デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第二十三話 出会いと孤独と

 飛び抜けた才能を持つ、魔術師(ウィザード)の少女。侑理がその噂を聞いたのは、DEMに所属してすぐの事だった。特に噂好きという訳でもなければ、DEMでそれなりの地位や人脈を築いている訳でもない侑理でもすぐに知る事が出来る程、その噂は勢いのあるものだった。名家の生まれという訳ではない…どころか出自は不明、見た目はどう見ても未成年、更にはDEM本社のあるイギリスから遠く離れた異国の人間という事もあり、それが誰なのか知った者の多くはすぐに出鱈目な嘘だと一蹴していたが…あっという間に、そんな声も消えていった。噂の少女…崇宮真那が、噂通りの才能を、魔術師(ウィザード)としての実力を示した事で、誰もがその強さを認める、認めざるを得ない事となった。

 そんな真那と侑理の出会いは偶々、偶然廊下で出くわしたというだけのもので…しかし侑理と真那は、すぐに打ち解け仲良くなった。実力こそ認められたものの、実力以外の要素で良い顔をされない…にも関わらず実力だけは飛び抜けているという真那は、本人の遠慮のなさも手伝う事でDEM内では何かと孤立しがちであり、侑理も同じく…といっても真那程ではないが、それでも少女そのものな外見でありながら、DEMの魔術師(ウィザード)となれるだけの力を持ち、それ故に周りから少し浮きがちだったという悩みを抱いている中で、同じような背格好をした、同じ日本人の(無論侑理はクォーターだが)少女と出会えたとなれば、加えて境遇すらも共通点があったとなれば、親近感を抱くのも自然な事。だから侑理は、真那となら…二人でなら、何でも気兼ねなく話す事が出来た。…今思えば、周りの評価や視線など気にしていない様子の真那も、疎外感には堪える部分があったのかもしれない。そう思える位には、出会ったばかりの頃の真那は、今より笑顔を見せる事が少なかった。

 真那と出会い、仲良くなった事で、侑理の日々は一変した。毎日が、真那と過ごす時間が、楽しく、嬉しく、煌めきに溢れていた。真那に追い付きたい、隣に立ちたい…その励みが励みとなり、努力を重ねる事で、第二執行部の一員となる事も出来た。ついでに部屋も隣になる事が出来た。その頃には真那以外とも打ち解け…侑理の日々は、充実していた。真那のおかげで、侑理にとってDEMは、自分の居場所となっていた。

 

 嗚呼、そう、そうだ。侑理にとって、DEMでの…魔術師(ウィザード)としての日々は、常に真那と共にあった。今の自分があるのは、間違いなく真那のおかげで、本当に真那はなくてはならない、かけがえのない存在だった。DEMでの日々は、真那との日々。真那と共に歩む事が、DEMの魔術師(ウィザード)となってからの侑理の人生そのものと言っても過言ではなかった。

 だが、それなら、それならば…DEMの人間となってからの日々が、真那との人生ならば……

 

 

 

 

 

 

──それ以前の、DEMの魔術師(ウィザード)となる前の…ただの人間だった頃の、自分は?それ以前の、侑理・フォグウィステリアの人生は…一体、どんなものだった…?

 

 

 

 

 まるで頭の中に濃霧が掛かったような、或いは脳の神経に幾つも蓋をされているような、酷く重い感覚と思考。そんな中で、侑理は目が覚めた。…いや、まだ本当に起きているか、目が覚めているかどうか分からない。そう思ってしまう程に、頭がぼんやりとしていた。

 横になっているのは分かる。寝ていたのも分かる。だがいつ寝たのか、今日は何日の何曜日なのか、その辺りが出てこない。…まだ、思考が鈍い。自分は余程長く寝ていたのだろうか。それとも凄まじく疲れていたのだろうか。状況把握は進まないのに、そんな思考ばかりは回る。

…と、そんな事を考えていた侑理の、頭に負けず劣らずぼやけた視界の中に、誰かの姿が映る。どうやら侑理の顔を覗き込んでいるらしいその人物へ目を凝らすと、段々とその容姿が見えてくる。深い青色をした髪に、琥珀色の双眸。何となく柔らかさを感じさせる、中性的な面持ち…と、そこまで認識したところで、一気に侑理の頭は覚醒する。掛かりの悪いぽんこつ状態から、一瞬でフルドライブモードとなり……そして侑理は、跳ね起きる。

