デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第三十話 精霊達の日常

 信じたいという思い。信じきれない現実。その二つを前にして、侑理が選んだ『確かめる』という道。今ある選択肢から、納得の出来る答えを選ぶのではなく、納得の出来る答えを得る為に、自ら動くのだという選択。それが上手くいく確証はなく、得られた答えが望むものになる保証もない…それでもこれだと決めた道。その為に出来る事をするのだと、侑理は心に決めた。…決めたのだが……。

 

「え、うっそでしょ!?真那、全然士道にぃと兄妹らしい事してないんじゃん!」

 

 既にその道から、早速その選択から、侑理は脱線しそうになっていた。脱線しそうな、気配がしていた。

 

「いや、まぁ…これまでは、色々ごたついていたもので……」

「だとしても、念願のお兄様でしょ?なら、これまでの時間を埋めていかなくちゃ!命短し恋せよ少女って言うでしょ?」

「恋って…相手は兄様なのでいやがりますが…?というか、私にせよ侑理にせよ、前半の言葉はかなり洒落になってない気が……」

 

 自分の決断を話した日の翌日。何気ない会話から発展し、真那が士道とあまり多くの時間を共にしていないと知った侑理は、こう思った。これは見過ごせない、と。

 

「後、私が兄様との時間どころじゃなかったのは、侑理の件もあったからでいやがるんですけど…?」

「うっ…それはその、ほんとにごめん…。…けどそういう事なら、尚更うちには真那を手助けする義務がある…!」

「しまった、むしろ余計に火が点いちまったみてーですね…。…けど、手助けって一体何をする気で?」

「んと…うちが士道にぃに、『真那が士道にぃと遊びたがってたよ』って伝えるとか?」

「それ絶対私が恥ずかしくなるやつじゃねーですか…それ位の事、侑理に頼むまでもねーですからね…?」

「じゃ、早速行こっか」

「へ?あ……は、図りやがりましたね、侑理…!」

 

 はっとした顔から、してやられたとばかりの表情を浮かべる真那。そんな真那へ、侑理はふふんと笑ってみせる。…実際のところ、今のは何一つとして図っていなかったのだが…珍しい表情を見られた事で気分が良くなった侑理は、そのまま乗っかってみるのだった。

 

「ほらほら、善は急げ、思い立ったが吉日だよ。…あ、でも士道にぃは、まだこの時間だと学校かな?」

「あーいや、確かにまだ学校かもしれねーですけど、少し待てば帰ってくるんじゃねーかと思いますよ」

「…嘘吐けばこの場を凌げるのに正直に言っちゃう辺り、真那ってほんと人が良いよね。そんな真那が、うちは大好きです!」

「はいはい、そうでいやがりますね…はぁ、何だか今日は上手くいかねーです…」

 

 そんなやり取りを経て、侑理は真那と共に五河宅へと訪ねる事を決定。という訳で、早速士道同様学校に行っている…しかし士道よりは早く帰って来ている事が多いらしい琴里へと真那が連絡を取り(因みに琴里は中学生なんだとか。中学生で司令とは、本当に凄まじい)、了承を受けて五河宅へ。

 

「にしても、中々立派なお宅だよね。隣のマンションの方が目立つけど…」

「何でもご両親は、二人揃って大手の電子工学系企業に勤めてるんだとか。でも忙しくて、家を空けている事が多いって話でいやがります」

「へぇ。……まさか、DEMの系列企業だったりはしないよね…?」

「い、いや流石にそれはねーかと…もしそうなら、ラタトスク側が万が一に備えて手を回してるでしょうし…」

 

 脳裏に浮かぶのは、一抹の不安。世界的大企業且つ、多数の系列企業や子会社を持つのがDEM社である為、実は勤めていたのがDEMに関わりのある会社だった…というのは、決してあり得ない話ではない。

…が、真那の言う通り、その位の事はラタトスクとしても調べている筈。だからきっと大丈夫だろう、と心を鎮めながら、侑理は五河宅のチャイムを押し…数秒後、はいはーいという軽快な声と共に玄関の扉が開かれる。

 

「おー、よくぞ来た我が友よ!」

「お邪魔しまー……え、誰!?」

 

