デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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 基本的に本作は原作をざっくりとでも知っている方向けの作品となりますが、極力原作を知らない方でも分かるような作りにしていこうと思います。


第一話 魔術師(ウィザード)の少女達

──…もう、お別れなの?もう、会えないの…?やだ、そんなのやだよ……。

 

──我が儘を言うのではありません。漸く家族に会えたのです。家族は、大切にするものですよ。

 

──でも、でも…ふぇ、うぇぇ……。

 

──泣くのも駄目です。それでは、強くなれませんよ?いいのですか?

 

──…どうしたら、つよくなれる…?

 

──強くなるには、努力する事、諦めない事、真に信ずるべきものを信じる事…そして、自分の思う『最強』を追い続ける事です。そうすればきっと…私の次位には、強くなれますよ。

 

──つよくなれたら…また、会える?

 

──それは分かりません。ですが……えぇ、もし貴女が強くなり、その上でまた会える日が来るとするなら…その日を、私も楽しみにしています。

 

──……!うん、うん…っ!約束だよ、約束だからね…っ!

 

 

 

 

 それはどこかの、古い記憶。遥か彼方の、優しき記憶。きっとそれは…今に繋がる、確かな楔。

 

 

 

 

──…ぅ…まだ、あんまり…上手く、しゃべれない…から……。

 

──大丈夫です!上手く喋れなくたって、私たちはもう、友だちです!ですよね?

 

──あぁ!辛いこととか、困ったこととかあれば、いつでも俺たちを頼ってくれ!いつだって、力になるからさ!

 

──ほんと、ほんと…?え、と…えと…まずは……。

 

──ふふっ。思いつかないなら、まずはあそびにいきましょう!

 

──あ、わ、わ……っ!…うん……!

 

 

 

 

 それもまた、古い記憶。最早朧げな…されど確かにあった、穏やかな記憶。だからきっと……これもまた、始まりの一つ。

 

 

 

 

 伝統と文化を感じさせる、白と茶に彩られた街並み。本来ならば街行く人々による賑わいに包まれている、包まれているように思えるその街並みは、しかし今閑散としていた。

 されど決して、寂れている訳でも、捨てられた訳でもない。街は十全の姿を保ったまま、人の姿の消えた…人々が一切にどこかに行ってしまったかのような、不自然な形相を見せている。

 そしてそんな状態でありながら、決して街は静かではない。街の一角に、光が煌めき…爆発が、轟音が、建物と建物の間に響く。

 

「く、ぅ、うぅぅ…ッ!」

 

 空から飛来する弾丸にミサイル、それに光線。一撃一撃が、並みの人間など容易に亡骸へと変えてしまうであろうそれが、空から纏めて叩き込まれる。…少女に、降り注ぐ。

 だがそれを、少女は躱す。軽やかに跳び、路上を滑るようにして飛んで、次々と躱していく。全てを躱し切る事は出来ず、偏差射撃で撃ち込まれた光線が少女の眼前にまで迫り来るが、その光線は当たる直前で何かに阻まれ、弾かれ、拡散する。

 

「まだ、まだぁ…ッ!」

 

 四散する光に照らされるのは黄色の髪。闘志を灯らせるのは黒の瞳。自分を鼓舞するように声を上げた少女は、視線を上げて空を飛ぶ存在をしっかりと見据える。右腕を振り上げ、右手で保持した武器を構え、トリガーを引く。その銃口からは、光線が…魔力で編まれた閃光が放たれる。

 10.5㎝レイザーカノン〈メリーラム〉。使用者の精製した魔力を弾とし放つ、最新鋭の携行型魔力砲。当然そんなものを普通の少女が、常人が使用出来る筈はなく、同時に弾丸やらミサイルやらを悉く躱せる筈もない。百歩譲って射手が適当に射ったか装備の状態が悪過ぎて真っ直ぐ進む事も叶わない状態であったのなら、まだ着弾コースに乗らない程度であれば理解も出来るが、当たる軌道であった光線さえも弾かれるとなれば、いよいよ持ってあり得ない。飛んでいる事含め、普通に考えれば、全てが全て非常識。

