宇宙空間で観測された、新たなる精霊。自らを星宮六喰と名乗った少女との対話は、立体映像によって行われていた。場所が場所である事と、立体映像ならばその場で攻撃を受けても怪我しない事を踏まえれば、実体がないという大きなデメリットがあっても尚、今の状況においては最適と言える選択だった。
接触からのやり取りと、自己紹介。そこからの、事情の説明。不安要素はあったものの、流れそのものはそう悪くないと思える内容だった。全く感情が伝わってこない点は不審ながら、不味い気配は現状なかった。だからこその、士道の踏み込んだ問い掛け。霊力を封印させてほしいという言葉。それに対し、六喰は言った。言い切った。断る、と。
「……琴里。これは、想定内?想定外?」
「想定内よ。というかむしろ、今の時点で承諾されたらそっちの方が驚くわ。前回の二亜はそのパターンだったけど、二亜に関しては色々とイレギュラーだしね」
迷いも躊躇いも、逡巡すらも感じさせずに返した六喰へ、士道は一瞬声を詰まらせながらも食い下がっている。それを聞きながら、侑理も琴里へと問い…答えを受ける。
琴里は想定内だと言った。侑理自身、そうだろうなと思っていた。何せ、封印とは即ち精霊としての力の殆どを失う…厳密には違うが、これまでの『当たり前』が激変するという事なのだ。自分に置き換えてみれば、
それは士道も分かっているようで、まずは真剣に言っているのだという事を伝えようとする。いや、既にしていたが…それを、六喰が制する。
「むくは別に、疑ってなどおらぬ。うぬの言う事は、きっと本当なのだろうよ。うぬの言葉には、純粋な善意が窺える」
「じ、じゃあ、なんで」
「うぬの考えは理解した。だが、むくにはその施しを受ける必要がない、と言っておるのじゃ。むくはここで漂っていられればそれで良い」
そもそも話に付いていけていないのではなく、飲み込んだ上で拒否している。…それが、六喰のスタンスだった。彼女の言葉に嘘がないのなら、まだ出会ったばかりだというのに、ある意味で『信じてもらう』という点はクリアしていた。
とはいえ勿論、ならいいかとはならない。士道はDEMの名を出して危険性を伝える…が、その言葉も六喰には響かない。
「でー、いー、えむ……ああ、先程屠った鉄屑か。あのようなもの、幾ら来ようとむくの敵ではない」
「……ッ…」
上空へ向けて構えたままの〈オルムスファング〉が震える。構える腕に、無駄な力が籠る。その間も、士道は六喰と話している。先の艦隊とは比べ物にならない強者もいるのだと伝えて説得を試みる…のだが、やはり六喰の考えは変わらない。
「同じ事よ。むくの天使に勝てるものなど存在せぬ。──もし仮にいたとして、〈
いる。…士道は、そう返さなかった。恐らくは、そうは返せなかった。いると答えて嘘を見抜かれる危険を考えたから…ではなく、そもそも士道は咄嗟にさりげなく嘘を吐ける性格ではないから、言葉を詰まってしまったのだろう。
実際、DEMの技術力があっても、宇宙の彼方まで追えるかどうかは怪しい。少なくとも、普通に出来るという事はないだろう。だが、今のDEM…ウェストコットには、〈
しかし士道は可能性の話ではなく、地上に…皆のいる場所に来てほしいと言った。ここでは寂しいだろうと、六喰に言った。それは精霊に幸せになってほしいと願う、士道らしい言葉で……されどその言葉も、六喰には届かない。それどころか、六喰は告げる。自分は孤独を感じていないと。孤独も、痛みも、喜びも、悲しいも…愛も全て感じないと。心に『鍵』を、掛けているからと。
