日本における新年、正月には、様々な要素が存在する。例えばそれはおせち料理であったり、初日の出であったり、或いは新年の挨拶回りであったりと、基本的には新たな年を祝う内容で行われている。
それとは別に、多くの者にとっての休みという事で、特番であったり、豪華に海外で休暇を取ったりと、普段とはまた一味違った娯楽がある。そしてそれは、何も現代だけの話ではない。日本には古来から、正月の遊びというものが数多くあり……その内の一つを、今日侑理は体験する事となった。
「という訳で、第一回羽根突き大会精霊マンションカップを開催しますよー!」
『おぉー!』
まるで実況の様に言い放つ美九の言葉に、歓声と拍手が上がる。上がるというか、侑理も普通に参加していた。隣の真那は、一先ず拍手には参加する…という程度だったが。
「遂にこの時がやってきた、か……」
「回想。この大会の為に練習をした時間の事は、忘れません」
「いや、この話が出たの昨日でいやがりますよね?そんな大仰に言う事じゃねーですし、昨日の今日で忘れないのは当然の事な気が……」
二人並んでそれぞれに腕を組み、既に謎の強者オーラを放つ耶倶矢と夕弦。そこへ真那が突っ込みを入れるも、二人共全く動じない。
まあそれはともかく、大晦日に食べられなかった蕎麦を皆で食べた後、ひょんな事からこの羽根突き大会をするという話になった。
「というか、羽根突きって対戦を想定したもんじゃねーですよね?」
「まあ、そこはラリーをし合って落としたら相手に1ポイント…って感じでどうですかー?」
「実際、大会っていっても遊びですしねー。最低限の事だけは決めて、後は多少緩めでもそれはそれで楽しいと思いますよー」
「ふふふ、よく分かってますねー、侑理さん。でも、ただの遊びじゃないですよ?なんと優勝チームには、景品として琴里さんが提供してくれたお餅があるんですからねー」
「お餅…琴里さん本人は参加出来なかったのに、景品だけ用意してくれるなんて、ちょっと申し訳ないです……」
「いやまぁ…実際のところは、体の良い処理なんじゃない?お餅って、結構余りがちみたいだし」
日本社会について色々詳しい七罪の言葉に、四糸乃がそうだったのか、と軽く驚いた顔をする。しかし信じてもらえた事で逆に不安になったのか、七罪はあたふたとし始め、それに四糸乃は困ったような表情を浮かべる。
今し方四糸乃が言った通り、今回琴里、それに士道は五河家の親戚関係で不在にしており(両親は年末年始も仕事の様だが)、同様の理由で折紙も不在。よってこの羽根突き大会は、精霊マンションに住んでいる面々+今日は士道達の様な用事がないらしい美九の八人で行う事になったのである。
「まあ、とにかくやってみようよ。さっき言ったように、あくまで遊びとしての勝負なんだし、さ」
「別に、私は反対してる訳じゃねーですよ。ただ、あんまりなあなあにしたまま始めると、ぐたぐだになって微妙な終わり方をする羽目になるんじゃねーかと思っただけです」
「そっか。じゃあ美九さん、勝負は個人戦にします?それとも二人一組で……」
「勿論二人一組ですよー。七罪さーん、私と組みま──」
「ひッ…!わ、私は四糸乃と組むから……!」
「あーん、七罪さんったらいけず〜。それじゃあ十香さん、私と組んでくれませんかー?あ、勿論七罪さんが駄目だから仕方なく、とかじゃないですよー?私にとっては、皆さん全員がナンバーワンでオンリーワンなんですからねっ!」
「う、うん?何が言いたいのかはよく分からないが…宜しく頼むぞ、美九!」
まるで襲われそうにでもなったかのように七罪が四糸乃と組むと言い、十香は美九と組む事になる(その際握手をしていた。それだけで美九は大層喜んでいた)。そして当然、耶倶矢と夕弦はタッグを組み……
「いいよね?真那」
「いいも何も、もう選択肢なんてねーですしね」
「じゃあ、選択肢があったとしたら?」
「さぁ、それはどうでしょう。ただ、遊びとはいえ勝負な以上…本気で勝てると思える相手と組むってもんです」
