年末年始の終わりといえばいつか。それに明確な決まりはなく、個々人で認識は違うのだろうが、その個々人の認識を決めるのは恐らく、いつまで休みなのか、だろう。例えばそれは三が日までであったり、学生であれば冬休みが終わるまでであったりを以って、認識…というか、終わりのイメージを持っている事であろう。
そして侑理も今、慌ただしかった年末年始の終わりを迎えている。より厳密にいえば、終わりなのだなぁ…と感じていた。
「ねぇ、皆」
「なんでいやがりますか?」
「うち達ってさ……年中問わず休みの日を謳歌してる、まぁまぁな駄目
『えぇー……』
来禅高校三学期の初日。十香と耶倶矢、夕弦を精霊マンションのエントランスで見送った侑理は、同じく見送りに来ていた真那、四糸乃、七罪に向けて、そんな事を言った。まあ、予想はしていたが…言った結果、普通に引かれた。真那や七罪だけでなく、四糸乃もちょっと引いていた。…よしのんまで、ちょっと引いたような顔付きになっていた気がする。
「いきなり何を言い出すかと思えば……」
「本当に何を言い出すのよ侑理は……」
当たり前だが、こんな事を言われて喜ぶ者はまずいない。分かってはいたが、そんな思考がふと浮かんでしまったのだ。
「で、でも…それ私も、思った事あります……」
「十香ちゃん達はちゃーんと学校行ってるんだもんねー。だけど今の生活にも慣れちゃったし、このまま皆でダメダメになっちゃう?」
「だ、駄目よそんなの。私達はともかく、四糸乃がダメダメになるなんて……!」
『私達はともかくって……』
何故か巻き込まれ、今度は侑理が真那と揃って突っ込む。なんというか、七罪は四糸乃に関しては押しが強くなるというか、四糸乃の事を大切に思っている節が散見される。四糸乃は優しく健気で、守ってあげたくなる感じがあるのは侑理もよく分かる…が、それを差し引いても七罪の様子にはちょっと微笑ましさも感じる侑理であった。
「…こほん。で、侑理はどうしてーんで?そう言うからには、何か考えがあるんでしょう?」
「あ、ごめん。そこまで考えて言った訳じゃないや」
『えっ』
「……侑理、この雰囲気をどうしてくれるんで?」
完全に呆れた様子の真那の言葉と半眼に、侑理は思わず後退る。確かに酷い雰囲気になってしまった。剣呑とか重いとかそういう感じではないが、「ここからどうするの?これ……」みたいな空気がバリバリにあった。
確かにこのまま解散したのでは、後味が悪過ぎる。とはいえ何も考えなどない。故に侑理は頭を働かせ、何かないか考え……数十秒の時間を経て、何とか一つ捻り出す。
「と、取り敢えずこことか共用してる場所とかの掃除でも…する?ほら、自分の部屋以外ってあんまり掃除しないというか、やろうって考えたりもしないでしょ…?」
『あ、あー……』
取り敢えずそれっぽい事を言いはしたものの、その反応は何とも微妙。しかしあのままの雰囲気よりはマシであり……四糸乃がおずおずと手を挙げる。
「じゃあ…やりますか……?」
「うん、まぁ…四糸乃がやるなら……」
「なら、ここは私と侑理とで…ですかね」
さぁ、やろう!…という空気には程遠いものの、一先ず三人共やってくれる事に。…尤も、侑理は別に玄関の掃除をしたかった訳ではないのだが、こういう流れになった以上、発案者である侑理が断る訳にはいかない。
という事で、侑理は真那と共にエントランスの掃除をする事になり、四糸乃と七罪は食堂の担当となった。無論他にも共用のエリアはあるが、何も大掃除がしたい訳ではなく、一日で片っ端からやっていく必要もない。というかそもそも、時間ならたっぷりあるのだ。
「じゃ、まずは床を掃いて…自動ドアも拭く?」
「まあ、その位はしてーですね。…そういえば、ドアのセンサーはどこで切ればいいんで?」
