デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第百二話 正月といえば

 DEM本社のあるイギリスから日本へと移り、士道や精霊達との日々が始まってから、最初に迎えた元旦。その日の朝は、大寝坊から始まった。

 

「ふぁぁ…う〜、駄目だ…まだ眠気もあるし、お腹も空いてるし、力が出ない……」

「同感でやがります……」

「…さっき、普通に怒ってたのに?」

「そのせいで、余計空腹が増したって話です」

 

 普段より弱いであろう足取りで、精霊マンションの廊下を歩く。起きた時点で、もう朝ではなく昼になっていた。そもそも初日の出を見た上で、二亜の病室で色々話していたのだから、起きるのが昼になってしまうのも当たり前の話ではあるが…改めて、ハードな年末を過ごしたものである。

 

「…あ、ところで正月といえばお年玉だよね。士道にぃにねだったら貰えるかな?」

「親でも社会人でもねー兄様にねだろうとするんじゃねーですよ。欲しいなら、私が……」

「え、真那がくれるの!?」

「えぇ。〈ヴァナルガンド〉で魔力の弾を喰らわせてやります」

「そ、それは弾であって玉じゃないじゃん…後、〈ヴァナルガンド〉の砲撃は弾っていうより光芒だし……」

 

 冗談なのか、それともベットに潜り込んだ件をまだ怒っているのか分からない真那の発言。因みに、ほぼ毎日行っている真那との鍛錬も今日は行わない。元旦だし…というのもあるが、まだ疲労が残っている上寝不足である今鍛錬を行うのは怪我の元だ、という判断をしたからでもあったりする。頑張るのは大事だが、考えなしに頑張ればいい訳ではないのだ。

 

「…こほん。でも、楽しみだね」

「まあ、それはそうでいやがりますね」

 

 仕切り直すように咳払いをし、階段を降りる。そして一階にある食堂は入り…まずは、挨拶。

 

「皆、明けましておめでとう」

「あ……明けまして、おめでとうございます」

「侑理ちゃん、真那ちゃん、ことよろことよろ〜」

「…屋上で分かれる前の時点で元旦にはなってたんだけどね」

 

 新年の挨拶に返答をしてくれたのは四糸乃。それによしのんが続き、七罪はいつも通りのちょっと捻くれた発言をする。二人と一匹の反応は、旧年と変わらぬものであり…当然変わらないのは、四糸乃達だけではない。

 

「遅かったではないか。よもや常闇に誘われた魂魄が戻らぬままかと思っておったぞ」

「解説。耶倶矢は二人がまだ寝ているのかと思っていたのです」

「残念です〜。もし耶倶矢さんの思った通りだったら、私が起こしに行ってあげたところでしたのに〜」

「…………」

「あー……まぁ、寝起きに色々あったもので…」

 

 片手で耶倶矢は顔の左側を隠しながら言い、夕弦が淡々とした調子で通訳…の様な事をする。ここに泊まっていった美九は身を捩らせながら私欲丸出しの発言をし、同じく泊まった折紙は無言でこちらに視線だけを送っている。

 この通り、現在ここには全員…ではないにせよ、精霊達が集まっている。そして当然、集まっているのには理由がある。

 

「何も出ていない…という事は、まだ届いちゃいねーんですね」

「肯定。もうお腹ぺこぺこはらぺこりんな耶倶矢がおせちを全て食べてしまった訳ではないので、ご安心を」

「ちょっと、小気味の良いリズムで変な事言わないでくれる…?第一、お腹ぺこぺこはらぺこりんなのは夕弦だって同じでしょ?」

「辟易。空腹は空腹と言えばいいものを、わざわざ変な言い方するのはどうかと思います耶倶矢」

「先に言ったのは夕弦だよねぇ!?」

 

