デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第百十話 蘇る艦

 漫画やアニメでしか見ないような、もつれ合うようにして多人数が部屋の中に雪崩れ込んでくる。…完全な拒絶を、二度目は許さないという脅迫と共に突き付けてきた六喰に対し、一体どう再度の攻略を行うか、という話をしていた侑理達が見たのは、そんな光景であった。

 

「…えぇと…何をやっているの……?」

 

 むぎゅ〜、と下の方になってしまった何名かが苦しそうな声を上げる中、恐らく司令室内にいた誰もが思った事を、侑理は口にする。だが、問いつつも侑理は一つの可能性を頭に思い浮かべていた。そして、同じ事を真那も考えていたらしく、軽く頬を掻きつつ言う。

 

「…ひょっとして、ここでの話を聞いていたんで?」

「むう……すまぬ。盗み聞きをするつもりではなかったのだが……」

 

 そう。扉が開いた途端に全員が雪崩れ込んできた…それこそ支えを失ったように入ってきたとなれば、思い付くのはそれしかない。そして真那の指摘は当たっていたらしく、立ち上がった精霊達の一人、十香が申し訳なさそうに謝罪すると、その肩を美九ががっ、と掴む。

 

「十香さんは悪くありませんよー!大体、こんな状況でだーりんの心配をするなって方が間違ってます!」

「途中からだけど、話は聞かせてもらった。──私達にも出来る事はある筈」

 

 もみくちゃになっていた際も一人だけ嬉しそうだった美九に続いて、折紙も言う。他の精霊達もうんうん、とそれに頷き…そこでふと、侑理はある事が気になった。

 

「…あれ…折紙さんに十香さん、耶倶矢さん夕弦さんは士道にぃと同じ高校ですし、状況的にも一緒に来てるんだろうなとは思ってましたけど…どうして、美九さんと二亜さんまで?」

「二人には、こっちから連絡を入れたのよ。最初の攻撃の時点じゃ本当に情報が少なかったから、安全の確保はしておきたかったし」

「そういう事。まあ、あたしは連絡がなくてもこっちから『何事!?』って訊いてたと思うけどね。だってほら、正体不明の轟音なんて、何かのストーリーか始まったに決まってるじゃない」

「……それは正直分かるかも」

「同感。突如世界各地に飛来した隕石、宇宙での戦い…これは壮大な物語の序章であってもおかしくありません」

 

 ぴっ、と指を立て、当たり前の事のように二亜が言うと、八舞姉妹が理解を示す。更に司令室にいるクルーの一人、中津川も腕を組んで数度頷く。……侑理もまあ、分からない訳ではなかったが…これでは完全に脱線である。

 

「…そうなると、四糸乃さんと七罪さんも一緒に来てもらった方が良かったかもしれねーですね。というか、そういう事なら琴里さんの方から二人も一緒に、って言ってくれればいいものを……」

「安全の確保、って言ったでしょ?精霊マンションは安全性も重視して造られてるから、その場にいた方が良い場合もあるし…二人だったら、ちゃんと説明すればその場で待ってくれる筈だもの」

 

 肩を竦める真那に対し、琴里は返答。確かに琴里の言う通り、四糸乃と七罪は自己判断で勝手に動くようなタイプではない。ちゃんと説明をすれば、という点も、通話ではなく侑理と真那が、面と向かって話をすれば…と思ったからこそなのだろう。

 

「…ともかく、皆の思いは分かったわ。分かったし…手段を選んでいられる状況じゃないのも事実よね」

「……!琴里よ、という事は……」

「えぇ、貴女達もここにいて頂戴。……けど、今回の精霊は力押しで何とかなるような相手じゃないわ。好感度を上げないと霊力が封印出来ないのに、そもそもそれ自体が封じられているようなものだもの」

「質問。六喰の閉じられた心を、再度開ける方法というのは、存在するのでしょうか」

 

