DEMの
「とうかさん!」
「うむ!」
二つの刃が、空を斬る。一つは真那の振るう、レイザーエッジ〈ヴォルフテイル〉。もう一つは十香の振るう天使、〈
「どちらもよいたちすじです…が、せっかくのかずのゆういをいかさず、そろってしょうめんからきりかかるとは、なめられたものですね」
「なめてねーから、こうしたんでいやがります。それとも、はさみうちにすればこうげきがとおっていたとでも?」
「まさか」
二対一の状況でありながら、エレンはレイザーブレイドで押し返してくる。耐えるか、それとも離れるか。真那は一瞬でその判断を下し、隣の十香と視線を交わらせて、後退を選ぶ。力を抜く事でエレンに弾かせ、離れた直後にスラスターを吹かして再度突撃。拳を放つような軌道で、エレンに向けて刺突を仕掛ける。
挟撃しても、エレンは
(やっぱりどうにも、うごきづれーですね…)
十香と入れ替わり立ち替わり真那は攻める。エレンは冷静に、次々仕掛けられる攻撃をいなして反撃に繋げてくる。数度の打ち合いを経て弾かれた十香の脇をすり抜けるように踏み込み、斬り付ける…と見せかけて左の〈ヴォルフファング〉での殴打を叩き込む真那だが、その心にあまり余裕はない。
今の真那は、十香達同様幼児化している。これまで真那は、幼児化を見た目の変化、それに伴う身体能力や滑舌の退行、後は小さくなった事が気持ちにも多少影響を与える…といった程度にしか考えていなかったが、実際はそんなものではない。感覚器官や反射神経、その他代謝やら骨密度やら、身体を構成する殆どの要素が退行…即ち弱体化しているのだ。幸い
そしてそんな状態で…身体が小さくなっている、身体能力が落ちていると分かっていても尚、どうしても無意識に『いつものつもり』で身体が動こうとする、脳が動かそうとしてしまう厄介さを抱えながら相手にしなければいけないのは、よりにもよって世界最強の
「まな、あなたのことはてっていてきにつぶしたいところですが…このこうき、のがすてはありません。どいていてもらいますよ」
共に駆け付けた四糸乃の吹雪を、八舞姉妹の烈風をものともせず踏み込んできたエレンの斬撃を、レイザーエッジを掲げて受ける。即座に十香が側面から斬り掛かるも、刃は
そう。精霊が集まっている状況は、エレン…DEMにとっては好機。数の差をものともしない、音の天使を操る美九の力で強化されている真那達が相手でもまだ余力を見せるエレンが相手では、七罪を助けるどころか纏めて捕らわれる可能性すら否めない。…だがそれは、承知の上。初めから真那達の目的は時間稼ぎであり…エレンに斬られて重傷を追った様子の七罪へと駆け寄っていた士道が、声を上げる。言葉で、会話でエレンの気を引き…士道の言葉を合図に、美九がチャンスを伺っていた一手を打つ。
「ち……」
突如としてエレンに群がる、複数の
とはいえそれは、裏切りではない。それもまた、美九の天使の力による強制操作。七罪の幼児化といい、美九の強制操作といい、精霊の操る天使の力の一部は、
兎にも角にも、これで大きな隙が出来た。一時的に第二執行部の面々を無力化出来た上、流石のエレンも躊躇いなく味方を斬る程非情ではない。元同僚だからこそ分かる真那は、士道が七罪を連れて〈フラクシナス〉に回収されていく中、精霊達に早く退くよう伝え…エレンを見据えて、構え直す。
「まな、なにを…!?」
「ねんのため、わたしがしんがりをつとめます」
「……!であれば、わたしも……」
「いいえ。のこるにんずうがおおければ、かいしゅうにもてまどっちまってむしろきけんです。そしてのこるなら、エレンのたたかいかたをよくしるわたしのほうがてきにん…そうでいやがりましょう?」
逡巡の後、しっかりと頷き離脱していく十香を見送る。冷静に状況を理解する胆力と、思い切りの良さは味方として心強い…そんな風に思いながら、真那は気合いを入れ直すように小さく一つ深呼吸。そして真那の予想通りエレンに群がっていた
