物理的に体を求められ始めた原因は多分TS 作:ろくんろる
俺はどうやら空から降ってきたらしい。
意味が分からないし、それなら俺は宇宙で生まれた宇宙人なのかと思ったがどうやら違うようだ。
人々は俺の事を「天使様」と呼び、そして俺の身体を釘の如き針がいくつも生えた箱の中に押し込めた。
あ、俺これ知ってますいわゆる「アイアンメイデン」ってヤツですよね?
そしてそれの使用意図に関してはそれこそ俺の知っていた通り、俺の生き血を得るためだった。
それを、その箱から出て撒き散らされた俺の血を啜る人々を見て知った。
……何故、体のところどころを針で刺されてもなお俺は生きていられているのかは分からないが、それでも俺はそこで逃げ出した。
それはもしかしたら生存本能だったのかもしれないし、もしかしたら違うかもしれない。
とにかく俺は逃げて、そして俺の肉体はどうやら木々を容易くへし折れる事に気づく。
なんという剛力、なんという怪力。
それに気づいてから、俺の逃走速度は早まり、そして完全に彼らを振り切る事に成功する。
そして、その先で泉を見つけた俺は、その水面に映った傷ひとつないハッとするほどの美しい少女の姿を目撃する事になる。
「なん、だ?」
頬を引っ張り、薄い胸に手を当て、身体を見下ろす。
そこにあったのはやはり細い身体であり、おおよそあのように木々を力任せにへし折れるとは思えなかった。
しかし、と振り返るとそこには俺が通って出来た道が出来上がっており、そしてよくよく考えてみるとこれって道を辿ればすぐに俺の位置を捕捉できるのでは、という考えに至る。
だから俺は混乱して思考が止まりそうになるのを堪えて、すぐにまた移動を再開する。
今度は、木々を傷つけないように、慎重に。
それから一週間程度が経過して分かった事。
ここは、異世界であるみたいだ。
その世界に転生して女の子になった事はひとまず置いておく。
この世界で遭遇した生き物の中には不思議な力を有する者がいる。
便宜上、俺はそれらを「魔物」と呼んだ。
「魔物」はみな強力であり、俺でなければ死んでいた事だろう。
しかしながら俺は、強い。
少なくともこの周辺で俺の体を傷つけられるものはいないし、傷つけられたとしてもすぐにそれは塞がる。
あまりにも死が遠いこの肉体に恐怖していたのは刹那。
すぐにこの肉体の最も正しい使い方を理解する。
つまり、捨て身だ。
グルルロロロ……
俺の姿を確認して威嚇をしてくる便宜上「ドラゴン」。
御伽話など創作物で出てくるような、四足二翼のファンタジー生物に対し、俺は後のことなど考えていないような猛スピードの助走、からの、飛び蹴り。
まさしく『物理』そのものな一撃、それだけで頂点捕食者と形容される事もあるその生物は絶命、木っ端微塵になった。
我ながら、恐ろしい。
この身が何なのか分からないし、同時にそんな訳のわからないものの生き血を啜ろうと考えた連中やべーなと改めて思った。
「さて、と」
この鈴を鳴らすような涼やかな声色は慣れないけど。
とりあえずは、目の前にある生き物の成れの果て、ドラゴンの肉を食べて腹を満たそう。
ドラゴンの肉、生でも美味しくお腹を壊す事もない。
何なら食べたら食べた分だけ元気がもりもり湧いてくるので、最近は率先して狙っている。
もぐもぐ、がっくん。
美味しいけど、流石にそろそろ文明的な食事をしたいなー。
◾️
龍の死体。
バラバラになった骨の山は、それが意思ある生命体によって屠られた事を如実に伝えてくる。
骨には肉が付着してない箇所が多く綺麗だ。
それはつまり、肉をしゃぶりつくように捕食したものがいた証拠。
……調査を続けよう。
凶星は西の空に爛々と浮かび輝いている。