 承諾を示しつつも、今は難しい状態なのだと琴里は言う。その言葉に、夕弦が返し……声を上げたのは、頬に指を当てた美九。

 

「んー…〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の力を乗せた『声』だったら、六喰さんの心にも届いたりしませんか?」

「……それは難しいだろう。確かに〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の感情を震わせる力は絶大だが、心が閉じられている以上、まずその感情に届かない可能性が高いからね。ただ……考え方としては、参考になるかもしれない」

「え、と…令音さん、どういう事です?」

「……これはあくまで、私の見立てだが……天使によって閉じられた心は、天使によって開くしかない。鍵の天使〈封解主(ミカエル)〉を、もう一度六喰に使うしかないだろう」

 

 成る程…と、質問に対する答えを得た侑理は考える。天使の力には、天使の力で…というのは分かるし、閉じてしまったものを開くには、それに対応した鍵を…閉めた時に使った鍵を使うというのは、至極当然の事。

 だが実際問題、それは難しいどころの騒ぎではない。もし〈封解主(ミカエル)〉の『開く』力を使おうとすれば、これまで『閉じて』きたもの全てが開いてしまう…というような条件があるならばどうとでもなるが、そうでない事はDEMとの戦闘映像ではっきりしている。

 

「…そんな事、出来るのかな。六喰に自分の心の封印を解こうと思わせるなんて、それこそ困難ってものだろうし、意図せず解放させる…例えば別の何かを開こうとしたけど、その対象が自分になってしまった、って状況を作るのだって、かなりの無理難題な気がするというか……」

「確かに、容易でない事は明白。けれど、〈封解主(ミカエル)〉は未知の力ではない。それが天使である以上、力の根源は霊力の筈。であれば、同じ力を根源とする私達の天使で、何か干渉出来る可能性はゼロではない」

「折り紙の言う通り、天使ならばここに幾らでも揃っておる。我が無理矢理にでもこじ開けてくれようぞ」

 

 自信満々な、耶倶矢の発言。彼女に具体的な策があるようには思えない…が、精霊の力、天使の力は、それぞれが奇跡の域にある存在。それ等が結集すれば、本当に可能性はあるのではないか…侑理は、そんな風にも感じていた。

 しかし、問題はそれだけではない。再び接触をする為には、宇宙に上がらなければならないというもう一つの問題も残っている。勿論最終手段として、侑理と真那が士道を常に随意領域(テリトリー)で包んで…というプランもあるが、次の接触ではほぼ確実に戦闘となる以上、士道のリスクが高過ぎる。それを全員が理解しているからこそ、どうしたものかと黙り込み……

 

「──大丈夫よ、皆。まだ、可能性は残っているわ」

 

 そんな中で、琴里は言った。チュッパチャップスを咥えたまま…自信を窺わせるように、口の端をにっ、と上げて。

 

 

 

 

 身体に伝わる振動と音。自動車や電車のそれと似た…だが同じではない、独特の感覚。

 

「うぅ…ほ、本当に大丈夫なんでしょうね…?大丈夫な場所なんでしょうね……?」

「知らされぬ行く先、見えぬ外、一体よしのん達はどうなってしまうのか……!」

「よ、よしのん……!」

 

 縮こまってしまっている七罪の耳元で、よしのんが不安を煽るような事を言う。直後に四糸乃がよしのんの口を塞ぎ、ごめんなさいと七罪に謝る。…元々よしのんはパペットであり、その口から声が発されている訳ではないのだが…それを含めて、何ともシュールな光景だった。

 

「あはは…まあ、大丈夫よ。ほら、うちも真那もいるし」

「そうですよ、七罪さん。もしもの時は任せやがって下さい。…いや、もしもを想定してる訳じゃねーですが……」

「…じゃあ…何かあったら、せめて骨だけは拾って頂戴……」

 

