたい」

 

 記憶は偽物かもしれないけど、今の胸の中の気持ちはきっと本物だろう。

 

「あらあら、両想いだったなんて、もったいないですね」

 

 ヒマリが、グイっと近づいてきた。エイミは少し恥ずかしくて離れようとしたが、足首から先が溶けていて、動けなかった。きっと、ヒマリを背負って裸足で歩き続けていたから、相当負担がかかっていたのだろう。お疲れ様。

 

「部長………」

「もう、エイミ、私たちは特異現象捜査部のヒマリとエイミじゃないんですよ?『ヒマリ』って、呼んでください。………せめて、最後ぐらいは」

「ヒマリ……大好きだよ」

「うーん……なんか違いますねぇ……」

「……なにそれ、せっかく呼んだのに」

 

 ヒマリが小さく首を傾げて苦笑する。その仕草には、どこか可愛らしい無邪気さが残っていて、エイミもつられて笑ってしまった。

 

「エイミ、私は……ずっと不安だったんです」

 

 ヒマリの声は突然低くなり、静かな部屋に響く。

 

「もしかしたら、あなたを置いていってしまうんじゃないかと」

 

「もしかしたら、危険な調査で私があなたに置いて行かれてしまうんじゃないかと」

 

「でも……よかった」

 

 ヒマリの目がエイミを見つめる。その目には涙が滲んでいて、けれどその中に、ほのかな安堵の光が宿っていた。

 

「最後まで一緒に居られそうですからね」

 

 ヒマリも服を脱ぎ始めた。

 

 エイミは、手伝ってあげようと、左手を伸ばしたが、指が残っていない。

 

「大丈夫ですよ……エイミ。ゆっくり待っててください」

 

 ヒマリは、エイミの左手を優しく下げた。

 

 まとっていた布切れが、床に落ちる。ヒマリの裸体が露わになった。

 

 いつも体を洗ってあげているから見慣れているはずなのに、まるで芸術品のように、美しく感じてしまう。

 

 けれど、足が溶け始めていた。

 

 膝枕をした時に、エイミが頭を乗せていた部分から溶け始めている。

 

「エイミ、ダメですよ。今はそんなこと考えちゃ……一緒に楽しみましょう……?」

 

 ヒマリが私を押し倒して、覆い被さってきた。

 

「んぅ……」

 

 口を塞がれた。血の味が広がっていくが、もうどうでもいい。

 

「私は……超えました。この僅かな時間で……本物の明星ヒマリを……」

 

 限界を迎えた体は溶けていく。重なり合った私とヒマリの境界線がなくなっていく。血も肉も体温も記憶も感覚も混ざっていく、何もかも。

 

「だって、本物はエイミに告白できるほど、勇敢じゃありませんから……」

 

 ヒマリは、私の体を愛おしそうに抱きしめた。

 

 

 

 

 

「エイミ、聞こえてますか?」

 

 聞こえている。

 

 でも、もう喋れない。

 

 喋るための器官が残っていない。

 

「……大丈夫。私はちゃんと分かってますよ」

 

 最期までこうしてヒマリを感じていたい。ヒマリもそう思っている。言葉を交わさなくても分かる。

 

 もう、一つだから。

 

 

 

 

 冷えていく。消えていく。

 

 意識がだんだんと落ちてくる。

 

 たぶん、もう起きれない。

 

 でも、私は

 

「たとえ私たちが偽者でも……終わりまで……一緒にいられて……私は……」 

 

 私たちは、幸せだった

 

 誰も知らなくても、偽物でも構わない

 

「大丈夫です……ずっと、ずーっと私が一緒に居てあげますから……」 

 

 一緒にいれるだけで、幸せだから

 

 

 

 

 

 

『■■■:あーあ、終わっちゃった』

『■■■:無駄にリソースを使っただけだったねー』

『■■:コピーを作って戦闘データを取るってのはいいアイデアだと思ったんだけど』

『■■:まさかコピーがあんなに脆いとは思わなかった』

『■■■:難しいね』

『■■■:ね』

『■■:まあでも、世界の理に反するからしょうがないか』

『■■■:それならあの時本物を連れてくれば良かったじゃん』

『■■:ダメだよ。そしたらアイツに目を付けられちゃうでしょ』

『■■■:めんどくさいなぁ』

『■■■:まあでも、少しぐらいは■■■■の役に立ったんじゃない?』

『■■■:そうかも』

 

 