 

「真那ッ!?」

「え、ちょっ…あだぁッ!?」

「ふぎゅうッ!?」

 

 直後、目の前で響く鈍い音と、激しい痛み。跳ね起きた侑理だったが…その頭は、自身を覗き込んでいた人物の頭に直撃していた。開口一番ヘッドバットをぶち当てていた。

 

「お、おおぉ……」

「い、いったぁぁ……」

 

 割れんばかりの痛みによって、悶絶する侑理達。折角はっきりした頭が、今度は別の理由で上手く働かなくなってしまう。…が、そんな事言っていられない、と侑理は頭を振り、ぶつけた場所を手で押さえつつも顔を上げる。そう、今は痛みよりも、遥かに大事な事があるのだ。

 

「そ、それより真那!真那、無事だったの!?」

「へ?…あ、あー…いや、えっとな……」

「怪我はない?身体はどこも痛くない?あの後一体……」

 

 ばっと頭をぶつけた人物に詰め寄り、勢いそのままに触れる。頬、肩、お腹周りと怪我がないか確かめ、更に自分が持つ最後の記憶…恐らく気絶してしまったのであろう後に、一体何があったのか尋ねようとし……気付く。明らかに、自分の記憶の中にある真那と、目の前の人物とで体格が合っていないという事に。

 

「そ、そんな…CR-ユニットはゴテゴテしてたから気付かなかったけど、暫く見ない内にこんながっしりした身体付きになってただなんて……」

「うん、だからそれは……」

「っていうか、声も全然違う…!?え、へ、変声期…!?けど幾ら何でもこれは変わり過ぎ…というより、うちと戦ってた時はこんな声じゃなかったよね!?まさか、この短期間で変声期が始まって即終了したの!?超速攻型の声変わりなの!?」

「えーっと…取り敢えず、俺の話を……」

「俺!?真那が俺!?声変わりのみならず俺っ娘にチェンジ!?嘘ぉ!?」

「駄目だこれ全然会話が成立しねぇッ!」

 

 次々と襲い掛かる信じられない現実に、侑理は半ばパニック状態。自分の中にあった、スレンダーで可愛くて超絶素敵な真那像が音を立てて崩れていき、頭がおかしくなりそうになる。そして更に、瓦解した真那像に変わってアップデートされた新真那像(?)が、完全に男性のそれだと気付いた事で、最早侑理の頭と心は阿鼻叫喚。一体全体何がどうしてこうなったのか。真那は実は男の子になりたかったのか。それともまさか、〈ラタトスク〉に記憶だけでなく、身体まで作り替えられてしまったのか。だとすれば許せない、許すまじ〈ラタトスク〉。そんな怒りが、身を焦がす程の憤怒が侑理の中から湧き上がり……

 

(…あれ?でも確か真那、日本でお兄様と再会出来たって言ってたよね?…と、いう事は……)

 

…………。

 

………………。

 

……………………。

 

「……──まさか、兄様!?」

「違ぇよ!?」

「ええぇっ!?じゃあやっぱり真那なの!?」

「だから違ぇって!俺は真那の兄であって、真那でも君の兄でもねぇええええぇぇッ!」

 

 部屋内に響く、真那…ではないらしい男性の絶叫。…かくして侑理は、真那の兄との邂逅を果たすのだった。

 

 

 

 

「…その、ごめんな?初対面なのに、大声出しちまって…」

「い、いえ…それはうちが出させたっていうか、100%うちが悪いと思うので、お気になさらず……」

 

 勘違いから始まった出会い…と言えば聞こえはいいものの、実際はただただお互い無駄に疲労するばかりだったやり取りから数分後。一旦お互い落ち着こう、頭を整理しようと言う男性…真那の兄らしき人物の提案に侑理は乗り、可能な限り心を落ち着かせたところで、再度侑理は真那の兄と向かい合う。

 

(…うん、真那とよく似てるけど、ちゃんと見ればやっぱり違う…当たり前だけど、真那より男の人って感じだし、雰囲気も違うし、だけどなんだか安心する──)

「…えぇと、取り敢えず落ち着いたか…?」

「あっ…は、はい!落ち着いてます!それはもう、見ての通り!」

「そ、そうか…本人がそう言うなら、そうなんだろうな…」

 