 侑理と真那の励ましを受け、七罪は顔を上げた…かと思いきや、口から発されたのはやはり悲観的な言葉だった。しかしもう慣れたもの。侑理は真那や四糸乃と顔を見合わせ、苦笑と共に肩を竦める。

 

「……なあ、琴里。結局俺達、どこに向かっているんだ?」

「悪いけれど、詳しい場所は言えないの。別に貴女達を疑ってる訳じゃないんだけど、今から向かう場所は、正に〈ラタトスク〉の技術の中枢とも言える場所だから」

 

 今のやり取りを見ていて同じく苦笑していた士道が、琴里へと向き直って訊く。それに対する琴里の言葉に、侑理も耳を傾ける。

 ここは、〈ラタトスク〉の地下施設ではなく、輸送ヘリの中。あの後迎えの車両によって四糸乃と七罪も地下施設へと呼んだ上で、司令室にいたクルーを含む全員が、大型の輸送ヘリに乗る事となった。そして七罪の言葉通り、侑理達は行き先を知らされていない為、不安になる気持ちもまあ分からないではない。まあ尤も、精霊の中には初めて乗るヘリに興奮している者もいたが。侑理もDEMにいた頃、任務の中でこういったヘリに乗る機会があった為、割と落ち着いてはいるのだが。

 ともかく今、侑理達はヘリに乗ってどこかへ向かっている。地下施設での琴里の言葉と様子からして、宇宙へ向かう為の…六喰と直接対話する為の手段がある場所へと向かってるのだろうが、それ以上の事は想像も付かない。そしてそれについて、琴里は話してくれる様子もなく…暫しの時を経て、機内のスピーカーから、間もなく到着するという声が聞こえてきた。

 

「ほら皆ー、着陸する時は揺れるから気を付けるようにね?」

「苦笑。琴里、引率の先生みたいです」

「はは……」

 

 確かに…というように、夕弦の言葉に士道が軽く笑いを漏らす。言われた琴里は、何も返さなかったものの、少し不服そうだった。

 そうして数分後、着陸したらしい音が聞こえ、振動が無くなる。ヘリの後部ハッチが開き、外から現れた人物…十中八九〈ラタトスク〉の機関員であろう人物に促されて、侑理達は外に出る。

 

「…へぇ、こりゃまた大規模な格納庫でいやがりますね」

「うん。なんかこう、ロボットとかSFとかの作品に出てきそうだよね」

 

 ヘリから出た侑理が目にしたのは、ヘリポート…ではなく、四方を頑丈そうな壁に囲まれ、天井も存在する、広い空間。周囲にも複数の航空機が存在し、あちらこちらで作業着を着た人間が忙しなく働いている。実際に訪れる事はなかったが…DEMにも、こういった場所はあるのだろう。

 

「皆、こっちよ。付いてきて」

 

 やはりというべきか、ここを知っている様子の琴里は靴音を響かせながら歩いていく。その背後を、令音や神奈月達が付いていく。そこで侑理は真那と顔を見合わせ…言われた通り、クルー達の後に続く。更にその後ろには士道や精霊達が続き、ぞろぞろと全員で格納庫の中を進む。壁にある扉を潜り、今度は廊下をまたぽてぽてと移動する。道中別の扉を、一つ一つが軍事施設を思わせる厳重そうな扉を複数通過した末、一際厳重そうな扉の前へと辿り着き…扉横のパネルへ、琴里が手で触れる。数秒後、問題なく承認されたようで、横開きの二枚扉が左右へと開き……次の瞬間、背後から幾つもの声が上がった。

 

「……!これは……!」

「おお……!」

「かか、成る程な。確かにこれであれば、どこへなりと赴けるだろうて」

「ほぁー、すっご。何これ。ねぇ妹ちゃん。資料用に写真撮っていい?写真」

「駄目に決まってるでしょ。最高機密よ」

 