 愉快(?)なやり取りをしている八舞姉妹に、侑理は真那と顔を見合わせ肩を竦める。

 そう。ここに集まっているのは、〈ラタトスク〉が元旦の料理としておせちを用意してくれる、という連絡を受けた為。しかしこの通り、まだおせちは届いていない。やはり〈ラタトスク〉も元旦に稼働してる機関員は少ないのか、或いは年末の無茶な稼働で元旦関係なく休んでいる機関員が多いのか…それとも疲労困憊だった侑理達が大寝坊している可能性を考慮し、初めから届く時間が遅めになっているのかは分からないが、とにかくまだないのは事実。

 

「…あれ、そういえば十香さんは?まさか、十香さんが食べに来ない…なんて事はないよね?」

「ああ、十香なら……」

 

 ぐるりと見回しても、精霊一の健啖家たる十香の姿が見当たらない。その事に何故?と侑理が首を傾げると、何とも微妙そうな顔をした七罪が、入り口付近にいる侑理からはテーブルで見えない位置へと視線を向ける。そして、それが気になり回り込んでみると……

 

「うぅ…まだか…まだ、なのか……」

 

 そこには、ぐったりと床に倒れる十香の姿があった。…どうやら、あまりの空腹で動けなくなっていたらしい。

 

「…これは、重傷…だね……」

「と、十香さん…やっぱり何か、食べた方が……」

「いや、いい…きっと、今何かを口にしたら…私はそのまま、心ゆくまで食べてしまう…それでは、おせちを心から楽しむ事が出来なくなる……」

 

 四糸乃の提案に、十香はゆっくりと首を横に振る。弱々しい声だが、そこには確固たる意思があり、とても説得に応じるような気配はない。それに…全面的に同意という訳ではないにせよ、折角おせちを用意してくれるのだから、空腹の状態で食べたいという気持ちは、侑理にも分かった。

 そして、そんな十香の思いが通じたのか、食堂には大きな荷物を持った二人組が現れる。

 

「ハイ、皆。待たせたわね」

「……!シドー、琴里…!その手に持っているのは、まさか……」

「ああ。おせちが届いたぞ」

 

 声に、或いは匂いに反応して、十香は起き上がる。その十香の言葉に、大きな荷物を…重箱を持った士道が、こくりと頷く。

 行き倒れ状態だった十香は勿論、侑理自身も含めた他の面々も空腹であった為すぐに集まる。全員の視線が集まる中、二つの重箱はテーブルに置かれる。そうして蓋が開かれ、一段、また一段と重箱は並べられていき…湧き上がるのは、感嘆の声。

 

『おおぉぉ……!』

「…なんか、宝石とか美術品とかが出てきたみたいな反応ね」

「はは…でも、皆の反応もちょっと分かるかな。こんな豪勢なおせち、俺も食べるのは初めてだし」

 

 純精霊組(二亜の話を聞いた今となっては、それも怪しいところだが)の反応に、士道と琴里が苦笑する。されど士道の言う通り、侑理にもその反応が、十香達の気持ちが理解出来る。

 伊達巻にかまぼこ、黒豆に数の子、栗きんとんに筑前煮といった定番の品は勿論、ブリや海老といった海鮮系やローストビーフや照り焼きチキンといった肉類もふんだんに盛り込まれており、ワンセットだけでもボリュームたっぷり。それが2セットあるのだから、ただ並べるだけでも結構な迫力がそこにはあった。

 

「おせち…これが、おせち……ごくり…」

「えぇと…十香、一応言っておくがこれは皆で食べるものだからな…?」

「う、うむ、分かっているぞシドー。だがもし、余るような事があれば、その時は……」

「まぁ、その時は……ね」

 

 肯定を示すように琴里が言えば、十香はぱぁっと表情を輝かせる。…もしこれで何も残らなかったら、十香は酷く落胆してしまうのだろう。凄まじい量がある為、そう心配する必要はなさそうだが…だとしても食べている途中で、それが気になりそうな気がする侑理であった。

 ともかくこれで、おせちは届いた。全員で手分けする事で、予め炊いておいた白米や飲み物、食器や箸などもぱぱっと準備が完了した。故に後は…食べるだけ。

 

「これでよし、っと。んじゃ、食べるとしようぜ?」

「そうね。それじゃあ皆……」

『頂きます!』

 

