デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第三十五話 幼女パニック

 侑理と真那が狂三の追跡の為〈フラクシナス〉を離れていた時、士道は新たな精霊…〈ウィッチ〉こと、七罪と遭遇していた。初コンタクトは決して悪いものではなかった筈が、気付けば何故か敵視され、精霊が有する絶大な矛、天使の力で社会的評価と信用を大きく削られた。その上で十香達精霊が、同じ学校に通う学友達や担任が、危機に晒された。翻弄され、追い詰められていく中、それでも士道は諦めず、知恵を振り絞り、仲間の力も借りて…最後は七罪の些細な、だが致命的なミスに気付いた事で、一先ずは勝利を納める事が出来た。…出来たが、それは一旦の事。七罪は更に怒りを募らせ、新たなる手を士道に振り翳してきた。

 次々と仕掛けられる策に四苦八苦する。それによって十香達も振り回される。状況は端的に言って最悪なのだが、人は慣れる生き物。悪い状況だろうと、それが続けば良し悪しは別として、少しずつ順応していくもの。苦労の連続だが、社会的に重傷を追う日々が続いているのだが、少しずつその『悪い』状況に士道は慣れ始めていた。慣れ始めてしまっていた。被害を受けるのは自分で、巻き込まれるのは主に十香達という形が続いていた事で、毎回慌てはするものの少しずつ心に耐性が付き始めている……そう、思っていた時。

 

「ぴぁっ!?…な、ななっ…なななな……ッ!?」

「なんで…こんな格好になっていやがるんですかぁぁーーーーっ!?」

 

 実妹であり、何を置いても士道を慕ってくれる真那。その真那の親友であり、これまた自らを慕ってくれている侑理。戦いとなれば間違いなく士道より強い、幾度となく戦場も経験している…だとしても士道からすればまだ幼さの抜け切らない、強くとも心は見た目相応の…だからこそ守りたい、力になってあげたいと心から思う、二人の少女。

──だが、そんな二人は今、片や狼の耳を頭に、片や(恐らく)蛇の尾を腰に備えた、レオタード衣装に…どう見ても扇情的な格好に…如何わしい店か何かとしか思えないような姿に……そして何より、()()()()()()()()()変貌をしてしまっていた。

 

 

 

 

 逃げる直前、〈ナイトメア〉…時崎狂三が発したある言葉。状況的には、逃げる為の隙を作るハッタリとしか思えない…だが切って捨てるにはあまりに不安が残る、士道への危険の示唆。それを受けた、狂三にも逃げられてしまった侑理と真那が、真偽の確認…即ち〈フラクシナス〉に連絡を入れたのは、当然の事。

 

「…そうか、知られてしまったんだね」

 

 そして、すぐにはっきりする事となった。連絡を受けてくれた令音の、事実上の肯定により…侑理達は、狂三の言葉が真実であったのだという事を知る。

 

「一体、何が…いや、それ以前に兄様は無事でいやがりますか?」

「ああ、シンは大丈夫だよ。むしろ大丈夫じゃないのは、琴里達周りの方だ」

 

 士道は無事。その言葉に一瞬安堵する侑理だったが、続く言葉ですぐに安心の感情は吹き飛ぶ。

 思えばここ数日、定期的な通信を受けてくれるのが琴里から令音に変わっていた。その理由を令音は「琴里はここのところ忙しくしているから」と言っており、司令官である琴里が忙しいのは当然の事…と侑理も真那も流してしまっていたが、事前の話などなく、急に忙しくなった時点で何かあったと示しているようなもの。そして、精霊の保護を目的に活動する組織の司令官が忙しいとなれば、精霊絡みだと予想するのは何ら難しい事ではない。にも関わらず、呑気に「琴里も大変だなぁ」と思っていた過去の自分を侑理は恥じ…しかし気持ちを切り替える。情けない話だが、今は落ち込んでいる場合ではない。

 

「何があったんですか?精霊に襲われた…いや、琴里達が大変って事は、皆の方に何か…?」

「前者だよ、侑理。識別名〈ウィッチ〉…七罪という精霊に、シンが『ゲーム』を仕掛けられてね。それ自体も大変だったんだが、何とかシンが勝った結果、それが悪い方向に働き……」

