〈ラタトスク〉の創始者からの、面会希望。それは侑理達は勿論、〈フラクシナス〉の指令官である琴里にとっても驚きの事であった。更に言えば、琴里よりも上の立場にいる創始者、円卓会議議長のウッドマンが、命令ではなくあくまで面会を『希望』するという形を取っていたのも、不思議なものだった。理由としては、今はDEMの再攻撃が行われる前にもう一度六喰へと接触しなければいけない状況故に、会えるかどうか…今会うべきかどうかは現場の指揮官である琴里の判断に任せる、といった辺りなのかもしれないが、だとしても意外性のある話だった。
実際本当に、今はのんびりしている場合ではない。しかし改修された〈フラクシナスEX〉はまだ発艦準備が整っておらず、その間に行おうとしていた、六喰の心を開く作戦の会議についても、やれば必ず何か答えが出るというものでもない。そして何より、琴里の「ウッドマン卿からの希望を無碍には出来ない」という意見から、侑理達はこの基地内にいるというウッドマンへ会いに行く事となった。
「いい?皆。絶対に、失礼のないように。ウッドマン卿は懐の深い方だけど、そういう人だからこそ礼儀は大切にしなくちゃいけないの」
「分かってるって。…さて、一体どんな人かしらね……」
珍しく赤のジャケットを肩掛けスタイルではなく、きっちりと着た琴里が、ウッドマンのいるという部屋の前で全員に言う。それに侑理達は頷き、二亜はいつもの軽い調子で答えた…かと思いきや、ふっと真面目な顔になり、小声で呟く。それは彼女らしからぬ面持ちと雰囲気であり…一体何だろうかと、侑理は士道と顔を見合わせた。
だがそんな士道も、ウッドマンが何者なのか聞いた瞬間、肩を震わせていた。今も何というか…そこはかとなく、普段通りではない気がする。…本当に、何がある…或いはあったのだろうか。
「さ、入って」
琴里がインターホンの様なボタンを押し、中からの返答が来ると同時に扉が開く。失礼します、と一言言ってから、侑理達は中に入る。
ここまでの廊下や格納庫は、当たり前だが軍事基地の様な、無骨な作りだった。そんな他の場所とは対照的に、部屋の中は書斎を思わせる、壁際に幾つもの本棚と多数の本が置かれた空間だった。
そしてその部屋の奥にいたのは、二人の人物。一人は縁の細い眼鏡を掛け、車椅子に座った初老の男性で、もう一人は女性。男性の方は長い髪を一つに結えた、柔らかな雰囲気を纏う人物で……
(…あれ…?…あの人、なんだか……)
エリオット・ウッドマンという名前からして、議長は男性の方だろうと瞬時に侑理は思った。だが侑理の視線は、思考は、恐らくそうなのだろうウッドマンよりも、彼の脇に立つ人物…これまた眼鏡を掛けた、スーツ姿の女性へと向いていた。吸い込まれていた。
何故そうなったのかは、侑理の中ではっきりとしている。しかしそれについて触れるよりも先に、士道と十香が驚いたような表情を見せた。
「ぼ、ボールドウィンさん……?」
「やあ、久しいね。そちらのお嬢さんも、元気そうで何よりだ。──改めて自己紹介をさせてもらおう。エリオット・ボールドウィン・ウッドマンだ」
落ち着いた…しかし大人っぽいというより、悪戯っぽい少年の様な笑みを見せたウッドマンに、士道と十香は頭を下げる。侑理達も、それに続く。
どうやら士道達は、少し前…具体的には、七罪と出会う前にウッドマンと会った事があるらしい。しかもそれは琴里も知らなかったらしく、「何かあったらどうするつもりですか…!」と秘密で天宮市へと訪れていたウッドマンへ心配の声を上げるも、ウッドマンは悪びれた様子もなく、以後気を付けるよと肩を竦めていた。ついでに言うと、琴里に会った事があるのだと答えた時のウッドマンは、琴里にウインクまでしていた。…本当に、老年の男性とは思えない程、若々しい表情で以って。
「…なんか、意外…というか、予想外…かも……」
「同感でいやがります。まさかここまで気さくな人物とは……」
「うん…ウェストコットさんもかなり独特な人だけど、ある意味負けず劣らずというか……」
ちらりと視線を交わし、侑理は真那と小声で話す。真那も同じ意見だったようで、侑理は軽く肩を揺らす。