自動ドアを拭くには、そのセンサー切って動かないようにする必要がある…が、点検整備は勿論、普段の管理も〈ラタトスク〉に任せきりである為、碌に侑理達は把握していない。これが企業の施設か何かなら、まだ自分の担当じゃないから…と言い訳出来ただろうか、ここは毎日生活している場所である以上、全て…とは言わずとも、各種設備の事をもう少し知っておくべきだ…そう思わされた侑理であった。
「……あっ」
「うん?どうかしやがりましたか?」
「いや…細かい埃とか砂とかを
「侑理……良い事言うじゃねーですか。ならば早速」
「あ、ズルい真那。うちが思い付いたんだからね?」
「いや、ズルいも何もねーでしょう…」
暫くは普通に箒で普通に掃除をしていた侑理達だったが、侑理が思い付いてからは、二人揃って
当たり前だが、立ったまま床の細かいゴミを目視するのは難しい。そこでまず視力強化を使う事になり、そこからゴミを一つ一つ、
(…そういえば、エレンさんは準精霊達の血液を、当たり前みたいに採取してたっけ…やっぱり、凄いな……)
思い出すのは、過去の事。あれとこれとが同程度の難易度かどうかは分からないが、あれも相当難しい事であったのは間違いない。それをエレンは平然と行い、しかも帰還するまで保持し続けていた。あの時よりも侑理は、かなり強くなっている筈。だが依然としてエレンの背中は遠く…むしろ実力を付ければ付ける程、エレンの凄まじさが身に沁みてくる気さえした。
「…ふぅ。これは思った以上に良い訓練になりそうです」
「あー、真那ってば昔から大雑把だもんね」
「いやぁ、侑理みてーに細けー事をいちいち気にする性分じゃねーですからね」
「あははっ、真那ったらもー」
「ふっ、全く侑理は本当に……」
「え、何?今から模擬戦やる?」
「望むところでいやがりますけど?」
「馬鹿な事言ってねーで、さっさと掃除を終わらせますよ、侑理」
「はいはーい」
張り合うのを止め、
そうして侑理達は床のゴミを一通り取り終え、纏めて捨てる。それから続いて自動ドアを拭くべく、センサーの操作盤なりスイッチなりが周囲にあるのではとエントランス内を探そうとした……その時だった。
「…うん?真那、今……」
「…何か、爆発みてーな音がしましたね」
不意に聞こえた、お腹に響くような轟音。決して大きな音ではない…というか小さい音ではあったものの、聞き間違いではない。当然近くに、TVやラジオなどもない。
侑理は真那と頷き合い、マンションの外に出る。道路まで走り、異変が起きていないか見回す。
「…近くでは、何も起きてなさそうだけど……」
「聞こえた音の大きさ的に、もう少し離れた場所かもしれねーですね。それよりも問題は……」
「今のが何によるものなのか、でしょ?」
耳を澄ましつつ侑理が答えれば、真那は頷く。これが単なる事故や事件ならいい(いや、良い事ではないが)が、そうではない場合……精霊やDEM絡みの事であった場合には、のんびりとはしていられない。
ならばどうするか。…そんなのは明白。ぱっと見回して分からないのなら、自分達より情報収集に長けている…或いは情報が集まってくる立場の者に訊けば良い。
「琴里さんに連絡します。侑理は念の為警戒を」
「了解」
携帯電話を取り出し、真那は電話を掛ける。侑理は頼まれた通り周囲への警戒を続け…しかし数十秒程経っても、真那が通話する声は聞こえないまま。
「…駄目ですね。誰かと話をしてるみてーで、通話中だってなっちまいます」
「そっか…だったら」
ただ繋がらないなら不安もよぎるが、通話中という事であれば、琴里は無事である可能性が高い。それこそ、今の爆発音に対して琴里も誰かに確認している、或いは誰かから連絡を受けているという事も十分あり得る。そして状況を聞いた侑理は自身も携帯を取り出し、電話ではなくメッセージで琴里へと呼び掛ける。これで後は、琴里が見てくれればと視線を周囲に戻し……数分後、連絡が入った。