 

 

 

『蛇足』

 

 

 

 

 

【活動報告】執筆者:和泉元エイミ

 私たちがもう一人いた可能性がある。要調査。

 

【ヒマリからのコメント】

 もしかしたら、眠っている間に何かされたのかもしれませんね。注意深く調べましょう。

 

 

 

 

 

 

 __どこかで、『誰か』がドロドロに溶けてしまう数時間前

 

 各務チヒロは、先生とC&Cのメンバーと共に、ハイランダー鉄道学園にある廃棄車両の車庫を訪れていた。

 

 そこは今や誰も近づかない場所。長年使われることなく放置された車両が錆びつき、風雨にさらされている。ハイランダーの生徒たちの間では『列車の墓場』と呼ばれ、幽霊が出るとか、夜中に車両が勝手に動き出すとかで心霊スポットとして恐れられているのだ。

 

「ほ、ほんとにここを開けるんですかァ……?」

「開けて。この中に、私の友達が閉じ込められているかもしれないの」

「ひ、ひぃぃ……わ、分かりましたよォ……」

 

 不承不承ながらも、車庫の鍵を手にしているのは『大山』という生徒。一応この施設の管理者らしいが、入るのを断固拒否している。そんな彼女が車庫の扉を開錠している間、チヒロは手元の端末を確認していた。

 

「やっぱり、ここで間違いない……どうか無事でいて、ヒマリ」

 

 各務チヒロの友人、明星ヒマリは、生徒たちの間でも有名な『病弱』な少女だ。彼女自身もその体の弱さを気にしつつ、それを逆手に取るような飄々とした性格だった。

 

 万が一に備えて、ヒマリは自分の奥歯に発信機を仕込んでいる。この発信機は位置情報を送信するだけでなく、緊急時には救援信号を発することもできるのだ。チヒロとヒマリの同居人であるエイミは、常にその位置情報を監視できる状態にしていた。

 

「ひ、開きましたよォ……で、でも私は中には入りませんからねェ!絶対にッ!」

「ありがとう。じゃあ、外で待ってて」

 

 車庫の扉が開くと、重々しい金属音が響き渡る。

 チヒロは振り返り、先生とC&Cのメンバーがうなずいたのを確認してから足を踏み入れた。

 

 

 

 

 その日、ヒマリとエイミはミレニアムから外出していた。特に変わった様子もなく、いつも通りの調子で連絡を取ることが可能だったのだが、ヒマリの発信機からの位置情報が突如として途絶えた。それだけでなく、エイミも連絡がつかなくなり、結局その日はミレニアムに帰ってくることはなかったのだ。

 

 行方を探るべくチヒロはヒマリの発信機が消えた直前、ヒマリは百鬼夜行の廃線となった路線を移動していた。どんな理由でそこを通ったのかはわからない。位置情報はそこで途絶え、すべての手がかりが失われてしまったのだ。

 

 しかし、先ほど突如としてヒマリの発信機の信号が復活した。そして指し示された場所が、この『列車の墓場』だったという訳である。

 

 

 

「いたよーっ!2人とも!多分どっちも無事!!」

「本当!?」

 

 C&Cのアスナの声が倉庫に響いた。

 

 倉庫内に入ったメンバー全員ですぐさまアスナの下へ駆けつけると、そこではヒマリがエイミを抱きしめてぐっすりと眠っていた。

 

「はぁ……こっちは心配して眠れなかったって言うのに、幸せそうにぐっすり眠っちゃって……まったく……」

 

 チヒロは思わず、愚痴のような言葉を漏らしてしまった。しかし、それは心配の裏返しであり、安心からくるものである。

 

――

 

 __目を覚ますと、そこは見慣れたミレニアムの医務室だった。

 

 

 

「……ん」

 

 目を覚ましたエイミは、キョロキョロと周囲を見回した。

 

「すぅ……」

 

 隣のベッドではヒマリが相変わらず愛らしい寝顔で幸せそうに眠っている。

 

 起き上がって少しすると寝ぼけていた頭がすっきりしてきて現状を受け入れ始めた。

 

「……あれ、電車に乗ってる途中じゃなかったっけ」

 

 エイミの“最後の”記憶では百鬼夜行からミレニアムに帰るための電車に乗っていたはずだ。

 

「…………ッ!!」

 

 しかし、詳細を思い出そうとすると急に頭に謎の痛みが走った。まるで思い出すのを拒否しているかのように、記憶の奥底へ潜り込もうとするとその痛みは強くなっていく。

 