 ぴょこんと跳ねるツインテールと共に出てきた、白いリボンに白いセーラー服姿の少女。侑理は何気なく挨拶をしようとし…ぎょっとする。

 目の前にいるのは、見た目も声も、確かに琴里。士道の義妹である、五河琴里。だがそのその雰囲気は、発する言葉は、堂々としたラタトスク司令官のそれではなく…明らかに、天真爛漫で元気一杯な女の子のものであった。あれ!?え、琴里じゃない!?双子!?妹の雛鳥ちゃんとか!?…みたいな感じに、侑理は割とマジで思ってしまった。

 

「えー?何言ってるの、侑理」

「な、何って…えぇと、貴女の名前は五河……」

「琴里だよ?」

「…だ、だよね…だよねぇ……?」

「や、なんで私の方を困惑に満ちた顔で見ていやがるんですか…?一体何が納得出来な…あー……」

 

 まん丸な目できょとんと見つめてくる琴里(?)に、思わず侑理は後退る。首が錆び付いたのかと不安になる程ぎこちない動きで、答えを求めて真那を見やり…怪訝な顔をしていた真那は、何かに気付いた様子を見せる。

 

「侑理、ここにいやがるのは琴里さんです。人違いじゃなくて、ちゃんと琴里さんです」

「ふふん、ちゃんとした琴里さんなのだ!」

「ほら、本人もそう言ってるじゃねーですか」

「むしろそれが余計怪しいんだけど…!?…こ、こほん…その、琴里って実は多重人格とかなの…?」

「そういう訳でもねーらしいです。兄様曰く、琴里さんは司令官としての自分と、妹としての自分を使い分けているんだとか」

「そ、そうなんだ…(それにしたって変わり過ぎな気が……)」

 

 小声のやり取りにて、一種のマインドセットなのだと説明された侑理だが、流石に簡単には納得出来ない。…が、本人は「どうかしたの?」とばかりの顔、真那もそういうものだと認識しているとなれば、侑理も受け入れる他ない訳で…実はやっぱり琴里のフリをしている双子の姉か妹ではないのだろうか。そんな思いが頭の片隅から離れない侑理であった。

 

「で、琴里さん。兄様は……」

「さっき連絡したら、今下校中だって帰ってきたよー。でね、二人が遊びに来るって伝えたら、なら早く帰らないとな、だって」

「へ、へぇ…そうでいやがりますか…」

「ふふ、嬉しそうだね真那」

「なっ、そ、そんな事は……」

 

 一見なんて事ないように返した真那。しかしその表情は、明らかにそれまでよりも緩んでおり…それを侑理が指摘すると、珍しく恥ずかしそうな顔を見せる。

 

「真那って、時々可愛い顔するよね〜」

「時々?違うよ琴里、真那はいつでも可愛いんだよ?」

「へ、変な話してねーで行きますよっ!」

 

 そう言って、真那はずかずかとリビングへ入っていく。明らかに羞恥心を隠そうとしているその様子に、侑理は琴里と顔を見合わせ…どちらからともなく、にやりと笑う。

 

(…別に、隠さなくたっていいのにな…)

 

 生き別れた、そして再会出来た今もなんだかんだであまり同じ時間を過ごせていない兄のところへ遊びに来たのだから、その兄も歓迎してくれているようなのだから、それを喜ぶのは何もおかしくな事ではない。…筈なのだが、真那はご覧の通りな訳で…もしかするとこれは、本当に大切な兄だからこそ、向ける気持ちも向けられる気持ちも軽くは扱えない、自然と大袈裟になってしまうという事なのかもしれない。…というのが、真那の事を語らせたら右に出る者はいない(と自負している)侑理の見解であった。

 

「それじゃ、ここに座って待っててー。…飲み物、何かあったかなぁ…」

「あぁ、別に気を遣わねーで下さい。今日はいきなり来ちまったようなものでいやがりますし」

「え、じゃあ水道水そのままでいい?」

「いやそれは…文句は言わねーですけど……」

 

