DEMからの強襲を受けた〈ラタトスク〉の基地。それ自体も驚きだが、それ以上に驚いたのは、DEMの長たるウェストコットが、エレンを伴う事もなく自ら侵入してきた事。全知の魔王〈
そのウェストコットの力、魔王の猛威。それは、数と連携の力で優位に立っていた筈の侑理達を、瞬く間に壊滅させるだけのものだった。こちらに十全の力を保持した精霊はおらず、士道も戦い慣れしているとまではいえない…すなわち質の面で大きく劣勢だった事を加味しても、魔王の力は恐ろしいと言わざるを得なかった。
そしてまだ、その暴威は去っていない。傷一つない、余裕綽々の佇まいのまま…ウェストコットは、侑理と真那の前に立っている。
「……ッ…」
振るった力に満足するように、本の形をした〈
「ふむ。やはり
回避し即座に銃を、剣を向ける侑理と真那に対し、ウェストコットは小さく笑みを浮かべながら言う。
そう。侑理が今の本を…士道や精霊達を飲み込んだ本による攻撃をここまで避けてこられたのは、
(皆も、本来の力が使えていたのなら……)
十全の力を保持している状態ならば、精霊としての感覚で霊力を察知し、同じように避けられていたのかもしれない。一瞬そう思った侑理だが、すぐにその思考を隅へと押しやる。今は、そんなたらればを考えていられる状況ではない。
「無駄です。何度やろうと、私達には効かねーですよ」
「そのようだね。さて、それならばどうするか。君達、ここは一つ──」
「させません」
言い切る前に、先程弾き飛ばされ、そこから立ち上がった
侑理達の反応に、ウェストコットは肩を竦める。それは、困ったな…と言いたいようにも、予想の範疇だと示しているようにも見えた。
「…ウェストコットさん。士道にぃ達を、どこに飛ばしたんですか?」
「ほう?彼等がまだ、生きていると?」
返された言葉に、一瞬心が揺さ振られる。その可能性が、恐ろしさとして心の中を駆け巡る。だが侑理はぐっと堪え、息を吐き…言い返す。
「……貴方の目的は、精霊の…魔王の力を得る事の筈。なら、あれは命を奪う攻撃でなかった…そうでしょう?」
「成る程、筋は通っている。──力を得る為には、命を奪う訳にはいかないのなら、ね」
『……っ…!』
今、駆け引きで劣勢になる訳にはいかない。そう思っていた侑理だったが、次なる返しで再び心を…今度は隣の真那諸共揺さ振られてしまう。ハッタリだ、とは言えなかった。何せ、侑理は
(不味い…このままじゃ……)
士道達は生きている筈。それはただの推測ではなく、冷静さを保つ為の支えでもあった。だからそれに、望まない「もしも」が生まれてしまえば、心の中に不安が広がる。そして不安に思考を覆われれば、動揺すれば、集中力に…
ただでさえ今は、数で逆転されている。加えてウェストコットも、彼の有する〈
「しかし、本当に困ったものだ。【
困ったと言いながらも、今の侑理とは対照的に、ウェストコットの声からは微塵も動揺を感じない。加えてその語りからは、戦えば勝つのは確実だとばかりの自信が窺える。そうしてウェストコットは、考え込むように顎を撫で……不意に「ああ、そうだ」と言う。更に次の瞬間、自身の前に再び巨大な本を出現させる。
「何を……!」
「落ち着き給え。ここは一つ、互いにとって益のある判断をしようじゃないか」
「だから、何を言って……」
「──ユウリの言った通り、彼等はまだ生きている。そして、この先にいる」
『……ッ!』
それは、侑理は勿論、隙あらばいつでも飛び掛からん勢いで食って掛かっていた真那をも黙らせる言葉。
彼は、こう言いたいのだ。士道達の事が心配ならば、その後を追えばいいと。そして侑理達が後を追えば、ウェストコットを阻む者はいなくなり、無傷でこの場を通る事が出来る…即ちそれが、互いにとっての益のある判断だと。
「……はッ。そんな目に見えている罠に、私達がのこのこ掛かりにいくとでも?」
「ご尤も。だが、いいのかな?彼等が飛ばされたのは、その『罠』の先なのだよ?」
「ちッ……」
選択権はそちらにある、とばかりにウェストコットは見やってくる。だがそれは、選ぶ余裕があるという事ではない。むしろ、選ばざるを得ない…選ぶ事を強いられているのが、今の侑理と真那。
