デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第三十八話 封印方法

 エレン達DEMの第二執行部に強襲され大怪我を負った七罪を何とか保護し、紆余曲折あれど何とかその場を乗り切ってから、一日が経過した。昨日の戦闘後、無事に士道達と合流した侑理と真那は、幼児化していた琴里達と共に検査を受け、幼児化による影響が残っている様子はない、という診断を受けた。

 それから一日経った夕の事。侑理達は七罪に対する…霊力の封印に必要となる、ある作戦を士道から訊く事となった。しかし霊力封印の事をまだよく知らない侑理と真那にとっては、何もかもちんぷんかんぷんであり…一度夕食を共に取りつつ、順を追って説明しようという事になった。

 

「精霊の霊力封印には、精霊が心を開いてくれる事…即ち好感度が必要で……」

「更に好感度が高まったところで、兄様がキスをする必要があって……」

「その為に、士道にぃは何度も精霊とデートしてはデレさせてきて……」

「これまでに、最低でも五度は精霊とキスをしやがっている、と……」

 

 

 

 

『え、馬鹿に(してるの・しやがってます)?』

 

 箸を置き、真那と同時に言葉を返す。流石におふざけが過ぎる、と疑い100%の視線を侑理は目の前の士道へと送る。勿論、士道が真面目な話の時にふざけるタイプではない事はもう分かっていたが、だとしても信じ難く…そんな侑理達の視線を受けて、士道は「はは…」頬を掻く。

 

「まあ、そうだよな…普通そう思うよな……」

「そうね、そう思うのも無理はないわ。だけど事実よ。そもそも冗談だとしたら、馬鹿馬鹿しいにも程があるでしょ?」

『…それは、確かに……』

 

 斜め前に座る侑理達を見ながら、一口お茶を飲んだ琴里が本当だと言う。…因みに士道のいる側にはもう一人座れるのだが、真那と琴里でその席を争って一騒動起きそうな気配があった為、侑理は士道と協力する事で何とかそこを空席にするという落としどころへ持っていったのである。

 

「…なぁ琴里。俺も前に、ラタトスクのやろうとしてる事を訊いた時似たような反応をした気がするんだが、その時と今とで、琴里からの接し方に違いがあり過ぎないか…?」

「そりゃそうよ。相手も状況も違うんだから、接し方が違うのは当然じゃない」

「いや、そういうレベルじゃないと思うんだが…」

 

 ジト目で見てくる士道の視線を、琴里は軽く跳ね返す。その全く意に介さない様子に、諦めた様子で士道ははぁ…と溜め息を吐く。

 

「…士道にぃ、具体的にはどんな接し方をされたの?」

「どうって…。……すまん侑理、あんまり思い出したくない…」

「そ、そっか…こっちこそ、ごめん……」

 

 見るからに悲しそうな顔をする士道の姿に、侑理は困惑しつつも取り敢えず頷く。そんな士道を見た真那は、一体何を…という視線を琴里に送るも、やはり琴里は涼しい顔。

 

「…けど、最近はそんなに刺々しくないよな。…もしかして、あれか?最初の頃は思い付いたものをぽんぽん言えてたけど、今はもうネタ切れしてて言おうとしても出てこないとかか?」

「…本当にそう思ってる訳?」

「いやでもほら、今思うと琴里の部屋に妙なグッズとかあったし、実は毒舌に関しては素の正確じゃなくて付け焼き刃って事も……」

「なっ……!?」

 

 何故それを…!?…と、愕然とした表情を見せる琴里。それを察したのか、ちょっとな…と思い出すような表情をする士道。そして士道は流れを引き込めると思ったのか、得意そうな顔をし…一方の琴里も、むっとしたような顔を見せる。

 

「琴里、付け焼き刃のキャラなんて、止められるなら止めた方がいいぞ。お兄ちゃんからの忠告だ」

「…そうね、その通りかもしれないわね。数年前、突然『不味いな、俺の中に封印されし天上の業火が……』とか言い出した士道が言うと説得力が違──」

「いやすまんごめん申し訳なかった琴里ぃぃぃぃいいいいッ!!」

 