『働き…?』

「…琴里達が、幼児にされてしまったんだ」

『……はい?』

 

 画面越しに神妙な表情を浮かべた令音の、しかし予想外過ぎる言葉に、真那共々思わず侑理はぽかんとしてしまう。一瞬聞き間違いかとも思ったが、真那の反応からしてそれはない。ならば雰囲気を和ませる為のジョークか…とも考えたが、それにしてはタイミングが悪いし、何より令音がそのような事をするタイプだとは思えない。

 つまり、令音の言った言葉…幼児にされたという答えは本当の事になる訳だが、だとしても飲み込めない。早い話しが、訳が分からな過ぎるのだ。

 

「……うん?はっ…まさか〈ナイトメア〉が時間を巻き戻す弾を使って、琴里さん達を……」

「いいや、今さっきも言った通り関与しているのは七罪という精霊だ。それに断言までは出来ないが、恐らく時間遡行の類いではなく、外見…というより状態を幼児にした、変化させたと言うべきだろう」

「あぁ…けど油断はしねー方がいいです。〈ナイトメア〉なら、何食わぬ顔で関与して、その癖我関せずとばかりの態度をしてもおかしくはねーんですから」

 

 幼児にされたというだけでは情報に乏しいと令音も分かっているのか、そこから令音は事のあらましを話してくれる。七罪が士道に化けて色々とやらかした事、士道の身近な存在に化け、士道が見抜けない度にその身近な存在が消されていった事、最後は何とか見抜けたものの、今度は琴里達を幼児の姿にしてしまった事…その内容は、どれも侑理にとって驚きのものだった。内容自体もさる事ながら、武力や物理的被害をもたらす事の多い精霊らしからぬ攻撃である点も、かなり予想外だった。

 

「目下、我々は七罪の行方を捜索中。琴里達の状態変化の解除方法も同時並行で進めてはいるが…一番の近道は、七罪に解いてもらう、或いはシンが七罪の霊力を封印する事だろう。…勿論、それが出来ればの話ではあるけどね」

「つまり、どちらにせよ七罪という精霊を見つけない事には…って訳ですね。…〈ウィッチ〉…DEMのデータベースでも見た事はあるけど…うーん、手掛かりになりそうな情報あったかな……」

 

 何か情報を、と頭を捻る侑理だったが、全く出てこない。そもそも侑理はデータベースを隅から隅まで見ている訳ではなく、〈ウィッチ〉の項目も何かのタイミングで偶々軽く見た程度なのだから、出てこなくても仕方ないといえば仕方ないのだが、折角の『元DEM所属』という経歴を活かす事が出来ないのは少し残念なところ。…と、そこでふと侑理はある事を思う。

 

(そういえば…うちって、『元』なのかな……)

 

 現在の侑理はラタトスクに身を寄せている、厄介になっている身。だが別にDEMを退職した訳でもなければ、見切りを付けた訳でもない。そしてDEM側も侑理の扱いをどうしているか、それ以前に未帰還状態の自分は今どういう扱いになっているのか侑理的には気になるところ。だがそれは考えても分からない訳で…そんな思考を侑理がしている最中、隣から聞こえてきたのは小さな吐息。

 

「…状況は理解しました。その上で、二つ質問です。…どうして私達に、黙っていやがったんですか?」

 

 じっと見つめ、令音に問う真那。それは侑理も気になるところであった為、同じように画面の向こうの令音を見つめ…それも当然の疑問だと言うように、令音は頷く。

 

「〈ナイトメア〉…狂三の追跡という、大きな危険の伴う行動の真っ最中である君達に、心を乱しかねない情報は伝えるべきじゃないという、琴里の判断だよ。だが勿論、私もそれに賛同した。決して琴里の独断じゃない」

「…理解はします。今の話を知ったら、兄様や琴里さん達の事が気になって目の前の事に集中しきれなくなっていた可能性は、否定出来ねーです。…けど…あんまり気分のいいものでもねーです。そうやって、窮地に陥っているのに何も言ってくれねーのは」

「…すまない」

 