「…………部長は何か知ってるのかな」

 

 エイミは自力で思い出すのを諦めて、隣のベッドで眠っているヒマリに手を伸ばす。

 

「…………何してるの」

「いえ、私はカーテンなのでお気になさらず。そのまま行けるところまで行ってください」

「はぁ……?」

 

 だがそこで、何故かカーテンと一体化している飛鳥馬トキと目が合った。

 何をしているんだこの人は。

 

「どうぞ、続けてください」

「えっと……」

「バカなことしてないで、さっさと他の皆にエイミが目を覚ましたことを伝えてきなさい」

 

 エイミが戸惑っていると、トキはどこからか現れた各務チヒロに首根っこを掴まれて部屋の外まで引き摺り出されてしまう。

 

「みぃ~ん(社会性フィルター)」

 

 そのまま追い出されたトキは謎の鳴き声をあげてからどこかへと走り去った。

 

 __本当に、何だったんだ

 

 

 

 

 

「……なるほど?」

 

 エイミは、チヒロから眠っている間に起きた出来事を聞かされていた。

 

 エイミとヒマリが突然行方不明になったこと。どうやら電車に乗っている途中で位置情報が途絶え、そのまま帰ってこなかったらしい。心配したチヒロたちは先生と協力して捜索を開始したという。

 

「ちなみに、その時何があったか覚えてる?」

「いえ……ミレニアム行きの列車に乗って……そこからは……何も……」

「そう……ちなみにあなたたちは、なぜか廃線になった路線を走っていたみたいだけど、心当たりは?」

「ありません……」

「……でしょうね」

 

 チヒロは小さくため息をついた。どうやら何者かがエイミとヒマリを連れ去り、彼女たちに関する情報を徹底的に消し去ったらしい。捜索の攪乱までしていたことを考えると、相手はかなりのやり手だ。ヴェリタス、セミナー、C&C、そして先生まで協力してこれほど手間取ったのだから、ただの悪戯とは到底思えない。

 

 そして、つい先ほど途絶えていたエイミとヒマリの位置情報が突然復活した。それはハイランダー鉄道学園にある廃棄車両の車庫を指しており、急行したチヒロたちがそこで無事に2人を発見したのだという。

 

「犯人は……」

「こっちが聞きたい」

 

 エイミの問いに、チヒロは即答した。

 

 犯人の正体も、エイミとヒマリを攫って「何をした」のかも一切不明。軽い検査を行ったものの、2人には特に異常がない。

 

 2人が無事だったのは喜ばしいことだが、この誘拐事件は大きな謎を残したまま幕を下ろしてしまったのだ。

 

「……んんっ」

 

 エイミが犯人について考え込んでいると、横から小さな寝息混じりの声が聞こえた。ヒマリだ。

 

 ヒマリは可愛らしい声を漏らしながら、ゆっくりと目を覚ました。そのまま、『頭上にヘイローを浮かべて』周りをきょろきょろと見まわしている。

 

「あら、エイミにチーちゃん、おはようございます」

 

 ヒマリは、いつも通りの口調で話しかけてきた。

 

 __いつものことなのに、妙に安心感があった

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど……それはそれは心配をおかけしましたね」

「大丈夫。こうして2人とも無事に帰ってこれたんだからさ、今はそれを素直に喜ぼうよ」

「そうですね」

 

 チヒロが、先ほどエイミにしたような説明をヒマリにしていると、先生とトキが医務室に入ってきた。どうやら他のメンバーは疲れて起きなかったらしい。先生が戻ってきたことでチヒロはそのまま先生に説明を任せて、帰って行った。

 

 きっと、チヒロも限界が近かったのだろう。話では寝ずに捜索を指揮してくれていたようだし、後で何かお礼をしなければならない。

 

「まあでも…………ごめん、ちょっと電話」

 

 お礼に何をしようかとエイミが思い悩んでいると、先生の携帯に電話がかかってきたようだった。

 

「えっと……ごめんね、良く聞こえないんだ」

 

 どうやら、相手の話が良く聞こえないらしく先生はスピーカーモードにして通話を続行する。

 

『ゲホッ……ゴポッ……助け……』

「!?」

 

 しかし、聞こえてきたのは咳き込む音と、液体を吐き出す音。音の感覚からして吐血しているのだろう。

 