 つい彼の容姿をじぃっと見てしまっていた侑理は、問い掛けられて慌てて回答。大丈夫だという事を見せようと、勢いそのままに腕捲りからの力こぶを作るジェスチャーをしてみたが、結果真那の兄はむしろ微妙そうな表情になってしまった。

 

「…って、あれ…?病衣…?」

 

 と、そこで自分が病衣を着ている事に気付く侑理。これはどういう事だろうか。そもそも何故、真那のお兄様が自分の目の前にいるのだろうか。侑理の中で、ぽんぽんと疑問が湧き上がり、そこで真那の兄は再び口を開く。

 

「一先ず、自己紹介だけさせてもらってもいいか?俺は五河士道。さっきも言ったが、真那の兄…らしい」

「あ…う、うちは侑理・フォグウィステリアです。真那の──」

「……?」

 

 真那の相棒、大親友。いつものように、侑理はそう言おうとした。…だが、声が出なかった。自分は真那の敵として戦った。反論出来ない主張を受けるまで、真那を信じず、一方的な思いをぶつけるだけだった。そんな自分が、真那の邪魔をし銃口すら向けた自分が、相棒や親友を語る資格があるのだろうか。…そう思うと、何も言葉が出なかった。

 

「…侑理?もしかして、どこか痛むのか?」

「うぇ!?あ、や、そうじゃなくて…そ、それより真那のお兄様なのに、崇宮じゃないんですか?それに、らしいっていうのは……」

「あぁ…五河は今の苗字、俺を引き取ってくれた家の名前だよ。で、らしいってのは…その引き取られる前の記憶が、殆どなくてさ」

「そういう事、ですか…」

 

 しまった、不要な心配をさせてしまった、と侑理ははっとし、誤魔化すように質問を返す。すると真那の兄、士道は一つ頷き、軽く肩を竦めながら問いに答える。

 誤魔化しとはいえ、それはどちらも実際気になった事。その理由を得られた事で、侑理は納得し…もう一つ、訊く。

 

「あの…ここは、どこなんですか…?病院…では、ないですよね…?」

 

 病衣にベットに見慣れない機器と、一見すれば病室の様な格好と内装。だがこの部屋に窓はなく、病院らしき音も聞こえてこない。それを理由に、侑理は尋ね…聞いた士道は、何やら困ったような表情を浮かべる。それは知らない、分からないといった様子ではなく、答えていいものか迷っている風であり…だが次の瞬間、士道ではない声が問いに答える。

 

「──ここは、〈ラタトスク〉が保有する艦、〈フラクシナス〉内の医務室さ」

「…令音さん?」

 

 落ち着いた、大人びた女性の声。反応した侑理が視線を向ければ、そこにいたのは目元に分厚い隈を浮かべた、二十前後に見える女性。薄花色の髪を無造作に纏め、海を思わせる青の瞳を侑理へ向けた、今し方廊下から入ってきた様子の彼女は…なんというか、ぱっと見で少し不安になる印象だった。隈もそうだが、足取りも何だか覚束ない。こう言ってはなんだが、病衣を着ている侑理の方がまだ健康そうな外見であった。

 

「…貴女は…?」

「…村雨令音、〈ラタトスク〉の解析官だ。すまないね、シン。話している最中に勝手に入ってきて」

「いえ、それは別にいいですけど…その、今のは言って良い事だったんですか…?」

「なに、彼女が〈ラタトスク〉を知っているのは真那の話から分かっていた事だし、艦の名前が分かったところで、それのみでは大した情報にならないからね」

「…それは、確かに」

 

 軽く自己紹介をした女性、令音の言葉で納得したように士道は頷き、侑理もまた「確かに」と内心で同意を示す。実際今の言葉で侑理が把握出来たのは、〈ラタトスク〉が艦船を有しているという事と、その艦が〈フラクシナス〉という名を持っているという事だけ。艦種も、性能も、その艦が今どこにいるのかも分からない以上、得た情報を有効活用する事は殆ど出来そうになかった。

…などと侑理が思っていると、士道の隣まで来た令音はおもむろに顔を近付けてくる。一体何をされるのか、と思わず侑理は身を強張らせ…次の瞬間、令音は侑理の両目の下へ親指を当てると、そのまま軽く引っ張ってくる。続けて頬や首筋を、両手でぺたぺたと触ってくる。

 

「え、や、あの……」

「…ふむ。体調に問題はなさそうだね」

(あ、健康チェックしてただけ…!?)

