デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第十三話 彼女の実力

 ASTへの出向という形で日本に訪れた第二執行部十人の目的は、精霊〈プリンセス〉及び、ある人物を捕獲する事。出向先が対精霊部隊である為に、精霊が出現すればその対応にも当たらなければならないが、元々精霊を相手にするのが魔術師(ウィザード)の使命。

 だが当然、捕獲対象がほいほい出てきてくれる訳がない。人の目や周囲への被害を気にしなければ強引に探す…というか捕えに行く事も可能だが、そんな事は当然出来ない。細かい事は侑理も知らないが、そういう強引な手に出る事が出来ないからこそ、『現地のASTに出向』という、回りくどい手段を用いているのが恐らく現状。そして〈プリンセス〉以外の精霊に関しても、幾ら現界率が極めて高い地であろうとも、流石に毎日出てくる訳ではない。つまりどちらの務めも、やろうと思って出来る事ではない訳で…詰まるところ、思ったより日本での暮らしは暇だった。

 

「喫茶店ラ・ピュセル…なんか、雰囲気が良さそうかも。ここも真那と会えたら行くとして……こういうお店だったら、エレンさんとも行ってみたいな…」

 

 ぺらぺらと天宮市のタウン誌を捲り、気になった情報のあるページへ付箋を貼っていく。今の時代、わざわざタウン誌を用意せずともネットで情報など幾らでも得られるものだが、ネットはなまじ情報が多いが故に、ざっくりした認識や漠然と何かを知りたい場合には、情報が多過ぎて逆に困るという事も少なくない。その点紙媒体、それこそタウン誌の様なものは既に情報が厳選されているからこそ、そのまま情報を受け取る事が出来る。無論それぞれに多くの長所や短所がある訳だが、少なくとも自身…天宮市の事をよく知らず、全体的にざーっと知りたい今の侑理にとっては、ネットよりこちらの方が合っていた。

 とはいえ、侑理は熱心に情報を得ている訳ではない。一応頭に入れておいた方が今後動き易いだろうとは思っていたが…実のところ、一番の目的は『暇潰し』だったのである。

 

(休みの日が…土日祝が待ち遠しい……)

 

 当初侑理は、任務の時間以外の多くを真那捜索に当てようとしていた。だが、学校に通わず家庭で勉強をするという選択肢もあるイギリスと違い、日本の義務教育においてはほぼ全ての少年少女が学校に通う…即ち平日の真っ昼間から侑理位の見た目をした少女が街中を出歩いていたら、それだけで変に思われてしまうという事を完全に失念していた。

 侑理的には、変に思われようと気にしない…事はないにせよ、真那を探す事の方がずっと重要な訳だが、DEMの社員且つ、現在は自衛隊に出向しているという立場上、通報されたり補導されたりすれば当然周囲に迷惑がかかる。それを思えば、不用意に出歩く事など出来ず、引き籠もる他ないのが現状。無論侑理も多くの現代っ子と同じく、ゲームもするし本を読んだりTVを見たりもする訳だが、この出向は短ければ数週間、長くてもせいぜい数ヶ月だろうと思っていた為に、ゲームや本の多くは日本に持ってきておらず…結果、暇を潰すのにも苦労する羽目になっていた。

 

「うーん…TVもこの時間帯だとあんまり面白いのは…と、思ったけど……」

 

 タウン誌からTVのリモコンに持ち替え、チャンネルを回していた侑理の目に留まったのは、ほぼ毎年三年のB組を担当しているらしい教師のドラマ。再放送だからなのかは分からないが、なんだか懐かしい気分になった侑理は取り敢えず見てみる事にし……

 

「…え、あ、あれ!?いつの間にこんな時間に!?」

 

…気付けば最後まで見てしまっていた。それも一話ではなく、その日放送している分をまるっと見ていた。もしこれが数日に分かれての形ではなく、一日で一挙放送する形式だったのなら、侑理は暗くなるまで見ていた…かもしれない。

 

「あ、あっぶなぁ…危うく自分から頼んでいた事に、思いっ切り遅刻するところだった……」

 

 一挙放送じゃなくて良かった、本当に良かった…と安堵しながら、手早く身支度をする侑理。そうして準備を整え、部屋を、出向組全員がDEM名義でそれぞれに借りているマンションを出て、天宮駐屯地へと走る。