「てきかくなはんだんですね。われわれのもくてきがせいれいであるいじょう、せいれいがしんがりをつとめるというのは、そのものをさしだすのとどうぎですから」
「それはどうも、そっちはあいかわらずふざけたじつりょくでいやがりますね」
「…ですが、おろかなはんだんでもあります。せいれいであれば、ころすわけにはいきませんが…あなたのきるのに、ためらうりゆうなどないのですよ?」
「おや、わたしひとりならなんなくきれるとでも?まあ、そうやってゆだんしてくれるってなら、こちらとしちゃありがてーですが」
飄々と言葉を返してみせる真那だが、じわりと嫌な汗が滲む。このまま尻尾を巻いて逃げた場合、逃げられるかどうかは五分五分といったところ。そして逃げられなかった場合、このまま交戦を続けた場合…勝ち目はほぼない。
更に運の悪い事に、エレンの身体が輝き始める。淡い光に包まれ…その姿が、元に戻る。即ち…その能力も、復活してしまう。
「……っ…」
「…元に戻ったようですね。貴女にとっては最悪の展開…いえ、万全の状態よりは負ける言い訳が付くのですから、むしろ都合が良いと言ったところでしょうか」
「…いいわけなんざ、はじめからするきねーですよ」
「そうですか。では、元同僚へのせめてもの情けとして、苦しむ間もなく終わらせて差し上げましょう」
「ちッ……」
そう言って構え直すエレン。こうなるともう、本当に逃げられない。士道も精霊達ももう〈フラクシナス〉に回収してもらえた事は、通信で把握していた…が、真那の中にここから自分も逃げ仰る算段など一つもない。
とはいえ勿論、真那も諦めるつもりなどない。殿を引き受けたと言っても、自分を犠牲にするつもりなど毛頭ない。だからこそ、無様でも惨めでも、何とか乗り切る手段を模索しようと真那は思考をフル回転させ……そんな中で、不意にエレンは構えを解く。
「──と、言いたいところですが…真那、貴女は運が良い。今は貴女を始末するよりも、優先したい事があるのですから」
「ゆうせん…?いったいなにを……」
「侑理、貴女もいるのでしょう?」
「……!」
分かっているとばかりに、エレンは言う。侑理の名前を呼ぶ。そして……数拍の後、侑理は姿を現す。ここまでは隠れていた、戦えない以上隠れる他ない…だからこそ今も現れるべきではない筈の侑理が、ゆっくりと…真那の、エレンの眼下に、姿を現した。
*
勢いで真那や士道達と共に飛び出したものの、侑理に出来る事はない。今の侑理には、士道以上に何も出来ない。そして何も出来ないだけならゼロだが、足手纏いになってしまえば、ゼロどころかマイナス。それだけはあってはならないと、侑理は身を隠していた。機を見て〈フラクシナス〉に回収してもらうか、いっそ戦いが終わるまで隠れ続けていようかと考えていた。
そんな中で耳に響いた、鼓膜を震わせた、エレンの声。見えていない筈の、気付いてもいない筈の…それなのに侑理の事を呼ぶ、エレンの言葉。…それを侑理は、無視する事など出来なかった。自分自身、気付けばその声に答えていた。…何も出来ないと、分かっていながら。
「……ッ、侑理!」
侑理が姿を現した直後、エレンと正対していた真那は反転し、突っ込むような勢いで飛んでくる。その最中、真那の身体は淡く光り…CR-ユニットには不釣り合いな幼児姿から、元の体躯にその身が戻る。
「今出てくるなんて、何を考えて…って、あ…」
「…もとにもどった…エレンさんももどってるし、つよければそのぶんもどるのもはやくなる…?」
着地し問い詰めようとしたところで真那自身も気付いたのか、自分の手を、身体を見て目を丸くする。その時一瞬ながら、真那の纏う雰囲気に乱れが生まれ…されどエレンが、その隙を狙う事はなかった。それどころか…エレンは、目を見開いていた。侑理を見て目を見開き、表情を強張らせていた。
「…エレン、さん…?」
「……っ…。…約一ヶ月振りですね、侑理」