 ならば何故、それが実際に起こっているのか。…それは、彼女がただの人間ではないからである。彼女は、どこにでもいる普通の少女…では、ない。

 

「これ、で…ッ!」

 

 一発放った直後、続けざまにもう一発発射。更に脳から指示を出し、バックパックのポッドをオープン。そこからマイクロミサイルを放ち、点の攻撃であるレイザーカノンと、面の攻撃であるマイクロミサイルとの同時攻撃を空に仕掛ける。

 戦術顕現装置搭載(コンバット・リアライザ)ユニット。科学技術を用い、演算結果を現実へと繁栄させる、超常の域へと足を踏み入れた叡智の結晶たる顕現装置(リアライザ)の内、戦闘用に、戦術的に運用する事を前提とした、純然たる兵器。そしてそれを身に纏い扱う者こそが、現代の魔法使い、魔術師(ウィザード)であり……彼女もまた、その一人。魔力を推進剤とするスラスターで飛び、脳を演算装置として周囲に展開する随意領域(テリトリー)の防性を強める事で光線を防ぎ、自身も装備を操り攻撃を仕掛けているというのが、普通ではない彼女の今。

 魔術師(ウィザード)は、魔術師(ウィザード)魔術師(ウィザード)たらしめる根幹である権限装置(リアライザ)さえあれば、プロの軍人だろうと格闘家だろうと、あくまで通常の範疇に収まる人間であれば圧倒出来る。何人が相手であろうと勝利出来る。にも関わらず、今彼女は押されている。劣勢に追いやられている。何故かといえば、理由は単純。…相手もまた、彼女と同じ魔術師(ウィザード)なのである。

 

「ちっ、本当にちょこまかとばっかり…!」

「やはりここは、接近して一気に仕留めた方が良いのでは?彼女が得意とする距離も中距離以上の筈ですし、接近戦に持ち込めばすぐに……」

「まあ待ちなさい。彼女はあくまで前座だって事は皆分かってるでしょ?だからここは確実に、危険を極力避けて着実に戦闘不能にする方が得策よ」

 

 下方からの光芒をひらりと躱し、押し寄せるマイクロミサイルの束を散開からの射撃で全て叩き落とす。そのまま更に広がり、三方向からの波状攻撃を少女に浴びせる。

 武装こそ違いはあれど、その下地となる装備、ワイヤリングスーツは少女と同じ装いという、三人の女性。彼女達は通信機越しに話しつつも、少女とは距離を保ったまま、射撃を続ける。上を取りながら追い立てる事で空に蓋をし、少女を街へ、地上へと押し留める。

 少女の動きは決して悪くはない。されど、一対三というのは明らかに多勢に無勢。更にこの戦闘は始まってから既にそこそこの時間が経っており、消耗の差もまた歴然。

 

「わっ、っと…この…ッ!」

 

 忙しなく目を動かし、三人の姿を捉えるようにしながら、少女は後ろ向きに飛ぶ。魔術師(ウィザード)としての力を意のままに操れる随意領域(テリトリー)を一瞬だけ広範囲に展開し、周辺の建物の配置や自分との距離を把握する事で、進行方向は一切見ないまま街の中を左は右へと駆け巡る。建物を盾にする事で、三人からの集中砲火を何とか躱す。

 それでも少女は、次第に追い詰められていく。反撃の機会は失われていき、防戦一方となっていく。功を焦って突っ込んできてくれれば、と思う少女だったが、残念ながら女性達は陣形を崩す事なく、安全に、確実に勝利へと進む。

 

「そこぉ!」

「……っ!この距離なら、まだぁ!」

 