「…どうしやがりますか。ああは言ってますが、兄様達とは別の場所に…いや、それ以前に本当は別種の攻撃を用意しているって可能性も否定しきれねーですが……」
「そう、だね…。…でも…士道にぃや皆が今、どうなっているか分からない。生きていてくれたとしても、無事な保証はどこにもない。だから……」
自分から罠に飛び込むようなものだとしても、行くしかない。そんな思いを込めた侑理の視線に、真那は黙って頷いた。…初めから、心は決まっていたかのように。
「…けど、万が一って事もあります。だからここは、一先ず私だけで……」
「万が一の事を思うなら、尚更一人で行くべきじゃないでしょ?それに、ここに残る場合、うちは一人でウェストコットさん達を相手にしなきゃいけなくなるんだけど?」
「あ……」
そっちの方が危険じゃない?…と侑理が返せば、真那は一瞬ぽかんとした顔になり…それもそうだ、と自嘲気味に肩を竦めた。
真那にとって自分は守る対象なのか。…そんな風には思わなかった。何故なら、それが真那だと…自分が危険を背負うのは良くても、誰かが背負うのは嫌だと常に思っているのが自分の親友だと、侑理は知っているから。そして、そんな真那だからこそ、隣に立つ者が、共に危険を背負う相棒が必要なのだ。
「話し合いは済んだかな?」
表情から読み取ったのか、ウェストコットは投げ掛けてくる。それに対し、侑理は黙って彼を見据える。
この選択が、正しいものであるかどうかは分からない。ある種エレン以上にその底が見えないウェストコット相手の駆け引きなど、全て彼の掌の上だった…という結末が待っていてもおかしくはない。…それでも、侑理の心に迷いはなかった。もしかすると、これは誤った判断なのかもしれないが……これが後悔しない選択である事だけは、間違いないのだから。
「──行こう、真那」
「えぇ。飛び込んでみようじゃねーですか」
薄い笑みをウェストコットが浮かべる中、侑理は真那と共に足を踏み出す。一歩ずつ、巨大な本の前へと進んでいく。そして真那と二人、並んで立ち……次の瞬間、飲み込むように、或いは取り込むように、侑理の眼前で巨大な本は閉じていくのだった。
*
曖昧で、定かではなかった意識が、深い海から引き上げられるように段々と鮮明になっていく。まるで、疲れて寝た翌日の様な…そう、眠りから意識が覚醒するかのような形で、侑理は目を覚ます。
「んん、ぅ……」
横向きの姿勢で、目を開ける。初めに感じたのは硬い感触で、初めに見たのは目を閉じた真那の姿。心穏やかに寝ているような、綺麗で愛らしい真那の寝顔(?)がそこにあり……侑理は取り敢えず抱き着く事にした。
「…ぅ、ん……。…って、何してやがるんですかね……」
「あ、おはよう真那」
意識が戻ったのか、目を開けて早々に自身の状態に気付き、半眼を向けてくる真那。しかし、これは仕方のない事である。目覚めて最初に見たのが真那の寝姿であれば、抱き着いてしまうのは自然の摂理であり真理なのだ。
「おはようじゃねーんですけど…全く、侑理は隙あらば……って、んな事言ってる場合じゃねーでしょう!?」
「へ?…あ、そうじゃんイチャイチャしてる場合じゃないじゃん!」
「いや侑理が勝手に抱き着いてただけで、イチャイチャしてた訳でもねーんですけど!?」
はっとした顔を見せた真那の言葉で、侑理も今の状況を、一体何があったのかを思い出す。その勢いのまま、ばっと上体を起こす。
侑理と真那は、士道達を助けるべく、ウェストコットの提案に応じた。巨大な本に飲み込まれた。と、いう事は……
「…ここは、どこか別の場所……?」
「だと、思いますが…ここは別の場所ってか……」
あの巨大な本が、〈ゾディアック〉…六喰の天使たる〈
今侑理達がいるのは、部屋の様な場所。周囲にあるのは、数十の机と椅子。侑理と真那が寝ていたのは、並んだ机と机の間で…ぐるりと見回して目に付いたのは、大きな黒板。どこの?と言われたら分からないが……侑理と真那が今いるのは、間違いなくどこかしらの学校。その教室。