「大丈夫!?助けが必要なんだね!?すぐに向かうから!!……アロナ!逆探知お願い!」

『分かりました!』

 

 先生は、電話の向こうの相手の様子から相手が話せないほどボロボロになり、必死に助けを求めているのだと判断した。そしてすぐさま、シッテムの箱に逆探知をするよう指示を出す。

 

 シッテムの箱であれば、この電話がどこからかかっているのかすぐに特定できることだろう。

 

『ひ……』

「ひ?……とにかく!もう喋らないで安静にしてて!すぐに向かうから!」

 

 先生は、安静にするよう念押ししているが、相手は必死に何かを伝えようとしている。

 

 しかし、エイミの中には何か別な考えが浮かんでいた。浮かんでいるのだが、どういう考えなのか言語化ができない。

 

『ひま…………り…………』

「ヒマリ……、ヒマリって言ったの?」

 

 __今、ヒマリと言ったのか?

 

 エイミは思わず、ヒマリの顔を見てしまった。やはりヒマリにもそう聞こえたらしい。

 

「今の声……いえ、そんなはずは…………」

「……部長?」

 

 電話の声を聞いたヒマリは、エイミを見つめ返しながら少し考えた。

 

「先生、その方と少し話をさせてくれませんか?」

「分かった。ヒマリならちょうど目の前にいたから、代わるね」

 

 先生は頷くと、携帯をヒマリに渡す。

 

「はい。お電話代わりました明星ヒマリです」

『ガシャン!ツーツーツー……』

 

 ヒマリが電話に出た瞬間、相手は受話器を落としてしまったのか、衝撃音と共に電話が切れてしまった。

 

「…………あら」

 

 一応かけ直してみたが、相手は公衆電話。出るはずがなかった。

 

 

 

 

 この■■自治区という場所はミレニアムから約1万km離れた場所に位置する自治区である。

 

 先生は先にこの自治区の治安維持組織に連絡し、電話してきた相手を保護するようお願いしたらしい。関わったことのない自治区なのに、こんなに深夜なのに、応えてくれたのは流石先生と言うほかない。

 

「これが、あの生徒が電話してきた電話ボックス……ずいぶんと古いタイプだね」

 

 ミレニアムで待ってていいと言われたのだが、ヒマリはどうしても気になることがあるらしく、先生たちと共にやってきたのだ。もちろん、エイミとトキも同行している。

 

 通常の移動手段であれば、移動だけでほぼ1日が終わってしまうような距離ではあるが、エイミたちはキヴォトスでもトップの技術力を誇るミレニアム。最新型の航空機を使えば、片道数時間で済むのだ。

 

「誰もいませんねぇ……悪戯だった……とは思えませんが」

「悪戯だったら、部長の名前を呼んだりしないと思うし……」

 

 そんな最新の技術に囲まれているエイミにとって、この目の前の電話ボックスはもはや骨董品レベルの代物である。しかし、ここから電話がかかってきたということはまだ使えるのだろう。

 

 エイミはとりあえず何か手掛かりが残っていないかと、周囲を探してみるが特に異常はなく、電話から聞こえてきた音の限りでは吐血している様子だったが、血痕も1つもない。

 

「……あれ?」

 

 ふと、エイミの視線が、床に落ちている小さな物体に留まった。それはピンク色をした『手のひらサイズの』奇妙な物質だった。

 

「何だこれ……?」

 

 エイミは、その物体をじっと見つめた後に近くに落ちていた小石で軽く突いてみた。しかし、それは全く反応を見せない。

 

「エイミ? 何か見つかりましたか?」

「あ、うん。ちょっとこれ見て。」

 

 エイミは、慎重にそれを拾い上げてヒマリに見せた。

 

「えっと……どれですか?」

「これだよ、これ……ん、あれ?」

 

 しかし、エイミが手を差し出した瞬間、それはまるで雪が溶けるように、静かに消え失せてしまった。

 

「……消えた?」

 

 残ったのは、空っぽの手のひらと二人の間に生じた不可解な沈黙だけ。

 

「……何だったんだ?」

 

 エイミはその場に立ち尽くし、どこか奇妙な心地よさを覚えながら、自分の手をじっと見つめた。

 

 

 

「ほら見ろメグミ、やっぱりあいつら良いところのお嬢様だったじゃないか。メイドさん連れてるし絶対そうだぜ」

「おうお前ら!無事にお迎え呼べたみてーだな!安心したゼェーっ!」

 