にっ、と勝ち気な笑みを浮かべる真那。本気で勝てると思える相手、というのが誰なのか、真那は口にしてはいない。されど今、真那は明らかに優勝を狙っている表情をしており…そんな真那の事が、侑理は大好きなのだ。
「その…ごめん、四糸乃。勝手に組むとは言って…いやほんと、勝手な事してごめんなさい……」
「そ、そんな…私は七罪さんと組むの、全然嫌じゃない…ですよ……?」
「四糸乃……。…けど、よく考えたら相手強豪しかいないじゃん…耶倶矢と夕弦のコンビは言うまでもないし、十香と美九のコンビは十香が強そうな上で美九も色んな意味で怖いし、真那と侑理も組んだら強いのは分かりきってるし……」
こんなの勝ち抜ける訳ない、と自虐を挟む事なく七罪はがくりと肩を落とす。発言の内容自体は否定出来なかったのか、四糸乃も何と言ったらいいのか分からない、とばかりの表情を浮かべる。
それを何となく聞いていた侑理だったが…実際のところ、侑理も同じように考えていた。八舞姉妹の連携は正に阿吽の呼吸な上、元々どちらも身体を動かすのが得意なタイプ。十香・美九チームに関しても、連携はともかく十香の運動能力は間違いなく脅威であり、美九もこの中では一番手足が長い…即ち、純粋なリーチにおいてはトップに立っているというアドバンテージを有している。どちらも七罪が肩を落とすのも無理のない相手であり…もし油断をしようものなら、その先に待っているのは敗北しかない。
(…でも、悪くない。そういう相手の方が……燃える)
ぐっ、と胸の前で拳を握り締める侑理。これが戦場なら、実戦なら、場合によっては戦闘を避ける事も選択肢に上がるが…これは遊び。厳密には違うが、どちらかといえばスポーツ。そして、相手が強い方が燃えると思う位には、侑理の中にも結果盛んな部分があるのだ。
チーム分けが決まった事で、次は流れの話になる。勝負は総当たりではなく、トーナメント形式となり…厳正なぐっちー(或いはぐっぱー)の結果、侑理と真那は十香・美九チームと、四糸乃・七罪チームは耶倶矢・夕弦チームとまずは当たる事となった。
「十香さんと美九さんが相手、か…。これは初戦から、かなり骨が折れそうだね」
「勝負の世界に最後まで楽して勝てる道なんて端からねーんですから、誰が相手でも全力を尽くすまでです」
いつものように頼もしい発言をしてくれる真那に、侑理は微笑んで返す。そうして大方決めるべき要素が定まった事で、侑理達は羽根突きの道具を持って建物の外へと移動する。その最中、特に意図した訳ではないが、侑理は耶倶矢と隣り合う瞬間があり……
「──決勝戦で会いましょう、耶倶矢さん」
「ふっ…目の前の相手を軽んじ、足元を掬われぬよう気を付ける事だな、侑理よ」
「いや、二回勝ったら優勝の超小規模大会で、決勝も何もねーでしょうに……」
振り向く事も、立ち止まる事もなく、歩きながら言葉を交わす…そんな創作あるある的場面を耶倶矢と作り上げる侑理であった。
「皆さーん、もし広過ぎるって感じた時は、すぐに言って下さいねー」
『はーい』
早速勝負開始、では流石にキツいという事で、まずは軽くラリーをして練習。同時にマンション裏の土地(敷地内)に作った即席のコートの広さが丁度良いかどうか、ラリーの中で確かめる。途中相手の入れ替えも行いながら、数十分程の練習を経て…いよいよ
「それじゃあ、宜しくお願いしますねー」
「えぇ、良い勝負にしましょう」
ぺこん、と真那と共に頭を下げて挨拶。美九と十香からも挨拶を受け、お互い離れる。真那と顔を見合わせ、頷き…それぞれの、立ち位置へ。
「あ……十香さんと美九さんは、横並びで…真那さんと侑理さんは、縦並びみたいですね……」
「憶測。十香と美九は左右で持ち場を分担し、真那と侑理は前衛後衛の形に分かれた…という事でしょう」
全員が構えたところで、コート外からの声が聞こえてくる。四糸乃の言う通り、侑理達と十香達とでフォーメーションは違い…夕弦の見立ても、その通りと言える。