「…静かだね…今日って、平日の筈なのに……」
「ここは廃校なのか、学校に見せかけた別の何かなのか…何れにせよ、ここで考えていても答えは出ねーで──」
「あ」
「……?」
「いや…出たよ、答え。ほら」
そう言いながら、侑理は壁の一角を指差す。そちらへ振り向いた真那は、直後に侑理同様「あ」と呟く。
何故静かなのか。学校らしき場所だというのに、人の気配を感じないのか。その理由は単純で……単に、もう五時半を過ぎるような時間だったから。侑理が見つけたのは壁掛けのアナログ時計である為、午前の五時半過ぎという可能性も一瞬考えたが…窓の方を見てみれば、そこから差し込む光は夕方のそれ。日暮れまではもう少しだけありそうだが…何れにせよ、この時間となれば教室や廊下に人気がないのも当然だった。
「…なんか、拍子抜けだね」
「まぁ、何とも当たり前な理由だったというか…けどそうなると、それはそれはのんびりしていられねーですね」
「それは……確かに」
そう言って、真那は立ち上がる。侑理も続いて立ち上がり、まずは教室から廊下へ出る。
五時半過ぎというのは、生徒は下校していても、教師はまだ仕事をしていても何らおかしくない時刻。加えて部活動や委員会等で、普通の教室にはいなくとも、校内には生徒が残っている…という事も普通にあり得る。そして侑理も真那も、間違いなくこの学校に関しては部外者。誰かに見つかれば、要らぬ騒ぎになる可能性が高い訳で…こそこそと、慎重且つ迅速に侑理達は廊下を進む。階段を降り、靴箱を抜けて、校舎内からその外へ。
(やっぱりここは、隣界とも違う…のかな……)
見回せば、グラウンドにはやはり部活中らしき生徒の姿が散見される。校舎内でも、職員らしき人の声が聞こえてきた。推測通り、ここは無人の学校という訳ではないらしく…戦闘の跡の様なものが見られた、隣界の学校とは明確に違う。
「…ふぅ。一先ずここまでくれば大丈夫ですね。にしても、ここは一体どこの街なのか…聞こえてきた声や校舎内の張り紙からして、日本である事は間違いねーんでしょうが……」
「うーん……って、ここがどこかなんて、携帯の地図アプリ使えば良くない?」
真那にそう返しながら、侑理は携帯を取り出す。これがRPGゲームか何かなら、何の面白味もない解決方法だが、侑理も真那も遊んでいる訳ではない以上、文明の利器を活用しない理由がない。
という訳で、侑理は携帯の地図アプリを使用。するとすぐに、今いる場所の情報が……
「……あれ?」
……出てこなかった。表示するのに時間が掛かっているとかでもなく、それどころか全く情報が表示されなかった。
「おかしいな…再起動しても全然出てこない…っていうか、そもそも通信が機能してない……?」
「いや、こんな街中で圏外になるなんてあり得ない…と、言いてーところでしたが……」
すっ、と自身の携帯を見せてくる真那、その画面にもやはり現在地の情報は出ていない。どちらの携帯も揃って故障した…とは考え辛く、となると一つの可能性が浮かび上がる。
「…やっぱりここは、普通の街じゃない……と…?」
焦燥を帯びた声で、真那は言う。侑理はそれに、一つ頷き…でも、と呟く。
「ここがおかしい世界なら、学校の中にいた人達が普通に生活してるのは変…だよね?」
「それは…どちらとも言えねーですね。学校内…というか、この街にいやがる人達にとっては、おかしい状態が『普通』なのかもしれねーですし」
「だとしたら……そうだ。時代が違う可能性は?五年や十年程度ならうち等の知ってる『現代』と大差ない街並みでもおかしくないし、でも通信技術は十年でも大きく変わるものでしょ?」
もし今が、自分達の知る現代とは違うのなら、それが未来であれ過去であれ、侑理達が持っている携帯端末では対応出来なくなっている…という事は、十分に考えられる。時間移動など、普通に考えればあり得ないが…他ならぬ侑理自身が時間遡行の経験をした事があるのだから、あり得ないとは思えない。侑理は真那にそう伝え、真那はふぅむと腕を組み…沈黙の時間が、暫し流れた。
「……分かっている事は、二つですね」
「二つ?」