 得意そうな顔をしていたのも束の間、士道は絶叫するような声で謝罪。一方琴里はふんと鼻を鳴らし、そのまま腕を組んでみせる。兄の余裕がいとも簡単に陥落する瞬間…そんな訳の分からない一幕に遭遇する事となった侑理であった。得した気は……全くしない。

 

「に、兄様…?色々と、大丈夫でいやがりますか…?」

「だ、大丈夫だ…大丈夫じゃないけど、大丈夫だ…。…てか、封印されし天上の業火って…全然洒落になってねぇよ、なんでそんなピンポイントなの思い付いたんだよあの時の俺…。…いやそもそも、洒落で言ってた訳でもないけど……」

「それはこっちの台詞よ。聞いた瞬間ゾッとしたんだからね…?」

 

 何とも言えない顔で半眼を向ける琴里に対し、士道は両手を合わせて今一度謝る。そのやり取りの意味がいまいち分からない侑理であったが、察した様子の真那が隣から「琴里さんの精霊としての識別名は、〈イフリート〉でいやがるんです」と教えてくれた事で、合点がいって手を叩く。

 〈イフリート〉──それは、炎を操る精霊の名。そして士道は、精霊の力を封印する能力の持ち主。更にその封印能力は最低でも五年前の時点であった事、されどそれを今年の四月まで…その存在を聞かされるまで、知らなかったし覚えていなかったという事を、今し方侑理達は士道から聞いた。詰まるところ、士道は炎の精霊の霊力を封印した事を忘れている状態であるにも関わらず、はっきり覚えているかのような発言を、『偶然』してしまったという訳で…確かにそれは、驚くのも当然である。…というか、士道は何故そんな発言をしたのだろうか。数年前に何があったのだろうか。そこが気になる侑理だったが、何か触れない方が良い気がして、一先ず記憶の片隅へと仕舞い込む事にした。

 

「全く…もっとしっかりしてよね?貴方の言動一つで、精霊達の平穏が崩れる事だってあるんだから」

「…ああ。ありがとな、琴里。さっきはちょっとふざけちまったが…本当は俺に発破を掛けたり、恐怖や迷いを紛らわせてくれようとしてたんだろ?」

「…別に、そういう訳じゃ……」

「そうか?まあ、俺はそう思ってるし、もっとしっかりしなきゃ…ってのも事実だからな。だから、これからも宜しく頼むよ、琴里」

「…そんな事言われたって、甘くはしないんだからね…?」

 

 にっ、と笑い、琴里の頭へと手を置く士道。ぽふぽふと軽く手を当てる士道に対し、ほんのり顔を赤くした琴里は顔を背け…けれど微かに、ほんの僅かにではあるものの、宜しくという言葉に頷きを返す。それは何とも微笑ましい、兄弟愛を感じるやり取りで……

 

「…ねぇ真那、うち等は何を見せられてるのかな」

「本当に、一体何を見せられていやがるんでしょうね」

『あっ……』

 

 わざとらしく、しっかり五河兄妹へ聞こえるように侑理は言った。全くだ、とばかりに真那も追従した。そして五河兄妹は、揃ってはっとした表情になり…みるみる内に琴里の顔はかぁっと赤くなっていった。

 

「ち、違っ、違うのよこれは!違くてっ、そのっ…あれよ!あれ!」

「琴里、びっくりする位何も伝わってこないよ……」

「まあまあ、別に私は悪く言おうってんじゃねーですよ。琴里さんは良い妹だと思っていやがりますし、兄様の妹思いな姿を見られるのは、私としても快い事でいやがりますからね」