もしこれがバトミントンならば、縦並びも横並びもフォーメーションとして普通に存在する。しかしこれは羽根突きであり、似ていても同じではない。つまり、どちらのフォーメーションが合っているか…或いはどちらかに正解があるのかどうかすらも今の時点では分からないからこそ、侑理と真那は自分達に合っている、慣れている陣形を選んだのだ。
「じゃあ、真那。行くよ?」
サーブ…ではないが、一番最初に打つ役となったのは侑理。呼び掛けた声に真那は頷き、十香と美九は表情を引き締める。そして侑理は、緩く羽根を宙へ放り……羽子板で、叩く。
「こちらに来たか…ふッ!」
「っと、序盤から鋭い返しでいやがりますねッ!」
「これは私に任せて下さーい!」
真っ直ぐ打ち込んだつもりの羽根だったが、少しだけ逸れて十香の方へ。それに反応した十香は剣を振るうような所作で強く打ち返し、返ってきた羽根は前衛の真那が払う。再び羽根は向こう側のコートへ飛び、美九も拾い上げるように打ってくる。しかし、美九の打った羽根は大きく打ち上がるような形となり……前方へ跳躍した真那の、スマッシュの様な一発を受けた事で、羽根は十香と美九の間へと落ちた。
「ふぅ。まずは一点先取です」
「……っ…そんな…」
軽やかに着地した真那は、その言葉と共に羽子板を肩へ担ぐ。十香もそうだったが、真那も真那で羽子板が刀剣であるかのように見えてくる。一方失点してしまった…その遠因となってしまった美九はぽつりと言葉を漏らし、そんな彼女を気遣うするように十香は側に寄った、のだが……
「き、気を落とすな美九。まだまだ勝負は始まったばかり……」
「──そんな格好良い姿、最初から見せられたら私困っちゃいます〜!」
『…………』
美九はショックを受けていた。受けてはいたが、それは失意ではなく、歓喜のショックだった。…分からない事はない、何ならむしろ同意したい…そう思ったのは、内緒である。
「…よ、よし。次は私達からだな」
「はいー。十香さん、お願いしますー」
何事もなかったのように美九が羽根を拾い、十香に渡す。それを受け取った(その際美九は不必要に十香の手を触っていた)十香は数秒の間羽根を見つめ、それから真上へと投げる。そして瞬時に目付きが鋭くなると共に、十香は羽子板を振り抜き……まるで弾丸の様な勢いで、打たれた羽根が飛来した。
「……ッ!」
「つぁ……!」
前に立つ真那の横を瞬時に駆け抜ける羽根。侑理は何とか反応し、ギリギリで羽子板を間に合わせたが、芯で捉える事の出来なかった羽根はへろへろと向こうのコートへ飛んでいく。それを美九は見逃さず、すかさずスマッシュ。そちらは真那が拾ってくれたものの、真那も間に合わせるのが精一杯だったようで、次なる十香の返しは侑理も真那も対応する事が出来なかった。
これは、十点先取で勝利の一本勝負。一対一の現状は、まだ序盤も序盤。しかし既に、小手調べの出来る雰囲気ではない。
「…やっぱり、十香さんはつえーですね」
「うん。それに、美九さんも油断出来ない」
羽根を拾いながら、侑理は真那と言葉を交わす。十香が手強いであろう事は初めから予想していたが、想定していても十香の強さには驚きを禁じ得ない。加えて十香程ではないが、美九もやはり精霊なだけあって、その反応速度は決して油断の出来るものではなかった。
「…侑理」
分かってる。いつも通りに、だよね?」
されど、気圧される事はない。強敵との対戦などこれまで幾度となく経験してきた事であり、振り返る事なく発された真那の言葉に、侑理は小さく笑って返す。
そこからは、一進一退の勝負が展開。大きな点差が開く事はなく、取って取られてが繰り返される。
「はッ!」
「せいッ!」
「真那!」
「十香さん!」
予想通り、真那と十香が目立つ事になるこの一戦。だが勿論、侑理と美九もただ見ている訳ではなく、しっかりと守り、時には攻める。コートの中を走り、飛び、激しく飛び交う羽根を四人全員が追い掛けて…勝負序盤なら中盤へ。
「六対四…今は十香さんと美九さんのチームが勝ってますけど…凄い、勝負です……」
「うん…けど、ちょっと意外かも。十香が凄いのは分かってたけど、連携なら絶対真那と侑理の方が上だし、その分で侑理達の方が有利になると思ってのに……」