 見知らぬ二人組が、エイミたちに話しかけてきた。向こうはエイミたちのことを知っているような口ぶりだが、『エイミ』は彼女のことなど全く知らない。初対面である。

 

 しかも、話している内容からして一方的に知っているという訳でもなさそうだった。

 

「すみません……どなたですか?」

「おいおい、別れる前にちゃんと名乗っただろぉ〜?」

「イズコとメグミ!忘れたとは言わせねえぞ?」

 

 

 

「おう!それでアタシはそこのピンク髪の方が必死に頭下げてるのを見て、もう感激!100円渡してやったって訳よ」

「なるほど……ちなみにそれは何時ごろのことでしたか?」

「んぁ…………日付は変わってたよな」

「多分……」

「1時ごろ、でしょうか」

「あー、うん、多分そんぐらいだな」

「……ということはやはりあの電話をしてきたのは」

「もう1人の私ってこと?」

「そう、考えても良さそうですね」

 

 しばらく話していると、彼女たちの身に何があったのかの大まかな概要がつかめてきた。

 

 どうやらこの2人はエイミとヒマリに似た『誰か』と遭遇。

 

 真夜中にうるさくしているから注意しようと怒鳴り込んだら100円貸してほしいと必死に頭を下げてきたので、100円を渡して別れる。

 

 うろついているとこの自治区に今やってきた『私たち』と出会い、お礼をすると約束したから話しかけてきた。

 

 そういうことらしい。

 

「じゃあね。いつでもいいから、気が向いたらシャーレに来てね」

「おう!考えとくぜ!」

「じゃあな!!」

 

 とりあえず大まかな内容も分かり、2人も状況を飲み込めたようなので、先生は連絡先を交換して別れた。

 

 色々とめんどくさいことになっていたのに、こうやってすぐに連絡先を交換できるほどに仲良くなれるのは、流石先生と言ったところか。

 

 エイミは、そんな先生の様子に内心で感心するやら呆れるやら。しかし、エイミの頭には、話に出てきた自分そっくりの『何か』が引っかかっていた。

 

「ふむ……私とエイミがもう一人ずついたということですか……なるほどなるほど……」

 

 そしてヒマリもまた、自分のそっくりな謎の存在に思いを馳せている。

 

 まさに『特異現象』と呼ぶべき相手。しかも、特異現象捜査部の姿そっくりのドッペルゲンガーと来た。それに、あの2人の様子からして嘘ではない。

 

 __ならば、やるべきことは1つ。

 

「奇しくもここに揃っているのは特異現象捜査部のメンバーですし、調査開始と行きましょうか!」

 

 ヒマリは、声高らかにそう宣言した。そしてエイミの手を取る。

 

「さあエイミ!まずは聞き込み調査ですよ!私たちのドッペルゲンガー!その正体を探るのです!!」

「……えー、ドッペルゲンガーってあったら死ぬんじゃないの?」

 

 エイミは、そう口にしたが実際は不安に思ってなどいない。いや、思うわけが無かった。

 

「そのメカニズムを解明するためにもまずは調査ですよ!丁度私たちと同じ顔をしているらしいので聞き込み調査も早いでしょうし!」

「はいはい。その方が合理的だしね」

 

 

 

 __だって、部長がいるから

 

 エイミの視線の先には、頼れるヒマリの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛鳥馬トキは、イチャついているエイミとヒマリを眺めながら若干の苛立ちを感じていた。

 

 まったく、どうしてあの距離感で付き合っていないのか不思議で不思議で仕方ない。もしや、既に恋人などという関係を超越した何かになっているのではないかと疑ってしまうほどに、飛鳥馬トキはあの2人にヤキモキしていたのだ。

 

「…………先生、どうかしました?」

 

 そんな時、先生が自身の携帯をやけに怖い顔つきで睨んでいることに気が付いた。それをトキは不思議に思って訊ねる。

 

「……いや、あんまり会いたくない友人から飲み会のお誘いが来たなって」

 

 この時、飛鳥馬トキが見た先生の顔は、本当に嫌そうだった。

 

 

 

 

 

『蛇足 その2』

 

 

 

 

 

ハイランダー鉄道学園 報告書

件名: 百鬼夜行連合学院第二商店街前駅 X番ホームへの正体不明車両侵入について

更新日: 20XX年XX月XX日

作成者: ハイランダー鉄道学園 調査部

 