 

 まさか、スキンシップ!?この人の好みに合ってしまった!?…と焦る侑理だったが、杞憂であった事に安堵。だがしかし、次なる言葉で一瞬部屋内に緊張が漂う。

 

「…ある一点を除いて、だが」

「え…?そ、それって…?」

「あぁ──たんこぶが、出来ている」

 

 侑理ではなく、士道が令音の言葉に反応。彼の声に令音は頷き…何とも拍子抜けな真実を告げる。その答えに、侑理も士道もがくっとなり…原因が分かっている事もあって、お互い苦笑をするのだった(因みに士道にもたんこぶが出来ていた。勿論謝る侑理であった)。

 

「ともかく、大事ないようで良かったよ。脳の方も……きちんと休めば、回復するという診断結果が出ている」

「(…うん?今、妙な間があったような…)…脳も、って事は…うちが誰なのか、知っているんですね」

「よく知っているよ。君の事も、君が誰とどんな繋がりを築いていたのかも…ね」

 

 じっと見つめて頷いてくる、令音の瞳。彼女の瞳は穏やかで、深みがあって…だからこそ、緊張する。エレンの言う通りなら、〈ラタトスク〉とDEMは敵対関係であり、侑理はDEMの魔術師(ウィザード)。そしてここが、〈ラタトスク〉の艦船内である以上、侑理は虜囚に他ならない。

 

「だが、今はまだ休むといい。休めば問題ないという事は、休む必要はあるという事だ」

「…はい」

「…そう身構える必要はないよ。確かに君に、艦内を自由に歩き回らせる訳にはいかないが、だからといって君の身の安全を害するつもりも、私達にはない。…そうだろう?シン」

 

 彼女をどこまで信じていいものか。そんな侑理の思考を見透かしたように、令音は柔らかな表情を浮かべる。まだ若いその見た目からは想像も付かない程の、温柔さに満ちたような顔を見せて、それからちらりと士道を見る。振られる形となった士道は、一瞬驚き…しかし、頷く。

 

「えぇ。正直まだ、俺はお前の事をよく知らないし、侑理もそれは同じだと思う。だから、すぐには難しいかもしれないけど…俺達の事を、信じてくれ」

 

 真っ直ぐな瞳と声。曇りも躊躇いもない、信じてくれという言葉。…その言葉は、侑理の心にすっと入っていった。まだ出会ったばかりの、それこそまだ名前と真那の兄である事位しか知らない筈の士道の言葉を、侑理は自然に受け止め受け入れる事が出来た。…やはり、彼は真那の兄で間違いないのかもしれない。だからこそ、真那と同じような何かがあって、それを感じる事が出来て、彼の言葉を受け入れる事が出来たのかもしれない。…そんな風に、侑理は思った。

 

「…幾つか……」

「うん?」

「幾つか、訊きたい事があります。…訊いても、いいですか…?」

 

 訊き返す士道と、小首を傾げる令音に向けて、侑理は尋ねる。既に何度か質問してはいるが、改めておずおずと、侑理は伺いを立てる。侑理とて、こんな状況では緊張もするし不思議と士道達に警戒心は抱かずとも、一度落ち着いてしまえば普段の調子ではいられないのだ。

 そんな侑理の問いに、士道も令音も黙って頷く。その反応に、侑理は少しだけほっとし……ずっと訊きたかった、何より知りたかった事を、二人へ問う。

 

「──真那は、真那も…無事、ですか?」

 

 

 

 

 目が覚めてから、凡そ数十分後。これ以上いては休むに休めないだろう、と士道達は医務室を去り、部屋の中は侑理一人となった。

 

「…真那……」

 

 静かになった医務室の中で、ぽつりと呟く。侑理は士道達から、真那も無事だという事と、自身が気を失ってからの事を聞く事が出来た。…といっても、士道も令音も全てを把握していた訳ではない。知っているのは、あくまで真那本人が話した事と、その時の状況だけ。

 結論から言えば、真那はあの後、ジェシカの攻撃から切り抜けたらしい。切り抜け、真那が侑理を〈フラクシナス〉へと連れてきてくれた。侑理はDEMの魔術師(ウィザード)であり、当然受け入れられる筈がなかったが、真那が必死に頼み込み、最終的にはこの艦の司令が折れた事で収容を許可されたと、令音は語った。…ジェシカがどうなったのかは、分からない。真那があそこから、侑理を連れて何とか逃げ仰せたのか、それとも……。