 手を合わせ、声を揃えて食事の挨拶。各々重箱の中から食べたい料理を自身の皿に取り…今年最初の食事が始まった。

 

「ん、美味し♪真那、このローストビーフ凄く美味しいよ」

「へぇ、それなら私も一枚……」

「あ、うちの食べていいよー?ほらほら」

「食べかけを食わせようとするんじゃねーです」

「んもう、折角の間接キス狙いなのにー」

「あっ、それなら私に下さ〜い!侑理さーん、あーんですー!」

 

 自分の歯形が付いたローストビーフ(食べかけ)を差し出すも、真那はクールに重箱から別のローストビーフを取って食べる。残念ながら、真那のガードの硬さは相変わらずであった。そして、あーんと言って迫ってくる美九に対しては、ローストビーフ(非食べかけ)を差し出す事にした。

 

「んん〜♪美味だ、美味だぞシドー!」

「確かに美味いな。それに、これを食べると正月になったんだなぁと実感するっていうか……」

「士道。あーん」

「へ?折紙?…まぁ、あー…って、これ一口齧られてる気がするんだが……」

「気にしないで。あーん」

「いや気にするわ!そういやさっき、侑理と真那のやり取り見てたよな!?」

「ふん、卑しいな折紙。自分が口を付けた物をシドーに食べさせようなど……はっ!…し、シドー!私もあーんだ!」

「ちょっ、十香!?」

 

 賑やかな食道内だが、特に賑やかなのは士道とその両隣に座った十香、折紙のグループ。現在士道は左右から食べかけのおせちであーん攻撃(?)を受けており、見るからに追い詰められていた。とはいえ、十香も折紙も十人いれば十人が美少女だと答える程の容姿を持つ女性。もしこれを世の男性が見たら、さぞや羨ましがられる事だろう。

…因みに士道の隣という競争率の高そうな席だが、折紙はいつの間にか確保し、十香も十香でそれがいつもの事だとばかりに逆側を確保していた為、誰も手を出す事が出来なかった。…後から知ったが、学校でも士道の両隣はこの二人らしい。

 

「呵呵、颶風の御子たる我等に相応しい供物といったところか。特にこの、大海の赤き装甲(アーマード・リバーサー)の味は格別と言えよう」

「感嘆。見た目も味も非常に良いです。耶倶矢、照り焼きチキンは食べましたか?これは夕弦的イチオシです」

「え、そうなの?…ほんとだ、めっちゃ美味しい!じゃあさ、夕弦は伊達巻食べた?これ、甘さが絶妙なんだよね」

「実食。…確かにこれは、絶妙です…ただの卵焼きと侮っていましたが、まさかここまでとは……」

 

 その士道達の反対側に座るのは、耶倶矢と夕弦の二人。今日も二人は仲良く食事をしており、互いに勧め合っている。更に十香程ではないものの、二人も結構な大食いであり、みるみる内に重箱の中身が消えていく。

 

「おせちって、ほんとに色々なものが入ってます……よね。やっぱり、お正月を祝う為に、豪華にしてるんでしょうか……?」

「あるかもしれないわね。おせちって、元々は神様へのお供え物として作られてた…って話もあるし。後は嘘かほんとか、正月位は普段料理をしている人も作り置きする事で休めるように、日持ちする食べ物を中心にしてる…なんて話なんかもあるみたいよ」

「そうなんだ…でもおせちって、スーパーとかで普通に売ってるわよね?作るんじゃなくて買うんだったら、作り置きも何も…って話にならない?」

『それは…まぁ……』

 

 一方侑理の座る席の向かい側にいるのは、琴里、四糸乃、七罪の三人組。ちょっとした知識を語った琴里に対し、七罪が言葉を返し…その内容に、琴里と四糸乃は何とも微妙そうな顔をしていた。今のはネガティヴ発言という訳でもないが…ある意味で、七罪らしい発言であった。

 