 スラスター全開で進路先の上方へと先回りした女性の一人の、マイクロミサイル一斉射。噴射炎を靡かせながら迫り来るミサイルに対し、少女は反転。右手のレイザーカノンに加えて左手に構えたガトリングガンのトリガーも引き、同時斉射で撃ち落としていく。ガトリングで弾幕を張り、抜けてきたミサイルをレイザーカノンで撃ち、集中力をフル稼働させ可能な限りミサイルを撃墜。落とし切れない分はギリギリまで引き付けた上で跳躍をし、自身の代わりに路面へミサイルをぶつけさせる。

 されど、彼女もミサイルもただの陽動。跳んだ少女を待ち構えていたように、別方向から射撃が襲う。それを随意領域(テリトリー)で受け止めながら反撃のガトリングを撃ち込む少女だが、余裕十分な女性はあっさり少女の反撃を躱し…更に違う方向からの攻撃が、少女を撃つ。身を捩って何とか着弾は避けた少女ながら、武装まではそうもいかず、攻撃でガトリングガンが使えなくなる。

 

「これで、終わりです!」

 

 間髪入れずに銃口を向けるのは、先程反撃を避けた女性。他の二人も、既に少女の防御や回避を想定して行動中。完全な詰み、自分一人ではどうにもならない状況。そんな窮地を前に、少女は奥歯を噛み締め……

 

「──えぇ、終わりです。尤もそれは、そちらが…でいやがりますけどねッ!」

 

 天空から、閃光が迸る。少女のものでも、女性達なものでもない…それ等よりもより濃密な魔力を込められた光が、それも一条や二条ではない光の束が、今正に少女を撃たんとしていた女性の…彼女の展開していた随意領域(テリトリー)へと直撃する。

 ただでさえ自分達が扱っているものとは段階の違う砲撃を、それも不意打ちの形で浴びせられた女性は一溜まりもなく、こちらも構えていた火器が使用不能に。辛うじて随意領域(テリトリー)は貫かれなかったものの、防御の負荷が一気に脳へと襲い掛かり、女性は宙で姿勢を崩す。

 

「ふふっ、待ってたよ──真那!」

「待たせた分のお返しはしますよ──侑理!」

 

 突然の強襲に、残る女性二人も狼狽。一方少女はぱぁっと表情を輝かせ…遥か上空から飛来する、もう一人の少女に声を掛ける。真那、そう呼ばれた少女もまた、小さな笑みと共に言葉を返し、数瞬前に砲撃を浴びせた女性に向けて肉薄を掛ける。

 風にはためく青い髪と、鋭い光を灯す琥珀色の瞳。手にしているのは、左右二振りの光の刃。懐に潜り込まれた女性は何とか立て直し、自身も近接格闘武装を抜こうとするが、それよりも速く振るわれた真那の一閃が武装を弾き飛ばす。流れるような斬撃が打ち込まれ、随意領域(テリトリー)を斬り裂いていく。

 随意領域(テリトリー)への負荷は、魔術師(ウィザード)へのダメージとほぼ同義であり、随意領域(テリトリー)の消失もまた、魔術師(ウィザード)としての戦闘不能に直結する。そして女性は、真那の猛攻で随意領域(テリトリー)消失にまで追い込まれ…あっという間に、戦闘不能へと陥った。

 

「マナ…!?くっ、なんてタイミングで……!」

「不味い…作戦変更、一気にユーリを仕留めるわよ!このまま二対二になるのは……」

 

 新たに現れた…否、合流してきた相手方の味方の姿に、女性二人は数的有利を取り戻そうとする。しかし彼女達が真那の強襲に視線を奪われていた隙に、侑理と呼ばれた少女は姿を眩ましていた。

 いた筈の相手がいない。その驚きは、二人に更なる隙を作る。そしてその隙は、真那を相手取るにはあまりにも致命的。

 

「侑理を探す暇があるなんて、随分と余裕じゃねーですか…ッ!」

「ぐっ…真正面からの、攻撃なんて…ッ!」

 