 何とも軽快な琴里の返しに、侑理も真那も軽くずっこける。実際、水道水を出されたらどう反応すれば良いのだろうか。勿論文句は言わないにしろ、水道水だと言われた時の、ベストな反応は何かといえば…謎である。

 

「あははー、冗談だよ?でもあるのは…んー…あっ、パックの紅茶なんてどう?」

「紅茶?それならうちが、紅茶の本場イギリス流の淹れ方を教えてあげよっか?」

「おー、英国流!ブリティッシュスタイル!」

「…侑理にそんな、イギリスを背負える程の技術があったようには思えねーんですけど……」

「でもほら、イギリスで淹れたり飲んだりしてたのは事実だし。それに何より、うちの中のイギリス人の血が紅茶と聞いて騒いでいるからね!」

「あ、イギリスの血の方が騒ぐ時もありやがるんですね」

 

 何とも緩い会話を経て、台所へ向かった侑理は宣言通り紅茶を淹れる。…と、いってもティーバッグの紅茶をストレートで淹れただけだが、真那はともかく琴里はそれなりに喜んでいた。クォーターとはいえれっきとしたイギリスの血筋を持つ侑理が淹れた紅茶、それに一種の価値を見出したのかもしれない。

 という訳で淹れた紅茶を飲みつつ談笑する事十数分。段々と侑理も今の琴里に慣れてきたところで、玄関の扉の開く音が聞こえてきた。

 

「あ、おにーちゃんが帰ってきたのかも?」

「なら…ほら、行って真那。お兄ちゃんをお迎えするのは、妹の特権でしょ?」

「ふふん、そのとーり!でも今日は、真那にその権利を譲ってあげるぞ!」

「それは別に、妹のみの特権ではねーかと…。…けど…ま、まぁそういう事なら?兄様の出迎えは、私がやるしかねーですよね?」

 

 やはり何か少し恥ずかしがっている様子の真那。その割に躊躇いのない足取りで、早速玄関へと向かう真那。そんな真那の様子が堪らなく可愛い、これはもう着いていって至近距離で目に焼き付けたいと思う侑理だったが、流石にここはぐっと堪え、琴里と共に真那を見送る。

 とはいえ、侑理とてただの付き添いとして来た訳ではない。あくまで最優先は真那だが、それはそれとして、また士道と遊びたい…そんな気持ちが、確かに侑理の中にはあった。だからこそ、真那だけでなく自分も家で待っていたら、士道はどんな反応をするだろうか。そんな思いを侑理は馳せ……

 

「おお、今日は他にも客人が来ていたのだな!」

「こんにちはー、琴里さん。今日は遊びに来ちゃいました…って、やーん!琴里さん以外にも、可愛い子がいるじゃないですかー!」

「なッ……」

 

 再び開かれた扉から現れた、真那でなければ士道でもない、全く予想していなかった二人の少女に、侑理は面食らった。その容姿に、目を見開いた。

 全然違う人物が現れたから、というのは勿論ある。その二人が、どちらも息を呑むような美人であったからというのもある。だが、それだけではない。想定外ながら、侑理は二人の事を知っている。知っているからこそ…愕然とする。

 

「〈プリンセス〉に、〈ディーヴァ〉…!?」

「む?」

「あらー?」

 

 夜闇を束ねたような、それこそ夜色とでも言うべき長い髪と、水晶を思わせる澄んだ藤紫の瞳。今の呼称に対してあまり良い印象を抱いていないのか、少しだけ表情の厳しくなった、凛とした容姿。その姿は、明らかに精霊〈プリンセス〉。少し前まで侑理が捕獲対象として認識していた、強大な精霊。

 そんな彼女とは対照的な、柔らかそうなみ空色の髪と、より深い青、青空を連想させる瞳。一目でその豊かなプロポーションが見て取れるスタイルに、長く聞いていると心が蕩けそうな甘い声。彼女は正しく、精霊〈ディーヴァ〉。更に少し前、実際に侑理がASTと共に交戦をした、例の精霊。

 見間違いではない。他人の空似でもない。感覚として、はっきりそれが分かっているからこそ、侑理は戦慄し……

 