「侑理さーん、さっきのお返しのあーんですよ〜」

「いや、お返しは別に要らないというか……」

「まあまあ遠慮せずに。あーんですよ、あーん。あーん〜」

「……あーん…」

「ふふふ〜。それじゃあ次は、真那さんの番ですー」

「いやいや、私よりもう一度侑理にあげやがって下さい。その方が侑理も喜ぶかもしれねーですから」

「ちょっ、真那!?」

「んもう、私はそんな不公平な事しませんよー。ほぉら、真那さんもあーんして下さ〜い」

「……あー、ん…」

 

 差し出されるおせち料理。柔らかな口調と心地良い声音だというのに、妙な圧力を感じる「あーん」の三文字。士道達とも八舞姉妹達とも琴里達とも違う席でおせちを食べていた侑理は今、真那共々美九によって交互に食べさせられていた。先程美九に食べさせてあげてしまったばかりに、完全に美九は味を占めてしまったのである。

 

「はぁぁ〜、元旦からとっても幸せですー!可愛い女の子にあーんさせ放題なんて、今年は良い年になる事間違いなしですよねー♪」

「さ、させ放題って…いつまでやる気なんですか…?」

「勿論、お二人がお腹一杯になるまでしてあげますよー」

「普通に勘弁しやがって下さい…。…というか、美九さんは食べなくてもいいんで?」

「その言葉を待ってましたー!真那さんは私を心配してくれたんですよね?という事はつまり、私が食べられるよう真那さんもあーんしてくれるという事ですよね!?」

「…兄様、助けて下さい…侑理と美九さんの両方を相手取るなんて、私体力が持たねーです……」

「すまん、真那…俺も似たような状況なんだ……」

 

 恐らくこの場で最もご機嫌な美九に肩を落としていると、真那も真那でまあまあ失礼な事を言っていた。真那は侑理を何だと思っているのだろうか。……自業自得だと言われれば、返す言葉がないのだが。

 

「…けど、あれだよね。日本に来てからの事…っていうより、士道にぃと精霊の皆に起こった色々な事を思えば、こうして皆で新年を迎えて、賑やかにおせちを食べられるのって、凄く幸運な事…だよね、きっと」

「…そうだな。去年までは、明けましておめでとう…なんてただの挨拶でしかなかったけど、今はこれがどれだけめでたい事なのかよく分かるよ」

「…めでたい、ってのは少し違うんじゃねーですか?勿論、幸運な部分もあるとは思いますが…この今があるのは、兄様や皆さんがその時々で力を尽くしてきたからでしょう?」

 

 何も運が良かっただけじゃない筈だ、と真那は言う。その言葉に精霊達は手を止め、その通りだと士道の方を向きながら頷く。…確かにそう。その通り。今があるのは、運だけの賜物じゃない。皆が力を振り絞り、その力を束ねたからこそだと、侑理も知っている。分かっている。

 

「真那の言う通りよ。今があるのは、士道一人の力じゃないけど、士道が進み続けたからこそでもある…それは紛れもない事実だもの」

「…ああ。ありがとう、二人共」

「でも……二亜さんが来られなかったのは、残念…ですね……」

「それはまあ、仕方ないわよ。まだ二亜は安静にしているべきだし…性格的に、こんな場に来たら大人しくしていられないでしょ」

『あー……』

 

 確かにそうだろうなぁ、と肩を竦めた琴里の言葉に全員が同意の意思を示した。まだ二亜と侑理達との付き合いは浅く、日の出を見た後の会話に参加していない十香達はそれこそ、直接の会話自体もまだ少ない筈。にも関わらず、全員にその性格がある程度理解されている辺り、本当に二亜は個性的である。…まあ、真那や精霊達も、全員負けず劣らず個性的なのだが。

 

「……む、そうだシドー。一つ訊きたいのだが、年越し蕎麦ならぬ、年明け蕎麦というものはないのか?」

「年明け蕎麦…なんてのは、聞いた事がないなぁ。どうしてだ?」

「残念ながら、年越し蕎麦は食べ損ねてしまったからな。年明け蕎麦があれば、是非食べたいと思ったのだが……」

「…いや、だったら普通に蕎麦を食べれば良くない?年越し蕎麦自体、大晦日に食べるってだけで内容は普通の蕎麦なんだし……」

「……!その手があったか!助言感謝するぞ、七罪!」

「え?あ、うん……。…私、褒められるような事言った…?」

 