 

「…ふぅ、間に合った…。…えっと、確か……」

 

 然程離れた距離ではない駐屯地に到着し中に入った侑理は、ほっと一息。まだ慣れない駐屯地内を進んでいき、割り当てられたロッカーに荷物を仕舞う。そしてブリーフィングルームへと移動し、先に来ていた面々…第二執行部の同僚ではなく、AST所属の自衛官達と挨拶を交わす。

 

「あ…お疲れ様です、折紙さん、ミケさん。お二人は今日も学校…だったんですよね?」

「お疲れ様です、侑理さん。今日は文化祭の準備で疲れちゃいました…けど、ここからもう一踏ん張りですっ」

 

 折紙とミケこと美紀恵、初日のやり取り以降もよく話す(と言っても片方は基本物静かなのだが)二人を見つけた侑理は挨拶に続いて二人の隣の席へと座る。侑理の挨拶に折紙は頷き、美紀恵は笑みと共に返してくれる。

 二人共自衛官の肩書きを持ってはいるが、同時に高校生(しかも美紀恵の方は一年飛び級)なのである。平日である今日は、学校からそのまま駐屯地に来たのである。彼女達が勉学に励む間、暇潰しをしていた侑理からすれば頭が下がる思いであり…それはそれとして、「文化祭かぁ、良いなぁ」なんて事も思っていた。

 それから雑談をする事数分。全員集まったブリーフィングルーム内へと隊長の燎子が現れ、全員の前に立つ。

 

「皆いるわね。それじゃあ今日の模擬戦について説明するわ」

 

 軽く見回した燎子は早速本題へ。全員が静かに見つめる中、模擬戦の内容を話し始める。

 

「今回の模擬戦は、全員参加のチーム戦。勝利条件は相手チームの全滅のみの、至ってシンプルな内容よ」

(全員参加で全滅が条件…うちでもよくやるなぁ…)

「まあでも、一つ特殊な要素があるとすれば…今回はDEMからわざわざやってきてくれた、侑理さんが参加してくれるって事ね」

「うぇっ!?」

 

 全員の撃破を勝利条件とする場合、特定の対象の撃破や破壊、或いは攻撃側からの防衛などよりも当然負担は大きくなる。それをシンプルの一言で纏めてしまう辺り、確かにその通りではあるけど豪快だなぁ…と思っていた侑理だったが、直後に燎子から呼ばれた事で侑理は動揺。変な事が出てしまった結果、くすっとした笑いが周囲から零れ、侑理は恥ずかしくなってしまう。

 

「た、隊長さん何故さん付けを…?というか…え、皮肉……?」

「ふふっ、悪いわね侑理。けどこの通り、彼女は今回の模擬戦へ快く参加してくれてるわ。皆、それは忘れないように」

 

 自分は気付かぬ間に彼女の不評を買ってしまっていたのだろうか…と不安になる中、肩を竦めた燎子は視線を隊員達へと移す。その発言で、今のは皮肉めいた悪態ではなく、それに対する侑理の反応を見せ、『DEMから出向してきた魔術師(ウィザード)』の一人である侑理への印象を変化させる事が目的だったのだと…要は、打ち解け易くする為の試みだったのだと気付く。…まあ、だとしてもそれならそれで、予め一言言っておいてほしいものだが…そこまで甘くないのが、このASTの隊長という事なのかもしれない。

 

「じゃ、チーム分けを発表していくわよ。まず……」

 

 手元のタブレット端末を見ながら、チームの発表をしていく燎子。それが終わると細かいルールの説明が入り、全ての説明が終わったところで全員がブリーフィングルームを出る。更衣室に移動し、ワイヤリングスーツに着替え、装備を整える。そして駐屯地内の演習場で、チーム毎に分かれる。

 

「隊長と折紙の両方が相手かぁ…」

「とにかく折紙を抑えないとよね。はぁ、勝てるかしら…」

「はいはい作戦会議するよ。でも、その前に……」

 

 自陣の面々から向けられる視線。そこに込められているのは、「貴女はどう動くつもり?」…という意図。勝手知ったるAST隊員同士とは違い、先日多少共闘しただけの侑理の戦い方など、分かる訳ないのは当然の事。だから侑理は向けられる視線に首肯を返し、続けて言う。