「だいじょーぶ、十香も美九も、おにーちゃんにゾッコンだもんねー?」

「あ、分かっちゃいますー?そうです、私はだーりんにメロメロにされちゃいました〜!」

「ぞっこん?…と、いうのはよく分からないが…うむ、恐らくはそうだぞ!」

「あ、ぇ……?」

 

 ぽふり、と後ろから肩に置かれる手と、掛けられる声。琴里の問い掛けに、〈ディーヴァ〉は身体をくねらせながら返答し、〈プリンセス〉もきょとんとした後元気良く頷く。そして侑理が振り返れば、琴里はにっこりと笑っており……侑理は、思い出した。ラタトスクが、どんな組織であるのかを。ラタトスク機関は、精霊の保護を目的としている事を。

 

「ただいま、琴里。侑理もいらっしゃい……って、侑理?」

「へぁ…?あ、な、なんですか…?」

「何って…今侑理、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してたぞ?…って、この言葉を実際に使う機会が来るなんてな…我ながら驚きだよ…」

 

 思い出しはしたものの、まだ思考の整理が追い付かない。そんな中で、士道も真那と連れ立つ形でリビングへと現れ…侑理を見て、怪訝な顔をしていた。…実際のところ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってどんな感じの顔なんだろうか。思考の整理が間に合っていないにも関わらず、思わず余計な事を考えてしまう侑理だった。

 

「侑理?シドー、彼女は侑理というのか?」

「え?…って、あぁそっか、二人は初対面だったな。紹介するよ、彼女は侑理。真那の友達で…侑理。二人は十香と美九、実は二人共……あ」

 

 〈プリンセス〉…十香と呼ばれた少女の問いに答え、それぞれの事を伝える中で、士道は何かに気付いたような顔を見せる。それから士道は琴里を見やり…琴里が頷いた事で、その表情は納得したようなものへと変わる。

 

「…侑理。思うところはあると思うし、すぐに受け入れてくれとも言わない。でも、十香も美九も今は普通の人の様に、普通に生活しようとしているんだ。…それだけは、分かってくれないか?」

「……士道にぃが、そう言うなら…」

 

 じっと自らを見つめる士道の言葉に、侑理は小さく頷く。士道の目からは、侑理への…自身への信用が感じられた。言えばきっと分かってくれる、そう信じてくれている事が分かったからこそ、侑理はそれに応えたいと思った。

 だからこその、首肯。そして頷いてみせた侑理を見て、士道は安心したように笑う。

 

「士道にぃ?え、もしかしてこの子もだーりんの妹さんなんですか?」

「はっ、そうです兄様!兄様は何故だーりんなとと…まさか兄様は、美九さんにそう呼ばせていやがるんですか!?」

「いや違ぇよ!?侑理は妹じゃないし、別に呼び方は俺が指定した訳でもないからな!?」

「そういえば美九よ、だーりんとはどういう意味なのだ?」

「そうですねぇ、どうって言われるとちょっと困っちゃいますけど…私は大切な人、大好きな貴方って意味で呼んでいるんですよ♪」

「そうなのか…ならば私もシドーをだーりんと……」

「待て待て止めてくれ十香…十香は俺を普通に呼んでくれ……」

「シドーはシドーと呼んでほしいのか?ならばそうするしかあるまいな!」

 

 美九の問いを皮切りに、わいわいがやがやと途端に賑やかとなるリビングルーム。その中で一人突っ込みに回る士道は大忙し。だがなんだかんだ皆士道を慕っているのか、最終的には収束していき…最後に聞こえたのは、士道の大きな嘆息だった。

 

「や、やっと話が纏まった…つか琴里、琴里も全部把握してるんだから、説明を手伝ってくれよ…」

「えー、ここはおにーちゃんの甲斐性の見せ所だと思って敢えて黙ってたのに、そんな事を言うなんて酷いぞおにーちゃん!」

「おにーちゃん?え、もしかしてこの子もだーりんの妹さんなんですか?」

「琴里の事は普通に知ってるだろ…!?というか、さっきはおにーちゃん呼びにノータッチだったよな…!?」

「ふふっ、冗談ですよだーりん♪だーりんは反応がいいから、ついついこういう事を言いたくなっちゃうんですよねー」

「あ、分かるー。おにーちゃんは、弄られて輝くタイプだもんね」

「あのなぁ…」

 