「う、うぅ…そういう事じゃないのよ、良い悪いとかそういう事じゃなくて……」

「あぁ、恥ずかしいと?であればそれこそ問題ねーです。私と琴里さんは同じ兄を持つ妹…即ち妹同士ならぬ同志でいやがりますし、侑理はそもそもが色々と恥ずかしい訳でいやがりますから」

「ちょっと真那それはどういう意味!?どういう意味かなぁ!?」

 

 あまりに予想外の角度から撃ち込まれた流れ弾に憤慨する侑理だったが、真那はまるで取り合ってくれない。同じ妹だから問題ないというのも中々に意味不明だったが、そこを気にする様子も皆無。しかしその様子が逆に琴里を拍子抜けさせたのか、テンパっていた彼女も段々元の表情に戻り、一連のやり取りを見ていた士道は肩を竦めて苦笑していた。

 

 

……のが、数秒前までの事。つい数秒前まで穏やかだった真那が、不意にぴたりと動きを止め、そのまま微動だにしなくなる。呼び掛けても反応がなく、まるでフリーズでもしたかのように硬直する。

 

「ま、真那?真那ー?真那さーん…?」

 

 一体何事かと更に呼び掛けるが、やはり反応なし。もしや何か体調が悪いのか、と侑理は心配になり、士道と琴里も同様に見つめ…そんな中で、突如真那はかっと目を見開く。そして……言う。

 

「…って、よく考えたら琴里さん、妹でありながら兄様とキスしてるじゃねーですかぁああああああぁぁッ!!」

『ええぇぇぇぇッ!?今更ぁ!?』

 

 まるで噴火でもしたかのように勢い良く立ち上がり、ばんッと食卓を叩く真那に、侑理達は三人揃ってぎょっとする。行動にも、その内容にも唖然とする。

 

「今更も何もねーですッ!琴里さん、貴女は…貴女という妹は、あろう事か兄様と、妹でありながら接吻など…信じられねーです!何を考えていやがるんですか!?」

「そ、それは……いいでしょ別に!そうよ、私は妹よ?けど妹だからって、兄とキスしちゃいけない決まりなんてないでしょう!?」

「私はルールではなく心の話をしていやがるんです!何を一線超えておきながら開き直っていやがるんですか!それが貴女の思う、良い妹の在り方だとでも!?」

「ちょっ…ちょっと待て待て!二人共一回落ち着け、な?」

「兄様は黙っていやがって下さい!」

「兄妹間の話なのに!?」

 

 やたら妹二人がヒートアップする中、なんで!?…と士道が突っ込みで返せば、流石に今のは士道の返しがご尤もだと思ったのか、一瞬真那の勢いが削がれる。そしてそのタイミングを見逃さず、士道は説得に掛かるが……

 

「真那、お前の言う事は尤もだ。そう思うのも当然の事だ。けど琴里も精霊である…ってか精霊になっちまってる以上、キスをするのも仕方のない事で……」

「…仕方のない事?…へぇ…士道は仕方なく、私が精霊だからキスしたんだ」

「あ、や…それは、その……」

「…士道にぃ、取り敢えず今のは士道にぃが悪いね」

 

 凍て付くような、冷えきった琴里の視線と声音。今のはうっかり言ってしまった、言葉の綾に過ぎない事…というのは察していたが、同じ女の子として今のは見過ごせないと侑理も士道を刺しにかかる。分かっている、士道が良い人なのは百も承知。それでも「キス」を「仕方なく」なんて言われたら、誰だって悲しいに決まっているのだ。

 

「…まずは、ちゃんと謝った方が良いと思うよ?」

「…だよな」

 

 とはいえ実妹と義妹にこれからこてんぱんにされそうな士道を見過ごせる侑理でもない。士道が優しい人であると知っているからこそ、侑理は士道の味方に付き…士道もまた、こくりと頷く。

 

「…ごめん、琴里。わざとじゃない…が、わざとじゃなくても言っていい事と悪い事があるもんな。だから、ちゃんと訂正させてくれ」

「…訂正?」

「俺がキスをしたのは、霊力を封印する為だ。だけど…俺はしたいと思ってした。キスをしたいと思って、したんだ」

 