思わず呼び掛けた侑理の声に反応し、肩を震わせたエレンは、それから元の佇まいへと戻って声を返してくる。DEM日本支社第一社屋での戦闘以来のエレンの姿に、侑理の中では様々な思いが湧き上がり…そんな中で、第二執行部の面々も本来の姿に戻っていく。自身の姿を確認し、安堵の表情を浮かべ、それから侑理の方を見やり……
「良かった…生きていたのね、ユーリ!」
(あ……)
言った。DEM第二執行部の
その瞬間、じわりと侑理の心の中が熱くなる。侑理は彼女達を仲間だと思っていたし、今でも大切に思っている。それが自分だけではないのだと、彼女達もそうだったのだという事実が…募る思いを抱かせる。
「貴女、一体今までどこにいたのよ!」
「こっちはあれから…って、待った。…マナと一緒にいるのは、どういう事…?」
「それ、は……」
掛けられるのは優しい言葉ではなく、語尾のキツい声も聞こえてくる。だがそれは、今に始まった事ではなく…その内に、気付く。侑理が今、真那と…DEMを離反し、敵対している彼女と共にいる事に。共にいるという、その事実に。
困惑の声に対し、侑理は言葉を詰まらせる。理由は二つ。一つはどう答えればいいか分からなかったから。そしてもう一つは…そのタイミングで、侑理の身体も元の背格好へと戻ったから。
「各員、無駄話は控えるように。まだ交戦中ですよ」
二重の理由で侑理が沈黙する中、エレンが第二執行部の面々を制する。無駄話、その一言で侑理と彼女達とのやり取りを一蹴し…それに対し、真那がぴくりと肩を揺らす。
「無駄話?戦闘中に行方知れずになった仲間と再会出来たってのに、心配したって言葉の一つも掛けねーで無駄話とは、また随分と冷てー女になったようじゃねーですか。思い通りに動かない仲間は無価値とでも?」
「心配?無価値?…愚問ですね。侑理は私が手ずから訓練を付けた
刺々しい視線と言葉をぶつける真那に対し、エレンはまるで動じる事なく返す。堂々と、本心である事を示すが如き淀みのなさで以って言い切る。それはともすれば、かなり一方的な主張で……
「…えへ、えへへぇ……」
「エレンの言葉に喜んでんじゃねーですよ侑理…!」
だが、それがまぁ嬉しい侑理だった。何のかんの言っても、侑理にとってエレンは自分を鍛えてくれた、憧れの女性なのだ。そのエレンから強さを認めているような事を言われたら、嬉しくなるのは仕方ないのである。
「そんな事よりも、貴女は侑理に感謝するべきですね。もし侑理がいなければ、今頃貴女の首と胴は離れていたでしょうから」
「…さっき言った優先したい事ってのは、やっぱり侑理でいやがりましたか…で、侑理がなんだってんです?事と次第によっては……」
離反したとはいえ元同僚に掛けるものとは思えない言葉を発するエレンへ臆する事なく、真那は問いで言い返す。つい浮かれてしまった侑理も我に返り、押し寄せる緊張を隠しながら中へ立つエレンを見上げる。
真那よりも…自分に次ぐ実力を持つ
聞きたくない、知りたくない、言われたくない。そんな思いばかりが渦巻く侑理だが、当然エレンは配慮などしてくれない。そもそも侑理の心境など知る筈がない。故に侑理が恐れる中、怯える中、表情一つ変える事なくエレンは口を開き……
「さあ、戻りますよ侑理」
「……──え?」
言う。ゆっくりと降り立ち、近付き…告げる。侑理への…仲間へ向ける為の、言葉を。
「…ぁ…な……」
「…何を、言ってやがるんですか…ッ!」
困惑と動揺で、言葉が出なくなる侑理。エレンの言葉はあまりにも、あまりにも予想外で、想定外で…侑理より先に、真那が言葉を返す。言って、侑理の前に出る。
「何を、とは?」
「侑理が戻るつもりな前提でいるんじゃねーって話です…!何用かと思えば、ふざけた事を…ッ!」
「ふざけているのは貴女でしょう。侑理が戻るべきは我々の下、即ちDEMです。そうでしょう?」
「…うち、は……」