「もしもし、琴里?メッセージ見てくれた?」
「見たわ。こっちも今情報を纏めてるところだから、いつもの地下施設に真那と一緒に来てくれる?」
「分かった。…この事、四糸乃と七罪には……」
「それは……そうね。二人の性格からして下手に秘密にすると精神状態が不安定になる可能性が高いし、話してあげて。但し、不必要に不安を煽ったりはしない事。いい?」
「勿論」
最低限のやり取りだけして、通話終了。会話の内容を真那に伝え、まずはマンションの中に戻る。早足で食堂へ向かい、掃除道具を片付けている最中だった四糸乃と七罪へ声を掛ける。
「二人共、ちょっといい?」
「あ……どうか、したんですか……?」
「……もしかして、さっきの爆発っぽい音の事?」
「えぇ、その件です」
こくりと頷き、侑理は真那と共に、まだ詳細は分かっていない(というか聞いていない)事、それを確かめる為に地下施設へ行ってくる事、念の為マンションで待機しておいてほしい事……そして、万が一の時はすぐに連絡する事を二人へ伝える。
万が一の時…これについて、琴里は良い顔をしないだろう。〈ラタトスク〉は精霊を保護する為の組織であり、その理念に賛同している琴里は、精霊の力を借りたり、荒事に巻き込んだりするのを基本的に避けているのだから。
だが、侑理は違う。力を借りずに済むのならそれに越した事はないが、精霊達はその強さを知る友であり、力を合わせて何度も苦難を乗り越えてきた間柄だからこそ、守るべき存在だとは思っていないし、思えないのだ。頼りにしているのだ。
「…そういう訳だから、行ってくるね」
「…分かった。でも…ちゃんとどういう事なのか分かったら、教えてよね」
「宜しく、お願いします。それから……琴里さんに、無理はしないように…って、伝えてもらえますか……?」
「任せやがって下さい。琴里さんは人には散々無理や無茶をするなと言う癖に、自分もまあまあ無理をする困ったお嬢さんでいやがりますもんね」
おどけた調子で言った真那の言葉に、侑理は四糸乃、七罪と共にうんうんと頷く。それから全員でくすっと笑う。
そうして侑理と真那は、マンションを後にした。士道が霊力を暴走させてしまった時や、二亜の攻略に望んでいた時にも集まっていた例の地下施設へ急行し、セキュリティを抜けて司令室へ。
「お待たせ、真那。状況は?」
「具体的な話は士道と令音が来たからよ。でも、先に言っておくわ。貴女達の聞いた爆発音、それは──精霊の攻撃よ」
『……っ…』
既に〈フラクシナス〉でブリッジクルーを務めていた面々…要は見慣れた面子が司令室のコンソールへ指を走らせ作業を行う中、司令官の席に座っていた琴里は、くるりと振り向き答えてくれる。
精霊の攻撃。その言葉に、侑理も真那も息を呑んだ。されど、慌てはしない。精霊絡みである事は想定していたし…今この場の雰囲気も、緊迫こそしているものの、一刻を争う…という程ではない。少なくとも、今も攻撃が続いていて、誰かが危機に瀕しているという事はなさそうである。
「四糸乃と七罪の様子はどうだった?」
「取り敢えず納得はしてくれやがりました。それと四糸乃さんから、琴里さんに無理はしないよう言伝を預かってます」
「なら良かったわ。でも、その言伝は士道に送るべきね。士道はいつも人の事を気にする癖に、自分の無茶には無頓着なんだから」
「……ぷっ」
「くふっ……」
「……ちょっと、なんで今吹き出したのよ」
やれやれとばかりに肩を竦めた琴里を見て、思わず笑ってしまう。人のふり見てなんとやら、士道への認識は侑理もその通りだと思ったが、なんというか…本当に、似た者兄妹である。
と、侑理達が琴里とやり取りをしてから経つ事数分。司令室の扉は再び開き…ブレザー姿の士道と、白衣を纏った令音(令音は普段仮の姿として、士道のクラスの副担任も勤めているらしい)が入ってきた。