 

「最初は、後ろから支援をさせてもらえますか?うちも、皆さんの…ASTの戦い方をちゃんと知らなくちゃ、連携なんて出来ませんから」

「ふぅん…OK、じゃあ好きなようにして頂戴。よく知らないのは、こっちも同じだから」

 

 その方がむしろ良い。そんな風に侑理へと返す、こちら側のチームリーダー。燎子の目論見通り、若干侑理を見る目が変わったAST隊員達だったが、まだ受け入れてくれているとは言い難い状態。雰囲気からして、お手並み拝見と言ったところ。

 だが、侑理とて即座に受け入れてもらえるとは思っていなかった。言葉ではなく行動で示す…侑理自身初めからそう考えており、拒絶されていないだけでも十分だった。

 そうして作戦会議が行われ、方針が決まる。全員が装備の最終チェックをする中、定刻の直前で燎子からの通信が入り…彼女の合図と共に、模擬戦が始まる。

 

「さぁ、行くよ!」

『了解!』

 

 リーダーの号令に合わせ、隊員達が飛び立っていく。複数の班に分かれ、それぞれで陣形を組む。そしてそれを追う形で、侑理達火力支援担当組も前進していく。

 数十秒後、長距離攻撃と共に開かれる戦端。魔力の光が輝き、弾丸が空を切り、次々とミサイルが放たれる。侑理もレイザーカノンを構え、相手チームの最前線へと向けて撃ち込む。

 

「…まぁ、流石にこれは当たらないか……」

 

 一直線に伸びた魔力の光線は、当たる事なく避けられる。とはいえ遠くから、見るからに余裕のある相手に向けて放ったのだから、避けられるのも当然の事。だから侑理は特に気にする事もなく、二発目、三発目とレイザーカノンを撃っていく。それ等も避けられ、或いは随意領域(テリトリー)で防がれてしまうが、そもそも火力支援の目的は味方が戦い易いように相手へ妨害を仕掛ける事。回避にせよ防御にせよ、多少でもリソースを割かせる事が出来た時点で支援としては成立している。加えて今の侑理は後方からの観察…敵味方両方の動きをよく見て知る事も目的としており、見やる中で幾つもの声が耳に届く。

 

「よっし、撃…きゃああぁぁッ!」

「側面から!?くっ、乗せられた…!」

「こっちは動けない、誰か援護を!」

「アタシが行くわ、何とか耐えて!」

 

 集団対集団故に、人も攻撃も入り乱れる。出来る限り戦力が均等になるようチーム分けされているのか、局地的な有利不利はあっても、全体的には五分五分な戦闘が繰り広げられる。そのまま暫く戦闘は続き…先日と同じように、侑理は思う。

 

(やっぱり、個々の戦力は殆どジェシカさん達より劣ってる…)

 

 改めて見ても、じっくり観察しても、やはり思ってしまう。自分達第二執行部と、ASTとの差を感じてしまう。

 例えばそれは、レイザーカノンの威力や射程。ライフルやガトリングの連射で生じる反動、それを抑え込む随意領域(テリトリー)の操作技術。宙を飛び回る上での、同じく随意領域(テリトリー)での姿勢制御。そんな多くの面において、ASTは明らかに劣っていた。装備の性能差を差し引いても、第二執行部とは開きがあった。

 ただそれも、全体的に見ればの話。平均で見るならその通りだが…全員がそうという訳ではない。

 

「抜かれた…!?やっぱりこの子、速い…ッ!」

「不味い…!抑え込まないと、一気に引っ掻き回されるわ…!」

 

 一進一退だった最前線。そこに相手側の後方から明らかに他とは一味違う機動で突っ込んでいった一人の魔術師(ウィザード)が、特に砲火の激しい空間の中を強引に突っ切る。肩を擽る位の、白い髪…その髪を靡かせながら、両手にガトリングを構えた折紙が突破してくる。迫り来る弾丸やミサイルを、躱し、弾き、逆にガトリングの掃射を浴びせ掛ける。