「…そんな馬鹿な、と言いてーところですが……」
あり得なくはない…そんな雰囲気の籠った、真那の声。侑理も、同じように思っていた。あり得ないと言いたかったが、〈
「な、なんで……そんな事を。寂しさや悲しさだけじゃなく、楽しさまでなんて!」
「さて……何故だったかのう。必要がなかった……いや、違うな。それを持つ事こそが不幸であると、嘗てのむくが思ったからではないかの。今のむくには、もうよくわからぬがな」
まるで他人事の様に、ずっと変わらない淡々とした調子のままで、六喰は言う。自分は己が身に何も起こらない事を望んだだけ。だから誰もいない宇宙に移り、『無』の状況を崩し得る感情を封じたのだと。地球への攻撃も、復讐ではなく現状維持の為の警告に過ぎないと。
本当に、六喰の声はは自分の事を話しているように聞こえなかった。第三者…それも、好きでも嫌いでもない相手について説明しているような声音だった。だからこそ…心に鍵を掛けたという事が、〈
そんな六喰を、彼女の状態を、侑理は異質だと思った。今の彼女は琴里や十香達と同じ精霊なのか、いや生命なのかすら、疑いそうになった。だが士道は違った。そんなのは悲し過ぎると、六喰にも幸せになってほしいと、自分の考えを変えなかった。されど…否、だからこそ……
「──のう、士道。うぬは何か、勘違いをしておるのではないかの」
「勘……違い?」
「左様。──むくの幸福を、うぬが勝手に決めるでない」
「…………っ!」
士道は、息を呑む。その音が聞こえた訳ではない。それでも侑理には、そう伝わった。伝わってくる、何かがあった。
「確かにうぬに救われた精霊もいるのじゃろうよ。むくはそれを否定しようとは思わぬ。じゃが、むくはむくじゃ。何故今の状況に満足しているむくに、余計な手を差し伸べようとするのじゃ?」
「え……?」
「それに、大人しく聞いておれば、悲しいだの幸せだのと……お節介も甚だしいわ。それはうぬのエゴを押し付けているだけてはないか?うぬの達成感の為に、むくを利用するでない」
突き付ける言葉。問い詰めるような、或いは責め立てるような…だというのに、声だけはずっと感情の籠らない、不釣り合いな六喰の拒絶。…だがそれは、士道には響いていた。響いていて…士道から、返す言葉が出てこない。
「落ち着きやがって下さい兄様!兄様の思いは、してきた事は、エゴなんかじゃねーです!」
「そうだよ士道にぃ!六喰はついさっき士道にぃと出会ったばかりで、士道にぃの事もまだ話してもらった内容でしか知らないんだから!」
思わず侑理も真那も声を上げるも、士道にこの声は届かない。余計な情報や間違った判断が伝わってしまわないよう、普段使用している超小型インカム同様、今の士道が被っているヘッドセットには、マイクを通じた形でしか音声が行かないようになっている為、届けたくても届けられない。そして士道が言葉を紡げない中…六喰は、続ける。
「いや……そもそも本当にそれはうぬの意志なのか?
『……!』
その言葉で、侑理ははっとする。再びスコープから目を離し、真那と顔を見合わせる。
思い出すのは、士道が霊力を暴走させてしまった時の事。あの時も折紙が、似たような事を口にしていた。侑理もその時は一理あると思っていたが、その後凄まじい展開が続いた事で、すっかり忘れてしまっていた。六喰は思慮深いのか、それとも感情に左右されないからこそ頭の回転が早いのか、目の前にいる士道『以外』の存在にまでその意識が向いており……
(…って、うん?束ねる……?)