 まるで天啓でも受けたような顔で感謝を口にする十香。感謝の言葉でむしろ困惑する七罪。その言葉に、侑理達は苦笑していた。

 だが、同時に侑理はこうも思っていた。確かにそれはそうだと。言われてみれば、確かにその手があった…と。

 

「それじゃあ十香さん、後は士道にぃにお蕎麦を作ってもらえたら完璧だね?」

「うむ!作ってはくれないだろうか、シドー!」

「いや、何しれっと兄様に作らせようとしてやがるんですか……」

「でも、折角食べるなら士道にぃが作ったお蕎麦の方が良いでしょ?ね、どうかな?もし作ってくれるなら、うちも手伝うし」

「蕎麦かぁ…でも確かに、年越し蕎麦を食べずに終わるのはなんか物足りない気もするし……よし、今日の夜は蕎麦にするか」

「おおぉ!侑理!」

 

 興奮の面持ちを浮かべた十香からのサムズアップ。それに侑理は同じサムズアップで返す。…一応言っておくが、別に侑理は健啖家ではない。人並みには食べるが、そんな食いしん坊キャラではない。ただ、年越し蕎麦を食べかったという気持ちは侑理も同じであり…士道が作るとなれば、それは大きな付加価値なのだ。今の流れにこそ乗ってこなかったが、真那や他の精霊達も、士道の作る蕎麦なら勿論食べたい事だろう。

 

「だーりんだーりん!そのお蕎麦、私も食べたいですー!」

「おう。美九も折紙も、良ければ食べていってくれ」

「勿論。何なら私の家で作ってくれて良い。そのまま泊まってくれても良い。士道が泊まる準備は出来ている」

「うん、なんで準備出来てるのかについては訊かない事にするな」

 

 という訳で、このかなり遅い昼食に続き、夕食も全員で食べる事が決定。まだ昼食を食べている途中に夕食の話をする、というのも変な話だが…それはそれ、これはこれ。

 

「懸念。蕎麦は夕弦も食べたいですが、材料はあるのですか?元旦は多くの店が閉まっていると、聞いた事があります」

「大丈夫だ。二亜攻略の為に同人誌を作る…ってなった前の日に、年末に向けて色々食材を買っていたからな」

「ふっ、流石は士道。食が絡むとなると、抜かりないな」

「ですよねー。ほんと、だーりんは将来良い主夫さんになりそうですー」

「そりゃどうも……」

 

 喜べる評価のされ方じゃない、と言いたげな士道の反応。だが実際、食事に限らず士道の家事能力は本当に高い。五河家の両親は不在な事が多く、家事は士道が主体的にやっているから自然とスキルも身に付いた…という事らしいが、当然士道は学生であり、学校の授業は勿論、家でも宿題をやらねばならない訳だし、精霊と関わるようになってからは更に多忙になっている筈。にも関わらず若くしてかなりのスキルを有している、そのスキルを鈍らせずにいられるというのは、元から家事の適性(?)が高かった…という事なのかもしれない。

 

「…でも、主夫…主婦かぁ……」

「どうかしやがりましたか?」

「いや、真那は主婦っていうより、バリバリ働く感じが強いかなーって」

「それは、まぁ…そうでしょうね」

「あ、怒らないんだ……」

「そりゃ、否定出来る気もしねーんで」

 

 案外あっさりと認めた真那に、侑理は軽く拍子抜け。そのさっぱりした感じが真那らしいといえばらしいのだが…ちょっと物足りない。そんな気もしないではなかった。

 とまあ、そんなやり取りを交わしつつも、おせちを食べ進める。全員空腹だった事もあり、大量にあったおせち料理は、着実に重箱の中から消えていく。されどやはり、食べ進める勢いには個人差があり……

 