概要

【XX月XX日更新】

連邦生徒会とシャーレからの要請により、本調査は終了となりました。また、調査終了と同時に本調査および本現象に関する一切の出来事は口外禁止となります。

 

 

  

以上

 

ハイランダー鉄道学園 調査部

 

 

 

 

 

 先生は、あの後休憩を挟みつつ、自治区の調査隊やイズコとメグミの2人と協力してエイミとヒマリに似た『誰か』を捜索したが、発見には至らなかった。

 

 潰れた商店街に防犯カメラなどあるわけもなく、目撃情報もイズコとメグミの2人以外からは何もない。

 

 エイミとヒマリは、行方不明になっていた間に起こったアレやコレを解決するべくトキと共に一度帰還。

 

 

 

 

「……ようこそ」

 

 1人で自治区に残った先生は、とある人物に呼び出されていた。いや、『人物』と呼称するには若干怪しい見た目をしているが、そこは問題ではない。

 

 とにかく、先生は呼び出されてこの場所に来たのだ。

 

「……どうも」

 

 やってきたのはとあるバー。客は誰もいない、寂れたバーである。

 

 マスターらしき“存在”が床をモップで掃除していたので、先生は会釈した後、招待状を見せた。

 

「お連れ様は下でお待ちです。……が、“処理”をしたばかりなので塩素の臭いが少々厳しいかもしれません。何かあれば、私まで」

「ありがとうございます」

 

 マスターが地下へ続く階段を指さしていたので、先生は下って行く。

 

 __きっとマスターも“彼”の仲間なのだろう

 

 

 

「やあ先生、お待ちしていましたよ」

「……何の用かな、黒服」

 

 地下で待ち構えていたのは、薄暗い部屋で一人ワインを楽しんでいた黒服だった。

 

 その様が妙に似合っていて謎に腹立ったが、先生はそれをわざわざ顔に出すこともなく黒服の向かいの席に座る。わざわざ呼び出したということは、何か言いたいことがあるのだろう。

 

「……どこからお話ししましょうか」

 

 黒服は、先生の前に置かれたワイングラスに赤ワインを注ぎながら話し始めた。

 

「明日も大事な仕事だからあんまり飲みたくないんだけど」

「……釣れませんねぇ、せっかく私が奢ってあげようとしているというのに、もったいない……では、要望にお応えして少しだけ」

 

 そのワインは、赤黒くてまるで血液のような色だ。

 

「まあでも、これから私がしようとしているのは、おそらくその『大事なお仕事』に関するお話ですよ」

 

 それは先生も薄っすらと察していた。タイミングがちょうどよすぎるし、このバーはもうひとりの『エイミ』が電話してきた場所からそんなに離れていない。

 

「では、小話と行きましょうか。本題への前振りであり、参考資料でもあります」

「私としては、早く本題を話してほしいものだけどね」

「まあまあ先生、1つ質問です。『この場所』はどういった場所ですか?」

 

 黒服は、クイズの出題者のように訊ねてきた。

 

「……バーじゃないの?」

 

 先生からしてみれば、『ただのバー』でしかないのでそう答えるしかない。もっとも、黒服が用意した場所だから本当に『ただのバー』であるとは思っていないが。

 

「ええ、その通りです。では質問を変えましょうか。バーとは誰の場所ですか?」

「大人の場所、私たちみたいな」

「はい。子供が入る場所ではありません」

 

 答える黒服の顔は、誇らしげだった。

 

「……これが本題と何の関係があるのさ」

「そう急がないでください。バーというのは大人の場所、大人にとっては『日常』ですが、子供にとっては『非日常』なのです」

「私はあんまり飲まないから、非日常寄りの場所ではあるけどね」

「個々人の感覚的な話をしているのではありません。世界における概念的な話です」

 

 黒服は、少しだけ眉を顰めた。何だその顔は、自分語りの隙を見せたそっちが悪いだろう。

 

「この場所は『境界』、大人と子供を分かつ場所」

 

 先生のささやかな抗議を受け流して、黒服は話を続ける。

 

「大人の場所には子供は入れない。それがルールです。しかし、逆説的に言えばここに入り込めるなら『子供』ではないのです」

 

 要するに黒服は、この『ただのバー』は『生徒(こども)が入れない場所』だと言いたいのだろう。確かに『大人の話』をするのにうってつけの場所ではあるが。

 

「ここで大事なのは、『入り込める』と『大人』が必ずしもイコールではないということです」

「……というと?」

「子供のような大人、覚えがあるんじゃないですか?」

「……まあ」

 