不意に一つ、ある単語が引っ掛かった。何故精霊を集めるではなく、精霊の力を束ねるという表現をしたのか、と。
確かにそれは、間違ってはいない。今現在、封印された精霊の霊力は、その大半が士道へと束ねられている。六喰の表現、解釈は、正しいものであると言える。だが…今の六喰の表現からは、幾人もの精霊の力、その霊力を一人に、一つにする事こそが目的であると捉えているようにも聞こえる。士道へと束ねられた霊力を体外に排出するには、それこそ多数の精霊の霊力が必要であり、実際琴里はそれも考えているのだろうが、当然士道自身はそれを知らない。知らないのだから、六喰への説明でそこへ繋がる情報もある訳がなく……それなのに踏み込んだ発言をした、出来た六喰には、舌を巻く他ない。
──されど、本当にそれだけだろうか。士道の身へ霊力を束ねる事に、別の意味が…意義や価値があるとしたら。それを、琴里ではない誰か別の者が狙っているとしたら。もしそうならば、今後も封印を続ける事で、霊力を束ね続ける事で、その先にある事とは……そんな思考の海に沈んでいきそうだった侑理の意識を引き戻したのは、更に続く六喰の言葉。
「それに、でー、いー、えむ、とやらも星におるのじゃろう。仮にむくの力を封印したとして、むくは本当に、ここにいるよりも安全に暮らせるのか?今までうぬが救ったという精霊達は、敵に一度も襲われなかったのか?」
「……!そ、れは……」
「簡単に言ってやろう、士道。──うぬの偽善に巻き込まれるのは迷惑じゃ。二度とむくの前に現れるでない」
それは、六喰からの最後通告。完全に言葉を失った士道へ琴里が…一番初めに力の封印を受けた精霊が声を掛け、士道のしてきた事は間違いではないと言い切るが、士道の口からは言葉が出てこなかった。
これで終われば、ただの敗北。手痛い結果を受ける事にはなるが、単なる失敗で終了していた。しかし、そうはならなかった。……六喰が、再び自分の前に人が現れるような事があれば、自らの平穏が害されるようなら…この星の巡りを、〈
*
六喰は〈
「戻ったよ、琴里」
「えぇ。悪かったわね、ただただ空中で待機させるだけの形になっちゃって」
「気にしねーで下さい。万が一に備えて…って話をしたのは私達の方ですし、そもそも万が一なんて起こらねー方が良いんですから」
琴里からの労いの言葉に、真那は肩を竦めて返す。侑理もそれに一つ頷き……士道へと、視線を送る。
「…あんな言葉、気にする必要ないよ」
じっと見据えて侑理が発した言葉に、士道は軽く頷く。だがその表情は明るくない。今の頷きも、心からの納得ではない…そんな風に、侑理には見えた。侑理と真那がここへ戻ってくる前に、琴里は士道へと声を掛けており、精霊は救うべき相手であると同時に、その力を封印しなければ危険過ぎる『災害』でもあるという事、仮にDEMへ六喰からの言葉を伝えたところで攻撃を止める筈がなく、その結果六喰が討たれれば二亜に続いて彼女の
されどそれも、仕方のない事かもしれない。同じ言葉でも、自分に向けられたものと、第三者として聞いているのでは、その感じ方は大きく変わってくるもの。何より霊力封印は、士道によって行われる、士道こそが核となる行為。侑理も、琴里も、〈ラタトスク〉も、その点においてはサポート役でしかなく、本当の意味で士道と同じ立場に、隣に立っている訳ではない。だから仮に反論する事が出来ても、六喰の主張を否定出来たとしても…それがそのまま、士道の納得に繋がるとは限らないのだ。
「…悪い、皆。少し、参ってた」
「いいわよ。士道の気持ちも、分からなくはないから」
視線を逸らしながら、琴里が言う。それを聞いた士道は、ぴくりと肩を揺らし…何か察したような表情を見せる。
今し方、士道と自分達とでは違うと考えた侑理だが、司令官という責任ある立場に就く琴里には、同じではなくとも、士道に近い思いがあるのかもしれない。そしてもう一つ…侑理にも、分かっている。精霊はその強大な力や空間震の存在が人にとっての災害となる事、六喰が討たれれば二つ目の
兄妹間の、数瞬の沈黙。琴里は視線を逸らしたままで…それでもはっきりと、続けるようにして士道へと言う。
「……覚えておいて。貴方の手によって救われた精霊は、少なくともここにちゃんといるんだって」
「…………ああ、ありがとう。琴里」