「うん?…この箱も、もう空か……」

「おせちって、割とちょこちょこ残りがちなんだが…その心配はなさそうだな」

 

 空っぽとなった箱の一つを見て残念そうにする十香と、軽く肩を竦める士道。侑理達の前にある重箱には、まだそこそこ料理が残っていたが、士道達と八舞姉妹が対面する側の重箱は、中身がもう大分なくなつてしまっていた。

 

「あ、あの…こちらのおせちも、食べていい…です、よね……?」

「勿論。このペースだとこっちは少し残りそうだし、折角のおせちを余らせるのも勿体無いからね。…まぁ、今全部食べきらなきゃいけない訳でもないんだけど」

「十香さーん、是非食べて下さーい。そしてその際には十香さんにもあーんを……」

「おお、ありがとうだ!」

 

 欲を見せた美九が言い切る間もなく、十香が侑理達側の重箱から料理を何品か皿に載せる。続けて折紙も、了承を得るようにこちらへ視線を向けた後、同様に何品か取り…また士道に食べさせようとする。見間違いでなければ、さっきまで自分が口に付けていた箸を使って、士道に食べる事を求める。そしてそれを見た十香は、また対抗するように自らも士道へ食べさせようし……もう何度目か分からない苦笑を、侑理は浮かべる。

 

「あ、でも、蕎麦といえば……」

「んー?…あ、そういえば真那ちゃんと侑理ちゃんがここに来た時も、お蕎麦を食べたよねー」

「そういやそうでいやがりましたね。あれから……まだ数ヶ月足らず…?」

「はは…なんかほんと、毎月の様に何かしらあるから、振り返るとぎょっとするよね……」

「それは私も同じよ。霊力封印までの道のりで色々起きるのは想定内だけど、そうでないところでも何かと起きるんだもの……」

『はは……』

 

 ゆっくりとお茶を飲んでいた七罪のふとしたような言葉を切っ掛けに、また別の会話が展開する。とても中学生とは思えないような、深い気苦労を窺わせる琴里の表情に、乾いた笑い声があちらこちらから漏れてくる。

 しかし、それについて琴里は本気で嫌そうな顔をしている訳でもない。他の面々も、ほんと色々あるよねぇ…とばかりの、決して暗くはない表情を浮かべている。だからつまり、そういう事なのだろう。精霊達にとって今の日々は、平穏無事ではないのかもしれない。それでも、前向きに捉えられている…きっとそれが、大事なのだ。

 

「はふぅ…流石にうちもお腹一杯かも。食べ過ぎると夜のお蕎麦を食べられなくなるし、これでご馳走様…かな」

「俺もこの辺で…いやうん、本当にいいから。ご馳走様だから、二人共。…さて、取り敢えず食器を洗って……」

「その必要はないよー、士道にぃ。ねー、皆」

 

 士道が動き出す前に侑理は立ち、空になった重箱を回収する。真那や四糸乃達も侑理に続き、後片付けを引き受ける。先程の琴里の話ではないが、正月のお昼時位は士道にもゆっくりしてほしい…そういう事なのである。

 そうして侑理達は手早くテーブル上を片付け、食器類を洗い…ひと段落したところで、折紙は一度家に帰ると言った。

 

「士道、まだ目の下に隈が残っている。やるべき事がないのなら、この後にもう一度寝ておいて」

「あ、おう。…どうせまた夜も一緒に食事をするんだし、ここに残ってくれてもいいんだぞ?」

「いい。まだお母さんとお父さんに、新年の挨拶をしていないから」

「…そっか。なら、また後でな」

 

 やり取りを交わし、マンションのエントランスへ向かう折紙を、侑理は軽く手を振って見送る。

 怒涛の年末と、そこからのあれこれを経た、新年の昼間。日本伝統のおせち料理を食すひと時。それは、新年初の食事であり……それを真那だけでなく、士道や精霊達と共に食べられた、そして彼女達と愉快で賑やかな時間を過ごせた今、侑理は思うのだった。今年も色々とありそうだが…同時に今年も、良い年になりそうだ、と。

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