 士道を皮切りに、十香、耶倶矢、二亜と続き、締めるように琴里が突っ込む。この時侑理は、声こそ出していなかったが…士道達と同じように、驚いていた。

 扉の先にあったのは、また別の格納庫。しかしそこにあったのは、一隻の…そして巨大な、白と瑠璃色に彩られた艦のみ。軍艦を思わせる無骨な外見とは違う、どこさ美麗さを思わせる先鋭的なフォルムと、艦中央に存在する巨砲。噴射炎…或いは拡散する閃光を思わせる装備を備えた艦後方と、そこで無数に煌めく葉の様なユニット。それは正しく──〈フラクシナス〉。

 

「形が……少し、違う?」

 

 しかし、格納庫で鎮座していたのは、侑理の記憶の中にある〈フラクシナス〉そのものではなかった。たった今士道が呟いた通り…全体的な印象は変わらずとも、細部は所々違っていた。

 

「よく気付いたわね。──そう。これは今までの〈フラクシナス〉じゃないわ。〈ラタトスク〉最新鋭の顕現装置(リアライザ)を搭載し、凡ゆる性能をグレードアップした改良型──その名も、〈フラクシナスEX(エクス・ケルシオル)〉!」

 

 自信満々に…それこそ自慢するかのように鼻を鳴らし、琴里は士道へ…否、侑理達全員へと言う。

 思い返せば〈フラクシナス〉は、修理と並行して改修も行っているという事だった。具体的な話は聞いていなかった事もあり、改修といっても多少性能を向上させる程度だろうと勝手に思っていた侑理だが……琴里の様子からして、がっつりと手を加えているのは間違いない。

 

「…琴里、〈フラクシナス〉に改修を施したのって……」

「ええ。〈フラクシナス〉が損傷した直接の原因は折紙との戦闘だけど──『前の世界』で、エレン・メイザースの〈ゲーティア〉に手酷くやられたのも事実だからね。ただ元通りにするだけじゃ足りないって思ったの。お陰で、かなり時間が掛かっちゃったけどね」

「そっか、やっぱり…。…本当に強いもんね、エレンさんは」

「何でちょっと嬉しそうなのよ……」

 

 元からDEMの空中艦よりかなり小型でありながら、その戦闘能力で上回っている〈フラクシナス〉を内部機器やソフト面のアップデートのみならず、見て分かるレベルでの大規模改修を行った…そうしようと判断した理由など、一つしかない。そして琴里曰く、侑理は表情が緩んでいるようだった。…まあ、仕方のない事である。

 

「しかし、改修でいやがりますか…一体何がどう変わったのか、どれだけ強くなったのか、是非見てみてーもんです」

「…正直、分かる」

「…実は俺も、見てみたかったりする」

 

 〈フラクシナスEX〉をまじまじと見つめていた真那の呟き。それに侑理は分かる、と返し…近くにいた士道も、同意を示してくれた。更に視線を動かしてみれば、クルーの内の男性陣も、早速動かしたい、とばかりの表情だった。…恐らくこれが、浪漫というものなのだろう。CR-ユニットという兵器を扱う侑理も、ちょっとではあるが分かるのだ。

 

「さてと。それじゃあ改めて付いてきて。会わせたい子がいるわ」

 

 再び歩き出した琴里に、侑理達は付いていく。会わせたい子?と各々首を傾げていたが、琴里は「ある意味しょっちゅう会っている子」と含みのある表現をするだけで、一体どういう事なのか教えてくれない。会ってのお楽しみ、という事だろうか。

 その琴里に誘導されて、侑理達は複数の大型アームによって固定されている艦の真下へ。そこで琴里が声を上げれば、顕現装置(リアライザ)を用いた転送装置が作動し、格納庫から艦内へ、艦橋へと瞬時に移る。…因みにこの転送装置、改修前は艦底部と転送用のエリア間でしか機能していなかった筈のもの。そういう面でも、どうやら改良されているようである。

 

(…あれ?誰もいない……)

 