 凄まじい速度で突進を仕掛ける真那に対し、狙われた女性は全力で以って応戦。ライフルでのフルオート射撃を掛け、ミサイルを放ち、真那を迎撃しようとする。

 されど真那は、それ等全てを最小限の動きで躱す。魔力を込められた弾丸もミサイルも、その弾幕に突っ込む形でありながら…否、突っ込む形であるからこそ、細かく、機敏に、一切の無駄のない機動で躱して女性に迫る。いっそ鮮やかですらあるその動きに女性は目を見開く…が、同時にこれだけで仕留められるとも思ってはいなかった。避けられるか防がれるかする…そう思ってもいたが故に、真那が近接戦の間合いに入る直前でレイザーカノンを振り上げる。目一杯魔力を充填した一撃を、至近距離から真那へと放つ。だが……

 

「な……ッ!?」

 

 撃ち込まれた魔力の一撃は、しかし真那には届かない。それもただ躱した訳でもなければ、単に随意領域(テリトリー)で防いだ訳でもない。放たれた魔力の光線は、通常直進しかしない筈の一撃は、真那の周囲で滑るようにして曲がり、彼女を避けるようにして飛んでいく。

 それは、随意領域(テリトリー)による防御術の中でもかなり高度な該当の一つ。壁として防ぐのではなく、武術における受け流しが如く随意領域(テリトリー)表面で逸らす事によって防御の衝撃をほぼ受けないまま攻撃を凌ぎ…そのまま反撃。お返しの十字斬りと、更にそこから蹴りを交えた連撃を叩き込む事により、一人目同様二人目も一方的に黙らせる。

 

「これで後一人。このまま決めさせてもらいます…!」

「相変わらず、なんて無茶苦茶な戦闘能力…!…こうなったら、一旦引いて……」

 

 落下していく二人目を一瞥した後、真那は身を翻す。彼女がその場を離れた直後、最後の一人となった女性の射撃が真那のいた場所を駆け抜ける。

 あっという間の逆転劇。実力差を見せつけての圧倒。だが女性はそれに恐れ慄くでも、逆上して真那に突進するでもなく、悔しげに表情を歪めながらも一時撤退する事を選ぶ。それは正しい判断であり、完全に見失わせる事が出来れば、先程の真那の様に不意を突く事も可能になる訳だが……彼女が撤退の為に反転をしたその瞬間、下方から魔力の光芒が彼女の随意領域(テリトリー)を強かに撃つ。

 

「……ッ!?ユーリ…!?いつの間に…ッ!」

 

 防性を強めていなかったが故に大きく揺らされる女性の身体。その一撃は、彼女が気付いた通りの、再び姿を現した侑理の射撃。それ自体は女性に大きなダメージを与えた訳ではない、一対一なら十分何とかなる程度のものであったが、真那にとってはタイミングも位置も、どこを取っても完璧な支援。彼女の動きは阻害され、更に注意が侑理に向いた状況を真那は活かして、彼女にもまた肉薄を掛ける。突撃の勢いそのままに、右の刃で刺突を仕掛ける。

 

「…ほぅ、防ぎますか。今ので即終了とはいかねーみたいですね」

「舐めないで、頂戴…!たとえ貴女が相手でも、こうすれば…ッ!」

 

 突き出された一撃が決まる…かと思いきや、寸前のところで女性は防御。尚且つ前面に随意領域(テリトリー)の防御と魔力を集中させ、刃を包む。右の剣を封じ込め、前面の防御も厚くする事で左手での攻撃が来ても通らない状態を作らんとする。

 これには真那も多少ながら驚いた。封じ込められた右の刃を引き抜く事も、正面から防御を破る事も、出来なくはないが少々手間取る…そんな風にも感じていた。しかし真那は焦らない。驚きはすれども動揺はする事なく、冷静に『仕込み』を起動させる。

 

「〈ムラクモ〉──殲滅形態(ブラストスタイル)

 