それはきっと、純粋な言葉。司令としてのではなく、一人の精霊として…五河琴里として発した、士道へ忘れないでほしいという思い。それはちゃんと士道へと伝わったようで…まだ明るくはないものの、ほんの少しだけ士道の面持ちは柔らかくなった。
「…けど、次はどうやって六喰に接触するんだ?もう立体映像の事も説明しちまった以上、同じ方法を使おうとしても会話する前にまたカメラを『閉じ』られて、そのまま六喰は地球も封じようとするんじゃ……」
「そうね。まずもう一度舞台に立つ事自体、これまでより遥かに難易度が高いわ。けど、それについてはまだ──」
「まだ、策はあるよ」
宇宙にいる六喰ともう一度対話するにはどうしたらいいか。その言葉に、侑理が答える。琴里の言葉を引き継ぐように、一歩前に出て言う。
だが別に、侑理は琴里と意思疎通を図った訳ではない。琴里が何を考えているかは分からないが、十中八九侑理が考えている事とは別。それを理解した上で、侑理は琴里を制する。一拍の間を置き……はっきりと、告げる。
「──うちと真那で、六喰を大気圏内に叩き落とす」
「な……っ!?」
次の瞬間、士道が浮かべたのは驚愕の表情。真那も琴里も、驚いたように侑理の顔を見やってくる。一人一人確認した訳ではないが、クルー達も聞いていたのなら多かれ少なかれ似たような反応をしていたのだろう。
当然侑理も、こういう反応をされる事は分かっていた。だから待って、とジェスチャーを見せた上で、言葉を紡ぐ。
「当たり前だけど、宇宙が問題なのは、生身で活動する事が出来ないから…っていうのと、今は行くのも困難だから…っていう二つが理由でしょ?だからこっちが行くんじゃなくて、向こうを引き摺り込む。まぁ、その為にうち等は行かなきゃいけないけど…それ自体は、間違ってないでしょ?」
「そ、そりゃ間違っちゃいないが…待ってくれ侑理。侑理は……六喰に攻撃しようっていうのか…?」
「…そうだよ、士道にぃ。勿論、まずは話してみる。地球に降りてきてくれないか頼んでみるし、また現れたって事で地球の機能を封じようとするなら、それも止めてほしい事をしっかりと伝える。あくまで攻撃するのは、交渉が決裂した場合、向こうが地球に…この星で生きる全ての人に危害を加えようとした場合だけ」
動揺を見せる士道へと、侑理は考えを話していく。どうしてそんな考えを…士道の表情からは、そんな思いが伝わってきた。恐らく士道は、侑理の事を良い人間だと思ってくれていたのだろう。今はもう、自分から精霊に攻撃しようとする事などないだろうと、そう認識してくれていたのだろう。それは嬉しい。侑理より遥かに優しい士道にそう思ってもらえるのなら、それだけで胸を張れる気がする。
されど、侑理はそこまで良い人間でも、優しい人でもない。悪戯に精霊を傷付けるつもりはないが…士道や琴里達とは、違う。
「…だとしても、俺はそれに賛成出来ねぇよ。第一、それじゃ二人が危険過ぎる。もし二人も〈バンダースナッチ〉みたいになったら……」
「それについては、大丈夫だと思うよ。…だよね?真那」
「えぇ、まあそれはそうでしょうね」
「…そうなのか?」
「いや勿論、〈
肩を竦めながら答えた真那の言葉を受けて、士道は「あ……」と小さく呟く。侑理もそれに、軽く頷く。
「今真那が言った通り、『閉じる』なんていう大仰な力を持っているから恐ろしいように感じるけど、元から精霊の攻撃…牽制じゃない本命の一撃であれば、規格外のものが多いんだからね。それに戦闘の光景を見る限り、遠距離から対象を閉じたり複数の相手へ同時に使ったりは出来ないみたいだし、結局のところは防御不能且つ一撃必殺の『近接攻撃』…に過ぎないんだよ。…恐らくは、ね」
断言までは出来ないとはいえ、もっと自由度の高い能力であれば対〈バンダースナッチ〉でもそれを発揮していただろうと思いつつ、侑理は語った。実際のところ、
「…だったら、『孔』の方はどうなんだ?あれだって脅威だと思うし、何より六喰が言った通り、逃げられちまったら俺達には本当にどうしようもないだろ?」
「いや…多分だけど、『孔』は
「その『孔』を使って、私達も追い掛ければいいだけの話です。別段瞬間移動をしてる訳じゃねーんですから」
今度は侑理の言葉に、真那が頷く。そして士道は、頬をぽりぽりと掻いていた。納得していない…という風ではない。むしろ雰囲気からして、「なんか、二人ならやれそうな気もするな……」辺りの事を思っているようにも見える。
「そういう訳だけど…どう?うちは、いつでも行けるよ」