 この場にいるAST、その誰よりも速く、鋭く、滑らかな機動。随意領域(テリトリー)を巧みに制御し、装備を的確に操り、超常の力を存分に使いこなす姿。それは正しく、聞いていた通りの『エース』であり……彼女の突撃に対し、侑理も動く。

 

「任せて下さい…!折紙さんは…うちが、抑えます…ッ!」

 

 通信機越しに味方の全員へそう伝え、スラスターの噴射を全開にする。前方へ向けて一気に加速し、侑理は折紙へと狙いを定める。

 

「……!侑理・フォグウィステリア…」

「撹乱は、させません…!」

 

 レイザーカノンに溜めておいた魔力を放ち、折紙の進路上へ光線を置く。急減速と共に振り返った折紙の目が、侑理の存在をはっきりと捉える。直後に侑理はガトリングを折紙に向けるが、折紙の動きは一瞬早く、即座に急上昇を掛ける事で侑理に狙いを付けさせない。

 

(判断が、早い…ッ!)

 

 動きを止めれば容易に狙われる。それは至極当然の事で、それなりに戦闘訓練を積んでいる者なら誰でも知っているし、理解が出来るレベルの事。だが目紛しく状況が変わる戦場、それも視覚からの攻撃で反射的に振り向いた直後となれば、どうしても身体は固まってしまうものであり…それを最小限に抑えた折紙の動きに、侑理は舌を巻いていた。

 今のは魔術師(ウィザード)の能力とは関係ない要素。されど、『戦い』においては確かな力。それが天賦の才なのか、鍛錬の賜物なのかは侑理には分からなかったが…たったこれだけでも、この折紙という魔術師(ウィザード)が一筋縄ではいかないのだという事を示していた。

 

「…けど、そう簡単には逃がさない…ッ!」

 

 スラスターを噴かし、侑理も追って上昇を掛ける。空気抵抗と反動を随意領域(テリトリー)で殺し、ガトリングの連射で折紙を追い立てる。対する折紙も加速し、大きな弧を描いて旋回を掛ける。その最中に片腕を、手にしたガトリングを伸ばして、旋回しながら撃ち返す。

 

「……っ…!」

「機動戦でも、射撃戦でも、望むところ…ッ!」

 

 反撃を躱し、横へ滑るように飛びながらカノンを撃ち込む。折紙もまた身を翻し、今度は二挺のガトリングを纏めて侑理に向けてくる。

 そこからは、言った通りの機動戦。互いに複雑な機動で飛び回りながら、変則的に距離を変えながらガトリングを撃ち合う。折紙は二つのガトリングによる厚い弾幕で仕掛け、侑理はカノンとガトリングという性質の違う二つの火器を用いて迎え撃つ。狙い撃たれないよう動き回り、ばら撒かれる弾丸は避け、随意領域(テリトリー)で弾いて反撃に繋げる。

 

「速い…あれだけの動きをしても、身体が振り回されないなんて……」

「やっぱりDEMの魔術師(ウィザード)はレベルが違うわね…だけど、真那の時程じゃない…折紙も、十分やり合えてる…!」

「…いや、でも…待って、これは……!」

 

 散発的に聞こえてくる声の中で、少しずつ折紙との距離を詰めていく。ただ詰めるのではなく、斜めの軌道と、或いは細かく高度を変える動きと合わせる事で、両手の一斉掃射を諸に受けないような位置取りをしながら、着実に近付く。これに折紙はどうするか。より火力を集中させようとするか、それとも…そう侑理が思う中、折紙は片手のガトリングを手放し、その手でレイザーブレイドを引き抜く。

 

(来た…ッ!)

 

 一瞬たりとも躊躇う事なく火器を投棄する思い切りの良さと、銃口を向けている相手へ真っ向から突っ込んでいく度胸。先の判断力と言い、鳶一折紙という魔術師(ウィザード)の強さは、技能や適性だけによるものではないのかもしれない。そんな風に思わせる、ブレイドを構えた折紙の突進。ただ突っ込むのではなく、ガトリングの射撃も続ける事で、しっかりと侑理の迎撃を邪魔する。

 確かにそれは、良い動き。ASTの中でも抜きん出ている事がよく分かる突進。だが…幾度となく真那と模擬戦をし、毎日の様にエレンに圧倒されてきた侑理にとっては、油断はならずとも恐れるようなものではなかった。侑理の目には、しっかりと反撃までの道筋が見えていた。