「おやおやー?それは侑理ちゃんの名前と掛けたギャグなのかなー?」
「あっ、いや、そういう事じゃなくて……!…っていうか…十香と美九、何がとは言わないけど凄い揺れてるわね…特に美九なんて、ほんと……」
「…それは…そう、ですね……」
四糸乃と七罪、それによしのんによる観客の様な会話。侑理と有利…の部分については侑理自身も気になっていたし、そこをよしのんがつついてくれた事はちょっと嬉しかったが、今はそれよりも目の前の勝負。
確かに今、侑理達は二点差を付けられている。同点ないしは一点差と、二点差以上との間には、大きな差がある。だが…むしろ侑理は、こう思っていた。──二点差で収められたのは上々だ、と。
「お待たせ、真那。もう──いけるよ」
「そこまで待っちゃいねーですよ。けど、それなら…ここから反撃開始としやがりましょうか」
今度は侑理から、真那の背中へと声を掛ける。侑理の言葉に、微かな笑い声を伴う形で、真那からの声が返り……侑理は羽根を打つ。羽根突き勝負の雰囲気にも大分慣れてきた事で精度の上がった一発を、コートの端へ向けて放つ。
予想通り、ギリギリの位置でも十香は反応し、しっかりと返してくる。そこからまた、真那と十香の打ち合いを中心としたラリーが始まり、侑理は要所要所でフォローに入りつつも視線を素早く走らせる。そして…ここだと思った瞬間、声を上げる。
「真那っ!」
「──!」
具体的な事は、何も言っていない。侑理はただ、真那の名前を呼んだだけ。だがそれだけで、真那は意図を理解し、横へ跳んでくれた。後衛である侑理へ、正面を開けてくれた。
その隙間へと、侑理は飛び込む。突然の動きに十香も美九も驚く中、侑理は縦に羽子板を振り抜く。小気味の良い音を立てながら、羽根は向こうのコートへ跳ね返っていき…落下。
「……っ、やられた…まさかこのタイミングで侑理が前に出てくるとは……」
「私も翻弄されちゃいましたぁ…。……侑理さんに翻弄されるのは、それはそれで中々素敵ですけどねっ」
ぱちんと放たれるウインクを愛想笑いで流し、侑理はちらりと視線を送る。その視線の先、真那と小さく頷き合い…お互いそれぞれのポジションに戻る。その間に美九が羽根を広い、しなやかな所作で羽根を投げて、すぐに勝負は再開される。
「取られた一点は、すぐに取り返す…ッ!」
「いいや、そうはさせねーですッ!」
鋭い打ち込みを鋭い打ち込みで返す、真那と十香の二人。間違いなくこの二人が双方のエースであり、今は霊力も、
「ほぅ…流石ではないか、侑理。彼奴は戦いがよく見えている」
「え……?どういう事、ですか……?」
「同意。目立っているのは十香と真那ですが、流れを作っているのは侑理です」
「…もしかして…侑理の立ち位置の事……?」
疑問を呈する声が二つに、スポーツ漫画における強豪キャラみたいな声が二つ。その内の声、八舞姉妹の分析に、侑理は内心で笑みを浮かべる。
二人はよく見えている。そして、二人の見立てはその通りで…侑理は戦場と同じように、序盤から中盤に掛けて、全員の事を深く観察していた。誰にどんな強みがあり、どんな傾向があり、どう動くのか、どう動きたいのかを、全力で把握する事に努めていた。その分勝負には集中しきれなくなる為、十香達に遅れをとってしまっていたが…その間に大きな点差を付けられてしまう事にはならなかった為に、上々だと思っていた。その上で侑理は今、相棒たる真那は勿論、十香と美九の動きも十分に理解出来ていた。
分かってしまえばこちらのもの。侑理は真那の隙や対処しきれない部分を動きから先読みする事で的確に埋め、逆に十香と美九に対してはその隙を徹底して攻める。相手も強い為、侑理一人では「分かっているけど出来ない」という自体も往々にして発生していただろうが、こちらにも強く、加えて心から信頼出来る真那がいるからこそ、その真那に攻防のメインを張ってもらう事によって実現している。
(これが戦場なら、戦闘なら、ここまで上手くはいっていない。だけど、ルールの上でなら……!)