 琴里へと向き直り、士道は真剣そのものの眼差して言う。側から見れば…いや、どこからどう見ても口説き文句な言葉を、真面目に、真っ直ぐに琴里を見て言う。多くは語らず、それだけを…それだけで十分だとばかりに、はっきりと伝える。

 

「それから、真那も。色々思うところはあると思うが…キスをしたのはあくまで俺だ。俺が、俺からしたんだ。だから、琴里の事は悪く言わないでくれ。頼む」

 

 食卓に手を突き、士道は頭を下げる。土下座だとか、そういう事まではしない。それでも真剣さが、真摯さが士道からは伝わってくる。

 そんな士道の言葉で、真那も琴里も沈黙。ちらり、とお互いの事を見やり、士道へと視線を戻し、そして……

 

「…いいわよ、もう。私だって、別に…本気で仕方なくしたんだとは、思ってないし……」

「…兄様がそう言うなら、私もこれ以上は言わねー事にします。…私も、ちょっと冷静さを欠いちまってましたし……」

(…ちょっと……?)

 

 それぞれ気恥ずかしそうに頬を掻きつつ、納得を示した真那と琴里。ちょっと?ちょっとではなく、大分では?…と思った侑理だったが、折角収まったいざこざを再燃させる理由はない、と今回は飲み込む事にした。

 

「…えっと…それで、何の話をしてたんだっけ?」

「俺の力と、封印に関するあれこれだったな。一通り説明出来た…と思うんだが、何かまだ分からない事とか、質問したい事はあるか?」

「んー…あ、そうだ。最低でも五度は…って言ってたけど、もっと多いかもしれないって事?もしかして士道にぃ、回数なんて覚えてない程何回も……」

「ち、違う違う!封印に失敗したり、再封印したりで二回以上した事がある相手がいたり、二人同時にしてて『一回』とカウントするべきか迷う耶倶矢と夕弦みたいなパターンもあるってだけで、そういう事ではないからな!?」

「ふ、二人同時に…?…やっぱり士道にぃってプレイボーイ……」

「ではないんだってッ!」

 

 二人と同時にキスしている姿を想像し、思わず侑理が若干引いてしまう中、士道は頭を抱えて叫ぶ。そして士道はがっくりと項垂れ……小さく微笑んだ。侑理を見て、侑理へ向けて。

 それを見て、侑理は嬉しくなる。何せ侑理は、わざと変な言い方をしたのだ。一先ず妹二人への弁明が出来たとはいえ、士道的には気不味い筈。だからここは自分が一肌脱いで、雰囲気も会話の流れも変えてみせよう、と侑理は動いたのであり…それが士道に伝わっていたのが、嬉しかった。勿論恩を売りたい訳ではないのだが、だとしても「分かってもらえる」というのはそれだけで嬉しいものなのだ。

 

「はいはい、下らない話はそこまで。後士道がプレイボーイだなんて、かたつむりの事を俊敏な生き物だと言うようなものよ」

「俺そこまでは否定してねぇんだけど…!?」

 

 仕切り直すように、琴里はぱん、と手を叩く。続く言葉に士道は不満そうな顔をする…が、琴里の真面目な表情を見てか佇まいを正す。同様に侑理達も、軽く腰を浮かせて座り直す。

 

「さっきも言った通り、霊力の封印にはキスっていう『行為』に加えて、心を開いてくれているという『状態』も必要よ。そして心を開いてもらう為に、士道はこれまで精霊達とデートをしてきた訳だけど、今回…七罪の場合は、現状とてもデートなんて出来そうにないわ」

「だから、まずはデートをしてくれる位には…いや、違うな。ほんの少しでも、今より前向きに…自分を肯定出来るようになってほしくて、一つ試したい事があるんだ」

「それが、兄様の言う作戦でいやがりますか?というか、肯定…?」

「それはまあ…七罪と話してみれば、分かると思う」

 