DEM以外で唯一
思えばウェストコットも、威厳や威風を纏うような人物ではなかった。その表情や発言は、むしろ柔らかさを感じる男性だった。しかし、ウェストコットはそんな柔らかさとは裏腹に、底の知れない…得体の知れない『何か』を感じさせる人間でもあった。まだ中年と言う程の外見ではないにも関わらず、生半可ではないものを感じさせるウェストコットと、初老の外見を持ちながら、何とも若々しい印象を抱かせるウッドマンは、どこか似ている部分もあり…しかしやはり、違う気がする。そんな風に、侑理は思った。
「さて、今日は突然すまなかったね。本来ならこちらから出向かなければならなかったのだが……」
「いえ、そんな……」
「──まずは、感謝を。精霊達を救ってくれて、本当にありがとう」
前置きはここまで、とばかりに真剣な表情を見せるウッドマン。その彼が、次に口にしたのは…感謝の言葉。
まさかそんな言葉を掛けられるとは、とばかりに士道は驚いた様子を見せる。しかしすぐに表情を引き締め、感謝を伝えたいのは自分も同じだと、〈ラタトスク〉がなければ自分は精霊の存在を知らず、十香達がDEMやASTに攻撃され続けていたかもしれないと…それを考えるだけでも自分は辛いと、言葉を返す。更に一拍を置き、五年前に精霊となってしまった琴里を助けてくれた事も感謝していると、ありがとうございますとウッドマンに話す。
その言葉を、感謝を、ウッドマンは士道を見つめ、静かに聞いていた。そうして聞き終えたウッドマンは、一つ頷き…再び言う。
「──では次に、謝罪を。こんな事に巻き込んでしまって、本当にすまない。そして、先の〈ダインスレイフ〉の件についても、謝らせてくれ。今後ああいった事は絶対に起こさないよう、厳命を下した」
『……!』
〈ダインスレイフ〉。その名前が出た瞬間、琴里の…否、二亜を除く全員が微かに肩を揺らした。自分の事故に定かではないが、侑理も恐らく同じ反応をしていた事だろう。
後々琴里から聞いた話だが、どうやら琴里が起動キーを押さなかったにも関わらず発動したのは、円卓会議の幹部の一人が別のキーを有しており、それを独断で使用した…というのが真実だったらしい。更にその一人の暴走ではなく、他の者の関与も疑われるとの事だが…何れにせよ、あれは恐ろしい一件だった。あの場はどういう訳か〈ファントム〉が助力してくれたが、もし当初の想定通り、侑理と真那、それに折紙や精霊達で受け止めようとしていたのなら…どうなっていたか、分からない。
そして、それについて士道がどう思っていたか、侑理は知らない。それを理由に、士道が〈ラタトスク〉に強い不信感を持ったとしても、おかしくはない。だが……
「……いえ。確かに少し複雑ではありますけど、暴走の可能性がある以上、それに備える事は必要だと思います。それに──もし事前にそれを説明されてたとしても、多分俺は、精霊達を助けたいって言ってたと思うから……」
「シドー……」
士道が返したのは、理解の言葉。それがあったとしても、自分の思いは変わらないという意思。それは士道らしい言葉であり、隣でそれを聞いていた十香は、そんな士道の在り方に対する喜びと不安の混じったような表情を浮かべていた。その十香の表情に気付いた士道は、安心させるように十香の頭を撫でていた。……結果、士道がこの場の大半のメンバーから半眼を向けられたのは、言うまでもない。
「…ふふ」
「……?えぇと……」
「いや何、君は愛されているな、と思っただけさ。…君達にも、感謝を伝えたい。理由はどうあれ、君達を『災害』として扱ってきた我々を信じてくれた諸君にも…そして、〈フラクシナス〉に、皆に力を貸してくれた──君達、二人にも」
ゆっくりと、ウッドマンは精霊一人一人を見つめていく。そして最後に、彼の視線は侑理と真那にも向けられる。
「…うち達にも、ですか……?」
「私達は、どっちかっていうと世話になってる身でいやがりますけど……」
「そんな事はないさ。我々〈ラタトスク〉は世間一般は勿論、DEMからも身を隠している組織だからね。だからどうしても