「えぇ。まず一つは、今の私達に、ここがどこなのかという疑問へ答えを出す手段がねーという事。そして、もう一つは…ここがどこであろうと、兄様達を助けなきゃならねーって事です」
真っ直ぐと、侑理を見つめる真那の瞳。その瞳に、その言葉に、侑理は一瞬黙り…そして、頷く。
真那の言う通り、ここで頭を捻っていても、答えを出せそうにない。仮に答えが何であろうと、侑理達が今すべき事は変わらない。
「でも、どうやって士道にぃ達を探す?さっき試しに電話を掛けてみようとしたけど、繋がらなかったよ?」
「それは……いや、仮に兄様達もこの街のどこかに飛ばされていやがるのなら、同じように動いている筈。だとすれば……」
「この街を一望する為に高い場所に向かったとか、情報収集の為にネットや本を閲覧出来る図書館を探してるとか……?」
それだ、とばかりに真那は指を鳴らす。その仕草をする真那は格好良く、同時に思わずそんな事をしちゃう真那は愛らしくもあり、侑理はサムズアップをしたくなったが、高い場所にしろ図書館にしろ、移動にはそれなりの時間が掛かる。この街が何なのかも分かっていない以上、飛行という見つかれば即座に『異常な存在』だと認識される行為も安易に行う事は出来ない。
「…まずは、この辺で一番高そうな所に行ってみる?図書館の方は、地図も土地勘も無しにぱっと探せるものじゃないし」
提案し、真那からの同意を受け、侑理は歩き出す。ぐるりと見回し、ビルなりマンションなりの高い建物を探しながら歩みを進める。
「うーん…この辺りで一番高いのは、多分あのマンションだけど、部外者が中に入る事って出来ないよね……。……って、真那?」
「あ…申し訳ねーです、聞いてませんでした」
「もう、酷いなー。聞き逃さないよう、今度は耳元で言ってあげよっか?」
「いや、普通に余計なお世話です」
ドライにあしらわれた事をちょっと残念に思いつつも、侑理は改めて言う。すると真那は、確かに…と腕を組んではいたものの、表情からして、どうにも別の事が気になっている様子。
「…もしかして、何か引っ掛かってたりする?」
「や、引っ掛かってるってより、どうしたものかと考えてるというか……。…侑理。仮に兄様達と合流して、安全も確保したとして…その後は、どうすりゃいいと思いますか?」
「それは……」
真那の問いに、侑理は口を噤む。言われるまで気付かなかったが、当然安全確保が出来たらそれで良し…ではない。〈ラタトスク〉の基地へと戻る方法…それがなければ、途方に暮れるしかないのだから。
「…この街…というか世界で、同じような能力を持つ人を探す…とか……?」
「現実的ではねーですね」
「なら……あ、そうだ。うち等は〈
「そりゃ無茶振りってもんですよ侑理…というか、二亜さんは他の皆さんと違って、
「だったら……って、訊いといて否定ばっかりするのは酷くない?それなら真那だって考えてよ」
「考えて思い付かねーから侑理に訊いてるんじゃねーですか」
「あそう……」
言いたい事は分かるし理解も出来る…が、やれやれと言った様子でそんな返しをされれば流石に侑理とて堪ったものではない。このまあまあ勝手な言いようも、真那からの信頼の裏返しだろうと侑理は自分が納得出来る理由を付けて、ふぅ…と一つ息を吐く。
「一先ずそれも、士道にぃ達と合流してから考えようよ。今最優先にするべき事は変わらないし…二人で考えるより、皆で考えた方が良い案も出そうでしょ?」
「…まあ、それもそうですね。じゃあ……」
軽く肩を竦め、視線を前方へと戻した真那。同じように、侑理も視線を前に戻し…しかしそこで、何故か真那は足を止める。
「……真那?」
「…侑理。今、やけにでかい動物…動物?…みてーなのが、見えた気がしやがったんですが……」
ぽつり、と困惑したような声で真那は言う。表情も、自分で言っておきながら半信半疑だとばかりのもので……そんな真那の発言に、侑理は首を傾げた。
「でかいって…大型犬とか、そういう?」
「いや、それ以上にでかかったような…まぁそもそも、私の見間違いか、気のせいかもしれねーですけど……」