 

(…うち、これからどうしよう……)

 

 ゆっくりと、医務室の中を見回す。一目では分からないが、どこかに監視カメラがあるのはほぼ確実。下手な事をすればすぐに人が来るだろうし、士道達が出ていってから確認した、ベット横に置いてある自分の荷物…といってもDEM日本支社第一社屋でワイヤリングスーツに着替えて出撃した為、身に付けていた物など殆どないが…の中に、緊急着装デバイスはなかった。十中八九、没収されたのだろう。随意領域(テリトリー)さえあれば超人となれる魔術師(ウィザード)も、その為の顕現装置(リアライザ)がなければただの人間、侑理もただの少女でしかない。

 それに、仮に緩急装着デバイスがあったとしても、侑理はそれを使いたくなかった。…それは、親切にしてくれた士道や令音への恩に仇で返す事になる気がしたから。信じてくれと言った士道は、きっと自分を信じてくれている。全幅の信頼…は流石にあり得ないが、彼はDEMの魔術師(ウィザード)ではなく、一個人として自分を見てくれていた。…そんな気がするから、たとえよく知らない相手だったとしても、真っ直ぐだったあの瞳に背くような事はしたくないと、侑理は思った。

 

「……あ、そうだ…もしかして、あれなら…!」

 

 そこでふと、ある事を思い出した侑理は、もう一度自分の荷物を見る。外されていたブレスレットを手に取り…そこに掛けてあった、エレンから渡された通信端末が変わらずある事を確認する。

 これがあれば、エレンと連絡を取る事が出来る。自分の無事を伝える事も、戦いがどうなったから訊く事も出来る。…と、一度は思った侑理だったが、これをどう使うかも遅れて思い出した事により、肩を落とす。

 

(…って、そうだった…これは顕現装置(リアライザ)なしじゃ使えないんだった……)

 

 やはり今の自分は、ただの無力な少女に過ぎない。その事実を認識し、侑理は心細くなった。これまでは当たり前に使っていた力、魔術師(ウィザード)としての自分を奪われた事で、結局は魔術師(ウィザード)も人の延長に過ぎないのだと痛感した。それに……

 

「…もし、エレンさんがここを知ったら……」

 

 侑理自身はこの艦がどこにいるかなど知らないが、通信によって場所を探知出来るなら、エレンは…DEMは、間違いなく仕掛けてくる。〈ラタトスク〉が精霊を保護する組織であり、実際に保護されている精霊がいるなら、それだけでDEMが仕掛ける理由となる。そうなれば、どうなるか。そうなればやはり、士道達の気持ちに背く事になるし…何より、真那の思いを踏み躙る事に他ならない。

 ああ、そう、そうだ。真那は一人で離脱する事も出来た筈。気絶した侑理という荷物を抱えての離脱など、リスクでしかない上…そもそも真那は言っていた。兄の為に、戦うのだと。ならば第一社屋に仕掛けてきたのも、あの〈ナイトメア〉と共闘するような形を取っていたのも、兄の為。士道の為。…そんな真那が、兄の為の戦いよりも、自分を連れていく事、侑理という人間の身を案じる事を優先してくれた。…そんな真那の気持ちを、踏み躙る事など出来ない。手を差し伸べてくれた真那を、自分との繋がりを諦めないでいてくれた真那を……今度こそ、()()()()()()()()

 

「……っ…嫌だ…もう、裏切りたくない…うちは、真那を…真那を…」

 

 その瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走る。裏切るという言葉が、行為が、怖くして恐ろしくて堪らなくなる。何故かは分からない、分からないが…恐怖で侑理は、膝を抱える。

 侑理は、言えなかった。真那との関係を。侑理は訊けなかった。真那が無事かどうか、それ以外の事を。望む関係はあるのに、繋がりを失いたくはないのに、もっと沢山知りたいのに…それを言葉に、出来なかった。言えば、訊けば、分かったかもしれないのに。このままでは、いたくないのに。

 

「……会いたいよ、真那…」

 

 俯き、膝を抱えながらの、無意識の内に零れる言葉。きっと、真那の敵にならずに済んだ。真那の兄、士道という人は、信じられるような気がする…確かにそんな思いもある。だがそれでも侑理は、今は…心細くて、寂しくて、仕方がなかった。

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