侑理は驚いた。まさか、自分が感謝されるとは思っていなかったから。確かに力を貸してはいるが、そもそも自分も真那も〈ラタトスク〉に世話になっている身なのだから、むしろこれは当然の事だと自分自身では思っていたのだ。
しかしだからといって、その感謝を否定するつもりなどない。むしろそういう事であるのなら…侑理にも、伝えねばならない事がある。
「…こちらこそ、感謝しています。DEMの
「私からも、お礼を言わせやがって下さい。直接的な判断をしてくれたのは琴里さんでしょうが…私達がやりたいようにやれているのも、〈ヴァナルガンド〉で兄様を…皆さんを守れているのも、貴方や〈ラタトスク〉があるからこそです」
二人で共に感謝を伝え、深く頭を下げる。そして侑理が頭を上げれば…ウッドマンは、ここにきて初めて見せる、複雑そうな表情を浮かべていた。
「…困ったな。それは、私が…
『ウッドマンさん……?』
想像していたのとは大きく違う彼の反応に、侑理も真那も困惑する。しかしすぐにウッドマンは元の表情に戻り…真摯な面持ちで、静かに口を開く。
「ユーリ…いや、侑理・フォグウィステリア。崇宮真那。〈ヴァナルガンド〉と〈ヨルムンガンド〉は貸与したものではなく、元から君達二人に贈ったものだ。そして、君達の協力は非常にありがたいが、私としてはそれを強いるつもりはない。だからどうか、君達は君達の心に従い、自らが為すべきだと思った事をしてほしい。CR-ユニットは、その為に役立ててほしい。それがたとえ、〈ラタトスク〉を離れる事だったとしても……再びDEMに与する事だったとしても、私は構わない」
真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな言葉。ウッドマンの語りに、侑理は息を呑んだ。…彼の言った言葉は、その多くが思ってもみない事だったから。そこまでの事を言われるなど、夢にも思っていなかったから。
それは真那も同じなようで、ちらりと横を見れば、真那は目を丸くしていた。琴里も唖然としていた。そして当然…抱くのは、一つの疑問。
(…どうして、そこまで……)
例えばこれが、大の恩人に対する発言であるならば分かる。侑理や真那を、深く信頼しているからこそ…という可能性も浮かびはする。されど恩人になるような事をした覚えはないし、これまでの実績から信頼してくれているのだとしても、〈ヨルムンガンド〉と共にDEMへ行っても構わないとまで言われるのにはやはり違和感がある。
一体何が、ウッドマンにそこまでの事を言わせるのか。その疑問を抱いた上で改めて彼の顔を見ると、やはり彼の瞳の奥には、複雑な…様々な思いの渦巻いているような色があり…沈黙の中、次に口を開いたのは士道だった。
「あの……一つ、いいですか」
「なんだね?」
「〈ラタトスク〉には、凄く感謝してます。……でも、どうして〈ラタトスク〉は、精霊を助けようとするんですか?」
その問いで、ふっとこれまでとは雰囲気が変わる。十香達は、驚いた表情で士道を見つめ…その内琴里と折紙、それに二亜は真剣な面持ちになる。侑理も真那と視線を交わし…先程の事を、思い出す。
「何か……迷うような事があったのかな?」
驚くでも不審がるでもなく、ウッドマンは士道に訊き返す。その言葉で、むしろ士道がたじろいでしまう。
恐らく士道が今の問いを口にしたのは、六喰に突き付けられたから。精霊を救う…それは本当に、士道自身の意志なのかと。士道の後ろにいる者は、何を考えているのかと。やはり、士道は六喰に言われた事を気にしていたようで…士道の問いに、折紙が続く。
「それは、私も気になっていた。──〈ラタトスク〉が精霊を救う。それはいい。その点については私も感謝している。でも、一体その先に、何があるの。莫大な予算を使ってまで精霊を集める理由は、何」
あの時、士道の暴走について話した時を思わせる声音の、折紙の言葉。それを最後まで聞いたウッドマンは、大きく一つ頷き…士道や精霊達全員を見やるようにして言う。