幾ら全体を把握出来ているといっても、それだけで優位に立つ事は出来ない。相手も強敵であり、またそもそも周囲を把握し、動きを読もうとするのは多かれ少なかれ誰でも行う事…即ち、侑理だけの特別な技能ではないのだから。
だからこそここで、ルールが活きる。ルールは人を縛るものであり、それが慣れたものではないのなら、意識は自然と自分に向く。自分がルール違反をしないようするのが精一杯で、他者の動きになど十分目を向けられなくなる。そうなると、頼りになるのは無意識の部分であり……戦場の把握をする事と、真那と連携する事なら、いつでもどこでも無意識に出来る侑理が、このルールの中では一番自由に動けるのだ。
「まだ、終わってませんよ…!そうですよね、十香さん!」
「ああ!気張るぞ、美九!」
更にもう一点入れて、六対八に。ゲームセットまでは後二点。こうなると、点数が相手に与えるプレッシャーというのも相当なもので…しかし十香と美九はまるで動じていなかった。恐らく十香は〈プリンセス〉として幾度も
それを示すように、五連続得点は防がれる。十香のラインギリギリの一発が突き刺さり、七対八の状態になる。
「こっちは後二点取れば勝利、但し相手も後三点で勝利。中々にヒリヒリしやがりますね」
「そういう割には、楽しそうじゃん」
「当たり前じゃねーですか。つえー相手と鎬を削る…これこそ勝負ってもんです」
「あはは、真那らしいね」
声だけで伝わってくる、真那の気分の高揚。それに思わず頬が緩んでしまうのを感じながら、侑理も構え直す。
向こうがプレッシャーを跳ね返しているように、真那もまた焦ってはいない。真那と共に戦えている時点で、侑理に不安などはない。初めからこれは、精神力が左右する事などない勝負。そしてもう終盤に差し掛かっている以上、後は力を尽くすのみ。
「十香さん、打ち返されても私が何とか拾ってみせます。だから、全力で攻撃して下さいねー!」
「こっちだって、支援に抜かりはないよ!真那、後二点をもぎ取ろう!」
横一列から斜めの陣形に…少し下がった位置取りに少し前から切り替えていた美九へと対抗するように、侑理も声を上げる。真那と十香は無言で頷き、今一度打ち合う。侑理は真那を信じて支援に徹し、美九も言葉通り懸命に動き回って十香の取り零しをフォローする。
激しく打ち合い、真那と十香が一点ずつ取って、いよいよ八対九の大詰め。こちらはマッチポイント(羽根突きでマッチポイントという言葉を使うのは何か変な気もするが)だが、向こうももう一点取ればマッチポイントになるという、全く気の抜けない状況。その状況下で、侑理は少し強めに羽根を投げる。この勝負の最後になるかもしれない、ラリーの一打目を相手コートの左端へ狙って放つ。
「甘いッ!」
ギリギリとは言わずとも、ラインに近い位置へ飛んだ羽根を、迷いなく十香は打ち返してくる。鋭い反撃を真那は前進しながら跳ね返し、十香とは反対側に羽根を放る。幾ら十香でも、すぐには間に合わない…そんな位置へと羽根を落としてフィニッシュを決めようとするが、そこには既に美九が先回りしていた。
その美九は、下から山なりに、真那を飛び越える形で羽根を打つ。先の真那同様、相手の対応を間に合わせない反撃であり…だがそれは、侑理には十分対応出来る位置。美九と十香、二人のポジションを一瞬で侑理は確認し、その中間へ羽根を打つ。これで二人が互いに躊躇う、或いは自分が打とうとしてぶつかってしまう、となってしまえば御の字だったが、美九は動かず、十香は瞬時に拾いへ走る。結果得点にはならなかったが、その間に真那は次のポジションへ移動していた。最高の結果ではなかったが、最低限の狙いは果たせた。
(これって、やっぱり……)
二人の反応、動きを見ながら、侑理が得た一つの確信。再び真那と十香は打ち合い、合間合間で侑理と美九がフォローする。
これまでで一番の、長いラリー。体力と集中力の両方がなければ途中でミスが発生する事なく終わっていたようなぶつかり合い。そしてそうなると、不利なのは霊力封印をされていても常人より身体能力の高い精霊より、
されど十香や美九とて、消耗がない訳ではない。実際真那含め、全員パフォーマンスは低下している。それも侑理は分かっている。だから侑理は、温存していた隠し球を用いて……勝負を、決める。