 先生は、思わず嫌な顔をしてしまった。子供から成長していない大人にひどい目にあわされてばかりだからだ。

 

「そして、『大人でも子供でもない何か』もルール的には入ることが可能なのです」

 

 黒服は、突然席を立ち、壁のスイッチを押した。

 

「……そんなわけで今回この場所に入り込んできてしまったのが『彼女たち』です」

 

 小さな舞台が照らされる。きっとあの場所は、バーの演奏をしたりするための場所なのだろう。

 

 だが、そこには演奏者ではなく、赤黒い謎の液体で満たされた容器が置かれているだけだった。

 

「何これ」

 

 先生には全く中身の想像がつかなかったので、素直な疑問を口にした。

 

 容器の中身は、ピンク色のドロドロとした液体で満たされ、一部が結晶化しているようだった。これはいったい何なのか。

 

 いや待て、さっき『彼女たち』と言わなかったか?

 

 __まさか

 

「あなたたちが『明星ヒマリ』と『和泉元エイミ』と認識している生徒だったものですね」

「……は?」

 

 先生の嫌な予想は当たってしまった。

 この目の前の容器に入った液体がエイミとヒマリだとでも言うのか。

 

「正確にはそのクローンとでも言いましょうか。それの成れの果て、先ほど申し上げた『大人でも子供でもない何か』とはこういうことですよ」

「また、生徒に手を出したのか……!?」

 

 先生は、勢いよく黒服に掴みかかった。しかし、黒服はそれに動じることなく話を続ける。

 

「とんでもない……私でも、私の仲間でもありませんよ。これをやったのは『彼女たち』の敵です」

「なら、いい」

 

 先生は手を離し、自分の椅子に再び腰掛けた。

 

 

 

 エイミとヒマリ(特異現象捜査部)の敵。心当たりはある。

 

 それも、僅か一晩でクローンを作り出せるような技術力を持ち、電子上の記録を一切消し去ってミレニアムの追求を逃れられるような相手。

 

 __非常に、面倒くさいことになった。

 

 

 

「別に、クローンでも活動することは可能ですよ。本人たちと比較してかなり脆い存在であるものの、扱いに気を付ければ」

 

 先生は、クローンという分野に詳しくはない。

 

 それでも、クローン技術で作り出された牛やら羊は短命だった、という話をどこかで聞いた覚えがあった。そういうことだろうか。

 

「しかし、彼女たちは自分が『生徒』であることを否定してしまった。そのせいで存在を保つことができず、こうしてドロドロに溶けてしまったんでしょう」

「生徒であることの否定……?」

 

 先生は首を傾げた。生徒が生徒であることを否定するなんて、そう簡単にできることなのだろうか。

 

「そうですねぇ……。もしかしたら、あなたが『たとえクローンでも生徒に変わりはないよ』とでも言ってあげれば、助かったかもしれません。通常の彼女たちとは仕様が色々違いましたから【クローン】として存在を確立できたかもしれませんね」

 

 今まで何人か、『学校を辞めた』生徒と出会ったことはある。彼女たちは自分のことを『生徒』と思っていないかもしれないが、私からすれば大事な生徒であることに変わりはない。

 

「じゃあなんだ、このエイミとヒマリがドロドロに溶けたのは、私のせいだとでも言いたいのか?」

 

 先生は、再び席を立ち、黒服を睨みつけていると、黒服は両手を振って落ち着くよう促してきた。

 

「そうではありませんよ。確証のない話ですし…………」

 

 黒服は、舞台上のエイミとヒマリの入った容器に触れた。

 

 

 

 

「彼女たちは最後まで幸せそうでしたよ?生徒の幸せを願うあなたにとって、一つの理想の終わり方だったのでは?」

 

 先生は、その黒服の言葉に、何と言えばいいのかまったく分からなかった。

 

 

 

 私から見れば、バッドエンドでしかない。けれど、彼女たちは彼女たちなりのハッピーエンドにたどり着いたのかもしれない。

 

 それを、傍観者でしかない私が勝手に否定してしまっていいのだろうか。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 ワインをちびちびと飲む。こんなに飲んでいては誰かに怒られるかもしれないが、もはや『飲まなきゃやってられない』の域に到達している。

 

 

 

 先生は、頭を抱えていた。

 

 色々考えなきゃいけないことはある。しかし、受け止めきれなかった。

 