 そう言って士道は、琴里と肩を竦め合う。どういう事かさっぱり分からない侑理は、同じく分からない様子の真那と顔を見合わせ小首を傾げる。…更にその後、「そっちが肩の竦め合いなら、こっちは小首の傾げ合いだ」という気持ちで侑理は士道と琴里を見やったのだが、二人は全く分かっていない様子だった。対抗心、空振りであった。

 

「むぅ……こほん。…具体的には、どんな事をするの?」

「ああ。それは……変身だ」

『変身?』

 

 しっかりと頷いた士道の、いまいちよく分からない回答。それに再び侑理は首を傾げ…まあそうだよなとばかりに、士道は続ける。

 

「これも実際に会ってみれば分かると思うんだが、七罪は自己肯定感が物凄く低いんだよ。で、それは外見に起因しているみたいでさ。だから変身なんだ。勿論天使とか魔術とかじゃなくて、誰にでも出来る方法での…な」

「ははぁ、そういう事でいやがりますか。霊力なんていう規格外のものを有しておきながら、外見を気にする…ってのは、いまいち理解出来ねーですけども」

「真那真那、真那がファッションとかあんまり気にしてないのは知ってるけど、気にしなくても大して困らない程、真那は素が可愛いって前提は理解しておいた方がいいとうちは思うなー」

「…そうでいやがりますか?」

「そうだよ、超そうだよ!士道にぃもそう思うよね?」

「へっ?…あー、っと…それは、まぁ…」

 

 真那が可愛い、超絶可愛い事はこの世の真理!そしてそれを、兄である士道が分からない筈はない!…と視線を向けた侑理だったが、士道は何とも曖昧な反応。しかしそれでも、肯定か否定かでいえば肯定であり…ちらりと視線を戻せば、真那は満更でもなさそうな顔をしていた。その様子もまた可愛い、と侑理が心の中でガッツポーズをしたのは、言うまでもない。

 

「ともかく、兄様のやりてー事は分かりました。…ただ、まあ、なんというか…妹としては、精霊とはいえ色んな女性とデートしてはキスする不埒な行為を、面と向かって応援する事は出来ねーというか……」

「だよな…それはそれで、良いと思う。俺も止める気はないが、そう思われる事位は受け入れるよ」

「や、悪いって言ってんじゃねーですよ?むしろ外聞の悪い行為になってでも、他者の為に動こうとする兄様の事は立派だと思いますし。…その点、琴里さんはどう思っていやがるんですか?」

「私?私は精霊を救いたいの。自分も精霊だから…とかじゃなくて、ただ大きな力を持っているってだけで、空間震を起こすからって、世界の敵、排除すべき災厄だとされるなんて…そんなの、あんまりじゃない。だから救う…ううん、当たり前の幸せを感じてもらえるように、私は出来る事を何でもするし、士道の力だって最大限活用するわ。これまでもそうしてきたし…これからも、そうするつもりよ」

「……流石、私の事も侑理の事も受け入れてくれた琴里さんでいやがります。って、うん?何か、良い事を言っているようで、その実上手く誤魔化されたような……」

「あら、そう?気のせいじゃない?」

 

 確かに『色んな女性とデートやキスを交わす兄』という話から、『自分の理念、信念』にすり替えていたような…と思う侑理だったが、琴里はなんて事ない調子で真那へと返す。微塵も動じない様子なものだから、妙にそこには説得力があり…だからこそ真那は、微妙な顔。そんな真那を見て、士道も複雑そうな表情をする。

 それはきっと、出来る事なら理解してほしいという顔。或いは…真那に飲み込みきれない思いを抱かせている事への申し訳なさが浮かんだ顔。そしてそれを目の当たりにした侑理が…真那の事が大好きで、士道を慕う気持ちもどんどん増している自覚のある自分がすべき事は何か。出来る事はあるか。それを侑理は考え……言う。