 うんうんと頷き合う琴里と美九に、士道はげんなり。侑理も実はちょっと分かるのだが…流石にそれよりも士道が不憫だという感情が勝り、話を変えようと皆へ向けて咳払い。

 

「こほん。えっと、さっき士道にぃにも紹介してもらいましたが…うちは侑理・フォグウィステリアです。今はちょっと、ラタトスクに身を寄せてる立場で…一つ訂正しておきます。うちは、真那の友達じゃありません」

『え?』

「友達じゃなくて親友、大親友です!大親友にして相棒です!」

「あぁ…すまん、そうだったな…」

 

 目を丸くする五河兄妹の前で、はっきりしっかり侑理は言い切る。わざわざ訂正する程の事でもないのかもしれないが、侑理的には重要な事なのだ。そして驚いていた士道や琴里とは対照的に、真那はそうだと思った、とばかりの表情をしており…そんな反応が嬉しかったのは、言うまでもない。

 

「それじゃあ、私も自己紹介を返さないとですねー。私は誘宵美九。だーりんの事は勿論ですけど、可愛い女の子は皆大好きなので、仲良くしてくれると嬉しいですー!」

「あ、は、はい…こちらこそ、宜しくお願いします…」

「私は夜刀神十香、好きなものはきなこパンとシドーだ!だが、どちらがより好きかと言われれば…やはりシドーだな!」

「お、おう…ありがとな、十香……」

「むむ、純真故の曇りのない愛情表現…流石は十香さんです…。けどだーりんを大好きって気持ちなら、私も負けていませんからね?」

「そういう事なら、私もおにーちゃんの事が大好きだぞー!」

「兄様…この状況、やはり兄様はジゴロになっちまったのでいやがるんですか…?…けど、それはそれとして、兄様への愛情なら真那も負けてねーです!なんたって兄様は、真那の実の兄様ですから!」

「…モテモテだね、士道にぃ」

「…は、はは……」

 

 ものの数分足らずで、再びリビングルームは大賑わい。四名の熱量を前に若干気圧された侑理が見たままの感想を口にすれば、士道は何とも言えない顔で、酷く乾いた笑い声を漏らしていた。…落ち着いたら、士道にも紅茶を淹れてあげよう。そう心に決める侑理であった。

 

「あー、ストップストップ!とにかくストップ!確認なんだが、侑理は真那と一緒に遊びに来たんだよな!?」

「ふぇ?…あ、そうです。うち、真那に士道にぃとの兄妹の時間を過ごしてほしくて来ました!つまりうちはおまけですが、一緒に遊べたら嬉しいなと思います!」

「そうかそうか、そうだったんだな!…けど、そっか…兄妹の時間、か……」

「…別に、皆さんがいたって構わねーですよ。元々今日決めて、そのまま来ちまったようなものでいやがるんですから、多くは望まねーです」

 

 ちらりと向けられた視線で察した侑理は、再び士道へと助力。ついでに心の中でサムズアップも送ってみせる…が、侑理の返しを受けて、士道は困ったような表情を浮かべる。

 理由はすぐに分かった。兄妹の時間をという事であれば、当然人数は少ない方が良い。兄妹二人だけになるのがベスト。しかしそうするとなると、他の面々は席を外さなくてはいけない訳で…侑理自身、自分も遊べたら…と言ってしまったのは悪手だったと後悔するも、時既に遅し。

 だがそんな中で声を上げたのは、他でもない真那。やれやれと言うように肩を揺らし、気遣いは無用だとばかりに小さく口角を上げる。そしてその発言を受けた、視線を受け取った士道は数秒黙り…首肯。

 

「なら、今日は皆でなんかするとしようぜ。それと…真那、また後で時間のある日を教えてくれ。今度は俺から、買い物にでも誘うからさ」

「兄様……」

 

 にっ、と笑ってみせる士道の姿に、真那は胸の前で手をぎゅっと握る。それは侑理の望んだ、真那に感じてほしいと思っていた『兄妹の時間』の一端で……

 