 真那が静かにそう言った瞬間、眩い閃光が女性の視界を埋め尽くす。近距離から放たれた魔力砲撃が、防御の壁の外側から随意領域(テリトリー)を貫く。

 前面に集中していた分疎かになっていた防御の隙、そこを撃ち抜かれる寸前に女性の目は捉えていた。つい先程までは左右それぞれの手に装着されていた、双剣の形態を取っていた真那のC(コンバット)R(リアライザ)ユニット、〈ムラクモ〉が今は左側だけ砲撃の形態を取っていた事に。そして彼女は理解もしていた。自分が侑理に気を取られていた隙に、侑理の支援が真那への注意を散らした隙に、真那はその状態へ移行していたのだという事に。

 全て理解した彼女だったが、時既に遅し。魔力光で目が眩み、衝撃で防御もままならなくなる中、真那は右の刃を鋭く振り抜き……戦いは、決着した。

 

 

 

 

 それまであった街並みが、空気に溶けるように消失する。代わりに白く無機質な、殺風景な大部屋が姿を現す。

 変化した…否、元に戻った周囲の風景。そこに立つのは、五つの人影。その内二つは、侑理と真那。侑理(ユーリ)・フォグウィステリアと崇宮(たかみや)真那。残りの三つは、彼女達と交戦していた三人。二人は一息吐いたような、三人は苦々しげな表情を浮かべ…部屋の中に、声が響く。

 

『あー、アデプタス2・8対アデプタス5・6・7の勝負は、アデプタス2と8の勝利ヨ』

 

 あまり面白くなさそうな声が届き、三人はがっくりと肩を落とす。一方侑理はくるりと隣へ向き直り、両手を上げる。

 

「真那、真那っ」

「はい?あぁ、はいはい」

「はいたーっち♪」

 

 快活そうな表情と呼び掛けに対し、同じようにして軽く両手を上げる真那。その両手へ自身の両手を当てて、嬉しそうにハイタッチを交わす侑理。そんな侑理の様子に真那は小さく肩を竦め…開いた部屋の扉から、侑理と同様のワイヤリングスーツを纏った女性達が入ってくる。

 そこは、戦闘シミュレーター設備が整えられた部屋だった。行われていたのは、シミュレーターを用いた模擬戦であり…戦っていた五人も、入ってきた女性達も、全員が同じ組織に属する魔術師(ウィザード)であった。

 

「侑理は毎回ハイタッチを求めてきやがりますね…毎度毎度そんなに嬉しいものですか?」

「それは勿論。特に真那と組んでの勝利だし!…真那は嬉しくないの?」

「まあ、初めから勝つのは分かっていたので」

 

 やはりハキハキと侑理が返し、逆に侑理の方から尋ねれば、真那は特に遠慮をする事もなく言ってのける。その発言に三人がむっとする中、相変わらずだなぁとばかりに侑理は苦笑し…それから思い出したように、今度は三人の方へと振り返る。

 

「それはそうとアイリーンさん。うちを前座扱いなんて酷いじゃないですかー」

「え?あぁ…まあ実際、マナに比べたら…ねぇ?」

「だからそれが酷いって言ってるんですー。…うちと真那とじゃ比較にならないのは当然ですけどっ!強くて格好良くて可愛い真那が断トツなのはトーゼンですけどねっ!」

「なんでそれに対して貴女が胸張ってるのよ…」

 

 口を尖らせ文句をぶつける…かと思いきや、当然だと、そうに決まっていると誇らしげに言い始め、周囲を呆れさせていく侑理。ベタ褒めされている真那もやれやれ、と軽く首を横に振っており、今に始まった事ではなく、それが侑理の平常運転なのだという事を全員の反応が伺わせる。

 

「はいはい。…にしても、出力が違い過ぎるわよ、あんなの……」

「私だって、同じ装備を使えばあれ位……」

 

 一人盛り上がる侑里を軽くあしらった後、アイリーンと呼ばれた女性は真那へと目をやる。それに続くように、不満の滲む声がぽつりと漏れる。

 それは、本人に聞かせるつもりの言葉ではなかったのだろう。しかし真那には聞こえていたらしく、ちらりと声のした方へ目をやると、然程気にしてもいない様子で言う。

 