 

「…ならさ、真那もしちゃえばいいんじゃない?」

「しちゃう?…って、何をでいやがりますか?」

「それは勿論、デートだよ。…あ、もしかしてキスだと思った?」

『ぶ……ッ!?』

 

 にやりと笑って侑理が問えば、真那と士道は目を剥きむせる。これには琴里も、驚いたような表情を浮かべる。

 

「な、何を言っていやがるんですか!?き、キスなんてそんな……」

「だからデートだって。…え、待って、デートならいいの?」

「ちげーますけど!?デートも十分意味不明でいやがりますからね!?」

「…侑理、説明してくれ…一体何を言いたいんだ…?」

 

 目を白黒させる真那と、困惑が溢れ出すような顔をした士道。そんな二人へ落ち着いて、と両手で軽くジェスチャーを返し、侑理はこほんと咳払い。

 

「真那が士道にぃのやってる事にもやもやするのは分かるよ?だからこそ、真那も士道にぃとデートして、士道にぃとのデートは良いものだって感じればいいんだよ。大丈夫、士道にぃとするデートの楽しさは、一日一緒にお出掛けしたうちが保証するよ!」

「あ、あぁ…そういう…。…いや侑理が兄様としたのは、デートでいやがったんですか…?」

「ものは言いようだよ、真那。っていうか…ただのお出掛けとデートの明確な違いって、真那は分かる?」

「それは……」

 

 肩を竦めて問い返せば、真那は口籠もる。少なくとも、侑理にその違いは分からない。敢えて言うなら、相手が特別な関係か否かだろうが、それだと士道がこれまで来てきたのも、基本的にはデートではなくお出掛けになる…筈。

 つまり、大事なのは呼び方ではないのだ。大事なのは、名称ではなく…何をするか、何を感じるかなのだ。

 

「士道にぃのデートを、士道にぃのしてきた事を直接感じるのは、決して無駄じゃないって、うちは思う。…真那は、どう?真那は士道にぃと出掛けるの…嫌?」

「…嫌じゃ…ねーですよ、そんなの。全然、嫌なんかじゃねーです」

「だったら決まりだね。士道にぃ、真那をお出掛けに連れて行って下さい!」

 

 嫌じゃないならやる一択。そうと決まれば善は急げ。その勢いで、侑理は士道に頼み込む。侑理と真那のやり取りを見ていた士道は、数秒黙り…それから、頷く。

 

「…ああ、そうだな。丁度、明日は買い物に行きたいと思っていたし…真那とは買い物に出掛ける約束もあったしな。真那、明日は大丈夫か?もし大丈夫なら…買い物に、付き合ってくれないか?」

「…こ、こちらこそ…宜しくお願いしやがります…」

「いや、なんで畏まってるのよ」

「もしかして真那、デートって言葉が離れなくて照れちゃってる?それとも、付き合ってって言葉に内心わたわたしちゃってる?」

「か、からかうんじゃねーです!別にそんな…そんな事じゃねーんですからね!?」

 

 かぁっと顔を赤くした真那に、いつもは堂々としている真那の余裕のない姿に、侑理はくすりと笑う。五河兄妹と笑い合う。そんなやり取りが不満だったのか、真那は恨めしそうな目で見てきたが…そういう表情すら愛らしいと思う侑理にとっては、全く以ってノーダメージ。むしろ可愛い表情が見えたと、一つ得をした気分だった。

…とまあ、真那をからかいつつ事態の解決を図った侑理だが、ただそれだけの為の提案ではなかった。ずっと士道の事を思ってきた、けれどなんだかんだで士道と二人の時間をあまり過ごせていない筈の真那に、兄妹水要らずのひと時を過ごしてほしい…そんな思いもあったからこその、提案だった。

 だからこそ、真那へにまにました表情を見せつつも、内心で願う。真那が明日、士道と充実した時間を…自分の時の様に、楽しい時間を過ごせますように、と。

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