 特に説明されていた訳ではないが、侑理は転送先に琴里の言う「会わせたい子」がいるのだろうと思っていた。しかし艦橋内に、それらしき存在はいない。というか、そもそもまず誰もいない。

 侑理と同じ疑問を抱いたようで、士道もぐるりと見回している。そんな中、琴里は少し視線を上げて…艦橋前方の大型モニターを見るような視線で、軽く笑みを上げながら言う。

 

「ハロー。久し振りね、〈フラクシナス〉」

 

 それはまるで、モニターに…この艦そのものに呼び掛けているような言い方。そして琴里が呼び掛けた次の瞬間、モニターには光が灯り……

 

「──ええ、お久し振りです、琴里」

「わっ!?」

『……!?』

 

 艦橋内に、そこに備え付けられているスピーカーから、少女の様な声が聞こえてきた。

 一瞬侑理は、誰かが隠れていたのかと思った。しかし違う。やはりその声は…スピーカーから発されたもので間違いない。

 

「な、なんですかー?」

「びっくり……です」

「失礼な反応ですよ、士道。相手が精霊ならそれだけで減点です」

 

 驚く侑理達を他所に、スピーカーからの声は士道に注意の声を発する。それはまるで、士道の事をよく知っている…それこそ、しょっちゅう会っている相手のようであり、しかし一体誰なのかは全くの不明。

 

「こ、これは……」

「何を驚いてるのよ、士道。彼女にはいつもおせわになっているじゃない。──〈フラクシナス〉のAIよ。今回の改修に当たり、対話式のコミュニケーションが可能になったの」

「って、事は……これは今、〈フラクシナス〉が喋ってるって事?」

 

 そういう事、と琴里は首肯をするようにチュッパチャップスの棒を揺らす。声の正体が分かったところで、侑理は改めてモニターを見やる。

 顕現装置(リアライザ)という超常の技術が存在する以上、対話が出来るAIというのは別に信じられないものではない。というか恐らく、顕現装置(リアライザ)技術を用いない形でも、やり取りが可能なAIというのは既に開発されている事だろう。だが、今聞こえてきた声も、反応の速度や内容も、とても機械で出力されたものとは思えない…それこそ、本物の人が喋っているとしか思えないレベルであり、脱帽であると言う他ない。

 

「こんにちは。お久し振りです……というのもおかしいですね。いつもお世話をしています。コールサインは「マリア」です。これからまた、宜しくお願いします、士道」

「────、ああ……宜しく、マリア」

 

 MARIA、の文字が浮かんだモニターに向けて、士道は穏やかな声で返す。その時の士道の表情は、何か感慨を覚えているような、少し不思議な表情をしていて……しかしそれについて訊くよりも先に、興味津々な様子となった精霊達がわいわいと賑やかに声を上げた。そしてそれを琴里が窘め、話を進めた事で、侑理は訊くタイミングを逸してしまうのだった。

 

「──それで、発艦までどれ位掛かりそう?」

「期待調整に後九〇分は欲しいところです」

「時間がないわ、一時間で終わらせて」

「相変わらず容赦がないですね。将来の旦那さんが気の毒でなりません」

 

 創作ではよくあるが実際にやったら振られた側の不満が凄まじいものになりそうな事をさらりと…しかもAIに向けて放った琴里も驚きだが、それに対するマリアの返しも相当なもの。彼女(?)の皮肉に対し、琴里は冗談のセンスは今一つだと言っていたが…そもそもこんなウィットに富んだ返しが出来る時点で、侑理からすれば超高性能な気がしてならなかった。

 

「…けど、対話可能なAIか…ここまで自然に、且つ即応的に応対してくれるなら、戦闘においても便利そうだよね。こう、CR-ユニットの被害状況とか敵の数とかを教えてくれたり、今の状況で取り得る作戦の提案をしてくれたりとかさ」