 目を伏せ謝る令音の声からは、僅かだが普段よりも静かな響きを感じる。その響きで、本当に申し訳ないと思っているのだという事を侑理は感じ…次の瞬間、真那はぱんと手を叩く。

 

「…とはいえ、過ぎた事を言っても仕方ねーです。だから、もう一つの質問といきましょう。…私達の力は、必要でいやがりますか?」

 

 空気を切り替えるような、あっけらかんとした真那の言葉。続けて真那は二つ目の問いを口にし…真剣な眼差しで、再び見つめる。

 数秒の、沈黙。一つ目の問いと同じように、侑理も見つめ、令音は侑理達を真っ直ぐに見つめ返し…そして、首肯。

 

「…今、私達には戦力が不足している。これまで七罪が物理的な暴力に出た事はなかったが、これからもないという保証はない。現状琴里達も姿を変えられてしまっただけだが、それが霊力や封印に影響を及ぼさないという確証もない。万が一の可能性が否定しきれない中で、琴里達を…シンを守る力が、あまりにも不足してしまっている。──だから、力を貸してほしい。真那、君の力が必要だ」

「…えぇ、了解しました。兄様の為、琴里さん達の為…この力、全力で振るおうじゃねーですか」

「…ありがとう、真那」

「礼には及ばねーですよ。令音さんには、追跡に関して肩を持ってもらった借りもありやがりましたからね」

 

 そうしてうち達の、次の行動が決まる。狂三の追跡は一度打ち切って、天宮市へ戻ると決める。

 包み隠さず、対等な立場であるように助力を求めた令音と、多くは語る事なく応じる真那。二人のやり取りは、どこか大人なようで……

 

(…君の力、か…そう、だよね…今のうちに、力なんてないんだもんね……)

 

 魔術師(ウィザード)、それも単独で精霊とやり合えるだけの実力を持つ真那は、戦力として申し分ない。令音の言う『万が一』が起きたとしても、真那であればそれに正面からぶつかる事が出来る。…だがそれは、真那の力。求められているのも、必要なのも、真那一人の力。至極当然な、当たり前の事で…されど、当たり前だとしても、当たり前だと分かっていても…そう簡単には、割り切れない。

 

「…侑理?」

 

 話が付いたところで真那もこちらの状況を伝え、最後にこれからの事を確認し合って通信は終了。早速荷物を纏め、朝一で天宮市へ戻る事となり…不意に侑理は、真那に呼ばれる。

 

「あ…な、何?」

「や、手が止まっていやがりましたので、何か困っているんじゃねーのかと」

「そ、そっか。…ううん、ちょっと考え事してただけ。ありがとね」

 

 軽く首を横に振り、大丈夫だと侑理は返す。真那は返答を受けた後も、少しの間侑理の事を見ていた…が、それなら良かったと自分の荷物の片付けに戻る。侑理もそんな真那から視線を荷物へと戻し…心の中で、彼女に謝る。

 嘘は言っていない。だが、正直に話した訳でもなかった。確かに侑理は考え事をしていた。デパートでの事を…結局また、真那に助けられてしまった事を。真那に頼るしかなかった事を。勿論初めから、それは分かっていた。戦闘となれば、CR-ユニットのない自分は足手纏いにしかならない事など。真那もそれを十分理解した上で、それでも侑理と一緒に、と言ってくれたのだろうが……だとしても、侑理の心の中には情けなさと不甲斐なさが渦巻いていた。

 そう。今の侑理にはないのだ。真那と共に戦う力も…士道達を、助ける力も。

 

 

 

 

 天宮市へと戻った侑理達は、速攻で帰還し士道達と再会した。会った瞬間の、士道の安堵の表情は忘れられない。自分を見て安堵してくれている、来てくれて良かったという面持ちは、もうそれだけでも嬉しく…同時に精神的疲弊が滲み出ているような雰囲気には、同情する他なかった。

 戻ってきたのは、士道達の力になる為。狂三の追跡よりも、こちらの方が大事だから。そして直接的な戦闘以外でも、やれる事はある。そこでなら力になれると、侑理は考えていた。真那も、「私に出来る事ならなんでも任せろってんです!」…と意気込んでいた。その気持ちに偽りはない、ないのだが……。

 