「あのねぇ…侑理の言っている事そのものは認めるわ。それ自体が破綻してるとは思わない。でも……」
「……確かに、一理あると私も思うよ」
「令音……?」
恐らくは、否定の意思を示そうとした琴里。だが今度は、令音が遮るようにして言う。その言葉、一理あるという返答に琴里は驚き…令音は自身の座る席のコンソールを操作。モニターに一つの表を映す。
「……これを見てほしい。シンが六喰と会話をしている間、ずっとモニタリングを続けていたのだが、感情値、及び好感度には一切変化が見られなかった。──『心を閉じた』というのは冗談でも、慣用句的表現でもないようだ」
表示されているデータ、数値の変動が一切ない表やグラフを見せながら語る令音。それは六喰が言っていた事の裏付けであり…しかしいざデータとして見せられると、侑理も真那達も息を呑んでしまう。
そして心が、感情が動かないという事はつまり、高い好感度という霊力封印に必要な条件が満たせないという事。天使の力で心を封じ、心を封じる事で天使の…精霊の力をガードしているという、こちらからすれば既に詰んでいるような状況。…されど、それならば何故、令音は侑理を支持するような発言をしたのか。その意味は、彼女の次の言葉で明らかになった。
「……だが、逆に言えばこれは、何をしても好感度が落ちない…その可能性が高いという事も意味している。通常、こちらから攻撃を仕掛けるのはシンによる霊力封印…更に言えば封印以降の『人間社会での生活』においてマイナスとなるが、今の状態ならばそれも気にする必要はなくなる。……あまり、気持ちの良い考え方ではないけどね」
「……つまり、令音も侑理の策に賛成だって事?」
「……いいや、そうではない。一理ある事は認めるが、私は反対だよ」
違う、と令音は首を横に振る。それから侑理と真那を順に見て、言葉を続ける。
「……二人の実力を疑うつもりはない。実際、地球上に引き摺り込める可能性もあるだろう。だが……もし宇宙空間の彼方に飛ばされたらどうする?六喰の開く『孔』を使って追い掛けたとして、それを六喰が繰り返した場合、その中で一度でも開閉に間に合わなかったら……」
『あ……』
言われて初めて、侑理はその可能性に気が付いた。一度や二度なら、意識していれば何とかなるだろう。だが何度も行われたら、一度もミスせず乗り切れるだろうか。百歩譲って、侑理自身がそうなってしまったら、その場合でも全く洒落にはならないが、ある意味自分で提案したのだから自業自得と言えるかもしれない。しかし真那がそうなってしまったとしたら……侑理は、耐えられない。
「……何度も戦闘を頼んでいる時点で、今更の話かもしれない。だとしても、二人にそんなリスクは負ってほしくないんだ。…琴里も、そうだろう?」
「えぇ、令音の言う通りよ。だから私は、その考えを了承する事は出来ないわ」
「…そう、だね…ごめん、ちょっと考えが足りなかった」
「侑理が意見を引っ込めるってなら、私もそれで構わねーですよ。私としては、元より何が何でもその方法で…って考えてた訳でもねーですし」
こくりと頷き、侑理は意見を引っ込める。我ながら、本当に浅はかだった。もっと言えば、〈
…一体どうして、こんな冷静とは言い難い思考をしてしまったのか。星の巡りを止めると言われて、無意識の歌に焦っていたのか。それとも──。
「じゃあ、話を戻すわよ。現状における、課題は二つ。一つは六喰が宇宙にいる事。もう一つは、今のままじゃ封印は十中八九出来ない事。…これまでも、異性がとことん嫌いな美九とか、二次元にしか恋した事のない二亜とか、一筋縄じゃいかない精霊はいたけれど…いよいよ今回は、好き嫌いの次元を超えてきたわね……」
「というか、よく兄様はそんなお二人の心も開けましたね…我が兄ながら、脱帽としか言えねーです」
「俺も我ながら自分の経歴にびっくりだよ…けど本当に、一体どうすれば……」
うぅむ、と侑理は腕を組む。今琴里の言った通り、今回の件は時間が違う。どうすればという士道の呟きも、恐らくこの場の全員が思っている事であり……しかしその直後、廊下の方から何やら妙な音が、若干の騒がしさが聞こえてきた。
一体なんだ、と侑理達は顔を見合わせる。そして全員で扉を見つめた直後、廊下側から何かしらの操作をしたのか、扉が開き……
『……へ?』
まるで雪崩が起こったように、或いはダムが決壊したかのように…十香を始めとする精霊達が、ずざざざざっ、と司令室へ入ってくるのだった。