再び戦意剥き出しとなった真那とは対照的に、エレンは表情も態度も崩さない。そして…侑理は、答えられなかった。自分の中で答えは決まっている。固い気持ちもある。…だというのに、それが言葉にならなかった。
「勝手に決めるんじゃねーです!侑理もはっきり言って…、……侑理…?」
刃を構えたまま、微かに首を動かし背後の侑理を見た真那の瞳が、驚きの色を浮かべる。今自分はどんな顔をしているのか。真那の目に、どう映っているのか。それすら考える余裕はなく…そこでエレンは、あぁ、と小さく声を漏らす。
「侑理、貴女は真那と仲が良いのでしたね。私は真那に未練などありませんが…アイクは実力史上主義です。侑理が戻るというのであれば、彼女の事も再度受け入れて差し上げますよ」
「……っ…!」
自分だけが、と気にする必要はない。そんな風に、エレンは言う。そしてそれは…その提案は、侑理の心に絡み付く。エレンが口にしたのは、一方的な、相手の話をまるで訊いていない提案。だというのに、侑理はそれを一蹴する事が出来なかった。さあどうする、と何も言えない侑理へエレンは視線を送り……だが次の瞬間、怒号が響く。
「いい加減に…しやがれってんですッ!!」
爆ぜるような、真那の怒号。怒りに満ち満ちたその声に、侑理は面喰らい…強く地面を踏み込みながら、真那は唸るようにして更に言う。
「再度受け入れて差し上げる?はッ、こちとら自分からDEMに見切りを付けてんです、今更再入社なんてこっちから願い下げだってんですよ!」
「あ…そ、それはそう──」
「侑理もなんなんでいやがりますか、その煮え切らねー態度は!戻るか戻らないか、その二択のどこに迷う要素があるんでいやがりますかねぇ!?」
「うぇぇッ!?う、うちにまで怒ってるの!?」
まさかの自分にも向けられていた怒りに、侑理は仰天。エレンから目を離す訳にはいかないという事なのか、真那は前を見たままだが…そんな真那の怒りの表情は、容易に想像する事が出来た。
「…侑理。もしも…もしも本当に、侑理が戻りてーってなら、真那は止められねーです。けど…侑理が望んでいたのは、そういう事でいやがるんですか?侑理は、ただ戻れればそれでいいのでいやがりますか?」
「…あ……」
それから真那はトーンダウンし、語り掛けるように言う。侑理を引き止める事はせず、惑わされるななどとは言わず…それが本当に望んだ事なのかと、静かな声で問いてくる。
迷っていた訳ではない。けれど心が揺らいでいた、揺らいでしまっていた侑理。だがその言葉は…真那の言葉は、侑理の心を支えてくれる。覚束なくなりそうだった心を、しっかりと立ち止まらせてくれる。
(…あぁ、そうだ…うちは……)
たったそれだけで落ち着きを取り戻した…取り戻せた、侑理の心。それが伝わったのか、真那の纏う雰囲気はほんの少し柔らかくなり…侑理は斜め前に出る。真那の後ろから、隣へと立つ。
「…エレンさん。うちは、エレンさんに訊きたい事があります」
「なんですか、侑理」
「うちは、聞きました。真那の事も…うちの、事も。エレンさんは…それを、知っていたんですか?」
「…えぇ」
自身と真那に施された過度の魔力処置について、真那はエレンも知っていると言っていた。その言葉は微塵も疑っていない。だが侑理は、直接エレンの口から聞く為に問い…エレンは、答える。知っていたのかという問いに…肯定で返す。
「…どうして、ですか。どうしてうち達に、そんな事を……」
「…………」
「DEMの戦力の為ですか…?それとも…もしかして、うち達が覚えていないだけで、記憶にも障害が残る程の重傷や重病を昔負って、そのうち達を助ける為の方法として魔力処置を施したとかですか?もし、そうなら……」
私利私欲の為か。…そうは、訊かなかった。思わなかった。問うのが他の誰かならば、違ったかもしれないが…侑理は、エレンに対しては、そんな思いがやはり浮かばなかった。もしここでエレンが、助ける為かという問いに肯定を示していたら…きっと侑理は、信じていた。