「むぅぅ…くっきぃは、もうないのか…むぅぅぅぅ……」

「くく、いまこそしんゆうコンビをりょうがする、やまいのみょうぎをみせてやろうぞ!」

「れんけい。とりゃー」

「ちいさいことりさんも、ちいさくてちいさくてかわいいです〜!」

「なんでごいがかいめつして…ひぎゃあぁぁっ!?く、くっつくなー!」

 

 唸りと共に腹の虫を鳴らす幼児。ソファで跳ねたかと思えばそのまま飛び掛かってくる幼児達。やたらめったら引っ付く幼児に、襲われ悲鳴を上げる幼児。…五河宅のリビングは、今や混沌としていた。混沌とした環境に、侑理も真那も翻弄されていた。

 

「ご、ごめんなさい十香さん…もとい、ごめんね十香ちゃん。士道にぃが今買い物に行ってるから、もうちょっと我慢してね?」

「おわっ!?い、今のは流石に危ねーんですけど!?私だから良かったものの、他の人なら直撃からのノックアウト必至でいやがりますからね!?」

「た、たすけ…あぁぁぁぁ……」

『こ、琴里(さん)ぃぃぃぃぃぃっっ!』

 

 もう見てられない程しょぼくれる幼児…変化させられた十香を侑理が宥め、仕掛けてくる八舞姉妹を真那が動揺しつつも何とかあしらう。その間に、助けを求めて侑理達に伸ばされた琴里の手は力なく落ち、密着状態の美九にこれでもかと抱き締められる。

 一体何故、こんな事になっているのか。理由は単純、令音に琴里達の子守り…もとい、幼児化によって色々と不便且つ何が起こるか分からない精霊達の見守りとサポートを頼まれたからである。現状を…惨状を知った時点で、それが如何に大変なものか容易に想像出来ていたが、力になると決めた手前、断る事は出来ず、また一時的でも士道が離れられる…大変な状況から解放される時間を作りたいという思いもあった為、侑理達は引き受けたのだが…下手な戦闘以上にキツいかもしれない。冗談ではなく、割と本気でそう思う侑理であった。……因みに親友コンビを凌駕すると言われた際、一瞬対抗したくなったが…流石に止めた。侑理もそれ位の分別はあるのだ。

 

「…よしのん。しどうさんは、まだかえってこない…のかな…」

「しどうくんはシャイボーイだからねー。いつもいじょうにあいくるしくなっちゃったよしのにドキドキして、なかなかもどってこられないのかもしれないよー?」

「…こんな、ていど……?」

 

 ただ、誰もが大騒ぎしている訳ではない。例えば四糸乃はソファに座り、よしのんと話していた。元々の性格もあってか、四糸乃は何事もなければ大人しかった。…まあ、先程までその四糸乃が美九に襲われそうになって大変だったのだが。その際の美九の力は凄まじく、真那と二人がかりで何とか止めたのだが。

 ついでに琴里も、決して自分から騒ぐタイプではない。むしろ皆に静かにするよう言ってくれる側だったのだが、幼児化してるせいか普段よりもムキになり易く、更に美九や八舞姉妹へ襲われる(?)と為す術がない事も手伝って、残念ながらその責任感やしっかり者の面は活かされず…というのが実際のところ。

 そしてもう一人。リビングの隅で自らの手を見つめ、こんな程度なのかと呟く幼児…折紙もまた、静かだった。酷く、静かであった。

 

「……あ、そうだ。確かまだ…っと、あった。一口チョコならまだ一個だけ残ってるんだけど、これでもいい?」

「……!く、くれるのか…?」

「うん、どうぞ」

「おおぉ…おんにきるぞ、ゆうりよ!」

「あはは、一個だけだから味わって食べてね」

 

 ぱぁっと表情を輝かせ、大事そうに受け取る十香にほっこりとした後、侑理は折紙に近付く。

 

「…折紙さん、大丈夫?」

「…なにが?」

「その…あんまり元気、ないように見えて…」

 

 振り返り、無表情で訊き返してくる折紙。その折紙に、侑理は感じたままの事を話す。…十香には敬語を止め、折紙に対してはそのままなのは…何となくである。

 