「…って、買い物?もしや兄様、女物の服でいやがりますか…?…という事は、兄様はやはり……」

「ぶ…ッ!?だ、だから違うんだって!真那が見たっていうそのデータの事は忘れてくれ…!」

「もー、士織さんモードのダーリンはとっても可愛いんですから、それを忘れろだなんて無理難題を言っちゃ駄目ですよー。というか…んー、やっぱり妹さんなだけあって、真那さんは士織さんとそっくりです〜。かーわーいーいーでーすー!」

「うえっ!?ちょっ、美九さん近い近い……」

 

…だとちうのち、一瞬でなんだか変な会話になってしまった。士織さんモードとはなんだろうか。真那が見たデータというのもなんだろうか。侑理の頭の中には疑問ばかりが残り……直後、リビング内へチャイムの音が聞こえてきた。

 チャイムを押したという事は、恐らく来客。しかしこの家の住人ではない侑理が出ていく訳にもいかず、美九に迫られ後退る真那を助けるべきか、それともこのままでいる方が何か良いものを見られるだろうか、などと考えていると、士道が玄関へと向かい…十数秒後、再び侑理は驚愕する事となる。

 

「あ、み、皆さんこんにちは…」

「やっはー、皆お揃いだなんて、今日はパーティーなのかなー?」

「であれば皆が集まった段階で訪れた我等八舞こそが、この宴の主役…って、あれ…?一人、知らない人がいるんだけど…」

「困惑。彼女は誰でしょうか」

「んな……ッ!?〈ハーミット〉、〈ベルセルク〉…!?」

 

 入ってきたのは、少女三人。内一人は、柔らかさを思わせるウェーブが掛かった露草色の髪と、広い海を想像させる蒼の瞳を持った、小柄で愛らしい容姿の少女。しかしそんな彼女は左手にうさぎのパペットを嵌めており、パペットは腹話術で陽気に話す。

 一方残りの二人は、どちらも夕日に照らされたような橙色の髪と、じっと見れば見る程深みを感じる舛花色の瞳をした、瓜二つの顔立ちをした少女。双子でなければ分身か…そう思う程に二人はそっくりであり、しかし片やスレンダー、片やグラマラスと、首から下は差異を見せる。

 現れた三人は、これまた街に出れば目を引く程の美人揃い。整った顔立ちをした三人であり…三人全員が、精霊であった。DEM日本支社第一社屋前での戦闘にして乱入してきた、〈ハーミット〉と〈ベルセルク〉であった。

 

「うん、だよな。三人共、ちょっといいか?」

 

 その反応は分かっていたと言うように、慣れた様子で士道は侑理の事を三人へ伝える。士道に促され、侑理ももう一度自己紹介を口にする。…慣れたも何も、つい先程もあった展開。であればスムーズにいくのも当然であり…しかし士道の側はスムーズでも、侑理の驚きはそう簡単には抜けていかない。何せ、仰天再びなのだから。あの驚きを、もう一度となったのだから。

 

「私は、四糸乃…です。この子は、よしのんで…仲良くしてくれると、嬉しい…です」

「宜しく宜しくぅ!四糸乃とも、よしのんとも仲良くしてね〜!」

「異国の血を併せ持つ少女よ、我が名は颶風の巫女、八舞耶倶矢である!よく覚えておくがよい!」

「紹介。八舞夕弦と申します。初対面で見分けるのは難しいと思うので、スタイルが良い方と慎ましやかな方で覚える事を推奨します」

 

 各々の自己紹介を取り敢えず受け取る…〈ハーミット〉と〈ベルセルク〉の二人の名前を知る事となった侑理は、何とか困惑を飲み込みながら頷いて返す。…この時耶倶矢がちょっと!?…と夕弦に突っ込んでいたのだが、夕弦は涼しげな顔であった。その二人のやり取りを、四糸乃は苦笑しながら見守っていた。

 

「…ねぇ、真那」

「どうしやがりましたか、侑理」

「うちが目にしてるのって、全部本当の事…なのかな」

「まぁ、気持ちは分かります。私も受け入れるのに、時間がかかりやがりましたから」

「だ、だよね…というか、その…美九さんもですが、うちに見覚えがあったりは……」

「あーっ!」

 