「全員揃ったわね。それじゃあまずは状況の説明をするわ」
「ああ……一体何がどうなってるんだ?あの隕石が精霊の仕業って……空間震警報は鳴ってなかったよな?静粛現界をしたって事か?」
『……隕石?』
いきなり士道の口から発された、予想外の言葉。隕石という単語に、侑理も真那も思わず聞き返し…こちらの状態を察してくれたのか、令音が説明をしてくれる。
侑理達の聞いた爆発音。あれは、来禅高校の校庭に隕石が飛来した事によるものだったらしい。その際あまりにもタイミングが合い過ぎたせいで、士道のクラスの担任が婚期への焦りから悪魔と契約して隕石を召喚した…という、訳の分からな過ぎる仮説がクラス内で立っていたらしいが、まぁそれはそれとして、その時の轟音がマンションにまで響いてきたというのが真相との事。
それを踏まえ、士道は高校が、自身や十香達が狙われたのかと問う。確かにそれが精霊による『攻撃』ならば、それを疑うのが必然だが…その問いに対し、侑理は違和感を抱く。
「待って、士道にぃ。士道にぃや十香さん達が狙われた…っていうのは、まだ早計じゃない?だって、隕石だよ?それが落ちてきたのに士道にぃも令音さんも無事って事は、攻撃だった場合は大外れになるよね?しかもそれ以降音がしなかった以上、飛来も一回だったって事だよね?隕石なんていう隠密性皆無の攻撃をするのに、大外れの一回だけで止めるって、それが士道にぃ達を狙っていたならなんか色々雑っていうか……」
「私も侑理に同感です。それに精霊を狙った攻撃だってんなら、四糸乃さんや七罪さんのいたマンションも攻撃されてなきゃおかしいですし」
確かに…と士道は首を捻る。そして改めて、今度は侑理や真那と共に琴里へと視線を送り…注目を受けた琴里は、肩を竦める。
「どうなのかしらね。正直、まだ何とも言えないわ」
「ど、どういう事だ……?」
「ん。画像、出せる?」
問いへ応じるように、クルーがコンソールを操作。それによって、司令室の壁にある大型モニターの映像が世界地図へと切り替わる。
その地図に表示されているのは、数十のマーキング。日本にも、他国にも、海にもマーキングは点在しており…それを一瞥した琴里は言う。これは、来禅高校に物体が飛来したのとほぼ同時刻に、同様の現象が起こった場所のマーキングだと。
「な……!?この全部に、同時に……!?」
「ええ。俄かには信じ難いけれど、全世界で四十二ヶ所もの場所に『弾丸』が投擲されたの。──その中には、DEMの施設や、各国の対精霊部隊基地も幾つか含まれているわ。だからもしかしら、微弱な霊波や魔力反応を察知して、それを狙ったという可能性も捨てきれない」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。南米にも落ちてるじゃないか!地球の真裏だぞ!?それを同時になんて……まさか八舞姉妹みたいに、複数の精霊なのか!?」
驚きの声を上げる士道。だが、マーキングの意味を知って驚いているのは侑理も同じ。更に言えば、琴里の表現…『弾丸』という言い方が引っ掛かってもいた。何故特殊で何でもない『隕石』という言葉ではなく、別の単語を用いたのか、と。
そして士道の言葉に対し、琴里は一人であると断定する。その上で、正しくは隕石でもないのだと、侑理が内心思っていた疑問への答えも口にする。しかしその回答だけでは、理解を得るのは不十分。それも分かっているようで、今日も今日とて咥えているチュッパチャップスの棒をぴこぴこさせつつ、新たな指示をクルーに出す。
『これは……』
ぽつり、と侑理及び真那の口から呟きが漏れたのはほぼ同時。琴里の指示で、モニターの映像は切り替わり…思わず侑理はその映像を見つめていた。