だが、エレンは答えなかった。肯定も否定もせず……何も、言わなかった。
「エレン、侑理は……ッ!」
「待って、真那。…ありがとう、うちの為に怒ってくれて。だけど…大丈夫」
無言を貫くエレンへ真那は食ってかかろうとする…が、それを侑理は手で制する。自分の為ではなく、侑理の為に怒ってくれる事へ感謝を伝え…エレンを、見つめる。
「…うちは、ちゃんと知りたいです。確かめたいです。うちの事も、真那の事も、DEMの事も…エレンさん達の事も。DEMはうちにとって大切で、エレンさん達の事も大事だからこそ…知らないままになんて、適当になんて、出来ないんです。だから…ごめんなさい、エレンさん。うちはまだ……DEMには、戻れません」
そう言って、頭を下げる。その必要はないと、真那は思っているかもしれない。それでもやはり…侑理にとって、エレンは憧れの存在なのだ。第二執行部の面々にも、思い入れがあるのだ。
頭を下げ、数秒。沈黙の中、聞こえてくるのはスラスターの駆動音だけ。そして初めに声を上げたのは、エレンではなかった。
「何、言ってるのよユーリ…戻れないって、じゃあどうする気なの…?あんたまで、ラタトスクだかに付くって言うの?」
「馬鹿な事言ってないで、いいから戻りなさい。ウェストコット様に背くだなんて……」
「──いいでしょう。精霊に逃げられた以上、長居は無用。こちらも撤退しますよ」
まるで話が分からないとばかりに言い返してくる第二執行部の面々だったが、その言葉へ被せるようにして、エレンが声を発する。魔力の刃を消し、レイザーブレイドをユニットへ納める。
「ぶ、部長?宜しいのですか…?」
「私にはまだ、やらねばならない事があります。勿論、真那を始末出来ればそれに越した事はありませんから、出来るというなら貴女達にこの場を任せますよ?」
『それは……』
口籠もる面々の姿に、真那は鼻を鳴らす。撤退するとエレンが言っても尚、真那は警戒を緩める事なく…再びエレンの視線が、地上の侑理達へと向く。
「真那。侑理を拐かしたのですから、せいぜいちゃんと守る事です。DEMの
「はんッ、そんなの言われるまでもねーです。…まだ信じようとしてくれる侑理の言葉にも答えない、答えられないような器の小ささで、いつまでも偉そうにしてんじゃねーですよ」
睨む真那と、睨め付けるエレン。何かあればすぐにまた戦闘は再開される…そう思わせるだけの雰囲気を放ちながらも、エレンはふっと目を背ける。完全に、戦意が消える。
「…エレン、さん……」
無意識の内に呼び掛けたその声に、一瞬エレンは動きを止めた。ほんの一瞬、エレンも侑理の事を見つめ…背を向ける。魔力噴射で急加速を掛け、一気にエレンは離脱していく。出遅れる形となった第二執行部の面々も、納得し切れない様子で侑理達の事を見やり…それからエレンの後を追う。
「…ふー…何とか、なりやがりましたね……」
「…うん」
「まだやる事がある、ってのは気になるところでいやがりますが…一先ずは身体も戻って、大きく前進ってところでしょう」
「…そうだね」
「…侑理……」
大きく深く息を吐き、真那は安堵の表情を浮かべる。侑理もそれに頷いて返す…が、口から出たのは空返事。これでは良くないと分かっていたが、案の定真那にも気遣うような目をさせてしまったが…明るく振る舞う事は出来なかった。
ちゃんと、自分で確かめる。それは自分で決めた事で、今この時にも後悔はない。もし今エレンに着いて行けば、きっとその方が後悔していたとも思っている。…それでも侑理の心には、やり切れない思いが残っていた。エレンの呼び掛けにも、第二執行部の面々の言葉にも応えられなかった事が、悲しかった。そして…最後に一度、侑理を見たエレン。何も答えなかったエレン。そのエレンの瞳には、とても一言では言い表せないような…半端な言葉では語り尽くせないような感情が籠もっているように、侑理には見えた。