 まずは自らもガトリングを撃ちながら、真っ直ぐ下がる。突っ込む折紙と退く侑理とで、向かい合って激しく撃ち合う。そしてその内、前向きに飛ぶ折紙と後ろ向きに飛ぶ侑理との差で、少しずつキャラが詰まっていく。このままいけば近接戦の距離に入る…そんな中で目の前の魔術師(ウィザード)、折紙は油断する事なく更に加速し、一気に間近まで突っ込んでくる。突っ込み、レイザーブレイドを振り被り……正にそのタイミングで、侑理は仕掛ける。

 

「──捉えたッ!」

「……っ!?」

 

 上段に振り被られたレイザーブレイド、それが振るわれる寸前に侑理は推力の向きを180度転換。後ろに下がる為の噴射から、前に進む為の噴射へ一瞬で以って切り替える。空を自在に飛び回れる程の速度を出している中でそんな事をすれば、当然身体がひしゃげる程の慣性が全身を襲うが、随意領域(テリトリー)でそれを捩じ伏せ、壁か何かで跳ね返るが如く前へと出る。

 更に全身すると共に、展開していた随意領域(テリトリー)を凝縮。密度を、質を上げた状態で折紙の随意領域(テリトリー)にぶつかり、わざと弾かれる事で浅い領域を滑るようにしてすり抜けていく。自らの随意領域(テリトリー)で相手の随意領域(テリトリー)に干渉し、空間を支配し合う…そんな魔術師(ウィザード)同時の戦闘ならよくある展開を逆手に取って、意表を突きつつ一気に背後へ回り込む。折紙であれば躱され逆に背後を取られたとしても、すぐさま対応してくるだろうが…一手上回った侑理の方が、それよりも早い。

 脳内で指示を出し、再び慣性を捩じ伏せる。同時にスラスターをぶん回し、超高速で反転をする。既にレイザーカノンは最大まで充填済み。そして至近距離からこれを受ければ、DEMの魔術師(ウィザード)に引けを取らない折紙であろうとも、大きく体勢を崩すのは必至。そんな確信を抱きながら、振り返りレイザーカノンを向ける侑理だった、が……

 

(……ッ!?挙動が、遅い…ッ!)

 

 撃ち込んだ光線が随意領域(テリトリー)へと直撃し、魔力の光を散らし合う。確かに当たった、直撃した…だが僅かに、狙いからは外れていた。衝撃で折紙は姿勢を崩しながらも、その衝撃を利用する事で不規則に飛んで追撃から逃れる。

 動きも、読みも、タイミングも、全てが狙い通りだった。狙った通りに、一撃浴びせられる筈だった。だが、そうはならなかった。ならなかった事で、侑理は痛感する。…DEMとAST、配給元と配給先にある装備の性能さを。

 

「…けど、だったら…それなら……ッ!」

 

 立て直した折紙のガトリングを、加速しながらの宙返りで大きく全身しながら躱す。上昇から下降に転じた瞬間から侑理もお返しのガトリングを放ち、折紙も再びの急上昇で射撃を避ける。先程は追って上昇をした侑理だったが、今度は真下へ滑り込み、そこから地面を背にしてカノンとガトリングを同時に放つ。

 今侑理が纏っているのは、普段から使っている第二執行部仕様のCR-ユニットではなく、この模擬戦に際して借用したASTの正式採用型装備。武装も同じくASTの物であり、使い易さは最初の射撃の時点で感じていたが…反面、全力を振るうには少しばかり物足りない部分もあった。もし纏っているのがいつもの装備だったら、さっきの攻撃も…そう思ってしまう心が、確かにあった。

 だがASTの装備を使おうと、今回はより公平な条件で模擬戦に望みたいと思い、借りられないか頼んだのは自分自身。ならば物足りないとしても、それは自分の責任だと飲み込み、折紙を見据える。火力や機動力…火器の出力やスラスターの推力はどうにもならないが、魔術師(ウィザード)の武器はそれだけではない。

 

「今度は、さっきのようにはいかない…ッ!」

「……ッ…そうみたい、ですね…ッ!」

 