「あー…まあ、確かにそれは便利だとは思いますが……」

「確かに、強力な手助けになる事は間違いない。特に、まだ経験の浅い魔術師(ウィザード)のサポートシステムとして使った場合には」

「……?」

 

 何となくの発言に対し、真那が、更には折紙も答えてくれる。しかし何というか、二人には思うところがあるような言い方で…これも侑理には、よく分からなかった。

 と、侑理達が会話をしている間、マリアはクルー達にコンソールの設定確認をするよう言っていた。それだけならば極当たり前の事だが、艦橋に藁人形や美少女フィギュアを持ち込む必要性が感じられないという、まあまあ謎の発言をしていた。…別にマリアがおかしくなった訳ではなく、〈藁人形(ネイルロッカー)〉椎崎と〈次元を越える者(ディメンション・ブレイカー)〉中津川が、本当に持ち込んでいたのが理由なのだが。しかも襲撃受けた時に呪えるようにとか、嫁が近くにいないと実力を発揮出来ないとかのとんでもな理由だったのだが。更に言うと、別れた妻への使用電話(〈早過ぎた倦怠期(バットマリッジ)〉川越)とか、お店の女の子への連絡(〈社長(シャチョサン)〉幹本)とか、昔の恋人に自律カメラを飛ばす(〈保護観察処分(ディープラヴ)〉箕輪)とか、他の面々もかなりアレな要望をマリア…〈フラクシナス〉のAIにこれまで送っていた事が判明し、琴里は額に青筋を浮かべていたのだが。……本当に、個性の強いクルー達である。

 

「しかし、発艦までは九〇分…いや、一時間ですか。その間に、六喰さんの心を開く寸法でも考えてみやがります?」

「一時間で具体的な方法を思い付くかどうかは分からないけど、考えておくに越した事はないわね。じゃあ……」

「琴里、その前に一つ宜しいですか?現在基地内に、琴里達との面会を希望している方がいらっしゃいます」

「面会希望?一体誰よ?」

「はい。──エリオット・ウッドマン議長です」

「……は?」

 

 面会を希望している人物の名前。それを聞いた瞬間、琴里はぽかんとした表情になった。

 その反応は、この忙しい時に何を…という類いのものではなく、驚きのもの。更に琴里の様子や、議長という肩書きからして、中々高い地位を持っていると思われる人物。ではそのウッドマン議長とは、一体何者なのかと侑理は考え…だがすぐに、ある事に気付く。

 

「…あれ…エリオット・ウッドマン…その名前には、何か覚えがあるような……」

「侑理もですか?私も、どこかで聞いた事がある気がしやがるんですよね……」

「…琴里。もしかしてそれは、士道の事を気に掛けてくれていたという人物の事?」

『あ』

 

 うーん、と二人で首を傾げる侑理と真那だったが、折紙の言葉で思い出す。その人物の名前は、琴里の口から聞いた事があったと。士道が霊力を暴走させ、それが一時はどうにもならないレベルに到達してしまった時…そんな士道へ『指令官』として幕引きをしようとした時の琴里が、折紙とのやり取りの中で発していた。あの時は切羽詰まった状況であった為、今の今みでその名前をすっぱりと忘れてしまっていた。

 

「そっか、あの時の…。…琴里、ウッドマン議長…っていうのは、どんな人?恐らく、琴里と同じかそれ以上の立場にある人なんだろうけど……」

「──ウッドマン卿は、〈ラタトスク〉の意思決定機関である円卓会議の議長よ。……実質的な〈ラタトスク〉のトップにして、創設者。彼なくして〈ラタトスク〉は生まれなかったと言っても良いわ」

『え……?』

 

 侑理の問いに対する答え。ウッドマン議長とは何者なのかという返答。それは、あまりに予想外な…訊く前に抱いていた想像を大きく超えてくるような答えであり……その答えを聞いた事で、今度は真那や士道達が、というか恐らくは侑理自身も、先程の琴里の様にぽかんとしてしまったのは…言うまでもない。

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