「それを気にするのは当然だ。確かに〈ラタトスク〉という組織は、君達精霊にとって『都合が良過ぎる』。不審に思うのも無理のない事だ。だが……困ったな。君達がすんなりと納得してくれるような理由を、私は用意出来ないかもしれない」
「……、どういう事?」
「『精霊を救う事』。……それが、私の最大目的なんだ」
答えたウッドマンに対して、折紙は沈黙する。この意味を図りかねている…そんな風に、侑理の目には映る。
しかしそれも、無理のない事だと侑理は思う。侑理自身も、その真意を図りかねている。何せ、今の発言だけでは答えになっていないのだから。何故救ってくれるのかに対して、それが目的だからと言われても、納得などしようがない。無論そう思ったのは侑理だけではなく、他の面々も多かれ少なかれ怪訝そうな面持ちをしており……
「さっすがに……聖人君子過ぎるんじゃない?水清ければなんとやら。そこまでいくとちょっと胡散臭いよ?」
そんな中だった。普段の彼女…良くも悪くも明るく調子が軽い、そういう印象をいつもは抱かせる、彼女らしからぬ発言を二亜がしたのは。
その発言に、皆が驚き視線を向ける。しかし二亜はそれを意に介する事もなく、言葉を続ける。
「ウッドマン。エリオット・ボールドウィン・ウッドマン。それがあんたの名前。……間違いないよね?」
「ああ。間違いない」
「じゃあ、改めて訊くけど……DEMインダストリー発足メンバーの一人で、三◯年前初めて
『な……ッ!?』
二亜は何か思うところがあったのか。不信感を抱く要因があったのか。…そんな風に思っていた侑理は、彼女の次なる言葉に愕然とした。侑理だけでなく、全員が目を見開いていた。
(発足メンバー…って事は、ウッドマンさんも元々はDEMの人間だったって事……?)
元所属どころか、元創設者の一人であるという、あまりにも大きな情報。数拍の間を置き、DEMのみではなく〈ラタトスク〉もまた
当然二亜の言葉に、どういう事だと士道は言う。問われた二亜は、先月…即ちまだ精霊としての力を十全に有していた頃に、〈
「そうか。君の天使は全知の〈
『……っ』
暴露とも言えるような二亜の指摘。されどウッドマンは動揺も狼狽もする事なく、静かにそうであると認めた。その事に、士道達は息を詰まらせ…侑理はウッドマンの言葉が、更なる驚きと共に真実であると確信した。…何せ、ウェストコットの事を『アイク』と呼んだのだから。それは、エレンが彼を呼ぶ時と同じ呼称だったから。
しかし…ある意味でそれ以上の驚きが、侑理にとっての衝撃が、このすぐ後に待っていた。
「ああ、そういえば紹介が遅れたね。ここにいるカレンも、私と一緒にDEMを出奔した元社員だ」
ちらり、とウッドマンが斜め後ろへ控えていた女性へ目をやる。それを受けて、カレンと呼ばれた女性が、侑理達へ小さく頭を下げる。
「──カレン・ノーラ・メイザースです。以後お見知りおきを」
自己紹介を、女性…否、カレンは端的に済ませる。彼女の挨拶に、士道は返答をしようとしていた。だがその士道より先に、反応している者がいた。いた、というか……
「メイザース…!?あ、あ、あのっ…もしかして、ひょっとして、カレンさんは──」
自分は今動揺しています、と宣言するかの如く、思い切り声を震わせる侑理。そんな侑理をカレンは見つめ……静かな調子で、言った。
「……はい。エレン・メイザースは私の実姉に当たります」
「いッ……妹さんんんんんんんんんんッ!!?」
完全にひっくり返った声で、侑理は叫ぶ。この時全員から、ぎょっとした顔をされていた。恐らく士道達も、目の前にいるのがあのエレン・ミラ・メイザースの実妹であるという事に驚いてはいるのだろうが…それより侑理は注目を(十中八九悪い意味で)集めていた。
だが、侑理はそれどころではない。そんな事を気にしていられない。元々この部屋に入った時点で、彼女を見た瞬間に、侑理はエレンに似ていると思っていた。話が始まってしまった為、そしてその内容はどれも気になるものであった為、一度は侑理の意識から外れていたのだが…彼女がエレンの妹であると分かった以上は、もう落ち着いていられる訳がない。
「ど、どうしよう真那!エレンさんの妹!エレンさんの妹さんだよ!?」