「…問題ない」

「そう、ですか?…士道にぃがいた時は、もっと元気というか、積極的に士道にぃに接近してた気がするんですけど…」

「…しどう、にぃ……」

「…折紙さん?」

 

 反芻するように呟いた折紙は、それからじーっ、と侑理を見上げる。なんだろうか、とまた侑理は呼びかけるものの、折紙は何も言わず…ただただ見つめられて居心地の悪くなった侑理は、頬を掻きつつ更に言う。

 

「さ、さっき『こんな程度』って言ってましたよね?…力の事です…?」

「…そう。わんりょくも、きゃくりょくも、あくりょくも、はんしゃしんけいも…おおよそしんたいのうりょくとよべるもののほとんどが、いちじるしくていかしている。これでは、たたかうどころか、まんぞくにぶきをもつこともままならない」

「た、戦うって…今は、それどころじゃ……」

「たたかいは、まってくれない。そもそもこれがせいれいによるものないじょう、いつたたかいになってもおかしくない。……これではなにも、まもれない」

「……っ…」

 

 そう言って、折紙は見つめていた手を握る。拳を握り締め…微かに表情を歪ませる。

 戦えない。守れない。…それは、他人事ではなかった。侑理が抱いているのと、同じ気持ちだった。勿論侑理は幼児化などしていないが、対精霊を考えれば、元々の身体能力など微々たる差。魔術師(ウィザード)として戦えないなら、何の力もないのと変わりはない。

 侑理は初め、元気付ける…とまでは言わずとも、多少気を楽にしてあげたら、と思って話し掛けた。だが折紙の思い、無力な自分へのやり切れない気持ちに触れた事で、何も言えなくなる。自分に一体何が言えるのか、むしろ自分も同じではないか。そんな思いが、暗雲の様に侑理の心の中に漂い……

 

「…ぶじで、よかった」

「え……?」

 

 不意に、折紙は言った。再び侑理を見つめ…されどこれまでとは何か違う感情の籠もった瞳で見上げながら、ぽつりと呟いた。

 

「ミケやたいちょうも、きにしていた。ゆうりはどうなったのか、ぶじなのか…と」

「…そ、っか…皆、うちを……」

 

 きゅっ、と心が締め付けられる。気にしてくれていたASTの面々への感謝と、そんな皆に心配を掛けてしまったという申し訳なさが、同時に侑理の心へ流れ込む。

 そう。なんとも想定外の形にはなってしまったが、侑理は折紙と再会する事が出来た。最後は敵対してしまった折紙と再び顔を合わせ、今はこうして話も出来ている。同じ戦場にいた、共に戦った…けれどきっともう会う事も話す事も出来ないジェシカの事を思うと、侑理はそれだけでも嬉しかった。そして、だからこそ侑理も言葉を返す。

 

「…うちも、折紙さんが無事で良かったです。それから…ごめんなさい。折紙さんの、力になれなくて」

「それは、いい。あなたはあなたのやるべきことをした、わたしもゆずれないものがあった。ただ、それだけのこと」

「…あまり、無茶な事はしないで下さいね。〈ホワイト・リコリス〉を使う事も、あんな装備でエレンさんの前に立つ事も…そんな事をしていたら、命が幾つあっても足りませんよ。折紙さんに万が一の事があったら、うちも、ミケ達も…きっと士道にぃだって、悲しいんですから」

「…ぜんしょはする。けど…やくそくは、できない」

 

 約束は出来ないと、折紙は言い切った。言い切る折紙の瞳は…これまでで一番、強かった。

 それはきっと、それ程までに折紙が力に…強さに執着しているという事。勿論それが、自尊心や私利私欲の為なものではないと、侑理も分かっている。幾つ理由があるのかは分からないが…少なくともその内の一つが、『大切な人』の為だと知っている。守る為の強さを求めるのもまた、侑理と同じで…だからこそ侑理は止められないし、歯痒かった。

 

(…もし、うちが逆の立場だったら…うちは、約束出来たのかな…)

 

 侑理には、真那がいる。強く、頼れる親友が、相棒がいる。その真那と共に戦えない、戦闘となれば無力である事が不甲斐ないないのもまた事実だが…だとしても、頼れる相手が側にいるのといないのとでは、まるで違う。そして、侑理にとっての真那が、折紙にいるのかどうかは…分からなかった。