まるで夜空の様な、漆黒の闇と輝く星々。しかし違う。映像には同時に、深い青と渦巻く白、それに緑や茶色の広がりを持った巨大な存在が映っている。こうして見るのは間違いなく初めて…しかしこれ以上なく馴染み深い、見ているだけで何か心が震えてくるそれは──地球であると、すぐに気付く。
「宇宙空間…だよね?どうしてまた……あ」
何故宇宙の映像を映しているのか。それを訊こうとした侑理だったが、言い切る前に自己解決する。今回の精霊の攻撃は、隕石(厳密には違うらしいが)によるもの。であればその精霊が、地球ではなく宇宙空間にいたとしても何もおかしな事はない。
そして侑理の解釈は正しかった。無限に続くような、空の先にある空間に、彼女の姿はあった。金色…侑理の髪よりもずっと輝きを帯びている黄金色の長い髪を、無重力の中でその身共々浮遊させる、一人の少女がそこにはいた。
彼女が精霊である事は、星座を思わせる意匠の施された霊装を纏っている事と、その手に錫杖の様な…しかし映像越しでも特別な何かである事が分かる存在を握っている事からも間違いない。…まあ、そもそも生身で宇宙空間にいる時点で、普通の人間でない事は明白だが。
「この子……が?」
「ええ。──私達も、初めて確認する精霊よ。正式な識別名は付けられていないけど、便宜的に〈ゾディアック〉と呼んでいるわ。二人はこの精霊を、DEMのデータベースで見た事ある?」
「ううん。うちもないし、第二執行部の権限で見られる範囲になかったって事は、多分DEMも観測出来てなかったんだと思う。…役員級でもないと開示されない情報として扱われてた…って可能性も、一応あるとは思うけど」
「侑理がねーってんなら、本当にそうでしょうね」
『それって……』
真那は碌にデータベースを見てもいないのか、と五河兄妹が揃って半眼を向ける。一応真那の名誉の為に補足しておくと、真那とて全く見ない訳ではない。必要と感じた時はちゃんと調べているのを、侑理は知っている。…逆に言えば、必要に迫られない限りはやっぱり見ていないという事でもあるが。
まあそれはそれとして、今回初確認された…という事は別に驚きではない。普段からこうして宇宙にいるのなら、観測の目を流れていても不思議ではない。しかしそこで、ならば隕石がこの精霊によるものかどうかも分からないのでは?と言う。データがないなら、この精霊がやったかどうか確かめる術もないのではないかと琴里に尋ねる。
だが、その疑問を琴里は想定済みだったのか、こくりと一つ頷くと、指示を出してまた新たな映像をモニターに映す。それは三時間前の映像らしく、始まった時点では〈ゾディアック〉の姿勢が眠るように丸まった状態である事以外はほぼ変わらないように見えた…が、すぐに大きな変化が起こる。
「……!空中艦…!」
「それに、〈バンダースナッチ〉もいやがりますね……」
地球上に現れた、微かな点。それは次第に大きくなっていき、見覚えのある形に…空中艦の姿となる。三隻の空中艦が宇宙へと進出し、その周囲には大量の無人機、〈バンダースナッチ〉が随伴する。
これが一体何なのか。この艦隊はどこの所属なのか。それは、考えるまでもない。
「まさか、DEMが!?」
「ええ。〈ゾディアック〉の場所を発見したのはDEMよ。私達は、DEMの空中艦が不審な動きをしていたから、その周辺を自律カメラで探っていただけ」
「な、なんでDEMは精霊の居場所を知っていたんだ?さっき侑理は、DEMのデータベースにもないって……あ」
何かに気付いたように、言葉を止める士道。データベースになかったという侑理の言葉に、嘘はない。だがそれはあくまで、侑理が〈ラタトスク〉に身を寄せる前までの事。そして今、DEMには…そのトップたるウェストコットの手には、大きな力がある。
「恐らく、〈
不愉快そうに琴里が言う中、映像の中の空中艦は多数の砲門を開き、濃密な魔力の光を見せ始める。同時に〈バンダースナッチ〉が艦隊を離れ、〈ゾディアック〉を包囲していく。