 ラタトスク機関が精霊の保護を目的としている組織とはいえ、こうも精霊が一堂に介する事があり得るのだろうか。そんな思いを口にすれば、真那は軽く肩を竦める。

 そしてもう一つ、侑理には気になる事があった。美九だけでなく、短時間とはいえ四糸乃や八舞とも交戦した事のある自分を、誰も覚えていないのかという疑問があり……まるでその思いが引き寄せたかのように、突然美九が声を上げる。

 

「なーんか初めてあった気がしないと思ったら…貴女前に、えっと…AST?…の皆さんと一緒に、私の歌を聴きに来てくれた子じゃないですかー!」

『えっ?』

「うっ…いや、あの…うちは別に、歌を聴きに行った訳じゃ……」

「嬉しいです〜、まさかこんな形でまた会えるなんて!あの時のお仲間さんは、一緒じゃないんですか?…あれ、でも…今思うと、少し皆さんとは格好が違ったような……」

 

 頬に指を当てて、可愛らしく小首を傾げる侑理。ASTと共にいた、その言葉で全員が察したような顔になり…精霊達の視線が、侑理へと集中する。

 じわり、と全身から吹き出す汗。自分を見つめる精霊達という状況に、一気に緊張感が押し寄せる。反射的に、この場からの離脱が頭に浮かぶが、当然侑理は今、緊急着装デバイスを持っていない。災厄たる精霊を前に、今の侑理はただの少女でしかなく……

 

「大丈夫でいやがりますよ、侑理」

 

 そんな侑理の肩へ、再び手が置かれる。今度は真那の手が置かれ…優しい声が、それに続く。気付けば士道も侑理を見ていて、侑理へと頷いていて……その二人が、侑理を落ち着かせてくれた。…だから、侑理は言う。精霊達を見つめ返して…正直に、答える。

 

「…はい。うちは少し前まで、DEMの魔術師(ウィザード)でした。乱戦だったので、覚えていないのかもしれませんが…四糸乃さん達とも、戦った事があります」

 

 発した答えに、一瞬部屋の中は静かになる。微かに息を呑むような雰囲気が漂い…数秒後、再び侑理は問われる。夕弦が、問う。

 

「確認。今は、私達に敵意を持っている訳ではないのですか?」

「それは…今は、ないです。…ないというか、皆さんに対しては、襲われたから反撃しただけというか……」

「ふぅ、ん…その時の事は、よく覚えてないけど…それならまあ、いいんじゃない?」

「私も、そう思います…ASTやDEMは怖いですけど…もし戦わず、仲良く出来るなら…ずっと、そっちの方かいいですから」

 

 ならば良し。そんな風に耶倶矢は大きく頷き、侑理の様子を伺うようにしながらも、四糸乃もこくこくと小さく頷く。そして三人は、士道の方を見て…微笑む士道へと、それぞれに笑みを浮かべてみせた。

 

(あぁ、そっか…精霊もこうやって、普通に笑うんだ…)

 

 分かってくれたのは、何も三人だけではない。十香も仁王立ちするように腕を組みつつうんうんと頷いており、美九は先程からずっと変わらぬ柔らかな表情のまま。そして琴里も、なんだか嬉しそうな顔をしており…これまでよりほんの少しだけ、侑理は精霊の事を近く感じる。

 精霊とはっきり言葉を交わしたのは、これが初めてではない。〈ナイトメア〉や、あの空間で遭遇した準精霊達、それに美九にも初遭遇時に声は掛けられていた。だがその時侑理と精霊とは敵であり、少なくとも侑理の側に歩み寄る気などなかった。精霊の側も、有効的とは言い難かった。だからこそこうして話せるなど侑理は夢にも思わず…恐らくDEMにいたままであれば、これからも知る事はなかった。

 知る事が、必ずしも幸せに繋がるとは限らない。知らない方が良い事もある。そんな事など、侑理とて分かっている。されど確かに、この日侑理は思った。…戦場ではない場所で、戦いではない形で、精霊と出会い、言葉を交わす事が出来て良かった…と。

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