 そうしてまた、お互い沈黙する。折紙はこの沈黙を苦としていない…少なくとも侑理にはそう見える訳だが、侑理からするとそうでもなく…だが幸か不幸か、直後に侑理を衝撃が襲う。侑理は柔らかい衝撃に、襲われる。

 

「ゆうりさーん!あそんでくださ〜い♪」

「ひゃんっ!?」

 

 何が起きたのかは、一瞬で分かった。もう声の時点で、一目瞭然(見てはいないが)だった。

 しかし、分かってるからといって落ち着いて対応出来る訳ではない。具体的には、いきなり背後から脚に抱き付かれれば…それもアシンメトリートレンカの短い方へ抱き付かれて頬擦りをされれば、落ち着いたなどいられない。

 

「んふ〜♪ゆうりさんのふととも、すべすべです〜♪」

「ちょっ、み、美九さん!?ひゃっ、と、吐息が……っ!」

 

 ふにふにむにむにな頬の感覚があったかと思えば、吐息と鼻息が脚を撫でる。長い髪が、膝の裏を微かに擽る。そして何より…力が凄い。体勢的な理由もあるが、それにしても抱き付く力が凄まじい。

 

「ふきゅぅ……」

「だ、だいじょうぶ…です、か…?」

「あぁっ、琴里が力尽きてる…!くっ…真那、ちょっと手を貸してくれない…?」

「はいはいちょっとお待ちを。二人共、どうしても遊びてーなら少し待って……へぶっ!?」

 

 倒れ伏す琴里を心配して駆け寄ってきた四糸乃に任せ、侑理は真那に助力を求める…が、八舞姉妹を両脇に抱えていた真那は、次の瞬間すっ転ぶ。全く同じタイミングで耶倶矢と夕弦が前転するように身体を振り、バランスを崩させる事で真那を顔面から転倒させる。

 

「だっしゅつ。やまいをそうかんたんにつかまえられるとおもったらおおまちがいです」

「うらむなら、たったひとりでわれらにいどんだみずからをうらむのだな!」

「……ほほぅ…確かにお二人を舐めていたようでいやがりますね…幼児化してるとはいえ、精霊は精霊…ちょっとばかり、本気で相手をしてやろうじゃねーですか…」

「真那!?こ、子供…ではないけど…相手に本気になってどうするの!?」

「大丈夫でいやがりますよ、侑理。恐らく雑に相手をしようって魂胆だったから、私は痛い目を見たし、二人も満足してねーんです。やっぱり、ぶつかってくる気持ちにはちゃんとぶつかってやらねーと駄目でいやがるんですよ」

「あ、あぁ…そういう事なら…って、じゃあうちはどうなるの!?助力は!?」

 

 やる気になった事が嬉しいのか、きゃっきゃと逃げていく八舞姉妹を真那は追いかけていく。結果侑理は取り残され…スカートに手を掛けられている事に気付いて戦慄。幾ら同性とはいえ、スカート捲りなんてされては堪らない。というか美九の場合、同性だからセーフ…でもないような気がしてならない。

 そして、リビングを飛び出し五河宅全域をフィールドにした追い掛けっこに真那と八舞姉妹が飛び出す中、侑理もスカートを捲ろうとする…あまつさえその中に入ってこようとする美九から、スカートの内側を守る為の攻防戦を強いられ……

 

「ただいま…ふぅ、外は外で大変だっ──」

「し、士道にぃぃぃぃ…!」

「に、兄様ぁぁぁぁ……!」

「いや何事!?」

 

 その後も大騒ぎの続く、元気一杯過ぎる幼児化精霊達に振り回されまくった侑理と真那は、買い物から戻ってきた(その間も服装が変質者のそれになったり、すれ違う通行人が精霊達と同様幼女化+しかも全裸になったりしたとの事)士道に泣きつき……二人してよしよししてもらう事になるのだった。…侑理的にはよしよししてもらえて嬉しかったり、真那も満更でもなさそうな顔をしていたりしたのだが…それは秘密である。

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