「……っ!真那、退いてッ!うちが決める…ッ!」
「……ッ!?」
ここだと思った瞬間、侑理は声を上げ、前に踏み込む。直後に真那は肩を震わせ、横へ跳ぶ。
位置が切り替わる中でタイミングで飛び込んでくる、十香の打った羽根。それを見据えて、侑理は地面を蹴る。スマッシュを打つように羽子板を振り上げ、向こう側の陣地を見据える。
防御の為に前は出る十香。その邪魔にならないよう、端へ下がる美九。侑理がどこへ打ち込もうと対応してみせる。そんな気配を纏う十香と視線を交錯させながら、更に侑理は前進し……身を屈める。膝を抱え、背中を丸め…宙で前転を掛けながら、羽根の下を潜り抜ける。──相棒に、最後の一撃を託す為に。
『な……っ!?』
「これで…終いですッ!」
着地と共に侑理が転がる中、十香と美九の息を呑む音と、真那の声が同時に聞こえる。更に羽子板が羽根を叩く音が聞こえ……顔を上げた侑理の目の前で、羽根は地面へと落下した。ラインの内側、十香チームの陣地内へ落ち……勝負は、決着する。
「ふっ……雌雄は決した!この勝負、八対十で西軍の勝利である!」
「拍手。とても良い試合でした」
ばっ!とコートの外から耶倶矢が手を振るい、言葉通りに夕弦が拍手をする。それに続く形で、四糸乃と七罪も拍手を(四糸乃はよしのんの両手とタッチする形でだが)送ってくれる。……どうやら侑理と真那は、西軍だったらしい。まあ確かに、方角的には侑理達が西側、十香達が東側に立っているのだが。
「くっ、後一歩だったのだがな…。…だが、最初から最後まで気分の良い戦いだった。ありがとうだ!」
「えぇ、それは私も同じです。やっぱりつえーですね、十香さんは」
服に付いた砂を払いながら、侑理は立ち上がる。真那と共に、コートの境付近に立ち、同じくこちらへやってきた十香、少し疲れ気味な美九と握手を交わす。勝負が終わればノーサイド、その精神で真那と十香は言葉を交わし…侑理もまた、目の前に立つ美九へと視線を送る。
「うー、残念ですー。十香さんとなら、優勝も狙えると思っていたんですけど……やっぱり、お二人の連携には敵いませんね」
「うちと真那の連携、そう簡単には超えさせませんよ?でも、美九さん達も本当に強かったと思います。…ところで美九さん、途中から美九さんって……」
「あー、気付きました?…普通にやったら十香さんのお邪魔になると思って、十香さんが思う存分動けるよう、その動きに合わせる事を意識してたんです。つまり、侑理さんの真似っこですよー」
まあ、侑理さん程上手には出来ませんでしたけどね、と付け加えつつ、美九は朗らかに笑ってみせる。…やはり、そうだった。途中から感じていた通り、美九はサポートを、支援を主軸とした立ち回りで戦っていた。それこそ、侑理が普段からしている…今回もやっていた事のように。
思えば美九は、戦闘においても歌によるサポートを行う事が多い。それは美九の〈
「…やっぱりうち、美九さんとは気が合うのかもしれないです」
「えっ?どうして急に……はっ!もしかしてこれが、ぶつかり合う中で育まれる思いってやつですか!?この勝負を通じて、侑理さんと私は心が繋がっちゃったんですかー!?しかもやっはりって…あぁん、前から私の事を思ってくれていたのなら、もっと早く言って下さーい!」
「いやそういう訳じゃ……ちょっ、握手したままの手を引っ張り込もうとしないでくれません!?なんでさっきまで疲れてたっぽいのにこんな力……た、助けて真那ぁー!」
ぐぐぐ、と美九の方へ引き摺り込まれる。握手していない方の手が、侑理を捕まえようとわきわきしている。咄嗟に侑理は助けを求めるも、真那は大変そうだなぁと眺めるばかりで、全然助けてくれる気配がない。
まあ確かに、こういう面…好きという感情に遠慮しないという面でも、侑理は美九に少しシンパシーを感じていた。真那の魅力をよく分かっている事については、同志的な喜びを抱いた事もある。だが侑理は決して、そういう意味で美九と仲を深めたいのではない訳で……幾ら勝負後のさっぱり感があったとはいえ、やっぱり言うべきではなかったかもしれないと、後になってから後悔する侑理だった。