「別に構やしねーですよ?〈ムラクモ〉を使いたければ、どうぞご自由に。尤も、使いこなせるのであれば…の話ですが」

 

 何とも挑戦的な真那の言葉。その瞬間、彼女の言葉で空気はピリつき…しかし、誰も何も返さない。

 確かに聞こえた言葉の通り、真那の装備と他の者の装備は違う。試作型でもある〈ムラクモ〉は現状真那の専用装備であり、実際性能も他の者の…部隊の正式採用型とは開きがある。だがしかし、世の中にある多くの兵器と同様、CR-ユニットもまたそれを使いこなすに足るだけの実力がなければ十全の性能を発揮する事は出来ず、CR-ユニットの、権限装置(リアライザ)の制御、運用能力こそが、魔術師(ウィザード)の強さの根底と言っても過言ではない。平たく言えば、『強いCR-ユニットを使いこなせるのは強い魔術師(ウィザード)だけ』という事であり、その強いCR-ユニットで凄まじい強さを発揮している時点で、真那の強さは疑いようのないものであった。

 とはいえ、その事実そのものは否定出来ずとも、面と向かって「なら使いこなせると?」などと言われれば、穏やかな空気ではいられないのも当然の事。真那本人は気にしていないが、その態度が逆に空気を悪化させ……されどそこで、全く違う空気が吹き込む。

 

「真那ってば、そういう無駄に反感を買う言い方は良くないんじゃないカナー。それに今回の模擬戦は一対一じゃなくてチーム戦。連携やチームとしての作戦だって、勝敗に影響を及ぼすものでしょ?」

「…連携といえば…貴女達、一体いつ打ち合わせなんかした訳?今回は全員別の場所でスタートのルールで、貴女達はアイリーン達と違って最初からずっと合流してなかったのに、ユーリはマナが来るのを分かってたみたいだったわよね?」

「ふっ…うちと真那は以心伝心!打ち合わせなんかしなくたって、うちが引き付けていればベストなタイミングで真那が強襲仕掛けてくれるってものです!そして実際そうだった!うちが信じた通りだった!真那最高!大好き!」

「いや、まぁ…そういう事にしておきますかね。実際、侑理ならそう動いてくれるんじゃねーかって気はしてやがりましたから」

「でしょでしょ?これぞアデプタス・ナンバーが誇る真理コンビ!」

『真理コンビ…?』

「あ、真理コンビっていうのはですね、真那の『真』とうちの『理』を日本語で組み合わせると、真理っていう言葉になるという……」

 

 悪気はないとはいえ褒められたものでもない、と侑理は指摘。それを発端に、五人の模擬戦を見ていた女性達の一人が問いを口にし…再び侑理にエンジンが掛かる。ついでに妙な事を言い出し、首を傾げた周囲へ説明を始める。

 そんな中、再び開く部屋の扉。そこからは二人の女性が現れ…直後、侑理の発言で緩みつつあった雰囲気が一瞬にして引き締まる。

 

「はいはい、お喋りはそこまでにしなさイ」

「一つや二つの雑談にまで目を光らせるつもりはありませんが、ここは戦闘シミュレーションをする為の場所であるという事はお忘れなく」

 

 手で軽く髪を掻き上げる赤毛の女性と、静かに、丁寧に…しかしただ声を発するだけでも強者の余裕を漂わせる、薄いブロンドの髪をした女性。つい先程、勝敗のアナウンスも行った魔術師(ウィザード)、ジェシカ・ベイリーと……彼女達アデプタス・ナンバーを率いる『世界最強の魔術師(ウィザード)』、エレン・ミラ・メイザース。彼女達が…エレンが現れた事により、女性達は佇まいを正す。

 

「これはこれは執行部長。この時間に来るなんて珍しいじゃねーですか。もしや、珍しく貴女も模擬戦に参加で?」

『……!?』

「いいえ。もののついでに少し寄ったまでの事です。あぁ、それと侑理にアイリーン。今回使用した〈メリーラム〉のレポートは早めに出すように」

「あ、はーい」

 