 随意領域(テリトリー)を叩く光線や弾丸に身体を揺らしながらも、折紙は上昇を続ける。距離が開けば射撃の威力は減衰するし、離れ過ぎれれば他の隊員に横槍を入れられる可能性も高くなる。侑理的には対多数戦も望むところではあるが、その隙に折紙が一旦退き、各戦闘の撹乱と遊撃に回られてしまうのはかなり厄介。それを踏まえ、侑理も上昇を掛けようとし…だがその直前で、折紙は脚を振り上げる。その場での後方宙返りを掛け、上下逆さまのままガトリングガンのトリガーを引く。

 一見それはただの宙返り。だが違う。折紙が宙返りをした瞬間、これまでは彼女の身体で見えていなかった日の光が網膜に差し、侑理は目が眩んでしまう。これは偶然…な、訳がない。間違いなくこれは、折紙が狙ってやっていた事。そして侑理が怯む中、ガトリングの連射が随意領域(テリトリー)を強かに打つ。

 

(…やっぱり、侮れない…。そうだ、やっぱり…この人は、真那やエレンさんとも違う、強さがある…ッ!)

 

 ガトリングを放ちながら、折紙は急降下を仕掛けてくる。撃ちながら距離を詰めてくる。逆の手では勿論レイザーブレイドを構えており、恐らくは今度こそガトリングで動きを封じ、接近戦に持ち込もうと考えている。

 感嘆する。感服する。魔術師(ウィザード)としての能力だけでない、巧みなその戦い方に。その上で、侑理は思う。この人には、負けたくないと。自分より先に、ほんの僅かでも真那に刃を届かせた彼女に、負けたなどいられないと。

 撃ち下ろされる弾丸の雨に対し、侑理は避けない。一発たりとも避ける事なく、むしろ上昇を掛ける。弾丸全てを真っ向から弾き飛ばして、急降下する折紙へ向けて上昇する。

 

「ふ…ッ!」

 

 火器も推進器も、第二執行部仕様には劣る。だが随意領域(テリトリー)は別。随意領域(テリトリー)の強さだけは魔術師(ウィザード)依存のものであり…アデプタス・ナンバーは伊達ではない。

 更に侑理はもう一手打つ。驚きながらも撃ち続ける折紙に対し、レイザーカノンを投げ放つ。……が、勿論それは攻撃ではない。僅かでも折紙の気を散らす為に、加えて疑問も抱かせる為に、わざと初めから折紙には当たらない軌道でカノンを投げ付け…狙い通り、ほんの一瞬折紙の目がそちらへ向く。ガトリングの射撃も一瞬緩み……その瞬間に、スラスターの全開噴射で侑理は肉薄。レイザーブレイド〈ノーペイン〉を抜き放ち、斬り結ぶ。

 

『……ッ!』

 

 寸前のところで、殆ど反射的にとしか思えない動きで割って入った折紙の刃。ブレイド同士がぶつかり合い、魔力の刃越しに折紙と視線が混じり合う。そして勢いが乗って侑理は競り勝ち、振り抜く事で折紙を弾いて、即座にレイザーブレイドを戻す。随意領域(テリトリー)を広げ、落ちてきたレイザーカノンを絡め取って握り直す。

 

「…貴女は強い。けど…まだ力の全ては出していない。そうでしょう?」

 

 結果的に返り討ちとなった折紙は表情を歪める…のも束の間、すぐに落ち着いた顔に戻ると、静かな声で侑理へと言ってくる。その見透かしたような言葉に、思わず侑理は目を見開き…小さく笑う。

 確かにそう、その通り。ここまでも本気で戦っていたが、まだ持てる手の全てを使っている訳ではない。DEMの精鋭、第二執行部の一員であり、エレンから直々に鍛えられている、真那の相棒でもある自分が、幾ら抜きん出ているとはいえ普通の対精霊部隊の一員一人に早々に手札全てを晒す筈がない。そして侑理は、自らの中で燃える思いを自覚しながら…折紙を見据えて、言う。

 

「なら、見せてやろうじゃねーですか。うちの、戦い方を」

 

 真那の口調を真似した、強気の言葉。折紙が視線を鋭くする中、侑理は小さく息を吐き……彼女からの挑戦状に、受けて立つ。

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