「お、おい……ヤバいんじゃないのか、これ」
「…いや、大丈夫だと思う」
「えぇ、そうですね。それよりも……」
精霊の心配をする士道だが、侑理はそれを否定する。真那も同様の反応を見せる。
何も、DEMの戦力を低く見積もっている訳ではない。ただ、これは三時間前の映像であり、先に見た現在の映像で〈ゾディアック〉が無事だった以上、彼女の生存は確定しているというだけの事。だから重要なのは、彼女が凌げるかどうかではなく…どうやって凌いだのか。
「──〈
今現在無傷という事は、圧倒的な力で勝利したか、上手く逃げるなり隠れるなりしたか、或いは琴里や狂三のような回復手段を持っているのか…そう侑理が思考する中、DEMの部隊に気付いた様子の〈ゾディアック〉はゆっくりと顔を上げ、右手を掲げる。そして彼女が呟いた瞬間、闇の中に霊力の光が煌めき、豪奢な装飾の施された錫杖が…まるで鍵の様な形状を持った、あの天使が現れる。
それを合図とするように、〈バンダースナッチ〉が攻撃開始。数機が腕部よりレイザーブレイドを出力しながら、スラスターを吹かして接近する。しかし精霊は動じる事なく、迫る〈バンダースナッチ〉に対して天使の先端を突き出すと…再び、呟く。
「──【
言葉と共に、鍵を閉めるように、〈ゾディアック〉は天使を右へと捻る。彼女が行ったのは、ただそれだけ。たったそれだけ。されど、それだけの動作で……〈バンダースナッチ〉は、止まった。破壊された訳でも、動きを封じられたという様子でもなく…ただ、システムダウンか何かを起こしたように、ガクンとその場で止まってしまった。
後続の機体にも、精霊は同様の事を行う。平均的な
「これは……」
「……〈|封解主『ミカエル》〉。映像と解析数値からの推測になるが、対象に鍵を差し込み、『閉じる』事により、そのものが持つ機能を封じてしまう力を持っているようだ」
「機能を封じる……って事は、単に遠隔操作の通信を遮断されたとか、内部の中枢部だけを狙って破壊してるとかではないんですね……」
「ひゅう、二亜さんの全知といい、〈ナイトメア〉の時間操作といい、ちょいちょい無法な力を持った天使が出てきやがりますね」
令音の回答に、侑理は思案し、士道は狼狽し、真那は呆れ混じりに呟きを漏らす。その間にも、〈バンダースナッチ〉は〈ゾディアック〉によって封じられていき……しかし次の瞬間、三隻の空中艦に灯っていた魔力の光が一際強く、大きくなる。
それは、魔力の充填が完了した事を示す輝き。どうも〈バンダースナッチ〉は充填までの時間稼ぎに過ぎなかったようで、直後に空中艦隊は一斉掃射。
幾ら精霊の霊装が堅牢でも、これを諸に喰らえば無事では済まない。だが空中艦の魔力砲撃が届くより前に、彼女は次の行動に出ていた。精霊は再び天使を突き出し…しかし先とは違い、その先端は宇宙に飲み込まれたかのように見えなくなる。その状態で、今度は天使を左に回す。
「──【
直後、天使を起点とするように〈ゾディアック〉の周囲の空間が変異。魔力砲撃が到達する寸前に、ブラックホールを思わせる大穴が開き……光の束を、全て飲み込む。
それだけでも、驚愕の力。しかし、起こったのはそれだけではなかった。砲撃全てが飲み込まれ、消えてしまった次の瞬間、陣形を組んでいたDEMの空中艦隊の後方に、砲撃を飲み込んだのと同じような大穴が開く。その穴から強大な光が…魔力砲撃の光芒が放たれ、空中艦隊へ襲い掛かる。
スパークの様な、激しい閃光。爆ぜるように飛び散る、魔力の粒子。空中艦は反撃に備えて
「……ッ…!」
「……これが、〈
再びの、令音の言葉。無意識の内に侑理が歯噛みをする中、令音は語り…その間にも、魔力の砲撃は空中艦隊を貫いていった。艦は火を吹き、その巨大が崩れ……そして遥か遠い宇宙で、今はもう過去となった時間の中で、爆散していくのだった。