 何故そんな余計な問いを!?…と、真那の発言に目を見開く魔術師(ウィザード)達。しかしその問いに対してエレンは否定の言葉を返し、ちらほらと微かな安堵の吐息が漏れる。続くエレンの呼び掛けに、侑理は緩い敬礼で、アイリーンは無言の首肯で返す。

 執行部長。それは彼女の肩書きである、DEM社第二執行部部長の意であり、部長である彼女のコールサインは当然アデプタス1。侑理の支援があったとはいえ、三人を瞬く間に戦闘不能とした真那をも超えるそのナンバーは伊達ではなく…彼女が模擬戦に参加する可能性が生じただけで多くの者が動揺を見せたのも、それだけエレンという魔術師(ウィザード)が圧倒的な実力を有しているのだという証左であった。

 

「レポート…ご愁傷様ですね、侑理」

「え?あー、真那は〈ムラクモ〉のテスターとして色々レポートを書かされてるんだっけ?」

「全く、求めてもいない装備を使うように言われて、しかも調整の度にいちいちレポートを提出しなきゃなんて、随分とDEMもブラックな企業になったものでいやがります」

「不満があるようでしたら、レポートの代わりに辞表を出して頂いても構いませんよ。その場合、うちと同等な給料を得られる再就職先を見つけられない限り、貴女の賠償金完済は更に遠のく事となるでしょうが」

「そ、その件は本当に私が払わなきゃいけねーんですか!?こんないたいけな少女に500万ポンド…いや、今はそこから多少なりとも減ってる筈でいやがりますが…も払わせようなんて、ブラック企業も真っ青な横暴でやがりますよ!?」

「…ブラックも真っ青?」

「そんなどうでもいいところに引っかかってるんじゃねーです!」

 

 真顔で返すエレンに、真那は声を裏返らせて叫ぶ。しかしやはりエレンは表情を崩さず、変なところを気にする侑理以外も特に彼女へ助け舟を出す事はなく…企業ではなく、真那が真っ青な顔を見せる。

 先日、とある銀行強盗の場に居合わせた真那は、その強盗の主犯が身内であった事もあり、事件解決に尽力した。…のは良かったのだが、その際やり過ぎてしまい、凡そ500万ポンドという凄まじい被害を銀行に与えてしまったのだ。

 

「うぅ…こんな負債を背負って、真那は一体どうしたら……」

「大丈夫だよ、真那」

「侑理……」

 

 がっくりと落ちた真那の肩に、侑理は手を置く。柔らかく置かれたその手に真那は声を上げ…侑理は穏やかな笑みと共に、言う。

 

「どうしようもない分は、うちを頼って!真那の為ならうち、未成年を働かせるような怪しくて如何わしいお店でも、まだ動物実験も碌に済んでいないような薬の治験でも、何でもするからっ!」

「そんなの全く大丈夫じゃねーですよぉおおおおぉっ!」

「とんでもない事言ってるわね、ユーリ……」

「マナといいユーリといい、東洋人は良識や倫理観がないのかしラ…流石にちょっと恐ろしいワ……」

 

 頭のネジが弾け飛んでいるかの如き発言をする侑理に、流石の真那も頭を抱える。…第二執行部の中で、東洋人…日本人への間違った認識が生まれたしまった瞬間だった。

 

「…侑理。そのような考え方は止めなさい。真那だけでなく貴女までDEMの評判を貶めるような事をするのは見過ごせません」

「いや、私の件も元を正せば社長が問題のある魔術師(ウィザード)をDEMに引き入れた事が発端じゃねーですか…」

 

 妙な誤解を完全に無視して侑理を窘めるエレンと、模擬戦直後よりも遥かに疲れた様子で呟く真那。本当に自分が賠償しなければならないのか。それを訊く気も真那は失せ、何故レポートの話からこんな事に…と心の中で怨嗟の声を渦巻かせる。