「いや、どうもこうもねーでしょう…それとも何かするつもりなんで?」
「宜しくしたい!」
「……すればいいんじゃねーですかね」
心底呆れたような、真那の表情。あのエレンの、最強の
「……はっ、そうだ自己紹介…!うち、侑理・フォグウィステリアといいます!うちも元はDEMにいて、エレンさんとは同じ部隊の同僚でした!同僚というか、直属の上司でした!」
「エレンさん、ですか……ええ、知っていますよ」
ぺこりと頭を下げ、侑理は自己紹介を返す。カレンは小さく呟いた後、一つ頷く。よく考えてみれば、先程ウッドマンが侑理と真那の名前をフルネームで言っていた時点で、ある程度の情報は伝わっていると分かるようなものなのだが、人間興奮や動揺を抱くと思考力が落ちてしまうもので、カレンに知っている、と返されるまで侑理はその事に気付かなかった。
そして侑理は、改めてカレンを見る。メガネの有無や髪の長さという違いはあれど、髪や瞳の色は同じであり、顔立ちもやはり似ている。ただ一つ気になるのは、エレンよりカレンの方がやや歳上に見える事だが…もっとはっきり関係性を偽るならともかく、この場で姉か妹かを偽ったところで何の意味もないのだから、彼女が妹である事は恐らく間違いないのだろう。
「テンション高いわねー、ユーフォちゃん。…こんなキャラだっけ?」
「侑理、結構感情の振れ幅が大きいみたいなんだよな……」
「でも、そういうところも可愛いですよねー」
冷静さを失った侑理の後ろで、何やら会話が聞こえてくる。だがまあ別に悪く言われている訳ではないので、侑理は気にしない事にする。
と、そこで、侑理はカレンがエレンの身内ならば、こういう時に言うべき事があるなと一つ思い出した。そうして思い付くままに、侑理はその言葉を口にした…の、だが……
「本当に、会えて嬉しいです!うち、エレンさんには色々と指導してもらって、気に掛けてももらって、だから凄くお世話…に……」
「……?」
「…なって、いました……」
お世話になっています。侑理はそう言おうとした。こういう時は、そう言うものだろうと思っていた。しかし実際に出たのは、少しだけ…されど大きく違う言葉。なっている、となっていた、では大きく違う。そして今の侑理は…間違いなく、もう後者なのだ。
この選択に、後悔はない。自分で選んだ道であり、侑理自身はまだDEMと縁を切ったつもりなど毛頭ない。それでもやはり、口にすると辛いものが侑理にはあり……そんな時だった。いつの間にか侑理の前にまで来ていたカレンが、肩にぽんと手を置いたのは。
「──侑理。貴女の存在は、きっと姉にとって意味のある……価値のあるものだった筈ですよ」
「……ああ、だろうね」
「……っ…カレンさん…ウッドマンさん……」
それは、静かなれども優しさのある言葉。カレンの言葉に、ウッドマンも頷く。エレンを知る二人が、共に穏やかな視線を向けてくれる。
当然この二人が、DEMでの侑理とエレンの関係を知る訳がない。そとそも侑理の事自体、どれだけ知っているか分からないというもの。それなのに何故か、二人の言葉には自信…いや、確信と言うべき何かがあった。そう、侑理には感じられた。
「…うちも、そう思ってます…エレンさんの事も、エレンさんに教えてもらった事も……全部、今のうちにとっての大切なものです」
胸に手を当て、その手を握り、侑理は言う。ここには精霊達がおり、中にはエレンやDEMに酷い仕打ちを受けた面々もいる。それでも侑理は、この思いを無いものとはしたくなかった。エレンの事を言ってくれた二人に、心からの思いを答えたかった。
そんな侑理をどう思ったのか、ウッドマンは小さく微笑む。それから肩を竦め……言う。
「さて。それでは、そろそろ話を戻してもいいかな?」
「あっ……」
振り返ってみれば、侑理に向けられているのは、その殆どが苦笑…或いは困ったような視線。言うまでもなく、今は非常に重要な…それこそ、原初の精霊という『始まり』にも関わるような話の真っ最中。理由はどうあれ、侑理はその話の腰を思い切りへし折ってしまったのであり……流石に恥ずかしくなりながら、侑理は「はい……」と小さく頷くのだった。