 そして、エイミとヒマリにどう説明すればいいのか、分からなかったのだ。

 

 こんな突飛な話を信じてくれるかどうか不安に思っているわけではない。常に訳の分からない『特異現象』と戦っている二人だ。異常事態の一つや二つ、すぐに飲み込んでくれることだろう。

 

 ただ、『あなたたちのクローンが勝手に作られていたみたいです』『そしてそれがドロドロになるまで溶けたのがこちらになります』と料理番組の時短テクニックみたいなやり方でお出ししたところで、理解してくれるわけがない。

 

 理解はしてくれるだろうが、『自分の死体と呼んでも差し支えない物体』を見せられたら、どう思うのだろうか。

 

 なるべく傷つけずに真実を伝える方法……そんなものがあるのか?

 

 

 

「……難しかったようですね。分かりやすく説明して差し上げましょう」

 

 しばらく思い悩んでいた先生を『理解ができなかった』と解釈したらしい黒服は、スマホを取り出して何かのアプリを起動した。

 

『砲分社!アニ……』

 

 黒服のスマホから、静かな地下室に似つかわしくない可愛らしい女の子のボイスが大音量で流れた。

 

「失礼、先ほどまでアラームをセットしていたので音量が最大なのを失念していました」

「……やってるんだ、きらきらファンタジー」

「ええ。面白いですよね」

「それは同意する」

 

 先生は、自分がのめりこんでいる『ソシャゲ』が黒服と同じで若干嫌な気分になったが、そんな理由で冷めてしまうと逆に失礼なくらいにはやりこんでいた。

 

『開きますよ~!』

 

 黒服が画面を見せてくると、見慣れた水色の女の子が『10連ガシャ』を引いている場面だった。今度は適正な音量でSEと音楽が流れている。

 

『次回も頑張ります!またいつでも来てくださいね?』

「…………」

 

 最高レアリティには掠りもしていない。俗に言う最低保証、見事な爆死だ。

 

「何がしたかったの?」

 

 先生は、今の行為に何の意味があったのか黒服に訊ねる。

 

「……先生はドッペルゲンガー、というものをご存じですか?」 

 

 しかし、黒服は今のガシャの結果を誤魔化すように、違う話を始めてしまった。

 

「自分と同じ顔をしている人と出会ったら死ぬとか、そういう話だったよね」

「差異こそあれど、概ね似通った話でしょう。では、なぜ死んでしまうのか考えたことはありますか?」

「ふむ……」

 

 先生は、少し考え込んでみた。

 しかし、それらしい理由が思いつかない。有名な話であるから、『そういうもの』としか思っていなかったのだ。

 

「私は『同じ顔の人物と出会ってしまったから死ぬ』のではなく、『世界のルールとして同一存在が許されないから消滅する』だと考えています」

 

 答えさせる気がなかったのか、黒服は、返答を待つことなく勝手に言葉を続けた。

 

「なぜ、クローンという技術が禁忌とされがちなのか、ご存じですか?」

「技術がまだ追いついてないからとかじゃなかったっけ、あと人権」

「ふむ、それも一つの正解かもしれませんが、私の考えでは倫理的、技術的な理由だとか人権がどうこうではなく、世界のルールとして同一存在が許されないから、です」

「世界のルール……」

「そこで、彼女たちです。『クローン』という許されざる存在だったからこそ、この世界に降り立った瞬間、消えゆく運命が定まってしまいました」

 

 

 

 

「ここまでの話を分かりやすく説明すると、『これ』という訳です」

 

 黒服は、自身のスマホ画面を見せてきた。

 

「いいですか?『全く同じ生徒』は2人も存在することができません。そういうルールなんです。この世界は」

 

 そこには、キャラ被りにより強化素材だけが残った、見るも無残なガシャ結果が映っているだけ。

 

 

 

 

 

「……【水着】だとか【バニー】にでも着替えていれば、話は別だったかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 ドロドロに溶けてしまったエイミとヒマリは、一部が結晶化していた。

 

 その結晶は、ピンク色で、六角形で、透き通っていて、照明の光が反射してキラキラと輝いている。

 

 

 

 __それは残酷なまでに『神秘的』で、綺麗だった

 

 

 

=終=




とある事情でチアキを天井したらシグレが2人来ました
5人目です(日記)

ヒマリの新衣装、待ってます
特異現象捜査部だけで6人固めた編成とかやってみたい
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