 D(デウス)E(・エクス・)M(マキナ)インダストリー。イギリスの首都、ロンドンに本社を置く大企業であり、兵器製造を初め多角的に事業を展開するその在り方は、正に世界的と言うべきもの。しかしその実態、正体は権限装置(リアライザ)やCR-ユニット等の開発・製造を行う魔術師(ウィザード)の大元とでも称すべき組織。そして当然、DEMには自社戦力としての魔術師(ウィザード)も多数要しており…その内の一つ、その中でも特に陰としての要素が強く、同時にDEMの代表取締役の実質的私兵とも呼べる部隊こそが、第二執行部。侑理や真那の属する、この世界における『裏側』の存在。

 

「では、私はこれで」

「お疲れ様でス、メイザース執行部長。じゃあ、今回の訓練は終わりヨ。各自、シミュレーター室からはさっさと出ていくようニ」

 

 くるりと踵を返してエレンが出ていけば、ジェシカも訓練終了の指示を出し、数名の魔術師(ウィザード)と共に去っていく。他の者達も談笑しながら、或いはこの後の予定の事を考えながら部屋を出ていき…最後に残った侑理と真那も、片や軽く伸びをしながら、片やとぼとぼとした足取りで部屋の扉の方へと向かう。

 

「はぁ…どうしてこんな形で疲れなきゃいけねーんでしょうか…」

「まあ、内側で色々問題を抱えちゃうのは、大きな組織の宿命みたいなものだよ。世の中には上層部に叛意を持った若手が別の組織の長の力を借りて反乱起こした挙句、しっちゃかめっちゃかになっちゃった組織なんかもある訳だし。…あ、でもDEM本社の地理的には、むしろその反乱に力を貸した側だっけ……」

「一体どこの誰が書いた物語の話をしやがってるんですか…というかそもそも、私が疲れてるのは今に至るまでのやり取りが原因でいやがるんですけどね……」

 

 じとーっとした目で真那は侑理を見てくるが、そんな事はどこ吹く風。しかし侑理とて、真那を更に疲れさせてやろうなどという気持ちはなく、今度は(自分なりに)励ましにかかる。

 

「元気出して、真那。真面目な話、協力だったら幾らでもするから。うちと真那の仲なんだから、ね?」

「侑理の場合、私が頼んだら本当に何でもしそうなのが逆に怖ぇーんですよ…。…でも、ありがとうございます。やっぱり持つべきものは友でいやがりますね」

「む、違うよ真那。うちと真那はただの友じゃなくて親友も親友、大親友。或いは真那と侑理で『真侑』でしょ?」

「真侑って…相変わらず変なネーミングセンスを……」

「…真×侑の方が良かった?」

「なんかそれは違う意味になってねーですか!?」

 

 手を後ろで組み、髪を揺らして横から顔を覗き込む可愛らしい仕草とは裏腹に、何やら妙な意図がありそうな事を言う侑理に対し、真那は突っ込んだ後に呆れる。呆れ、溜め息を漏らし…しかしそれでも、その後は穏やかな笑みを浮かべる。その表情が見れて良かった、或いは安心したとばかりに、侑理も嬉しそうな顔で笑う。

 彼女達の、第二執行部の役割は自社の警備ではない。この世界に存在する、特殊災害指定生命体、『精霊』を狩る事こそが、彼女達の使命。無論、ただそれだけの為の部隊ではないのだが、少なくとも二人はその為の部隊であり、自分達と捉えていた。その為に日々鍛錬を重ね、魔術師(ウィザード)としての力を磨いてきた。

 だが、超常の力を有していようと、彼女達は少女。笑いもすれば悩みもする、心は普通の女の子。──だからこそ、彼女達は彼女達の日常を歩む。時には思うところを抱きつつも…きっとこれからも、この日常がこれまでのように続くのだろうと無意識の内に思いながら。




 私のこれまでの作品と同様、本作でもパロネタやメタネタをくどくない入れていこうかと思います。パロディについては解説が必要でしたら後書きにて記載しようと思いますので、ご要望があればお伝え下さい。
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