「えぇ…?そう言われると、むしろ気になるんだけど…。うーん…サーカスから逃げ出した猛獣とかなら、あり得そう?」
どうだろう、と真那もまた首を傾けている。一応侑理も真那の見ていた方向に目をやるが、それらしきものは何もない。見えているのは、日本の至る所にありそうな住宅街だけ。
「…やっぱり、何かの勘違いだったかもしれねーです。段々暗くなってきやがりましたし、何かの影を見間違えたとか、或いは野生の熊か何かが山から降りてきたとか、その辺りでしょう」
「後者だったら普通に見間違いじゃないし、それはそれで危なくない……?」
十分問題でしょう、と侑理が呆れ気味に突っ込みを入れれば、真那はそれもそうかと肩を揺らす。
結局真那が見たのは何だったのか。見間違いか、それとも何かしらはいたのか。それも確かめる術などはなく、だが確かめられない時点で見間違えの線が濃い……そう、思った時だった。侑理の目の前、その足下に、不意に何かの影が現れたのは。
「──え?」
影が光によって出来るもの。光が何かに遮られる事で発生するもの。そしてその影は、既に見えていた民家の影…その屋根部分から伸びるような形で路上に現れ……
「な……ッ!?」
──侑理は、目にした。ふっと見上げた視線の先、影を作る屋根の上……そこに存在する、屋根からこちらを見下ろす『異形』を。一見すれば、それは四足歩行の動物…しかし随所が通常のそれではない、敢えて言うなら『魔物』という言葉が頭に浮かぶような存在を。
「真那!真那がさっき見たのって──」
反射的に侑理が叫んだ次の瞬間、異形の存在は屋根を蹴る。一直線に、巨体がこちらへ向けて襲い掛かってくる。咄嗟に侑理は飛び退き、同じく気付いた真那も飛び込み前転をするような退避行動を取る事で何とか回避は出来たものの、異形の眼光は、ぎらつく瞳はこちらを見ている。明らかに、侑理達を狙っている。
「ちッ、正直見間違いであってほしかったんですけどね…!けど、襲ってくるってなら……!」
これは、この街…この世界に元から生息している存在なのか。それとも反転した二亜が出現させた異形の存在と同様、〈
だが何であれ、目の前の存在が侑理達を『獲物』として捉えている事は事実。ならば凌ぐしかないと、侑理は真那に続いてCR-ユニットの着装用デバイスに触れる。そして〈ヨルムンガンド〉を纏い、異形の存在を迎撃……する筈だった。だが……
「……え?着装、出来ない…?」
「──侑理ッ!」
何も反応しない着装デバイス。起動しない
「侑理!大丈夫でいやがりますかッ!?」
「ぁ、ぐッ…だ、大丈──真那ッ!」
路上を何度も転がり、身体の各所に痛みが走る。だが咄嗟に身体を丸めていたおかげで、一先ず大怪我は負わずに済む。
聞こえてくる真那の声に対し、侑理は呻きながらも身体を起こす。それから大丈夫だと伝えようとし……直後に、叫んだ。侑理達を襲った巨獣…それとはまた別の存在が、より『魔物』としか形容出来ないような黒い球体が、ぎょろりとした単眼で宙から真那を見ていた為に。
真那が侑理の叫びで跳んだのと、新たな異形の存在が大きな口を開いて真那を喰らおうとしたのはほぼ同時。更に横から唸りが聞こえてくる。もう一方の存在が、侑理を再び狙おうとする。
(一体、何が……)
この異形の存在は何なのか。何故侑理達を狙うのか。どうしてデバイスは反応しないのか。疑問ばかりが頭に浮かび、答えは一つたりとも出てこない。考える時間も、今は微塵も与えられない。
如何に
──その時、そんな中だった。天から飛来した強烈な斬撃が、二つの存在の進路を纏めて制したのは。
「……ふぅ。間一髪、ってところだな」
当然の出来事…否、空からの攻撃に、侑理と真那は茫然とする。異形の存在も、攻撃を受けたからかその場を飛び退く。そうして侑理達と異形の存在との間には空間が生まれ…そこに大きな剣を携えた、一人の存在が軽快に降り立つ。着地した存在、彼はゆっくりと振り向き……その顔を見た侑理と真那は、同時に叫ぶ。
「士道にぃ!?」
「兄様!?」
そう。空から現れ降り立ったのは、剣の形をした天使を携えていたのは──見覚えのある制服を纏った、一人の少年だった。